EY総研インサイト - EY総合研究所

EY総研インサイト
Vol.5
January 2016
EY Institute
特集
スポーツの潜在力を経営に活かす
レポート
Fintechは既存金融サービスをディスラプト
(破壊)
するか
わが国企業における
「取締役会評価」の在り方を考える、
他
CONTENTS
EY 総研インサイト
Vol.5 January 2016
特集
02
スポーツの潜在力を経営に活かす
未来社会・産業研究部 主席研究員 小川 高志
企画・業務管理部 副部長 笹渕 拓郎
04
Ⅰ章 スポーツを通じて健康経営、
健康社会の実現を
10
Ⅱ章 スポーツホスピタリティ市場の形成を
14
Ⅲ章 スポーツの経済効果を
持続的なものとするために
16
Ⅳ章 スポーツの潜在力を活かし、
マーケティングとマネジメントの変革を
レポート
22
高齢者発の日本企業の成長シナリオ ー超高齢社会のデザインー
未来社会・産業研究部 エコノミスト 鈴木 将之
28
Fintech は既存金融サービスをディスラプト(破壊)するか
未来社会・産業研究部 上席主任研究員 廣瀨 明倫
34
わが国企業における「取締役会評価」の在り方を考える
ー「コーポレートガバナンス元年」に求められる PDCA サイクルの構築ー
未来経営研究部 主席研究員 藤島 裕三 40 会社概要、バックナンバー
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
1
特集
スポーツの潜在力を
経営に活かす
EY 総合研究所
未来社会・産業研究部 主席研究員 小川 高志
企画・業務管理部 副部長 笹渕 拓郎
2
EY Institute
2015 年のスポーツ界は、ラグビー W 杯イングランド大会における日本代表の歴
史的活躍という新しいシーンが加わり、世代を超えてスポーツへの関心が盛り上がっ
た。そして、今年は、2016 年リオ五輪の開催の年であり、ラグビー W 杯 2019 日
本大会、2020 年東京五輪等、日本でのメガスポーツイベントへの取り組みが本格化
する年である。これを契機に、「スポーツの価値」を活かして経済の活性化に取り組
みたい。
「スポーツの価値」には、
「スポーツそのものの価値(value of sport)」と「スポー
ツを通じて生み出される価値(value through sport)」の両面がある。「スポーツそ
のものの価値」とは、スポーツの実施を通じた心身の発達を指し、わが国においては、
長い間、「スポーツそのものの価値」が重視されてきた。他方、「スポーツを通じて生
み出される価値」には、スポーツの実践による健康経営の構築、スポーツ観戦によっ
て生じる感動や人々の絆による経済効果などが挙げられるが、これらの多様な価値は
これまで十分利用されておらず、こうした「スポーツの潜在力」を、今後、経営に活
用していくことが期待される。
スポーツの価値や潜在力を活かすための具体的な取り組みに当たっては、スポーツ
のステークホルダー間の関係強化が重要だ。すなわち、スポーツのステークホルダー
は「スポーツをする人」、
「見る人」、「支える人」の三者で構成され、「支える人」と
しての企業による支援も「企業の社会的責任」(CSR)の観点から側面的な支援にと
どまっていたものが多かったが、スポーツの潜在力に注目することで、スポーツがビ
あらわ
ジネス活性化に直接効果があることに気づく企業が顕れてきている。
本特集では、多様なスポーツの潜在力を取り上げ、それを活かした形でのビジネス・
経済活性化の方向を提示することとしたい。
スポーツの価値をとりまくステークホルダーの輪
する人
見る人
スポーツの価値
スポーツ
そのものの
価値
スポーツを通じて
生み出される
価値
支える人
出典:EY 総合研究所作成
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
3
特集
スポーツの潜在力を
経営に活かす
はじめに
今、スポーツに関する領域は、その健康面への効果、
スポーツイベントの拡大・巨大化、スポーツビジネス
Ⅰ章
スポーツを通じて
健 康 経 営、 健 康
社会の実現を
の発展と多方面に広がっているが、その中心にあるの
は間違いなく「スポーツをする人」であるということ
である。まずは「スポーツをすること」の意味合いか
ら、特に健康寿命や社会保障費という文脈からも語ら
れることの多い健康面に及ぼすその影響について整理
を行い、そこから見えてくる個人の健康、経営への影
響、健康な社会の実現に向けて、スポーツの持つ潜在
力について考えてみたい。
身体運動の不足
生活習慣病の増加が、日本全体の大きな課題となっ
てから久しい。その要因はさまざまあるが、主要なも
のの筆頭に身体活動量の減少が挙げられる。身体活動
(Physical
Activity)は、身体を動かし、活動させ
ることで、安静状態よりも多くのエネルギーを消費す
ることであり、スポーツは、その中で特に健康・体力
の維持増進や余暇、競技として計画的・意図的に行わ
れるものになる。
国際的にみても、身体活動量が多い者が不活発な者
と比較して、循環器疾患や悪性腫瘍、2 型糖尿病など
の NCDs*1 発症リスクが低いことも多くの疫学研究
にて明らかになっており、世界保健機関(WHO)の
公表においても、全世界の死亡に対する危険因子の第
4 位として、身体活動の不足を挙げている *2。わが国
における健康をめぐる現状をみても、同じ状況ないし
は高齢化社会の進展度合いから、さらに深刻な状況に
あるといえる。医療費に占める割合(30% 以上)と
死亡割合(50% 以上)や、介護が必要となった主な
原因(30% 以上)をみても、生活習慣病が個人の健
康や生活、国の財政へ多大な影響をあたえていること
は明らかであり(<図 1 >参照)、身体活動の増加が
世界および日本の個人・社会における喫緊の課題であ
る。
4
EY Institute
Feature
スポーツの位置付け
スポーツを、身体活動の概念に内包されたものとし
性が、「健康」という切り口からも、これまで以上に
てみた上で、いったんスポーツの位置付けについて考
高まっていることは、15 年 10 月に発足したスポー
えてみたい。
ツ庁の初代長官が、元トップアスリートであり、大学
スポーツの起源や、その語源など諸説あるものの、
教授として健康とスポーツを専門分野にしているのも
近現代におけるスポーツの概念確立は、英国に端を発
決して偶然ではないであろう。
している。長らくはアマチュアリズムの精神のもとで、
スポーツは、前述の WHO の勧告における身体不
スポーツの身体活動の表現としての形を作り、オリン
活動を是正する重要な鍵となる。一定強度の運動を定
ピック等の世界的な競技会も発展した。次に欧州で発
期的かつ継続するには、習慣化が必要であり、行動の
祥したものを、米国流にアレンジ・発展したスポーツ
習慣化は、行動変容ステージにおける変容プロセス *3
(野球、アメリカンフットボール等)や、米国にて新
で捉えると理解しやすい(<図 3 >参照)。スポーツ
種のスポーツ(バスケットボール、バレーボール等)
実施の習慣化に向けてステージを移行していく際に、
が生まれ、プロ化、スポーツ科学の新興、スポーツイ
意識の高揚、感情的経験、コミットメント、刺激の統
ベントの商業化など、アメリカナイゼーションの波が
制等のプロセスにおいてスポーツの持つ効果が活用で
スポーツ全体にも波及した。英国で発祥したスポーツ
き、またステージの逆戻りに対しても抑制が期待でき
を便宜上「第Ⅰ期」、米国を中心とした発展を「第Ⅱ期」
る。また、近年の研究では、低強度での有酸素運動だ
と呼ぶならば、今はスポーツの競技性以外の価値をよ
けでなく、骨格筋を中心に筋力増強を目的とした高負
り高め、健康社会・健康経営実現に向け、その価値を
荷トレーニングも、高齢者の健康寿命延伸には有効で
活用・確立していくことで、スポーツが真に社会や文
あることがわかってきており、その面からもスポーツ
化の一部となるべく「第Ⅲ期」に差し掛かっていると
の重要性は注目されてきている。
いえる(<図 2 >参照)。第Ⅲ期の発展と定着の必要
図 1 生活習慣病が医療費に占める割合、死亡割合、介護が必要になった要因に占める割合
傷病分類別にみた医科診療医療費
死因簡単分類別にみた死亡数
介護が必要になった主な原因の構成割合
悪性新生物,
11.8%
高血圧性
疾患 , 6.6%
心疾患 ,
6.2%
その他 ,
65.1%
その他,
44.7%
脳血管疾患
(脳卒中)
,
18.5%
悪性新生物,
28.8%
脳血管疾患,
6.2%
糖尿病,
4.2%
脳血管
疾患,
9.3%
高血圧性
疾患, 0.6%
高血圧性
疾患 , 6.6%
高血圧性
疾患 , 6.6%
脳血管
疾患,
9.3%
呼吸器
疾患,
2.4%
その他,
69.5%
高血圧性
疾患 , 0.6%
糖尿病,
1.1%
出典:厚生労働省『平成 25 年度国民医療費』『平成 25 年人口動態統計』『平成 25 年国民生活基礎調査の概況』より EY 総合研究所作成
(注)介護については、要介護度別の要支援者と要介護者の総数での原因割合で示す。
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
5
スポーツの潜在力を経営に活かす
図 2 近現代スポーツの発展イメージ
予測
ヨーロッパ・みんなの
スポーツ憲章
(欧州、1975年)
スポーツ振興基本計画
(日本、2000年)
スポーツ振興法
(日本、1961年)
スポーツ庁発足
(2015年)
スポーツ基本計画
(日本、2012年)
第Ⅲ期
スポーツ基本法
(日本、2011年)
(健康、多様化)
生涯スポーツ
バレーボール誕生
(米国、1895年)
(スポーツ科学の発展、スポートロジー)
バスケットボール誕生
(米国、1891年)
五輪憲章のアマチュア
規定削除(1974年)
野球、MLB設立
(米国、1876年代)
第Ⅱ期
アメリカンフットボール誕生
(米国、1860~70年代)
第23回オリンピック
(ロサンゼルス、1984年)
(新しいスポーツの誕生、
スポーツイベントの商業化・プロスポーツの興隆)
サッカー、ラグビー、
テニス等の誕生
第1回オリンピック
(アテネ、1896年)
第Ⅰ期
(アマチュアリズム、近代オリンピックの発展)
現在
17~18世紀頃
出典:EY 総合研究所作成
図 3 行動変容ステージにおける有効な変容プロセス
無関心期
関心期
プロセス
• 意識の高揚
• 感情的経験
• 環境の再評価
準備期
実行期
• コミットメント
• 自己の再評価
•
•
•
•
維持期
強化マネジメント
行動置換
援助関係の利用
刺激の統制
無関心期: 6 カ月以内に行動を変えようとは思っていない
関心期: 6 カ月以内に行動を変えようと思っている
準備期: 1 カ月以内に行動を変えようと思っている
実行期: 行動を変えて 6 カ月未満である
維持期: 行動を変えて 6 カ月以上である
出典:EY 総合研究所『セルフメディケーション産業化への期待~生活者アンケート結果と 4 つの提言~』より
6
EY Institute
Feature
健康経営、健康社会とは
健康日本 21(第 2 次)*4 において、「健康寿命の
健康経営銘柄に設定された各社の主な取り組みをみ
延伸と健康格差の縮小」を目的として、それを実現す
ても、22 社中 16 社にて、トップダウンで進める戦
べく幾つかの方策が基本的な方向として明示されてい
略構想・方策において、「スポーツ」「運動」という
る。「生活習慣の改善(リスクファクターの低減)」は、
キーワードに触れており、健康経営を実現するための
比較的個人による対応の割合が高いといえるが、それ
スポーツの価値が、健康経営を戦略的に取り組む企業
らを支え、推進するための「健康を支え、守るための
でも認められている証拠である。
社会環境の整備」も大きな柱の一つとして定めている。
また、健康な社会の実現に向けたスポーツを基軸と
環境面の整備は、企業・ビジネスの場において、昨今
した取り組みもみていきたい。文部科学省が 20 年近
注目を集めている「健康経営」が重要なキーワードの
く前から推進してきている総合型地域スポーツクラブ
一つになるといえる。
もその一つであり、地域住民が主体的にスポーツを通
NPO 法人健康経営研究会によると、健康経営
*5
じて参加する地域コミュニティとして、多種目・多世
は、「利益を創出するための経営管理と、生産性や創
代・多志向という三つの多様性を実現することで、生
造性向上の源である働く人の心身の健康の両立を目指
涯スポーツ環境の拠点として位置付けられている。平
して、経営の視点から投資を行い(健康投資)
、企業内
成 14 年度には、全国でのクラブ数は 541 だったが、
事業として起業しその利益を創出すること」とある 。
平成 26 年度には 3,512 にのぼり、全国の市区町村
経営管理と従業員の健康とを、投資先としてトレード
の 80.1% に総合型地域スポーツクラブが設置される
オフの関係であると従来は考えられがちであったもの
までに普及し、国民のスポーツ実施率の向上に寄与し
を、互いに相乗効果のあるものとして両立させ、実践
ている。ただし、その認知度は必ずしも高いとは言え
*6
するのが「健康経営」といえる。経済産業省と東京証
ず、また地域差も大きく(人口 1,000 人未満の 21
券取引所が共同で 15 年 3 月に発表した、「健康経営
自治体中 20 自治体では設置されていない)、まだ課
銘柄」(33 業種から 22 社を選定)*7 も、健康経営
題も多いというのが現状である。
が業績向上、株価向上にも寄与するとともに、“国民
これまで行政サービスとして行われてきたスポーツ
の健康寿命の延伸”に対する取り組みの一環として注
施設の運営やイベント実施についても、行政と民間企
目されている。
業が事業提携することで、サービスメニューの拡大や、
就労年齢が上がっていくにともない、今後社員の高
サービス品質の向上をはかる事例も増えてきている。
齢化も進んでいく中、健康経営において体力チェック
また、民間企業が運動習慣の定着や、介護予防を主目
等のアセスメント、運動指導による身体活動量の増加・
的とした事業化も増えてきており、民間のスポーツク
定着を目指す取り組みは、ますます重要になる。それ
ラブでも生活習慣病、運動行動定着、介護予防をキー
ら活動への従業員(その家族も含め)と経営者のエン
ワードにしたサービスを数多く展開してきている。
ゲージメントを強化するための媒体として、「スポー
ツ」は強力な武器になるといえる。以下はその一例で
ある。
• ウオーキングなどに代表される低強度運動
⇒ 運動指導・実施に向けた障壁の少なさ
• 球技スポーツ等の「余暇×競技性」のミックス
⇒“楽しさ”による参加率・継続性の強化
• 時間・距離・スコアなどの個人ごとにあった目標設定
⇒ モチベーションの維持
• 社内運動会などの全体参加型イベント
⇒ 社内コミュニケーションの醸成、メンタルヘルス
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
7
スポーツの潜在力を経営に活かす
スポーツを通じた健康経営、健康社会の実現に向けて
テクノロジーを活用してスポーツ実施率の向上、
運動行動の定着を
個人の健康、健康経営や健康な社会を創りだしてい
IoT(Internet
くことに対して、スポーツの持つ役割は大きいものの、
働数は、年々増加しており、ヘルスケアの領域でも身
その潜在力をまだ活かしきれていないのが、先に述べ
体活動の記録を行う装置、リストバンドやセンサー付
たスポーツの「第Ⅲ期」の転換点と言える今の状況で
き衣類などが身の回りでも増えてきている。利用環境
ある。それらの課題を踏まえ、スポーツを通じた健康
が整備・普及してくることで、健康に関するデータを
