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⾼齢者福祉政策のミクロ計量経済分析
2015年12⽉24⽇
博⼠論⽂発表会 東京⼤学
東京⼤学⼤学院経済学研究科博⼠課程
松岡佑和
1章:序論
n ⾼齢者福祉政策のミクロ計量経済分析
ü 国・地⽅⾃治体における⾼齢者財政増加
ü 既存研究と異なる側⾯:私的財、硬直的経費等
ü 地⽅⾃治体データを⽤いた政策計量分析 → 今後の在り⽅に⽰唆
n 論⽂構成
ü 2章:市町村合併が⽼⼈福祉費に与える影響
Ø 合併による歳出削減効果は存在したのか
ü 3章:地域間介護給付⽔準の収束仮説の検証
Ø 介護給付⽔準の地域差の変遷はどのようなものか
ü 4章:介護給付⽔準の保険者間相互参照⾏動
Ø 保険者(市町村)の供給⾏動の特徴はどのようなものか
1
2章:イントロダクション
n 2章:市町村合併が⽼⼈福祉費に与える影響
ü 2016 近刊, 『公共選択』, 第65号, 採択済
n ⽬的:⽼⼈福祉費の合併効果の特徴
ü 先⾏研究(Reingewertz(2012),Miyazaki(2013))
Ø 主に歳出合計 → ⽼⼈福祉費は私的財・硬直的経費
ü ⽼⼈福祉サービスが占める割合 (2000 → 2012)
Ø ⽼⼈福祉費(/市町村歳出) 4.7% → 6.2%
Ø 介護保険財政(/GDP) 0.69% → 1.74%
ü 今後の合併・広域連合・⾃治体間連携への⽰唆
Ø 市町村規模はまだ⼩さい (林(2002))
Ø ⽼⼈福祉サービスの広域連合 (介護保険、⽼⼈福祉施設等)
2
2章:⽼⼈福祉費
n 市町村⽼⼈福祉費
ü 1990年⽼⼈福祉福祉法改正 → 市町村主体の⽼⼈福祉政策
ü ⽼⼈福祉費の例:⽼⼈保護措置費(⽼⼈福祉施設への補助⾦な
ど)、在宅⽣活⽀援サービス費(外出⽀援・住宅改造補助)、特別
養護⽼⼈ホーム整備事業費 など
n 他⽼⼈福祉サービス費との関係
Ø ⽼⼈福祉費の78%が介護保険、後期⾼齢者医療特別会計などへ
の繰出⾦ (2009年度『地⽅財政⽩書』)
Ø ⽼⼈福祉サービス(市町村/介護/後期⾼齢者医療)はそれぞれ別
の会計から拠出されており、相互に関連 (統計未公開)
Ø 市町村⽼⼈福祉費は特別会計への繰出⾦を通じて、⼀定程度の
包括さを兼ね備えた⽼⼈福祉サービスを表す財政⽀出と仮定し
分析
3
2章:データ推移
n 合併/⾮合併市町村⽼⼈福祉費の推移
ü 仮説1:多くの合併が⾏われる前に合併市町村の⽼⼈福祉費が増加
していることから、合併による効果は合併前にも正の影響
ü 仮説2:2008年以降合併市町村の平均⽼⼈福祉費が⾮合併市町村を
上回っていることから、合併効果⾃体正であり持続性を持つこと
4
2章:データ
n 「市町村別決算状況調」「住⺠基本台帳⼈⼝要覧」
ü 市町村別 2000-09 (1707×10)
ü ⺠⽣費における⽼⼈福祉費
ü ⾼齢者⼈⼝で割り、⾼齢者1⼈当たり⽼⼈福祉費
ü ⼀般財源、国庫・都道府県⽀出⾦、⾼齢化率、15歳未満割合等
ü 2009年度末における市区町村(1707)を基準とし、合併を⾏っ
た市町村の合併前のデータは合算
5
2章:モデル
n ⼿法:DID
6
3
log $%,' = )% + +' + ,-./-.%,' +
01 log 21,%,' +
145
+08 log 28,%,' + 09 log 28,%,'
147
:
+ ;%,'
7
,-./-.%,' :0> ?.-@A%,' +
01 21,%,'
F
0B,6C' DB,6C' +
'45
0E,' DE,'
'45
ü Treatは合併後1を取る合併ダミー (MD)
ü db, daは合併前後に取るダミー (BD、AD)
ü BD、MD+ADがDID推定量(合併効果)
6
2章:推定結果
n 結果
ü
ü
ü
ü
(1)合併による効果は合併前にも正の影響
(2)合併市町村の⽼⼈福祉費の合併効果は正かつ持続性
推計結果は先の仮説を⽀持し図の推移を説明
追加説明:20%整備・80%現物 → 初期整備・後期現物供給
