声 仮面ライダーW SS ID:71566

声 仮面ライダーW SS
ケイス・ロンタイ
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︻あらすじ︼
ケイス・ロンタイと申します。
仮面ライダーWの短編の物語です。
ご意見ご感想等ありましたら、宜しくお願いします。
pixiv様、ss投稿掲示板様等にも同一の作品を載せていま
す。
読みやすいほうでお気軽にどーぞm︵︳ ︳︶m
目 次 声 仮面ライダーW SS ││││││││││││││││
1
声 仮面ライダーW SS
静かな夜だった。
この世の全てが暗黒に包まれてしまったような、不吉な夜。
月齢では本日は満月。
しかし、空は厚い雲で覆われており、星どころか月すらもみえない。
風も亡く、人もまったくいない裏路地で、まるで世界に自分ひとり
だけが取り残されているような錯覚に陥る。
この街はとても強い風が吹くことで有名なはずなのだが、この日は
不気味なくらいに風が凪いでいた。
﹁ハァ、ハァ、ハァ、﹂
私は今、追われている。
誰に追われているのか、何故追われているのか、どこに助けを求め
ればいいのかすらも分からない。
何も考えがまとまらないまま、とにかく私は走る。
﹁ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、﹂
全力疾走なんて学生のとき以来だ。
走ることを忘れた私の足は、最初の10歩程度で軋みだした。
肺は体に充分な酸素を入れることができず。
喉は焼けるように熱い。
それでも、走る。
だって、もし私が歩みを止めてしまったら。
そこが私の人生の終着点になってしまうのだから。
自分で言うのも何なのだが。
私はこの街に住む、ごくごく平凡な一般人だと思う。
平日は朝から晩まで働き、家ではテレビをみながらご飯を食べ、適
当にダラダラしてようやく床に就く。
1
週末には友人と遊んだり誰もつかまらなかったら家で映画のDV
Dをみているような、どこにでもいる小市民。
特定の誰かに恨みをかったことなどないし、何か良くない犯罪に手
を染めたこともない。
今日だってこんなに夜遅いのは、たまっていた会社の事務整理に思
いのほか手間取ってしまったからだ。
やっとの思いで本日の仕事に決着をつけ、会社から出る。
ぱきぱきっと首を鳴らして携帯で時刻を確認する。
どうやらいつもの帰宅時間を大幅にすぎてしまったようだ。
普段なら人のいる大通りから帰るのだが、それだと電車に確実に乗
り遅れてしまう。
なので、少し怖いが近道の裏路地から帰ることにした。
怖いといっても、もう何度も通っている道なので特に不安はなかっ
た。
2
何てことはない。
このまま歩いて電車に乗り、帰ってシャワーを浴び、毎週楽しみに
しているテレビ番組をみながらご飯を食べ、時間になったら寝る。
いつものささやかな日常の繰り返し。
何もないけれど、それでも大切だと胸をはれる、とてもかけがえの
ない日々。
今日だってそうなるはず。
︶
そうなるはず、だったのだが。
︵Anomalocaris
機械の電子音のような声。
右に曲がり、左に曲がり、また右に曲がり。
裏路地をがむしゃらに走る。
﹁ハァ、ハァ、ハァ、﹂
この声を境に、私の人生はくるっと反転した。
!!!
とにかく走る。
止まることは許されない。止まってしまったら、私の全てが終わっ
てしまう。
走りすぎてもう何も感覚がない足。
満足に空気が入ってこない肺。
早鐘のように鼓動を乱打する心臓。
息なんか荒くなりすぎて、まるで盛りのついた犬のようだ。
﹁ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、﹂
それらの一切を無視して力の限り走る。
自分は走ることしかできない機械か何かなのだと。
もし走ることを止めてしまったら自分はお払い箱なのだと。
そんなバカなことを必死で自分に言い聞かす。
しかし、その逃走劇は突然に幕を下ろされた。
路地の行き止まり。
耳に突き刺さる。
﹁・・・・・・・。﹂
私はおそるおそる、たっぷり時間をかけて振り返る。
■■■■ーーーー
そこには、
エビやカニのように硬そうな甲羅。
無機質で大きな黒目。
正真正銘の、化け物がいた。
!!!"
3
分厚いコンクリートの壁が、突如私の前に立ちはだかった。
焦る、焦る、焦る。
出口らしきもの、自分の体をすべりこませそうな窓をさがす。
探す、探す、探す、さがす、さがす、さがす。
■■■■ーーーー
しかし何もない。
!!!"