経営、健康社会の実現に向け、以下の通り、三つの提
蓄積・分析するという面(A)と、スポーツ・運動を
言を考えてみたい。
of Things)でつながる機器の稼
より楽しく、継続して行うための仕掛けという面(B)
の、両面からスポーツ実施率の向上を図ることが可能
地域コミュニティ、民間企業による事業の積極
活用と連携を
となる。
(A)個人の健康データを収集・蓄積が可能となること
企業の視点としては、従業員の健康管理において、
で、健康保険組合や自治体、国による本格的なデー
生活習慣病予防の取り組みにおける運動指導や運動機
タヘルス事業が可能になる。具体的には、レセプ
会の増大は、内部リソースだけに頼るには限界があり、
ト(診療報酬明細書)等の医療情報からの健康診
また必ずしもその必要はない。運動指導では、専門ノ
断などの情報に加え、健康・運動指導の結果であ
ウハウを有する民間企業(スポーツクラブ等)との連
るスポーツ実施や身体活動全般に係る記録(歩数
携や委託により、スポーツや運動自体の科学的・テク
や加速度計による身体活動量、心拍数、血圧、体
ニカルな部分を補いつつ、スポーツ実施の機会の増大
重、休息時間等)など、個人の健康データを分析
については、企業の所属する地域コミュニティへの参
し、指導内容の見直しという PDCA サイクルを
加や行政サービスとの連動を、積極的に推し進めても
回していけるようになる。NDB(レセプト情報・
よいであろう。
特定健診等情報データベース)の基盤整備が進み、
地域に根差した企業としての位置付けを確認し、ま
そこに健康データを取り込んでいくことで、社会
た、その企業の持つノウハウや技術を地域コミュニ
保障費(医療費等)の適正化の方向にシフトして
ティに展開することで、地域コミュニティのさらなる
いくことも期待したい。
活動促進やイベントの多様化促進などの社会への貢献
にもなる。さらに、地域とのつながりを強めること
「楽しさ」をベースとした運動行動の定着の仕掛
(B)
は、そこに働き、住む従業員の心理面に良い影響を与
けとして、昨今 IoT 等のテクノロジー技術を応
えるであろう。例えば、凸版印刷では健康経営宣言 *8
用・活用することで、ゲーム性をもたせた運動指
の中の具体的な取り組みにおいて、「関連事業を通じ
導が行え、また物理的・時間的な境界を越えたコ
た、社会への貢献」も挙げており、横浜市で実施して
ミュニケーションを保ちつつ、行動の継続性支援
いる「よこはまウォーキングポイント事業」などにお
が可能となる。モバイル機器で普及しつつあるラ
いて、会社が培ってきた印刷テクノロジーを活かした
ンニングアプリ等では、自己の活動記録だけでな
ソリューションを提供している、という先進的事例も
くソーシャルネットワーキング機能として、友人
出てきている。
や仲間との記録・情報のシェアを行うことや、自
分が走りだすその瞬間に、世界のどこかで同時に
走っているユーザー同士をつないだり、声援を送
り合ったり、といったスポーツ実施をサポートす
るさまざまな仕掛けが行動習慣化に一役買ってい
る。
8
EY Institute
Feature
生涯スポーツ化のためのスポーツ実施種目と
環境の多様化
スポーツは体育・教育の文脈で語られることが多く、
も 10 代のうちからスポーツ実施が可能になる地域コ
学業期の終了とともにスポーツ実施率は低下する傾向
ミュニティを整備し、そのサポート・運営自体にも関
にあり、生涯スポーツ化における大きな課題となって
与してもらうことで、20 代以降の年代のスポーツ実
いる。笹川スポーツ財団の調査によると、運動・スポー
施の環境が作られていくであろう。
ツの実施状況が低いレベル(全く運動・スポーツを実
二つ目は、スポーツ実施の多種目化である。日本で
施しなかった、または、週 2 回未満)の合計が、10
は単一種目のみを行う傾向が特に強いが、多種目化を
代では 29.6% なのに対し、20 ~ 50 代ではそれぞ
推進することで、スポーツの実施できる時期・地域の
れ 57.0%、63.1%、55.9%、55.1% と半数以上となっ
解消や、スポーツの向き不向きの調整などのメリット
ており、60 代と 70 代では 40% 前後となっている(<
とともに、20 代の壁を越える際に単一種目より多く
図 4 >参照)。ここからも 20 代からの壁が存在して
の選択肢が個人にあることが、急激なスポーツ実施割
いることが明らかであり、これらを克服していくには、
合の低下防止になりえる。多種目のスポーツ実施につ
二つの面からの取り組みが必要であると考える。
いては、欧米、特に米国での学校やコミュニティスポー
一つ目は、10 代におけるスポーツ実施の中心が、
ツでも広く浸透しているシーズン制(例えば、春から
学校体育と部活動に偏っている点の是正が必要であろ
夏に野球を、秋にアメリカンフットボールを、冬から
う。実施の場が学校に限定される際、例えば部活動に
春にバスケットボールやアイスホッケーを、などのよ
ない種目を選択できない、という 10 代時点での問題
うに)を参考に、日本に合った形で検討・導入するこ
もある。さらに、学校を卒業するとともにスポーツ
とで、各競技に触れる機会を増やし、競技人口の裾野
も卒業となることが大きな問題である。そのために
拡大にも寄与できるであろう。
図 4 年代別の運動・スポーツ実施状況
※ 1 Non-Communicable Diseases、非感染性疾患。脳卒中や悪性
腫瘍、循環器疾患、高血圧、動脈硬化など、その発症や進行に
食生活や運動、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関連するとさ
れる疾病の総称で、日本では一般的に「生活習慣病」と総称さ
れる。国際的には、非感染性疾患(NCDs)や慢性疾患(Chronic
Diseases)と呼ばれる。
※ 2 World Health Organization. Global recommendations on
実施しない
13.0%
10代
16.6%
15.9%
20代
70.4%
27.2%
60代
0%
20%
physical activity for health. 2010
44.1%
23.2%
44.9%
13.3%
34.4%
70代
36.9%
30.6%
31.9%
50代
43.0%
40.1%
25.3%
40代
週2回以上
41.1%
23.0%
30代
週2回未満
59.5%
9.6%
40%
56.0%
60%
80%
100%
出典: 笹川スポーツ財団『スポーツライフ・データ 2014』『青少年
のスポーツライフ・データ 2013』より EY 総合研究所作成
(注) 10 代についてのみ「青少年のスポーツライフ・データ
2013」のデータを基にした。
すそ の
※ 3 Transtheoretical model、汎理論的モデルにおける概念。米
国心理学者 Prochaska らが提唱し、対象者の関心の程度や実
行の状況に応じて行動変容ステージを分類し、そのステージに
よって効果的な変容プロセスがあることを示したもの。多くの
健康・栄養問題や食行動・ライフスタイルの行動評価や獲得に
対して有用と考えられている。
※ 4 健康増進法に基づき策定された「国民の健康の増進の総合的な
推進を図るための基本的な方針」を平成 24 年に全部改正され
たもの。またその方針に基づき進められている「二十一世紀に
おける第二次国民健康づくり運動」のこと。国民の健康の増進
の推進に関する基本的な方向その目標に関する事項等を定めて
いる。http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html
※ 5 「健康経営」は、NPO 法人健康経営研究会の登録商標です。
※ 6 岡田邦夫(NPO 法人健康経営研究会理事長) 「健康経営」推
進ガイドブック 経団連出版 2015 年 9 月
※ 7 http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/
healthcare/kenko_meigara.html
※ 8 2015 年 11 月 4 日 凸版印刷ニュースリリース「凸版印刷、
新たに『健康経営宣言』を制定し、健康経営を推進」http://
www.toppan.co.jp/news/2015/11/newsrelease151104.
html
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
9
特集
スポーツの潜在力を
経営に活かす
メガスポーツイベントにみるスポーツホスピタリティ
市場の大きさ
15 年のスポーツシーンの中で、特に衝撃を与えた
のは、ラグビー W 杯 2015 イングランド大会におけ
Ⅱ章
スポーツホスピ
タリティ市場の
形成を
る日本代表の歴史的な活躍で、特に南アフリカ戦ラス
トワンプレーでの逆転トライは、日本だけでなく世界
中に衝撃を与えた。その結果、連日、ラグビーの話題
がテレビをにぎわせることとなり、世代を超えてラグ
ビー人気が復活しつつある。
EY 総合研究所では、15 年 9 月現在の情報に基づ
き、「ラグビーワールドカップ 2019 日本大会開催に
よる経済効果」の試算として、同効果が約 4,200 億
円に達すると発表した。これは、スタジアム等インフ
ラ整備、大会運営費、観客の支出による需要増加額に、
サプライチェーンを通じた生産誘発効果(間接効果)、
雇用増加を通じた生産誘発効果(波及効果)を加えた
ものである。また、イングランド大会との比較のため、
日本人観客による支出を除いた場合の経済効果は、約
3,200 億円となる<表 1 >。多くの経済効果分析で
は、インフラ投資による効果が中心となるが、ラグビー
W 杯の経済効果で特に注目すべきは、観客による支
出(スポーツホスピタリティ市場)である。イングラ
ンド大会等でのホスピタリティ水準が日本でも実現さ
れると仮定して計算しているが、開催国観客による支
表 1 ラグビー W 杯による経済効果
(開催国観客による支出を除く)
2015
2019
イングランド大会
(最大値)
日本大会
(見通し)
インフラ投資額
127 億円
240 億円
海外からの観客に
よるチケット売上に
対する運営費等
102 億円
62 億円
海外からの観客に
よる支出総額
1,332 億円
1,120 億円
小計(需要増加額)
1,560 億円
1,422 億円
間接・波及効果
1,745 億円
3,305 億円
1,818 億円
3,240 億円
経済効果
出典: EY "The economic impact of Rugby World Cup 2015"
および EY 総合研究所「ラグビーワールドカップ 2019 日本
大会開催による経済効果」より EY 総合研究所作成
(注) イングランド大会の試算との比較のため、開催国観客による
支出を除く。150 円/ポンド(2014 年購買力平価)で換算
10
EY Institute
Feature
出を除いても、需要増加額のうちの約 8 割を占めて
海外のスポーツイベントにおいては、スタジアムを
いることである。中でも、外国人観客の支出は、スタ
訪れる観客やその招待者(企業、個人等)を対象に、
ジアムでの支出にとどまらず、開催国滞在期間中にお
スタジアムの運営者、試合の主催者、スポンサー企業
ける飲食、宿泊、移動、ショッピング等の支出の寄与
等がスタジアム内の特別な設備と良質の飲食サービス
がとても大きい。
等を有料で提供する。一般の観客と差別化してもてな
これは、ラグビー W 杯では、開催期間と外国人観
すために、これら特別な設備やサービス等を観戦チ
客の平均滞在日数の長さのためである。開催期間が 6
ケットと組み合わせて商品化した観戦プログラム(ス
週間と長いのは、ラグビーは肉体的消耗が激しいス
ポーツホスピタリティプログラム)を用意して、観客
ポーツで、試合日程に余裕が必要なためだ。外国人観
の楽しみ・満足を大いに引き出している。
客の全体平均滞在期間が長いのには、二つ理由がある。
わが国の場合、プロ野球のホームグラウンドでは年
まず、長期休暇(バケーション)を楽しむ習慣のある
間 70 試合程度行われることから、近年、常設の交流
欧州系の参加者が多いことだ。豪州・NZ 大会では、
スペースとして、VIP ルームやコーポレートブース
欧州からの参加者の平均滞在日数は 3 週間を超えて
が設置されるようになってきたが、その他の競技では
いた。応援するナショナルチームと一緒に開催国内を
共用施設で開催されることが多く、ホスピタリティの
移動、試合の合間はバケーションとして楽しむスタイ
ためのスペースが設置されているケースは少なくなっ
ルでやってくる。また、ラグビーファンは、社会的・
ている。
経済的に余裕がある層が厚い。2019 年日本大会の
今後、スポーツを見る人や支える人にとってのホス
外国人観客でも、ラグビーの試合だけでなく、日本で
ピタリティ施設やホスピタリティサービスを考えてい
のバケーションを楽しむために、時間とお金をさく参
く上で、当面は、隣接ホテル、隣接空地(駐車場等)
加者が多いと考えられる。
などにおける、仮設ホスピタリティスペースの設定と、
ケータリング等アウトソーシングで運営していき、年
間を通じた稼働率が高まってきて施設の更新を行う場
スポーツホスピタリティのプログラムとその構成要素
合には、常設化することを検討すべきだ。
また、地方自治体等がスポーツイベントを開催する
しかしながら、スポーツイベントの経済効果を最大
場合、イベント会場における地元特産品の提供や、地
限発揮するためには、スポーツホスピタリティを少な
域内宿泊、飲食等への誘導にも取り組むことによって、
くとも海外先進国並みに整備することが必要である。
地域全体でおもてなしすることが大切だ。
表 2 スポーツホスピタリティの構成要素
ホスピタリティ施設
常設
仮設
• 常設観客席
• 常設交流スペース
ホスピタリティサービス
飲食・物販等
その他
• 常設レストランにおけ
• 常設 ATM
• 常設 Wi-Fi
る飲食提供
(コーポレートブース、
VIP ルーム等)
• 常設売店(飲料、記念
• 仮設観客席
• 仮設交流スペース
• ケータリングサービス
• エンターテインメント
(隣接ホテル活用、隣接
空地の仮設ブース)
ツーリズム
ショッピング、協賛イベ
ントへの回遊
• 日本全国への広域ツー
グッズ、地元特産品等)
(選手との交流、スポー
ツ解説、ショー等)
• 開催地域内宿泊、飲食、
リズム
• 仮設 ATM・スマホ決済
• 仮設 Wi-Fi
• 交通インフラ
• 仮設売店(飲料、記念
グッズ、地元特産品等)
出典:EY 総合研究所・JTB『メガスポーツイベントにおけるスポーツホスピタリティのすすめ』より EY 総合研究所作成
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
11
スポーツの潜在力を経営に活かす
スポーツホスピタリティ 4 つの提案
EY 総合研究所では JTB との共同研究により、15
ツホスピタリティの構成要素である、施設、サービス
年 9 月「メガスポーツイベントにおけるスポーツホ
(飲食・物販・演出・ICT 等)、会場外へのツーリズム
スピタリティのすすめ」を公表した。このレポートで
の整備・推進と、これらを一体化した付加価値の高い
は、海外のスポーツイベントにおけるホスピタリティ
観戦プログラム「スポーツホスピタリティプログラム」
先進事例、経済効果等に関する検討に基づき、スポー
の提供について、4 つの提案を示したところである。
図 5 メガスポーツイベントにおけるスポーツホスピタリティの新たな組織案
出典:EY 総合研究所・JTB『メガスポーツイベントにおけるスポーツホスピタリティのすすめ』より
12
EY Institute
Feature
提案 1.