7
2章:推定結果
n ⽐較
ü ⺠⽣費・扶助費は⽐較的⾼い推移
ü 他⽬的別平均は歳出削減効果 (先⾏研究と⼀致)
ü 扶助費的性質 → ⽼⼈福祉費の正の持続性
Ø 初期の違い:財源、管轄拡⼤、圧迫等
8
2章:まとめ
n まとめ
ü ⽼⼈福祉費の合併効果 → 正の持続性 (vs 歳出合計)
ü 扶助費的性質が原因と⽰唆
n 政策的インプリケーション
ü 市町村合併・⽼⼈福祉サービスの広域連合・⾃治体間連携
Ø ⾼まる需要に応え供給拡⼤
Ø 研究結果 → それに伴う費⽤は歳出削減効果は難しい
Ø ⽼⼈福祉サービスに関しては⾏政規模拡⼤による効率化、費
⽤削減は難しいことを⽰唆
9
2章:補⾜1
n 合併初期の歳出削減効果
ü ⺠⽣費・扶助費と異なり合併初期に歳出削減効果
n 原因の考察
ü 初期整備投資、後期現物供給
Ø ⽣活保護増⼤などは整備投資なし → 即現物供給
ü 財源の違い
Ø ⽼⼈福祉費は⼀般財源
Ø ⺠⽣費・扶助費は国庫・都道府県⽀出⾦
ü ⽼⼈福祉費以外の費⽤増加が強制され圧迫された可能性
ü 町村 → 合併 → 市
Ø 福祉事務所設⽴
Ø ⽣活保護を扱い
10
2章:補⾜2
n 今後の展開
ü ⽼⼈福祉費、介護保険、後期⾼齢者医療等の関係
ü ⽼⼈福祉費が1年⽬に下がり再び増加するメカニズム
11
3章:イントロダクション
n 3章:地域間介護給付⽔準の収束仮説の検証
ü 2016 近刊, 『医療経済研究』, 第27巻2号, 採択済
n ⽬的:介護保険制度における地域差の計量経済学研究
ü 先⾏研究
Ø 記述統計による⽐較、OLSの説明変数の有意性等
Ø 本章:β収束を⽤いた計量経済学研究
ü 地域特性を完全に反映した地域差なのか
Ø 保険者主導サービス:約50%が施設数が整備⽬標以下
Ø 利⽤者・被保険者にとって望ましいとは⾔い難い
ü 介護保険制度(2000-)が地域差に与えた影響
Ø 1999年以前の⽼⼈福祉費(扶助費)と⽐較
12
3章:データ
n 「介護保険事業状況報告」
ü 都道府県別データ 2000-12 (47×13)
ü 介護給付⽔準:単位数(合計・居宅・施設・地域密着)
Ø 利⽤者に焦点:単位数/利⽤者数
• 実際にサービスを必要とし利⽤した利⽤者基準
Ø 被保険者に焦点:単位数/被保険者数
• 介護保険料を⽀払う第1号被保険者基準
ü 地域特性
Ø 後期⾼齢者割合、所得段階、要⽀援・要介護割合等
13
3章:収束仮説の検証
n ⼿法:条件付きβ収束
!",$%& − !",$ = )!",$ + +,-,. + /" + 0$ + 1",$
!",$%& − !",$ = )*+
,",$%&
= log(1 +
,",$
)≈
ü β収束 → βが負
ü 各地域は異なる定常状態へ移⾏
ü 直感的解釈:介護給付⽔準以外が全て同じならば、低給付⽔準
地域ほど⾼い増加率
ü 地域差を考える際には地域特性をコントロールする必要性
Ø 変数分布の推定(Quah(1993))、標準偏差の推移(σ収束,
Sala-i-Martin(1996))ではコントロールできていない
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3章:β収束のイメージ
n 単位数増加率 vs 単位数初期値
(2000/2012)
0.45$
0.4$
0.35$
0.3$
0.25$
0.2$
0.15$
0.1$
0.9$
1$
1.1$
( 1.2$
)
1.3$
(2000
1.4$
1.5$
)
ü 注意:実際の分析ではパネルデータで地域特性をコントロール
している
15
3章:モデル
n モデル
!"#$ − !" = '((!"#$ − !" ) + ,!" + - " .+/ " + 0 + 12
ü 空間的⾃⼰相関(近隣都道府県)もコントロール (⼭内(2009))
ü 最尤法による固定効果推定 (Belloti et al (2013))
16
3章:近隣都道府県区分
Ø ⼭内(2009)、地⽅制度調査会『道州制のあり⽅に関する答申』
