研究成果 ダリアの3種ウイルス・ウイロイドの同時検出技術の開発

ダリアの 3 種ウイルス・ウイロイドの同時検出技術の開発
~マルチプレックス RT-PCR により、検定作業の省力・低コスト化を実現~
1. 背景と目的
奈良県内でのダリアの球根生産は宇陀市や奈
良市の中山間地域を中心に行われており、国内
有数の産地となっています。切り花生産につい
ては露地での夏秋切りは宇陀市、施設での冬春
切りは葛城市を中心に行われています(図1)
。
のダリアに感染が確認されているトマト黄化え
そウイルス(TSWV)、ダリアモザイクウイルス
(DMV)、キク矮化ウイロイド(CSVd)を同時に
検出する技術を開発しました。
2.研究成果の概要
通常のRT-PCRでは特定のウイルス・ウイロイ
ドを増幅させるプライマーが1種類しか入って
いないのに対して、今回開発した技術では、一
つの反応系に互いに反応を阻害しない組み合わ
せでTSWV、DMV、CSVdを増幅させる3種類のプラ
イマーを入れることで、
同時に3種類のウイルス
・ウイロイドの検出を行うことができました(図
3)。このように複数種類のプライマーを使用
するRT-PCRをマルチプレックスRT-PCRと呼びま
図1 切り花生産園地
す。一般的に、マルチプレックスRT-PCR法は通
ダリアの球根・切り花生産ともにウイルス・
常のRT-PCRと比べて、検出感度が低いことが課
ウイロイド病による被害が問題となっています。 題でした。しかし、今回開発したマルチプレッ
その症状はえそ斑、モザイク、矮化などで(図
クスRT-PCRの検出感度は通常のRT-PCRと比較し
2)、生産性を低下させます。ダリアは、主に
てほぼ同等でした。本技術を利用することで作
栄養繁殖により増殖されるため、球根・挿し芽
業時間・コストともに3分の1に抑えることが
苗を通じて被害が拡大します。
可能となりました。
ウイルス病対策として、これまで当センター
通常の RT-PCR
マルチプレックス RT-PCR
では、「茎頂培養によるウイルスフリー化技術」
と「遺伝子診断技術によるウイルス検出技術」
←TSWV
を組み合わせることにより、健全な親株の選抜
←DMV
を実施してきました。
しかし、ダリアに感染するウイルス・ウイロ
←CSVd
イドの種類は複数あります。従来の遺伝子診断
技術であるRT-PCRと呼ばれる手法では、種類ご
とに実施する必要があり、作業の煩雑性やコス
図3 マルチプレックスRT-PCRによる同時検出
ト高が課題となっていました。そこで奈良県内
3.今後の取り組み等
同時検出技術の対象としたTSWV、DMV、CSVd
のうち、TSWVのみ植物体内で局在して分布する
ことが知られています。しかし、その分布の傾
向は明らかではありません。今後、TSWVが高頻
度で分布する部位を明らかにし、検定の精度の
向上を目指します。
(病害虫防除ユニット 浅野峻介)
図2 ウイルス症状(えそ斑(左)、モザイク)
奈良農研ニュース vol.146 2014
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