プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) 〔論文〕 PC鋼材破断後のPC梁の耐荷特性 (財)鉄道総合技術研究所 非会員 修(工) ○轟 俊太朗 (財)鉄道総合技術研究所 非会員 修(工) 前田 友章 (財)鉄道総合技術研究所 正会員 博(工) 谷村 幸裕 (株)安部日鋼工業 正会員 岡山 準也 Abstract:One of the serious problems in the prestressed concrete (PC) bridge is the corrosion and broken of PC tendon caused by breeding or the lack of grouting. To understand the influence of the broken on the load-capacity of the PC bridge is important because it induces the bridge collapse. The various influential factors on the reduction of effective-prestress caused by the broken of PC tendons have been reported. In this study, the four-point bending test of PC beams where the PC tendons were cut was conducted. Then, variation of the flexural- and the shearloads capacities caused by cut of PC tendons was examined. The paper discussed and proposed the method for evaluating the load-capacity of damaged PC beams by considering the range and the magnitude of residual stress in the PC beam. Key words: Broken of PC tendon, Four-point bending test , Evaluation of load-capacity 1.はじめに プレストレストコンクリート桁(以降,PC 桁)は,その特徴からスパンの長い橋梁に多く用いられ ている。近年,PC グラウト(以降,グラウト)のブリーディングや施工不良等に起因するグラウトの 充てん不良によって,定着部等からシース内に水分や塩分等が浸入し,PC 鋼材が腐食さらには破断に 至る事例が報告されている 1) 。PC 鋼材の破断割合が増加すると,最終的には落橋に至る危険性もある。 そのため,グラウトの再充填等により PC 鋼材の腐食を事前に防止することが重要である。一方,万が 一 PC 鋼材が破断した場合には,適切な措置を早期に行うことが必要となる。その場合には,PC 鋼材 が破断した数量から,桁内部に残留するプレストレス(以降,残存プレストレス)を算定し,破断後 の耐力(以降,残存耐力)を適切に評価する必要である。 そこで,本研究では,PC 鋼材を切断した PC 梁の静的載荷試験を実施し,曲げ及びせん断耐力に及 ぼす PC 鋼材破断の影響を検討し,残存プレストレスを考慮した耐力の評価方法を提案する。 2.PC鋼材破断後の耐荷特性の評価 2.1 PC鋼材破断が曲げ耐力に及ぼす影響 (1)載荷試験の概要 供試体諸元を表−1,供試体形状を図−1に示す。試験方法は,供試体 No.1∼No.3 については,PC 鋼材を表−1に示した割合で切断した後,単調載荷とした。供試体 No.4 については,まず 620kN まで 載荷した後に,荷重を保持した状態で PC 鋼材を徐々に切断する試験とした。620kN は,切断した際に 曲げ破壊に至るように,No.2 及び No.3 の試験結果を参考に設定した。なお,載荷は,試験体中央にジ ャッキを設置し,載荷梁を介して行った。また,PC 鋼材の切断は,箱抜きした開口部からサンダーを 用いて行った。ここでは,1 回に切断する PC 鋼線の本数によって,付着切れの範囲が変わらないこと がわかっているため,所定の切断割合になるまで,PC 鋼線 1 本毎に切断を行った。 各供試体の破壊状況を図−2に示す。また,各供試体の載荷荷重−載荷点変位関係を図−3に示す。 −43− プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) 〔論文〕 表−1 供試体 No. 