およそ生き物の鳴き声とは思えない、悲鳴にも似た甲高い声が私の
"
"
刃物のように鋭い爪と牙。
■■■■ーーーー
そんな異形を持ちながら、それは人間のように二足で立っていた。
■■■■ーーーー
・・・・・・・
怪人は私の心情なんか気にせず、ただこちらを見ている。
私の愛した日常は、きっとこの路地裏の袋小路で終わりになる。
私はきっと、明日の太陽をみることはできない。
もう、ダメだ。
ゲットにしたのだ。
自動販売機でジュースを選ぶくらいの気軽さで、こいつは私をター
人が邪魔だという理由で虫を踏み潰すのと同じこと。
ただ、たまたま目についた私を襲ってみただけ。
こいつには、理由なんか無いんだ。
かったような気がした。
私はここにきて、この怪人になぜ襲われたのかようやく理由が分
ああ、なんだ、と私は思う。
﹁・・・・・・・。﹂
不意に私と目が合う。
一歩、また一歩、とそいつは歩を進めてくる。
その怪人はゆっくりと私に歩み寄ってくる。
私はその場でヘタりこむ。
あまりの恐怖に腰が抜けてしまった。
ぺたん。
こそぎ奪い取っていく。
その不快な声は、私から逃げるための気力と生きるための希望を根
!!!"
!!!"
そのありったけの狂気を詰め込んだような凶器を、月光が怪しく照
その腕の先には、金属をも簡単に断ち切れそうな鋭い爪。
そいつは手を振り上げる。
弱い者をただ弱いというだけで見下すような、気持ちの悪い笑顔。
気のせいか、その顔は笑っているようにみえた。
"
4
"
"
"
らしている。
・・・・・・月光
おかしい。
本日は雲が厚くて星はおろか月ですらみえないはずなのだが
くるくるくるくる・・・・・
下のほうから音がする。
足元をみると、かざぐるまが勢いよく回っていた。
■■■■ーーーー
のだろう。
きっとこの街の風が、あの厚くて不気味な雲を吹き飛ばしてくれた
空を見上げると、綺麗な満月が顔を出していた。
風こそがこの街の象徴なのだ。
るところには様々な形状の風車が設置してあった。
この街はとても強い風が吹くことで有名であり、そのためか街の至
?
?
■■■■ーーーー
■■■■ーーーー
■■■■ーーーー
怪人、は、こちらを、みる。
その理不尽な怒りの矛先が私にかわるのに数秒とかからなかった。
しかし。
風情だった。
どこにその苛立ちを発散したらいいのか、よく分からないといった
ようなしかめっつら。
まるで、楽しく遊んでいる最中に親にケチをつけられたときの子供
の月光が、思いのほかうざったらしかったらしい。
突然吹いたこの爽やかな風とすべての希望を照らし出すようなあ
たようだ。
どうやらこの怪人は、さっきの暗くて不気味な雰囲気が好ましかっ
いうふうにみえた。
いや。実際のところはどうか分からないが、少なくとも私にはそう
怪人は顔をしかめた。
!!!"
!!!"
!!!"
!!!"
5
"
"
"
"
■■■■ーーーー
■■■■ーーーー
びゅんっ
しかして、その、怪人の、爪は。
怪人、は、爪を、ふり、あげる。
!!!"
!!!"
︵Cyclone
︶
!!!
・・・
﹁ふむ。
ただし、影は一つだけ。
ントがいなくならねぇんだ
﹂
﹁しっかし、園崎家も財団Xの加頭も倒したってのにどうしてドーパ
目をこらすと路地の入り口のところに人影がみえる。
この場に不釣合いな、なんとも落ち着いた二つの声。
続いて聞こえた別の声。
いだね﹂
﹁やはり犯行は月齢の周期に合わせて、場所を変えて行っていたみた
﹁やっと見つけたぜ、この通り魔野郎﹂
先ほどと同じ、機械の電子音のような声。
突然の声に怪人の手が止まる。
・・・・・・かのように思えた。
︵Joker
︶
と、音を立てて、私の胴体を真っ二つにした。
!!
!!!
???"
影は一つだけのはずなのに、その声たちは確かにその人影から聞こ
・・・・・・実に興味深いね﹂
もし、そうだとするならば。
あるいは、まだ僕たちの知らない第三勢力がいる、とも考えられる。
ろう。
たぶん財団Xの残党がまだガイアメモリの売買を続けているのだ
はないかな。
この前のEXEの一件もあるが、、今回のケースはおそらく別口で
?
