中池見湿地保全活用計画 - 敦賀市

パブリックコメント用
平成 26 年 12 月 26 日(金)
中池見湿地保全活用計画
~構想・基本計画(原案)~
平成○○年○月
敦
賀
市
内池見
通りぐろ
ハゼの大木
ハ
鳥越
▲天筒山
m)
(174.3m
新田
蛇谷
中江
江道
新田江
江
中四反
反田
四反田尻
北七曲
曲
シボラ道
中山
中
(106.2m)
(
▲
中江
口池見口
江尻口
江
笹鼻江
三ツ又
三
江尻
七曲
曲江
横田
南七曲
堀切江
中堀切
後谷
勝屋谷
堀切口
北堀切
栗木谷
奥堀切
わくわく山
わ
余座
座池見
こもれびの道
中池見湿
湿地
▲
深山
山
(1666.8m)
目
次
1 計画策定について .............................................................. 1
1.1 計画策定の目的 ................................................................ 1
1.2 保全活用計画の策定フロー ...................................................... 1
2 これまでの経緯 ................................................................ 3
3 中池見の自然環境と社会環境 .................................................... 4
3.1 中池見の概要 .................................................................. 4
3.2 中池見の自然環境 .............................................................. 5
3.3 中池見の社会環境 ............................................................. 20
3.4 中池見湿地の現在の活用 ....................................................... 24
3.5 中池見の関係法令 ............................................................. 26
4 保全活用構想・計画の期間と対象とする範囲 ..................................... 27
4.1 計画の期間 ................................................................... 27
4.2 対象とする範囲 ............................................................... 27
5 自然環境保全活用上の問題点 ................................................... 28
5.1 問題点の整理にあたって ....................................................... 28
5.2 自然環境保全上の問題点 ....................................................... 29
5.3 活用上の問題点 ............................................................... 30
6 中池見湿地の保全活用の方針 ................................................... 31
6.1 保全活用の目的と将来像 ....................................................... 31
6.2 保全の基本方針 ............................................................... 32
6.3 活用の基本方針 ............................................................... 39
7 中池見湿地の保全活用計画の概要 ............................................... 42
7.1 中池見湿地の保全計画の概要 ................................................... 42
7.2 中池見湿地の活用計画の概要 ................................................... 54
8 中池見湿地の維持管理・モニタリング計画 ....................................... 59
9 中池見湿地の保全活用の推進しくみ ............................................. 65
9.1 保全活用の推進の流れ ......................................................... 65
9.2 保全活用に関わる役割分担 ..................................................... 66
◆ 資料編
・資料 1 第 2 次敦賀市環境基本計画での位置づけ
・資料2
近年の中池見湿地の保全・管理現状況
引用・参考文献
中池見湿地保全活用構想・計画策定までの経緯
1 計画策定について
1.1 計画策定の目的
世界的に貴重な泥炭湿地である中池見湿地では、江戸時代に新田開発されて以来、伝統
的な水田耕作が営まれ、人と自然が共存した豊かな生態系の中で多様な生き物が育くまれ
てきました。
私たちみんなの「宝」であるこの中池見湿地を守り、次世代に引き継ぐとともに、文化・
観光・教育・研究・交流の場となることを目指して、ラムサール条約の精神に基づき、中
池見湿地に関わる関係者及び市民の主体性を行政が支援することを基調として、相互に連
携・協働しながら保全・活用を進めていくための指針となる計画の策定を目的とします。
*中池見ラムサール条約湿地保全・活用協議会(仮称)設置準備会(第 13 回)による
1.2 保全活用計画の策定フロー
中池見湿地保全活用計画は、中池見ラムサール条約湿地保全・活用協議会(仮称)設置
準備会において確認された以下の内容に基づき、策定されることになりました。