スポーツイベントを活用したビジネス交流
(スポーツホスピタリティサービス・プロバイ
提案 2.
スポーツホスピタリティ施設整備
ダーによるプロモーション)
スポーツビジネスの先進国である欧米では、コーポ
競技場内あるいは隣接地にホスピタリティのための
レート向けに販売するスポーツホスピタリティプログ
施設を設置し、観戦しながら飲食を楽しめるスペース
ラムが普及している。一般的に取引先の接待を中心に、
を提供する。こうしたファシリティがプレミアム席の
社内インセンティブや会議等のコミュニケーションの
観客のプライドを満たし、客単価の上昇につながって
場として捉え、スマートで魅力的な付加価値を持つス
いる。欧米では、一般市民にも特別感のあふれる場を
ポーツコンテンツの利用について大きなマーケットと
提供することにより、市民と施設、または施設管理者
なっている。そのような状況下において、わが国にお
との距離を縮める目的もある。わが国のスポーツ施設
いても、スポーツホスピタリティプログラムを活性化
には、ホスピタリティが十分考慮されていないケース
させていく上で、さまざまなステークホルダーを巻き
が多い。そのため、既設施設でメガスポーツイベント
込みながら、新たなホスピタリティサービスを展開す
を開催する時には、仮設ホスピタリティスペースの設
る事業主体としての、
SHSP(スポーツホスピタリティ
置により、スポーツホスピタリティを充実すべきであ
サービス・プロバイダー)を形成すべきだ。
る。
提案 3.
提案 4.
スポーツホスピタリティプログラムへの地域資
源活用(日本の食材、伝統的工芸品等の活用、
た
接遇スキルに長けた人材の確保)
海外との交流活性化事業の拡大
(先進事例視察、全国各地におけるスポーツツー
リズム機会拡大等)
スポーツホスピタリティへの参加者は比較的ステー
メガスポーツイベントの効果は、日本の大都市ばか
タスが高いため、イベント後も長くインフルエンサー
りに作用するものではない。複数予選がある場合等を
となる可能性がある。したがって、クオリティの高い
中心に、地方都市でも世界水準のスポーツホスピタリ
飲食サービスが必要だが、日本のすぐれた食材や伝統
ティを提供することにより、開催地の分散化を図るこ
的工芸品などを提供することによるイメージアップが
とができる。また地理的な補完だけではなく、例えば、
期待できる。また、スポーツホスピタリティの現場で、
オフシーズンに立派なスポーツホスピタリティを提供
飲食サービスやエンターテインメントを運営するサー
する大会を開催することにより、オントップで観戦客
ビス人材も、ブランド形成における接点として重要な
が訪れることになる。
役割を持っており、この確保・育成が重要である。
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
13
特集
スポーツの潜在力を
経営に活かす
スポーツイベントがもたらす持続的な効果
(レガシー効果)
スポーツイベントの経済効果のうち、大会開催期間
中の効果についてはⅡ章で述べたが、スポーツイベン
Ⅲ章
スポーツの経済効
果を持続的なもの
とするために
トの効果はそれにとどまらず、大会後にも大きな効果
が残る。国際オリンピック委員会(IOC)によれば、
五輪が開催後に残す遺産(レガシー)として、①スポー
ツレガシー、②社会レガシー、③都市レガシー、④環
境レガシー、⑤経済レガシーなどを挙げており、近年
の五輪では、いかにレガシーを残すかが大会計画段階
からの重要事項となっている。また、EY では、ロン
ドン五輪 2012、リオデジャネイロ五輪 2016、ラ
グビーワールドカップ 2015 イングランド大会への
支援実績などを踏まえ、スポーツイベントがビジネス
や経済にもたらす価値をまとめている<表 3 >。
バルセロナに学べ
五輪レガシーを活用した形での都市づくりのベスト
プラクティスとして、スペイン第二の都市バルセロナ
を取り上げたい。
バルセロナは、中世には、その隆盛が地中海全域に
とどろいたカタルーニャ君主国の都であり、19 世紀
にはガウディの建造物にも象徴されるように、文化都
市としての誇りをもっていたが、1930 年代から約
40 年間におよぶフランコ長期政権のもとでの弾圧が
続く間に、スペインの首都マドリードとの格差が開い
てしまった。
しかし、92 年のバルセロナ五輪以降、FC バルセ
ロナの活躍、マリーナの整備による地中海クルーズ、
ガウディの歴史的建造物や地中海料理の世界遺産登
録、コンベンション施設など、継続的かつ重畳的な整
備により多様な魅力の発信に成功し、国際ビジネス観
光都市に急成長した。外国人訪問客も 90 年には 85
万人だったのが、10 年には 516 万人へと、20 年間
に 6 倍以上に拡大することとなった。
同様に長い歴史や国際的な食文化を有している日本
においても、バルセロナの都市戦略に学び、ビジネ
ス・観光都市としての魅力を磨いていくことが必要で
ある。
14
EY Institute
Feature
表 3 五輪レガシーとスポーツイベントがもたらす価値
IOC 提唱による EY の考えるスポーツ
五輪レガシー
イベントがもたらす価値
スポーツレガシー 協働スタイルの確立
社会レガシー
都市レガシー
環境レガシー
経済レガシー
内容
• 共通の目的に向けての官民一体となった取り組み
• ボランティア経験の増大とコミュニティ活動への意識啓発
• 公的資金の使途明確化を通じた政府やサプライチェーンの透明性・信頼性向上
• 五輪の成功が人々の自信や誇りへ
ダイバーシティ &
• 人々の多様性に関する偏見の緩和
インクルーシブネスの推進 • 特にパラリンピック選手の活躍は多くの人を鼓舞
政府の効率性向上
• PPP などによる公的資金負担の軽減
• 商業的利潤以上に地域社会の価値に焦点を当てたプロジェクトの推進
市民社会への投資
• 社会インフラの整備や環境、防犯・防災問題の改善
• 生活マナーや生活環境の向上
サステナビリティの醸成
• 環境配慮や資源有効利用などの革新的技術やサービスの開発
• サプライチェーンを通じたスキルや技術の共有
人材育成、雇用創出、
• 労働力の流入を通じた知識や技術の移転
労働基準の開発
• 食品やメディア等サプライチェーン全体を通じた幅広い雇用創出
• 労働安全衛生基準や環境の向上および労働者人権状況の改善
投資家の意思決定に
• 開催国への直接投資および地元の投資家による積極的資本投下
有用な情報の提供
• 五輪関連のさまざまな情報や研究レポートが投資判断に寄与
経済成長への貢献
• GDP の押し上げ
経済面での信頼と自信の
確立
出典:IOC"Olympic
Legacy"(2013)、EY"Building A Better Working World"(2013)より EY 総合研究所作成
• モバイルアプリのご案内
www.shinnihon.or.jp/shinnihon-library/mobile/
EY では、新たな情報発信のチャネルとしてモバイルアプリも用意しています。
下記の両アプリでは、EY 総研の研究員・エコノミストによる各種レポートも提
供しています。
• EY Insights(iOS 版 /Android 版)
さまざまな業界の最新動向を EY が独自のチャネルを活かして調査し、知見をまとめた刊
行物・レポートである「Thought Leadership」を、EY が提供するモバイルアプリ「EY
Insights」でお読みいただけます。EY 総合研究所が刊行したレポートも収録しています。
• EY ナレッジナビゲーター(iOS 版 /Android 版)
新日本有限責任監査法人/ EY Japan の会計監査を中心とした税務、トランザクションお
よびアドバイザリー分野を含む豊富な業務経験や、グローバルな知見に基づく専門家として
のナレッジ(EY 総研インサイトも含む)、最新情報をいつでも手軽にお読みいただけます。
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
15
スポーツには他の娯楽にない特長があり、これを取
特集
スポーツの潜在力を
経営に活かす
Ⅳ章
スポーツの潜在力
を活かし、マーケ
ティングとマネジ
メントの変革を
り込みつつ、第二のグローバル時代を迎えた企業経営、
とりわけ、マーケティングやマネジメントの変革を行
うことが有効である。
1. 感動経験への訴求
スポーツ全般に共通する特徴として、「筋書きがな
く、結果がわからないものを見る」ところに楽しみが
あり、長嶋茂雄氏の造語「メークドラマ」
(1996 年)、
「メークミラクル」(1997 年)にみられるようなド
ラマ性が他の娯楽と比べても顕著な特徴だ。こうした
スポーツの特徴、魅力を十分に引き出し、観客や潜在
観客の価値を引き出していくことが求められている。
現代マーケティングの第一人者フィリップ・コト
ラーは『コトラーのマーケティングマネジメント』の
中で、市場に提供される製品の計画に当たって、「顧
客価値ヒエラルキー」の五つのレベルとして、①中核
ベネフィット、②基本製品、③期待製品、④膨張製品、
⑤潜在製品について考えることの重要性を示している
<図 6 >。
例えば、「プロスポーツ観戦」という商品について
みると、①中核ベネフィットには、興奮、娯楽、勝敗、
共感、カタルシスが位置しており、観客はそれをチケッ
ト代金と引き換えに購入していると、コトラーは考察
する。②基本製品には、スタジアム、シート、駐車場、
飲食、ピッチなど、中核製品を形成する基本的な要素
が挙げられ、③観客の期待に応えるために、見やすい
シート、美しいピッチ、便利な駐車場などの「施設整
備」、おいしい飲食など「ソフト面の充実」が挙がっ
ている。さらに、④膨張製品には、観客の期待を上回
るものとして、クラブシート、特別観覧室といった「プ
レミアム」対応が求められている。⑤潜在製品には、
将来の顧客層への革新的な提供価値として、スポーツ
の有する経験価値としての「感動」が求められている。
また、原田宗彦『スポーツマーケティング』によれ
ば、「わが国におけるバレーボールやバスケットボー
ルのトップリーグにおいては、ゲームやリーグの運営
といった中核要素に重きが置かれるが、それだけでは
ゲームに人を呼ぶことは困難である。スポーツマーケ
ティングにおいては、価値ある観戦経験の提供に向け
た、拡大的な要素に注意を振り向ける必要がある。実
16
EY Institute
Feature
際、拡大製品の創造に力を注ぎ、ファンを喜ばせるな
スフォード対ケンブリッジ戦が、1872 年の初戦以
ら何でもするというのが、スポーツマーケターの基本
来「伝統の一戦」として開催されており、わが国でも
姿勢でなければならない」としている。
早稲田・慶應戦は 1903 年の初戦以来、スタジアム
こうした考えを反映して、欧米の事例では、ホスピ
は愛校心が強い観客が多く詰めかける。その大学の勝
タリティプログラムを充実させるとともに、チケット
利、あるいは敗れたとしても、その健闘が、自己同一
価格が対戦カードの人気や開催スタジアムによって自
感(アイデンティティ)と結びつき、スポーツ観戦を
由に設定できる柔軟なシステムを設定したりしてお
通じて達成感を得ることができる。
り、ラグビーワールドカップ予選でも、イングランド
また、「地域アイデンティティ」として、居住地域
対ウェールズ戦など、人気カードは高いプレミアムが
や出身地のチームを応援する人が多く、スポーツ観戦
付いている。LCC のような航空会社やホテルの価格
を通じて社会的つながり(ソーシャルネットワーク)
設定でも使用されているこの手法は、「ダイナミック
が形成されるケースも多い。
プライシング」と呼ばれ、米国プロ野球メジャーリー
欧米では、こうしたソーシャルネットワークを強化
グでも広く取り入れられ、日本のプロ野球においても
する仕掛けがスポーツ観戦に組み込まれている。米国
試合をランク付けしての価格設定が行われている。
では、大学スポーツに愛校心が強い卒業生(アルムナ
イ)が強力に支援している。例えば、アメリカンフッ
トボールの場合には、アルムナイからの 100 万ドル
2. ソーシャルネットワーク
単位の寄付を受けており、また、大学内に専用のスタ
ジアムがあるとともに、チアリーディングや売店など
ワンケルとバーガーは「スポーツ・身体活動の心理
エンターテインメントを兼ね備えている。イギリス発
的・社会的ベネフィット」(1990)の中で、スポー
祥のスポーツクラブでは、Sport
ツ活動を通じたベネフィットとして、「個人的楽しみ」
とにジェントルマンの社交の場として、スポーツを愛
「個人的成長」に加えて、「社会的調和」「社会的変化」
好する同階級の人たちが集い、同じクラブメンバー間
for All の旗印のも
があるとしている。
の人脈が形成されていく。ラグビーの場合には、試合
「カレッジアイデンティティ」を例にとると、自分
時間 80 分だけでなく、試合の前後の交流を含めれば、
や家族の出身校など特定の大学を応援する人がよく見
半日にわたって感動体験を共有しながら、社会的承認
られる。ラグビー発祥地のイングランドでは、オック
の獲得や社交機会のビジネス利用などに活かしている。
図 6 プロスポーツの五つの製品レベル
中核的ベネフィット
基本製品
期待製品
膨張製品
潜在製品
ホテル
プロスポーツ
オールスイート型ホテル、
机の上の果物やキャンディ
経験価値(感動)
迅速なチェックインとチェックアウト、
インターネット予約、アメニティグッズ
クラブシート、特別観覧室
清廉なベッド、洗いたてのタオル、
適度な静けさ
見やすいシート、美しいピッチ、
便利な駐車場、熱気
ベッド、バスルーム、タオル、枕、
クローゼット
スタジアム、シート、駐車場、飲食、
ピッチ
休息と睡眠
興奮、娯楽、勝敗、カタルシス
出典:EY 総合研究所・JTB『メガスポーツイベントにおけるスポーツホスピタリティのすすめ』より
(コトラー、恩蔵直人監修、月谷真紀訳『コトラーのマーケティングマネジメント』を基に EY 総合研究所にて作成)
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
17
スポーツの潜在力を経営に活かす
他方、日本におけるスポーツ観戦の現状をみると、
一部のプロ野球場を除けば、試合終了と同時に一斉に
4. 従業員エンゲージメントの向上
観客はスタジアムを後にする。果たして、今後、試合
前後で長時間にわたる交流の場が日本でできる可能性
企業のグローバル化や事業成長のためには、人材の
はあるだろうか。
確保が重要となる。こうした観点から従業員の「エン
そこで参考になるのが、箱根駅伝だ。箱根駅伝では
ゲージメント」を重視する企業が増えてきている。「エ
2 日間で 10 時間以上も費やす競技だが、箱根の宿や
ンゲージメント」とは、「企業と従業員の相互コミッ
沿道で、またテレビ中継を通じて、順位の変動に一喜
トメント」であるが、それは「従業員満足」を超えて、
一憂しつづけ、緊張と弛緩の繰り返しを通じ、長い時
企業と従業員がビジョンを共有することである。
間をかけて感動が高まっていく。日本においても、カ
こうした企業と従業員の関係性は、団体スポーツの
レッジアイデンティティや地域アイデンティティを取
世界におけるチームと選手の関係性に酷似している。
り込みつつ、試合中だけでなく試合前後での楽しみの
選手個人の能力が高くても、チームの勝利には結びつ
場を提供することで、スポーツを楽しむ市場が広がっ