6
"
"
"
■■■■ーーーー
えた。
・・・・・・・っ
﹁ふ、男が細かいことを気にすんな。
れば今月も赤字は確実だと思うのだが
﹂
情報料をかなりふんだくられてしまった。 僕の記憶違いでなけ
しかし、いいのかい
﹁ふむ、確かに。
犯行現場の特定にはもっと時間がかかっていただろうぜ﹂
こいつはウォッチャマンに感謝だな。あいつの情報がなかったら、
﹁まぁともあれ。
た。
顔もマスクで覆われており、その両目で光る赤い複眼が印象的だっ
右が緑、左が黒のアシンメトリーの怪人。
ただ、このエビの化け物とはまったく違う姿をしていた。
つまるところ、その声の主も怪人だった。
その月明かりで、一連の声の主の正体が明らかになった。
雲が晴れ、月の光がいっそう濃くなる。
はここで破綻するかもしれないということを予期しているのか。
実はある程度あの影の正体を理解していて、出会ってしまった自分
とも、
あの得体の知れない人影に、未知への不安を抱いているのか。それ
というよりかは、怯えているかのようにみえた。
怪人は驚いている。
自
﹂と言わんばかりに、さらに強い風が吹く。
というアピールまじりの威嚇のようにみえた。
びゅうううっ
・・・っ
その怪人に﹁黙れ
!! "
まるでその人影を取り巻く竜巻のような強い風。
!
分を無視するな
しかし、その咆哮はさっきのように勝ち誇ったものではなく、
突然の来訪者に怪人が吠える。
!!!"
!"
?
?
7
!??"
"
"
"
"
いいか、男の仕事の八割は決断。 そこから先はおまけみたいなも
んだ。
報酬なんざ二の次。
それが、ハードボイルドってやつなのさ﹂
﹁・・・・・・ふむ、なるほど。
その考えは全く理解はできないが、君の考えはよく分かった。
それじゃあ、所長に怒られる役は君に一任するとするよ。
﹂
あのスリッパはかなりの攻撃力を持っている、僕向きじゃない。﹂
﹁ぅおいっ
﹁それに僕は、一刻も早く片付けて﹁とうふ﹂の検索を続けたいからね﹂
﹁・・・・・・とうふって、お前な﹂
・・・・・・・。
私はあっけを取られてしまった。
︶みたいなもの
その奇妙な一体の人影は、この緊迫した状況の中でも全くショック
を受けた様子もなく、あまつさえ自分の職業理念︵
について語り始めてしまったのだ。
﹁・・・っと、
いけない、意識、が、遠く、なる。
今まで張り詰めていた心の糸が切れてしまったらしい。
そう思ったら私は、突然体から力が抜けてしまった。
ぱたり。
あった。
もう二度と聞くことはできないと覚悟した日常の声が、そこには
どこにでもある、かけがえのない大切なもの。
私が愛した、とりとめのないささやかな日々。
それはまるで、友人同士が話すような下らない会話の一幕だった。
でも。
内容はまったく意味不明で、まるで理解不能だった。
出している。
しかも、もう一つの声に至っては、とうふの検索がどうとかと言い
?
ま、早く終わらすってことに関しては俺も賛成だ。
8
!?
あのか弱い女の子をいつまでもこんな暗い路地に寝かしておくわ
けにはいかねぇ。
│││半分力貸せよ、相棒﹂
﹁やれやれ、相変わらず君は甘いな。
そんなことだから、いつまでたってもハーフボイルドを卒業できな
いのだよ。
まぁしかし、それが君の良いところでもあるのだがね。
いいだろう。力はいつだって貸してやるさ。
なんたって、
という声が遠くに聞こえる。
│││僕たちは二人で一人の探偵だからね﹂
ハーフボイルドっていうな
﹁・・・・・・・。﹂
ああ、そうか。
思い出した。
通り魔野郎
﹂
落ちてゆく意識のなか、私はある噂を思い出した。
﹁さぁて、覚悟はできてるか
この街には伝説がある。
てもらうよ
﹂
﹁君の犯行原理には実に興味がある。倒したあとでじっくり調べさせ
!
風があるという。
﹁﹁さあ、﹂﹂
﹂﹂
その風の名を、人々は親愛と敬意と畏怖を込めて、こう呼んだ。
仮面ライダー
!
、と。
"
9
!
?
曰く、街のどこかで誰かが悲しい涙を流したとき、必ず吹く一陣の
?
﹁﹁お前の罪を数えろ
"