また、中池見湿地保全活用計画は、これまでの経緯や中池見の自然環境と社会環境、自
然環境保全活用上の問題点を整理した上で、保全活用の方針等を策定することとなりまし
た。保全活用計画は、次頁の流れで策定することを確認しています。
1
1.計画策定の目的
計画策定の目的
2.これまでの経緯
これまでの経緯
3.中池見の自然環境と社会環境
中池見の自然環境
地形・地質
水環境
動物
植物
中池見の社会環境
人文的歴史
周辺地域の利活用
中池見の関係法令
4.自然環境保全活用上の問題点
自然環境保全上の問題点
活用上の問題点
5.中池見湿地の保全活用の方針
保全活用の目的と将来像
中池見湿地保全の目的
中池見湿地の将来像
保全の基本方針
活用の基本方針
6.中池見湿地の保全活用の概要
保全活用計画概要
7.保全活用に関わる役割区分
保全活用に関わる役割分担
2
2 これまでの経緯
中池見湿地は、平成 2 年~14 年 4 月までの期間、工業用地としての利用が検討されてい
ました。平成 16 年からは、湿原として保全することとなっています。
中池見湿地の保全・活用をめぐるこれまでの経緯を下に記します。
平成 2 年 3 月
敦賀市第 4 次総合計画に工業団地構想を盛り込む
平成 4 年 6 月
LNG 基地の誘致を発表
平成 8 年 5 月
大阪ガス㈱から福井県及び敦賀市へ「環境影響評価書」提出
平成 9 年 4 月
環境保全エリア整備開始(観察エリア)
平成 9 年 8 月
農地転用許可
平成 13 年 12 月
日本の重要湿地 500 に選定(環境省)
平成 14 年 4 月
基地建設中止発表
平成 15 年 2 月
「中池見湿地総合学術調査報告書」発刊 (国立環境研究所)
平成 15 年 11 月
NPO 法人ウエットランド中池見発足
平成 16 年 2 月
敦賀市と大阪ガス㈱で寄附などに関する協定締結
平成 16 年 8 月
中池見検討協議会(平成 18 年 8 月まで 8 回開催)
平成 17 年 3 月
用地及び関連施設等の寄附採納
福井県重要里地里山 30 に選定(福井県)
平成 18 年 8 月
中池見検討協議会から「中池見の保全、活用等の在り方について」提言
平成 18 年 11 月
福井県鳥獣保護区特定猟具使用禁止区域に指定
平成 19 年 2 月
中池見管理委員会(平成 21 年 12 月まで 5 回開催)
平成 19 年 7 月
福井県知事へ重要要望書提出
平成 20 年 5 月
NPO 法人中池見ねっと設立
平成 20 年 7 月
平成 21 年 3 月
中池見湿地生物多様性保全協議会を設置し、湿性希少動植物の保全管理な
らびに賢明な利活用事業開始(平成 22 年 3 月まで)
中池見湿地整備基本計画策定
平成 22 年 4 月
NPO 法人中池見ねっとに管理運営業務委託
平成 24 年 3 月
自然保護協会・中池見ねっと・ウエットランド中池見・市共催によるワー
クショップを開催、「中池見・保全行動計画づくりワークショップの報告」
越前加賀海岸国定公園へ編入
平成 24 年 7 月
ラムサール条約湿地に登録
平成 24 年 8 月
北陸新幹線ルート公表
平成 24 年 9 月
中池見ラムサール条約湿地保全・活用協議会(仮称)設置準備会
(平成 26 年 3 月まで)
資料:「中池見の保全、活用等の在り方について」(中池見検討協議会、平成 18 年 8 月)に加筆
3
3 中池
池見の自然環
環境と社会
会環境
3.1 中池見の概要
地は、周りを
を 3 つの山に 囲まれた 25
5 ヘクタール
ルほどの低層
層湿原です。低
低層湿原
中池見湿地
と
とは、地下水
水や河川水に
により水が供
供給される湿
湿地で、尾瀬ヶ原や釧路湿
湿原の一部に
に見られ
る
るような雨水
水に依存する
る高層湿原と
とはまた異な
なった環境です。湿地は、
、敦賀市街地
地の北東
側
側(敦賀駅か
から約 2km)に位置して
ており、谷が
が植物遺骸や土砂で埋め られて出来上
上がった
地
地形で、「袋
袋状埋積谷」と呼ばれま
ます。
地下には、40 メートル
ルにも及ぶ泥
泥炭層が堆積
積しています
す。泥炭中に残
残されている花粉の
分
分析などから
ら、約 5 万年
年の気候変動
動が推定され
れています。
池見湿地の概
概要】
【中池
 位置:福
福井県敦賀市
市樫曲
 面積:877ha(湿地本体
体の面積 25 ha と周囲の
の集水域、湿
湿地の水が流 出する後谷を含めた
面
面積です。)
 湿地タイ
イプ:低層湿
湿原、水田
 法規制な
など:・国定
定公園特別地
地域
・ラム
ムサール条約
約湿地
ス:・JR 敦賀
賀駅より 2 キ
キロ(徒歩 25
5 分)
 アクセス
・JR 敦賀
賀駅より「コ
コミュニティ
ィバス(東郷
郷線)」また は「ぐるっと敦賀周
遊バス
ス」にて「中
中池見口」で下車、徒歩 5 分
・北陸自
自動車道敦賀
賀 IC より、車
車5分
資
資料:敦賀市ホー
ームページ(http://www.city..tsuruga.lg.jp
p)より編集
4
3.2 中池見の自然環
環境
中池見の自然
然環境
(1) 中
中池見は、雨水と集水
水域の小河川
川により涵養
養される低層湿原です。過
過去の湿原の
の植物の
遺
遺骸によって
て造られた泥
泥炭層は年代
代が決定され
れている部分に限っても、
、約 27 m に達
達し、そ
の
の起源は 5 万年前に遡り
万
ます (Okadda; 1974、 宮本他;
宮
1995、 Miyamotto et al.; 1996) 。
湿
湿原が水田と
として利用さ
され始めたの
のは、江戸時代後期だと考
考えられてい
います (平松
松; 1973、
岡
岡田; 1983)。それ以前は、杉林も混じ
じる沼地だっ
ったようです
す (平松; 19773、植田・辻; 1994 )。
稲
稲作の最盛期
期には、湿原
原全体が水田
田として使わ
われていました。しかし、
足や生産
、後継者不足
調
調整のために
に、1950 年代
代から水田の
の放棄が始ま
まり、1994 年頃には、耕
年
耕作水田は、1/5 程に
減
減少し (下田
田; 1998、池
池田・三浦; 22000)、今で
では、試験的
的に小規模な耕
れる程度
耕作が行われ
で
です。
自然環境や動
動植物の特徴
徴が注目され
れたのは、199
92 年に大阪
阪ガスの液化天
天然ガス
中池見の自
基
基地の誘致が
がきっかけで
でした。事業
業者の環境影
影響評価書 (大
大阪ガス; 1 996)、国立環
環境研究
所
所の学術調査
査 (野原・河
河野; 2003)、地元の共有
有地トラスト運動等によ り、湿原の価
価値が広
く
く知られるよ
ようになりま
