ITU-T SG5 WP1/2会合報告 - ITU-AJ

ITU-T SG5 WP1/2会合報告
はっとり
NTTアドバンステクノロジ株式会社 ネットワークシステム事業本部 システム開発ビジネスユニット 主幹担当部長
1.はじめに
みつ お
服部 光男
(5)寄書件数:50件(うち日本から9件の堤出)
ITU-T SG5(国際電気通信連合電気通信標準化部門の
Study Group5)のうち、Working Party1(WP1)では雷対
策や感電防止等の安全に関する課題、Working Party 2
(WP2)ではEMC(Electromagnetic Compatibility:電磁
(6)コンセントされた勧告草案:新規5件、改訂2件(表1参
照)
(7)承認されたSupplement(補完文書)
:1件、及びAmendment(改正):2件(表2参照)
環境両立性)や電磁波の人体ばく露等に関する課題につい
て審議している。本稿では、2014年7月23日から29日にスイ
3.審議結果
ス・ジュネーブで開催されたSG5 WP1、WP2会合での審議
内容について報告する。
今回の会合における各課題の審議概要は次のとおりであ
る。
2.会合概要
3.1 WP1(損傷の防止と安全)における審議状況
(1)会合名:SG5 WP1、WP2会合(2013-2016会期)
課題1(ブロードバンドアクセスのためのメタルケーブル、ネ
ットワーク及び光ファイバ接続機器)
(2)開催場所:スイス・ジュネーブ
(3)開催期間:2014年7月23日∼29日
課題1では、広帯域網におけるメタル網の設計・構成建設
(4)参加者数:25か国 70名(うち日本から5名が参加)
及び試験・保守方法に関する課題の検討と既存勧告のメン
表1.本会合で合意(コンセント)された勧告草案
勧告番号
種別
勧告名
課題番号
K.appl1(K.99)
新規
Surge protective component application guide - Gas discharge tubes
課題2
K.thy(K.102)
新規
Parameters of fixed-voltage thyristor overvoltage protector components used for the protection of telecommunications installations
課題2
K.ovp(K.98)
新規
Overvoltage protection guide for telecommunications equipment
installed in customer premises
課題4
K.sf(K.101)
新規
Shielding factors for lightning protection
課題5
K.52
改訂
Guidance on complying with limits for human exposure to electromagnetic fields
課題7
K.mpis(K.100)
新規
Measurement of radio frequency electromagnetic fields to determine
compliance with human exposure limits when a base station is put
into service
課題7
K.81
改訂
High-power electromagnetic immunity guide for telecommunication
systems
課題10
表2.本会合で承認された附属書(Appendix)及び補完文書(Supplement)
勧告番号
種別
勧告名
課題番号
K.83 Amendment 1
改正※
Monitoring of electromagnetic field levels
課題7
K.84 Amendment 1
改正※
Test methods and guide against information leaks through unintentional electromagnetic emissions
課題10
補足文書
Supplement 1 to K.91 - Guide on Electromagnetic Fields and Health
課題7
Supplement 1 to K.91
ITUジャーナル Vol. 44 No. 12(2014, 12)
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会合報告
テナンスを行っている。
た、電気鉄道からの電磁誘導がADSLの伝送に与える影響に
今会合ではラポータが参加できなかったことからWP1議長
ついて韓国から寄書が提出され、更なる寄与がラポータから
が代理で議事を進行した。本課題は、寄与文書が少ないた
要請された。K.5について、現在はほとんど使用されていな
め、次回会合に削除する方向で検討し決定される予定であ