かないことも多く、チームと選手の連動のためには、
ていく可能性が高いと考えられる。
明確な戦略・戦術と適材適所の人員配置が必要となる。
し かん
ゲイリー・ハメルはハーバード・ビジネス・レビュー
3. 言葉を超えたグローバリゼーション
への寄稿「マネジメント 2.0」の中で、マネジャー
の直面する重要な課題として、「目まぐるしい変化の
時代に、常に目標を見据えながら効率を高め、なおか
「(スポーツは)科学を抜きにすればそれは唯一の世
つ柔軟で逆境に強い組織をつくるのは、どうすればよ
界の言葉である」(ローレンス・キッチン)。
いか」
「進取の精神が成功へのカギを握るクリエイティ
ラグビーは、イングランドのパブリックスクールの
ブ経済において、働き手に日々、自主性や想像力を発
一つであったラグビー校において、ボールを手で持っ
揮し、情熱を傾けてもらうには、どうすればよいか」
て走るスポーツとして、フットボールから枝分かれし
などを挙げている。
た。その後、近代スポーツ化の過程でルールが統一さ
そこで、思い出すのが、ラグビー W 杯における日
れ、グローバル展開した。このルールにのっとれば、
本対南アフリカ戦で、ラストワンプレイ時にペナル
スポーツをする人、見る人ともに、言葉を使わなくて
ティを獲得したとき、ヘッドコーチからのペナルティ
も交流することができる。
キックによる同点との指示をオーバーライドして、選
また、スポーツビジネスにおいては、アジア全体で
手たちがトライによる勝ちにこだわった、あのシーン
のスポーツ市場の潜在性や、スポーツの国際訴求力を
だ。チーム全員に信頼感がなければ得られなかった勝
活かし、ビジネス機会を拡大していくことが求められ
利から、我々は何かを学んだはずだ。しかも、外国生
ている。アジアでは、中所得層の増大に伴い、スポー
まれや外国人国籍の選手が少なからず入っていたにも
ツへの関心が高まっている。例えば、欧州とアジアの
かかわらず、「日本代表」として団結した事実を目の
プロサッカーリーグの総収入を比較すると、特に、プ
当たりにして、多くの日本人にとって「ダイバーシ
レミアリーグ(イギリス)の総収入は近年急拡大し、
ティ」の在り方について学ぶ機会を与えてくれた。
12 年には 2,500 億円と、J リーグの 20 倍を超え
最近、企業間対抗戦の「コーポレートゲームズ」が
る水準に達した。これは、放映権料の約半分を占める
盛んになってきている。会社の中で日頃一緒に仕事を
アジアからの収入が大きく増加していることによる。
しているメンバーではなく、部署を越えて組織全体で
日本でも、13 年に札幌のプロサッカーチーム(コン
のタテ・ヨコの交流などを促進する機会として、ある
サドーレ札幌)に、ベトナム出身のスター選手がレン
いは、ゲームに参加する企業間の交流の場として注目
タル移籍で一時加わったことで、ベトナムにおける札
されており、日本企業の風土に与える効果に期待した
幌市の知名度が急上昇し、ベトナム・札幌間チャーター
い。
便によるベトナム人ファンの大挙来日や、札幌からベ
トナムへの円滑な企業進出につながるなど、大きな効
果が出ている。
18
EY Institute
Feature
5. 健康経営
すでにⅠ章で述べたが、スポーツを通じた健康経営
への取り組みがますます重要になってきている。ノー
ベル経済学賞受賞者であるベッカーは、「人々のもつ
資源を増大することによって、将来の貨幣的および精
神的所得の両者に影響を与える諸活動」を「人的資本
投資」と定義したが、それは、日本では、カイゼンな
ど人に体化された形で生産性や品質の向上を可能と
し、戦後日本の高度成長を支えた。また、グロスマン
は、人的資本の概念の延長線上で、食生活の改善や適
度な運動、医療サービスの利用などを、健康に対する
投資行動として、「健康資本」を提唱した。
近年、多くの日本企業がその価値に着目し、
「健康
経営」(従業員の健康への配慮による持続的な企業成
長)に力を入れるようになってきており、今後、スポー
ツによる動機づけや運動機会の拡大を通じて健康経営
への取り組みが拡大していくことが期待される。
Pickup Information
スポーツ関連ナレッジのご紹介
• EY 総研インサイト創刊号
「特集
2020 東京五輪を『新生日本』実現のスプリングボードに」
eyi.eyjapan.jp/knowledge/insight/2014-06-26-01.html
• メガイベントにおけるスポーツホスピタリティのすすめ
eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-society-and-industry/2015-09-17.html
※ 本レポートは、EY 総合研究所と、株式会社ジェイティービー、
株式会社 JTB 総合研究所が共同で制作しています。
• ラグビーワールドカップ 2019 日本大会開催による経済効果
eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-society-and-industry/2015-09-30.html
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
19
• EY 総合研究所 Web サイトのご案内
eyi.eyjapan.jp
EY 総合研究所では、独自の調査・研究、広範囲に収集した最新情報や知見を、国内独自の視点を加味
した上で、Web サイトにて公開しております。また、所属する研究員、会社概要、メディア掲載、セミナー
や提供しているサービスに関する情報についても紹介しておりますので、ぜひ、ご覧ください。
EY Japan および EY と連携した幅広い情報・
知見をお伝えいたします。
会社案内、各種レポート、パンフレットも
ダウンロードできます。
「EY 総研インサイト」のバックナンバーも掲
載しています。
• ナレッジ
eyi.eyjapan.jp/knowledge/
EY 総合研究所では、総研に所属するエコノミストと研究員による独
自の調査・研究のみならず、これら各国の専門家や政策当局から日々も
たらされる最新情報、知見やナレッジを広範囲に収集し、国内独自の視
点を加味した上で、幅広い情報発信を行っています。
また、シリーズとして複数編公表しているレポートについては、「シ
リーズレポート」のページにも収録し、まとめてご覧いただけます。
• サービス
eyi.eyjapan.jp/services/
EY 総合研究所では、研究員の持つ専門性を活かし、また EY Japan
内の各サービスラインやセクターとも連携した独自サービスを開発し、
提供を開始しております。
• 資本市場リレーションシップ構築支援
~「点」ではなく「面」の取り組みを通じた投資家との良好な関係の構築
eyi.eyjapan.jp/services/capitalism-relationship.html
• おもてなし 2.0 による経営支援サービス
~ポストおもてなし経営の実現に向けた診断プログラム
eyi.eyjapan.jp/services/omotenashi.html
20
EY Institute
レポートのご紹介
Pickup Report
セルフメディケーション産業化への期待
~生活者アンケート結果と 4 つの提言~
(2015.11.16)未来社会・産業研究部
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-society-and-industry/2015-11-16.html
近年、生活者の健康づくりへの意識は急速に高まっている。これは一つには、高齢化の進展や
ライフスタイルの変化に伴う生活習慣病等の慢性疾患の増加に関連する。健康を損ない、通院・
治療生活を続ける生活者が増えてくると、本人のみならずその家族や周囲の人たちも必然的に健
康づくりへの意識が高まる。また、生活者周辺の環境変化等も、健康づくりへの意識に影響を与
えていると思われる。インターネットやメディアの発達は、誰でも多様な健康関連情報へアクセ
スすることを可能とした。さらに、後期高齢者の医療費自己負担率引き上げの検討や、企業の新
たな経営戦略の一つとして最近注目を集めている「健康経営」の取り組み等は、人々の健康づく
りへの意識の高まりをもたらしていると考えられる。
このような中で、「セルフメディケーション」(医療機関に頼らない範囲で自らヘルスケアを選
択・実践する行動)の重要性を唱える動きが高まっている。政府は日本再興戦略の中で、セルフ
メディケーションの推進等を掲げている。
だが、医療の専門家ではない一般の生活者にとって、自らの身体の症状にそった適切なセルフ
メディケーションを行うことは簡単ではない。生活者がセルフメディケーションに適切に取り組
んでいくためには、ヘルスケア提供者側から消費者への適切な情報・サービスの提供やサポート
環境の整備等が必要である。さらに、少子・高齢化、人口減少等を背景に買い物弱者・交通弱者
等の社会課題が生まれている中、生活関連サービス産業の果たす役割も変容してこよう。
こうした問題意識のもと、セルフメディケーションの現状や今後の課題等について東京都、大
阪府、札幌市、福岡市の 4 地域を対象にアンケート調査を実施した。併せて、アンケート調査
結果を踏まえた上で、生活者のセルフメディケーション促進のための具体的対策について 4 つ
の提言を示す。
人工知能が経営にもたらす「創造」と「破壊」
~市場規模は 2030 年に 86 兆 9,600 億円に拡大~
(2015.09.15)未来社会・産業研究部 上席主任研究員 廣瀨 明倫
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-society-and-industry/2015-09-15.html
「人工知能(AI: Artificial Intelligence)」という言葉は 1950 年代から存在し、工学研究
者だけでなく映画や SF 小説などの多くのメディアを通じて、そのイメージだけは流布されてき
ている。そのメディアで「人工知能」がどのように取り扱われているかによって、親近感を抱か
せたり恐怖感をもたらしたりするなど、さまざまな反応を引き起こしてきた。
その「人工知能」が、近年にわかに注目されるようになってきている。しかも、かつての「現
実の場面での使い勝手は今一つ」といったイメージを次々と塗り替え、ビジネスの現場でも活用
される事例が増えてきている。
しかし「人工知能」とは実は明確な定義は無く、利用されているテクノロジーもさまざまなも
のが混在している。「人工知能」研究者は何度かの「冬の時代」があったため、あえて「人工知能」
ではなく別の用語を使っていた事などがあり、その事が混乱に拍車をかけている面もある。
さらには「人工知能」が人間の能力を超えて暴走する、といった脅威論が喧伝されたり、それ
には至らなくてもさまざまな事業や雇用に破壊的な影響をもたらすのではないか、といった危惧
も囁ささやかれている。
本レポートは、これらの「人工知能」にまつわる混乱した情報を整理し、現実に人工知能には
何が可能なのか・不可能なのか、また企業経営にどのようなインパクトを与えるのかについて、
考察を行ったものである。
EY
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
21
レポート
高齢者発の
日本企業の
成長シナリオ
ー超高齢社会
のデザインー
高齢者という成長の機会
65 歳 以 上 人 口 比 率 は 2014 年、26.0% に 達 し
た(総務省『人口推計』)。これは 4 人に 1 人が 65
歳以上であることを意味する。また、75 歳以上は
12.5% であり、8 人に 1 人の計算だ。
高齢化といえば、先行きについて暗いイメージが流
布しているようだ。例えば、高齢者世代(以下、65
歳以上を示す)は、預貯金を取り崩して生活する割合
が高いため、日本経済全体の貯蓄が減少する傾向があ
る。それは、日本全体の貯蓄と事後的にバランスする
設備投資が抑えられることを意味し、設備投資の鈍化
は日本経済の潜在成長率を低下させる恐れがある。ま
た、高齢化によって現役世代の割合が低下し、労働力
が少なくなることも経済成長の下押し要因になる。そ
うした状況では、収益性が見込めないため、企業の成
EY 総合研究所
長余地も限られそうだ。
しかし、高齢者の実像を踏まえれば、むしろ、新た
な成長の種が日本社会には眠っていると考えられる。
エコノミスト
鈴木 将之
それをうまく芽吹かせて育てていけば、明るい未来と
して花開く可能性も高いはずだ。
そこで、本稿では、高齢化という現実を踏まえた上
で、将来の成長の種を育てられるような超高齢社会の
デザインについて考える。
超高齢社会デザイン
1. 雇用の多様化
超高齢社会のデザインを考える上で、重要な要素の
一つは雇用の在り方だ。健康で働く意欲がある人が働
いて能力を発揮できる環境を整えることが必要にな
る。
一般的に、日本の高齢者の働く意欲は高いことが
知られている。実際、65 歳以降に仕事をしたい人
の割合は全体の 44% を占め、仕事をしたくない人の
31.4% を上回っている(内閣府『平成 24 年版高齢
社会白書』)。調査時点の同世代(65 ~ 69 歳)の就
業率は 36.4% であったため、働く意欲をもちながら、
実際に働いていない人が多いことがわかる。すなわち、
22
EY Institute
Report
現在 26% を超えた 65 歳以上人口比率は、2060 年代に 40%
超高齢社会
のデザイン
超に達すると予想されている。高齢化というと、先行きが暗い
イメージだが、高齢者の実像を踏まえると、むしろ新たな成長
の種が日本経済に眠っていると考えられる。
就業率には向上の余地があるのだ。
るようだ。その一方で、
「能力・経験を活用したい」(2
これまで高齢者の就業は増えてきた。14 年におけ
つまでの複数回答で企業規模によって 6 ~ 8 割)、
「適
る 65 ~ 69 歳世代では男性の 5 割、女性の 3 割が
した仕事又は年齢に関係ない仕事がある」(同 1 ~ 4
働いている計算だ<図 1 >。年金制度の改革とともに、
割)など積極的な態度がみられることも事実だ。また、
06 年に改正高齢者雇用安定法が施行されるなど雇用
高齢者側では、「自分の都合のよい時間に働きたいか
制度も変化しており、就業へ高齢者の背中を押してい
ら」(31.6%)、「家計の補助・学費等を得たいから」
(20.5%)などの理由が多く、むしろ「正規の職員・
る。
ただし、高齢者の就業者には非正規労働者が多いこ
従業員の仕事がないから」
(8.8%)は少ない傾向にあ
とも事実だ。14 年には、非正規労働者のうち、55
る(総務省『労働力調査』)。
~ 64 歳 が 421 万 人、65 歳 以 上 が 86 万 人 お り、
しかし、非正規という選択が雇用の多様性の乏しさ
非正規労働者(1,962 万人)のそれぞれ 21%、4%
に起因している可能性も否定できない。例えば、60
を占めていた(総務省『労働力調査』)。男性では定年
歳から 65 歳までの 5 年間に雇用期間を限定した正
後の雇用延長による契約社員や嘱託が多い一方で、女
社員や、職務、労働時間、勤務地などをあらかじめ定
性では 40、50 代から引き続きパートとして働いて
めた限定正社員の積極的導入など、高齢者のニーズに