種別 PC鋼材 f py 本数-φ f pu Ep 供試体諸元の一覧 軸方向鉄筋 f sy Es スターラップ f wy Ew グラウト f' g Eg コンクリート 有効プレス 切断割合 トレス力 f' c Ec (N/mm2) (N/mm2) (kN/mm2) (N/mm2) (kN/mm2) (N/mm2) (kN/mm2) (N/mm2) (kN/mm2) (N/mm2) (kN/mm2) 1 2 3 4 鋼より線 12T12.7 1849 SWPR7BL 2020 194 370 194 345 194 58.1 39.5 57.0 40.1 (kN) 1213 0% 1268 50% 1174 75% 1217 0∼67% 12.9 34.1 φ:鋼材径,f py :PC鋼材の引張降伏強度,f pu :PC鋼材の引張強度,E p :PC鋼材のヤング係数,f sy:軸方向鉄筋の引張降伏強度, Es :軸方向鉄筋のヤング係数,f wy :スターラップの引張降伏強度,E w :スターラップのヤング係数,f' g:グラウトの圧縮強度,E g:グラウトのヤング係数, f' c :コンクリートの引張降伏強度,E c :コンクリートのヤング係数 アンボンド範囲 ジャッキ 150 1000 1000 開口部 載荷梁 D6 400 2000 左支点からの距離 500 2000 920 200 920 500 シース φ65 550 D16 D6 スターラップ D16 45@100 変位計 図−1 単位(mm) 供試体形状 供試体 No.1 供試体 No.3 供試体 No.2 供試体 No.4 かぶりコンクリートのはく離はく落箇所 図−2 破壊状況 800 荷重は,ジャッキに設置したロードセル値とした。また,載 荷点変位は,図−1に示した載荷点直下の変位計により計測 にスパン中央で曲げひび割れが発生し,ほぼ左右対称に曲げ ひび割れが進展した。スパン中央で上縁部のコンクリートが 圧壊に至った。供試体 No.2 は,302kN 時にスパン中央で曲 げひび割れ発生した後,スパン中央より左側のく体に曲げひ び割れが進展したが,最終的にはスパン中央で上縁部のコン 600 荷重(kN) した 2 点の変位の平均値とした。供試体 No.1 は,347kN 時 400 供試体1 供試体2 供試体3 供試体4 200 0 0 クリートが圧壊に至った。供試体 No.3 は,252kN 時にスパ ン中央で曲げひび割れ発生した後,スパン中央より左側のく 図−3 10 20 30 載荷点変位(mm) 変位(mm) 40 荷重−載荷点変位関係 体に曲げひび割れが進展し,左支点から 1300mm 付近において上縁部のコンクリートが圧壊に至っ た。供試体 No.4 は,荷重の増加に従って中央付近に曲げひび割れが発生した。その後,鋼材の切断 に伴いスパン中央より左側の曲げひび割れが増加した。切断本数が 56 本(切断割合で 67%)となっ た時点で,左支点から 1200mm∼1800mm 付近において上縁部のコンクリートが圧壊に至った。 破壊形態は,全ての供試体において,コンクリートの上縁が圧壊する曲げ破壊であった。ひび割れ 発生時の荷重は,鋼材の切断量が大きい供試体ほどひび割れ発生荷重は小さくなった。各供試体の剛 性は,曲げひび割れ発生まではほぼ等しいが,曲げひび割れ発生後は切断量が大きな供試体ほど小さ くなることがわかった。最大荷重は,切断量が大きい供試体ほど小さくなった。 −44− プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) σ’c(x)=σ’cu βx ε’c(x)=ε’cu b(u) 〔論文〕 x σ’c(u) u dp1 dpn dpb ds h C’ 中立軸 Mu N’d εpen epn 図心軸 es Ap1 Apn Apb As ⊿εpn Ap1・σp1 Apn・σpn Apb・σpb Ts ⊿εs ひずみ分布 応力度分布 ここに, h :梁高(mm) d pn :圧縮縁から n 番目の PC 鋼材図心位置までの距離(mm) ε' cu :コンクリートの圧縮縁位置における圧縮終局ひずみ ⊿ε pn :n 番目の PC 鋼材図心位置の PC 鋼材のひずみ増加量 εpen :n 番目の PC 鋼材図心位置の有効引張応力度による PC 鋼材のひずみ εpn :n 番目の PC 鋼材図心位置の PC 鋼材のひずみ εpn =εpen +⊿ε pn ⊿ε s :引張鉄筋図心位置の引張鉄筋のひずみ増加量 σ' cu :コンクリートの圧縮縁位置における圧縮終局ひずみ時の応力度(N/mm 2 ) 図−4 曲げ耐力算定時のひずみ分布と応力度分布の仮定 (2)残存曲げ耐力の評価法 PC 鋼材が破断した PC 部材の曲げ耐力については,図−4に示す平面保持の仮定及び断面力の釣 り合い条件から,算定することとした。 