い裸線の記載を削除する提案が行われ、本勧告の全面改訂
る。また、課題削除後は、メンテナンスを確実に行うために、
を目指したワークプログラムが追加された。
本課題に含まれる既存の勧告を課題12に含めることとなっ
課題4(通信装置の過電圧耐力と安全)
た。
通信センタビルやアクセス系ネットワーク及び宅内の通信
課題2(防護素子とアセンブリ)
課題2では、過電圧防護素子の試験方法について検討し、
装置の様々なインターフェースに関する電気安全、過電圧耐
力規定、防護方法等の検討を行っている。今会合では過電
防護素子ごとの勧告作成を予定している。今会合では、サ
圧保護ガイド、勧告K.20、K.21、K.44、K.45等の改定に関
ージ防護素子(ガス入り避雷管)の適用ガイドとして新規勧
する審議を進めた。
告草案K.appl1について、審議が進められ、K.99としてコン
セントされた。
この結果、過電圧保護ガイドについては、これまでガイド
として取りまとめるように検討していたが、今回勧告として
また、新規勧告案K.thy(通信施設の保護に使用される固
まとめることとなりK.98としてコンセントされた。各種通信
定電圧サイリスタ型過電圧防護コンポーネントのパラメータ
装置の過電圧耐力規定であるK.20、K.21、K.45の改訂につ
について審議が進められ、K.102としてコンセントされた。ゲ
いては、次回会合でのコンセントを目指して改訂草案が提出
ート制御サイリスタは少し用途が特殊なので、本文書には含
される予定である。Ethernetポートの過電圧試験条件に関
めず別文書とすることとなった。新規勧告案K.spd(サージ
して業界標準化団体であるATISの規格に関する情報が提供
防護デバイスの基本規定)について、ベーステキストが示さ
され、Ethernetポートの過電圧試験規定に参考として検討
れて審議が進められ、2015年の合意に向けた寄書が提出さ
を継続することとなった。また、過電圧耐力試験方法の勧告
れることとなった。IEC 61000-4-5 Ed.3の波形の定義変更
K.44の中のPoE/Ethernetの試験条件については、データが
(半値となるまで時間から半値幅に変更された点)に関して
ないまま議論され審議が行われていた。これに対して、NTT
議論が行われ、変更によって従来の試験機器が使えなくなる
から、Ethernetポートをガス入り放電管で保護する場合、素
可能性があり、継続検討が必要となった。
子ごとの動作開始時間及び動作電圧の差により、コモンモー
次回会合では、金属酸化物バリスタやPN接合シリコン素
ド電圧がディファレンシャルモード電圧に変換されることが
子、サージ絶縁素子の規定に関する審議が行われる予定であ
あるという実験結果を示し、GDTの有無で試験内容を変え
る。サージ絶縁素子の規定勧告には日本提案の絶縁協調に
る必要がある旨を提案した。本データに追加して、コモンモ
よる保護方法が記載される予定であり、日本からの寄与が期
ード電圧からディファレンシャルモード電圧への変換係数の
待されている。また、今回コンセントされたK.Appl1等のア
提供が要請され、今後の検討で考慮することとなった。
プリケーションガイドを、2016年をめどにディレクティブス
にまとめていきたいとの意向が示されている。
課題5(通信システムの雷防護と接地)
課題5では、通信システムの接地及び雷害リスク管理手法
課題3(電気通信網に対する電力線及び電気鉄道からの妨
害)
の検討と、既存勧告のメンテナンスを行っている。
雷防護におけるケーブルのシールド性能に関する新規勧告
課題3では電力線及び電気鉄道からの誘導による妨害予測
案K.sfについて審議が行われ、K.101としてコンセントされ
及び安全に関する検討を行っている。今会合では2014年5月
た。なお、K.sfは、ハンドブックの1項目とされる予定であっ
のラポータ会合(ブダペスト)に引き続き、高圧・中圧電力
たが、独立した勧告として制定することとなった。また、通
線から低圧電力線へのアース電位上昇の伝搬に関する勧告
信センタビルの接地配線に関する勧告であるK.27に400V DC
草案K.hvps1と、中圧、低圧間のトランスに関わるアース電
システムの接地構成を加えることが、前回合意されていたが、
流と接地抵抗に関する勧告草案K.hvps2が審議され、次回
今回NTTより具体的な改訂案を寄書として提出した。今回
会合で合意に向けた修正版が提出される予定となった。ま
提案したスターIBNの接地方式だけでなく、メッシュBNとメ
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ッシュIBNにも400V DCシステムの接地構成を追加して次回
化のためにAppendix等の変更が提案され同意された。また、
会合でコンセントする予定となった。
勧告K.52「電磁界の人体ばく露限度値に適合させるための
当初、無線基地局の防護と接地システムの勧告草案K.tot
に記載する予定であった、無線基地局に給電する太陽光発