における道州制区域例(13道州案)をもとに作成
Ø 「ここで⽰した区域例は、各府省の地⽅⽀分部局に着⽬し、基
本的にその管轄区域に準拠したものである」
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3章:推定結果
n 結果 (2000-12年)
ü 全ての推定でβ収束は存在
Ø 利⽤者基準の⽅が若⼲低い
Ø 利⽤者基準で施設整備、制度浸透
ü 空間的⾃⼰相関は被保険者基準で有意になる傾向
18
3章:推定結果
n 結果 (2000-05年(上)、2006-12年(下))
ü 利⽤者基準では制度初期でβ収束が低い (被保険者基準も)
Ø 制度初期において施設整備、制度浸透
ü 空間的⾃⼰相関は⼀貫した結果が得られていない
Ø ただし、被保険者基準で有意になる傾向
19
3章:推定結果
n 結果 (1993-99年、2000-12年)
ü β収束の傾向は介護保険制度前より存在
Ø 1990年⽼⼈福祉法改正により、市町村主体
ü 空間的⾃⼰相関は介護保険制度以降
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3章:まとめ
n まとめ
ü 全ての介護給付⽔準(利⽤者・被保険者基準)でβ収束は存在
Ø 介護給付⽔準以外が全て同じならば、低給付⽔準地域ほど⾼
い増加率
ü 制度初期では利⽤者基準の⽅がより速い収束傾向
Ø 利⽤者基準で積極的な整備 & 制度浸透
ü 空間的⾃⼰相関は被保険者基準で強い傾向
ü β収束の傾向は介護保険制度前より存在
Ø 1990年⽼⼈福祉法改正により、市町村主体
21
3章:補⾜
n 今後の展開
ü 保険者別分析
Ø 医療経済研究機構より助成を受け進⾏中
ü 空間的⾃⼰相関の必要性
ü 今後の政策へのインプリケーション
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4章:イントロダクション
n 4章:介護給付⽔準の保険者間相互参照⾏動
ü 2016 近刊, 『季刊社会保障研究』, 第51巻3・4号, 採択済
n ⽬的:裁量権が供給⾏動(相互参照⾏動)に影響?
ü 地⽅分権の流れから、介護保険サービスは都道府県から保険者
(市町村)へ
ü 居宅・施設サービスは都道府県、地域密着型サービスは保険者
に裁量権
ü 裁量権が反映されると考えられる相互参照⾏動に焦点
ü なぜ相互参照⾏動?
Ø 相互参照⾏動による効率化 → 介護保険地⽅分権への⽰唆
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4章:介護保険と地⽅分権
n 2000年- 居宅・施設サービス
ü 全てのサービスの保険者は同じ
ü ただし、居宅・施設は都道府県に裁量権
Ø 保険者の意向と合致しない整備・供給〔平野(2006)〕
n 2006年- 地域密着型サービス
ü
ü
ü
ü
地域密着型は保険者に裁量権
介護報酬に独⾃加算
助成⾦・補助⾦ (全体で7.2%、30万⼈以上都市で27.4%)
施設数・定員数が調整可能となった 52.2% 〔畠⼭(2010)〕
n 2018年- 居宅介護⽀援事業所
ü 保険者に裁量権移譲
24
4章:相互参照⾏動
n 仮説
ü 地域密着型(保険者)は、図1-1
ü 居宅・施設(都道府県)は、図1-2
25
4章:データ
n 「介護保険事業状況報告」
ü 2006-11年度保険者別パネルデータ (1436×6)
ü 介護給付⽔準:被保険者1⼈あたり単位数
ü 後期⾼齢者割合、所得段階、要⽀援・要介護割合等
n 参照範囲 (後述)
ü 同⼀都道府県
ü 近隣都道府県
26
4章:近隣都道府県区分
27
4章:モデル
n Spatial Durbin Model
!"#$% = '(!"#$% + * % ++(* % , + - % + . + /0
ü 被説明変数: 介護給付⽔準 (サービス別:1⼈あたり単位数)
ü 相互参照(W(空間重み⾏列)): 介護給付⽔準、コントロール変数