Tp x ) b ( u ) du ……………….............………............……............…….......…......…............(1) ∫ σ' (u ・ = ∑ A ・σ ..............................................................................................................................(2) C'= c 0 pn pn .....................................................................................................................................(3) Ts = A・σ s s C ' :コンクリート圧縮応力の合力(kN) T p :PC 鋼材の合力(kN) T s :引張鉄筋の合力(kN) σ 'c(u) :中立軸から高さ u でのコンクリートの圧縮応力度(N/mm2 ) b(u) :中立軸から高さ u での部材幅(mm) A pn :n 番目の PC 鋼材の断面積(mm2 ) σ pn :n 番目の PC 鋼材図心位置の PC 鋼材応力度(N/mm2) A s :引張鉄筋の断面積(mm2 ) σ s :引張鉄筋図心位置の引張鉄筋応力度(N/mm2) 断面内の釣り合い条件を満足することから,式(4)から圧縮縁から部材断面の中立軸位置までの 距離 x を求め,式(5)により残存曲げ耐力 Mu を算定することとした。 N 'd = C '−Ts − T p ...............................................................................................................................(4) M u = C ' (d s − es −βx ) + T・ ・σpn・e pn ..................................................................................(5) s es + ∑ Apn ここに, βx = x − x ∫ σ' 0 c (u ) ⋅ b (u ) ⋅ u ⋅ du C' N 'd :軸方向力(kN) M u :残存曲げ耐力(kN・m) d s :圧縮縁から引張鉄筋図心位置までの距離(mm) −45− プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) 〔論文〕 σpn 0.93fpu σpa 0.84fpu 0.93fpu 0.84fpu σ=Ep・εpn 0 σpn σpn 0.93fpu 0.84fpu σpa σ=Ep・εpn εpn εpn 0 0.015 【破断した PC 鋼材,σ pa<0.93f pu 】 0.015 【健全な PC 鋼材】 σ=Ep・εpn εpn 0 0.015 【破断した PC 鋼材,σ pa<f py】 ここに,σpa :PC 鋼材とグラウトの付着特性から求まる PC 鋼材がすべり出す時の鋼材応力度(N/mm2 ) 図−5 表−2 PC 鋼材の応力−ひずみ関係 載荷試験結果と計算値 試験結果 供 試 体 No. 切断 割合 破壊 断面 左支点 から mm 2250 2250 1250 1250 計算結果 軸方向 鉄筋 Pm ax 降伏時の 破壊 断面 左支点 から mm 2000∼2500 2000 1000 1000 破壊 断面 での Mu kN・m 675 594 215 272 Pmu Pm ax/Pmu 破壊 断面 での My 1 kN・m 439 401 138 178 Pmy 1 P 1 /P my1 荷重P1 kN kN kN kN 1 2-1 0% 714 448 675 1.06 439 2 2-2 50% 698 381 594 1.18 401 2-3 75% 600 355 430 1.40 276 3 4 2-4 66.7% 615 544 1.13 356 − M u :曲げ耐力,P mu :破壊断面にM u 相当の曲げモーメントを作用させる荷重, M y1 :軸方向鉄筋降伏時の曲げモーメント,P my1 :破壊断面にM y1 相当の曲げモーメントを作用させる荷重 1.02 0.95 1.28 − e s :部材断面の図心軸位置から引張鉄筋図心位置までの距離(mm) e pn :部材断面の図心軸位置から n 番目の PC 鋼材図心位置までの距離(mm) x :圧縮縁から部材断面の中立軸位置までの距離(mm) ただし,破断した PC 鋼材の有効プレストレスによる PC 鋼材ひずみεpen は,著者らの既往の研究 2) で提案した評価法から算定した PC 鋼材ひずみを用いることとする。