SURE: Shizuoka University REpository

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代替冷媒HFC-134a用圧縮機の潤滑特性に関する研究
吉村, 多佳雄
p. 1-105
1996-03-23
http://doi.org/10.11501/3111328
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0002513562 R
静岡大学博士論文
代替冷媒HFC−134a用圧縮機の
潤滑特性に関する研究
綿周大字国書
1996年2月
大学院電子科学研究科
電子応用工学専攻
吉村 多佳雄
目 次
第1章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.1研究の背景・・・・・・
● ● ● ● ● ● ●
1
1
1.2 従来の研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・● ● ●
4
1.2.1HFC一一134a冷媒と冷凍機油の潤滑・摩擦・摩耗に関する研究・
4
1.2.2 圧縮機のしゅう動部の潤滑に関する研究・
5
1.3 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・
7
1.4 本論文の構成・
参考文献・・・・
● ● ● ● ● ● ●
8
● ● ● ● ● ● ●
8
第2章 圧縮機の構造としゅう動部・・‥ ‥・・・‥・・・・・・●
12
2.1 構造・・・・・・・・・
12
2.1.1往復圧縮機の構造・
12
2.1.2 ロークリ圧縮機の構造・・・・・・・・・・・
13
2.2 しゅう動部・・・・
2.2.1 しゅう動条件・
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ■ ■
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
第3章 連接棒小端部軸受の潤滑特性 ‥・‥ ‥・‥・‥・・
3.2.1 しゅう動条件・・・
3.2.2 軸受特性・・・・・
14
16
2.2.2 冷媒と冷凍機池の組み合わせ・
3.1 緒言・・・・・・・・・
3.2 理論解析・・・・・・・
14
・18
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
・18
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
・18
● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
・19
● ● ● ● ●
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
・20
_ ▲ ■ ■ ▲ ■ l■ ● ● ● ● ●
・22
● ● ● ●
・22
● ● ● ●
・25
● ● ● ●
・27
3.3 実験方法・・・・・・・
3.3.1圧縮機での実験・・
3.3.2 軸受要素実験・・・
3.4 結果と考察・・・・・・
3.4.1 しゅう動条件の解析結果・・・・・
・27
3.4.2 圧縮機での特性・・・・・・・・・
・29
3.4.3 軸受要素実験と解析結果の比較・・
・36
3.4.4 圧縮機での実験結果と解析結果の比較・・・・・・・・・
・41
3.5 結論・・
・48
参考文献・
・49
一一(1)一・
第4章 ベーンとピストン間の潤滑特性 … … … … … ‥ 50
4.1緒言・・・
4.2 理論解析・
・・・・・50
・・・・・51
4.2.1 ピストンの運動解析・・・・・・・・・
・・・・・51
4.2.2 ベーンとピストン間の油膜厚さの解析・
・・・・・55
4.3 実験方法・・・・・・・・・・
・・・・・57
4.3.1実機圧縮機での実験方法・
57
4.3.2 ピストン平均自転数の計測
・・・・・59
4.3.3 その他の内部挙動の計測・
・・・・・60
4.4 結果と考察・・・・・・・・・
・・・・・61
4.4.1定常運転時の特性・
・・・・・61
4.4.2 冷蔵庫での過渡運転時の特性・・・
・・・・・66
4.4.3 液戻り装置での過渡運転時の特性・
… ‥ 71
4.5 結論・・
参考文献・
・・・・・79
・・・・・80
第5章 ジャーナル軸受の潤滑特性
5.1緒言・・・・・・・・・
… … … … … ‥ 82
5.2 実験方法・・・・・・・
5.2.1軸受試験機の構成・
82
● ● ● ●
82
● ● ● ●
83
● ● ● ●
5.2.2 試験方法・・・・・・・・・・・・
5.2.3 結果の整理方法・・・・・・・・・
84
5.3 結果と考察・・・・・・・・・・・・・
87
5.3.1HFC−134aとエステル池の特性・・・
5.3.2 CFC−12と鉱油との特性比較・・・・
88
86
91
5.3.3 HFC−134aとアルキルベンゼン油および大気解放状態の鉱油との
特性比較・・・・・・・・
5.4 結論・・
参考文献・
● ● ● ●
・・・93
● ● ● ●
・・・95
● ● ● ●
・・・96
第6章 総論
記号の説明・・・・
・・101
・往復圧縮機・
・・101
ロークリ圧縮機・・
・・102
謝辞 … … … … … … … … … … ‥104
論文目録・・・
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
ー(2)一
… … …105
第1章 序 論
1.1 研究の背景
日本の家庭では多くの電化製品が使用されているが,その中で冷蔵庫はほぼ
100%の普及率であり,食品の鮮度保持による良好な衛生状態の確保ならびに食生
活の充実を図る上で無くてはならない電化製品の一つである.一般に冷蔵庫の冷
却方式として,蒸気圧縮式,吸収式,スターリングサイクル式等があるが,家庭
用ではほとんどが蒸気圧縮式であり,この冷却方式に使用されている圧縮機は往
復式とロークリ式に大別される.日本では,省エネルギーや低騒音そして省スペ
ースと消費者の要望が多様化しており,そのために冷蔵庫の用途や容量に応じて
圧縮機は往復式のコネクティ ングロッド形,スコッチヨーク形,ならびにリニア
形,ロークリ式のローリングピストン形が使い分けられている.これに対して海
外においては,圧縮機として市場実績が長く信頼性が高いことから主にコネクテ
ィ ングロッド形が使用し続けられている.
近年これらの冷蔵庫に対して,地球環境保護の観点からフロン規制とエネルギ
ー規制が全世界的に実施されまた今後も強化される状況にあり,冷蔵庫は大きな
技術的変革の渦中にあると言える.
まずフロン規制では,冷蔵庫の冷媒で使用されてきたクロロフルオロカーボン
(CFC)が,成層圏のオゾン層を破壊しさらに温室効果による地球温暖化を促進
することから日本においては1995年末に全廃された.この規制に伴い日本では,
性能,安定性,不燃性,毒性の全ての面で理想的といわれ60年以上にわたって使
用されてきたCFC”12が,圧力等の物性が近くオゾン破壊係数(ODP)が零で温暖
化係数(GWP)も比較的低い,ハイドロフルオロカーボン系のHFC−134aに切り替
えられることになった.その結果,冷蔵庫では1993年から市場導入され1995年
中に切り替えを完了した.なお同様にCFC−12冷媒を使用していたカーエアコンの
分野でも,1991年から一部の機種で苗場導入され切り替えを完了している(1)
またエネルギー規制は,家庭電化製品で消費電力量の多いたとえば冷蔵庫のよ
うな機器の効率を向上して全体的なエネルギー消費を抑えることによって,石油
ー 1 −
等の燃焼による放熱やC02の排出による地球の温暖化を抑制することを狙いにし
ている・特に欧米では,消費者が効率の良い冷蔵庫を購入できるように消費電力
量をラベル表示したり,また消費電力量の基準を満たさない冷蔵庫の販売を規制
したり等の法律が施行されている.従って冷蔵庫の心臓部とも言うべき圧縮機に
対する高効率化の要求は非常に厳しくなっており,今後は日本においても同様の
状況になるものと予測される.
ところでCFC−12からHFC−134aへの切り替えにより圧縮機は,冷媒自体の物理化
学的特性の違いに起因するトライボロジー上の課題を抱えることになった.その
物理化学的特性とは,①塩素原子を含まないHFC−134aは塩素を含むCFC−12に比較
して,摩擦面で反応生成物の形成が少なく潤滑性(極圧効果)が大幅に劣る(2),
②HFC−134aは極性を有しているので従来から冷凍機池として使用されてきた鉱油
やアルキルベンゼン池にほとんど溶解しないが逆に水分をCFC−12よりも30倍程度
溶解する(3),ということである.この物理化学的特性の違いに起因する圧縮機
のトライボロジー上の課題を,C F C規制とエネルギー規制の二つの規制との関
連で整理したのか図1.1である.
これらのトライボロジー上の課題解決に向けた研究は,まずトライボロジーの
図1.1圧縮機のトライボロジー上の課題
− 2
前提である冷凍機池の選定から始まった.冷凍機池に求められる特性は,潤滑性,
冷媒との相溶性,安定性(化学的安定性,酸化安定性,加水分解安定性),低温
流動性,電気絶縁性,吸湿性等がある.現在のHFC−134a用冷蔵庫には,往復圧縮
機用としてポリオールエステル池,ロークリ圧縮機用としてアルキルベンゼン油
が使用されている.しかし,これらの冷凍機油はHFC−134aと共に使用した場合,
従来の冷媒と冷凍機油の組み合わせよりもいくつかの点で劣ることになる.すな
わち,ポリオールエステル池は,従来の冷凍サイクルと基本的構成を変えずに使
用できるメリ ットがあるが,加水分解し易いために水分管理を徹底しないとキャ
ビラリチューブに油の加水分解生成物が詰まる課題があり(4),製造工程での部
品洗浄の強化や水分混入の防止が必要となる.一方アルキルベンゼン油は,水分
に対する安定性で優れており水分管理を厳しくする必要がないものの冷媒との相
溶性が劣り,冷凍サイクルに吐き出された冷凍機油の圧縮機へのもどり性の改善
が課題であり,冷凍サイクル内で油滞留の可能性がある低温部での流路改良が必
要となってく る(5)
これらの特性を有する冷凍機油に対して,まずHFC−134a冷媒雰囲気下での摩耗
試験等の耐摩耗特性の確認を目的とした研究が多くの研究者によって行われてい
る(6)∼(】3) しかし結局どの組み合わせにおいても従来のしゅう動材料では従来
冷媒と冷凍機油の組み合わせの場合と同等の耐摩耗性は確保できず,現在はしゅ
う動材料の変更や冷凍機池の添加剤の工夫といった方法で対応している.
一方圧縮機の長期信頼性を確保し,高効率化を極限まで追求するためには,図
1.1に示したように,耐摩耗性だけでなく潤滑油膜の形成に関する研究が非常に
重要である.しかし,従来のCFC−12冷媒では摩耗損傷の問題が比較的少なかった
ために,油膜形成に関する研究に対してあまり積極的な推進が行われてこなかっ
た.ところが1992年の報告で,回転するボールと平板間のE H L(Elastohydro一一一
dynamiclubrication,弾性流体潤滑)油膜厚さを実測したところ,HFC−134a冷
媒が冷凍機池に溶解した場合には高圧粘度計で計測した粘度から予測される油膜
厚さよりも計測された油膜厚さが薄く,従って実効粘度が極端に低下している可
能性があることが示された(14) これを契機に日本においてもモデル実験による
E H L油膜厚さの研究が行われ(15)(16),最近では冷凍機油に冷媒が溶解した
ときの油膜形成状態の研究の重要性が改めて認識されてきている.特に冷媒圧縮
ー 3
機の場合,起動と停止の繰り返しに伴い,冷媒の冷凍機池への溶解量がその条件
に応じて変化するという特殊な潤滑条件下にあることから,安定運転状態での油
膜形成状態だけでなく過渡的な油膜形成状態を知ることも重要である.従って,
フロン規制によって生じた潤滑上の問題に対して現在の圧縮機は,新冷媒と新冷
凍機池の組み合わせにおける潤滑状態について多くの不明点を抱えながら製造工
程や材料面での改良を試行錯誤的に行い,何とか対応しているのか現状である.
本研究では以上の背景を踏まえて,従来のCFC−12冷媒と冷凍機池の組み合わせ
の場合とHFC一一134aと冷凍機油の組み合わせの場合とで,圧縮機運転中に主要なし
ゆう動部の潤滑油膜の形成状態に差があるのかどうかについて明らかにして,ト
ライボロジー上の工学的知見を得ることを目的としている.特にHFC−134a冷媒で
は,冷凍機油に対する冷媒の溶解性の違いによって潤滑油膜の形成に差があるの
かどうかについても明らかにする.本研究では,冷媒圧縮機で最も厳しい潤滑状
態にある往復圧縮機の連接棒小端部軸受,ロークリ圧縮機のベーンとピストン間
のしゅう動部,ならびにどの圧縮機にも共通的に使用されているジャーナル軸受
を対象に研究を進める.
1.2 従来の研究
1.2.1 HFC−134a冷媒と冷凍機油の潤滑・摩擦・摩耗に関する研究
HFC−134a冷媒に関する摩擦摩耗に対する初期の研究としては,1989年に発表さ
れた本間ら(2)のフロン雰囲気中における摩擦摩耗特性の研究がある.この研究
で塩素を含まない【IFC−134aでは塩素を含むCFC−12に比較して冷媒自体の潤滑性が
劣り,油の共存が重要であることが示された.その後,1990年には開米(6)や銅
屋ら(7)によりカーエアコン用のポリアルキレングリコール油(PAG)に加えて,冷
蔵庫にも使用できるエステル油の潤滑特性について報告された.そして1991年に
はエステル池を含めて摩擦摩耗に対する研究が本格化し,銅屋(8)のアルミニウ
ム材での摩耗特性の研究,長谷川ら(9)の添加剤の研究,本間ら(10)の摩耗試験
機での焼き付き荷重の研究が行われた.しかし,エステル油,ポリアルキレング
リコール池のどちらにおいてもHFC−134aの雰囲気下においては,焼き付き性,摩
耗特性共に従来のCFC−12と鉱油の組み合わせに比べて劣る結果となり,HFC−134a
雰囲気下ではしゅう動材料の改善,油の高粘度化等が必要であることが示された.
一 4 −
また1992年には,K.Takaichiら(11)が実際の冷蔵庫の冷凍サイクルでの摩耗特性
について研究し,エステル油を使用する場合には,耐摩耗性に優れたしゅう動材
料を使用することならびに製造工程における水分管理の徹底が重要であることを
報告した.また1993年には水原(】2)がCFC−12に含まれる塩素とHFC−134aに含まれ
るフッ素の潤滑に与える効果に関する研究を行い,HFC−134a冷媒で摩耗が増加す
るのは塩素とフッ素の極圧効果の差によるものであると考察している.さらに
1994年には西脇ら(13)が,フッ素や塩素による表面皮膜が摩耗特性に影響するこ
とから冷媒の存在が摩耗特性を評価する上で重要であることを報告した.
ところで1992年には,F.P.Wanrdleら(14)は冷媒が溶解した冷凍機池における
E H L油膜の保持性能を研究し,HFC−134a冷媒がエステル油に溶解した場合には
高圧粘度計で計測した粘度から予測される油膜厚さよりも計測された油膜厚さが
薄く,従って実効粘度が極端に低下している可能性があることが報告された.こ
のことは,HFC−134a冷媒を用いる場合に,摩擦摩耗特性を改善し長期信頼性を確
保するためには,冷媒圧縮機固有の問題である冷凍機池に冷媒が溶解した状態で
の潤滑特性が重要であることを示している.その後この観点から,明井ら(15)に
よる油膜厚さと冷媒溶解量についての研究や,権藤ら日6)による油膜破断と冷媒
の溶解量についての研究が行われている.その結果,冷媒の溶解した冷凍機池の
油膜形成能力は圧カー粘度係数が冷媒の溶解とともに減少するために冷媒の溶解
量の影響を大きく受けること(−5),またHFC一一134aとエステル油の組み合わせでは
HFC−134aと鉱油の組み合わせに比較して冷媒の溶解による粘度低下が大きく油膜
破断が発生し易いこと(16)が報告されている.
以上のように拝FC−134a冷媒における摩擦摩耗や潤滑に関する研究は着実に進展
しつつあるが,油膜形成に関する研究はモデル化した装置による要素実験である
ためにその結果が実際の圧縮機の運転状態に適用できるかどうかは不明であり,
また実際に運転中の圧縮機のしゅう動潤滑特性を測定評価したものは見あたらな
い.
1.2.2 圧縮機のしゅう動部の潤滑に関する研究
a. 往復圧縮機の連接棒小端部
冷蔵庫用圧縮機として歴史が古く世界的に最も多く使用されている往復冷媒圧
5
縮機において,動荷重が作用する上に揺動運動を行う連接棒小端部軸受の潤滑状
態に関する研究は見受けられない.またこの往復冷媒圧縮機に基本構造が類似し
た往復動エンジンの分野においては,1961年に和栗ら(17)が圧縮機の連接棒小端
部軸受に近いしゅう動状態にある二サイクル機関のクロスヘッドピン軸受の摩擦
係数を理論的,実験的に研究し,それ以降も各種理論計算方法の比較研究(18)や,
軸受負荷能力の改善の研究(19)等を行っている.さらに最近になって,林ら(20)
は内燃機関のフローテイング形ピストンピンを有する連接棒小端部軸受を対象と
して有限幅軸受理論に基づく レイノルズ方程式を提示している.しかしこれらの
研究では,潤滑特性として最も重要な油膜形成状態については理論解析が主体で
あり,油膜特性を実験的に評価したものはない.
b.ロークリ圧縮機のベーンとピストン
ローリングピストン形ロークリ圧縮機のベーンとピストンの潤滑に関する研究
はまず清水(21)や岡田ら(22)のピストンの自転挙動の理論的研究から始まり,柳
揮(23)∼(25)のピストンの自転挙動の理論的,実験的研究により設計諸元や池粘
度の影響を含めた特性が明らかになった.さらに小林ら(26)は,ピストン内周や
ベーン側面部の流体潤滑油膜を厳密に考慮した解析と実験との比較を行うととも
に,小野ら(27)はベーンとピストン間の潤滑について混合潤滑条件を考慮(表面
粗さでの金属接触を考慮)した定常的なE H L理論解析を行い,金属接触による
影響を研究した.また田中ら(28)と落合ら(29)は,ベーンに電極を埋設しその金
属接触状態を実験的に研究し,E H L解析結果との比較を行っている.
しかし,従来の研究は定常運転状態でのピストンの挙動や潤滑しゅう動特性に
関する実験的,理論的研究であり,実際の冷蔵庫等で運転される際にひんぽんに
発生し,また負荷圧力条件や潤滑油供給状態の大きく異なる過渡運転時の挙動に
ついては研究されておらず,いまだ不明な点が多い.
C.冷媒圧縮機のジャーナル軸受
従来から圧縮機のジャーナル軸受を対象に,柳澤(23)のロークリ圧縮機のピス
トン内周部分の潤滑特性の理論解析や,E.Hazakiら(30)のHCFCN22冷媒が溶解し
た冷凍機池の給油量が軸受潤滑特性に与える影響の研究,H.Kobayashiら(31)の
6 −
油膜形成に対する軸受部での発泡の影響に関する実験的研究や高田ら(32)の空調
用ローリングピストン形ロークリ圧縮機の軸受部の可視化によるキャビテーショ
ンの観察が行われている.また最近では,服部(33)・(34)が軸受と回転体の複合
解析やE H L解析を用いた軸受薄肉部の効果の解析を行い,二気筒ロークリ圧縮
機の軸挙動と軸受薄肉部の効果を明らかにしている.
しかしこれらの研究は,弾性流体潤滑領域における油膜厚さの研究が主体であ
り,異なる冷媒と冷凍機池の組合せでのジャーナル軸受特性や,冷媒溶解量の差
が軸受特性に与える影響については十分な研究がなされていない.すなわち,ジ
ャーナル軸受における摩擦等の軸受特性に関して,特に代替冷媒や池の種類によ
って差があるのか,また差があるとすれば流体潤滑領域と混合潤滑領域とでは異
なるのか,等が明らかになっていない.さらに,冷媒共存下での動荷重と静荷重
の軸受特性差についても十分に研究されていない.
1.3 本研究の目的
本研究では,冷蔵庫用往復圧縮機(気筒容積7.7cm3),冷蔵庫用ロークリ圧縮
機(気筒容積4.8cm3)を対象とし,それぞれのしゅう動部について実際に圧縮機
が運転されている条件での潤滑状態を明らかにした上で,CFC−12およびHFC・−134a
と冷凍機油の組み合わせにおいて,しゅう動部の潤滑状態について実験的,理論
的な検討を行い,油膜形成の観点からHFC一一134a冷媒における圧縮機でのトライボ
ロジー上の工学的知見を得ることを目的としている.
そこで本研究では,まず今までに潤滑状態が明らかになっていない部位として,
往復動圧縮機の連接棒小端部軸受(35)・(36)および過渡運転状態を含めたローク
リ圧縮機のベーンとピストン間の潤滑(37)(38)を取り上げ,CFC−12および
HFC−134aと冷凍機油の組み合わせにおける潤滑状態を実験的,理論的に明らかに
する.また,どんな圧縮機にも共通して使用されるジャーナル軸受についても同
様にCFC−12およびHFC−134aと冷凍機油の組み合わせにおける潤滑状態の差を明ら
かにする(39).特に密閉ケーシング内の圧力が高く冷媒が溶解し易い条件にある
ロークリ圧縮機を対象としたベーンとピストン間ならびにジャーナル軸受につい
ては,冷媒が冷凍機油に溶解し易い場合としてCFC−12と鉱油,HFC−134aとエステ
ル池,また溶解しにくい場合としてHFC−134aとアルキルベンゼン油のそれぞれの
− 7 −
組み合せについて検討し,従来の組み合わせに対する新しい組み合わせでの特性
差と冷媒の溶解性が潤滑状態に与える影響を定量的に明らかにする.
1.4 本論文の構成
本論文は全6章で構成されている.第1章は序論であり,本研究の目的と従来
の研究について述べている.
第2章では,研究の対象とした冷蔵庫用往復圧縮機とロークリ圧縮機の基本構
造と諸元,ならびにしゅう動条件の概要や冷媒と冷凍機池の組み合わせについて
説明する.
