租税条約・租税協定の進展状況 - PwC

Japan Tax Update
租税条約・租税協定の進展状況
Issue 107, December 2014
In brief
2014 年 1 月 1 日から 12 月 26 日までの 1 年間に、新たにオマーン国との租税協定、英領バージン諸島およ
びマカオとの租税情報交換協定が署名・発効に到り、2013 年に署名されたアラブ首長国連邦との租税条約
が発効しました。また、2013 年に署名された英国およびスウェーデンとの租税条約を改正する議定書が発効
しました。これにより、2014 年 12 月 26 日現在、我が国が締結する租税条約・租税協定は 64 を数え、89 カ
国・地域(ここには旧ソビエト連邦を構成したロシア等が含まれています)との間に適用されています。ドイツ連
邦共和国との租税協定改正及びカタール国との新租税協定は引き続き交渉が継続されています。
In detail
オマーン国およびアラブ首長国連邦との租税条約・
租税協定は、近年におけるこれらの国との経済関係
の緊密化を踏まえ、新たに締結されたものです。国
際的な二重課税を調整するため、これらの国におい
て課税することができる範囲を明確にするとともに、
投資所得に対する源泉地国課税の軽減措置を規定
しています。また、税務当局間における、条約の規定
に適合しない課税等に関する相互協議、租税徴収
の実効性を確保するための情報交換のための規定
などを設けています。
スウェーデンとの租税条約に関する改正議定書は、
1983年に全面改正され、1999年に一部改正された
現行条約の一部を改正するものです。両国間の投
資・経済交流の一層の促進のため、投資所得(配当、
利子および使用料)に対する源泉地国課税の減免
の範囲を拡大するとともに、租税条約の濫用防止規
定を導入しました。また、相互協議制度に係る仲裁
制度の導入、両国の税務当局間における情報交換
規定の拡充、相手国の延滞租税債権の徴収を相互
に支援する徴収共助の対象範囲の拡大を規定して
います。
英国との租税条約に関する改正議定書は、2006年
に発効した現行条約の一部を改正するものであり、
両国間の投資交流を一層促進するため、投資所得
(配当および利子)に対する源泉地国課税の減免の
範囲を拡大しています。また、2010年に改正されたO
ECDモデル租税条約を踏まえ、帰属主義を導入し、
PE(恒久的施設)に帰属する事業利得に対する課税
について、本支店間の内部取引を認識し、独立企業
原則を適用することを新たに規定しています。また、
相互協議制度に係る仲裁制度および徴収共助制度
を導入しています。
また、英領バージン諸島およびマカオとの間で新た
に租税に関する情報交換のための協定が締結され
ています。これらの協定は近年重要性が確認されて
いる国際的な脱税および租税回避の防止を目的とし
ています。
www.pwc.com/jp/tax
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なお、配当所得に対する源泉税率は、連結決算上、海外子会社の留保利益に対する税効果にも影響があると思われますので、
これらの国への子会社投資がある場合には、会計上も留意が必要です。詳細につきましては、以下、日本公認会計士協会
ホームページをご参照ください。
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/main/10_5.html
http://www.hp.jicpa.or.jp/specialized_field/files/2-11-qa-2-20090414.pdf
1.