ました。その 後、事業は中
中止となり、中池見の買
買収地は 200
05 年に敦
賀
賀市に寄付さ
され、2012 年にラムサー
年
ール条約湿地
地として登録
録されました
た (笹木; 2013)。
中池見の自
自然の価値は
は、水棲生物や
や集水域の生
生物の多様性
性にあるとさ
されています
す (河野;
1998)。両生・爬虫類 (神
神松他; 20000)、魚類 (山野他; 200
03)、昆虫 ((保科他; 200
07、平井
他
他; 2013)、高
高等植物 (角
角野; 1998、下田・中本; 2003)、蘚苔
苔類 (黒田他
他; 2006)、藻
藻類 (野
崎
崎他; 1998、辻他; 1999
9) などの多
多くの調査資
資料が残されています。現
現在、中池見
見は、環
境
境省・モニタ
タリング 1000 事業 (里山
山) のコア・
・サイトなり、鳥類、植
植物、水環境等
等の生息
調
調査が定期的
的に行われて
ています。ま
また、福井県
県内外の研究者により、動
動植物の研究
究の場と
し
しても活用さ
されています
す。
中池見湿地
地(南から北方向の眺望)
5
中池見を完模式標本産地とする生物、つまり中池見で発見された新種には、キタノメダ
カ (Asai et. al; 2011)、ナカイケミヒメテントウ (佐々治・岸本; 1996)、タケダウスゲ
ガムシ (Hoshina and Satô ; 2005) の 3 種があります。
生物の多様性は、棲息環境の多様性に依存します。水環境を例にとれば、湧水、湿原、
池、河川、農業用水路など自然の、また人工的に作られた多様な水域が中池見には見られ
ます。湿原を涵養する水は、基盤となる地質の違いからそれぞれ水質が異なるし、また人
の利用により、さらに変化します。それらの生息域は互いに繋がり合い、動植物は、それ
ぞれの生活史に応じて生息の場を利用します。中池見の保全の対象は、湿原の本体だけで
はなく、その集水域、付属する後谷湿地、湿原の水が流出する木の芽川も含めた区域にな
ります。
生息場の多様性とともに、中池見の歴史も生物の多様性の維持に寄与していると思われ
ます。本来の地理的、地形的な特性は、夏季の低水温と貧栄養な湿原環境を特徴付け、ミ
ツガシワなどの北方系の生物を残してきました。一方、水田利用は、デンジソウ等の、か
つては水田雑草とされてきた植物の生息場を作り出しました。さらに、放棄された水田跡
にはヨシが侵入し、ノジコ等の野鳥の餌場として利用されています。本来の湿原環境、水
田、ノジコの生息場のいずれもラムサール湿地の登録要件とされたものです。
6
地形・地質
(2) 地
地は袋状埋積
積谷(ふくろ
ろじょうまいせきこく)に形成された
た、標高約 45m の内
中池見湿地
陸
陸低湿地です
す。袋状埋積
積谷とは、断
断層活動など
どに伴い、谷がせき止め られたために
に形成さ
れ
れた窪地が堆
堆積物によっ
って埋め立て
てられ、形成さ
される盆地状
状の地形です
す。中池見湿地
地では、
周
周囲を天筒山
山(171.3m)をはじめと
とする低い山
山々に囲まれ
れた集水面積 の狭い窪地で
であるた
め
め、流れ込む
む大きな川は
はなく、土砂
砂はあまり流
流れ込んできませんでし た。このため窪地は
土
土砂で埋め立
立てられてし
しまうことは
はほとんどな
なく、長い間、泥炭が堆積
積してきました。現
在
在、中池見湿
湿地では約 27mの厚さの
のほぼ連続し
した泥炭層が確認されて おり、過去約
約 5 万年
の
の気候変動・植生変化が
が分析されて
ています(宮
宮本ほか、199
95)。
見湿地を作る
る原因となっ
った断層は、湿地の東縁部に南北に通
通ると推定されてお
この中池見
り
り、池見断層
層と呼ばれて
ています(杉
杉山ほか、20
012)。また中池見湿地周
周辺の山地を構成す
る
る岩盤は、中
中生代の砂岩
岩、頁岩、チ
チャート等で
であり、北西側には石灰岩
岩も分布して
ています
(福井県、20010)。
図
地とその周辺
辺地域の地質
質図
中池見湿地
出典:福井県 (2010)
1948 年(昭
昭和 23 年)撮
撮影の中池見湿
湿地
出典:国土地理院
図 池見断層の位置
出典:杉山ほか(201
12)
7
水環境
(3) 水
地は、集水域
域に降る雨水
水で涵養され
れています。雨水の多く は、一旦地中に浸透
中池見湿地
す
するため、湿
湿地への流入
入水は、集水
水域の地質や
や、再び湧出するまでの時
、水質や
時間により、
水
水温が変化し
し、場所ごと
とに多様な水
水環境を形成
成します。湿地の西側の流
流入水は、基
基盤の石
灰
灰岩のために
に、pH やカル
ルシウム・イ
イオン濃度が
が高く、一方
方、東部から の流入水は、
、低い傾
向
向にあります
す。辻ほか (2003)
(
の観
観測によれば、西部からの
の流入水は、pH が 7~8、カルシ
ウ
ウム・イオン
ン濃度は、12
2~20 mg/L で
ですが、東部
部からのそれ
れは、pH が 6 前後、カル
ルシウム・
イ
イオン濃度は
は 5 mg/L 以下です。
湿原に流入
入した水は、湿地に堆積
積した泥炭や
や植物遺骸に由来する腐植
植物のために
に、茶褐
色
色に着色しま
ます。pH や導
導電率は、さ
さらに低くな
なり、pH は 6 以下、カル
ルシウム・イオ
オン濃度
も 1~2 mg/LL に低下する
る地点もあり
ります。この
の低下は、カルシウムな どの陽イオンが、湿
原
原内の植物遺
遺骸に由来す
する腐植質と
と結合し、水
水から取り除かれるため だと考えられ
れます。
ま
また、窒素や
や燐などの栄
栄養分の濃度
度も、湿原内
内では低い傾向にあり、特
特に、雨水や
や河川水
に
に含まれる硝
硝酸イオンは
は、ほとんど
ど検出されな
なくなります。栄養分が不
不足する貧栄
栄養の環
境
境は、湿原の
の水環境の重
重要な特徴で
です。
湿地は、流
流入水により
り年間を通し
して湿潤状態
態が保たれており、西か ら東に流れる数本の
「江」と呼ば
ばれる人工的
的な水路によ
より、中池見
見湿地の外へ流
流出します。
。
湿地内に見
見られる池は
は、バイパス
ス工事の際に
に捨てられた残土の重みで
下した後
で湿地が沈下
に
に形成された
たものです。形成以後、その面積は拡大する傾向にあります
す。2000 年頃
頃までは
湿
湿地の中で水
水田耕作が営
営まれていま
ました、現在
在は、小規模に試験的な耕
耕作が行われ
れている
の
のみです。
透し、再び湧
湧き出す水の
の温度は、田
田植えの頃には、河川水 と異なり、稲
稲作に不
地中に浸透
都
都合な 15℃程
程の低い温度