第3章では,往復圧縮機における連接棒小端部軸受の潤滑状態を電気抵抗法を
用いて実験的に明らかにする.特に圧縮機のいろいろな運転条件下での潤滑状態
の違いや,冷媒と冷凍機池の組合せにおける潤滑状態の差を調べる.また,連接
棒小端部の揺動運動を行う軸受をモデル化した要素実験によりしゅう動状態を明
らかにすると共に理論解析結果との比較検証を行った上で,実機運転中の小端部
軸受挙動の測定結果と理論解析結果との比較を行う.
第4章では,ロークリ圧縮機について,安定運転状態におけるピストンの挙動
やベーンとピストン間の潤滑状態に加えて十分な解明が進んでいない実際の冷蔵
庫の過渡状態におけるそれらについて,実験と機械力学的な解析により総合的に
検討する.また液圧縮が発生するような過渡運転状態において,冷媒の冷凍機池
への溶解性がベーンとピストン間の潤滑状態に与える影響を明らかにする.
第5章では,ジャーナル軸受の軸受特性について,冷媒が冷凍機池に溶解した
状態での試験が可能な軸受試験機を作製し,いろいろな冷媒と冷凍機油の組み合
わせでジャーナル軸受特性を測定することにより,冷媒の溶解性の違いによる特
性の差や荷重条件(静荷重と動荷重)の影響を実験的に明らかにする.
第6章は,結論として本研究を総括する.
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ついて,日本機械学会論文集(第3部),Vol.27 No.178,(1961),pp.910−
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(18)和栗・浜武・副島,二サイクル機関クロスヘッドピン軸受の負荷能力につい
て,日本機械学会論文集,Vol.C48 No.425,(1982),pp.86−94.
(19)和栗・浜武・副島・大坪,クロスヘッドピン軸受の負荷能力に関する各種改
善法の比較,日本舶用機関学会誌,Vol.26,No.4,(1991),pp.20−28.
(20)林・二所宮,ピストン軸受の潤滑機構,日本機械学会第72期通常総会講演会
講演論文集(lV),(1995),pp.199−−200.
(21)清水,空調用回転圧縮機の回転ピストンの摩擦損,冷凍,VoL51No.589,
(1976),pp.15一一21.
(22)岡田・久山,ロークリ圧縮機のピストンの挙動,冷凍,lro1.50 No.571,
(1975),pp.ト7.
(23)柳澤,ローリングピストン形回転圧縮機のピストンの挙動と機械摩擦損失
(第1報,ピストン運動の測定と理論解析),機械学会論文集,Vol.C48
No.429,(1982),pp.732−740.
(24)柳揮,ローリングピストン形回転圧縮機のピストンの挙動と機械摩擦損失
(第2報,機械摩擦損失の解析),機械学会論文集,Vol.C48 No.435,(1982),
pp.1854−1861.
(25)柳澤・石嶋・清水,冷蔵庫用回転圧縮機における回転ピストンの挙動と機械
損失,第16回空気調和・冷凍連合講演会論文集,(1982−4),pp.49−52.
(26)小林・一柳・町田,ロークリ圧縮機のロータ及びブレード挙動,第26回空気
調和・冷凍連合講演会講演論又集,(1992−4),pp.1−4.
(27)小野・是永・吉村,ロークリコンプレッサにおける相対運動部品の潤滑特性
解析,日本機械学会第71期通常総会講演会講演論文集(Ⅳ),(199小3),
pp.99−101.
(28)田中・京極・中原・河原・落合,空調用圧縮機ベーン先端部の混合潤滑解析
一 10
(その1),トライボロジー会議予稿集,(金沢1994−−10),pp・97−100・
(29)落合・河原・中原・京極・田中,空調用圧縮機ベーン先端部の混合潤滑解析
(その2),トライボロジー会議予稿集,(金沢1994−−10),pp・10ト104・
(30)E.Iiazaki and M.Imai,Performance of Bearing Lubricated with Oiト
Refrigerant Mixurc,Eurotrib,854,(1985),pp・5・2・j1−5・2・j5・
(31)fI.Kobayashi and N.Murata,The Effect of Refrigerant Dissolvedin Oil
onJournal Bearing Reliability,19861nternational Compressor
Enginecring Conferencc at Purdue,(1986),pp・1013−1025・
(32)高田・京極・中原・新田・外山,空調用圧縮機軸受内の冷凍機池流れの観察,
日本潤滑学会トライボロジー会議予稿集 D・21,(東京1992−−5),
pp.363−366.
(33)服部,ロークリコンプレッサの回転体と軸受の複合解析,トライポロジスト,
Vol.38 No.10,(1993),pp.14−19.
(34)服部,ロークリコンプレッサ用ジャーナル軸受のEH L解析,日本機械学会
第72期全国大会講演論文集(Ⅳ),(1994),pP.398−400.
(35)吉村・明石・八木,往復圧縮機における連接棒小端部軸受の潤滑状態に関す
る実験的研究,日本機械学会論文集,(投稿中),No.95−0516.
(36)吉村・清水・柳揮・長尾,往復圧縮機における連接棒小端部の揺動軸受特性
に関する研究,日本冷凍協会論文集,Vol.12 No.3,pp.89日100.
(37)吉村・清水・森田・小林,ロークリ圧縮機の過渡運転時のローラピストンの
挙動,静岡大学大学院電子科学研究科研究報告,No.16,(1995−3),pp・105−
112.
(38)T.Yoshimura,Ⅰ.MoriLa,M.Kobayashi,K.Inagaki
and
M.Katayama,The
Lubricating Characteristicsin a Rotary Comprcssor,Proceedings of
the19th Tntcrnational Congress of Refrigeration,Vol.3A,(1995),
pp.215−−222.
(39)吉村・森田・小林,HFC−134aおよびCFC−12冷媒の溶解した冷凍機池を用いた
ジャーナル軸受の特性,口本機械学会論文集,Vol.C−62 No・594,pp・249−255・
11
第2章 圧縮機の構造としゅう動部
2.1 構造
2.1.1 往復圧縮機の構造
家庭冷蔵庫用往復圧縮機の断面図を図2.1に示す.密閉ケーシング内において
モータが上部,圧縮機械部が下部に配置されており,モータの回転運動は,主軸
のクランク偏心部,連接棒,並びにピストンピンを介してピストンの往復運動に
変換され,このピストンの往復運動により冷媒の吸込み,圧縮,吐出し動作が行
われる.連接棒は,その中端部ではピストンに固定されたピストンピンとすべり
軸受を形成し揺動運動を行うと共に,その大端部では主軸のクランク偏心部とす
べり軸受を形成し回転運動を行う.また主軸は主軸受とすべり軸受を構成してお
り,ガス圧力が作用するクランク偏心部に対して一つの軸受で片持ち支持する構
成となっている.密閉ケーシングの下部に溜まっている冷凍機池は,軸下部の給
Hermeticcaslng
Pistonpln
図2.1 往復圧縮機の断面図
ー 12 一
表2.1 機械部諸元
C om pressor displacem ent volum e
7.
7 cnf
Inner diam eter of cylinder
23.
4mm
Stroke of piston
17.
9mm
L ength of connecting rod
37.
3mm
D i am
eter
of
sm all end bean●
ng
11.
1mm
n ll end bean●
W idth
of
srr
ng
9.
8mm
M ass
of
pi
ston
and piston pln
●
55 g
M ass of connecting rod
20 g
抽管から遠心力により吸い上げられ,圧縮機の主軸の軸受部に給油され,その一
部は連接棒の大端部軸受を潤滑した後,連接棒内の給油孔を通って小端部軸受に
給油される.
本研究においては,連接棒小端部とピストンピン間の揺動ジャーナル軸受の潤
滑状態を研究対象としている.
なお,本研究に用いた往復圧縮機の諸元を表2.1に示す.
2.1.2 ロータリ圧縮機の構造
ロークリ圧縮機の断面図を図2.2に示す.この圧縮機は横形であり,圧縮機械
部とモータが水平方向に配置されている.モータの回転運動は軸偏心部を介して
ピストンに伝達され,シリンダ内のピストンとベーンにより形成される空間の容
積が変化することにより冷媒が吸込み,圧縮,吐出し動作が行われる.この圧縮
機においては,主軸受部,副軸受部,ピストン軸受部の三カ所がジャーナル軸受
の構成となっており,またガス圧力が作用するピストン部に対して,一対の軸受
(主軸受と副軸受)が両持ち支持する構成となっている.また密閉ケーシングの
下部に溜まっている冷凍機池は.軸端部の給油管から主に差圧を利用して吸い上
げられ,副軸受,ピストン内周軸受,主軸受に順次給油されるとともにピストン
内周からシリ ンダ内に供給され,ベーンとピストン間のしゅう動部を潤滑する.
本研究においては,このロ、一夕リ圧縮機のベーンとピストン間しゅう動部並び
にジャーナル軸受部分の潤滑状態を研究対象としている.
なお,試験に用いたロークリ圧縮機の諸元を表2.2に示す.
− 13 −
図2.2 ロークリ圧縮機の断面図
表2.2 機械部諸元
C om pressor displacem entvolum e
D iam eter ofcylinder
H eigh t ofcylinder
O uter diam eter ofpiston
Inner diam eter ofpiston
E ccentri city of shaft eccentri C
4.8cnf
¢37m m
15m m
¢3 1m m
¢21 m m
3mm
2.2 しゅう動部
2.2.1 しゅう動条件
本研究においては,往復圧縮機の連接棒小端部軸受,ロークリ圧縮機のベーン
とピストン間および両者に共通のジャーナル軸受部の三つのしゅう動部を対象と
した.そのしゅう動条件については第3章から第5章で詳述するが,ここではお
おまかなしゅう動条件の違いについて説明する.なおそれぞれのしゅう動部の概
要を図2.3に示す.
まず連接棒小端部軸受は,図2.3(a)に示すようにピストンピンとすべり軸受を
形成し,方向が常に連接棒の中心線方向であり大きさが正,負に変動する動荷重
14
Connecting rod
Piston pln
(a) 往復圧縮機の連接棒小端部
(b) ロータリ圧縮機のベーンとピストン部
Bearing
Shaft
(C) ジャーナル軸受部
図2.3 しゅう動部の概要
一 15 −
が作用する上にピストンピンが揺動運動を行う・従ってすべり速度がゼロとなる
しゅう動状態が発生することから,厳しい潤滑状態にあると考えられる・
またロークリ圧縮機のベーンとピストン間のしゅう動部は図2・3(b)に示すよう
に外接的な線接触状態にあり,小端部軸受やジャーナル軸受のような内接的接触
状態のしゅう動部以上に潤滑状態は厳しく,弾性変形の考慮が必要なEHL領域
の潤滑状態にあると考えられる.荷重は朝一回転中で変動するものの常に一定方
向に作用し,しゅう動速さおよび方向はピストンの挙動と関連して変化する・
圧縮機のジャーナル軸受は図2.3(C)に示すように,しゅう動速度の変動は小さ
いがほぼ一定方向に動荷重が作用するしゅう動条件にある.一般的に潤滑油膜の
形成は他のしゅう動部に比較して容易であるが,圧縮機では効率向上の観点から
軸径を細く軸受幅を短くする設計が成されており,運転条件にもよるが境界潤滑
状態での使用も多い.
以上の三つの異なるしゅう動条件にあるしゅう動部について以下の各章におい
て潤滑状態を検討していく.
2.2.2 冷媒と冷凍機油の組み合わせ
本研究では,2.2.1項に示すそれぞれのしゅう動部について冷媒と冷凍機池の
組み合わせによる潤滑特性の差について比較する.冷媒と冷凍機池の組み合わせ,
ならびにそれぞれの組み合わせにおける特性の概要を表2.3に示す.なお,同じ
冷媒と冷凍機池の組み合わせでも使用する冷凍機池の粘度は適用する圧縮方式に
よって異なるため,性状等の詳細はそれぞれの章で述べる.
表2−3に示すようにHFC−134a冷媒では,ポリオールエステル油とアルキルベン
ゼン池が用いられるが,どちらの組み合わせもCFC−12冷媒と鉱油の組み合わせが
有する良好な溶解性と加水分解安定性を兼ね備えてはいない.特に冷媒と冷凍機
油の溶解性は潤滑特性に影響する可能性があり,そのためにHFC−134a冷媒では,
溶解性の異なる上記二種類の組み合わせで潤滑特性の比較を行った・
− 16 −
表2.3 冷媒と冷凍機池の組み合わせと特性の概要
Rehigeration oil
C FC −12
H FC−134a
Ref
r igera
n t
Polyol
叫 l
ester od
benzene oil
M h em l oil
Solubil吋
G ood
Poor
Good
H ydrolysis
Poor
Good
G ood
17 −
第3章 連接棒小端部軸受の潤滑特性
3.1 緒言
冷蔵庫用往復圧縮機の連接棒小端部軸受は,動荷重が作用する上に揺動運動を
行っているために非常に厳しい潤滑状態にあると考えられるが,この軸受に関す
る研究は今までに見受けられない.またこの往復圧縮機に基本構造が類似した往
復動エンジンの分野においては,1961年に和栗ら(1)が圧縮機の連接棒小端部軸
受に近いしゅう動状態にある二サイクル機関のクロスヘッドピン軸受の摩擦係数
を理論的,実験的に研究し,それ以降も各種理論計算方法の比較研究(2)や,軸
受負荷能力の改善の研究(3)等を行っている.さらに最近になって,林ら(4)は内
燃機関のフローティング形ピストンピンを有する連接棒小端部軸受を対象として
有限幅軸受理論に基づく レイノルズ方程式を提示している.しかしこれらの研究
では,潤滑特性として最も重要な油膜形成状態については理論解析が主体であり,
実験的に評価したものはない.
本研究では,冷蔵庫用往復圧縮機における連接棒小端部軸受の潤滑状態を電気
抵抗法を用いて実験的に明らかにするために,まず圧縮機のいろいろな運転条件
下での潤滑状態の違いや,代替冷媒であるHFC−134aとエステル油の組み合わせお
よび従来冷媒のCFC−12と鉱油の組み合わせにおける潤滑状態の差を調べる.
つぎに,連接棒小端部の揺動運動を行う軸受をモデル化した要素実験により
しゅう動状態の解明を試みる.さらに揺動連動下にある軸受の挙動を潤滑理論に
基づき理論的に解析し,実機運転中の挙動測定結果や要素実験結果との比較検討
を行う.
3.2 理論解析
本研究において理論計算および実験の対象とした冷蔵庫用往復圧縮機の断面図,
諸元はそれぞれ第2章の図2.1,表2.1に示したとおりである.
18 −
3.2.1 しゅう動条件
往復圧縮機のピストンピンにピストンから作用する荷重としては,図3.1に示
すように,ピストン中心線方向(Ⅹ方向)にはガス圧縮荷重F g,ピストンとシ
リンダ間の摩擦力F F,ピストンおよびピストンピンの質量M。による慣性力,ま
た垂直方向(y方向)にはピストンとシリンダ間の側面荷重F。Sがあげられる.
一方ピストンピンにはこれらの荷重にバランスする荷重として連接棒小端部軸受
から荷重F。(そのⅩ方向成分をF。X,y方向成分をF。yとする)が作用する.
さらに連接棒はピストンピンからの荷重IT。と慣性力に起凶するモーメ ントを受
ける.このピストンピンに作用する荷電のつり合いおよび連接棒に作用するモー
メ ントのつり合いより荷重F。のⅩ方向成分およびy方向成分は次式で与えられ
る.
F。X=Fg−Ff+M。Ⅹ
(3.1)
Fcy=F。S=Fcxtanβ+(M。ab−Ⅰ(‥)β/(且COSβ)
(3.2)
ここにXはピストン変位,βは連接棒の回転角,1。は連接棒の慣性モーメン
ト,a,bは連接棒の重心とそれぞれ小端部中心間ならびに大端部中心間の距離,
且は連接棒の小端部軸受と人端部軸受の中心聞距離である.
また連接棒小端部軸受内周面に対するピストンピンの相対回転角速度山。。とす
図3.1 ピストンピンに作用する荷重
19
ペり速度Uは,図3.1中で時計方向を正とすると次式で与えられる・
伽。P=一山jCOSβ。/
1−j2sin2β。
(3.3)
(3.4)
U=D・伽p。/2
ここに山はクランク軸回転角速度,久はクランク偏心量をRとするとR/且で
表されるクランク連接棒比,β。はクランク軸回転角である・
3.2.2 軸受特性
連接棒小端部での油膜形成状態の解析は,ピストンピンを軸に,連接棒小端部
を軸受に置き換え,以下のジャーナル軸受解析を適用して行う.図3・2に,静止
している軸受内で,軸が角速度山川で回転しかつ荷重Fdの方向¢が角速度hJfで
変化しながら大きさも変化するジャーナル軸受を示す.本研究では,通常の軸受
解析にならい軸受たる連接棒小端部の中心線上に荷重の作用方向¢の基準(¢=
0)をとり,さらに最大油膜厚さ位置を軸受角度座標βの基準(β=0)とする・
また荷重作用方向から最小油膜厚さ位置(∂=方rad)までの角度を偏心角¢と
し,軸受内での軸中心の偏心量をeとする.作動流体は非圧縮性で密度変化が無
く,かつ粘度も一定と仮定するとReynolds の基礎方程式は次式で表される(5)
図3.2 動荷重が作用するジャーナル軸受
ー 20 −
意〔こ3‡汁r2卦3号〕=6〟〔忘廿ewosine+2音coso)(3・5)
ただし (=1十gcosβ
α0=恥p−2仙f−2票
ここにyは軸方向の座標であり,
棒小端部軸受の半径と半径すきま,
またpは油膜圧力,rと△rはそれぞれ連接
〃は油の粘度,己は偏心率,¢は偏心角,t
は時間である.
本研究で検討した連接棒小端部軸受は,軸受長さLと軸受内径Dの比率(L/D)
が0.88であり,1に比べて小さいことから無限小幅軸受の仮定を適用して簡略化
し,また境界条件としてG拍belの条件(5)を用いて油膜圧力pの解を求めること
ができる.こうして得られた圧力分布と荷重F。のつり合いより次式が成り立つ.
p rcosedO+F。COS¢=0
(3.6)
p rsinedepFdSin¢=0
(3.7)
ここに∂1とβ2は油膜が形成される範囲(∂l<∂2)である.
式(3.6),(3.7)より,偏心率とおよび偏心角¢に関する以下の連立微分方程式
が得られる.
d
e
Fd
d t 〝rL
8(1−g2)5/2
汀2+2(汀2−8)∈2
オCOS¢ ̄
(1−g2)1/2
(3.8)
d¢ α。。−2也Jf
d t 2
2 8(1−g2)2
Fd
2/Jr L
2(8一打2)£3−万2g
−28COS¢+
汀(1+2g2)
2(1−g2)1/2 sin¢)
ー 21 −
(3.9)
式(3.8),(3・9)を時間tに対して数値積分すると,eおよび¢の周期的変化す
なわち軸中心Osの軸受内での連動軌跡を求めることができる.実際の計算では,
圧縮機の主軸一回転を180分割してルンゲ・クック法で解き,その主軸の回転角
度の0と2万radで偏心率の差が10 ̄5以下,かつ偏心角の差が2×10 ̄5以下を収束
条件とした.
3.3 実験方法
3.3.1 圧縮機での実験
連接棒の小端部軸受は,動荷重が作用する上に揺動運動を行っていることから,
金属接触を伴う厳しい潤滑状態となっている可能性がある.金属接触するしゅう
動部位については,電気抵抗法でその金属接触状態を評価するのかポンプやエン
ジンの分野では一般的である(6)・(7).従って本研究においても以下に示す電気
抵抗法によって潤滑状態を評価した.
a.電気抵抗法
電気抵抗法はしゅう動面間の接触状態を電気抵抗の変化としてとらえるもので
ある・本研究では図3.3および図3.4に示すように,連接棒の小端部軸受面に電極
を埋設し,ピストンピンとの間の電気抵抗を測定することにした.軸受しゅう動
面での接触部位を明確にするために,連接棒の中心線に対して,±330 の角度で
図2・1に示す圧縮機の下側(オイル側)に電極Cl,C2,C3を,上側(モータ側)
に電極C4,C5,C6を埋設した.電極はポリエステル被覆銅線(直径¢0.9mm)
A
Motor
Side side
G ro u n d
3●
C3 ,
C6
C2 上
皇=
l tE盲
3■
l
、
cl ,
C4
LL
図3.3 電気抵抗法の電極配置
一一 22・−
を用い,電極を電気絶縁性の接着剤にて小端部軸受に固定した後で小端部軸受内
周面の仕上げ加工を行った・また揺動運動を行う連接棒に固定された鋼線電極か
ら断線等の不具合無しに確実に信号を取り出すために・電極鋼線に鋼線(直径
¢OJmm)をかしめ接続し,テフロン製のチューブで被覆した上で密閉ケーシン
グのリード線引き出し端子に接続した・そして,それぞれのリード線および連接
棒に接続したアース線を図3・5に示すような二つの抵抗Rl,R2と直流電源電圧
V。で構成される電気回路に接続した・なお抵抗Rl,R2はともに100日・直流電
図3.4 実験に用いた連接棒の外観
図3.5 電気抵抗法の電気回路
一 23 −
3
[A]品dゴOA
0
100 101102 103 104105
Contact resistanCe[0]
図3.6 抵抗と電極電圧の関係
源電圧V。は5Vである.この計測回路において,電極とピストンピン部を基準抵
抗に置き換えてその抵抗値を変えながら電圧Vとの関係を調べたところ図3・6の
特性となった.抵抗が1日から1000日の間は電圧Vはその抵抗値に合わせて0Vか
ら2.5Vまで値を変えるが,抵抗が約1000日を越えると電圧Vは抵抗値の大きさ
に関係なく直流電源電圧V。の1/2の2.5Vでほぼ安定することがわかる.実際の
小端部軸受では電極とピストンピンが完全に接触する場合は抵抗が零,逆に完全
に離れる場合には無限大となるが,電極とピストンピンの接触状態が中間的な場
合には中間的な電圧を示し,電極部の電圧によって定性的な接触状態が評価でき
る.