いる人の割合が高くなっている。
対応した多様な選択肢を用意することもあり得る。個
この状況には、企業と高齢者にそれぞれの思惑があ
人の能力や企業の業績に応じて、賃金や処遇を決めれ
る。企業側には、企業規模にかかわらず 3 ~ 4 割が「適
ば、企業収益を損なうリスクの回避にもつながる。ま
した仕事がない」「体力、健康の面で無理がきかない」
た、高齢者も正社員としてやりがいを持って、仕事に
(2 つまでの複数回答)(内閣府『平成 18 年国民生活
従事できれば、より生産性を高められるだろう。
白書』)をあげるなど高齢者雇用に消極的であり、そ
さらに、雇用者の多様化には副産物もある。それは、
のリスクを回避するために非正規での雇用を選んでい
女性も働きやすく、男性も長時間労働から解放されて
育児・介護に携わりやすい環境である。雇用の多様性
をうまく活かせば、企業の生産性を向上できることが
図 1 60 歳代の就業率
1990
(%)
知られている。もちろん、そのためにはマネジメント
2000
2010
が重要になり、経営者の企業経営、管理職の姿勢がこ
2014
れまで以上に問われることになるだろう。このような
80
55
75
50
多様性を持った雇用環境が、超高齢社会のデザインの
70
45
上では必要になっている。
65
40
60
35
25
40
55
50
45
40
35
30
25
20
20
総数
60-64歳 65-69歳
男
総数
65-69歳
30
45
総数
50
60-64歳
55
60-64歳 65-69歳
女
女
出典:総務省『労働力調査』より EY 総合研究所作成
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
23
高齢者発の日本企業の成長シナリオ ー超高齢社会のデザインー
費は 1.5 倍強もある<図 3 >。また、スポーツクラ
2. 潜在需要の掘り起こし
ブ使用料や映画・演劇などへの消費は現役世代にも見
劣りしない。他には、コーヒーや紅茶、清酒、焼酎、
雇用環境が整うと、所得が増えることから、高齢者
ウイスキーなどの消費が多い上、習い事、園芸などの
消費がさらに拡大すると見込まれる。高齢者の将来不
趣味や、パーマカットや化粧品など理美容への関心も
安を軽減しながら、安心して消費できる環境が超高齢
高いなど、活発な一面もみられる。もちろん、医療費
社会のデザインでは求められる。
とともに健康保持用摂取品などヘルスケアに関連する
これまでも、高齢者は消費の下支え役として注目さ
消費も多い。
れてきた<図 2 >。12 年からは、団塊の世代が 65
このような高齢者消費には、いくつかの成長の種が
歳を迎えるなど人数も多いことから、その存在感は大
あると考えられる。
きかった。その上、12 年末からは、アベノミクスに
第 1 に、潜在的な消費需要があることだ。例えば、
よる株価上昇と、団塊の世代の本格的な退職とが重
高齢者は、自ら体を動かすことには熱心な一方で、ス
なったことで、より高齢者消費がかさ上げされた。
ポーツ観戦には消極的なようだ。それならば、スポー
また、人数だけではなく消費額も多い。14 年の世
ツ観戦に体験を合わせたことへの消費として、または
帯主年齢別の消費額をみると、60 歳代の年間消費額
財布のひもが緩みがちな孫とのスポーツ観戦・体験消
(355 万円)は、40 歳代(388 万円)を下回るもの
費などとして、潜在需要を引き出せる可能性があるだ
の、30 歳代(325 万円)を上回っている(総務省『家
ろう。実際、旅行会社の中には、高齢者消費の掘り起
計調査』)。世帯人員数を調整した等価概念でみると、
こしのために、介護関連の資格を持つ添乗員をつける
60 歳代(216 万円)は、40 歳代(201 万円)を上回っ
ている。つまり、社会が高齢化しても 1 人あたりの
など、きめ細かいサービスを展開しつつある企業もあ
消費額が大きく減っていないのだ。
また、被服費なども、現役に比べると少額にとど
る。
さらに、高齢者消費には特徴があることも知られて
まっている。4 人に 1 人が高齢者という時代に、高
いる。総務省(2015)のように、高齢者(世帯主年
齢者をターゲットにした服飾製品の販売会とそれに付
齢 65 歳以上)と現役(同 65 歳未満)の消費を比べ
随するライブなどのコンテンツやファッションショー
ると、高齢者の消費には、住居や交通・通信、教育な
に潜在需要があるだろう。団塊の世代をはじめとして、
どは現役の消費に比べて少ない一方で、医療や教養娯
現在の高齢者は若い頃からファッションや流行に敏感
楽の消費が多い。
な世代である。その上、高齢者世帯の携帯電話普及率
例えば、国内外の旅行では、現役世代の消費額が平
は 85.9%、スマートフォンは 25.6%、パソコンは
均消費額の 0.8 倍弱にとどまる一方で、高齢者の消
47.7%(総務省『平成 26 年全国消費実態調査』)で
あるなど、情報に対する感度が高まってきている。そ
図 2 消費支出の世帯主年齢別の分解
(前年同期比%)
現役
4
のため、新しいファッションなどの情報を提供してい
高齢者
消費支出
3
第 2 に、企業の生産活動にとってもメリットがある。
高齢者は比較的、消費活動への時間を確保できること
2
1
から、平日のサービス消費を促すことで、サービス企
0
業の稼働率の平準化ならびに生産性を高めることがで
-1
きる。森川(2014)が示しているように、サービス
-2
業の生産性を高める上で、需要と供給の時間と空間的
-3
EY Institute
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
であるためだ。実際、例えば、理美容店や旅行会社な
2006
な差があることから、それらをいかに埋めるかが課題
-5
2005
-4
出典:総務省『家計調査』より EY 総合研究所作成
(注)現役は世帯主年齢が 65 歳未満、高齢者は 65 歳以上
24
くことが潜在需要の掘り起こしにつながるだろう。
どは平日の価格を下げることで高齢者のサービス需要
を掘り起こそうとしている。
Report
また、地方で進む過疎問題において、高齢者の旅行
をはじめとした対個人サービス業の生産誘発効果が大
などによって需要を引き付けることができる可能性が
きい傾向がある。こうした産業では生産に応じて雇用
ある。それに伴って、以下で述べるように、企業の生
機会も生み出されるため、高齢化によって産業構造が
産活動を通じて雇用機会が生み出される。つまり、サー
よりサービスの方向へシフトすることになる。
ビスの空間的な差を埋める役割の一端を高齢者消費が
しかし、高齢者消費に関連して重要なことが少なく
担うといえる。
とも二つある。一つは、4 人に 1 人が高齢者という
第 3 に、産業構造を変化させる可能性がある。そ
人口規模に加えて、潜在的な需要の多さを踏まえれば、
こで、現役と高齢者の消費支出を、世帯人員を調整し
数量面で成長に貢献できる可能性があることだ。もう
た等価概念で捉えて、産業連関分析によって生産誘発
一つは、現在のサービス業には十分に取り入れられて
額を計算してみた<図 4 >。
いない IoT(Internet
まず、高齢者消費は世帯ベースでは世帯人員数の相
などの技術があり、それらがサービス産業の生産性を
違から平均の 0.87 倍である一方で、等価概念ベース
向上させる余地が大きいことである。これからの高齢
では 0.98 倍となり、現役との差が小さい。前述のよ
者は、自身もパソコンやスマホ、携帯電話など IT 機
うに、高齢者だからといって、消費を大きく減らして
器を駆使できるため、より親和性が高い。これらは、
いるわけではない。
経済のサービス化に伴う生産性・経済成長率の低下を
次に、その消費額をもとに生産額を計算してみると、
下支えできると考えられる。
消費費目の相違から企業の生産活動への影響が現役と
これらを踏まえると、高齢化が進む中でも、現在育
高齢者で大きく異なることがわかる。高齢者の消費需
ちつつある技術を導入して、潜在需要を掘り起こして
要が底堅い飲食料品や医療・福祉産業では、生産誘発
いけば、日本企業・経済が成長していく姿を描けるは
効果が大きい。さらに、宿泊業や娯楽サービス業など
ずだ。
of Things)や AI(人工知能)
図 3 高齢者・現役の消費額の相違(平均= 1.0)
現役
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
その他
教養娯楽
高齢者
宿泊料
食料
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
住居
光熱・
水道
家具・
家事用品
教育
国内パック
旅行費
外国パック
旅行費
被服及び履物
交通・通信
保健医療
映画・演劇・
文化施設等入場料
1.5
他の入場・ゲーム代
1
スポーツ観覧料
0.5
保健医療
サービス
0
遊園地入場料・
乗り物代
他のスポーツ施設使用料
医薬品
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
健康保持用
摂取品
ゴルフプレー料金
スポーツクラブ使用料
保健医療品・器具
出典:総務省『全国消費実態調査』より EY 総合研究所作成
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
25
高齢者発の日本企業の成長シナリオ ー超高齢社会のデザインー
図 4 現役・高齢者消費支出(1 カ月あたり)の生産誘発額
3
差(=②-①)(右軸)
現役①
高齢者②
(万円)
0.4
2.5
0.3
2
0.2
1.5
0.1
1
0.5
7
6
(万円)
差(=②-①)
(右軸) 1.2
現役①
高齢者②
0.8
5
0.4
4
0
3
0
2
-0.1
0
農林水産業
鉱業
飲食料品
繊維製品
パルプ・紙・木製品
化学製品
石油・石炭製品
プラスチック・ゴム
窯業・土石製品
鉄鋼
非鉄金属
金属製品
はん用機械
生産用機械
業務用機械
電子部品
電気機械
情報・通信機器
0
(万円)
8
-0.4
1
-0.8
輸送機械
その他の製造工業
建設
電力・ガス・熱供給
水道
廃棄物処理
商業
金融・保険
不動産
運輸・郵便
情報通信
公務
教育・研究
医療・福祉
他の非営利サービス
対事業所サービス
対個人サービス
(万円)
3.5
出典: 総務省『平成 23 年産業連関表』『全国消費実態調査』より EY 総合研究所作成
(注) 最終需要としての消費支出は等価概念にしている。また、全国消費実態調査の消費費目と産業連関表の商品項目への変換は総務省
『産業連関表総合解説編』などを参考にして作成したコンバータによる。
3. 安心と競争のバランス
26
超高齢社会をデザインする上で、重要な視点は安心
そこで期待されるのは、健康寿命を長くするために、
と競争のバランスだ。
医療産業や NPO 法人・地方自治体などが連携したヘ
第 1 に、安心の確保は重要な課題だ。なぜなら、
ルスケア分野の成長だ。高齢化によって潜在需要はま
高齢者にとって最大のリスクとして、健康不安が挙げ
すます大きくなっており、こうした分野には成長の種
られるからだ。健康が不安であれば、高齢者には、消
がある。もちろん、健康や医療にはさまざまな不確実
費ではなく、いざというときの貯蓄を確保しようとい
性があるため、市場に全て任せることはできないこと
う動機が生じやすい。健康には予想できない不確実性
や、医療には所得の多寡ではなく必要性から提供され
があるため、社会全体で支えていくことが必要になる。
るべきという意見も考慮すべきである。それらを踏ま
現在日本は、世界一の高齢化にも関わらず、社会保
えて、市場・産業化できる部分とそうでない部分をき
障支出を渋っている小さな政府である。そのため、も
め細かく見極めていきながら、成長分野として育てて
う少し政府の下支えを期待したいところだが、過大な
いくことが期待される。
期待は禁物と言わざるを得ない。財政健全化という大
第 2 に、競争を促すことである。高齢者をはじめ
きな課題がある上、今後の高齢化比率の上昇によって、
とした消費者に支持されることによって、企業は利益
医療・介護費が膨れ上がることが予想されるからだ。
を確保して長期的に成長するという本来の意味での利
年金制度のような積立金を持たない医療・介護制度を
益を追求することが重要だ。特に、高齢者消費には企
いかに存続させるのかが大きな課題になっている。後
業にとってのフロンティアが多い。そのような状況で
発薬の利用促進や在宅医療・看護の推進などによっ
は、競争がフロンティアの拡大と企業の成長に貢献す
て、同じ費用をかけるならば、高齢者自身の生活の質
るだろう。そのとき、規制すべきは規制して、緩和す
(QoL)がより高まるような方法をとるなど、社会保
べきは緩和する規制改革が必要だ。現在の政府は企業
障の効率化が重要ではある。その一方、社会保障の拡
の成長を重視する姿勢を示しており、例えば、法人税
充は、消費税率引き上げなどによる財源の確保なしで
率引き下げや TPP 参加などが成果をあげつつある。
は、不可能な情勢だ。
以前に輸出産業の 6 重苦といわれていた困難が次第
EY Institute
Report
に緩和しており、企業の競争環境は整いつつある。
<参考文献>
また、高齢化が進む日本の経験は、海外でも活用で
総務省(2015)「統計からみた我が国の高齢者(65 歳以上)」統計
トピックス No.90
内閣府(2012)『平成 24 年版高齢社会白書』
内閣府(2006)『平成 18 年国民生活白書』
森川正之(2014)『サービス産業の生産性分析:ミクロデータによ
る実証』日本評論社
きる点も注目される。アジアをはじめ世界も高齢化か
ら逃れることはできない情勢だからだ。そのため、高
齢化に対応した取り組み・社会づくりを進めていくこ
とが重要だ。
労働者としての高齢者にも、競争意識が求められる
ようになるだろう。例えば、年齢にかかわらず、学ぶ
ことによってスキルを向上させることが重要だ。過去
の経験を活かしながら、新たな知見を広げていくこと
で、変化が目まぐるしい社会に対応できるからだ。企
業も労働者も政府も、誰も経験していない高齢化の中
で、競争意識をもって、不安を共有して安心感を高め
ながら、成長していく姿が今後の一つの形だろう。
Pickup Information
経済関連ナレッジのご紹介
企業経営、そして株主にとって重要な将来収益は、常に経済環境の変化にさらされています。
「シリーズ : 経営者の
ための経済・市場環境定点観測」では、企業の経営陣、経営戦略企画、実務者などの立場から、経済環境の変化を捉え、
経営戦略につながる情報提供を目的に、経済・資本市場の定点観測を行います。
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.4
ギリシャの次は中国:高まる海外経済リスク
(2015.10.08)未来社会・産業研究部 エコノミスト 鈴木 将之
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-society-and-industry/2015-10-08.html
「シリーズ : 経営者のための経済・市場環境定点観測」は、EY 総合研究所のエコノミストが経済環境をウオッチし
ながら定期発信をしています。
次号 vol.5 は、2016 年 1 月に公開予定です。