度になります
す。そのため
めに、中池見
見では、「ひ よせ」と呼ばれる水
温
温上昇のため
めの溜池が作
作られました
た。「ひよせ
せ」や田圃を通過した水 は、著しく温
温度が上
昇
昇し、30℃に
にも達します
す。本来の湧
湧水由来の冷
冷水が流れ込む場所や、稲
稲作により温
温まった
水
水で涵養され
れる水域では
は、それぞれ
れの水温を好
好む異なった植物群集が発
発達し、湿原
原全体の
植
植生の多様性
性を増します
す。
図 湧水、ひよ
よせ、田圃排
排水の水温
の日
日変動
水田
田の田越灌漑
漑やその水源と
となる溜池
(ひよせ) により 、湿原に流れ込む水の温
度は
は著しく高くな
なり、自然の要
要因に加え、
人の
の活動により、
、湿原内の水環
環境の多様
化は
はさらに増しま
ます。
8
TOOPICS
深
深い泥炭層
からわかる
ること。
実施されたボ
ボーリング調
調査等によって、中池見湿
湿地には約 110 万年分の堆
堆積物が
中池見で実
存
存在している
るといわれて
ています(岡
岡田、2009)。この堆積物
物のなかで、
、地表から約
約 26m の
深
深さではほぼ
ぼ連続する環
環境変動を記
記録した堆積
積物を保持していると考 えられており(宮本
ほ
ほか、1995)、花粉分析
析が行われて
ています。花
花粉分析からは、その当時
時、どのような植物
が
が生育してい
いたかを伺い
い知ることが
ができます。中池見のボーリングコ アからは、5
5 万年~
現
現在に至るま
までの植生の
の変遷がわか
かっており、代表的な時代区分ごと に植生の様子
子が再現
さ
されています
す。
出典:中
中池見ビジターセンター展示パ
パネル(安田 喜憲氏監修)
喜
)をもとに作図
図されている
※Miyamoto 他(1996)
9
中池見】
【5 万年前の中
この時代の
の中池見の湿地
地部分は、現
現在よりもずっと低い位置
置に
あ
あり、面積も小さかったよ
ようです。花
花粉分析の結果から、湿地
地に
は
はヨシやガマ
マ類、セリ科の
の植物が生え
え、所々にハンノキが生え
えて
い
いたようです
す。また、ツガ
ガ、スギなど
どの常緑針葉樹が高い割合
合で
出
出現していることから、こ
この時代は涼
涼しくて湿った気候であり
り、
中
中池見とその
の周辺の山地部
部は、現在の
の亜高山にみられる常緑針
針葉
樹
樹林が広がっていたと考え
えられます。
【22 万年前の中
中池見】
約 2 万年前
前は最終氷期の
の最盛期であ
あり、地球の全陸地の約 30%
3
が
が氷河で覆わ
われていました
た。海水面は
は現在より 10
00m ほど低く、日
本
本とユーラシ
シア大陸は陸続
続きであった
たと考えられています。こ
この
時
時代にはモミ、ツガ、カバ
バノキなどの
の花粉が多く出現している
るた
め
め、寒冷で乾
乾燥した気候で
であり、中池
池見周辺の森林は、常緑針
針葉
樹
樹林であった
たと考えられま
ます。また、湿
湿地は一面を
をヨシで覆われ、
水
水辺には、カヤツリグサ科
科の植物や、 ミズバショウなどが生育
育し
て
ていたようで
です。
【66 千年前の中
中池見】
この時代の
の年平均気温は
は、現在より
り 2~3℃ほど
ど高く、暖かか
かっ
た
たようです。この温暖な気
気候のため、 海水面は現在より 3~5m
m高
く
く、日本はユ
ユーラシア大陸
陸と海で隔て
てられていたと考えられて
てい
ま
ます。この時
時代は、シイ類
類やカシ類な
などの常緑広葉樹の花粉が
が高
い
い割合で出現
現していること
とから、約 6 千年前の中池見周辺の森
森林
に
には、暖かく湿潤な地域に
に生育するシ
シイ類やカシ類などの繁る
る常
緑
緑広葉樹林が
が発達していた
たようです。 また、湿地部分は、現在
在に
近
近い地形とな
なり、ハンノキ
キが一面を覆
覆っていたようです。後で
で紹
介
介する鳥浜貝
貝塚(若狭町)
)が栄えたの
のは、このころです。
【33 千年前の中
中池見】
約 3 千年前
前は、スギの花
花粉の割合が
が高くなります。中池見全
全域
で
で、スギの「
「根木」がみら
られることか
からも、この時代はスギが
が広
範
範囲に分布し
していたようで
です。このス
スギの増加は、この時代が
が雨
の
の多い湿潤な
な気候であった
たことを示し
しています。この頃の中池
池見
は
は、現在とほ
ほぼ同様の地形
形になってお
おり、湿地部と山地部の全
全域
が
がスギで覆わ
われた「スギの
の時代」であ
あったといえます。
中池見
見の泥炭層を
を用いた花粉
粉分析から、約 3 千年前にはスギ
がたくさ
さん生えてい
いたことが推
推測されてい
います。実際
際に、中池
見の地下
下には、「根
根木」と呼ば
ばれるスギの根
根株が全域に分布し
ています
す。これらの
の C14 年代測
測定でも、約
約 3000 年前のもので
あること
とが判明して
ています。
資料:中
中池見ビジターセンター展示パ
パネル(安田 喜憲氏監修)
喜
10
動物
(4) 動
1) ほ乳類
湿地と周辺部
部の丘陵地の
の森林に生息
息するほ乳類についての現
現地調査は、
、おもに
中池見湿
1999~20022 年の期間に
に行われてお
おり、ここで
で、ツキノワグマ、ニホ ンカモシカ、
、イノシ
シ、ムササ
サビ、カヤネ
ネズミ、ニホ
ホンリスなど 7 目 12 科 17
1 種の生息 が確認されて
ています
(川道ほか
か、2003)。このなかで
で、中池見湿
湿地の湿地部に広く分布す
するカヤネズ
ズミは、
体重 7~8gg の日本最小
小のネズミで
であり、マコ
コモやオギ等
等の高茎草本 を営巣地とし、エサ
植物として
てイネ科低茎
茎草本の繁茂
茂する草原を
を要するとされます。中池
おこなわ
池見湿地でお
れているモ
モニタリング
グサイト 10000 の調査によ
よると、近年
年ではイノシ シやニホンジカの出
現が増える
る傾向にあります。
ニホンカモシカ
ノウサギ
イノシシ
2) 鳥類
湿地付近にお
おける鳥類調
調査は、1999~2002 年の
の現地調査( 吉田ほか、2
2003)以
中池見湿
降も行われ
れ、17 目 50 科 168 種が
が確認されて
ています。ミサゴ、サシバ
バ等の生態系
系の上位
に位置する
る猛禽類 15 種をはじめ、
種
オシドリ、ミゾゴイ、ヒクイナ、マキノセンニ
ニュウ等
の環境省レ
レッドリスト
ト(2012 年)27 種を含み
み、アリスイ等、県内で は珍しい鳥の記録も
少なくあり
りません。「渡り」の中
中継地として
て利用する鳥類が多いこ とが特徴の一
一つで、
アオジ、オ