なお,この電気抵抗法にて金属接触状態を評価する場合,実際は電極の埋設状
態にわずかに差があるために感度にも差が生じる.従って,Cl∼C6の異なる電
極間において,出力電圧値の直接的な比較により接触状態の違いを論じることは
できないが,個々の電極においては運転条件の違いによる出力電圧の変化によっ
て接触状態の差を比較することができる.
b.特性計測方法と実験条件
図2.1に示す構造の実験用圧縮機には,連接棒の小端部への電極の埋設に加え
て,軸の回転角度を検出する渦電流型変位計とシリンダ内の圧力を検出する水晶
式圧電形圧力センサを組み込んだ.そしてこれらの出力電圧は全てデータレコー
ー 24 −
ダにより同時計測しコンピュータに取り込んだ上で,連接棒の小端部の接触状態
の評価や圧縮室内の圧力変動による連接棒小端部に作用する荷重の評価を行った・
なお,シリンダ内の圧力を計測する圧電形圧力センサは圧力変動の計測はできる
が絶対圧力の計測ができない.そのためにブルドン管圧力計を使ってシリンダに
固定されているシリンダヘッド内の吸込み圧力を計測しておき,圧電形圧力セン
サの出力電圧変動の中で吸込み弁が閉止する直前での電圧値がブルドン管圧力計
の計測圧力に相当するとして全ての軸回転角度のシリンダ内の圧力を求めた.ま
た,密閉ケーシングの下部に蓄えられている冷凍機池の粘度と温度は,密閉ケー
シング下部にプラグ粘度センサとC−C熟電対を組み込んで計測した.
代替冷媒であるHFC−134aと従来冷媒であるCFC,12について,それぞれの冷媒と
冷凍機池の組み合わせによる連接棒小端部軸受の潤滑特性差を明確にするために,
表3.1に示す冷媒と冷凍機池との組み合わせで測定を行った.
実験では圧縮機をカロリーメータ装置に接続し,所定の運転条件に安定させて
測定を行った.運転条件としては油膜形成に対する荷重,粘度,すべり速度の影
響を評価するために,表3.2に示すように蒸発温度(−34.4∼−23.3℃)および
凝縮温度(40∼60℃),池温(73∼91℃),駆動電源周波数(40∼70Hz)を変え
て実験した.なお表3.2を含めて本論文中の圧力の表示は全て絶対圧力である.
実験に用いた圧縮機は2極誘導電動機を備えており,回転数は電源周波数より約
2%程度低い値である.また,後述する圧縮機の標準運転条件とは,蒸発温度は
−30℃,凝縮温度は40℃,冷凍機油温度は80℃,電源周波数は60Hzの条件である.
3.3.2 軸受要素実験
図3.7に本研究で使用した揺動運動を行うジャーナル軸受の軸受挙動を測定す
表3.1 冷媒と冷凍機池の組み合わせ
R eBigerant
T ype
H FC −134a
E ster oil
CFC −12
M ineraloil
− 25・−
O il
K inem atic v
i scosity
lm m ㌢s at40℃】
22
30
表3.2 カロリーメータ装置での実験条件
R eB ige rant
H F C −13 4a
C F C −12
E vap orating tem pe ratur e l℃ ] −34 .
4 − −2 3 .
3 −34 .
4 − −23 .
3
匹v ap o ratin g pre ssur e [
k P a]
) (6 9 ∼ 115 ) (8 3 ∼ 13 3 )
C on d en sin g te m p eratu re 【
℃]
40 ∼ 60
40 一
一60
(
C on d e n sin g pressur e [
k P a】
) (
10 15 ∼ 168 1) (
9 59 ∼ 152 1)
O il tem p eratur e 【℃ ]
F re qu en cy of p ow e r sour Ce [
H z]
73 − 9 1
73 ∼ 9 1
40 一
一70
40 − 70
るための実験装置の概略を示す.これは往復圧縮機の連接棒小端部での揺動運動
を模擬したものであり,支持台に保持された供試軸4は,クランク2およびスラ
イダリンク3により駆動され揺動運動を行う.揺動角度範囲は実機の連接棒小端
部の揺動角度(片振幅βmax=13.90)と同じになるように設定した.供試軸受
としては,装置の剛性と測定精度上の理由から往復圧縮機連接棒の大端部軸受を
流用して用いるとともに,軸はピストンピンと同じ材質,同じ仕上げ状態に加工
して用いた.軸受負荷としてほおもりによる静荷重を負荷した.なお供試軸4を
連続的に回転運動させて比較のための実験を行う場合にはモータ駆動軸と軸4と
を直結した.
1 6
3 N 2
5
6
6
l
l
F
/
1:蘭otor 2:Crank 3:Link 4:Shaft 5:Bearing 6:Gap sensor
図3.7 要素実験装置の概要
ー 26
実験では,供試軸受の下部と側部の二ヶ所に固定した渦電流形の微小変位計に
ょり供試軸面との距離を計測し,軸の停止時の変位出力を基準にして,揺動もし
くは回転時における軸面位置の移動量を検出した・またモータ駆動軸に対して回
転タイミング測定用の渦電流形変位計を設置し,揺動あるいは回転時の供試軸の
角度位置を検出した・潤滑油は,まず測定前に軸受面に十分に塗布しておき,さ
らに測定中に連接棒中心を通る給油穴から供試軸受下側へ圧力ヘッド30cmで供給
するとともに軸受側部にも滴下した.潤滑油としては,鉱油系の冷凍機池
(SUNISOIGS,粘度11mPa・S at40℃)を使用した.なお,潤滑油をはじめ軸受
部の温度があまり上昇しないように,各条件での測定は短時間で行うようにした・
この実験に用いた軸受(大端部軸受)の寸法は,軸径19mm,軸受幅12m恥 軸受
直径すきま15〝mおよび25/Jmであり,荷重は20∼100N,軸の揺動および回転の周
波数は30Hz,60Hzである.
3.4 結果と考察
3.4.1 しゅう動条件の解析結果
連接棒の小端部軸受の潤滑状態を評価する上で,実際の圧縮機運転状態におけ
る軸受荷重やすべり速度等のしゅう動条件を把握しておく必要がある.そこで
HFC−134a冷媒を用いて標準運転条件で圧縮機を運転した場合の荷重やすべり速度
を以下に示す.図3.8はシリンダ内の圧力変動の計測結果である.なお圧力は絶
対圧力での表示である.このシリンダ内圧力と密閉ケーシング内の圧力(吸込み
圧力)の圧力差からピストンに作用するガス圧縮荷重を計算し,式(3.1)∼(3.2)
により連接棒の小端部軸受の荷重を求めた結果を図3.9に示す.なお荷重の算出
においてピストンとシリンダ間の摩擦係数は0.15と仮定して計算している.
軸受のⅩ方向荷重F。Xについてみると,シリンダ内ガスの再膨脹終了後から軸
回転角度が約万/2 rad まではピストンの慣性力および摩擦力の影響で荷重は負,
すなわちピストンが小端部から引き離されるように作用する.そして方/2 rad
を過ぎると荷重は正,すなわちピストンが小端部に押し付けられるようになり,
3万/2 rad まではほぼ一定荷重で推移した後,それを過ぎるとシリンダ内の圧力
の上昇に伴い急激に増加する特性を持っている.
一方軸受のy方向荷重F。,は,Ⅹ方向荷重F。Xに比べて小さく,シリンダ内の
− 27 −
l0
6
・・
[♪出≧]UhコSS巴d
8
方 2万
Shaftangle【rad]
図3.8 シリンク中内圧力変動計測結果
粥Uh
[邑むUJOh
hUh
方 2方
Shaftangle[rad]
図3.9 連接棒小端部とヒ0ストンヒ0ン間の荷重
0.
[で己]倉U01だぎ焉lU銘
Shaftangle[rad】
図3.10 ヒ0ストンヒ0ンのすべり速度
一・28 −
圧力が上昇し始める3方/2radを過ぎたところでわずかに増加する特性である.
なおこれらの荷重は,圧縮機の吐出し圧力の上昇および吸込み圧力の低下によ
って増加する.しかし,ピストンや連接棒の質量が小さいために圧縮機回転数の
影響は小さい・
次に60Hz運転時の小端部軸受内周におけるピストンピンのすべり速度の変化を
図3.10に示す.すべり速度は,7T/2 rad と37T/2 rad でその方向が変化するい
わゆる揺動運動となる.このすべり速度は,最高でも,同じ駆動周波数でピスト
ンピンが連続回転すると仮定したときの速度の約1/4であり,速度としては遅い.
なおこの速度は,圧縮機回転数に比例して変化する.
3.4.2 圧縮機での特性
a.標準条件の特性
HFC−134aとエステル池の組み合わせにおける,標準運転条件で圧縮機を運転し
た場合の連接棒小端部の電極電圧の測定結果を図3.11に示す.横軸は軸回転角度,
縦軸は電圧であり,約2.5Vが非接触状態を示し,それより電圧が低くなるにつれ
[A] 亀dゴOA
[A] 亀雲lOA
l
l
E le ct r od e C3 …−
・
−
・
・
・
E le ct r o de C4 ・
・
・
・
−
…
E lec t r od e C5 ・
・
・
−
・
・
・
−
E le ct r od e C6 ・
−
…−
−
−
0 汀 2万
0 汀 2汀
Shaft angle[rad]
Shaft angle[rad]
図3.11 電極電圧特性
(HFC−134a,60Hz,Pe=85kPa,Pc=1015kPa,抽温度 80℃)
ー 29 −
て軸受金属面が接触状態に移行していくことを意味している.
図3.11に示した標準条件においては,電極C2だけが電圧低下すなわち金属接
触する特性を示している・金属接触信号の発生は,運転条件だけでなく,軸の傾
き,連接棒の変形,小端部軸受の真円度,円筒度等の加工精度,組立状態,電極
の埋設状態等の影響を受けるために,必ずしも電極C2周辺だけが厳しい接触状
態にあるとは言えない.しかし少なくとも,標準条件においても金属接触の発生
しうる厳しい潤滑状態にあると判断できる.なおC4からC6の電極は,その他の
運転条件においてもほとんど接触信号を出さなかったので.以降の結果の図では
表示を省略する.
ところで図3.11において電極C2は,軸回転角度が7Trad 付近および27Trad 直
前付近の位置で電圧低下すなわち金属接触する特性であるが,2万radの直前位置
での電圧低下は,図3.9に示したように負荷荷重が増加することが原因である.
しかし,方rad位置において油膜厚さが薄くなることは,荷重が小さくすべり速
度も比較的速い軸角度であることから,静的な油膜形成理論からは考えにくい傾
向である.試みに方radにおける荷重,速度ならびに密閉ケーシング下部に蓄え
られた池の実測した粘度を用いてゾンマーフェルト数を計算してみると約0.4と
なる.日本機械学会資料集の真円軸受の流体潤滑特性結果(レイノルズの境界潤
滑条件下での理論計算結果)(8)を参照すると,このゾンマーフェルト数での偏
心率は約0.4となり,金属接触による電圧低下が発生するとは考えにくい.以上
のように揺動軸受の特性を回転軸受の軸受特性からだけで説明することは難しく,
従って要素実験と理論解析による揺動軸受特性の解明が必要となる.この結果に
ついては後述する.
b.運転圧力変化時の特性
吸込み,吐出し圧力条件を変えたときの電極電圧Cl∼C8の電圧特性を図3.12
(a),(b)に示す.吐出し圧力P。が高いほど,また図3.11との比較において吸込み
圧力P eが低いほど電極電圧の低下が見られ,金属接触が発生しやすくなってい
る.これは,吐出し圧力の上昇や吸込み圧力すなわち密閉ケーシング内圧力の低
下により,ピストンに作用するガス圧縮荷重が増加し,連接棒小端部軸受に作用
する荷重が増加することが原因である.特に吐出し圧力が高い(b)の条件では,
一 30 −
E lec t r od e C3 −
−
−
−
−
…
3 0 3 0 3
[A] 亀dゴOA
[A] 亀dゴOA
E lectrode Cl ‥”−
−
−
l
・
E le c t r o d e C l ・
・
−
”−
−
・
l
l
l
l
lectrode C3−
−
……
0 汀 2汀
0 汀 2汀
Shaft angle[rad]
Shaft angle[rad]
(a)Pe=69kPa,Pc=1015kPa
(b)Pe=69kPa,Pc=1681kPa
図3.12 電極電圧特性 (HFC−134a)
電極C2で電圧の低下量と低下幅が大きくなり金属接触が厳しくなる上に,電極
C3にも電圧低下がみられるほどの厳しい混合潤滑状態となっている.
C.圧縮機回転数変化時の特性
圧縮機運転電源周波数を変化させ,圧縮機の回転数を変化させたときの電極電
圧の変化特性を図3.13の(a)∼(C)に示す.電源周波数が70Hzにおいては全く電極
電圧の低下がみられないが,運転周波数の低下とともに電圧低下領域が増加し,
接触も発生しやすくなっていることがわかる.このことは連接棒の小端部軸受の
油膜形成が,連接棒小端部とピストンピン間のすべり速度に依存していることを
示している.
d.冷凍機油温度変化時の特性
冷凍機油の粘度の影響を評価するために,冷凍機池の温度を変化させたときの
電極電圧の変化特性を図3.14(a),(b)に示す.同じ圧力,電源周波数条件である
図3.11を含めて比較すると,冷凍機池の温度が73℃[図3.14(a),冷媒溶解時の
・ 31 −・
[pdJ]
kN
・ Nm
I
︵タ岩岳〓〓‖OL.dd岩∞=岩.空〓〓・UhH︶
強襲出陣螢圃Q皆だ触裔髄直撃貨出 雲.竺区
ZHO宍q︶
Z喜卜︵U︶
[p巴]むlぎd Ju眉S
むtぎd一馬占S
kN
k
⊂)の ⊂)の
k
[A]a知110A
⊂)の ⊂)の
[A]a馳110A
N出等︵d︶
[p巴]むlぎ由一葛占S
k N
k
⊂)の ⊂) つ
[A]∂馳110A
[A]
E lectrode Cl”−
”
−
・
島内ゴOA
[A] 亀dゴOA
E le ct r o d e C l ‥
い一
・
−
−
E lectrod e C2 ・
・
−
…‥
E lec t ro de C3 ・
…−
・
・
−
・
0 汀 2汀
0 汀 2万
Shaft angle[rad]
Shaft angle[rad]
(b)91℃
(a)73℃
図3.14 冷凍機抽温度変化時の電極電圧特性
(HFC,134a,60Hz,Pe二85kPa,Pc=1015kPa)
冷凍機池粘度 6.7 mPa・S]ではほとんど接触はないが,温度が80℃[図3.11,
粘度 5.5 mPa・S]まで上昇すると電圧低下すなわち金属接触する.しかしそれ
以上に上昇して,91℃[図3.14(b),粘度 4.5 mPa・S]になっても接触状態に大
きな変化がみられない.すなわち,冷凍機油の温度がある限界以上に高くなり粘
度が低くなると,負荷に耐えきれなくて金属接触が発生しやすくなる.
e.冷媒と冷凍機油の組み合わせによる特性
従来冷媒であるCFC−12と鉱油の組み合わせにおける標準状態での電極電圧の特
性を図3.15に示す.代替冷媒であるHFC−134aとエステル油の組み合わせの場合の
図3.11の特性と比較すると,電極電圧の低下の様子には特に大きな差はみられな
い.従って,代替冷媒であるHFC−134aとエステル池の組み合わせでも,従来冷媒
であるCFC−12と鉱油の組み合わせと同等の潤滑特性を有していると考えられる.
他の運転条件においても,両者の冷媒の間ではおよそ類似した電圧の変化傾向
がみられ,同等の油膜形成状態にあるものと判断できた.
− 33 −
[A] 亀dゴOA
E lec t r od e C l・
−
”−
・
−
・
l
l
l
l
l
0 汀 2汀
Shaft angle[rad]
図3.15 CFC−12での電極電圧特性
(60Hz,Pe=100kPa,Pc=959kPa,T=80℃)
f.接触率特性
以上のように連接棒の小端部軸受における金属接触状態は,冷凍機油温度が高
いと起こる傾向にあり,冷凍機池温度が同じであれば荷重の増加,すべり速度の
低下によって金属接触が増加する傾向となる.この特性を電気抵抗法により定量
的に評価する場合,電圧を二値化処理して接触している時間の割合を接触率とす
る方法く7)や,低下電圧の時間積分値の割合を金属接触率とする方法く9)がある.
本論文では,後者の方法を採用した.すなわち金属接触の厳しさを中間電位によ
って反映させて接触状態を比較評価できるように,図3.16に示す斜線部面積を積
分して,軸一回転中の面積(A x B)に対する比率を求め,Cl∼C6の全電極に
おける平均値をその運転条件における接触率とした.なお接触は小端部軸受のす
べり速度Uの低下および荷重F。(= F。X2+F。y2)の増加によって起きやすくな
ることを考慮に入れて,U/F。の値(ただしUは最高すべり速度,F。は最大荷
重とする)と接触率との関係を以下に考察する.
HFC−134aとエステル池の組み合わせにおいて,冷凍機池の温度が一定で,圧力
条件と電源周波数を変化させたときの接触率とU/F。の比率の関係を図3.17に
ー 34 −
A
Shaftangle[rad]
図3.16 接触率の概念
0
03虚し︼Od︼dOU
0.2 0.4 0.6 0.8 1
Ratio of U/Fc L]
図3.17 接触率特性(HFC−134a)
0
03dh JUd中日OU
0.2 0.4 0.6 0.8 1
Ratio of U/Fc L]
図3.18 接触率特性(CFC−12)
− 35 −
一一′
示す.なお横軸は標準運転条件時におけるU/Fcの値で無次元化してある・接
触率とU/Fcの関係は,図中に回帰線を示すように・片対数グラフ上で回帰分
析を行った場合に相関係数が0・82と相関性が高く,U/Fcの減少に伴い増加す
る傾向を示す.また接触率は,標準的な運転条件では約1%,U/Fcの小さい運
転条件では約8%にもなり,金属接触が発生する厳しい混合潤滑状態にあること
が分かる.
次にCFC−12と鉱油の組み合わせでのU/Fcと接触率の関係を図3・18に示す・
ただし,横軸は比較を容易にするために,HFC−134aの標準条件時における
U/F。の値で無次元化してある.この場合も相関係数は0.79となり,接触率と
U/F。の相関性は高い.HFC−134aとエステル油の組み合わせの場合と比較して,
わずかに傾きが小さいものの,全体的には同一の傾向にあり,両者の組み合わせ
に関して金属接触の発生状態に基本的な差のないことが明らかとなった.従来,
CFC−12冷媒を使う場合に比較して,HFC−134a冷媒を使う場合にしゅう動材料の摩
耗が多いとの報告が多くみられる(10)′(11)がその原因は,圧縮機運転時の潤滑
状態の差ではなく,冷媒自体の潤滑摩耗特性の差によるものであると確認される.
3.4.3 軸受要素実験と解析結果の比較
圧縮機での連接棒小端部軸受の潤滑状態を電気抵抗法で計測したところ,
3.4.2項で述べたように,荷重が小さくすべり速度も比較的速い軸角度で電圧低
下すなわち金属接触するという回転軸受特性からは説明しにくい特性が得られた.
従って回転軸受と揺動軸受の軸受特性差を明らかにする必要があり,図3.7に示
した実験装置を用いた軸受要素実験と理論解析による検討を行った・
a.回転軸の場合
図3.19に軸受直径すきま25〟m,静荷重98.1N,回転周波数6川Zの回転軸(図3.7
の軸正面図にて時計方向回転)の場合における側部変位計および下部変位計の出
力電圧,ならびに回転マーカ出力電圧の時間変化を示す.縦軸の変位計電圧Eは
0.2Vが30〟mの軸面変位に相当しており,電圧の低下が変位計と軸面の接近を表し
ている.また,回転マーカ出力の下側へのピークが軸の回転角度基準位置(β。
=Orad)を表している.なお,これらの図中には軸の非回転時(OHz)の変位計
36
出力レベルも示されているが・これは軸が回転マーカ位置(βC=Orad)で停止
しているときの出力レベルである・
さて,図3.19の出力波形に注目すると,両変位計出力電圧ともに軸一回転中に
少なからぬ変動がみられるが,これは軸の回転真円度や軸の材料むらの影響が大
きいからであると推察している.これらの影響を確認するために,軸と変位計の
距離を一定にして軸を100 毎に順次回転,停止させながら出力電圧レベルを計測
し,その電圧変動から図3.19の波形を補正した結果を図3.20に示す.図3.20から
回転中の実質的な変位変動はみかけの出力変動に比べてずっと小さく,軸回転時
と停止時の変位は,下部変位計で11.6〟mの接近,側部変位計で4.8〟mの離反に相
当していることがわかる.これらの値は,軸停止時の軸心位置(偏心率と=1,
偏心角¢=00)から回転時にはど=0.39,¢=790 の位置に移動することを表
している.