また,破断した PC 鋼材の応力− ひずみ関係は,PC 鋼材とグラウトの付着から求まる PC 鋼材がすべり出すときの応力度を考慮した図 −5に示す応力−ひずみ関係を用いることとした。 各供試体における破壊断面での曲げ耐力の計算値から求めた破壊荷重と試験での載荷荷重の比較を 表−2に示す。供試体 No.4 については,切断割合が 67%となった時点で載荷荷重 620kN を維持でき なくなったことから,その時点での最大荷重を試験値とした。供試体 No.2∼No.4 について,圧壊位置 は計算結果と試験結果はほぼ一致した。また,試験で得られた曲げ耐力時の荷重値 Pmax と提案した曲 げ耐力評価法により算定した曲げ耐力時の荷重値 Pmu の比 Pmax/Pmu は 1.13∼1.40 となり概ね一致した。 破断量が大きいほど,本評価法により算定した曲げ耐力は実験値を過小に評価する傾向にあった。 2.2 PC 鋼材破断がせん断耐力に及ぼす影響 (1)載荷試験の概要 鋼材破断がせん断耐力に及ぼす影響を把握するため,鋼材切断の有無をパラメータとした PC 梁の載 荷試験を行った。載荷試験に用いた供試体の供試体諸元を表−3,供試体形状を図−6に示す。供試 体 No.5 は鋼材を切断せず,供試体 No.6 は鋼材を切断した。なお,PC 鋼材の切断は,予め打設時に設 けた開口部からサンダーを用いて行った。両供試体共に,せん断スパン比は 3.0 とした。 各供試体の破壊状況を図−7に示す。また,各供試体のせん断力−載荷点変位関係を図−8に示す。 せん断力は,ジャッキに設置したロードセル値の 1/2 とした。また,載荷点変位は,図−6に示した載 荷点直下の変位計により計測した 2 点の変位の平均値とした。供試体 No.5 は,左右対称に曲げひび割 れが発生し,425kN 時にせん断ひび割れに進展した。最終的にはスターラップが降伏に至り,せん断 −46− プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) 表−3 PC鋼材 鋼より線SWPR7BL 供試体 No. f py Ep 本数-φ (mm) 5 6 供試体諸元の一覧 D6 鉄筋 D13 D29 fy fy fy グラウト f' g Eg 2 (N/mm ) (kN/mm2) (N/mm2 ) (N/mm2 ) (N/mm2 ) (N/mm2 ) (kN/mm2) 12T12.7 1883 191 333 375 〔論文〕 535 26.1 30.4 10.4 13.7 コンクリート f' c 有効プレス 切断 トレス力 割合 Ec 載荷方法 レンジ (kN) 2 (N/mm ) (kN/mm2) 54.0 56.7 繰返し 載荷 38.9 35.3 (kN) 1200 1212 静的 静的 0% 100% − − φ:鋼材径,f py :PC鋼材の引張降伏強度,E p :PC鋼材のヤング係数,f y :鉄筋の引張降伏強度,f g :グラウトの圧縮強度 E g :グラウトのヤング係数,f' c:コンクリートの圧縮強度,E c:コンクリートのヤング係数 ジャッキ 載荷梁 770 開口部 400 D13 D6@150 変位計 550 500 シース φ65 1500 400 5240 10@150 200 920 920 D29 図−6 単位(mm) 供試体形状 供試体 No.6 供試体 No.5 図−7 かぶりコンクリートのはく離はく落箇所 破壊状況 破壊した。供試体 No.6 は,左右対称に曲げひび割れが発生 800 断ひび割れに発展した。最終的に鋼材切断側のスパンでス ターラップが降伏に至り,せん断破壊した。 両供試体の剛性は,曲げひび割れが発生するまではほぼ 等しいが,曲げひび割れ発生後は供試体 No.5 に比べ鋼材切 せん断力(kN) し,鋼材切断側に曲げひび割れが進展し,275kN 時にせん 供試体5 供試体6 600 × × 400 :曲げひび割れ発生 :斜めひび割れ発生 :スターラップ降伏 200 断 し た 供 試 体 No.6 の 方 が 小 さ く な っ た 。 ま た , 供 試 体 0 No.6 の方がスターラップ降伏時のせん断力が小さくなった。 それに伴って,供試体 No.5 に比べ供試体 No.6 の最大せん 0 5 10 15 載荷点変位(mm) 載荷点平均変位(mm) 断力が低下した。 図−8 20 荷重−載荷点変位 (2)残存せん断耐力の評価法 残存せん断耐力式 Vy は,コンクリート分担分 Vc とスターラップ分担分 Vs の足し合わせとした。 Vy=Vc+Vs ......................................................