詳しくは、http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/ をご覧ください。
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
27
レポート
Fintech は 既 存
金融サービスを
ディスラプト
(破壊)するか
はじめに
昨年頃から急速にメディアで取り上げられるよう
になったビジネス用語に「Fintech」がある。金融
(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた
用語で、最新の情報技術(IT)を使った新しい金融
関連サービスを指しており、電子商取引(EC)決済、
オンライン送金、複数の口座情報の管理からビットコ
イン等の仮想通貨まで、幅広い概念として捉えられて
いる。
この Fintech は、既存の金融サービスを置き換え、
ディスラプト(破壊)するといった事がささやかれて
おり、金融サービスの業態やエコシステムを変革する
可能性がある、あるいは金融にとどまらず他産業にも
EY 総合研究所
上席主任研究員
廣瀨 明倫
多大な影響をもたらすとも言われている。本稿ではそ
の状況について概略を述べてみたい。
米国調査の衝撃
2014 年の 3 月に「ミレニアル世代の破壊指標(The
Millennial Disruption Index)」という調査結果が
米国のメディア企業から発表された※ 1。現在の米国
で労働力人口の約 40% を占めるミレニアル世代と呼
ばれる 1981 ~ 2000 年生まれの 1 万人を対象に行
われた調査である。この調査により、各種産業の中で
銀行が最も破壊的影響を受けるという結果が示され、
米国の銀行関係者に衝撃を与えた。
この調査の対象となった世代は、幼少の頃からイン
ターネットやソーシャルメディアに慣れ親しみ、ス
表 1 銀行サービスに関する意識調査の結果
• 53% が「他の銀行と異なるサービスが無い」
• 3 人に 1 人が「90 日以内に利用する銀行を
変更」
• 33% が「銀行を全く必要としない」
• 73% が「銀行よりも IT 系企業の金融サービ
スに期待」
• 約半数が「スタートアップ企業が銀行業務を
革新する」
出典:
“The Millennial Disruption Index”より EY 総合研究所作成
28
EY Institute
Report
Finance
+
Technology
Fintech と呼ばれる IT を活用した新しい金融サービスが
注目されています。スタートアップ企業が次々と生まれる
一方で、既存の金融機関はディスラプト(破壊)されると
も言われています。この Fintech の現状に迫ります。
マートフォンなども難なく駆使することからデジタル
ネイティブと呼ばれることもある。一方で、家や車の
Fintech スタートアップの動向
所有にはあまり興味を示さないなど、その上の世代と
は消費行動様式などがかなり異なっているとも言われ
米国で毎年「破壊的事業者」を 50 社リストアッ
ている。
プ し て い る「Disruptor50」 の 15 年 版 で は、
調査結果には既存の銀行サービスに関する厳しい指
に慣れた世代には、既存の銀行のサービスが魅力的に
SpaceX、Uber、Airbnb と い っ た 企 業 に 並 ん で
Fintech スタートアップ企業が 11 社選出されてい
る(<表 2 >参照)。13 年には 6 社、14 年には 12
社が選出されており、昨年に引き続き Fintech 系の
映っていないという事が示されている。
スタートアップ企業の注目度が高い事が示されてい
日本では同様の調査は行われていないが、総務省の
る。
通信利用動向調査では、40 歳未満の年代では「主な
現在注目されている Fintech 企業の事業領域を大
インターネットの利用端末」が PC ではなくスマート
まかに示すと、<図 1 >のとおりとなっている。多
摘が並んでおり、逆に IT 系の企業への期待感が示さ
れている(<表 1 >参照)。スマートフォンの利便性
フォンに既に移行しており
※2
、今後、日本において
も世代の移行とともに、金融サービスに求められる性
質が変わってくることは十分に予想される。
くのスタートアップ企業が出現しているのは「決済」
「個人資産管理」「クラウドファンディング」の分野で
ある。
表 2 注目されている Fintech スタートアップ企業
Disruptor 50 での
社名
順位
サービス内容
TransferWise
マッチングを利用した低手数料の海外送金サービス
17 位
Oscar
追加料金なしで医療サービスを受けられる医療保険
18 位
Personal Capital
個人向けの資産管理サービス
23 位
Motif Investing
特定分野(モチーフ)への低額の投資信託を提供
25 位
SoFi
学生向けのローン借り換えサービス
26 位
ZenPayroll
クラウドでの給与管理等の企業向けサービス提供
31 位
Coinbase
ビットコイン交換所サービス
33 位
Klarna
電子商取引(EC)での後払決済サービス
34 位
Wealthfront
自動資産運用サービス(ロボアドバイザー)
36 位
Betterment
自動資産運用サービス(ロボアドバイザー)
40 位
Square
ドングルを利用するクレジットカードの簡易決済
8位
出典:CNBC“Disruptor 50”より EY 総合研究所作成
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
29
Fintech は既存金融サービスをディスラプト(破壊)するか
「決済」に関してはスマートフォンを活用したクレ
展開する例なども見られ始めている。
ジットカード取引が最も注目されている。ドングルと
「個人資産管理」の分野では、家計簿アプリなどが
呼ばれる安価な端末とスマートフォンのセット(ドン
スマートフォン上での使いやすさをアピールしてユー
グルをスマートフォンのイヤホンジャックに差し込ん
ザー数を伸ばしている。複数の銀行口座の残高から各
で利用する場合が多い)が従来の高価なクレジット
社発行のポイント、カメラによるレシートの読み取り
カード端末の代わりとなり、中小の小売店舗を中心に
情報まで、まとめて管理できるものも登場しており、
浸透しつつある。また、複数のクレジットカードをま
個人の金融情報を一元的に把握できる事から、より
とめて取り扱うと同時に、カード情報等をダイレクト
パーソナライズされた他のサービス(例えば融資業務
にネット上でやり取りしない事で、安全性を高めた
や投資アドバイス業務等)への業務拡大・連携なども
サービスなどが現れてきている。
期待されている。
これらのサービスは基本的に既存のクレジットカー
「クラウドファンディング」ではシステムの参加者
ド決済の連携枠組みを利用しているため(アクワイア
に対して資金を募る形態が取られており、特定の製品
と呼ばれる役割を担う場合が多い)
、元になる枠
を製造するための資金募集から、純粋な事業資金の融
ラ
※3
組み規約の変更等があった場合には、合わせて変更が
資まで、さまざまな資金調達案件が取り扱われている。
必要になる。例えばクレジットカードが磁気ストライ
既存の融資事業者では取り扱わないような小規模な案
プから IC カードへ移行する動きが出ているが、利用
件も対象となるため、資金調達の幅が広がるメリット
するドングルなども合わせて対応する端末に移行する
があるが、資金を投資する側に対しても個別に細やか
必要がある。また、サービス提供事業者が多く現れて
な助言やサポートがあるわけではなく、貸し倒れに終
きて競争も激化しているため、決済単独事業から、利
わる場合もあり、オウンリスクで対応する事が求めら
用履歴などのデータを基にした融資業務などに事業を
れるサービスとなっている。
図 1 Fintech 関連企業の事業領域
想定ユーザー
企業
個人
決済
(海外)送金
オンライン融資
サービス
クラウドファンディング
経営支援
PFM(個人資産管理)
会計業務支援
資産運用・投資アドバイス
仮想通貨
インフラ
ブロックチェーン
出典:EY 総合研究所作成
30
EY Institute
Report
たな こ
う場合、店子の取引の状況がリアルタイムで把握でき
Fintech に見られるトレンドの分析
ることから、例えば特定の商品が急に人気が出てきた
ため、その店子に対して商品調達のための資金融通を
Fintech のスタートアップ企業が既存の金融サー
より柔軟に行うといった判断も可能となっている。こ
ビスを破壊するかどうかについては予断を許さない面
のように多くの情報源と人工知能を活用することに
はあるものの、現在トレンドとして現れてきているも
より、従来は与信が困難であった顧客企業・顧客層を
のは以下が挙げられる。
融資対象者として新たに開拓する事が可能となってお
り、ビッグデータや人工知能で技術力を有するスター
トアップ企業がこの分野に参入してきている。また、
1. スマートフォンの活用
従来は高額の資産保有者にしか提供できなかった投資
アドバイスなども、人工知能の活用により「ロボアド
上記の決済サービスに見られるとおり、スマート
バイザー」と呼ばれる、よりパーソナライズされた自
フォンの活用が重要な要素として考えられている。
動投資アドバイスや、投資ポートフォリオの自動組み
既存の金融サービス業の中にはスマートフォンの活
換えなども行われるようになってきており、顧客の利
用を表面的な事象として捉えている場合も多く見受
便性が高まってきている。
けられるが、顧客への接点としては極めて重要であ
り、Fintech の事業領域では特に重視すべきインター
3. 仮想通貨やブロックチェーン技術の活用
フェースである。
他の分野の例で言えば、現在ほとんどのスマート
フォン利用者が使用していると考えられる「メッセー
よりインフラに近い事業領域として、ビットコイ
ジングサービス」は、登場した当初、既存の PC 上で
ンに代表される仮想通貨や、それを支えるブロック
利用可能なサービスに比較してその優位性が疑問視さ
チェーン技術を応用する事業領域が挙げられる。
れていたが、現在では複数のメッセージングサービス
仮想通貨に関しては、従前から規制対象となり得る
アプリが全世界で億単位の利用者を獲得するほどに浸
のかどうかが注目されていたが、マネーロンダリング
透している。
対策等を検討する政府間組織である金融活動作業部会
Fintech の ス タ ー ト ア ッ プ 企 業 は 特 に ス マ ー ト
(FATF ※ 4)が、15 年 6 月に仮想通貨と法定通貨の
フォン上でのインターフェース設計に長 けており、
取引を行う交換所に対して、登録または免許制を課す
ユーザー体験を可能な限り最適・快適なものにするべ
とともに、顧客の本人確認義務等を適用する方針を示
く日々改良を行っている。既存金融サービス事業者も
している。これに伴い、日本においても上記交換所が
顧客接点を意識する場合には、同様に「スマホファー
登録または免許制となる可能性が高まっている。なお、
スト」でインターフェース・事業モデルを再検討する
日本では 14 年 2 月に仮想通貨の著名な交換所が破
必要がある。
綻し、顧客が預け入れていた多くの仮想通貨が失われ
た
た事もあり、消費者保護の在り方についても金融庁に
おいて慎重な議論がなされている。仮想通貨に関して
2. 大量データの利用と人工知能の活用
はこれらの議論を経て規制の枠組みが明確化してくる
頃から、新規に参入する事業者などが増えてくる事が
多くの Fintech スタートアップ企業で、大量のデー
想定される。
タや人工知能が活用されている。例えば、米国のロー
また、仮想通貨を支えているブロックチェーン技術
ン会社では通常クレジットカードの利用履歴を基に融
は、未公開株の取引システムや送金ネットワークでの
資審査を行っているが、与信対象者が SNS 上で行っ
利用など、海外の金融機関を中心に数多くの応用に向
ている書き込みの内容など、多様な情報源を基に与信
けた取り組みがなされてきている。ブロックチェーン
審査を行う企業が現れてきている。また、電子商取引
技術は従来型の IT システムに比べてはるかに安価に
(EC)プラットホームを運営する企業などが融資を行
システム構築を行う事が可能であるため、旧来システ
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
31
Fintech は既存金融サービスをディスラプト(破壊)するか
ムへのサンクコストを抱えている既存の金融サービス
う報告※ 7 もあり、既存の金融サービス事業者から見
が対応できない間に、サービスを置き換えてしまう可
れば、大きな投資額ではないと考えられるのではない
能性も指摘されている。わが国の金融サービスは正確
だろうか。また、16 年までには全世界のトップ 50
性・迅速性を備えた業界横断の IT システムを世界に
行のうち 75% が API を公開し、25% が顧客向けの
先駆けて実現してきた反面、それらのシステムが柔軟
アプリストアを開設する、という調査機関の予測※ 8
性に欠けるとともに運用・保守コストが高止まりして
もある。
おり、システム全体を適切に構築・運用・管理できる
日本でも幾つかの銀行が API を活用した Fintech
技術者も徐々に減少しているとの指摘もある。このよ
企業との連携を開始しており、エコシステムが今後さ
うな背景に鑑みると、即時ではないものの、どこかの
らに発展していく事が期待される。
時点でブロックチェーン技術等の新世代の技術への移
行も検討する必要があると考えられる。
5. さらに新たな事業領域の出現
4. API の開放によるエコシステム構築の取り組み
以上に紹介した事業領域以外にも<図 1 >では
分類し難い新たな事業領域が次々と生まれており、
Fintech 領域において、最近特に注目されているの
API(Application Programming Interface)
を利用した外部連携である。API はあるネットワー
Fintech に関しては継続的なウオッチが必要である。
が
ク上のサービスを他のサービスから呼び出して利用で
きる連携のための仕組みであり、例えば Google 社
英国 eToro 社は、投資家によるソーシャルネット
の地図サービスを自社のウェブサイトに埋め込んで利
ワークを形成するとともに、その参加者が、他の投資
用している例などが挙げられる。
家の投資行動を「まねる」事を可能としている。投資
金融サービスの場合、例えば残高照会や送金といっ
家は通例、経済動向、市場動向、個別企業の財務状況等、
た銀行が持つ機能を、他の Fintech サービス経由で
数多くの情報を分析する事により投資判断を行ってい
利用することなどが考えられる。従来の技術連携の
るが、このような作業を省略して、自分が気に入って
枠組みでも実現することは可能であるが、API を利
いる、あるいは自分と同じ投資スタイルを持つ他の投
用することによって、① Fintech サービス側で顧客
資家を見つけて、その投資家の行動を自動的にコピー
の ID・パスワードなどを預かる必要が無くなり、よ
する機会を提供している。
り安心・安全なシステムとなる(OAuth
※5
などの認
証連携方式利用が前提)、②従来型金融サービス側の