60 Hz
βC=0
O H z
ト
←− 10m S−→
(b)下面側
(a) 側面側
図3.19 変位計の出力電圧(回転軸)
汀 2汀
0 汀 2汀
Shaft angle[rad]
Shaft angle[rad]
(b)下面側
(a) 側面側
図3.20 補正後の変位計出力(回転軸)
一一 37 −
40
30
「 う
【
∈
∈
三20
ヱ30
.占
.亡
4〉
510
妻20
◆■
∽
芸
芸
10
0 20 40 60
0perating frequency N【az]
0 20 40 60
伽erating fm和uenqr N[ぬ]
(a) 側面側
(b)下面側
図3.21 軸までの距離(回転軸)
一方,同様の軸受荷重条件にて無限小幅軸受理論に基づいて計算された軸心位
置は,e=0.25,¢=720 であった.これは上記の測定された軸心位置に対して
1.8〟mという小さな差異に相当している.
図3.21に,回転軸の場合の軸駆動周波数と軸心位置との関係を,軸受荷重F d
をパラメータとして示す.ただし,同図の縦軸は軸受の下側および側面変位計位
置における軸受面と軸面の距離hを示したものであり、測定値は軸停止時に荷重
方向で軸頂部が軸受と接触しているものと仮定して出力電圧の変化分からその位
置をプロットしてある.図3.21では,軸の回転数増加とともに軸受下側位置での
軸との距離が減少し軸上側に油膜が形成されている様子が,実験,計算ともに良
く一致した傾向でみられる.なおこの傾向は,軸受すきまが図3.21の場合(25〟m)
よりも小さい15〟mの場合にも同様であった.以上の結果より,本実験条件におけ
る軸挙動の測定方法がおおむね妥当であることが確認される.
b.揺動軸の場合
図3.22に軸受直径すきま25〟m,静荷重98.lN,揺動周波数60Hzの揺動軸の場合
における側部および下部の変位計の出力電圧の時間変化を示す.同図の構成は図
3.19の場合と同様であるが,回転マーカ信号における下側ピークは図3.7の揺動
軸の反時計方向への最大角度揺動時刻(β=−βmax=−13.90)を表している.
また軸の非揺動時(OHz)の変位計電圧は軸を最大揺動角度位置(β=−βmaX)
ー 38 −
に停止しているときの電圧レベルを示している・
図3.22(b)の下部変位計の揺動時(60Hz)の電圧出力はほとんど一定であり,
しかも停止時(OHz)のレベルと大差がない.一方,図3.22(a)の側部変位計の揺
動出力電圧は停止時電圧レベルの上下におよそ正弦波状の変化をしている・本実
験での揺動角度範囲は280 以下であり,材料むらや回転真円度による出力への影
響の比較的小さな角度範囲において測定を行っているので,図3.22の場合のそれ
ぞれの変位計電圧のレベル差をそのまま軸面の位置変化に換算すると,揺動中の
軸心の偏心率はほとんど1のままであり,偏心角のみが±60 の範囲で変化して
いることになる.
一方,同様の軸揺動条件で軸受挙動を理論的に計算した結果を図3.23に示す.
なお計算においては,図3.2に示したように,軸が軸受に対して相対的に時計方
向に運動する場合を正方向回転とし,偏心角は連接棒中心線に対して時計方向を
正,反時計方向を負とした.図3.23において偏心率は0.996近傍で軸の一回転中
6 0
V  ̄、} ̄【 ̄\}′
Hz
_.
_._
一
l・
、
▲
〉
 ̄
’
【
▼
▼
ヽ
′
▼
O H z
(b)下面側
(a)側面側
図3.22 変位計の出力電圧(揺動軸)
120は
//
−′l膚ル
hJ芯叫J盲80国
[p巴] や むlぎ虚名きコ雲
O
T] u O叫一句﹂
一β皿aX O β皿aX O
0 −β皿aX O β皿aX O
STing angle
STing angle
(b)偏心角
(a)偏心率
図3.23 軸受特性(揺動軸)
− 39 一
にほとんど変化せず,また偏心角は,軸の揺動角度範囲(±βmax=±13.90)
の約1/2の大きさの±6.90 の角度範囲で変化する結果が得られ,全体的傾向は実
験結果の傾向と同様であった.
図3.23に示された偏心率と偏心角の変化を極座標で表すと図3.24のようになる.
すなわち,偏心率はほとんど1であり,軸の揺動角度βの変化に応じて偏心角が
△→○→△→□→△の順に左右に変化している.
次に軸の揺動回転方向と軸偏心角の偏心方向との関係を考察する.図3.25に軸
受に対する軸の相対角速度を示すが,図3.23と図3.25を比較してみると,偏心角
は軸の揺動角速度に対して方/2rad位相がずれている.軸が揺動角−βmaxの位置
図3.24 軸心軌跡(揺動軸)
紺02
0。
[S\p巴]dざト︼芯○芯卜岳l島ヨぎコ︳芯叫
0 −β皿aX O β皿aX O
SYing angle
図3.25 軸と軸受の相対角速度(揺動軸)
− 40 −
40
1 1
∈
ヱ30
.亡
妻20
芸
10
0 20 40 60
0peratingfreqtJenCy Nlaz]
図3.26 軸までの距離(揺動軸)
から正方向に回転していく場合,この時の偏心角は負であるために,軸の回転に
よって油膜圧力が発生しても軸は荷重によって反油膜圧力側に移動させられるだ
けであり,その油膜圧力によって軸が軸受面から浮き上がることはない.また,
軸が揺動角βmaxの位置から逆方向に回転していく場合には,まったく逆の状態
となる.その結果,軸は軸受面に沿って滑るように移動して油膜の形成は困難な
状況となる.
図3.26には,上記の揺動軸受に対して,揺動周波数Nと軸受下側変位計位置で
の軸受すきまhとの関係を荷重F。をパラメータとして示す.軸の揺動周波数や
荷重の大小にかかわらず,軸受すきまは停止時(N=0)のときとほぼ等しい一定
のままであり,軸は絶えず軸受と接している傾向となっており,計算結果でもま
ったく同様である.また軸受すきまが図3.26の場合(25〝m)に比べて小さな場
合においても同様の結果であった.
以上のように揺動軸受では,基本的に軸が荷重点付近の軸受面に沿って揺動運
動し,油膜の形成が困難であることが確認された.
3.4.4 圧縮機での実験結果と解析結果の比較
次に,3.4.1項で述べた実機運転中の連接棒の小端部軸受での潤滑状態の実験
結果に対して,同じ条件下で小端部軸受内のピストンピンの挙動を理論解析し比
較する.なお実験と解析の対象とした圧縮部分の主要寸法は第2章の表2.1のと
おりであり,小端部軸受の半径すきまは4FL mである.また冷媒はHFC−134a,冷
− 41 −
凍機池はエステル池であり,解析における池粘度として実験により計測された密
閉ケーシング下部の油粘度を用いた・
a.標準運転条件での特性
冷蔵庫用圧縮機の標準運転状態における連接棒小端部軸受に作用する荷重とす
べり速度は,すでに説明したように図3.9,3.10となる.なお連接棒小端部軸受
とピストンピンの相対角速度も図3.25と同じであり,軸回転角度の方/2が
一βmax,3方/2がβmaxに相当している.このときの連接棒に作用する荷重方向
を計算すると,連接棒中心線に対して最大で約20 のずれはあるものの,ほぼ一
致している結果であった.従って軸受特性の計算では,常に荷重方向が連接棒の
中心線方向に作用する(¢=0)と仮定して計算する.結果として得られた偏心
率だと偏心角¢の変化特性を図3.27に示す.偏心率は軸一回転中でほとんど変
化がなく と=0.991であり,油膜厚さを計算してみると0.1〝m以下と非常に小さ
な値である.一方偏心角は正弦波状に変化しており,変化の幅としては,静荷重
が作用する場合と同様に揺動角度幅(2βmax=27.80)の約1/2である.また,
図3.10のすべり速度変化と比較してみると,すべり速度が0となる∂。=方/2と
3万/2 radの軸回転角度位置で偏心角は最小または最大となっており,さらに軸
回転角度がO c=0∼57T/4rad,7/47T∼27Tradの広い範囲で負となっている・こ
れを図3.23に示した静荷重が作用する場合の特性と比較してみると,偏心角が全
体的に負の方向に移動していることがわかる.このように偏心角が負の方向に片
寄る理由は,動荷重が最大となる軸回転角度(3万′/2から2万rad)の区間で,そ
99
t ■
■
汀 2汀
Shaft angle Oc[rad]
/ /
灯 −几
0コ加ト吉吉日⋮凹
19 5
12 0 は
[p巴] や む︻uS名nJコ一↓
1
汀 2汀
Shaft angle Oc[rad]
(b)偏心角
(a)偏心率
図3.27 標準条件での揺動軸受特性(HFC−134a,60Hz,Pe=85kPa,Pc=1015kPa,T=80℃)
42 −
2
1
0
盲i]
●
[A]A a叫βtOA
■
0
0月Sの〇月0両月中■−こ一芸
0
0
2汀
Shaft angle ec[rad]
Shaftangle Oc[rad]
(a) 理論計算結果
(b) 実験結果
図3.28 標準条件の連接棒中心線での潤滑特性
の大きな荷重によって軸が荷重方向に動く,すなわち正の偏心角が零に近づくた
めである.
次に以上の軸受特性計算結果を第2節の実験結果と比較する.実験で最も電極
電圧の低下が顕著であった連接棒中心線上の電極位置において,小端部軸受の内
周面とピストンピン間の油膜厚さh。を計算した結果を,前出の図3.11に示した
電極電圧Vの実験結果とともに図3.28に示す.計算結果によると,連接棒中心線
上での油膜厚さは軸回転角度が5万/4と7万/4radの位置で最も薄くなる傾向を示
すが,これは図3.27の偏心角が0となる軸角度位置と一致している.図3.28(b)の
実験結果でも,軸回転角度が7T rad付近および27T rad直前付近の位置において電
極電圧の低下すなわち油膜の薄くなる様子が示されており,理論計算結果と傾向
がよく一致している.なお電極電圧の低下がどの程度の油膜厚さで発生するかの
しきい値は不明であるが,計算結果との比較によると0.04〟m程度以下の油膜厚さ
を検知していると考えられる.
b.運転圧力変化時の特性
図3.29は,圧縮機運転圧力条件を変化させたときの偏心率と偏心角への影響を
理論的に計算した結果を示したものである.偏心率は朝一回転中ほとんど変化し
ないが,吐出し圧力P。が高くなるとわずかに大きくなる傾向を示す.一方偏心
角は吸込み圧力P eが低くなると朝一回転中にわたって若干正の方向にずれる.
43
次に図3・29の運転圧力条件下において,連接棒の中心線上における小端部軸受の
内周面とピストンピン間の油膜厚さを理論的に計算した結果と実験結果を図3・30
に示す.計算の結果では吐出し圧力P。が高いと全体的に油膜厚さが薄くなる方
向にずれるが,吸込み圧力Peが低いと最小油膜厚さはほぼ同じであるものの軸
角度β=5万/4∼7万/4radにおける油膜厚さが厚くなり,それ以外の軸角度では
薄くなる変化傾向を示している.実験結果と比較すると,吐出し圧力が高い場合
の変化傾向は同じであるが,吸込み圧力が低下したときの傾向に違いがある.す
なわち,実験では吸込み圧力が低くなると軸回転角度の方と2万rad間の電圧が低
下し油膜厚さが全体的に薄くなる傾向を示すが,理論計算においては最小油膜厚
さにほとんど差が無く,また方と2万rad間の油膜厚さが逆に厚くなる傾向を示す.
このように理論計算において油膜厚さが厚くなり実験結果と異なる結果となった
のは,理論計算に密閉ケーシング下部の実測池粘度を用いたことによると考えら
Pe=
85(
k P a ),
PcE1015 (
k Pa )
−‥ P e =69 (
kP a ),
P c =1 0 1 5 (
貯 a)
一 ・P e =6 9 (
肝 a ),
P c=1 6 8 1 (
貯 a)
5
■
−
●
●
■
■
■
■
■
■
−
1 ●
−
■
■
■
・.
■
■
■
・
■
−■
■
汀 2汀
P e =8 5 (k Pa ),
P c=10 1 5 (k Pa )
・一一Pe E6 9 (貯 a ),
P c=10 1 5 (k Pa )
一 ・P e =6 9 (k Pa ),
P c=16 8 1 (kP a■
)
−ル
1 −
2
1
/
[p巴] や むlぎ虚名n︸コ︼↓
L −
■
t ■
0 汀
Shaft angle eclrad]
Shaft angle Oc[rad]
(a) 偏心率
(b)偏心角
図3.29 運転圧力変化時の揺動軸受特性 (60Hz,T=80℃)
[A]人品ヨlOA
 ̄
:
′
′
「
−
で プ
〆
、
、
や
− Pe=85(
絆a),
Pc=1015(
貯a)
一一一Pe=
69く
ぼa),
Pc=1015(
肝a)
一 ・Pe三
69(
l ぽa),
Pcご
l 1681(
貯8)
■
Shaft angle Oc[rad]
(b) 実験結果
図3.30 運転圧力変化時の連接棒中心線での潤滑特性(60Hz,T=80℃)
− 44 −
・
れる.すなわち,実際には吸込み圧力が低い高圧縮比の条件ほどシリンダ内圧縮
気体の温度が高くなるためにピストンからの熱影響で小端部の温度が高くなり,
実質的な池粘度の低下が大きくなることにより計算以上に油膜厚さが薄くなるた
めと考えられる.なおこの吸込み圧力の差で小端部の温度がどの程度差があるか
は不明であるが,以下のd項に示すように,冷凍機池温度が7K程度変わると偏
心率が変化し油膜厚さも変化することから,わずかな温度差が油膜厚さに与える
影響は大きいものと推察される.
C.圧縮機回転数変化時の特性
圧縮機の運転周波数を変えて軸の回転数を変化させたときの軸受特性の計算結
果を図3.31に示す.偏心率は,運転周波数が70Hzと60Hzの時では差はないが,
60Hzから50Hz,40Hzと低下するにともないしだいに大きくなる.また偏心角は運
転周波数が低下するのにともなって全体的に負の方向にずれていく.このとき,
連接棒の中心線上における小端部軸受の内周面とピストンピン間の油膜厚さは図
3.32に示す変化となる.すなわち運転周波数の低下とともに,連接棒中心線位置
での油膜厚さは軸角度∂=0∼方radにおいて厚くなり.それ以外の軸角度では減
少していく.特に軸回転角度が5万/4と7万/4 radで明確に二回発生していた油膜
厚さの減少が徐々に不明確になり,この軸回転角度範囲のすべてにわたって油膜
厚さが小さくなる傾向を示す.一方実験結果においても,図3.32(b)に示すよう
に,運転周波数が70Hzにおいては全く電極電圧の低下がみられないが,運転周波
・Ⅳ=5 0 (H z )
N =6 0 (H ヱ) − ‥ N =7 0 (H ヱ)
●
95
9
■ ▲
汀 2汀
Shaft angle ec[rad]
・
・
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−几
■
‥−
Ⅳ=40(
Hz)一 ・Ⅳ=50(
Hz)
− Ⅳ=60(
Hz)一・
・Ⅳ=70(
Hz)
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・
感宗芳 転 ゝ
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2
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0両一dJ ト一叫0℃盲む00回
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−‥ Ⅳ=4 0 (H ヱ) 一
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2
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l
] l
[p巴] や むlぎ内名n︼コ雲
[
t ■ ■
0 汀 2汀
Shaft angle cc[rad]
(a)偏心率
(b)偏心角
図3.31 圧縮機回転数変化時の揺動軸受特性
(Pe=85kPa,Pc=1015kPa,T=80℃)
− 45 −
[A]人品βlOA
1 、J く
ヽヽ
さ∠ 弓
′7
J J
′
−
1 ●彗
ヽ′
l
ヽ
■
■
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一打=4 0 (H z )
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・N =5 0 (H z )
−
N =6 0 ■
(‡Z
)
−
‥ N t=7 0 (H ヱ)
■
0
ワ豆]0月詔〇月0膚ヨ■一石一芸
′
2打
Shaft angle Oc[rad]
Shaft angle Oc[rad]
(b) 実験結果
(a) 理論計算結果
図3.32 圧縮機回転数変化時の連接棒中心線での潤滑特性
(Pe=85kPa,Pc=1015kPa,T=80℃)
数の低下とともに電圧が低下して接触が発生しやすくなっており,計算結果と同
じ傾向となっている.
d.冷凍機油温度変化時の特性
冷凍機池の粘度の影響をみるために,冷凍機池の温度を変化させた際の軸受特
性への影響を計算した結果を図3.33に示す.冷凍機油の温度が上昇し粘度が低下
すると,偏心率が大きくなるものの偏心角はほとんど変化しない・このとき連接
棒の中心線上における小端部軸受の内周面とピストンピン間の油膜厚さは,図
3.34(a)に示すように,温度の上昇すなわち粘度の低下にともなって全体的に油
膜厚さが薄くなる傾向となる.一方実験によると,図3・34(b)のように冷凍機池
の温度が73℃では金属接触が発生せず,また80℃と91℃では金属接触が発生して
いる結果である.したがって高温ほど接触しやすくなる傾向は計算結果と一致し
ている.
以上のように,冷蔵庫用往復圧縮機の連接棒小端部軸受では,その偏心率は軸
の一回転中おおむね0.99以上であり,軸受は油膜の形成されにくい潤滑の厳しい
状態にあることが確かめられた.また連接棒小端部軸受の潤滑状態が電気抵抗法
で評価できることを確認した.
ー 46 −
−T ≡7 3 (℃ )
−
T =8 0 (●
C )
一
・T =9 1 (℃ )
■■
ll■
l■
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1■■
■
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−●
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T =8 0 (℃ )
一 ・T =9 1 (℃ )
−几
汀 2汀
‥ 一T =7 3 (●
C )
2
1
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■■
−
t t ●
[p巴] や む︻ぎ虚名n︼コ︼↓
0
[⊥ 叫 ○コdh ト一芯て盲の00回
‥
■
■
■
汀 2汀
Shaft angle Oc[rad]
Shaft angle Oclrad]
(a)偏心率
(b)偏心角
図3.33 冷凍機池温度変化時の揺動軸受特性
(60fIz,Pe=85kPa,Pc=1015kPa)
2
1
●
[A]A品β︻OA
0
●
●
‥ −T =7 3 (‘
C )
− T =8 0 (‘
C )
一 ・T =9 1■
(
℃
) ■ ■
0
0
[貞孔] 0月SS0月0芸一目lこ︰亡岩
2汀
Shaft angle Oc[rad]
Shaft angle Oc[rad]
(b) 実験結果
(a) 理論計算結果
図3.34 冷凍機池温度変化時の連接棒中心線での潤滑特性
(60Hz,Pe=85kPa,Pc=1015kPa)
− 47 −
3.5 結論
冷蔵庫用往復圧縮機の連接棒小端部軸受の潤滑状態について,電気抵抗法によ
って金属接触状態を評価し,さらに軸受要素実験と無限小幅軸受理論に基づく理
論解析により揺動軸受特性を考察するとともに,実機運転における潤滑状態の実
験結果と理論解析結果を比較することにより以下の結論を得た.
(1)実機運転中の圧縮機の連接棒の小端部軸受では一部の電極に電圧低下がみ
られ,金属接触が発生する厳しい混合潤滑状態にある.さらに吸込み圧力が低く,
吐出し圧力が高いほど,また圧縮機回転数が低いほど,電極電圧の低下が増大し
たり低下範囲が広がる傾向を示し,金属接触はより発生しやすくなる.
(2)小端部軸受の金属接触率はU/F。(すべり速度と荷重の比率)の値と相関
関係があり,U/F。の低下に伴い接触率は増加する.この変化傾向は,代替冷
媒であるHFC−134aとエステル池,および従来冷媒であるCFC−12と鉱油の組み合わ
せで差がなく,代替冷媒の組み合わせにおいても従来冷媒の組み合わせと同等の
金属接触状態にある.
(3)静荷重が作用する軸受要素実験の場合,揺動軸受と回転軸受を比較すると,
回転軸受では十分な油膜が形成される荷重条件と運転周波数条件でも,揺動軸受
では軸は荷重点付近の軸受面に沿って揺動角度の約1/2の角度範囲で揺動運動し
て油膜が形成されにくい傾向となり,この傾向は実験と解析で一致する.
(4)動荷重が作用する実機運転中の連接棒小端部揺動軸受の特性を理論解析し
た結果,運転条件による軸受特性の変化は少なく,偏心率は朝一回転中おおむね
0.99以上であった.また,偏心角は朝一回転中に揺動角度の約1/2の角度幅で変
化したが,全体的に最大荷重時に軸が動く方向に片寄る傾向であった.この解析
結果に基づき計算した連接棒中心線上での油膜厚さの変化傾向は,軸受に電極を
埋設して測定した実験結果の傾向とほぼ全ての運転条件で一致した.
(5)揺動軸受要素実験,実機圧縮機運転実験およびそれらに対する理論解析に
よる検討の結果から,冷蔵庫用往復圧縮機においては,朝一回転中常に油膜の形
成されにくい厳しい潤滑状態にあることが確認された.
ー 48 −
参考文献
(1)和栗・小山田・山本・重囲,二サイクル機関クロスヘッドピン軸受の潤滑に
ついて,日本機械学会論文集(第3部),Vol.27 No.178.(1961),pp.910−
918.