オオジュリン
ン等のホオジ
ジロ類、コヨシキリ、ノゴマ、ノビ タキ等が多く、タカ
の渡りも観
観察されます
す。なかでも
も、ノジコに
については環境省レッド リストの準絶
絶滅危惧
でありなが
がら数多く記
記録され、全
全国でも有数
数の渡りの拠点
点として注 目されていま
ます。
オシドリ(林内を移動)
ヒクイ
イナ(12 月にも
も確認)
11
ハヤ
ヤブサ(食事)
TOOPICS
中
中池見湿地と
と“ノジコ
コ”
学名:Emberi
iza sulphurrata 英名:Japanese yellow
y
bunt ing )は、ス
スズメ目
ノジコ(学
ホ
ホオジロ科ホ
ホオジロ属に
に分類される
る鳥類で、日本でのみ局地的に繁殖 し、おもに国
国外で越
冬
冬します。福
福井県でも繁
繁殖している
る可能性が高
高いのですが、確認でき ていません。
。減少し
て
ていると言わ
われ、IUCN レッドリス トの絶滅危惧
惧Ⅱ類、環境
境省レッドリ
リストの準絶
絶滅危惧、
福
福井県レッド
ドリストの絶
絶滅危惧Ⅱ類
類に選定され
れています。
中池見がラ
ラムサール条
条約の登録湿
湿地となる際
際、その要件の一つとして
て、中池見湿
湿地がノ
ジ
ジコの重要な
な渡りの拠点
点であること
とがあげられ
れています。陸鳥(特に小
小鳥)の中継
継地が評
価
価されるのは
は珍しく、具
具体的な対応
応が望まれます。
中池見では
は、渡りの季
季節(特に 100 月)に記録
録され、おもに中継地と して利用され
れていま
す
す。中池見湿
湿地や後谷の
の湿地の植物
物の繁みの中
中にいることが多く、分 かり易い声で
で鳴かな
い
いために観察
察が難しく、激減しても
も気付かない
い可能性があります。鳥類
類標識調査に
により、
多
多い年には 1000
1
羽以上が
が確認され、全国的にも
も稀な事例と
となりました
た。渡りの時期、中池
見
見にしばらく
く滞在する個
個体がいるこ
こと、新潟県
県や長野県から来る個体 がいること、
、中池見
に
に再び戻って
て来る個体が
がいることな
なども、少しずつ分かってきました。
。
ノジコがさ
さえずってい
いた年もある
るため、繁殖
殖する可能性もあると思 われますが、
、越冬の
可
可能性は、今
今のところ低
低いと考えら
られます。
このような
なことから、中池見にお
おいては、渡
渡りの季節(秋と春)及び
び繁殖期にお
おけるノ
ジ
ジコの生息環
環境を検討す
するべきと思
思われます。水がある所を好んでい るらしく、秋
秋には下
草
草があるヨシ
シ原等で多く記録される
るようですが
が、季節によって利用す る環境が少し異なる
よ
ようです。湿地及び湿地に
に接する林縁
縁部の環境が
が重要と思わ
われますが、詳
詳細は調査中です。
ノジコ
ノジコ
コの生息環境(
(標識調査)
12
3) 爬虫類・両生類
湿地における
る爬虫類・両
両生類は、1999~2002 年の現地調査
年
査により、爬虫類では
中池見湿
イシガメ、カナヘビ等
等の 5 種が確
確認されてお
おり、両生類
類ではニホンイ
ホンアカ
イモリ、ニホ
トノサマガエ
エル、モリア
アオガエルなど 9 種の生
生息が確認され
れています(野原ほ
ガエル、ト
か、2003)。これらの
の爬虫類・両
両生類のなか
かでは、環境省レッドリス
てイシガ
ストにおいて
サマガエルは
は絶滅危惧種
種として記載
載されています。中池見 に生息する爬
爬虫類・
メ、トノサ
両生類は、多様性が高
高いことが指
指摘されています。
ニホンイモ
モリ
イシガメ
トノ
ノサマガエル
4) 魚類
湿地における
る魚類は、20010~2012 年に行われた
年
た現地調査に
により、アブ
ブラボテ、
中池見湿
ホトケドジ
ジョウ、キタノ
ノメダカなど
ど 4 科 12 種の
の魚類が確認
認されていま
ます(山野ほか
か、2013)。
これらの魚
魚類のなかで
で、ホトケド
ドジョウ、キタノメダカなど 5 種は 、環境省レッドリス
トあるいは
は福井県レッ
ッドデータブ
ブックに記載
載のある絶滅危惧種です。
地という
。中池見湿地
限られた範
範囲に、異な
なる生態学的 特性を有する 12 種の魚
魚類が確認さ れていることは、魚
類の多様性
性の高さを示
示していると
と評価できます。特に、ホトケドジ ョウの生息場
場所であ
る湧水湿地
地やアブラボ
ボテの繁殖場
場所となって
ている後谷水路は、当地 の魚類相を維
維持する
うえで重要
要であると指
指摘されてい
います(山野
野ほか、2013)。また、 キタノメダカ
カについ
ては、中池
池見が「模式
式産地」とな
なっており、学術上貴重な位置づけと
となっていま
ます。
アブラボテ
テ
ホ
ホトケドジョウ
ウ
13
キ
キタノメダカ
TOOPICS
中
中池見湿地は
はメダカ研
研究でも“重
重要な湿地
地”
が新種として
て記載される
る際に、その
の生物を定義するための記
記述(記載文
文、判別
ある生物が
文
文)の拠り所
所となった標
標本や図解を
を「模式標本
本」といいます。模式標本
本は、基準標
標本、タ
イ
イプ標本とも
もよばれます
す。そして、 その模式標
標本を採集した場所は「模
模式産地」と呼ばれ
ま
ます。新たな
な「種」を決
決定づける模
模式標本と、その標本の採集地とな る模式産地は
は、学術
上
上重要である
るといえます
す。
従来、日本
本国内の野生
生メダカは1 種と考えられていました。しかし、
、近畿大学と神奈川
県
県立生命の星
星・地球博物
物館との共同
同研究により、青森県から京都府の 日本海側などに分布
す
する「北日本
本集団」と、本州の太平
平洋側や九州
州などに生息する「南日本
本集団」の形
形態的特
徴
徴などが詳し
しく調べられ
れ、中池見湿
湿地で採集された個体が 2011 年 122 月にキタノメダカ
(Oryzias saakaizumii Asai,
A
Senou and Hosoya
a, 2012("20
011"))とい う新種の完模
模式標本
と
としてドイツ
ツの魚類学専
専門誌に発表
表されました(Asai ほか
か、2011)。
なお、中池
池見は、キタ
タノメダカの
のほかにナカイケミヒメテントウとい
模式産地
いう昆虫の模
に
にも指定され
れています。
図 キタノメダ
ダカが新種と
として記載さ
された論文に
に掲載された
た図
※ 中池
池見で採集さ れたものが掲
掲示されてい
います。
引用:Asai ほか(2011)
キタノメダカ
カの生息環境と
となる水路(中
中池見湿地)
14
昆虫類
5) 昆
湿地における
る昆虫類は、 佐々治ほか
