植物生産基礎実習 接ぎ木と挿し木 第8回、第9回 Ⅰ.植物の繁殖 (1)種子によるもの 有性生殖 実生苗 穀類、野菜,多くの草花など…一番普通の繁殖(苗作り)の方法 (2)球根や塊茎によるもの 無性生殖(栄養繁殖) チューリップ、ヒヤシンスなど、ジャガイモ、サツマイモなど (3)挿し木や接ぎ木によるもの 無性生殖(栄養繁殖) キク(草本)、ツバキ(花木)などの園芸植物 (挿し木) カンキツ、リンゴ、ブドウなど果樹、サクラ、などの園芸植物 (4)茎頂培養(メリクロン) (接ぎ木) 無性生殖(栄養繁殖)とウイルス無毒化 カーネーション、ランなどの園芸植物 Ⅱ.栄養繁殖の特徴 園芸植物の中には,果樹や花木類のように、体細胞が突然変異して生じた枝 変わりや、非常に長い年月をかけて育成され、複雑な雑種となっていて、遺伝 的にも固定されていないものが多い。このような植物は、種子を播いて育てる と親の樹とは遺伝的に異なる個体となり、形や味の異なる果実が実るなどのた め、種子繁殖による苗木生産ができない。 このような場合、木本植物では、通常、挿し木や接ぎ木により苗木が生産さ れる。挿し木では発根しない場合には、接ぎ木が唯一の苗木生産(増殖)法で ある。リンゴなどはこの例に当る。 接ぎ木は2つの植物をつなぎ合わせ1つの個体を作り上げるもので,以下の ような利点がある。 ① その品種の優良な形質を維持できる(クローン)。 ② 種子のできない(困難な)植物の繁殖が可能である。 ③ 開花や結実を早めることができる。 ④ 樹勢回復、品種更新ができる。 ⑤ 台木の特性を利用して樹勢の調整、病害虫抵抗性の付与,環境適応性の付与 などが可能である。 ただし、ウイルス病などに感染した植物を用いると、全ての苗木にウイルス病 が伝染する。 1 Ⅲ.接ぎ木繁殖の利用 1.果樹栽培における台木の利用 果樹類は、栽培地や栽培方法に適した台木が利用されている。果樹の大きさ (樹高)の調整、耐病性、耐寒性、果実の品質、開花結実調整などに利用されて いる。 台木利用の例: リンゴ:マルバカイドウ、ミツバカイドウ、M 系、MM 系 サクランボ:アオバザクラ モモ:(野生)モモ実生、ユスラウメ ブドウ:ルペストリス種 カンキツ:カラタチ、サワーオレンジ、 など 2.果樹ウイルス病検定(接ぎ木検定)への利用 果樹類のウイルス病の検定は、病徴観察、電子顕微鏡観察、汁液接種、ELISA など血清診断、PCR など遺伝子診断、接ぎ木接種などの方法がある。一般に果 樹ウイルスの植物体内濃度はきわめて低いため、検出精度が問題となる。 接ぎ木接種検定は、簡便な上に精度が高く、遺伝子診断、血清診断が普及し た現在でも、実用的な診断法として世界中で様々な果樹のウイルス病検定に利 用されている。ただ、温室などのスペースと一定の検定期間が必要である。 例 カンキツウイルス等と接ぎ木検定用植物 Citrus tristeza virus Mexican Lime(メキシカンライム) Citrus exocortis viroid Etrog Citron(エトログシトロン) Citrus tatter leaf virus Rusk Citrange(ラスクシトレンジ) Citrus greening Madam Vinous(スィートオレンジの1品種) CEV に感染したエトログシトロンの症状(右は健全) 2 接ぎ木実習手順(6 月 3 日) Ⅰ.実習材料と器具類 1. カラタチ台木(1 鉢/人) 2. 穂木(スダチ、ユズ、レモン)2、3 芽とれる長さの穂木(1 本/人 程度) 3. 道具類 接ぎ木ナイフ(1 本/人)、剪定ハサミ(1 本/班)、ろ紙入りシャーレ (1 枚/班)、接ぎ木テープ(1 つ/班)、ラベル(1 枚/人) Ⅱ.接ぎ木の方法と注意 一芽腹接ぎ法(写真参照) ① 穂木の芽を切り取り、湿らせたろ紙入りシャーレに置く。 ② 台木の幹に切れ込みを入れ、穂木の芽を差し込み、形成層を合わせて、 接木テープで固定する。 ③ 1 本の台木に 1 箇所程度に接木する。 ④ 接ぎ木した鉢は、ビニルハウス内で管理する。 【注意1】 ................. ...... ...... ① ナイフの取扱いには細心の注意を払う 。切り出す際に、刃の方向には ........... 決して指を当てないこと。 .......... ............. ② カラタチのトゲは全て 、根元付近から切り落とすこと 。目の高さにく るトゲは絶対に残さない。 【注意2】 ① 穂木の切り口、台木の切り口の互いの全面が、完全に接着するよう平 らに削ること。