(2)和栗・浜武・副島,二サイクル機関クロスヘッドピン軸受の負荷能力につい
て,日本機械学会論文集,Vol.C48 No.425,(1982),pp.86−94.
(3)和栗・浜武・副島・大坪,クロスヘッドピン軸受の負荷能力に関する各種改
善法の比較,日本舶用機関学会誌,Vol.26 Ⅳ0.4,(1991),pp.20−28.
(4)林・二所宮,ピストン軸受の潤滑機構,日本機械学会第72期通常総会講演会
講演論文集(Ⅳ),(1995),pp.199−200.
(5)日本潤滑学会編,潤滑ハンドブック,ppl17−127,養賢堂,東京,(1975).
(6)桝田,高出力内燃機関のコンロッド大端部軸受一軸受構造最適化において考
慮すべきトライボロジー要因.トライポロジスト,Vol.38 No.10,(1993),
pp.872−877.
(7)方・池谷,斜板式アキシァルピストンポンプ・モータの低速時におけるピス
トン∼シリンダ間潤滑状態(観察および評価),油圧と空気圧,Vol.23 No.2,
(1992),pp.63−68.
(8)日本機械学会編,すべり軸受の静特性および動特性資料集,(1984),pp.268−
273,日本工業出版.
(9)落合・河原・中原・京極・田中,空調用圧縮機ベーン先端部の混合潤滑解析
(その2),トライボロジー会議予稿集,(金沢1994−10),pp.10ト104.
(10)K.Takaichi and H.Sakai,Lubricants for HFC−134a Compatible Rotary
Compressor,Proc.1992 Purdue Compr.Tech.Conf.,(1992),pp.1035−
1044.
(11)水原,代替フロン中の潤滑問題,トライポロジスト,Vol.38 No.5,(1993),
pp.24−30.
49 −
第4章 ベーンとピストン間の潤滑特性
4.1 緒言
ローリングピストン形冷媒圧縮機のベーンとピストン間の潤滑に関する研究は
まず清水く1)や岡田ら(2)のピストンの自転挙動の理論的研究から始まり,柳津(3)
∼(5)のピストンの自転挙動の理論的および実験的研究により設計諸元や油粘度の
影響を含めた特性が明らかになった.さらに小林ら(6)は,ピストン内周やベー
ン側面部の流体潤滑油膜を厳密に考慮した解析と実験との比較を行うとともに,
小野ら(7)はベーンとピストン間の潤滑について混合潤滑条件を考慮(表面粗さ
領域での金属接触を考慮)した定常的なE H L理論解析(Elastohydrodynamic
lubrication,弾性流体潤滑)を行い,金属接触による影響を研究した.また田
中ら(8)と落合ら(9)は,ベーンに電極を埋設しその金属接触状態を実験的に研究
し,E H L解析結果との比較を行っている.また冷媒が冷凍機池に溶解したとき
の潤滑特性の研究として,明井ら(10)による油膜厚さと冷媒溶解量についての研
究や,権藤ら日日による油膜破断と冷媒の溶解量についての研究が行われている.
その結果,圧カー粘度係数(すなわち圧力の上昇にともなう粘度の上昇)が冷媒
の溶解とともに減少するために冷媒の溶解した冷凍機池の油膜形成能力は冷媒の
溶解量の影響を大きく受けること,またHFC−134aとエステル油の組み合わせでは
RFC−134aと鉱油の組み合わせに比較して冷媒の溶解による圧カー粘度係数の低下
が大きく油膜破断が発生し易いことが報告されている.
しかし,従来の研究は定常運転状態でのピストンの挙動や潤滑しゅう動特性に
関する実験的,理論的研究であり,実際の冷蔵庫等で運転される際にひんぽんに
発生し,また負荷圧力条件や潤滑油供給状態の大きく異なる過渡運転時の挙動に
ついては研究されておらずいまだに不明な点が多い.また冷凍機池に冷媒が溶解
したときの潤滑性の研究は現象をモデル化した要素実験が主体であり,実際の圧
縮機の運転状態においても要素実験と同じように潤滑状態に差があるのかどうか
について不明である.例えば具体的に言うと,HFC−134aとエステル池の組み合わ
せの場合に,圧縮機の実機運転時に粘度低下によって潤滑状態が大きく変化した
ー 50 −
り油膜破断が発生したりという現象が発生するのか,また従来のCFC−12と鉱油の
組み合わせと潤滑状態に差があるのか等について明らかでない.さらにHFC−134a
とアルキルベンゼン油のように冷媒が溶解しにくい組み合わせの場合に,冷媒が
溶解し易いCFC−12と鉱油やHFC−134aとエステル油の組み合わせの場合と潤滑状態
に差があるのかについても不明である.
本研究では,実際の冷蔵庫の定常運転状態におけるピストン挙動,ベーンとピ
ストン間の潤滑状態のみならず,十分な解明が進んでいない過渡運転状態におけ
るこれらの特性について,従来のCFC−12冷媒とHFC−134a冷媒との違いを含めて明
らかにする.また液圧縮が発生するような過渡運転状態において,冷媒の冷凍機
油への溶解性の違いがベーンとピストン間の潤滑状態に与える影響を明らかにす
る.すなわち,実機冷蔵庫や液もどり試験回路に圧縮機をとう載して,標準的な
運転状態および過渡的運転状態でシリ ンダ内の圧力やピストンの自転数等を計測
するとともに,理論的に計算して求まるピストン自転数と比較することにより,
ベーンとピストン間の摩擦係数を推定して潤滑状態を考察する.
本研究においては,溶解し易い冷媒と冷凍機池の組み合わせとして,CFC−12と
鉱油,HFCR134aとエステル池,また溶解しにくい組み合わせとして,HFC−134aと
アルキルベンゼン池の場合について検討する.
4.2 理論解析
本研究において理論計算および実験の対象とした冷蔵庫用ロークリ圧縮機の断
面図,諸元はそれぞれ第2章の図2.2,表2.2に示したとおりである.
4.2.1 ピストンの運動解析
ピストンに作用する力とモーメ ントを図4.1に示す.ピストンの自転挙動は,
①ベーン先端とピストン外周間の摩擦力F b,②ピストンの内周と軸偏心部軸受
の摩擦モーメントM。,③ピストン外周とシリンダ内周間の摩擦力F。,④ピスト
ン両端面と軸受端平面間の摩擦モーメントMaのバランスにより決定されるが,
特に重要となるのは,①,②の摩擦力および摩擦モーメントである.
このとき,ピストンの運動方程式は式(4.1)で表される(3)
− 51 −
DIRECTION OFSHAFT ROTAT10N
図4.1 ピストンに作用する摩擦力とモーメ ント
Ⅰ。・¢=−Rl・(Fb+Fd)+M。−Ma
(4.1)
ここにⅠ。はピストンの慣性モーメント,¢はピストン中心まわりの回転角,
Rlはピストンの外周半径である.
すなわちピストン内周と軸偏心部軸受のモーメ ントMpが自転を促進するのに
対して,ベーン先端とピストン外周間の摩擦力F bやピストン端面の摩擦モーメ
ントMa,ピストン外周とシリ ンダ内周間の摩擦力F dは自転を阻止することに
なる.過渡運転時においては,これらが冷蔵庫システムの運転状態の変化ととも
に時々刻々と変化するために,ピストンの挙動も変化する.
圧縮機が実際に運転されている状態で,ベーンとピストン間の潤滑特性を直接
評価するには,ベーンに電極を埋め込みその信号から接触状態を評価する方法が
試みられている(8)が,この方法では油膜の有無は判定できるが,摩擦係数変化
の評価ができない.従って本研究では,まずピストンの軸一回転中の平均自転数
を実測しその平均自転数と一致するベーンとピストン間の摩擦係数を理論的に繰
− 52 −
り返し計算により求め,この摩擦係数の値からベーンとピストン間の潤滑状態を
評価する.そのために,ベーン先端とピストン外周の摩擦係数以外の作用モーメ
ントを与えておき,ベーンとピストン間の平均摩擦係数を計算で求める.なおこ
のベーンとピストン間の摩擦係数の計算にあたっては,軸一回転中の平均摩擦係
数だけでなく,荷重や速度変動に対するベーンとピストン間の摩擦係数の変動も
考慮する.
以上を踏まえて,式(4.1)を用いた機械力学的連動解析における作用力やモー
メントを以下のように求める.なお求め方の詳細は過去の文献(3)に述べられて
いるのでここでは概要を述べるにとどめる.
a.ベーン先端とピストン外周間の摩擦力
ベーン先端とピストン間に作用する垂直接触力Faと摩擦力Fbの関係は式(4.2)
で表される.なお〝1はベーンとピストン間の摩擦係数である.
(4.2)
Fb=〃1・Fa
この垂直接触力Faのほとんどはベーン先端と背面に作用するガスの差圧力で
あり,シリンダ内と密閉ケーシング内の圧力を与えることにより計算できる・ま
た摩擦係数〝1は,冷媒の溶け込んでいない油を十分に塗布した条件でのベーン
とピストン間のすべり摩擦係数の実験式く3)(4.3)で与えた.式(4.3)において,
摩擦係数〝1は単位幅荷重FノH,すべり速度u,池の粘度行で定義される値で
ある.なおAの値は文献(3)では0.15の一定値であるが,本研究では,軸一回転
中では変化しないが運転条件によって変化する定数と仮定した.
〃1=A−35
〃・u/(Fa/H)
(4.3)
b.ピストンと軸偏心部間の粘性摩擦モーメント
ピストン内周と軸偏心部間はすべり軸受を構成しており,このすべり軸受には
半径方向の作用力として図4.1に示したように,ピストン外周に作用するシリン
− 53 −
ダ内の圧力差による力F gおよびピストンとベーン間の垂直荷重F aの合力F fが
作用する.この半径方向の作用力によってピストン内周には,式(4,4)で表され
る摩擦力による摩擦モーメントM。が作用する.なお〝2はピストンと軸間の摩擦
係数,R3はピストンの内周半径である.
(4.4)
M。=〃2・Ff・R3
この摩擦力を決定する摩擦係数〝2は理論的にはレイノルズ方程式に基づいた
軸受潤滑理論により求められる.本研究ではこの摩擦係数を,第5章に示す軸受
試験機を用いて計測した摩擦係数特性(図5.13)を回帰分析した実験式(4.5)か
ら求めた.
〃2=(8.02S2+9.61S十3.20)¢ (S≧0.04)
(4.5)
〟2=3.6¢ (S<0.04)
ここにSは後述する式(5.1)で表されるゾンマーフェルト数,¢はすきま比で
ある.なお計測方法や試験結果については第5章で詳述するので本章では省略す
る.
軸一回転中の変化特性は,それぞれの軸角度で式(4.5)から摩擦係数〝2を計算
し,その結果を用いて式(4.4)から粘性摩擦モーメントM。を計算して求めた.
C.その他の作用カ
ベーンの側面には,シリンダ内周壁からのベーンの飛び出し長さに応じてシリ
ンダ内の高圧室と低圧室のガスの差圧力が作用し,そのためにベーンはシリンダ
のベーン溝に押しつけられる.従ってベーンが往復運動する際には,その運動方
向とは逆向きに摩擦力が作用し,この摩擦力がベーンとピストン間の垂直接触力
F aに影響することになる.このベーンとシリンダ間の摩擦係数は,運転圧力条
件による変化が少なく,かつそれが垂直接触力に及ぼす影響は比較的小さいこと
が知られており,〝=0.15(一定)く3)とする.
− 54 −
また,ピストン外周とシリンダ内周の最近接部は,接触することはないものの
すきまが数十〃m程度と小さいために,半径方向と円周方向に粘性摩擦力が作用
する.本研究ではこの作用力を平面軸受の理論式を用いて計算する.さらにベー
ンやピストンの端面と軸受端平面間の摩擦力は,池の粘性を考慮して求める.
実際の計算では,式(4.3)の定数Aをある初期値(本研究の場合は約0.08)に
設定して式(4・1)∼(4.5)から摩擦係数ならびにピストン自転数を計算する.この
とき式(4・1)に示す微分方程式をルンゲ・クック・ギル法により朝一回転中につ
いて解き,ピストンの自転数が軸回転角度β=0とβ=2万radで一致するまで繰
り返す・次に朝一回転中のピストン平均自転数の計算結果が,実験で得られる平
均自転数の計測結果と一致しているかどうかを確認し,一致していない場合は定
数Aを変えて再度計算する.そしてピストン平均自転数の計算結果と計測結果が
一致したときのベーンとピストン間の摩擦係数の変化特性から潤滑状態を評価す
る.
4・2・2 ベーンとピストン間の油膜厚さの解析
ベーンとピストン間の摩擦係数を本研究では前述の方法で求めたが,ベーンと
ピストン間の油膜厚さを知ることも潤滑状態を評価する上で重要である.本節で
はこの油膜厚さの解析について述べる.
ベーンとピストン間の接触部は二円弧の外接的な線接触状態にあり,そのため
に負荷荷重を潤滑油膜だけでは支持できずに表面粗さ領域の金属接触が発生する
ことが予測される.従ってベーンとピストン間の摩擦係数は,理論的には潤滑油
膜と金属接触の荷重負担率を計算し,その荷重負担率に応じて流体潤滑域ならび
に境界潤滑域の摩擦係数を加重平均することにより得られる.この荷重負担率の
計算は,本来弾性変形の影響と表面粗さ領域の金属接触の両方を考慮した混合
E H L(Elastohydrodynamic lubrication,弾性流体潤滑)解析から求めるの
か妥当であり,現在混合E H L潤滑解析によっていろいろな運転条件で摩擦係数
を求める取り組みも著者らは進めている(7).しかし本解析方法については実験
結果による検証が不十分であるので,本研究では,ベーンとピストン間にはどの
程度の厚さの油膜が形成され,またそれが軸一回転中どのように変化するのかを
− 55 −
概要的に把握するために,簡易的な方法ながら,E−Ⅴ領域(Elastic:弾性体,
Variable viscosity:可変粘性の領域)における2円弧の線接触潤滑面での膜厚
さ計算式であるDowson−Higginsonの式(12)を適用して油膜厚さを計算する.すな
わち,E H L領域の最小油膜さh mi。は,無次元油膜厚さhと大気圧下の池
粘度〃。,平均すべり速度u,等価曲率半径Rならびに単位幅荷重Wを用いて
Greenwood−Johnsonの表示では式(4.6)で表される.ここで無次元油膜厚さhは
E一Ⅴ領域において,圧力による粘度増加の無次元パラメータで式(4.8),(4.9)
によって表されるgl,g2を用いて式(4.7)で表される.なおEは等価弾性係数,
Rは等価半径,Wは単位幅荷重であり,(4.10)∼(4.12)で求まる.またEl,E2
ならびにレ1,レ2は,ピストン材料とベーン材料の弾性係数とポアソン比,Rl,
R2はピストン外周とベーン先端の半径である.
hmin=(h・符。・u・R)/w
(4.6)
h=2.65・glO・54・g20・06
(4.7)
gl=α・W3/2/((符。・u)1/2・R)
(4.8)
g2=α・(W・E/(2・汀・R))1/2
(4.9)
こ こで
2/E=((1−リ12/El)+((1−リ22)/E2)
(4.10)
R=Rl・R2/(Rl+R2)
(4.11)
W=Fa/H
(4.12)
本研究では,ベーンとピストン間の作用荷重ならびにピストンの自転速度とピ
ストンの公転速度から求まるすべり速度を用いて,(4.6)∼(4.12)式から油膜厚
さhml。の軸一回転中の変化を計算した.そして得られた油膜厚さhmi。の最大値
と表面粗さから膜厚比Aを式(4.13)を用いて計算し(13),その値から潤滑状態を
推定した.なお,α1,J2はベーンおよびピストンしゅう動表面のそれぞれの二
乗平均平方根粗さである.
A=hmi。/
(4.13)
♂12+♂22
− 56 −
4.3 実験方法
4.3.1 実機圧縮機での実験方法
ロークリ圧縮機におけるピストンの自転挙動の測定は,定常運転中の圧縮機内
部挙動を計測するためのカロリメーク装置での実験,過渡運転中の挙動を計測す
るための冷蔵庫とう載時の実験,および液圧縮の発生する過渡運転状態における
冷媒の溶解性の差を評価するための簡易形の液もどり試験回路での実験に分けて
行う.その際に圧縮機内部の挙動を計測するのに用いた計測システムの全体構成
を図4.2に示す.圧縮機内部には後述する種々のセンサを取り付けており,さら
に装置自体の運転状態をは握するために各部の温度や圧力を計測するためのセン
サを取り付けている.
冷蔵庫での実験では,圧縮機を内容積350且の冷蔵庫にとう載して起動から安
定までのピストン平均自転数を後述の方法で計測するとともに,圧縮機吸込み圧
力および吐出し圧力,シリンダ内圧力,各部温度の変化を計測した.さらに冷蔵
庫での過渡運転特性は,標準運転状態と液圧縮の発生する状態とを比較するため
TEMPERATURES
HY8RID
RECORDER
TEMPERATURES
亡コーJ
PROXIM汀Y
SENSOR
DISK
WrTH SLrT
lNSIDE OF COMPRESSOR
図4.2 計測システム
− 57
図4.3 液戻り試験装置の概要
に,アキュムレータを有する標準の圧縮機を使用した仕様(A仕様)と圧縮機の
アキュムレータを撤去するとともに冷却回路中の冷媒封入量を増加させて液圧縮
が発生するように改造した仕様(B仕様)での特性を比較する.
液もどり試験回路での実験では,圧縮機を図4.3に示す簡易形の液もどり試験
回路に設置し,起動時に液冷媒を圧縮機にもどし,そのときのピストンの平均自
転数等を計測する.この液もどり試験回路の動作について説明すると,まずバル
ブ③,⑤,⑥を閉状態,バルブ①,②,④を開状態にして圧縮機を運転する.こ
のときタンクには過冷却状態の液冷媒がたまる.次にバルブ①,②,⑤を閉状態
にして瞬時に圧縮機を停止することによってタンク内に液冷媒を保持する.そし
て圧縮機の高低圧力がバランスした後,圧縮機の起動と同時にバルブ⑤だけを開
状態にするとタンク内の液冷媒が圧縮機にもどる.なお液もどり量に影響するタ
ンクでの液冷媒の貯留量は,冷媒の封入量により制御される.
今回の実験で用いた冷媒と池の組み合わせおよび油の性状を表4.1に示す.溶
解し易い冷媒と池の組み合わせとして,HFC−134aとエステル池,CFC−12と鉱油,
溶解しにくい組み合わせとしてHFC−134aとアルキルベンゼン池を用いる・
一一 58 −
表4.1 冷媒と冷凍機池の組み合わせと池の性状
O il
R ef
r igerant
T ype
H FC −134a
C FC −12
H FC −134a
ester
m inera
l
alkylbenzene
K inem atic V iscosit
y
lm m 2/
s at40 ℃]
30
55
8
4.3.2 ピストン平均自転数の計測
ピストンの平均自転数は,図4.4の(a),(b)に示すように,ピストンの端面に
等ピッチの溝①∼⑫と一箇所だけ他の溝と配設ピッチの異なる基準溝⑬を設け,
この溝を軸受端平面に埋設した4個の電極(NO.1∼4)により静電容量変化として
検出し,基準溝⑬が回転してくる時間差から求める(3).得られた信号波形の一
例を図4.5に示す.なお図4.5には電極の信号波形とともに軸回転角度の検出波形
も示している.例えばNo.3電極の信号を見ると,ピストン端面に設けた溝の信号
より基準溝⑬の信号が検出される経過時間Tの間に,ピストンが1回転自転した
ことがわかり,ピストン自転数は(1/T)として求められる.なお,平均自転
数は軸の100回転以上での平均値として求める.
(b) ピストン端面の溝配置
(a) センサーの配置
図4.4 圧縮機内のセンサーの配置
ー 59 −
領
一机
刊 十 珊
I
‡日
一・折
ト■
− }
■・
・
一
一 ト− .
・
一
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−
ト ト 一一ト トー
L
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一 ト一
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・
▲
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 ̄
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−
l
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一一
一l ニ ー
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ヽ ■
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■
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○
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−
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i一八十▲ …‘
−鵬
1 i †ヽ 一n 「
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▲ 箪l▼
V 二 V − V 轟 ■
Ⅴ− V _ Ⅳ −−旦 闇 里 l
−
−
買
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−
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l
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▲ 巴J
レ戸 J U 叫ト
−
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○
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l○
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○
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−
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l
ll
−
←二
1 −ll_・
臼
≡
⊇
○
lヽ
.
一
一
長
日
−
−
≡ O n e
−
r e v o lu d o n
○
lO
−→ −
÷
ー
 ̄− ̄
l
l
L −
▲
尤 ̄ ̄
:
Jr  ̄
1 し ̄  ̄1 =1 ̄
−
− 二+
二二
▲
羊
▲
.
望
bO
百
:
d
宅
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∽
−
!
tJ
T
」■
「ヽ
l
im
e
l
−
−
l
−
−
−
○
図4.5 電極信号の一例
4.3.3 その他の内部挙動の計測
過渡運転中のシリンダ内部の挙動を詳細には握するために,圧縮機内部には前
記電極に加えて,図4.2および図4.4に示すように,シリンダ内圧計測用の水晶式
圧電形圧力変換器(低圧側,高圧側),シリンダ内壁の近傍温度と吐出しガス温
度を計測するC−C熱電対(T.∼T.),及び軸に固定したスリット円盤により軸
回転角度を検出するための渦電流形変位センサを取り付けた.