か(2003)において、それ
れまでに行わ
われた調
中池見湿
査成果とあ
あわせ、1,36
66 種類が記
記録されてい
います。これらの確認種 のなかには、
、ゲンゴ
ロウ、コガ
ガタノゲンゴ
ゴロウをはじ
じめ、多くの
の絶滅危惧種が含まれます
す。また、中池見湿
地は、トン
ンボ相の確認
認種が豊かで
であり、これ
れまで記録された種として
チョウト
ては、ハッチ
ンボ、モノ
ノサシトンボ
ボ、ヨツボシ
シトンボなど 10 科 70 種があります
種
(和田、200
03)。そ
の他、モニ
ニタリングサ
サイト 1000 の
の調査による
ると、中池見
見湿地は、他 の国内モニタリング
サイトと比
比べてヘイケ
ケボタルの確
確認個体数が群を抜いて多
多い(2009~
~2011 年データ)こ
とが確認さ
されています
す(環境省、 2014)。
ハッチョウト
トンボ
モ
モノサシトンボ
ボ
15
ヘ
ヘイケボタル
6) その他の生物
① 貝類
中池見湿地では、これまで 17 種の淡水貝類が確認されています。それらの中には、福井
県内では三方五湖内でのみ過去の記録があるフネドブガイなども含まれているとされてい
ます(藤野ほか、2012)。2012 年に行われた藤野ほか(2012)による中池見湿地における
淡水貝類の調査では、福井県産陸水生貝類目録に掲載されていないミズコハクガイ、 ハブ
タエモノアラガイ、コシタカヒメモノアラガイ、コビトノボウシザラの 4 種の淡水貝類が
新たに確認されています。なお、ミズコハクガイは環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に
位置づけられており、休耕田に広く分布していることが確認されています。淡水貝類につ
いては、今後の調査研究により新たな種の発見に及ぶことも指摘されています。
② クモ類
中池見湿地におけるクモ類は、新海ほか(2003)において 171 種が記録されています。
これまで確認されているクモ類のなかでは、スジブトハシリグモ、アオグロハシリブモ、
ヤリグモなど、良好な自然環境が残されている地域であることの指標となるクモ類が多
数確認されています。また、確認されたクモ類には、水辺環境、草原環境、樹林・林縁
環境などそれぞれの環境を好むものなど、中池見湿地には多様な環境が備わることで多
様なクモ類が生息していることが指摘されています。
③ ダニ類
中池見湿地におけるダニ類は、青木(2003)において、ササラダニ類を対象とした調
査が報告されている。これによると、2002 年に行われたダニ類の調査により、22 種類の
ササラダニ類が確認されています。確認されたダニ類は、それぞれ生息環境を異にする
ものであり、中池見湿地の多様な環境を反映したものであることが指摘されています。
また、オールオニダニ、オオカブトダニモドキ、カワノイチモンジダニなど、分布上注
目すべき種の生息も確認されています。
16
植物と植生
(5) 植
① 植物
地では、オオ
オアカウキク
クサ、デンジ
ジソウ、ミズトラノオや ミズアオイな
などの絶
中池見湿地
滅
滅危惧種とし
して数えられ
れる水生・湿
湿生植物が生
生育しており、これらの存
存在が、中池
池見をラ
ム
ムサール登録
録に導いた要
要件の一つと
となっています。これらは、希少な植
植物であるものの、
1960 年代まで
では水田の「強害草」(笠原、1951
1)として位
位置づけれて いました。中池見で
は
は、江戸時代
代以降、開田
田がすすみ稲
稲作が営まれ
れてきましたが、泥深い立
型機械の
立地から大型
導
導入が困難で
であったこと
とや、水の動
動きによって
て除草剤の効果が薄められ
れたことなどが、豊
か
かな植物相が
が残った一因
因と指摘され
れています(池田、1977)
)。
中池見湿地
地では、この
のように水田
田耕作とともに生育してきた植物の ほか、かつて
て日本列
島
島の気候が現
現在より寒冷
冷であった一
一時期に南下
下して取り残されたとみ なされる寒地
地系植物
の
のミツガシワ
ワが生育して
ていることも
も特徴です(野原編、200
03)。
なお、近年
年では、放棄
棄田の植生の
の進行によって植物相の急激な変化が
が起こってお
おり(角
野
野、1998)、ヨシ群落、マコモ群落
落といった、高茎草本が卓越するよ うになり、オ
オオアカ
ウ
ウキクサ、デ
デンジソウな
などの生育環
環境は減少しています。
デンジソウ
ウ
ヤナギヌカボ
ボ
ミ
ミズトラノオ
イ
ミズアオイ
ミツガシワ
カキツバタ
17
② 植生
地は、3.3 中池見湿地の社
社会環境の項
項に掲載した
た空中写真を
をみると、昭
昭和 38 年
中池見湿地
(1963 年)に
に撮影された
た写真では、中池見湿地
地の平地全体
体が水田とし て利用されているこ
と
とがわかる。一方、昭和
和 52 年(19777 年)には
は水田が放棄
棄され、植生遷
遷移が進行している
様
様子が見受け
けられる。平
平成 6 年以降
降に作成され
れた中池見湿
湿地の相観植 生図によると、近年
に
になるにつれ
れて、ヨシ群
群落、マコモ
モ群落、ヒメガマ群落といった高茎草
広がる様
草本群落が広
子
子がわかる。また、平成
成 25 年(20 13 年)の相
相観植生図で
ではヨシ・マ コモの群落拡
拡大が著
し
しく、構成する群落の多様
様性が失われ
れたことが指
指摘されてい
います(中池見
見ねっと他、
、2013)。
図 中池見の
の植生の推移
移(湿地部分)
引用:下田ほ
ほか(2003)
図
近年の
の中池見の植
植生(一部)
引用:中
中池見ねっとほ
ほか(2013)
18
③ 藻類及び微
微生物
中池見湿地
地では、腐植
植質に富み pHH が低い湿原
原の水環境に
には、特殊な藻
藻類群集が発
発達しま
す
す。珪藻類の
のイチモンジ
ジケイソウ属
属 (Eunotia) やハネケイ
イソウ属 (P innularia 属)
属 が湿
原
原環境を指標
標する代表的
的な藻類で、 両属に含まれるたくさんの種類が 中池見湿地に
に出現し
ま
ます。また、湿原内の水
水路で伏流水
水が多く湧き出す場所には、カワモズ
ズク類 (紅藻
藻類) が
見
見られます。湿原内では
は、鉄細菌に
により赤褐色
色の沈澱ができたり、水 を赤く染める紅色硫
黄
黄細菌が池の
の中に発生し
したりして、 特異な湿原の景観を形作
作っています
す。
TOOPICS
市
市民による中
中池見湿地
地の保全活動
動
統的な農法に
地では、湿地
地に生育する
る希少な動植
植物を保全するため、伝統
による水
中池見湿地
田
田的環境の維
維持管理のほ