ü コントロール変数(外⽣仮定): 後期⾼齢者割合(75/65)、所得段階割合
13、5、要⽀援割合、要介護12割合、要介護度3割合、要介護度45割合
ü 市町村固定効果・時間固定効果
ü 最尤法による推定
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4章:推定結果
n 同⼀都道府県保険者にウェイト
(
)
.310***(.035)
.495***(.027)
.402***(.046)
8616(1436 6)
n 同⼀都道府県保険者のみ同⼀ウェイト
ü 他保険者が10%増加したら、約3-5%増加する
n 相互参照⾏動の強さ
ü 施設、地域密着型、居宅
ü 施設は施設待機者問題の影響
ü 居宅・地域密着は類似サービス → 保険者裁量権により違い
29
4章:推定結果
n 同⼀・近隣都道府県保険者にウェイト
(i)
(
)
.271***(.055)
.529***(.049)
.052 (.097)
8616(1436 6)
(ii)
(
)
.445***(.045)
.538***(.064)
.518**(.067)
8616(1436 6)
n 同⼀ウェイト
ü 地域密着は有意性を失う
ü 都道府県に裁量権がある居宅・施設は有意
n 距離ウェイト
ü 同⼀都道府県保険者に⾼いウェイト 同⼀.227 → 距離.491
ü 地域密着が再び有意 → 地域密着は同⼀都道府県保険者参照
30
4章:まとめ
n 裁量権の違いが相互参照⾏動に与える影響
ü 類似の居宅・地域密着型 → 地域密着が強い
Ø 地域密着の裁量権は保険者
ü 近隣都道府県保険者を加味 → 居宅・施設が強い
Ø 居宅・施設の裁量権は都道府県
ü 裁量権の違いが供給⾏動に影響
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4章:政策的インプリケーション
n 推定結果から
ü 介護保険サービスに地⽅分権の流れ
ü 裁量権が増すと、相互参照⾏動が強くなる
Ø 本研究+松岡(2016)介護保険料市・町村別推定(市>町村)
n 介護保険地⽅分権への⽰唆
ü 先進的な取り組みの波及 → 効率的なサービス供給
ü 住⺠の意向反映(ヤードスティック競争)
Ø 保険者の各地域への選好特性に合わせた供給⾏動
Ø 国による画⼀的供給よりも効率的であることを⽰唆
Ø外部性が⼤きく、地域政策担当者の相対的な政策が⾼く
評価される状況 → 分権化の⽅が効率的〔⼩⻄(2009)〕
Ø相対的な政策評価:分権化では⾼い (と考えらえる)
32
4章:補⾜1
n ⼩⻄ (2009):モデル設定
ü
ü
ü
ü
地域住⺠の効⽤は他地域から影響 (外部性:γ)
各地域の政策担当者は外部者により政策評価される
相対的な評価 (βが⾼いとより相対評価に重点が置かれる)
各地域の政策に関係性
n 解・効率性
ü 政策担当者は利得(外部評価 – 努⼒)を最⼤にする
ü 効率性は(地域住⺠効⽤ – 政策担当者努⼒) の合計
n 集権・分権
ü 集権:⼀致協⼒して利得合計を最⼤化
ü 分権:⾮協⼒的に⾏動して各々の利得最⼤化
ü どちらが効率性が⾼くなるか
33
4章:補⾜1 (続き)
n 結論 (の⼀部)
ü 外部性が強く(γ)、相対的な評価が重視(β)されると分権化の⽅
が効率的
n どのような状況か
ü 外部性が強い(γ):地域住⺠が他地域を強く考慮
ü 相対的な評価が重視(β):地⽅分権を進める上では強い
n メカニズム
ü 外部性が強く(γ) → 外部性を内部化しようと集権における政策
担当者の努⼒が過⼤
ü 相対的な評価が重視(β) →政策担当者が協調して選択した努⼒
⽔準が効率的な努⼒⽔準と⽐べると過⼤ (政策が⾼評価されて)
ü 上記2つパラメータが⾼い → 分権化の⽅がより効率性
34
4章:補⾜
n 今後の展開
ü 効率性と費⽤の問題
ü 3つのサービスの関係性
ü 供給者データの構築
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