・・60 日
4.4 結果と考察
4.4.1 定常運転時の特性
CFC−12冷媒を用いた場合のカロリメークでの標準定常運転(凝縮絶対圧力
1.4MPa,蒸発絶対圧力0.1州Pa)における圧縮室内の圧力変動の実測値を図4.6に
示す.またこの圧力変動をもとに,ピストンの平均自転数の計測値(353rpm)と
計算値が一致するA=0.05の場合の軸一回転中のベーンとピストン間の接触荷重
と摩擦力特性,相対速度特性,ピストンと軸間の負荷荷重特性,および相対速度
特性の計算結果を図4.7∼図4.10に示す.さらにベーンとピストン間の摩擦係数
特性を図4.11に,油膜厚さ特性を図4.12に示す.
図4.8に示したベーンとピストン間の相対速度の方向は,一回転中に正から負,
負から正と変化し,ちょうど相対速度が零になる二点で油膜厚さが最小に(図
4.12),また摩擦係数が最大になる(図4.11)結果である.さらに図4.12の油膜
厚さは,0.1/∠m以下の非常に小さい値である.ここで軸一回転中で最も厚い最
小油膜厚さを使って式(4.11)の膜厚比Aを計算するとA=0.32であった.この膜
厚比の借から潤滑状態を推定すると,A<1であることから境界潤滑の領域にあ
ると考えられる(13).なお,計算に用いたベーンおよびピストンの二乗平均平方
根粗さJl,け2は,実験に用いたベーンとピストンの計測値を用いたが,ベーン
でJl=0.072/Jm,ピストンでJ2=0.1/∠mである.
11
6
・・
/
/
/
20・
8M。
︻巾d邑︺∝⊃SSu∝d
/一 \、_
一.
SHAFTANGLE【rad】
図4.6 シリンダ内の圧力変動
− 61 −
604
0200
︻Z︼uU∝0﹂
方 2方
SHAFTANGLE【rad】
図4.7 ピストンとベーン間に作用する垂直荷重と摩擦力
2 1 0 1 2
軍呈>ヒUO﹂︺>u≧トdコ山∝
打 2方
SHAFTANGLE【rad]
図4.8 ピストンとベーンの相対速度
0 方 2方
SHAFTANGLElrad]
図4.9 ピストンと軸間に作用する荷重
ー 62
.
4■
軍∈︼ゝ巨00﹂︺>︺≧トdコ︺∝
3
方 2方
SHAFTANGLE【rad]
図4.10 ピストンと軸の相対速度
︻⊥ZO︼ト0︼∝LLOトZu−0−LLuOU
ノ\
0 方
SHAFTANGLElrad】
図4.11 ピストンとベーン間の摩擦係数
0・080・ 060・ 040・ 020
︻∈ミ︼ssuZゞU≡ト≡﹂︻﹂﹂−○
SHAFTANGLE【radJ
図4.12 ピストンとベーン間の油膜厚さ
ー 63 −
1
2】
また三種類の冷媒と冷凍機池の組み合わせで,定常運転状態において高低圧の
圧力差を変えた場合のピストン平均自転数特性の実測値を図4.13に示す.全ての
組み合わせにおいて,ピストンの平均自転数は圧力差に依存し,圧力差の増加と
ともに低下する傾向を示す.ただ圧力差の増加にともなうピストン自転数の減少
の傾きはそれぞれの組み合わせにおいて多少異なる.しかし,この自転数の変化
特性を図4.14に示す粘度の変化特性と比較してみると,粘度が高いほど自転数が
高くまた粘度が逆転する位置で自転数も逆転するというように粘度変化と自転数
変化が同じ傾向であることがわかる.従って冷媒と池の組み合わせの違いによる
自転数の変化は粘度差によるものであると判断される.
以上のようにピストン自転数は粘度の影響を大きく受けるが,この粘度変化が
ベーンとピストン間の摩擦係数にどう影響するかを把握するために,ピストン自
転数特性からベーンとピストン間の軸一回転中における平均摩擦係数を計算した.
その結果を図4.15に示す.図4.15より,どの冷媒と冷凍機池の組み合わせにおい
ても圧力差の増加に伴い摩擦係数はわずかに増加傾向を示すものの,その変化は
小さく,ベーンとピストン間では粘度の影響がほとんど無いことがわかる.この
ことから,冷媒と冷凍機池の組み合わせにおいて同じ圧力差で自転数が異なるの
は,池の粘度差によってピストン内周の摩擦モーメントに差が生じるためである
0 0 0 0 0
0 0 0 0 0
5 4 3 2 1
︻∈d土q山山dS﹂くZ01トく↑○∝山口<∝山>く
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0
PRESSUREDIFFERENCElMPa]
図4.13 定常運転状態でのピストンの平均自転数特性
ー 64 −
5
4 3
[S・dh自]JlO h○巨HSOUSHA
0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
PRESSⅧEⅢPa]
図4.14 池粘度特性
︻⊥Z〇一トU一∝L LOトZ山一U一山LuOU
0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
PRESSURE
DLFFERENCElMPa]
図4.15 定常運転状態でのピストンとベーン間の摩擦係数特性
65 −
こと,また圧力差が大きくなることによる自転数の低下は.ベーンとピストンの
接触荷重の増加により摩擦力が増加したものであり,摩擦係数の増加による影響
は小さいことが確認できる.今回測定した圧力条件の範囲では,全ての組み合わ
せにおける摩擦係数は0.02∼0.03の範囲にある.この摩擦係数は,一般的に境界
摩擦係数といわれている0.1∼0.01の間にあり(14),従って境界潤滑領域にある
と推察される.この結果は,前述の油膜厚さの膜厚比から推定した潤滑領域と一
致し,ベーンとピストン間が境界潤滑領域にあることが確認できる.
4.4.2 冷蔵庫での過渡運転時の特性
CFC−12冷媒と鉱油の組み合わせで冷蔵庫を断続運転した時の,圧縮機の起動か
ら3分間のピストン平均自転数の変化特性について,冷蔵庫周囲温度30℃での計
測結果を図4.16に,周囲温度5℃での計測結果を図4.17に示す.またA仕様(標
準),B仕様(アキュムレータなし)の周囲温度5℃におけるシリンダ内の高圧
側圧力の計測結果を図4.18.図4.19に,圧縮機内部の温度特性比較を図4.20に示
す.
図4.16にみられるように,A仕様とB仕様で周囲温度30℃ではピストンの自転
挙動特性に大きな差はない.しかし,図4.17の周囲温度5℃では,B仕様におい
て起動後約50秒からそれ以降のおよそ約1分の臥 ピストンの平均自転数が停止
近くまで低下する結果であった.また図4.19に示すように,B仕様の圧縮室内の
圧力は起動から約1秒間,異常に上昇している.このシリンダ内の異常な圧力上
昇は,図4.20の温度特性からも液圧縮であると確認できる.すなわち,シリンダ
や吐出しガス温度がA仕様では起動後すぐに上昇傾向を示すのに対して,B仕様
では起動後約20秒間一旦低下しその後上昇に転じている.従って起動後すぐにシ
リンダ内に流入した液冷媒が蒸発しシリンダ等の温度を下げていると判断できる.
以上よりこの自転数の低下は液冷媒の流入および液圧縮に起因するものと予測さ
れ,このよに自転数が低下する場合にはベーンとピストンのしゅう動部での潤滑
状態が変化していると予測される.そこで特にピストンの自転数が低下する起動
してから1分後を中心に,ベーンとピストン間の潤滑状態について検討する.な
お,計算に用いた起動してから1分後の冷凍サイクルの圧力条件を表4.2に示す.
まず,周囲温度30℃の場合の起動してから1分後の摩擦係数を図4.16のピスト
一 66 −
7
0
0
6 5 4
0 0 0
0 0 0
3 2 1
0 0 0
0 0 0 0
︻∈d土白山udSJくZO■↑<↑○∝山びく∝山><
030 60 90 120 150 180
TIME【S】
図4.16 冷蔵庫での圧縮機起動時の自転数変化特性(周囲温度30℃)
7 6 5
0 0 0
0 0 0
4 3
0 0
0 0
2 1
0 0
0 0 0
一首d上白uudS﹂<ZO−↑<ト0∝︺びく∝︺><
060 90 120 150 180
T川帽【S】
図4.17 冷蔵庫での圧縮機起動時の自転数変化特性(周囲温度5℃)
ー 67 −
0 0.2 0.4 0.6 0.8
TIMEls]
図4.18 冷蔵庫での圧縮機起動時のシリンダ内圧力変化特性
(周囲温度5℃,タイプA)
0 0.2 0.4 0・6 0・8
TIME【$】
図4.19 冷蔵庫での圧縮機起動時のシリンダ内圧力変化特性
(周囲温度5℃,タイプB)
− 68 −
野炉監㌢む■EPF
2 0
0 0
8 6
0 0
1 1
︻UOU u∝⊃ト竃虻︺d芝山ト
30 60 90 120 150 180
TIME【S】
図4.20 冷蔵庫での圧縮機起動時の圧縮機内温度変化特性(周囲温度5℃)
表4.2 圧縮機起動1分後のシリンダ内圧力特性(周囲温度5℃)
A m bient tem perature 【
℃]
Speciacation (
T ype)
30
5
’
吋pe A
T ype B
T ype A
T 押e B
Suction pressure 即 P a】
0.
06
0.
06
0.
11
0.
13
D ischarge pressu
r e
[
M P a】
0.
51
0.
48
0.
86
0.
89
ン平均自転数の値に基づいて算出すると,A,B仕様ともにほぼ0・02でほとんど
差はなく,また前述の定常状態での摩擦係数と比較しても差がない結果であった・
従って周囲温度30℃での起動時の潤滑状態は定常運転中と同等の境界潤滑の領域
にあると考えられる.
次に周囲温度5℃の起動1分後の摩擦係数を図4・17のピストン平均自転数の値に
基づいて算出すると,A仕様が0.02であるのに対してB仕様では0・11の結果が得
− 69 −
られた.なおこの摩擦係数の計算においては,しゅう動部の油粘度をどう仮定す
るかによって結果が大きく違ってくるため,ここでその考え方を説明しておく.
すなわち,周囲温度が30℃と高く密閉ケーシングの温度も高い場合には,ピスト
ンと軸偏心部間のしゅう動部の池の粘度を,たとえば密閉ケーシングにたまる池
の粘度と同じと仮定しても,あるいはしゅう動発熱による潤滑油温度上昇を加味
してさらに低い池の粘度と仮定しても,ピストンと軸偏心部間の油の粘性による
摩擦モーメントがベーンとピストン間の摩擦モーメントよりはるかに小さくなり,
ベーンとピストン間の摩擦係数に大きな差はない.しかし,周囲温度が5℃と低
い場合には,起動直前の密閉ケーシングの温度が低く池粘度が高いために,この
粘度を用いてピストンと軸偏心部間の摩擦モーメントを計算するとベーンとピス
トン間摩擦力による作用モーメントとほぼ同程度の値となることから,わずかな
粘度の違いによってそれぞれの作用モーメントが異なり,ピストン回転数が大き
く異なってくる.その結果,ベーンとピストン間の摩擦係数も大きく変わること
になる.すなわち低外気温度の場合には密閉ケーシング内の池の粘度としゅう動
部の池の粘度が異なるために,ピストンと軸偏心部間のしゅう動部の池の実粘度
を知る必要があるがこれを計測することは難しい.本研究においては,この池の
実粘度を圧縮機起動後の30秒間のピストン自転数の変化を参考に予測した.すな
わちピストン自転数は,A仕様,B仕様ともに圧縮機の起動直後は600rpm∼700
rpmと速い自転数であるが,その後ほぼ30秒間で250rpm∼350rpmに急激に低下す
る.この急激な自転数の低下の原因としては,式(4.1)から,ベーンとピストン
間の摩擦力F bやピストン外周とシリンダ間の摩擦力F。,ピストン端面と軸受平
面間の摩擦モーメントM。の急激な増加,またはピストン内周の摩擦モーメント
M,の減少が考えられる.しかしF bについては,30秒間で高圧圧力は0.3MPaか
ら0.4MPaに上昇しているものの,この圧力上昇によるF。の増加を計算してみる
と自転数の急激な低下は説明できず,またこの間にベーンとピストン間の摩擦係
数が急激に増加することも考えにくい.さらにF。とMaについても油粘度の低下
により減少することはあっても増加することは無い.以上からこのピストン自転
数の急激な変化は,ピストン内周の摩擦モーメントの急激な減少によるものであ
るとほぼ特定できる.そしてこのピストン内周の摩擦モーメントの急激な減少は,
低外気温度では密閉ケーシング内に蓄えられている池の粘度が高いために起動後
− 70 −−
すぐにはこの油はしゅう動面に供給されず,その結果ピストン内周の池の温度が
しゅう動発熱により急激に上昇したことによって生じるのではないかと考えられ
る.前述のA仕様とB仕様のベーン先端の摩擦係数の計算結果は,ピストンと軸
偏心部間の池の温度が約90℃にまで上昇したという仮定で計算したものであり,
ベーンとピストン間の摩擦係数としてほぼ間違いのないものと考えられる.従っ
て,B仕様では液圧縮が発生するほどの多量の液冷媒が圧縮機に戻ることにより,
ベーンとピストンしゅう動部間の池が洗い流されて,それまでの摩擦係数0.02程
度の境界潤滑状態から摩擦係数0.11程度の乾燥摩擦に近い潤滑状態に移行したも
のと考えられる.
以上のように冷蔵庫においては,液圧縮が発生するほどの液冷媒がシリンダ内
に戻ると,液圧縮の発生から少し遅れてベーンとピストンしゅう動部が境界潤滑
状態から乾燥摩擦に近い厳しい潤滑状態に移行し.この状態が数分間にわたって
継続することが明らかになった.
4.4.3 液もどり試験回路での過渡運転時の特性
4.4.2項では冷蔵庫において液圧縮を発生するほどの多量の液もどりはピスト
ン自転数に大きく影響することが明確になった.しかしこれはCFC−12冷媒と鉱油
の組み合わせの場合であり,CFC−12とは異なる物性を持つHFC−134a冷媒の場合や
冷媒と池の溶解性の異なる場合に液圧縮がピストン自転数にどう影響するのかを
評価するために,冷蔵庫状態よりは液もどり状態の制御が容易な液もどり試験回
路を用いてピストンの自転挙動を調べた.しかし本実験においては,シリンダ内
への液冷媒のもどり量の定量化が難しいために,圧縮機の起動から液圧縮が終了
するまでの継続時間を尺度としてピストンの挙動を比較することにした.
まず冷媒の溶解しやすいCFC−12と鉱油の組み合わせでの液圧縮時のシリンダ内
の圧力変化特性とピストン自転数の時間変化特性を,液圧縮の継続時間が約1秒
間,約2秒間,約4秒間のそれぞれの場合について図4.21から図4.23に示す.なお,
(a)のシリンダ内圧力については圧縮機起動から6秒間,また(b)ピストン自転数
については起動から5分間の変化を示している.
− 71 −
■司q﹁
2TIMEls]4
(a)シリンダ内圧力
︻Ed上凸山山dS﹂くZO∈芦○∝山ひく∝山>く
0 1 2 3 4 5
TIME【min】
(b)ピストン自転数
図4.21 液圧縮時の特性(CFC−12/鉱油,液圧縮時間:約1秒)
2TIME【S】4
(a)シリ ンダ内圧力
︻EdL︼白山udS﹂くZO−↑くト○∝山ひく∝山>く
0 1 2 3 4 5
T暮MElmjn]
(b)ピストン自転数
図4.22 液圧縮時の特性 (CFC−12/鉱油,液圧縮時間:約2秒)
− 72 一
▲g
l山司司り
2TtME【S】4
(a)シリンダ内圧力
︻∈dJ︼凸山山dSJくZO■↑さ一〇∝山u<∝山>く
1 2 3 4 5
TlME【min]
(b)ピストン自転数
図4.23 液圧縮時の特性 (CFC−12//鉱油,液圧縮時間:約4秒)
CFC−12と鉱油の組み合わせにおいては,冷媒封入量が増加しシリンダ内の液圧
縮の継続時間が長くなるにともなってピストンの自転数が低下している時間が長
くなっており.ピストンの自転数の低下時間が液圧縮の継続時間と相関のあるこ
とがわかる.特に液圧縮が約4秒間継続することによって,ピストンの自転数は
約150秒間低下することから,短い液圧縮でもピストン自転数に長時間にわたっ
て影響することがわかる.
ところで図4.23に示すように,液圧縮か約4秒間継続する場合には,ピストン
の自転数は起動直後では極端に速くなりその後急激に低下し,約2.5分にわたっ
て逆転し続けた後に急激に定常運転時の自転数に復帰する挙動を示す.このとき
の信号波形を図4.24に示す.なお図4.24の(a)は起動直後の自転数が速い状態
(750rpm),(b)は起動1分後の逆転状態を示している.図4.5に示した標準的な
信号波形に比較して,(a)では基準溝⑬の検出間隔が短く自転数が速いこと,ま
た(b)では自転数が遅く同じ溝を何度も検出しているためにわかりにくいが,溝
のピッチ間隔から詳細に調べてみると,基準溝⑬が標準的な信号波形のように⑫,
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いることがわかる.この原因について考えてみると,まず液圧縮の多い条件で起
動初期にピストンの自転数が速い原因は,シリンダ内に多量に流入した液冷媒が
急激に蒸発する際にその周辺の部品の冷却速度が異なることによるものと考えら
れる.すなわち.蒸発が発生してすぐの状態ではピストンだけが軸よりも速く冷
却されてピストンと軸の間のすきまが小さくなり,ピストンの自転を促進するピ
ストン内周の粘性摩擦モーメントが大きくなりピストンの自転数が速くなるが,
時間経過とともにピストンだけでなく軸までが冷却されてピストンと軸の間のす
きまがもとの状態にもどり,ピストンの自転数が低下するものと考えられる.次
にピストンの逆転という冷蔵庫実験では発生しなかった挙動については,その発
生原因を通常の安定的な潤滑状態の変化に基づいて説明することは難しい.すな
わち,ベーンとピストン間の摩擦係数が軸一回転中にわたって全体的に上昇する
と仮定して理論計算してみると,自転数は遅くなるだけで逆転することはない.
しかし液もどり試験はかなり多量の液冷媒を圧縮機に戻すことから,液もどりが
少ない場合にはシリンダ内に流入した後すぐにガス化する冷媒が,液もどりが多
い場合にはシリンダ内で軸一回転中の比較的長い時間にわたって液冷媒として存
在することが考えられる.このシリンダ内における液冷媒の挙動に応じて,ベー
ンとピストン間の摩擦係数が比較的大きく変化すると仮定すると,以下のように
理論的にもピストンは平均的に逆転することになる.すなわち,平均的に逆転す
るということは図4.8のピストンとベーン間の朝一回転中の平均相対速度が負に
なるということであり,いいかえると相対速度が正の領域すなわち軸角度でだい
たい0∼7T/2radと3/27T∼27T radの領域でピストンすべり速度が大幅に低下する
ということである.従ってこの軸角度0∼7T/2radと3/27T∼27T radでのピストン
すべり速度の低下を,シリンダ内の液冷媒の挙動による朝一回転中の部分的な摩
擦係数の上昇に起因するものであると仮定するとピストンの逆転は発生する.計
算では,軸角度0∼7T/2radと3/27T∼27T radのどちらかの摩擦係数を軸角度7T/2
∼3/2万radでの摩擦係数より0.1以上高い倍にすると逆転は発生する.現時点で
は,この軸角度0∼7T/2radと3/27T∼27T radでの摩擦係数の上昇と液冷媒の挙動
の関係を明確に説明することはできないが.逆転していることは事実であり,こ
のような潤滑状態の急激な変化が発生する可能性は十分あると考えられる.
− 75
一方CFC−12とは異なる物性を持つHFC−134a冷媒を用い,さらにこのHFC−134aが
溶解しにくいアルキルベンゼン池を組み合わせた場合の結果を図4.25から図4.27
に示す.HFC−134aとアルキルベンゼンの組み合わせにおいても,液圧縮の継続時
間が長くなるに、ともなってピストンの自転数が低下している時間が長くなってい
る.従って.冷媒の物性や冷媒と冷凍機油の溶解性に関係なく,液圧縮が発生す
るとピストンの自転数は低下しベーンとピストン間の潤滑状態は境界潤滑状態か
ら乾燥摩擦に近い状態に移行すること,またピストンの自転数の低下時間は液圧
縮の継続時間と非常に相関が強いことが明らかになった.特に液圧縮が発生する
と溶解性とは関係なく自転数の低下が発生することから,しゅう動面からの油の
洗い流しは,液冷媒と池が溶解するといった化学的な現象ではなく液冷媒の流入
によって池が吹き飛ばされるといった物理的な現象によって発生していることが
確認される.