ほか、アメリカ
カザリガニや
やセイタカア
アワダチソウ
ウなどの外来
来種防除、
イ
イノシシをは
はじめとする
る獣害対策な
などの取組が市民により実
実施されてい
います。
江掘り
ヨシの刈取り
り
マアザミ 周辺の選択的
的除草
アメ
メリカザリガニ
ニの防除
セイタカ
カアワダチソウ
ウの除去
キシ
ショウブの除去
去
イノシ
シシ対策用電気
気柵の設置
イノ シシ捕獲檻の
の設置
アラ
ライグマの捕獲
獲
19
3.3 中池見の社会環
環境
人文的歴史(古
古代から近代
代へ)
(1) 人
① 弥生時代の
の敦賀
敦賀市では
は、中、吉河
河、坂ノ下な
など、弥生時
時代の遺跡がいくつか発見
見されていま
ます。当
時
時の敦賀平野
野は中央に入
入江が広がり 、それに臨
臨む南東部の湿地から稲作
作が始まって
ていった
と
と考えられて
ています。
その中でも
も代表的な吉
吉河遺跡は、 笙ノ川の形
形成した扇状地の北端付近
近に営まれた
た、弥生
時
時代中期から
ら後期の集落
落跡で、方形周
周溝墓が発見
見されていま
ます。また、出土品には壷
壷や甕、
器
器台などの多
多数の土器や
や、木器、石
石器の他、玉
玉作りの道具や
や未製品があ
ありました。
② 古代敦賀の
の製塩
敦賀では、古代、海水
水から塩をと る「土器製
製塩」が行われ
れていました
た。
天日にさらし
した海藻に、 海水を繰り返しかけて塩分を濃縮 し、土器で煮
煮詰めて
これは、天
水
水分を蒸発さ
させ、塩を作
作る方法です
す。こうした
た土器製塩は平安時代ま で続けられま
ました。
『万葉集』に
には、田結の
の浜で塩を焼
焼く煙を船か
から眺める様子
子を詠んだ歌
歌もあります
す。
③ 天筒山の戦
戦いと池見
1570 年(元
元亀元)4 月 25 日、織田
田信長は、上
上洛の命を受
受け入れない越
越前の朝倉義
義景を討
つ
つため、朝倉
倉景恒の手勢
勢 3 千、気比
比社家等の 1,500 騎が守
守備する敦賀 の金ヶ崎・天
天筒両城
を 10 万 8 千という大軍で
で攻撃しまし
した。
筒山に連なる
る山々に堅固
固な郭や柵を設けていま した。容易に
に攻略で
朝倉方は、急峻な天筒
き
きないことを
を知った信長
長は、池見の
の沼を大堀と考え、防備を手薄にし ている後方の
の池見方
面
面から、彼自
自身先頭をき
きって攻め込
込みました。
④ 新田開発
から池見を開 発して新田を造ろうと
江戸時代、農民の間か
す
する動きが活
活発になりま
ました。中池見
見の開発は、1686 年(貞
享 3)樫曲村
村の庄屋九郎
郎兵衛を中心
心に進められました。池
見
見は沼地であ
あり、その水
水を抜くこと が先決と考え、まず四
本
本の排水路を
を設ける工事
事にとりかか
かりました。この最新技
法
法に期待をこ
こめ、村人は
はこぞって参
参加しました。これによ
り
り、1690 年ご
ごろより池見
見は、田んぼ
ぼとして利用されるよう
に
になりました
た。
図
20
敦賀
賀の遺跡・製
製塩跡位置
以降
⑤ 新田開発以
新田開発の
の後も、中池
池見の水田開
開発は進み、やがて中池見全域で水 田耕作が行わ
われるよ
う
うになりまし
した。また、明治時代以
以降になると、客土などの土壌改良 も試みられるように
な
なりました。それでも、中池見は「
「深田」と呼
呼ばれる泥深い湿田であ り、田植えは
は目印に
張
張った縄に沿
沿って後退し
し苗を植えて
ていました。また、特に泥深い田ん ぼでは、田下
下駄を履
い
いて稲を刈り
り、田舟を使
使って稲を搬
搬出していました(山本眞氏私信)。
。
昭和 44 年に打ち出され
れた減反政策
策により、中池見での水
中
水田耕作は徐 々に行われなくなり
ま
ました。泥深
深い湿田であ
あるため、農
農家にとって
ては大変な重労働であり 中池見の水田での耕
作
作を手放した
たためです。その後、平
平成 2 年には
は、敦賀市第 4 次総合計 画において中池見が
工
工業団地候補
補地となり、さらに平成
成 4 年には敦
敦賀市議会により LNG 基 地の誘致が発
発表され
ま
ました。その
の後、大阪ガ
ガス株式会社
社により環境
境影響評価手続きが進め られ、中池見
見湿地の
南
南側の一部を
を LNG 基地開
開発の代償措
措置として環
環境保全エリアとして整備
備が進められ
れ、平成
12 年より「中池見 人と
と自然のふれ
れあいの里」として一般市民向けに 開園されました。と
こ
ころが、平成
成 14 年には LNG 基地計画
画は中止が発
発表され、平
平成 17 年に は大阪ガス株
株式会社
が
が取得した用
用地と施設の
のすべてを維
維持管理費とともに敦賀市
市に寄附され
れました。
その後、平
平成 24 年 7 月に、湿地と
月
として世界的
的に重要な湿
湿地の一つと して評価され
れるに至
り
り、ラムサー
ール条約の登
登録湿地とな
なりました。
昭和
和 23 年(1948 年)撮影
昭和 338 年(1963 年)撮影
年
昭和 52 年
年(1977 年)撮影
平成
成 2 年(1990 年)撮影
平成 1 6 年(2004 年)撮影
年
平成 25 年
年(2013 年)撮影
図
上空か
からみた中池
池見の変遷
出典:国土地理院
21
中池見と周辺
辺地域の観光利用
(2) 中
敦賀市では
は「世界をつ
つなぐ港まち
ち みんなで拓
拓く交流拠点
点都市 敦賀」
」をキャッチ
チコピー
と
とした第6次
次敦賀市総合
合計画が平成
成 23 年度に策
策定されてい
います。その
の柱として、「活力に
あ
あふれるまち
ちづくり(産
産業観光関係
係)」が設定
定され、敦賀港やエネル ギー産業とい
いった敦
賀
賀市にしかな
ない強みを活
活かした環境
境を創出することとされており、観光
光は敦賀市に
にとって
大
大切な産業と
として位置づ
づけられてい
います。
中池見は、敦賀市街地か
から近く、JRR 敦賀駅から
ら 4km、北陸道
道敦賀 IC か ら車で 5 分程
程度と、
各
各種交通機関
関からアクセ
セスのよい立
立地にあります。また、中池見の近傍
傍には、金崎
崎宮とい
っ
った歴史文化
化的活用によ
よる観光拠点
点のほか、気
気比の松原や池河内湿原 といった、自然資源
を
を活用した観
観光拠点が所
所在していま
ます。
辺地域におけ
ける主要な観
観光拠点]
[中池見周辺
・金崎宮、金ヶ崎城跡
跡
緑地
・金ヶ崎緑
宮
・氣比神宮
・気比の松
松原
・天筒山城
城跡
・木の芽古
古道(中部北陸自然歩道)
)
表 中池見の周辺
中
辺地域におけ
ける散策等のルート
内 容
整備主体)
