地方公営企業会計制度の見直しについて 1 背景 地方公営企業の会計制度は、昭和 27 年の地方公営企業法施行以来、発生主義の考え方に 立って企業性の発揮に留意しつつ、企業債を借入資本金として位置づけるなど、地方公営企 業独自の枠組みにより運用されてきました。 しかしながら、民間の企業会計では、国際基準を踏まえて適宜見直しが行われる中で、昨 今、地方公営企業会計との制度上の違いが大きくなっていたことから、それぞれの比較分析 を容易にするためにも会計制度の整合性を図る必要が生じていました。 このような状況を背景として、総務省において地方公営企業の会計制度に関する見直し検 討が進められてきましたが、平成 23 年4月の地方公営企業法の一部改正等により地方公営企 業会計制度の見直しが行われたため、新会計基準については、平成 26 年度から適用されるこ ととなったものです。 2 見直し項目の概要 (1) 借入資本金(企業債)の負債への計上 これまで借入資本金として資本に計上していた企業債を、今後は負債として取り扱う ことになりました。これにより、貸借対照表では、資本が減少し、負債が増加しています。 [図1] 【見直し前】 貸借対照表 資産 【見直し後】 貸借対照表 負債 資産 負債 ・企業債 資本 ・自己資本金 ・借入資本金 (企業債) ・資本剰余金 ・利益剰余金 (2) 資本 ・自己資本金 ・資本剰余金 ・利益剰余金 補助金等により取得した固定資産の償却制度等の変更 補助金等を財源とした固定資産については、当該補助金等相当額について減価償却を 行わないことが任意で認められていましたが、この取扱いが廃止され、補助金等を含め 取得に要した全体の価額により減価償却を行うことになりました。 また、固定資産の財源となった補助金等は、これまで資本(資本剰余金)に計上して いましたが、見直し後は負債(長期前受金)に計上し、毎年度の減価償却見合い分を収 益へ振り替えることになりました。 1 補助金等を財源とした固定資産のうち、既に取得しているものについては、当初から 取得に要した全体の価額により減価償却を行っていたものとして、また、当該補助金等 についても当初から収益化を行っていたものとして処理することになりました。 ([図2] 参照) [図2] 【見直し前】 貸借対照表 資産 【見直し後】 貸借対照表 負債 資産 負債 減価償却 補助金等資産 = 収益へ振替 補助金等資産 資本 ・自己資本金 ・資本剰余金 補助金等 = 長期前受金 資本 ・自己資本金 ・資本剰余金 ・利益剰余金 ・利益剰余金 [図3] 【損益収支への影響(損益計算書)】 ア ア 減価償却を行っていなかった場合 減価償却を行っていなかった場合 収益 費用 当該補助金等相当額について減価償却 を行っていなかった場合([図3]ア)は、 新たに減価償却費(費用)が増加します 減価償却費を計上 (費用の増加) が、長期前受金から見合い分を収益へ振 り替えるため、純利益は変わりません。 長期前受金から振替 (収益の増加) 利益 (増減なし) イ 減価償却を行っていた場合 当該補助金等相当額について減価償却 を行っていた場合([図3]イ)は、これ までも減価償却費を計上しているため費 イ 減価償却を行っていた場合 費用 収益 用は変わらず、長期前受金から見合いの 収益が増える分、純利益が増加すること になりました。 ※既に減価償却費 は計上済み 利益 純利益の増加 2 長期前受金から振替 (収益の増加) (3) 引当金の計上 公営企業会計が負担する退職手当に対して、退職給付引当金の計上が義務付けられま した。なお、一般会計が負担する場合は、引当金の計上は必要ありません。 そのほか、将来発生する可能性が高い費用等であって、その金額を合理的に見積もる ことができるものは、当期の負担として引当金(賞与引当金、貸倒引当金等)を計上す ることになりました。 引当金の計上により、費用及び負債が増加しました。 (4) 減損会計の導入 固定資産の帳簿価額が、実際の収益性や将来の経済的便益に比べ過大となっている場 合は、適正な価額まで帳簿価額を減額することになりました。 (5) リース会計の導入 これまで賃借料で計上していたリース取引のうち、当該物件を購入したものと同等の リース取引など一定の要件を満たす場合は、貸借対照表へリース資産及びリース債務と して計上することになりました。 (6) キャッシュ・フロー計算書の作成 現金の変動に関する情報として、キャッシュ・フロー計算書の作成が義務付けられま した。 (7) 勘定科目の修正と注記の記載 会計基準の見直しに伴って勘定科目を修正しました。また、重要な会計方針等につい て、予算書及び決算書へ注記の記載が義務付けられました。 3 3 損益計算書・貸借対照表の年度比較(水道事業会計) 損益計算書 (1) [図4] 【平成25年度決算】 見直し前 費用 収益 収益 費用 230億円 217億円 【平成27年度予算】 見直し後2年目 【平成26年度決算】 見直し後初年度 費用 289億円 246億円 (+72億円) (+16億円) 減価償却費、 引当金の増 損失 228億円 243億円 (+11億円) (+13億円) 減価償却費 の増 長期前受金か らの振替収益 による増 利益 13億円 収益 長期前受金か らの振替収益 による増 利益 15億円 (+ 2億円) 43億円 (△56億円) (2) 貸借対照表 [図5] 【平成26年度決算】 見直し後初年度 【平成25年度決算】 見直し前 資産 負債 負債 資産 74億円 2,333億円 2,597億円 1,403億円 (+1,326億円) (△264億円) 資本 2,523億円 資本金 1,400億円 減価償却による減 企業債、長期前受 金、引当金の増 資本 933億円 移行処理等で増加 した利益剰余金 228億円は、今年 度に議会の議決を 経て資本金へ組み 入れる予定 (△1,590億円) 資本剰余金 資本金 588億円 (△815億円) 1,041億円 資本剰余金 52億円 (△989億円) 利益剰余金 293億円 利益剰余金 79億円 (注) ( )内は、「平成25年度決算」からの増減額を示したもの。 4 (+214億円)
© Copyright 2025 ExpyDoc