ところで図4.27をみてみると,ピストンの自転数が最初速くなりその後急激に
低下しそして逆転にまで至る挙動を示しているが,ここまでの挙動はCFC−12と鉱
油の組み合わせの場合と同じである.しかしその後のピストンの挙動はCFC−12と
鉱油の組み合わせの場合とは異なっている.すなわちCFC−12と鉱油の組み合わせ
では約150秒の間ずっと逆転しているのに対して,HFC−134aとアルキルベンゼン
池の組み合わせでは起動から約15秒後には上昇に転じその後徐々に上昇し続け,
約2分後には定常時の自転数に復帰する特性を示している.このピストンの逆転
から定常時の自転数に復帰するまでの時間に差が発生する理由としては,液圧縮
の頻度と油粘度の違いの二つが考えられる.まず液圧縮の頻度に関しては,図
4.23と図4.27のシリンダ内圧力を比較してみると,液圧縮の継続時間に差はない
とは言うもののその発生の回数には差があり,HFC−134aとアルキルベンゼン池の
組み合わせの方が液冷媒のもどり量が少なく,池の洗い流しが比較的軽微であっ
たために速やかに油膜が回復したのではないかと考えられる.また抽粘度に関し
ては,密閉ケーシングの下部に溜まっている池の粘度がCFC−12と鉱油の組み合わ
せで9mPa・S,HFC−134aとアルキルベンゼン油の組み合わせで3mPa・Sであり,
粘度の低いHFC−134aとアルキルベンゼン油の組み合わせでは,液圧縮によりベー
ンとピストン間の油が洗い流されても,密閉ケーシング内の池がいろいろな経路
を介して短時間でシリンダ内に供給されるのではないかと考えられる.どちらの
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図4.27 液圧縮時の特性 川FC−134a/アルキルベンゼン池,液圧縮時間:約4秒)
理由によるものかについては最終判断できないが,後者の理由であれば潤滑油の
粘度によっては液圧縮後の油膜の回復を円滑にできる可能性もあり,この観点か
らの池粘度の選択も必要であると考える.
以上のように本研究によって,従来冷媒や代替冷媒と冷凍機池の組み合わせに
よってベーンとピストン間の潤滑状態に差はないことがわかった.しかしエステ
ル池を用いた場合には冷媒溶解による粘度の急激な低下により油膜破断が発生し
易い,という潤滑要素実験に基づく従来の報告(10)もあり.また朝一回転中の最
小油膜厚さの計算結果をみてみると油膜厚さは非常に薄いことから,自転数の差
としては確認できないものの実際は摩耗に影響する油膜破断が発生している可能
性もあり, さ らに詳細な検討が必要である. この点に関しては現在,ベ
ーンとピストン部を対象として,表面粗さの影響を含めた混合潤滑領域での
E H L解析を推進中であり(7),さらに詳細な特性差の把握が可能になるものと
期待できる.
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4.5 結論
冷蔵庫用ロータリ圧縮機において線接触するために最も厳しい潤滑状態にある
ベーンとピストン間について,いろいろな冷媒と冷凍機池の組み合わせの条件下
で,安定運転状態と過渡運転状態におけるピストン自転挙動の計測とその結果に
基づいく理論解析を行うことによって摩擦係数や油膜厚さを予測し,潤滑状態に
ついて以下の結論を得た.
(1)軸一回転中のベーンとピストン間の潤滑状態は,ベーンとピストン間の相
対速度が零になる時に摩擦係数が最大,油膜厚さは最小となる.また油膜厚さは
0.1〝m以下と非常に薄く,膜厚比A(最小油膜厚さ/二乗平均平方根粗さの比)
が0.32と1以下であることから境界潤滑の領域にあると予想された.
(2)安定運転中のピストンの自転数は,冷媒と冷凍機池の組み合わせによって
異なりまた圧力差の変化に対する自転数の変化傾向も異なる.しかしこれらの違
いは粘度の違いに起因するものであり,冷媒と冷凍機池の違いや圧力差の違いに
よるベーンとピストン間の摩擦係数は0.02∼0.03でほぼ一定である.この摩擦係
数からも境界潤滑状態にあることが確認できる.
(3)冷蔵庫の過渡運転状態においてピストンの自転数は,液圧縮が発生しない
条件では起動から滑らかに安定運転状態の自転数に移行するのに対して,起動時
に液圧縮が発生すると少し遅れて自転数が低下し,その低下がしばらく継続する.
この自転数の低下からベーンとピストン間の摩擦係数を予測すると,液圧縮しな
い場合の0.02に対して0.11と高い結果である.このことから液圧縮が発生するほ
どの液もどりがあると,ベーンとピストン間の池が洗い流されてしまい,潤滑状
態が境界潤滑状態から乾燥摩擦に近い状態に移行すると予測された.
(4)液もどり試験回路で液圧縮継続時間を変えて試験したところ,冷媒の物性
や冷媒と冷凍機池の溶解性に関係なく,液圧縮が発生するとピストンの自転数は
低下しベーンとピストン間の潤滑状態は境界潤滑状態から乾燥摩擦に近い状態に
移行すること,またピストンの自転数の低下時間は液圧縮の継続時間と非常に相
関が強いことが明らかになった.特に液圧縮が発生すると溶解性に関係なく 自転
数の低下が発生することから,しゅう動面からの油の洗い流しは,液冷媒と池が
溶解するといった化学的な現象ではなく液冷媒の流入によって池が吹き飛ばされ
− 79 −
るといった物理的な現象によって発生していることが確認された.
参考文献
(1)清水,空調用回転圧縮機の回転ピストンの摩擦担,冷凍,Vol.51No.589,
(1976),pp.15−21.
(2)岡田・久山,ロークリ圧縮機のピストンの挙動,冷凍,Vol.50 No.571,
(1975),pp.卜7.
(3)柳澤,ローリングピストン形回転圧縮機のピストンの挙動と機械摩擦損失
(第1報,ピストン運動の測定と理論解析),機械学会論文集,Vol.C48
No.429,(1982),pp.732−740.
(4)柳澤,ローリングピストン形回転圧縮機のピストンの挙動と機械摩擦損失
(第2報,機械摩擦損失の解析),機械学会論文集,Vol.C48 No.435,(1982),
pp.1854−1861.
(5)柳澤・石嶋・清水,冷蔵庫用回転圧縮機における回転ピストンの挙動と機械
損失,第16回空気調和・冷凍連合講演会論文集,(1982−4),pp.49−52.
(6)小林・一柳・町田,ロークリ圧縮機のロータ及びブレード挙動,第26回空気
調和・冷凍連合講演会講演論文集,(1992−4).pp.1−4.
(7)小野・是永・吉村,ロークリコンプレッサにおける相対運動部品の潤滑特性
解析,日本機械学会第71期通常総会講演会講演論文集(Ⅳ),(1994−3),
pp.99−101.
(8)田中・京極・中原・河原・落合,空調用圧縮機ベーン先端部の混合潤滑解析
(その1),トライボロジー会議予稿集,(金沢1994−10),pp.97−100.
(9)落合・河原・中原・京極・田中,空調用圧縮機ベーン先端部の混合潤滑解析
(その2),トライボロジー会議予稿集,(金沢1994−10),pp.10卜104.
(10)明井・須田・水原,冷媒共存油の油膜形成能力,日本潤滑学会トライボロジ
ー会議予稿集2A4・4(金沢1994−10),(1994),pp.515・−518.
(11)権藤・山本,HFC−134a雰囲気中での潤滑油膜の経時変化,日本潤滑学会トラ
イボロジー会議予稿集1El・2(東京1995−5),(1995),pp.189−−192.
(12)日本潤滑学会編,潤滑ハンドブック,(1987),pp.109−114,養賢堂.
ー 80 −
(13)日本潤滑学会編,潤滑ハンドブック,(1987),pp.193,養賢堂.
(14)日本潤滑学会編,潤滑ハンドブック,(1987),pp.10,養賢堂.
− 81 −
第5章 ジャーナル軸受の潤滑特性
5.1 緒言
従来から冷媒圧縮機のジャーナル軸受を対象に,柳津(l)のロータリ圧縮機の
ピストン内周部分の潤滑特性の理論解析や,E.Hazakiら(2)のHCFC−22冷媒が溶解
した冷凍機池の給油量が軸受潤滑特性に与える影響の研究,H.Kobayashiら(3)の
油膜形成に対する軸受部での発泡の影響に関する実験的研究や高田ら(4)の空調
用ロークリ圧縮機の軸受部の可視化によるキャビテーションの観察が行われてい
る.また最近では,服部(5〉・(6)が軸受と回転体の複合解析やE H L解析を用い
た軸受薄肉部の効果の解析を行い,二気筒ロータリの軸挙動と軸受薄肉部の効果
を明らかにしている.
しかしこれらの研究は,弾性流体潤滑領域における油膜厚さの研究が主体であ
り,異なる冷媒と冷凍機池の組み合わせでのジャーナル軸受特性ならびに冷媒溶
解量の差が軸受特性に与える影響については十分な実験的研究がなされていない.
すなわち,ジャーナル軸受における摩擦等の軸受特性に関して,特に代替冷媒や
池の種類によって差があるのか,また差があるとすれば流体潤滑領域と混合潤滑
領域とでは異なるのか,等が明らかになっていない.さらに,冷媒共存下での動
荷重と静荷重の軸受特性差についても十分に研究されていない.
本研究では,冷媒が冷凍機池に溶解した状態での試験が可能な軸受試験機を作
製し,HFC−134aとそれに溶解しやすいエステル池との組み合わせにおけるジャー
ナル軸受特性を測定して,従来のCFC−12と鉱油との組み合わせの場合と比較する
とともに,溶解量や荷重条件(静荷重と動荷重)の影響を実験的に明らかにする.
また,HFC−134aに関して,それと溶解しにくいアルキルベンゼン池を組み合わせ
ての実験も行い,冷媒の溶解性の違いによる軸受特性の差を明らかにする.
5.2 実験方法
本研究では,冷蔵庫用ロークリ圧縮機(気筒容積4.8cm3)の軸受を対象として
おり,この圧縮機ではガス圧力が作用するピストン部に対して,一対の軸受(主
ー 82 −
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SHAFTANGLE【rat事】
図5.1 ピストンに作用する荷重
軸受と副軸受)が両持ち支持する構成となっている.ロークリ圧縮機の標準的な
運転状態における軸一回転中のピストン部に作用する荷重変化を計算すると,図
5.1に示すように,軸回転角度が方rad を過ぎるあたりから急激に増加する特性
を持っている.以上の圧縮機の軸受特性を調べるために,以下のような軸受試験
機を作製する.
5.2.1 軸受試験機の構成
図5.2 に本研究で用いた軸受試験機の概要を示す.この試験機は.インバータ
電源駆動の可変速モータで供試軸を回転させ,油圧加振機によって負荷軸受に静
図5.2 軸受試験機の概要
− 83 −
荷重または動荷重を負荷して,トルク変換器で軸トルクを計測するものである.
動荷重の負荷は,軸の回転と同期させて一回転に一回行い,その変動荷重は加振
機と負荷軸受の間に設置された荷重変換器で計測する.
また本試験機は,密封構造を有しているために高温,高圧条件下での試験が可
能であり,試験装置内に所定圧力まで冷媒を封入して供試冷凍機油に溶解させて
試験を行うことができる.この試験装置内下部の冷媒の溶解した冷凍機油は,試
験装置外部のポンプを通りヒ一夕によって所定の温度に調整された後,流量と粘
度を計測した上で試験室内の各軸受に供給される.また粘度計直前のサイトグラ
スにより,供給油中にガス冷媒が混入していないことを確認する.なお,粘度を
プラグ粘度センサで,給油量を各軸受毎にロークリピストン式流量計にて計測し
ている.また試験装置内には,温度計測のためのC−C熱電対が,主軸受および副
軸受給油部,それらの軸受の排池部,負荷軸受背面部に取り付けられおり,軸挙
動を確認するための渦電流形変位センサも取り付けられている.
5.2.2 試験方法
供試軸受と供試軸の仕様を,図5.3に示す.軸受の構成は,ロークリ圧縮機で
の軸受構成と同じく両持ち構成とした.主軸受と副軸受の材料はねずみ鋳鉄で
JIS FC200相当,負荷軸受の材料はホワイトメタル,軸の材料は球状黒鉛鋳鉄で
JIS FCD500相当である.なおそれぞれの軸受の直径すきまは,主軸受は20〟m,副
図5.3 試験軸受
ー 84
軸受は21川,負荷軸受は27川であり,表面粗さ(Ra)は,軸は0.25川,軸受は0.1
∼0.25〟mである.
今回試験した冷媒と冷凍機池の組み合わせを表5.1に示す.また異った冷媒溶
解状態での特性を把握するために,冷媒一池混合物の圧力と温度の組み合わせを
表5.2に示すように条件Aから条件Dまで変化させた.
計測は,軸回転数を1800,2400,3500rpmと変化させ,荷重として静荷重時に
は300,600,900,1350N を,また動荷重時には圧縮機での荷重変動を模擬して
0から600Nの間で変化する正弦波状の荷重を負荷した.試験は,それぞれの軸回
転数で荷重を順次増しながら行った.
ところで給油に関しては,本研究の目的から,実際の圧縮機での軸受の潤滑油
量と同等になるように供試軸受にも供給する必要がある.本試験機では.各軸受
への給油量をそれぞれ流量計で計測しているが,これらの流量には主軸受および
表5.1冷媒と冷凍機池の組み合わせと冷凍機池の性状
O il
C o血bination
N o.
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
R ef
r igerant
Type
H FC −134a
C FC −12
H FC−134a
none (
air)
ester
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K inem atic V iscosit
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30
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表5.2 試験条件
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B
C
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Supplying O il
[℃ 】
40
80
40
100
副軸受の給油口からすぐに漏れ出てしまい潤滑に寄与しない油量が含まれている.
従って以下の方法で,供試軸受への実験的な給油量を見積ることにした.まず試
験機を大気開放状態として,池の温度を変えながら軸を所定の回転数で回転させ,
主軸受と副軸受のしゅう動部を潤滑した後に反給油側の軸受端面から排出される
実効的な潤滑油量をそれぞれメスシリンダにて体積法で計測した.次に軸受前流
量計で計測した全給油量に対するメスシリンダで計測した有効潤滑油量の比率を,
種々の軸回転数および池粘度条件において求めた.そしてAからDのそれぞれの
運転条件において,流量計で計測した給油量とこの比率から各軸受しゅう動部へ
の有効給油量を算出し,それが別の実験により計測されている実際の圧縮機での
潤滑油量に一致するように,流量計部の流量を調節して試験することとした.こ
の有効潤滑油量は実験条件により異なるが,冷凍機抽粘度が5mPa・Sでほぼ20∼
25cm3/minである.
5.2.3 結果の整理方法
各軸受の摩擦係数を求めるためには,各軸受に荷重を割り振る必要がある.ま
ず,負荷軸受には総荷重が作用するがその総荷重の計測値から,主軸受および副
軸受に作用する荷重を,軸受中心間の距離に応じて,てこの原理で求める.その
荷重を適用して,式(5.1)で表されるゾンマーフェルト数Sを各軸受で計算する.
S=〃NDL/(¢2F)
(5.1)
ここに,両ま潤滑油粘度,Nは軸回転数,Dは軸受直径,Lは軸受幅,¢はす
きま比(直径すきまと軸受直径の比),Fは軸受の荷重である.
この各軸受におけるゾンマーフェルト数に基づいて,日本機会学会資料集の真
円軸受の流体潤滑特性結果(レイノルズの境界条件下での理論計算結果)(7)を
参照し,三つの軸受の摩擦係数を仮に定める.この摩擦係数と荷重から各軸受の
トルクを計算し,実測トルクをこのトルクの比率で振り分けた上で,式(5.2)か
ら各軸受の摩擦係数fを算出する.
− 86 −
表5.3 冷媒の溶解した冷凍機池の粘度
C om bi
n ation
N o.
T est
C ondition
V iscosity of oil
at v
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7
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B
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D
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4
1.
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8
0.
8
(5.2)
f=T/(rF)
ここにTおよびFはそれぞれの軸受でのトルクおよび負荷荷重,rは軸受半径
である.
なおゾンマーフェルト数の算出に必要な粘度は,粘度計位置での池温度と実際
の給油温度,排抽温度に差があるために,粘度計での計測粘度を,給油温度と排
池温度の平均温度に相当する粘度に補正して用いる.表5.3に,各試験条件にお
ける粘度計部での測定粘度を示しておく.
5.3 結果と考察
主軸受,副軸受,負荷軸受のそれぞれについて,測定結果をゾンマーフェルト
数と摩擦係数の関係で整理し比較したところ,本研究で検討したL/Dの範囲では
摩擦係数特性的にほぼ同じ結果であったので,本論文では以下の軸受特性は幅径
比L/Dが0.75の副軸受でのものを示す.
ー 87 −
5.3.1 日FC−134aとエステル油の特性
冷媒と池の溶解性が良く冷蔵庫用圧縮機で一般的に用いられる組み合わせ,す
なわちHFC−134aとエステル池の組み合わせ(Ⅰ)について,試験条件Aの静荷重時
の結果を図5.4に示す.同図の横軸はゾンマーフェルト数(S),縦軸は摩擦係数
(f)とすきま比(¢)の割合である.また図中の理論線は前述したジャーナル軸受
の流体潤滑特性曲線の結果(7)を引用したものであり,以下の図でも同様である.
軸の回転数や荷重条件の異なるゾンマーフェルト数の範囲にわたって摩擦係数の
測定値は同一の傾向を示しており.その傾向はゾンマーフェルト数が0.1以上に
おいて,理論線ともほぼ一致している.
次に,冷媒圧力が高く冷凍機抽温度の高い試験条件D,すなわち低粘度条件に
おける静荷重時の結果を,図5.5に示す.図中の矢印は,実験中に負荷荷重を段
階的に増加する過程において軸トルクすなわち摩擦係数が急上昇する傾向となり,
不安定な状態になって試験が続行できなかったことを表している.この粘度の低
い条件では流体潤滑理論線から離れており,ゾンマーフェルト数が0.04以下では
摩擦係数が急上昇し,不安定な挙動を示している.この試験条件Dにおける負荷
軸受の温度特性を,図5.6に示す.同図中の数字は図5.5の数字と対応しており,
測定の時系列の順番を表している.図5.5の摩擦係数が不安定な状態においては,
図5.6のように負荷軸受温度が急上昇する傾向にあり,明らかに金属接触が発生
していると考えられる.
以上で述べた試験条件AおよびDの場合の結果に他の条件の場合の結果も加え
て総合的なHFC−134aとエステル池の組み合わせ(Ⅰ)の静荷重下の摩擦係数特性の
結果をまとめて図5.7に示す.ゾンマーフェルト数が約0.1以上では,流体潤滑理
論に基づく理論線に対して実測値はだいたい傾向が一致しており,軸受は流体潤
滑状態にあるとみなすことができる.ゾンマーフェルト数が0.1以下では理論線
から徐々に離れて境界潤滑状態に移行し始めていることがわかり,さらにおよそ
0.04以下においては摩擦係数が急上昇して,一部で金属接触が発生するような厳
しい境界潤滑状態であると判断される.
以上の静荷重時の結果に対して,HFC−134aとエステル池の組み合わせ(Ⅰ)にお
ける動荷重時の全ての試験条件での結果を図5.8に示す.このときゾンマーフェ
ルト数は,一回転中の平均荷重を用いて算出したものである.動荷重時において
− 88 −
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図5.4 摩擦係数特性(HFC−134a/エステル油,A条件,静荷重)
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も,静荷重時と‘同様に,ゾンマーフェルト数が約0.1以上では理論線と測定値が
良く一致しており流体潤滑状態にあると考えられる.
以上のことからHFC−134aとエステル池を組み合わせた実際の圧縮機においては,
摩擦係数が急上昇するような厳しい境界潤滑領域への移行が,ゾンマーフェルト
数にして約0.04程度で起こり,これ以下のゾンマーフェノトト数領域では軸受特性
や摩耗の点で好ましくない状況になると推察される.
5.3.2 CFC−12と鉱油との特性比較
従来から冷蔵庫用圧縮機で用いられているCFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅲ)にお
ける静荷重時の摩擦係数特性をまとめて図5.9 に示す.摩擦係数特性は,5.3・1
節のHFC−134aとエステル池の組み合わせ(Ⅰ)と比較して,データのばらつきはや
や大きいものの,全体的傾向は良く一致している.すなわち静荷重時には,ゾン
マーフェルト数が0.1以下で流体潤滑理論線から離れ始め,ゾンマーフェルト数
が約0.05以下になると荷重等の試験条件の変更途中で摩擦係数が上昇したり,摩
擦係数が不安定になる.
また,CFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅲ)における動荷重時の摩擦係数特性を図
5.10に示す.この場合も,静荷重時と傾向がよく一致している.
ところでCFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅲ)とHFC−134aとエステル油の組み合わせ
(Ⅰ)の試験条件下における粘度および溶解度を比較すると,粘度は表5・3に示す
ようにほぼ同等であり,また冷媒の溶解度は試験条件AからDにおいて両者とも
約5%∼25%とほぼ同等で,かつ溶解性の良い組み合わせであった.このことか
ら実際の圧縮機の運転条件では,従来冷媒と池の組み合わせであるか代替冷媒と
池の組み合わせであるかを問わず,これらの組み合わせの場合の軸受摩擦係数特
性は,冷媒溶解時の粘度に基づいたゾンマーフェルト数で比較して良いものと判
断できる.また動荷重時にも流体潤滑領域においては,平均荷重で算出したゾン
マーフェルト数に対して静荷重時の摩擦係数特性と同等であり,特に両者の違い
を考慮しなくても良いことが確認できる.
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5.3.3 HFC−134aとアルキルベンゼン油および大気解放状態の鉱油との特性比較
HFC−134aとアルキルベンゼン池の組み合わせ(Ⅲ)は,表5.3 に示すように,
HFC−134aとエステル油の組み合わせ(I)やCFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅱ)に比べ
て粘度が低いものであり,また冷媒溶解度もAからDの全ての運転条件で8%以
下と(Ⅰ)や(Ⅲ)の組み合わせに比べてかなり小さいものである.