仕様変更に応じて、Fintech 側で行っていた個別の
• P2P 送金
システム対応をする必要が無くなる、③ほぼ自動での
金融機関の ATM の代替として、「Teller」と呼ば
サービス連携が可能になる、④契約等を通じて、従来
れる参加者を利用できる事業を、米国 ABRA 社が開
型金融サービス側も一定の収益を確保する事ができ
始している。スマートフォン上で近くにいる「Teller」
る、⑤従来型金融サービス側で公開する機能としない
を探し、現金を預けたり引き出したりすることができ、
機能を選択できる等のメリットがある。
預けた現金を遠方の知人に送金する事もできる。バッ
API の開放については、欧州の銀行が先行してお
クサイドでは仮想通貨のブロックチェーンのシステ
り、公開された API の仕様を基に顧客が自ら必要と
ムを利用しているが、ユーザーが意識する事はない。
するサービスやインターフェースを構築する事が可能
配車アプリに倣ったビジネスモデルだとされており、
になっている銀行もある
※6
。また、英国政府なども
API の公開について積極的に後押しするスタンスを
取っている。フルセットの API の作成費用でも 1 行
あたり 3,000 ~ 6,000 万円程度しか要しないとい
32
• ソーシャルインベストメント
EY Institute
ATM の普及していない国や少ない地域での活用が期
待されている。
Report
最後に
Fintech スタートアップ企業は、顧客に直に接す
るフロントの領域から、バックボーンを支える決済
ネットワークまで、従来の金融サービス事業者が提供
していた事業領域のあらゆる部分に対して新しい技術
やアイデアに基づくサービスを提案するとともに、従
来の枠組みにとらわれない事業も展開し始めている。
一方で従来の金融サービス事業者はレガシーなシステ
ムに依拠し、旧来の顧客をつなぎ留めておくだけで
は、収益が縮小していく流れは避けられないと思われ
る。もちろん、わが国の消費者が現在の金融サービス
※ 1 http://www.millennialdisruptionindex.com/
※ 2 http://www.soumu.go.jp/menu_news/
s-news/01tsushin02_02000083.html
※ 3 クレジットカードの加盟店の募集・管理を行うプレーヤー
※ 4 The Financial Action Task Force の略
※ 5 アクセス制限がなされている元のプログラムに対して、別のプ
ラグラムがアクセスする事を許可する方式の一つ。銀行の口座
残高確認プログラムに対して、資産管理アプリがアクセスして
残高情報を得る時などに利用される。
※ 6 http://docs.fidor.de/
※ 7 英国大蔵省・内閣府レポート“Data sharing and open data
for banks”より
※ 8 http://blogs.gartner.com/kristin_moyer/2013/12/11/
digital-banking-and-the-role-of-apis-apps-and-app-stores/
に寄せる信頼感は強いものがあり、旧来の顧客が急激
に失われるとは考えにくいが、グローバルな競争やス
マートフォン世代の台頭の中で、徐々に収益機会を喪
失していく事は十分に考えられる。従来の金融サービ
ス事業者は、Fintech 企業に倣った新サービスの開
発、M&A を活用した事業領域の取り込み、API など
を活用した事業連携などで Fintech 企業の活力を活
かすオープンイノベーションの取り組みを行いつつ、
レガシーシステムの今後については慎重な検討を行う
など、ディスラプト(破壊)を避けるために、全社レ
ベルで対応すべき時期に現在差し掛かっていると考え
られる。
EY
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
33
レポート
わが国企業における
「取締役会評価」の
在り方を考える
ー「コーポレート
ガバナンス元年」
に求められる PDCA
サイクルの構築 ー
はじめに
東京証券取引所は 2015 年 6 月 1 日、有価証券上
場規定の別添として「コーポレートガバナンス・コー
ド」(以下、本コード)※ 1 を定め、関連する上場制度
を整備することで適用を開始した。本コードは「実効
的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原
則」を盛り込んだものとされており(資料編:「コー
ポレートガバナンス・コード原案」序文)、中でも注
目度の高い取り組みのひとつとして、「取締役会全体
の実効性についての分析・評価(以下、取締役会評価)」
の実施が求められている。
コーポレートガバナンス・コード 補充原則 4-11 ③
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参
EY 総合研究所
主席研究員
藤島 裕三
考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・
評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
補充原則 4-11 ③(以下、本原則)については、東
証がコーポレートガバナンス報告書において「コード
を実施するために行う開示」とすることを求めてい
る。したがって本補充原則を文面通りに解釈すると、
上場会社は毎年「取締役会の実効性について分析・評
価」を実施した上で、その結果についての概要をコー
ポレートガバナンス報告書に記載、投資家に対する情
報開示として提供しなければならない、ということに
なる。
なお「取締役会の実効性」とは、本コードの各原則
に従う(コンプライする)などして構築された各社に
おけるコーポレートガバナンスの仕組みや取り組み
が、「透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行う」(序
文)という所期の目的を達成できるよう、取締役会に
よって責任を持って運用されているか、が問われるも
のだと理解できる。特に本コードは 「いわば『攻めの
ガバナンス』の実現」(同)を強く求めており、取締
役会評価に対しても「迅速・果断な意思決定」を導出
することが期待される。
34
EY Institute
Report
コーポレート
ガバナンス元年
上場会社は 2016 年、コーポレートガバナンス・コー
ドの初期対応を通じた「気付き」を出発点として、さま
ざまなコーポレートガバナンスに関わる仕組み・取り組
みを改善していく、新たなステージに突入する。
ようとすることが、欧米において取締役会評価に期待
1. 欧米企業による取締役会評価とは
されている役割だといえる。
このように欧米企業の取締役会評価においては、
わが国企業にこそ取締役会評価はなじみが少ない
少なくとも外形的な仕組みや取り組みとして、監
取り組みだが、欧米においては広く一般的に実施さ
督機能が適切に備わった取締役会(モニタリング・
れているプラクティスである。欧州主要国のコーポ
ボード)の確立が前提となる。ほぼ例外なく欧米主
レートガバナンス・コードには軒並み取締役会評価
要国の上場会社は、取締役会の大部分を独立取締役
(evaluation
of the board)が盛り込まれており、
英 国 コ ー ド(The UK Corporate Governance
Code)※ 2 においては少なくとも 3 年に 1 回、外部
者(external facilitator)を用いて、取締役会評価
(independent
director)が占めており、また独立
取締役が中心の委員会で役員選任および報酬を(事実
上)決定するなど、経営者の業務執行を規律付けるシ
ステムが整備されている。厳格に構築されたシステム
を実施することが推奨されている。また米国の上場
が適切に運用されず実効性を損なうことがないよう、
会社に対しては、ニューヨーク証券取引所の上場規
取締役会が責任を持って PDCA サイクルを回すこと
則(Corporate Governance Standards, Listed
Company Manual)※ 3 によって、取締役会の年次
評 価(annual performance evaluation of the
board)を実施することが義務付けられている。
に、取締役会評価の目的があるといえよう。
2. 欧米企業をまねすればよいのか
エグゼクティブ・サーチのグローバル大手企業が発
表している、欧州の主要企業を対象とした 14 年の調
わが国企業における取締役会評価の在り方を考える
によると、サンプル企業(15 カ国から抽出した
に際しては、取締役会のモニタリング機能ひいては
査
※4
400 社)全体の 84% が取締役会評価を実施しており、
さらに全体の 70% については毎年実施している。ま
た外部者(external consultant / facilitator)を
活用した取締役会評価についても、67% が実施して
コーポレートガバナンス・システム全体が、実効性の
いるという。なお外部者を活用する頻度については毎
論されるテーマは専ら業務執行に関する個別案件と
年、隔年、3 年に 1 回などさまざまとなっている。
いった、典型的なわが国企業の取締役会(マネジメン
もともと取締役会評価は 1990 年代から欧米主要
ト・ボード)について、業務執行の状況を適切に監督
国で実施されていたが、01 年のエンロン事件や 08
しているか分析したところで、「モニタリングの仕組
年のリーマンショックを経て、その導入が推奨・促進
み自体がない」といった評価以前の結果になると思料
されてきた。大幅に権限委譲された経営トップが業績
される。
拡大や株価上昇(ひいては報酬増大)にまい進する余
本コード適用以前のわが国において、取締役会評価
り、リスクを度外視した野放図な新規投資や M&A に
を実施していると開示した事例はごく少数にとどまっ
走ったり、会計不正など企業不祥事に手を染めたりし
ている。14 年度の事業報告において、製薬 A 社は「取
ないよう、取締役会のモニタリング(監督)機能が形
締役会は、その職務の執行がコーポレートガバナンス・
骸化していないか、実効性を毎年見直すことで確認し
ガイドラインに沿って運用されているかについて、毎
分析・評価になじむほど整備されているのか、そもそ
もの疑問・疑念から想起せざるを得ない。メンバーの
大部分が社内昇格者の業務執行取締役で占められ、議
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
35
わが国企業における「取締役会評価」の在り方を考える
ー「コーポレートガバナンス元年」に求められる PDCA サイクルの構築ー
年、自己レビューを行い、コーポレートガバナンスの
このように考え方を進めていくと必然的に、欧米に
実効性を高める」とし、精密機器 B 社は「年に一度、
おける取締役会評価のプラクティスをわが国企業にそ
取締役会の運営に関してアンケートによる自己評価を
のまま導入したのでは、適切に機能するとは到底思え
実施」としている。A・B 社はいずれも指名委員会等
ないということになる。例えば、現状のマネジメント・
設置会社を採用しており、独立した社外取締役が過半
ボードを前提として、取締役会に構築すべきモニタリ
数を占める取締役会を構築している。このようにモニ
ング機能とは何か、自社に求められている「攻めのガ
タリング・ボードとしての仕組みが高度に確立した企
バナンス」に対応したモニタリング運用の在り方とは、
業は、わが国では極めてまれであることは言うに及ば
といった議論・考察を通じて、わが国企業そして自社
ない。
に適した取締役会評価のプラクティスを構築する必要
また欧米においては前述したように、専ら経営者に
があるのではないか。
よる暴走を防ぐことが取締役会評価の目的となってい
したがって取締役会評価を検討する前に、まずは本
る。すなわち、過剰な「攻めのマネジメント」を抑制
コードの趣旨(モニタリング機能の強化、「攻めのガ
する「守りのガバナンス」の実効性を高めるために、
バナンス」の実現)を踏まえた、自社が目指すべきコー
欧米企業では取締役会評価が実施されているのであ
ポレートガバナンスの基本方針を策定することが、最
る。一方で、経営者に迅速・果断な意思決定を促し、
も望ましいプロセスだと考えられる。この基本方針に
成長路線に駆り立てる「攻めのガバナンス」を上場会
沿って取締役会が構築・運用されているか、さらには
社に求めているわが国は、欧米とは状況が根底から異
基本原則そのものを見直す必要はないか、PDCA サ
なっているといわざるを得ない。構築すべき仕組みは
イクルにのっとって確認するのが取締役会評価の目的
同じモニタリング・ボードだとしても、運用面の取り
であるべきだろう。
組み(期待する役割、上程する議案など)は全くの別
物ともなり得るだろう。
36
EY Institute
Report
このように各社が構築すべきコーポレートガバナン
3. コンプライか、エクスプレインか
しか
ス・システムは、各社によって異なって然るべきであ
る。したがって本コードの導入初年度に限らず、コー
わが国企業が取締役会評価を構築・実施する場合、
ポレートガバナンスの基本方針が確立していない段階
欧米企業のプラクティスをそのまま導入するのではな
であれば、本原則はエクスプレインすることこそ、真
く、その前提として、自社が目指すべきコーポレート
摯な姿勢でコード対応に取り組んだ証左と評価される
ガバナンスの基本方針を策定することが望ましい、と
べきではないか。もちろん上記の基本方針は、単に本
論じた。この基本方針は本コードの趣旨を踏まえたも
コードを表面的になぞったものでは本末転倒だし、ま
のであるべきだが、具体的な仕組みや取り組みのレベ
た現状のコーポレートガバナンスを追認するだけのも
ル感については、各社に固有の事業環境や業績動向な
のでは不足感を禁じ得ない。
どに応じて、大きく異なったものとなって当然である。
もうひとつ、本原則が開示を求めているのは「結果
例えば、業績が長期低迷している企業においては、
の概要」である点、留意しなければならない。「実施
従来の事業展開にはない発想や過去の成功体験を覆す
しています」「以下の進め方です」だけではコンプラ
観点が必要であるため、経営戦略の方向性を取締役会
イしたとみなされないのである。実態が伴っていない
で議論する際には、積極的に株主・投資家の声を議論
のに「やっています」と強弁(コンプライ)しても、
に取り入れるべきである。決定した戦略を実行に移す
投資家との対話の際に問いただされて回答に窮するこ
際には、執行の立場から分離された取締役会(過半数
とになるかもしれない。このことからも、背伸びして
が独立した社外取締役を始めとした非執行者であるな
「フル・コンプライ」を目指すことは必ずしも上策で
ど)を通じて、厳格なモニタリング機能が発揮されな
はなく、本原則をエクスプレインとすることは検討に
ければならない。
値すると思料される。
その一方で、業績推移がすこぶる好調な企業であれ
なお「結果の概要」として安易に「問題ありません」
しん
し
ば、基本的には執行の立場を重視したマネジメント主
「実効性が伴っています」と記載することにも疑問を