ナイフで穂木を切断した後は、切断面が乾かないよう にすばやく作業をする。 ② 台木、穂木の形成層を密着させること。穂木と台木の切断面を同じ太 さ(サイズ)にそろえると、形成層の両面が接着できる(図 1)。出来 ない場合は片面を確実に接 着させる(図 2)。 ③ 接ぎ木テープは下部をまず 図 1.同じ幅に削る 図 2.片側は確実に接着 しっかり止めて、順番に上 方に巻き上げる。この時テープの弾力を上手く利用し、接着面が動か ないように指で固定して巻き、縛る。巻きすぎないこと。 【注意3】 実際に、接ぎ木を行う場合、季節と植物の生育状況を見極めることが最 も重要である。一般的に接ぎ木は、樹種によるが初春~盛夏にかけて行 われることが多い。 3 腹接ぎ(カンキツ) 4 挿し木実習手順(6 月 10 日) Ⅰ.実習材料と器具類 (1)挿し穂 ① ハイビスカス ・・・・・1 本/人 ② キク ・・・・・2、3 本/人 ③ ラン科植物 デンドロビウム属(ロディゲシー)・・・・・1 鉢/人 (2)使用する植木鉢や用土 プラスチック鉢(①、②)、素焼き鉢(③)、鹿沼土(①、②)、ミズゴケ(③) (3)道具類 プラビーカー(挿し木保存用)、剪定ハサミ、剃刀、発根促進剤、接ぎロウ、 ラベル、消毒液(第 3 リン酸ソーダ溶液) Ⅱ.挿し木の方法 (1)ハイビスカスなどの木本植物 ① 木質化した枝を取り、2 芽分以上の長さにハサミで切断して鋭利な刃物で、 土に挿す側(下部)を斜めにそぎ落とす。挿すまでの間、水につけておく。 ② 挿す寸前に発根促進剤を切り口にまぶして、用土にやや斜めに挿す。その 際、切り口は下向き。【注意1】節の上下を間違えないこと。 ③ 用土に挿した後、反対側の切り口は接ぎロウをつける(乾燥防止)。 ④ 全て挿し終えたら、ベンチ上で静かに灌水する。 (2)キクなどの草本植物 ① 冷蔵保管した挿し芽を使用する。切り口はハサミなど鋭利な刃物で水平に 切断する。発根促進剤をまぶして用土に垂直に挿す。 ② 用土はあらかじめ灌水した鹿沼土または挿し木用混合土を使用する。 (3)ラン科植物の株分け(ランは株分けによる繁殖が普通) ① 株(葉、茎、根)を鋭利な刃物、またはハサミで 1~2 株に切断する。ロ ディゲシーは、2、3 芽を持つ茎や高芽(葉と根が出ている)も利用する。 ② あらかじめ水を含ませておおいたミズゴケで、根の部分を包み込んで素焼 き鉢に植え込む。 【注意2】使用するナイフ,ハサミなどの道具類によって伝染するウイルス やウイロイドがあるため、異なる穂木や株を切断する際には、必ず消毒済 みの道具を使用すること。 ................... .......... ランのウイルスは非常に感染力が強いため 、念入りに消毒すること 。 5 片付け ●ハサミ、ナイフの消毒 使用した道具は、直ちにプラビーカーに入れた消毒液に浸す、数分浸した後に、 水で消毒液をすすぎ落として、ペーパータオルの上で乾燥させる。 ●作業中にでた穂木などのごみは指定の容器にいれる。 ●接ぎ木や挿し木したポットは、ビニルハウスに置いて、各班で管理する。 6 参考資料 接ぎ木と挿し木の実際 図解 接ぎ木のいろいろ 7 植木のふやし方 誠文堂新光社より 8 挿し木のいろいろ 9 ラン(カトレアの例) 課題1 接ぎ木、挿し木の活着具合の経過観察をおこない、実習後何日目にどういう変 化がみられたかを調査する。挿し木はキクのみを 7 日後、14 日後に鹿沼土から 慎重に抜いて観察する(観察後は切断部組織を痛めないように元に戻す)。また、 第 14 回の実習にて、活着率、接ぎ木部位の状態、挿し木苗の発根の特徴をル ーペや実体顕微鏡を用いて観察する。活着しなかった場合は原因を考察する。 課題2 商業用苗(木)生産に栄養繁殖が利用されている植物を 3 種類あげて、具体的な 繁殖方法を述べるとともに、なぜその繁殖方法がよいのかを論ぜよ(異なる栄 養繁殖の方法を選ぶこと)。 課題3 果樹ウイルスの診断法には、抗血清診断技術(ELISA 等)、遺伝子診断技術(RT -PCR 法等)に加えて、世界的にも接ぎ木検定が行われている。接ぎ木検定し か利用できない病原体の特性を論じ、どのような場面、どのような方法で接ぎ 木検定が使われているのかを述べよ。 レポート提出期限: 課題 1 について、発根、活着の確認までに期間が必要なため、提出期限は 7 月 22 日まで。課題 2 と 3 についてはそれまでの間に調査して完成しておくこと。 10 11
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