日本版 テクニカルレポート #11 GAI、CPI の概要と活用 刊行委員会 大六一志 2014.10 今回のテクニカルレポートでは、新しい指標得点 GAI(General Ability Index)と CPI(Cognitive Proficiency Index)について紹介する。GAI、CPI が登場した時期や背景は異なっているが、構造上、 FSIQ と 4 つの指標得点の中間に位置するという点では同じである(図参照) 。なお、近日出版が予 定されている『日本版 WISC-IV 補助マニュアル』では、GAI と CPI の日本版換算表が発表され、 活用方法についても詳述されるが、本稿はその要約である。 1 GAI、CPI とは、どのような能力を反映する指標か GAI は「一般知的能力指標」と訳され、VCI および PRI の下位検査に基づいて算出される。す ... なわち、通常は「類似」 「単語」 「理解」 「積木模様」 「絵の概念」 「行列推理」の 6 つの基本検査が 対象となり、それらの評価点合計を平均 100、標準偏差 15 となるように換算した得点である。一 方、CPI は「認知熟達度指標」と訳され、WMI および PSI の下位検査に基づいて算出される。す ... なわち、通常は「数唱」 「語音整列」 「符号」 「記号探し」の 4 つの基本検査が対象となり、それら の評価点合計を平均 100、標準偏差 15 となるように換算した得点である。これらの指標を構成す る下位検査からわかるように、GAI は結晶性能力、言語性流動性推理能力、非言語性流動性推理 能力を反映する指標、CPI は熟達して自動化され、情報を流暢に処理する能力を反映する指標と言 うことができる。 ... なお、上記で「通常は」と前置きしたが、無効や粗点 0 の基本検査があった場合に、補助検査 による代替はそれぞれ 1 つまで許容できる。 日本版 WISC-IV における GAI、CPI の換算表は、 『日本版 WISC-IV 補助マニュアル』に掲載さ れる。 『WISC-IV の臨床的利用と解釈』掲載の GAI の換算表や、 『エッセンシャルズ WISC-IV によ る心理アセスメント』掲載の GAI、CPI の換算表は、米国のデータによるものであり、日本版 WISC-IV とはかなり異なる値になっている。 FSIQ GAI CPI PRI VCI 図 WMI PSI WISC-IV における合成得点の階層 日本版 WISC-IV テクニカルレポート #11 © 2014 日本文化科学社 1 2 これらの指標が登場した背景 GAI は米国において WISC-III の時代に登場している。この時代は、学習障害の判断基準として 知能と学力のディスクレパンシーが用いられており、知能検査には一般知能因子 g を的確に測定 することが求められた。しかし、g の指標である FSIQ と注意記憶(WISC-IV ではワーキングメモ リー) 、処理速度との相関は相対的に低く、注意記憶と処理速度を含む FSIQ を知能とすると、学 習障害児において学力との差が小さく見積もられてしまうという現象が起こった。そこで、FSIQ から注意記憶、処理速度を除いた GAI が登場することになった。 一方、CPI は WISC-IV で初めて登場する。WISC-III では GAI に関与する下位検査を除くと 2 つ の下位検査しか残らなかったため、それで指標得点を作るという考えは生まれなかったが、 WISC-IV では 4 つの下位検査が残っているため、これらをまとめて指標得点 CPI にするという考 えが現れた。これらは熟達し自動化しているべき能力に関連しており、集団生活に適応し GAI を 発揮するために不可欠な要素と考えられたからである。 3 どのような場面で活用できる指標か GAI は全般的な知的能力水準の推定に用いることができるが、これには条件がある。それは、 FSIQ によって全般的知的能力が一元的に説明できない場合である。すなわち、FSIQ を構成する 4 つの指標得点(VCI、PRI、WMI、PSI)に著しい乖離がある場合、FSIQ をもって全般的知的能力 を推定することは難しくなる。例えば、学習面でつまずいている子どもでは WMI や PSI が弱い場 合が少なくない。あるいは、運動機能に障害のある子どもは PSI の実施が困難である。これらの指 標の弱さが必要以上に FSIQ を引き下げ、先に述べた知能と学力のディスクレパンシーによる判断 に支障をきたすことがある。こうしたときに GAI を全般的知的能力の推定に用いた方がよい場合 がある。FSIQ と GAI のどちらを利用すべきか、その具体的基準は『日本版 WISC-IV 補助マニュ アル』に詳しく解説される。 一方、CPI は海外においてはいくつかの研究があるものの、因子分析をしても WMI と PSI は 1 つの因子にならないこと、歴史が浅く臨床的有用性の知見が少ないことから、活用方法について は今後の課題と言える。ただし、CPI は人の話をよく聞いて記憶にとどめたり、手際よく作業をこ なしたり、流暢に読み書きしたりする能力に関わっており、集団生活への適応を占う指標である ことが予想される。 なお、 『日本版 WISC-IV 補助マニュアル』に続いて出版が予定されている『日本版 WISC-IV に よる発達障害のアセスメント-代表的な指標パターンの解釈と事例紹介-』では、さまざまな解 釈事例が報告されるが、GAI や CPI についてもふれられており、参考になれば幸いである。 日本版 WISC-IV テクニカルレポート #11 発 行 日:2014 年 10 月 29 日 発 行 者: (株)日本文化科学社 編集責任者:上野一彦(日本版 WISC-IV 刊行委員会) ※本レポートの著作権は(株)日本文化科学社に帰属します。掲載内容を許可なく転載することを禁じます。 日本版 WISC-IV テクニカルレポート #11 © 2014 日本文化科学社 2
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