(6) ここで,コンクリート分担分 Vc は,鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物) 3) (以 降,鉄道標準)に示す式(7)により算定する。なお,式(7)中のβn に関する変数 Mu は 2.1(2)残存曲 げ耐力の評価法により算定した値,N'd は著者らの既往の研究 2) から算定した値を用いた。βn は,供 試体 No.5 で 1.7,供試体 No.6 で 1.0 となった。また,スターラップの分担分 Vs は,鉄道標準 3)に従 って算定した。 Vc=(0.75+1.4d/a)βd・βp・βn・fvc・b・d......................................................................................(7) β d =(1000/d) 1/4 β p =(100p c ) 1/3 β n =1+2 M 0 / M u (N’ d ≧0の場合)ただし,β n > 2となる場合は2とする。 −47− プレストレストコンクリート技術協会 第19回シンポジウム論文集(2010年10月) 〔論文〕 表−4 試験値と計算値の比較(静的載荷) 試験値 供試体 No. 切断 割合 曲げ ひび割れ 斜め ひび割れ 計算値 スターラップ 降伏 実験値V3 / 計算値Vy V1 V2 V3 Vmax Vc Vs Vy (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) (kN) 5 0% 200 425 506 679 412 61 473 1.07 6 100% 200 275 401 581 276 61 337 1.19 V 1:曲げひび割れ発生時のせん断力,V 2 :斜めひび割れ発生時のせん断力,V3 :スターラップ降 伏時のせん断力 f vc =0.2・f ’ c 1/3 f ’ c :コンクリートの圧縮強度(N/mm 2 ) a :せん断スパン(mm) b :部材幅(mm) d :有効高さ(mm) p c :せん断引張鋼材比p c =A s /(b・d) As :PC 鋼材も含めた引張側鋼材の断面積(mm2 ) Mu:残存曲げ耐力 M0:曲げモーメント Md に対する引張縁において,軸方向力によって発生する応力を 打ち消すのに必要な曲げモーメント N'd:残存プレストレスから求めた軸方向圧縮力 せん断耐力の算定値と試験結果を表−4に示す。実験で得られたスターラップ降伏時のせん断力 V3 と計算値 Vy の比 V3/Vy は,供試体 No.5 で 1.07,供試体 No.6 で 1.19 であった。鉄道標準 3)に準じて算 定したせん断耐力は,スターラップ降伏時のせん断力を概ね評価可能であることがわかった。 3.まとめ 本研究では,PC 鋼材を切断した PC 梁の静的載荷試験を実施し,曲げ及びせん断耐力に及ぼす PC 鋼材破断の影響を検討し,残存プレストレスを考慮した曲げ及びせん断耐力の評価法を提案した。得 られた知見を以下に示す。 (1) 曲げ破壊した供試体について,PC 鋼材の切断割合が大きな供試体ほど,曲げひび割れ発生後の 剛性と曲げ耐力が小さくなることがわかった。 (2) PC 鋼材が破断した PC 桁の曲げ耐力について,残存プレストレスを考慮した曲げ耐力評価法を 提案した。本試験の範囲では,試験で得られた曲げ耐力時の荷重値 Pmax と提案した曲げ耐力評価 法により算定した曲げ耐力時の荷重値 Pmu の比 Pmax/Pmu は 1.13∼1.40 となり概ね一致した。 (3) せん断破壊した供試体について,PC 鋼材を切断した影響により,曲げひび割れ発生後の剛性及 びスターラップ降伏時のせん断力,最大せん断力が低下することがわかった。 (4) 鉄道標準 3) に準じて,PC 鋼材が破断した PC 桁のせん断耐力評価法を提案した。本評価法によ り算定したせん断耐力は,スターラップ降伏時のせん断力を概ね評価可能であることがわかった。 なお,本研究は国土交通省からの鉄道技術開発費補助金により実施した試験の成果を一部含む。 参考文献 1)石橋忠良:PC鉄道構造物の劣化事例と対策,プレストレスコンクリート,Vol.45, No.1, 2003.1 2)前田友章,徳永光宏,田所敏弥,谷村幸裕:鋼材破断時の付着特性に着目したPC梁の曲げ耐力に関 する一考察,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.32, No.2, pp.529-534, 2010 3)鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善,2004.4 −48−
© Copyright 2024 ExpyDoc