体の取締役会であっても、資本市場による信認を受け
感じる。自社の取締役会運営ひいてはコーポレートガ
られるのではないか。もっとも、思わぬ落とし穴に陥っ
バナンスは完璧だ、と言い切ってしまってよいものか。
て足をすくわれるリスクを最小化するため、客観的な
「開示のための開示」では資本市場に見透かされよう。
気付きを与えてくれる程度の人数で社外取締役を選任
持続的な成長に資する独自のコーポレートガバナン
することは求められよう。
ス・システムを鍛えるため、積極的に課題を抽出した
上で、改善に向けた行動計画を策定・実行することが
望ましい。
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
37
わが国企業における「取締役会評価」の在り方を考える
ー「コーポレートガバナンス元年」に求められる PDCA サイクルの構築ー
4. 取締役会評価を検討するポイント
③評価する手法
本原則が挙げる「各取締役の自己評価」をアンケー
QUICK
ESG 研究所
※5
によると 11 月 13 日現在、
ト形式(5 段階評価、自由記載等)で実施し、まとめ
本コードに対応したコーポレートガバナンス報告書を
て取締役会に報告する手法は、比較的実施が容易で取
提出した東証 1・2 部企業は 513 社に達している。
TOPIX500 採用銘柄を抽出したところ 199 社が提
り組みやすい。ここから有用な課題を抽出するには、
出済みで、このうち本原則をエクスプレインしたのは
がよいだろう。もっとも各取締役がバラバラの問題意
80 社と約 4 割に達する。さらにはコンプライで提出
識で課題提起したのでは、取締役会としての改善計画
した企業であっても、適切な実態が伴っている事例ば
を取りまとめることは難しい。アンケートおよびヒア
かりではないことが推測される。相当に数多くの企業
リングの結果を単に報告するのではなく、取締役会で
で今後、取締役会評価に関わるプラクティスの構築が
ディスカッションすることが不可欠だと考えられる。
アンケート回答に基づいてヒアリングを併せて行うの
急がれることになるだろう。
以下、取締役会評価を実施するスキームを検討する
際、ポイントになると考えられる切り口について、若
干の考察を試みる。
おわりに
取締役会の運営面(日程調整、資料配布、事前説明等)
-JAPAN
is BACK-」※ 6 で掲げられたコーポレートガバナン
ス改革は、14 年に確定した日本版スチュワードシッ
に限定して評価することは、比較的容易で差し当たっ
プ・コード※ 7、同年に公表された「持続的成長への
ての着手に適している。ただしむやみに対応の高度化
競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関
を迫ることに陥り、事務局に過大な負担を強いる恐れ
係構築~」プロジェクト「最終報告書」(伊藤レポー
がある。より本質的な課題を抽出するためには、構成
ト) ※ 8 などを経て、15 年に適用開始された本コー
面(独立性、多様性、スキルセット等)が含まれるべ
「政
ドによって総仕上げされた。すなわち 13-15 年は、
きである。さらに取締役会はコーポレートガバナンス
府によるコーポレートガバナンス改革」(アベノミク
構築に責任を負うことを勘案すると、その全体(指名
ス・ガバナンス)の 3 年間だったと総括できる。
報酬の任意委員会、後継者の育成計画、株主との対話
本コードはコーポレートガバナンス全体について、
等)に対する関与の在り方が対象となろう。
企業に広範な「気付き」を与えるものである。初期対
①評価する範囲
13 年に政府が発表した「日本再興戦略
応としてのコンプライ / エクスプレインに関わる開示
②評価する基準
38
では、コードが求める水準の高さや時間的な制約もあ
り、必ずしも全ての企業が十分な検討を経たとは言え
日本型のマネジメント・ボードを基準とするなら、
ないだろう。しかし今後は本コードの開示を出発点と
業務執行の決定機能を中心としつつ、最低限のモニタ
して、さまざまなコーポレートガバナンスに関わる仕
リング機能(複数の独立社外取締役、監査役との連携
組み・取り組みを議論し、改善していくステージに突
等)が働いているか確認する。独立社外取締役の助言
入するものと考えられる。その意味で 16 年は「企業
を重視したアドバイザリー・ボードを構築するなら、
によるコーポレートガバナンス改革」元年となろう。
助言の内容が監督機能を高めるものであるか、業務執
来る「コーポレートガバナンス元年」を迎えるため、
行に踏み込んではいないか、などが問われる。本コー
真っ先に企業が構築すべき仕組みの一つが取締役会評
ドが理想とする(と見られる)モニタリング・ボード
価である。継続的なコーポレートガバナンス改善を導
を目指すならば、コーポレートガバナンス全体が監督
出するには、
PDCA サイクルの核となるチェック(C)
と執行の分離を徹底できているか問われよう。
機能が不可欠である。取締役会評価を毎期実施するこ
EY Institute
Report
とで、自社のコーポレートガバナンス・システムを鍛
えるだけではなく、マネジメントに対する実効的な関
与を促進することで、「稼ぐための最適解を見出し、
能力増強や更新等の設備投資にとどまらず、技術、人
材を含めて積極果敢に『未来に向けた投資』を決断
し、『攻めの経営』を展開していくこと」(日本再興戦
略 改訂 2015)※ 9 が期待される。
※ 1 http://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/
tvdivq0000008jdy-att/code.pdf
※ 2 https://www.frc.org.uk/Our-Work/Publications/
※3
※4
※5
※6
※7
※8
※9
Pickup Information
Corporate-Governance/UK-Corporate-GovernanceCode-2014.pdf
http://nysemanual.nyse.com/lcm/
http://www.heidrick.com/~/media/Publications%20
and%20Reports/European-Corporate-GovernanceReport-2014-Towards-Dynamic-Governance.pdf
http://sustainablejapan.jp/quickesg
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_
jpn.pdf
http://www.fsa.go.jp/news/25/singi/20140227-2/04.
pdf
http://www.meti.go.jp/pre
ss/2014/08/20140806002/20140806002-2.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/dai1jp.
pdf
コーポレートガバナンス関連ナレッジのご紹介
EY 総合研究所 未来経営研究部では、シリーズレポートであ
る「成長戦略としてのコーポレートガバナンス」を 2014 年
より継続的に発行しております。
未来経営研究部の研究員が収集・分析した情報をタイムリー
に発信することを心がけております。
詳しくは、http://eyi.eyjapan.jp をご覧ください。
コード適用目前の時期であった 2015 年 5 月には「コーポレートガ
バナンス その改革を日本型経営に真に活かすために」、コード適用が
開始され企業がコーポレートガバナンス改革から攻めの経営への本格的
な転換をし始めた 2015 年 10 月には「コーポレートガバナンス 『攻
めの経営』への転換 変わり始める日本企業」と題した 2 編の冊子を公開・
発刊しております。
各企業における経営者や実務担当者に資するべく関連情報を整理、分
析した内容となっており、EY Japan グループのクライアントの皆さ
まのみならず、広く多くの方々に手に取って頂けました。
EY 総合研究所では、外部情報の収集・整理だけでなく、事例研究・
調査・分析を継続的に行うことで、より高度な知見や、新しい着眼点で
のナレッジを集約し、情報発信やクライアントへのサービス提供につな
げてまいります。
「コーポレートガバナンス その改革を日本型経営に真に活かすために」
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-05-20.html
「コーポレートガバナンス 『攻めの経営』への転換 変わり始める日本企業」
http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-10-07.html
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
39
会社概要
2015 年 12 月 28 日現在
名称
EY 総合研究所株式会社
Ernst & Young Institute Co., Ltd.
設立
2013 年 7 月
〒 100-6031
東京都千代田区霞が関三丁目 2 番 5 号 霞が関ビルディング 31 階
所在地
代表取締役 鹿島 かおる
所長
柴内 哲雄
Tel
03 3503 2512(代表)
Web
eyi.eyjapan.jp
E-mail
[email protected]
新日本有限責任監査法人
EY 税理士法人
EY トランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社
EY アドバイザリー株式会社
EY 新日本サステナビリティ株式会社
EY 新日本クリエーション株式会社
EY Japan
EY リアルエステートアドバイザーズ株式会社
EY 弁護士法人
EY ソリューションズ株式会社
EY ビジネスイニシアティブ株式会社
EY フィナンシャル・サービス・アドバイザリー株式会社
新日本パブリック・アフェアーズ株式会社
通り
案内図
皇居
内堀
外苑
事堂
国会議
警視
庁
首都高速
霞が関料金所
省
日比
谷公
丸ノ内線・日比谷線・千代田線
霞ヶ関駅 A13 出口
EY 総合研究所
(霞が関ビルディング)
〒
銀座線 虎ノ門駅
11 出口
ル
ビ
JT
帝国
ホテ
ル
日比
谷国
際ビ
ル
新
石油 日本
本社
門
ノ
院
病
虎
銀 座 線 虎ノ門駅
徒歩 2 分
▶
丸ノ内線 霞ヶ関駅
徒歩 9 分
▶
日比谷線 霞ヶ関駅
徒歩 7 分
▶
千代田線 霞ヶ関駅
徒歩 6 分
▶
有楽町線 桜田門駅
徒歩 9 分
▶
南 北 線 溜池山王駅
徒歩 9 分
▶
都営三田線 内幸町駅
徒歩 10 分
※霞ヶ関駅からの時間表示は各線の改札口から起算しています。
都営三田線
内幸町駅
A4 出口
通り
愛宕
下
通り
通り
桜田
▶
外堀
A
ホテ
オー ル
クラ
園
庁
特許
庁
コ NA
六
ホ ンチ イ
ン
本
テ
木
ル ネン タ
ー
通
東
り
京 タル
金融
晴海
通り
外務
財務
国税 省
庁
南北線
溜池山王駅
8 出口
有楽町線 桜田門駅
4 出口
地下鉄
JR 新橋駅
自動車
首都高速をご利用の場合、3 号線「霞が関ランプ」
からお越しいただけます。
40
EY Institute
Profile
バックナンバー
• 創刊号の特集は
•Vol.2 の特集は
「2020 東京五輪を
『新生日本』実現の
スプリングボードに」
• Vol.3 の特集は
「自動車と IoT
(Internet of Things)
」
• Vol.4 の特集は
「成長戦略としての
コーポレートガバナ
ンス」
「おもてなし 2.0 指標
による新しい時代へ
向けた企業経営」
•「EY 総研インサイト」のバックナンバーおよびその他の関連レポートについては Web サイトに掲載しております。
eyi.eyjapan.jp/knowledge/
お問い合わせ
「EY 総研インサイト」の掲載内容について、詳細な情報をご希望の
場合は、執筆者またはその分野の専門家が対応させていただきます。
下記までお問い合わせください。
EY 総合研究所 企画・業務管理部
Tel:03 3503 2512 Fax:03 3503 2513
E-mail:[email protected]
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
発行日:2015 年 12 月 28 日
編集者:(責任者)柴内哲雄
(担当)企画・業務管理部 笹渕拓郎・石塚有紗
EY 総研インサイト Vol.5 January 2016
41
EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
EY について
EY は、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイ
ザリーなどの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞
察と高品質なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をも
たらします。私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応える
チームを率いるリーダーを生み出していきます。そうすることで、
構成員、クライアント、そして地域社会のために、より良い社会の
構築に貢献します。
EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグロー
バル・ネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、
各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・
グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービス
は提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。
EY 総合研究所株式会社について
EY 総合研究所株式会社は、EY グローバルネットワークを通じ、さ
まざまな業界で実務経験を積んだプロフェッショナルが、多様な視
点から先進的なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリッ
クに関する調査及び提言をしています。常に変化する社会・ビジネ
ス環境に応じ、時代の要請するテーマを取り上げ、イノベーション
を促す社会の実現に貢献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp をご覧
ください。
© 2015 Ernst & Young Institute Co., Ltd.
All Rights Reserved.
ED None
本書は一般的な参考情報の提供のみを目的に作成されており、会計、税務及びその他の専
門的なアドバイスを行うものではありません。意見にわたる部分は個人的見解です。EY 総
合研究所株式会社及び他の EY メンバーファームは、皆様が本書を利用したことにより被っ
たいかなる損害についても、一切の責任を負いません。具体的なアドバイスが必要な場合は、
個別に専門家にご相談ください。