このHFC−134aとアルキルベンゼン池の組み合わせ(Ⅲ)における静荷重時の摩擦
係数特性をまとめて図5.11に示す.この組み合わせ(Ⅲ)においては,前述した
HFC−134aとエステル池の組み合わせ(I)やCFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅲ)と比べ
ると,流体潤滑領域の特性の傾向は一致しているが,境界潤滑領域における特性
に差がある.すなわち,ゾンマーフェルト数が0.1以上では他の組み合わせと同
様に,流体潤滑理論線とほぼ同じ傾向にあるが,ゾンマーフェルト数が0.1以下
で理論線から離れはじめ,0.03以下になると摩擦係数が上昇する傾向を示してい
る.しかし前述の(Ⅰ)および(Ⅲ)の組み合わせの場合に見られた,荷重等の条件
変更途中における摩擦係数の急上昇現象や不安定現象は,ゾンマーフェルト数が
0.02においても発生しなかった.またこの試験条件では,前述の図5.6の場合の
ような負荷軸受の異常温度上昇も記録されなかった.
一方動荷重時の摩擦係数特性も図5.12に示すように静荷重時と同じ傾向である.
さてHFC−134aとアルキルベンゼン池の組み合わせ(Ⅲ)の場合の摩擦係数と,
HFC−134aとエステル池(I)およびCFC−12と鉱油の組み合わせ(Ⅲ)の場合の摩擦係
数のゾンマーフェルト数が小さい領域での相違について考察すると,前者におけ
る冷媒溶解度が後二者に比べて低いことが原因として考えられる.過去の研究(3)
では,冷媒溶解度の高い池の場合にはジャーナル軸受間でガス冷媒が発生して,
潤滑特性が劣化してくることが報告されており,本研究の場合にもその影響が顕
著に表れているのではないかと推測される.
以上のことを確認するために,試験装置に冷媒を封入しないで大気開放状態と
し,潤滑油として冷媒の溶解していない鉱油を用いた静荷重時の実験を行ったの
で,その場合の摩擦係数特性を図5.13に示す.この冷媒溶解のない鉱油の場合に
おいても,HFC−134aとアルキルベンゼン池の組み合わせ(Ⅲ)の場合と同様に,ゾ
ンマーフェルト数が0.03になっても摩擦係数の急上昇がみられない.このことは,
前述の推察を裏付けている.なお,大気開放状態の試験は組み合わせ(Ⅰ)∼(Ⅲ)
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図5.11摩擦係数特性 川FC−134a/アルキルベンゼン油,静荷重)
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図5.13 摩擦係数特性 (鉱油,静荷重)
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の実験で用いた軸受仕様とは異なり.軸径13mm,給油温度を60から100℃,粘度
で2∼3.5mPa・Sで実験したもので,幅径比L/Dが0.7∼0.8の副軸受の結果のまと
めである.
以上の結果から,実際の冷蔵庫用圧縮機の運転条件においては,冷媒が溶解し
にくい冷凍機池と溶解しやすい冷凍機池では,流体潤滑領域では摩擦特性に差は
ないが,ゾンマーフェルト数が0.05程度以下の境界潤滑領域になると摩擦特性や
摩耗特性の点で差が出てくるものと思われる.この理由は必ずしも明確ではない
が,厳しい境界潤滑状態では軸受温度が上昇し,冷凍機池に溶解している冷媒が
ガス化することによって,油膜切れが発生するものと推察される.
5.4 結論
冷媒と冷凍機油が共存し,実際の圧縮機が運転される条件において,HFC−134a
とエステル油の組み合わせにおけるジャーナル軸受特性を測定し,従来のCFC−12
と鉱油の組み合わせの場合と比較するとともに,肝C−134aと溶解しにくいアルキ
ルベンゼン池の組み合わせの場合の試験も行い,以下の結論を得た.
(1)ゾンマーフェルト数が0.1以上では流体潤滑状態にあり,この領域での摩擦
係数は,冷媒と池の組み合わせや冷媒溶解量の多少にかかわらずに同等であり,
流体潤滑の理論線とほぼ同じ傾向である.
(2)冷媒と池の組み合わせに関係なくゾンマーフェルト数が0・1以下になると境
界潤滑状態に移行し始める.しかし冷媒の溶解しやすい冷凍機池では,冷媒の溶
解しにくい冷凍機池に比べて,ゾンマーフェルト数が0.05程度以下の領域で,摩
擦係数の上昇,軸受温度の上昇が発生する.その傾向は従来冷媒と冷凍機油の組
み合わせ(CFC−12と鉱油)の場合も,代替冷媒と冷凍機油の組み合わせ
(HFC−134aとエステル池)の場合も同等である.
冷凍機池に溶解している冷媒は,境界潤滑領域においては,軸受摩擦特性だけ
でなく金属接触部分での極圧効果に影響することから摩耗特性にも影響を及ぼす
と考えらる.特に塩素を含まないHFC−134a冷媒を使用した場合に摩耗が増加する
ことが報告されている(8)−(9)ことから,実際の圧縮機運転条件において境界潤
− 95 −
滑領域での使用を避けることが望ましい.
参考文献
(1)柳澤,ローリングピストン形回転圧縮機のピストンの挙動と機械摩擦損失
(第1報,ピストン運動の測定と理論解析),機械学会論文集,Vol.C48
No.429,(1982),pp.732−740.
(2)E.Hazaki and k.Imai,Performance of Bearing Lubricated with Oiト
Refrigerant Mixure,Eurotrib.85−4,(1985),pp.5.2.j1−5.2.j5.
(3)H.Kobayashi and N.Wurata,The Effect of Refrigerant DissoIvedin Oil
onJournal Bearing Reliability,19861nternational Compressor
Engineering Conference at Purdue,(1986),pp・1013−1025・
(4)高田・京極・中原・新田・外山,空調用圧縮機軸受内の冷凍機抽流れの観察,
日本潤滑学会トライボロジー会議予稿集D・21(東京1992−5).(1992).
pp.363−366.
(5)服部,ロータリコンプレッサの回転体と軸受の複合解析,トライポロジスト,
Vol.38 No.10,(1993),pp.14−19.
(6)服部,ロークリコンプレッサ用ジャーナル軸受のE H L解析,日本機械学会
第72期全国大会講演論文集(Ⅳ).(1994),pp.398−400.
(7)日本機械学会編,すべり軸受の静特性および動特性資料集,(1984),pp・268−
273,日本工業出版.
(8)K.Takaichi and H.sakai,Lubricants for HFC−134a Compatible Rotary
Compressor,Proc.1992Purdue Compr.Tech.Conf・,(1992),pp・1035−1044・
(9)水原,代替フロン中の潤滑問題,トライポロジスト,Vol・38No・5,(1993),
pp.24−30.
− 96 −
第6章 総論
冷蔵庫におけるC F C規制やエネルギー規制の実施ならびに強化にともない,
冷蔵庫用冷媒圧縮機においては,従来とは異なる観点からのいろいろな技術的革
新が行われている.特に冷媒がCFC−12からHFC−134aに変更されるのにともない,
耐摩耗性,冷凍機油の加水分解安定性,冷却システムからの油のもどり性等の観
点から,冷凍機油,しゅう動材料並びに製造工程について大幅な変更を実施して
いる.しかしトライボロジー分野の研究においては,耐摩耗性の研究に比較して,
圧縮機の長期信頼性の確保並びに高効率化の極限までの追求にとって非常に重要
な潤滑油膜の形成に関しての研究はあまり進んでおらず,特に圧縮機運転中の潤
滑状態については不明な点が多い.本研究は,従来のCFC−12冷媒と冷凍機池の組
み合わせとHFC−134aと冷凍機油の組み合わせで,圧縮機運転中に主要なしゅう動
部の潤滑油膜の形成に差があるのかどうかについて明らかにすることによってト
ライボロジー面での改善の方向性を示すことを目的としている.特にHFC−134aに
おいては,冷凍機池との溶解性の違いによって潤滑油膜の形成に差があるのかに
っいての検討も行った.本研究で考察の対象としたしゅう動潤滑部は,冷媒圧縮
機で最も厳しい潤滑状態にある往復圧縮機の連接棒小端部軸受とロータリ圧縮機
のベーンとピストン間のしゅう動部.並びにどの圧縮機にも共通的に使用されて
いるジャーナル軸受である.それらの結果を総括すると以下のようになる・
[往復圧縮機の連接棒小端部の軸受]
揺動運動を行う上に動荷重が作用する小端部軸受の特性について,電気抵抗法
による圧縮機運転中の軸受特性の実験,モデルによる要素実験ならびに理論解析
のそれぞれの結果を比較することにより潤滑油膜の形成状態について詳細に検討
してきた.まず軸受要素実験から,揺動軸受の場合回転軸受では容易に油膜形成
する圧力条件,回転数条件でも潤滑油膜が形成されにくく,軸は荷重点付近の軸
受壁面に沿って揺動角度の1/2の角度範囲で揺動運動することが明らかになった・
また実機運転中の圧縮機の小端部軸受では,軸と軸受間で金属接触の発生する厳
ー 97 −
しい潤滑状態にあった.そして金属接触率は,吸込み圧力が低く,吐出し圧力が
高いほど,また圧縮機回転数が低いほど多く,U/F(すべり速度と荷重の比
率)が小さいほど高くなるとの相関関係があることが確認できた.さらに
U/Fの変化傾向は代替冷媒であるHFC,134aとエステル油,および従来冷媒の
CFC−12と鉱油の組み合わせで差が無いことも明らかになった.
すなわち圧縮機の設計においては,U/F ができるだけ大きくなるような圧
縮機仕様とすることが望ましく,また潤滑油膜の形成の観点からだけを考慮する
と,代替冷媒では従来冷媒と使用条件が同じであれば粘度だけに注意すれば良い
ことが示唆される.なお本論文では,過渡運転時の潤滑状態まで言及できなかっ
たかこの検討も推進中であり,今後明らかになるものと考える.
[ロータリ圧縮機のベーンとピストン]
ロークリ圧縮機において線接触するために最も厳しい潤滑状態にあるベーンと
ピストン間について,安定運転状態と過渡運転状態におけるピストン自転挙動の
計測とその結果に基づく理論解析を行うことによって,摩擦係数や油膜厚さを予
測し潤滑状態を推定した.まず安定運転状態でのピストン自転数は,CFC−12と鉱
油,HFC−134aとエステル油,HFC−134aとアルキルベンゼン油のそれぞれの組み合
わせで差があるが,これは粘度の違いによるものでありベーンとピストン間の摩
擦係数に差はなく0.02∼0.03程度であった.また圧力差の変化に対する摩擦係数
の変化も小さかった.さらに機械力学的解析ならびに簡易的なE H L潤滑解析に
よると,軸一回転中のベーンとピストン間の潤滑状態はベーンとピストン間の相
対速度が零になる時に摩擦係数が最大,油膜厚さは最小となり,また油膜厚さは
0.1/Jm以下と非常に薄く,この油膜厚さから表面粗さを考慮して計算した膜厚
比は0.32であった.以上の摩擦係数の値ならびに膜厚比から予測するとどちらの
結果からもベーンとピストン間の潤滑状態は境界潤滑域にあると予測された.
方過渡運転状態では,液圧縮が発生するほどの液もどりがあるとピストンの自転
数が低下し,この液圧縮の継続時間が長いほどピストンの自転数の低下時間が長
いことが明らかになった.この自転数が低下しているときのベーンとピストン間
の摩擦係数は,定常運転時や液圧縮しない場合の摩擦係数である0.02∼0.03に対
して0.11と高くなっていることから,しゅう動部は乾燥摩擦域の厳しい潤滑状態
− 98 −
にあるものと推察された.そして,液圧縮が発生したときのベーンとピストン間
の摩擦係数の上昇による自転数の低下は,冷媒が溶解しにくいHFC−134aとアルキ
ルベンゼン油の組み合わせにおいても発生することから,ベーンとピストン間の
油の洗い流しは化学的なものではなく物理的なものであることが確認された.
以上のように,本研究の検討範囲では,従来冷媒や代替冷媒と冷凍機油の組み
合わせによってベーンとピストン間の潤滑状態に差はないと推察され,エステル
油では冷媒が溶解すると粘度の急激な低下による油膜破断が発生し易いという従
来の報告にある潤滑状態の変化は認められなかった.しかし軸一回転中の最小油
膜厚さの計算結果をみてみると油膜厚さは非常に薄く,自転数の差としては確認
できないものの実際は摩耗に影響する油膜破断が発生している可能性もあること
からさらに詳細な検討が必要である.この点に関しては現在,ベーンとピストン
部を対象として・表面粗さの影響を含めた混合潤滑領域でのEHL解析を推進中
であり,さらに詳細な特性差の把握が可能になるものと期待できる.またロータ
リ圧縮機の使用に際しては,液圧縮を防止することが信頼性の確保の点で非常に
重要である.
[ジャーナル軸受]
冷媒と冷凍機池が共存し実際の圧縮機が運転される条件において,HFC−134aと
エステル油の組合せにおけるジャーナル軸受特性を測定し,従来のCFC−12と鉱油
の組合せの場合と比較するとともに,HFC−134aと溶解しにくいアルキルベンゼン
池の組合せの場合の試験を行った.まずゾンマーフェルト数が0.1以上では流体
潤滑状態にあり,この領域での摩擦係数は,冷媒と油の組合せや冷媒溶解量の多
少にかかわらずに同等であり,流体潤滑の理論線とほぼ同じ傾向である.ゾンマ
ーフェルト数が0・1以下になると冷媒と油の組合せに関係なく境界潤滑状態に移
行し始める・しかし冷媒の溶解しやすい冷凍機池では,冷媒の溶解しにくい冷凍
機池に比べて,ゾンマーフェルト数が0.05以下の領域で,摩擦係数の上昇,軸受
温度の上昇が発生する・その傾向は従来冷媒と冷凍機池の組合せ(CFC−12/鉱油)
の場合も,代替冷媒と冷凍機油の組合せ(HFC−134a/エステル)の場合も同等で
ある.
冷凍機池に溶解している冷媒は,境界潤滑領域においては,軸受摩擦特性だけ
ー 99 −
でなく金属接触部分での極圧効果に影響することから摩耗特性にも影響を及ぼす
と考えらるので,特に塩素を含まないHFC−134a冷媒では,実際の圧縮機運転条件
において境界潤滑領域での使用を避けることが望ましい.
以上が冷媒圧縮機の各しゅう動部において潤滑状態を実験と理論解析により検
討してきた結果であるが・総括すると,従来のCFC−12冷媒と鉱油の組み合わせと
比較して・代替冷媒の肝C−134a冷媒とエステル池を使用する場合では,どのしゅ
う動部においても流体潤滑域における潤滑油膜の形成や境界潤滑域における金属
接触の発生程度に差はなかった.しかし境界潤滑領域にあ・る場合には,アルキル
ベンゼン油のような冷媒の溶解しにくい冷凍機油を選択する方が潤滑油膜の形成
と摩耗の点で有利となる場合があると考えられ,特に塩素を含まず潤滑性が劣る
HFC−134aを冷媒として使用する場合にはこの点に対する配慮が必要である.また
多くの文献で指摘されている代替冷媒で摩耗が多いことに関して,この原因は本
論文で述べてきたように圧縮機運転時の潤滑状態の差ではなく,冷媒自体の潤滑
摩耗特性の差によるものであることが明らかになった.
本研究では冷媒圧縮機におけるいろいろなしゅう動部について,実験と理論解
析によりその潤滑状態の解明を行ってきたが,これらの評価方法や評価結果が今
後の冷媒圧縮機の開発設計に役立つものと確信する.
− 100 一
記号の説明
[往復圧縮機]
a :連接棒の重心と小端部中心間の距離
b :連接棒の重心と大端部中心間の距離
e :軸受における軸中心の偏心量
F。:連接棒小端部からピストンピンに作用する荷重(= F。X2+F。,2)
F‖:連接棒小端部からピストンピンに作用するⅩ方向荷重
F。,:連接棒小端部からピストンピンに作用するy方向荷重
F。:軸受に作用する荷重
F f :ピストンとシリンダ間の摩擦力
Fg :ピストンに作用するガス圧縮荷重
F。‘:ピストンとシリンダ間の側面荷重
Ⅰ。:連接棒の慣性モーメント
L :連接棒小端部軸受の幅
且 :連接棒の小端軸受と大端軸受の中心間距離
M。:連接棒の質量
M‥:連接棒の往復等価質量
M。:ピストンとピストンピンの質量
N :運転周波数
p :油膜圧力
P e :圧縮機吸込み圧力(絶対圧)
P。:圧縮機吐出し圧力(絶対圧)
R :クランク偏心量
r :連接棒小端部軸受の半径
△r :連接棒小端部軸受の半径すきま
t :時間
T :油の温度
U :連接棒小端部軸受内面におけるピストンピン間のすべり速度
ー 101 −
Ⅹ :ピストン変位
β :連接棒の回転角
と :偏心率(=e/△r)
β :軸受の最大油膜厚さ位置からの角度
β。:クランク軸回転角
ス :クランク連接棒比(=R/且)
〝 :油の粘度
¢ :軸受における軸中心の偏心角
¢ ‥連接棒中心線から荷重作用方向までの角度
山 :クランク軸回転角速度
山f ‥回転荷重方向の変化角速度(=d¢/d t)
山。。:ピストンピンの相対回転角速度
[ロータリ圧縮機]
C。:軸受半径すきま
D :軸受直径
E :等価弾性係数
El :ピストン材料の弾性係数
E2 :ベーン材料の弾性係数
FA :ピストンとベーン間の垂直接触力
Fb :ピストンとベーン間の摩擦力
F。:ピストンとシリンダ間の半径方向粘性力
Fd :ピストンとシリンダ間の円周方向粘性力
Fe :ピストン端面と軸受端平面間の粘性摩擦力
F f :ピストン軸受の荷重
Fg :シリンダ内の圧力差による力
H :シリンダの幅
hmin:ベーンとピストン間の最小油膜厚さ
Ⅰ。:ピストンの慣性モーメント
L :軸受幅
ー 102 −
Ma :ピストン両端面の摩擦モーメント
M。:ピストン内径の摩擦モーメント
N :軸回転数
Rl :ピストン外周半径
R2 :ベーン先端の半径
R3 :軸受半径
R :等価曲率半径
S :ゾンマーフェルト数
u :ピストンとベーン間の相対すべり速度
W :単位幅当たりの荷重
α :粘度の圧力係数
符0 :大気圧下の潤滑油粘度
か :潤滑油粘度
〝】:ピストンとベーン間の摩擦係数
〝2 :ピストンと軸間の摩擦係数
レl :ピストン材料のポアソン比
レ2 :ベーン材料のポアソン此
¢ :ピストン中心まわりの回転角
¢ :すきま比(=C p/R3)
− 103 −
謝 辞
本研究は,著者が社会人入学により静岡大学大学院電子科学研究科(博士課程)
に在学し,清水孝教授のご指導のもとに行−ったものであります・ここに深く感
謝の意を表します.研究の遂行にあたって有益なご助言,ご教示をいただいた
静岡大学工学部の柳澤正 教授に心から御礼申し上げますとともに,福田充宏 助
手,小木康博 教務員に御礼申し上げます.
本論文の作成にあたり,貴重なご意見 ご教示をいただいた静岡大学工学部の
中山顕 教授,森田信義 教授,野飼享 教授に厚く御礼申し上げます.またロー
クリ圧縮機のベーンとピストン間の潤滑につきまして,現在推進中のEHL解析
を通じて貴重なご指導を頂きました,東京工業大学工学部の小野京右 教授に深
く感謝申し上げます.
著者に社会人入学の機会を与えて下さり,本研究の遂行に終始ご理解をいただ
いた松下冷機株式会社の窪田正社長,里田甫取締役,横井清重 室長ならびに
梶原孝生 元専務取締役に厚く感謝致します.
また本研究を進めるにあたり,実験,解析ならびにデータ整理等にご協力いた
だいた同社冷機研究所の森田一郎技師と明石浩美,小林正則,八木章夫,稲垣耕・
片山誠,西村晃一,林陽の各社員ならびに当時大学院生で現在同社コンプレッサ
ー事業部の長尾崇秀社員,当時卒研生の奥谷仰君に感謝致します・またいろいろ
な面でご支援を頂いた同社冷機研究所,コンプレッサー事業部ならびに流動制御
工学講座の皆様にも感謝致します.
最後に妻祥子と家族に感謝します・
ー 104 −
論文目録
1.静岡大学大学院電子科学研究科研究報告,No.16,(1995−3),pp.105−112.
ロークリ圧縮機の過渡運転時のローラピストンの挙動
吉村多佳雄・清水孝・森田一郎・小林正則
2.Proceedings of the19thInternational Congress of Refrigeration,
Vol.3A,(1995),pp.215−222.
Takao YOSHIXURA,Ichiro MORITA,Masanori KOBAYASHI,Koh 川AGAKI and
Makoto KATAYAMA
The Lubricating Characteristicsin a Rotary Compressor
3.日本冷凍協会論文集,Vol.12 No.3,pp.89−−100.
往復圧縮機における連接棒小端部の揺動軸受特性に関する研究
吉村多佳雄・清水孝・柳澤正・長尾崇秀
4.日本機械学会論文集(C編),Vol.62 No.594,pp.249−255.
HFC−134aおよびCFC−12冷媒の溶解した冷凍機池を用いたジャーナル軸受の特
性
吉村多佳雄・森田一郎・小林正則
5.日本機械学会論文集,投稿中.
往復圧縮機における連接棒小端部軸受の潤滑状態に関する実験的研究
吉村多佳雄・明石浩業・八木章夫
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