名称(整
新潟県山
山北町から滋
滋賀県大津市までの雄大な
な山岳景観や
や日
本海景観
観など多様性に富んだ歩道
道で、平成 7 年
年度から整備
備を
中
中部北陸自然
然歩道
始め、平
平成 13 年春に
に完成。中部
部北陸 8 県にま
またがる旧街
街道
(環境省)
の北国街
街道、三国街
街道、中山道をメインルー
ートとした延
延長
4,029km。
。
風景林(国有
有林)とその周
周辺一帯は、
、都市公園「金
天筒山風
森
森林レクリエ
エーションの
の
ヶ崎(天
天筒山)緑地
地」として歩
歩道や展望台
台、トイレな
など
森
森・天筒山風
風景林
が整備さ
されている。山頂の展望
望台からは、 日本海側と
と中
(林野庁)
池見を展
展望すること
とができる。
金ヶ崎緑地
地
気比
比の松原と松原
原海岸
22
木
木の芽古道
図
中池見周
周辺における
る主要な観光
光拠点及び自然歩道ルート
23
3.4 中池見湿地の現
現在の活用
中池見 人と自
自然のふれあ
あいの里
(1) 中
中池見湿地
地は、現在、自然と触れ 合う活動の拠
拠点として活
活用されてい
います。「中
中池見 人
と
と自然のふれ
れあいの里」への平成 255 年度の来園
園者数は約 27,000
2
名で した。来園者
者数は、
ラ
ラムサール条
条約湿地登録
録後増加傾向
向が続き、平
平成 24 年度に
に比べると約
約 30%増となってい
ま
ます。また、平成 12 年開
開園以降の総
総来園者数は
は約 167,000
0 名となって
ています。近
近年では、
ボ
ボランティア
ア活動での来
来園団体数も
も増加し始めています。団
団体来園者の
の割合は、平
平成 25 年
度
度で約 13%と
となっていま
ます。
「中池見人
人と自然のふ
ふれあいの里
里」では、ビ
ビジターセンターを中心 に、施設管理
理運営団
体
体(NPO 法人
人中池見ねっと(平成 222 年より敦賀
賀市が委託))の企画・ 運営により、
、生き物
学
学校田に取り
り組まれてい
いるほか、広
広報、企画展示、夏休み小
小中学生 1 日体験講座の開催、
中
中池見フォト
トコンテスト
ト、定例自然
然観察会など
ど、一年を通じて中池見 の自然を活か
かした催
し
しが開催され
れています。
図
「中池
池見 人と自然
然のふれあい
いの里」年度
度別来園者数
数(平成 12~
~25 年度)
江堀作業
業
水路の
の自然観察
24
環境学習の拠
拠点として活用
(2) 環
中池見湿地
地では、これ
れまで、中池
池見湿地全域
域が動植物を中心とした 自然観察や自然と親
し
しむ場として
て活用されて
てきました。 近年では、ビジターセンターを核 に、一般市民
民を対象
と
として田んぼ
ぼを活用した
た里山体験(
(ミニ田んぼ
ぼ、どろんこ田んぼ)の活
活用が活発に
になって
き
きています。また、後谷
谷においては
は、駐車場か
からの団体アクセスが良い
いため、敦賀
賀市内・
外
外の学校団体
体によって稲
稲作体験と自
自然環境学習
習・研究を目的とした活用
用が定着しつ
つつあり
ま
ます。さらに
に、江尻~蛇
蛇谷にかけて
ては、NPO 団体による水
団
田環境の保全
全活動が展開
開されて
い
います。これ
れらの田んぼ
ぼとしての活
活用は、田ん
んぼの作業体験を通じた 中池見湿地の
の自然環
境
境の継続的な
な保全にも貢
貢献していま
ます。
図
中池見湿
湿地における
る現在の環境
境学習の拠点
点としての活
活用の状況( 平成 26 年度
度)
ミニ
ニ田んぼへの市
市民参加
学
学校団体による
る
田植え体験
25
地元
元小学校による
る
外来
来植物駆除作業
業
3.5 中池見の関係法
法令
要な湿地として位置づけ
中池見湿地
地は、国・県
県レベルで重要
けられ、平成
成 24 年 3 月に越前加
賀
賀海岸国定公
公園第 2 種特
特別地域に編
編入されまし
した。また、同年 7 月に ラムサール条
条約湿地
に
に登録に登録
録され国際的
的に重要な湿
湿地とも認められています
す。
連法令等指定
定状況]
[自然環境関連
・平成 13 年 12 月
日本の重要湿
日
湿地 500 に選
選定(環境省)
・平成 17 年 3 月
福井県重要里
福
里地里山 30 に選定(福井
に
井県)
・平成 18 年 11 月
福井県鳥獣保
福
保護区特定猟
猟具使用禁止区域に指定
定
・平成 24 年 3 月
越前加賀海岸
越
岸国定公園第
第 2 種特別地
地域に編入
・平成 24 年 7 月
ラムサール条
ラ
条約湿地に登
登録
図
越前
前加賀海岸国
国定公園指定区域
条約の登録要
要件]
[ラムサール条
ラムサール
ル条約では、国際的に重
重要な湿地を指定するための9つの基
基準がありま
ます。
中池見湿地
地は、基準 1、基準 2、基
基準 3 に該当
当するため、ラムサール条
条約湿地として登録
さ
されました。
◆国際
際登録基準
基準 11:特定の生
生物地理区を代表するタイ
イプの湿地、
、又は希少な
なタイプの湿
湿地
…特有の
の地形、約 40m におよぶ
ぶ泥炭層の存
存在
基準 22:絶滅のお
おそれのある種や群集を支
支えている湿
湿地
…国内有
有数のノジコ
コ等の渡り
基準 33:生物地理
理区における生物多様性の
の維持に重要
要な動植物を
を支えている
る湿地
…2,000 種を越える動植物の存在
在、デンジソ
ソウ・ヤナギ
ギヌカボ・ミ
ミズトラノオ
オの生育
資料: “Information Sheet on Ramsar Wetlands ” http://www.r
ramsar.org/
26
4 保全
全活用構想・計画の期
期間と対象 とする範囲
囲
4.1 計画の期間
地保全活用計
計画は、20 年
年、30 年先を目指した中・長期的な計
計画とします
す。なお、
中池見湿地
本
本計画に基づ
づき実施する
る期間におい
いてもモニタリングと評価により、適
適宜、見直しをかけ
進
進行すること
ととします。
*中池見ラムサール条約
約湿地保全・活
活用協議会(仮
仮称)設置準備
備会(第 13 回)による
回
4.2 対象とする範囲
囲
本計画の対
対象とする範
範囲は、集水
水域を含めた
た湿地全体を対象とします
す。これは、
、ラムサ
ー
ール条約湿地
地の登録範囲
囲と一致して
ています。
図 中池見湿
湿地保全活用
用計画の対象とする範囲
ール条約湿地
地(越前加賀海
海岸国定公園 第二種特
特別地域)と 同一の範囲
※ラムサー
*範囲の設
設定…中池見ラ
ラムサール条約
約湿地保全・活
活用協議会(仮
仮称)設置準備
備会による
27