租税条約(議定書)・租税協定の発効
2014年1月1日から12月26日までに間に署名・発効に到った租税条約(議定書)・租税協定は以下のとおりです。
(1) 租税に関する二重課税の回避および脱税の防止を主たる目的とする租税条約(議定書)・租税協定
相手国
発効日
(適用日)
条約名または協定名
オマーン国
2014年
9月1日
(2015年
1月1日)
スウェーデン
2014年
10月12日
(2014年
10月12日
/2015年
1月1日)
「所得に対する租税に関する二重課税
の回避及び脱税の防止のための日本
国とスウェーデンとの間の条約を改正
する議定書」(注2)
英国
2014年
12月12日
(2014年
12月12日
/2015年
1月1日)
「所得及び譲渡収益に対する租税に関
する二重課税の回避及び脱税の防止
のための日本国とグレートブリテン及び
北アイルランド連合王国との間の条約
を改正する議定書」(注3)
「所得に対する租税に関する二重課税
の回避及び脱税の防止のための日本
国政府とオマーン国政府との間の協
定」(注1)
投資所得に対する源泉地国課税の軽減または免除
配当
5%(議決権株10%以上
(注5))
10%(その他)
2014年
12月24日
(2015年
1月1日)
「所得に対する租税に関する二重課税
の回避及び脱税の防止のための日本
国とアラブ首長国連邦との間の条約」
(注4)
免税(政府等)
10%(その他)
使用料
10%
・PE帰属所得に対する課税
・相互協議規定、情報交換規定
・移転価格課税の対応的調整に関する規定
・匿名組合契約に係る所得課税
・条約濫用防止規定
免税(議決権株10%以上
(注5))
10%(その他)
原則免税
免税
・条約濫用防止規定
・相互協議手続に係る仲裁制度
・情報交換規定
・徴収共助制度
免税(議決権株10%以上
(注5))
10%(その他)
原則免税
-
・帰属主義に基づく事業所得課税
・相互協議手続に係る仲裁制度
・徴収共助制度
5%(議決権株10%以上)
10%(その他)
アラブ首長国
連邦
利子
免税(政府等)
10%(その他)
10%
・PE帰属所得に対する課税
・相互協議規定、情報交換規定
・移転価格課税の対応的調整に関する規定
・匿名組合契約に係る所得課税
・条約濫用防止規定
詳細につきましては、以下、財務省ホームページをご参照ください。
(注1) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20140818om.htm
(注2) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20140916se.htm
(注3) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20141113uk.htm
(注4) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20141125ae.htm
(注5) 配当が支払法人において損金算入できる場合は10%の税率が適用される。
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(2) 租税に関する情報交換を主たる目的とする租税協定
相手国
マカオ
英領バージン
諸島
発効日
(適用日)
協定名または議定書名
主たる内容
2014年5月22日
(2014年5月22日)
「租税に関する情報の交換のための日本国政
府と中華人民共和国マカオ特別行政区政府と
の間の協定」(注6)
2014年10月11日
(2014年10月11日)
「租税に関する情報の交換のための日本国政
府と英領バージン諸島政府との間の協定」(注
7)
租税に関する国際標準に基づく税務当
局間の実効的な情報交換の実施および
国際的な脱税・租税回避行為の防止
(注6) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/260428mo.htm
(注7) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20140912vg.htm
2.
租税条約(議定書)・租税協定の署名等
2014年12月26日現在、署名等が行われているものの、締結国の国内手続きが完了していないため、まだ発効していない条約
(議定書)等は下記のとおりです。
(1) 租税に関する二重課税の回避および脱税の防止を主たる目的とする租税条約(議定書)・租税協定
相手国
米国
署名日
2013年
1月24日/25
日
(未発効)
投資所得に対する源泉地国課税の軽減または免除
条約名または協定名
「所得に対する租税に関する二重課税
の回避及び脱税の防止のための日本
国政府とアメリカ合衆国政府との間の
条約を改正する議定書」(注8)
配当
利子
免税(議決権株50%以
上(注9)、保有期間6ヵ
月以上)
原則免税
使用料
-
・相互協議手続きにおける仲裁制度の導入
・徴収共助の(対象税目の)拡充
(注8) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/250125us.htm
(注9) 配当が支払法人において損金算入できる場合は適用されない。
(2) 租税に関する情報交換を主たる目的とする租税協定
相手国
署名日等
協定名または議定書名
主たる内容
香港
2014年12月10日
書簡の交換(未発効)
「所得に対する租税に関する二重課税の回避
及び脱税の防止のための日本国政府と中華
人民共和国香港特別行政区政府との間の協
定に関する交換公文」(注10)
日本国の租税(相続、贈与、消費税)に
関する情報についても交換義務を課す
(注10) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20141210ho.htm
3.
租税条約・租税協定の交渉開始
2014年12月26日現在、署名に至っていない条約等は下記のとおりです。
相手国
主たる内容
ドイツ
現行の租税協定(1967年発効)を改正するための交渉を開始(2011年12月12日)し、現在も交渉中。
カタール
新たな租税協定の締結に向けた政府間交渉は12月17日に実質合意(注11)に到り、現在も交渉中。
(注11) http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/press_release/20141217qa.htm
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