「Amazing Grace」な研究者を目指して「悠々として急げ」 京都大学名誉教授 今西幸男 「Amazing Grace」は讃美歌の一つ[作詞:John Newton(1725―1807,英国の実業家)、 曲:アイルランドかスコットランドの民謡あるいは18世紀南部アメリカのメロディー] と言われており、日本では本田美奈子や奥田真祐美らが歌って、今や結婚式で歌われる定 番曲となっている。邦題は「素晴らしき(神の)恩寵」とするのが一般的であるが、辞書 によると Grace には「上品」、「優美」という訳が第一に示されている。私は若い研究者の 将来目標として「品格のある(graceful)研究者を目指せ」と言いたい。 私の出身高校である大阪府立天王寺高等学校は、数多くの著名な卒業生を持つが、その 中に旧制天王寺中学校50期生の開高 健が含まれる。開高 健(1930∼1989)は「裸の王 様」(1957)で第 38 回芥川賞を受賞した作家であり、多くの文学作品に加えてコピーを残 している。コピーの一つが「悠々として急げ」である。自動車の運転に例をとると、軽乗 用車が混雑する道路をエンジン全開で走行する様子には、ゆとりが感じられないが、ロー ルスロイスが高速道路をゆったりと走る様子には、何とも言えない優雅さが感じられる。 いうまでもなく、研究には熱中が必要である。自然の現象に接して「なぜこのような現 象が起こるのか」、 「このような物を作り出すにはどうすればよいか」と興味や関心を示し、 問題を解くことに熱中することは研究者としての最低必要条件である。さらに、目標に向 かって進む際には、基礎をしっかりと固め、予想あるいは期待と合わない結果に遭遇して も、それらを看過せずに分析・検討することが必要である。悠々として急ぐことができる ならば、Graceful な研究者になれること請け合いである。 (平成 28 年 1 月 1 日)
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