特 集 - 建材試験センター

特 集
研 究 の 動 向
WPRC の標準化と技術開発・研究の動向
京都府立大学大学院
教授 古田 裕三
▌1.はじめに
化対策推進法」が,2001 年には「建設リサイクル法」がそれ
木粉と熱可塑性樹脂を混練,押出(射出)成形した複合材
ぞれ制定され,国主導のもと,地球温暖化対策を推進すると
の こ と を「 木 材・ プ ラ ス チ ッ ク 複 合 材 Wood Plastic
ともに,建設廃棄物を極力減らすことによってゴミ減らしや
Composite(以下,WPC と記述する)
」と呼んでいる。そして,
資源の有効活用に取り組むこととなった。これを受けて,
木質材料の分野において,異なる材料に類似の名称が使われ
2001 年には「環境 JIS 策定促進アクションプログラム」が策
ていることから,混乱を避けるために,
「混練型 WPC」と呼
定され,その中で「木材・プラスチック再生複合材(以下
ぶことが提案されている。WPC のうち,環境 JIS である JIS
WPRC と称す)」の JIS 化が経済産業省主導で取り上げられ
A 5741 に定義される内容を満たす素材のことを「木材・プ
た。このことからもわかるとおり,WPRC の JIS 化は,国が
ラスチック再生複合材 Wood Plastic Recycled Composite(以
定めた政策のもと,その実現のために国主導で立ち上げられ
下,WPRC と記述する)」と呼び,環境配慮性の観点から
たものである。
WPC とは区別している。
そして,2003 年に(一社)日本建材・住宅設備産業協会内
木粉・天然繊維をプラスチックと混練して成形する技術
に産学官連携の準備委員会を立ち上げた後,2004 年に正式
は決して新しい技術ではない。1970 年代には日本にその技
な委員会を発足させ,いわゆる JIS の 3 点セット(素材・試
術が紹介されているものの,設備損耗が激しい等の理由か
験方法・製品)を規定することを最終目標として,経済産業
ら,製品化には至っていない。その後,各国において研究・
省の委託事業として WPRC の素材の JIS 化を取り組みはじ
開発が進み,1990 年代初めに,WPC による屋外用デッキが
めた。そして,2006 年には,素材を規定しかつ環境 JIS であ
米企業から初めて発売された。日本においても,1993 年に初
る JIS A 5741「木材・プラスチック再生複合材」が,2010 年
めて,ポリ塩化ビニルと木粉を複合させた内装用製品が開
には,WPRC の耐久性等試験方法を規定する JIS A 1456「木
発・導入されたのをはじめ,1990 年代後半より,屋外用製品
材・プラスチック再生複合材の耐久性試験方法」が,2015 年
が開発・導入され,市場も確実に伸びてきている。また,世
には,WPRC 製品のうち,最もシェアーの多いデッキ製品に
界的にも,WPC 市場は北米,欧州,アジアを中心に発展を続
関して規定した JIS である JIS A 5742「木材・プラスチック
けている。その後,WPC の技術革新が進むとともに,環境
再生複合材製品−デッキ組立製品」がそれぞれ制定され,前
ブームも相まって,原料に廃木材や廃プラスチックを一定割
述のいわゆる JIS の 3 点セットが完成した。なお,JIS A
合以上使用した WPRC の技術開発や標準化が日本を中心に
5741 および JIS A 1456 に関しては,既に改正を経て,より
進められ,こちらの市場も確実に伸びてきている。
時代に合ったものに進化している。
本稿では,WPRC の標準化の動向と研究動向について,
WPC のそれらも交えながら以下に概説する。
国 際 標 準 は ISO( I n t e r n a t io n a l O r g a n iz a t io n f o r
Standardization:国際標準化機構)により制定されている。
WPC の国際標準化へ向けて,ISO/TC(Technical Committee)
▌2.WPRC の標準化の動向
61/SC(Subcommittee)11/WG11において,議論がなされて
いる。2015 年 10 月に開催されたインド・デリー会議におい
初めに日本国内での動向について概説する。様々な環境
て,開催された韓国提案の ISO 16616:Test methods for
問題が深刻化する社会的背景のもと,1998 年には「地球温暖
Natural Fiber-reinforced Plastic Composite( NFC)Deck
22 建材試験情報 2016 年 1月号
Boards が 2015 年に出版されたことが報告され,中国が
いることにより,夏場に高温になる従来デッキと比較して,
Determination of Span Rating for Natural Fiber-reinforced
数℃〜 10℃程度の昇温抑制効果があるというものである。
Plastic Composite( NFC)のテーマにて新規提案を予定して
いる報告があった。
また,同様にエクステリア用途において,WPRC とアルミ
材とが一体となったルーバー製品も商品化されている。従来
また,現在,
(一社)日本建材・住宅設備産業協会において
であれば WPRC 製のルーバー材とアルミ製のインナー材を
実施されている「グリーン建材・設備製品に関する国際標準
別々の状態で納品し,現場にて施工していたが,工場生産時
化・普及基盤構築」事業の WPRC 国際標準化分科会におい
に一体化してルーバー材を製造することにより,軽量化もは
て推進されている日本から ISO/TC61/SC11 への新規提案
かられており,用途に応じて他素材との複合化も進んでい
( N1320:Product Specification for Wood plastic recycled
composites)は新規プロジェクトとして承認されており,現
在,委員会原案 CD( Committee Draft)の作成段階である。
る。
一方で木質系原材料に着目すると,間伐材マークを取得し
た WPRC 製品が出てきており,建築解体廃材だけでない木
一方で , ヨーロッパにおいて EN15534: Composites made
質原料としての利用も拡がってきている。さらに,エクステ
from cellulose-based materials and thermoplastics( usually
リア以外の用途開発に向けて,プラスチック代替に向けた技
called wood-polymer composites( WPC)or natural fibre
術開発やセルロースナノファイバーを用いた WPC の研究開
composites(NFC)
)のシリーズが制定されてきており,今後,
発も進められており,今後の展開が期待される。
ウィーン協定に基づき,ISO 化の動きになる可能性も考えら
れる。したがって,今後,日本および諸外国の規格と国際標
準との整合化が課題である。
▌4.おわりに
近年,日本において発展してきた材料である WPRC の国
▌3.WPRC の技術開発・研究の動向
WPC は木粉の充填率により,低充填 WPC( 30%未満)
,
際標準化へ向けた提案が本格化してきている。また,現行の
エクステリア用途以外への展開へ向けた技術開発・研究も
活発化してきている。このような「環境配慮」と「新規材料」
中充填 WPC( 30 〜 70%未満)
,高充填 WPC( 70%以上)と
としての両面において大きなポテンシャルを有する日本発
呼ばれている。低充填のものは,内装用の押出成形建材を中
WPRC の発展が,日本および世界における環境に配慮した
心に,木質の意匠を出すために少量の木粉を添加している。
材料の発展に貢献することを希望する。
中充填のものは,エクステリア用途を中心に木質の質感と
フィラーとしての効果の両面から木粉が添加されている。高
充填のものは,大きな市場は有していないものの,プラス
チックのように成形できる木材として注目されている。
エクステリア用途の主製品であるデッキ材において,近
年,各社から昇温抑制効果のあるデッキ製品が販売されるよ
プロフィール
古田 裕三(ふるた・ゆうぞう)
京都府立大学大学院 教授
博士(農学)
専門分野:木質物理学,木質材料学
うになってきている。これは,昇温抑制効果のある顔料を用
建材試験情報
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