微分積分学演習第二Oクラス(12/5)

微分積分学演習第二 O クラス(12/5)
担当:柴田 将敬
冪級数
数列 {an }n∈N に対して
∞
∑
an xn
n=0
を 冪級数 と呼ぶ。整級数 と呼ぶこともある。なお、x0 ≡ 1 とする。冪級数については次が
成立する。
定理 1 (収束半径). 冪級数
∑∞
n=0
an xn について、|x| < r ならば級数が絶対収束し、|x| > r
ならば発散するような r ∈ [0, ∞) ∪ {∞} がとれる。この r を冪級数の 収束半径*1 と呼ぶ。
r = 0 は x = 0 でのみ収束することを意味し、r = ∞ は任意の x ∈ R で絶対収束することを
意味する。さらに、収束半径 r は、
√
1
= lim sup n |an |
r
n→∞
√
を満たす。ここで、右辺は上極限であるが、limn→∞ n |an | が存在すれば、収束半径 r は
√
1
= lim n |an |
r n→∞
となり、また、limn→∞ |an+1 /an | が存在すれば、収束半径 r は
1
an+1
= lim
r n→∞ an
となる。
演習問題 1. Cauchy の判定法を用いて、limn→∞
√
n
|an | が存在すれば、収束半径 r は
√
1
= lim n |an |
r n→∞
となることを確かめよ。
演習問題 2. 次の冪級数の収束半径を求めよ。
(i):
∞
∑
n=0
*1
n
x ,
(ii):
)n
∞ (
∑
n+1
n=1
n
2
n
x ,
∞
∑
1 n
(iii):
x .
n!
n=0
なぜ「半径」と呼ぶのか?それは、実は、|x| < r となる複素数 x について、級数が絶対収束するからである。
1
答え.
(i): 1,
1
,
e
(ii):
(iii): ∞.
さて、収束半径は冪級数が収束するかどうかの境目であった。|x| = r で収束するかどう
かはケースバイケースで微妙な問題であり、条件収束するようなこともある。少なくとも、
f (x) =
∑∞
n=0
an xn は |x| < r 上で定義される関数となる。
定理 2 (Taylor 級数との関係).
∑∞
n=0
∑∞
n=0
an xn の収束半径を r > 0 とする。このとき、f (x) =
an xn とおくと、f (x) は (−r, r) 上で C ∞ 級であり、
an =
f (n) (0)
n!
(n = 0, 1, 2, . . . )
が成り立つ。
定理 3. 二つの級数
∑∞
n=0
an x n ,
∑∞
n=0 bn x
n
について、それぞれの収束半径は 0 でないと
する。この二つの級数が、0 を含むある区間で、恒等的に等しいとすると、
an = bn
(n = 0, 1, 2, . . . )
が成り立つ。
収束半径の内部では冪級数は項別積分・項別微分出来ることが従う。まとめると次のよう
になる。
定理 4 (冪級数の項別微分). 冪級数 f (x) =
別微分した冪級数 g(x) =
∑∞
n=1
∑∞
n=0
an xn の収束半径を r とする。形式的に項
nan xn−1 の収束半径も r であり、|x| < r ならば f (x) は微
分可能で f ′ (x) = g(x) が成立する。
定理 5 (冪級数の項別積分). 冪級数 f (x) =
に項別積分した冪級数 g(x) =
∫x
0
∑∞
∑∞
an n+1
n=0 n+1 x
n=0
an xn の収束半径を r とする。形式的
の収束半径も r であり、|x| < r ならば
f (t)dt = g(x) が成り立つ。
■級数を用いて微分方程式を解く 次の微分方程式
{
f ′ (x) − f (x) = 0,
f (0) = 1
を、冪級数を用いて解いてみる。
手順としては、f (x) =
∑∞
n=0
an xn と置いてみて、{an }n∈N を求める(Step 1)。次に、求
めた f (x) が解となっていることを確かめる(Step 2)となる。
2
Step 1-1: {an } の満たすべき式を求める。
∑∞
さて、f (x) = n=0 an xn が f (x) − f ′ (x) = 0 を満たすとしてみる。項別微分などが自由
にできるとすると、
∞
∑
f ′ (x) − f (x) =
=
n=1
∞
∑
nan xn−1 −
∞
∑
an xn =
n=0
∞
∑
(n + 1)an+1 xn −
n=0
∞
∑
an xn
n=0
((n + 1)an+1 − an ) xn = 0
n=0
となる。また、f (0) = a0 = 1 であるから、{an }n∈N は、漸化式
{
(n + 1)an+1 − an = 0 for n = 0, 1, 2, . . . ,
a0 = 1
(1)
を満たすことがわかる。
Step 1-2: {an }n∈N を求める。
(1) を解けば良い。a0 = 1 と漸化式を用いて、a1 , a2 , . . . と求めていけば、an = 1/n! と求
まる。
Step 2: 収束半径を求める。
定理 1 を用いて、収束半径を求めると、r = ∞ となる(演習問題 2 (iii))。従って、
f (x) =
∑∞
n=0
xn /n! は、(−∞, ∞) で定義され、この範囲では項別微分なども出来るので、
(−∞, ∞) 上で微分方程式の解になっていることがわかる。
演習問題 3. 微分方程式
{
f ′′ (x) + f (x) = 0,
f (0) = 0, f ′ (0) = 1
の解を、冪級数を用いて求めよ。
3
■応用例 これらを利用すると、以前扱った、具体的な関数の Taylor 級数の計算が、きちん
と正当化される。等比級数
∞
∑
1
=
xn if |x| < 1
1 − x n=0
から出発して計算してみよう。この級数の収束半径は 1 であるので、|x| < 1 の範囲では項別
微分・項別積分出来る。項別積分すると、
− log(1 − x) =
∞
∑
1 n
x if |x| < 1
n
n=1
となり、t = −x と置き換えれば、
∞
∑
(−1)n−1 n
log(1 + t) =
t if |t| < 1
n
n=1
を得る。また、等比級数で −x = t2 と置くと、
∞
∑
1
=
(−1)n t2n if |x| < 1
1 + t2
n=0
である。右辺の収束半径はやはり 1 である。これを項別積分すると、
∫
x
arctan x =
0
∞
∑
dt
(−1)n 2n+1
=
x
if |x| < 1
1 + t2
2n
+
1
n=0
となる。もちろん Taylor の定理を使い、剰余項の評価をすることでもこの級数展開は求まる。
4