山形要人 公益財団法人東京都医学総合研究所 神経可塑性プロジェクト・プロジェクトリーダー 略歴 昭和 60 年 平成元年 平成 2 年 平成 5 年 平成 7 年 平成 10 年 平成 23 年 金沢大学医学部卒 大阪大学医学部助手 Howard Hughes Medical Institute リサーチアソシエート 大阪大学医学部講師 東京都神経科学総合研究所主任研究員 同 副参事研究員 東京都医学総合研究所プロジェクトリーダー てんかん・精神遅滞の新しい治療標的 山形要人 公益財団法人東京都医学総合研究所神経可塑性プロジェクト・プロジェクトリーダー 「 てんかん」 は、「 脳内の神経細胞の異常な電気的興奮に伴っ て、 けいれん や意識障害など が発作的に起こ る 脳の病気」 と 定義さ れる 。 て んかんの有病率 は約1 %で あり 、 その 70 -80%は抗てんかん薬で発作を 抑制出来る が、 残り の 20-30%は抗てんかん薬に抵抗性の 「 難治性て んかん」 で ある 。 さ ら に、 小児 の難治性て んかんでは、 てんかん発作のコ ン ト ロ ールが難し いだけで なく 、 知 的障害も 伴う こ と が多い。 こ のよ う な症例で は、 内科的あ る いは外科的にて ん かん発作を 抑える こ と が出来たと し ても 、 知的発達は改善し な い。 そ こ で、 てんかんだけでなく 、 精神遅滞の改善も 視野に入れた根本的な治療法の開発が求めら れている 。 結節性硬化症( tuberous sclerosis complex, TSC) は、 こ のよ う な「 てんかん」 と「 精神遅滞」 を 合併する 難治性て んかんの原因疾患の一つで ある 。 こ の病気 の原因遺伝子は Tsc1 と Tsc2 であり 、 こ れら の遺伝子が変異する と 、 Rheb と いう 低分子量 G 蛋白質が活性型( = GTP 結合型) と な り 、 下流の mTORC1 を 活性化し 、 病態を 発症する と 考え ら れて き た。 近年、 mTORC1 阻害薬( everolimus や sirolimus) が TSC に伴う 腎血管筋脂肪腫や上衣下 巨細胞性星細胞腫の治療薬 と し て承認さ れており 、 て んかんに対し ても 現在治験が進んで いる 。 し かし 、 腫瘍性病変と は異なり 、 てんかんに対し ては全例が改善する わけではなく 、 10-20% の 症例 は む し ろ 発作 が 増悪 す る と の 報告 も あ る ( Ann Neurol.74:679-87, 2013)。ま た、精神遅滞に対する 効果も 今のと こ ろ 定かでない。 私たち は、 TSC の中枢神経症状が起き る メ カ ニズムを 明ら かにする ため、 モ デル動物( Tsc2+/-ラ ッ ト およ びマウス) の海馬ニュ ーロ ン を 培養し 、TSC ニュ ーロ ン ではシナプ スが正常に形成さ れ ないこ と を 見出し た。 し かも 、 こ のシ ナプ ス形成異常がラ パマイ シ ン ( sirolimus) によ っ て も 改善し ないこ と から 、 mTORC1 を 介さ ない機序が作用し ている と 考えた。 そこ で、 その シ ナプ ス 形成 異常のメ カ ニズムを 解析し 、 Rheb を 介する シ ナプ ス 形成機構の存在を 明ら かに し た。 TSC で はその機構が障害さ れ、 シ ナプ ス 形成異常が生じ る と 考えら れた。 本 発表では、 こ の分子メ カ ニズムを 紹介し 、 mTORC1 と は異なる 治療標的の可 能性について 議論し たい。
© Copyright 2024 ExpyDoc