電の保護に関する項目を独立した勧告K.lsrとして検討する
ことになった。
ガイダンス」について限度値の変更や関連の計算ソフトの追
加等の改訂案がコンセントされた。
また、新ワークアイテムとして勧告草案K.env「無線通信
基地局からの電磁放射に関する環境マネージメントに関する
ガイダンス」及びK.maps「無線電磁界マップ」が追加され
3.2 WP2(電磁界、エミッション、イミュニティ及び人体
検討を開始することとなった。
曝露)における審議状況
課題6(情報技術装置と通信装置の融合に起因するEMC問
題)
課題6では、通信の自由化による電気通信網の相互利用
課題8(ホームネットワークのEMC問題)
本課題では、ホームネットワーク装置のイミュニティ規定
や過電圧、安全規定、電磁環境等について検討している。
に関連したEMC問題の検討と既存勧告のメンテナンスを行
勧告K.74「ホームネットワーク機器のEMC、過電圧耐力
っている。今会合では、伝送線路からのエミッションに関す
規定」の第2次改訂草案について議論が行われた。K.74は
る勧告のK.60等に関して、ITU-T SG9、ITU-R WP6A、5B、
CISPR35のマルチメディア機器のイミュニティ規定と関連が
1Aから8件の入力リエゾンの確認が行われた。この状況を勘
深く、K.74の改訂をCISPR35発行まで待って対象装置のス
案して、K.60の改訂審議を急ぐことが了承され、次回会合
コープをマルチメディア機器まで拡大するかどうかが議論と
で改訂の骨格部分を提示し、2015年の合意を目指すことと
なった。議論の結果、CISPR35の発行を待たずにスコープは
なった。今回の審議状況は、ITU-T SG9及びITU-Rにリエゾ
現状のまま維持することが決定され、次回会合でコンセント
ンとして返信することとなった。
する予定となった。
新勧告草案K.mhn「広帯域伝送ケーブルやTV配線からの
課題7(無線システム及び移動機器による電磁界に対する人
体ばく露)
本課題では、携帯電話、無線システムのアンテナ周囲にお
放射対策」に関連しては、同軸ケーブルからのエミッション
特性が寄書として提出され、勧告案への追加を検討すること
となった。次回会合でのコンセントを目指して11月初旬にE-
ける電界強度の推定手順、計算方法、測定方法に関して、
meetingを開催予定である。なお、SG9とITU-R WP6Aから
人体ばく露の観点で検討を行っている。一般住民に対して電
“radio device”と“cable television network”の定義につ
磁波の人体影響に関する基礎的な知識を提供すことを目的
いて修正提案があり、提案を取り入れた修正案が提出され
に、EMFガイドを作成することで検討を続けている。EMF
た。
ガイドについては、今回10件の寄与文書が提出され、各寄書
さらに、K.93「ホームネットワーク機器の電磁妨害に対す
を反映して草案がまとめられた。これまで、ガイドという位
るイミュニティ」の改訂が新ワークアイテムに追加された。
置づけで検討が進められてきたが、今回勧告とする案も浮上
した。審議の結果、勧告K.91に対する補足文書(Supplement)-「電磁界と健康」として制定が同意された。
新規勧告案K.mpis「基地局が導入される時の人体ばく露
測定」については、エリクソン等から草案が寄書として提出
された。なお、本勧告の主眼は詳細測定の適用除外につい
課題9(電気通信設備のEMC共通勧告及び製品群勧告)
課題9では、新たな通信装置、通信サービスに対応した
EMC規格の検討と既存EMC勧告のメンテナンスを行ってい
る。
150kHz以下のエミッション規定に関する検討では、
てであるが、技術的に不明確な点もあるため本会合での合意
150kHz以下の妨害波による障害事例を収集するための質問
は時期尚早との主張をNICTから行ったが、他に支持するメ
票の前文が合意され正式に発行することとなった。回答等を
ンバがなかったため、K.100としてコンセントされた。その後
基に次会合で検討の進め方を議論する。
AAP審議において、日本として引き続き意見提出しており、
AAPプロセスが継続している。
勧告K.83「電磁界のモニタリング」については情報の最新
CISPR及びETSIのEMC規定との差異がETSIからリエゾ
ンとして入力された。これについては、今後の勧告改訂で対
応することとなった。このことはETSIへのリエゾンとして返
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会合報告
信することとなった。
また、人体近傍通信で考慮する必要があるEMC関連の課
通信センタビルの放射イミュニティについては、ITU-Tの
題についての寄書が中国(ZTE)から提出された。この課題
勧告をCISPR/Iが参照することをNTTから提案し、同意が得
については更なる情報や提案を要請し、検討を継続すること
られた。これに関してはCISPR/Iにリエゾンを送り、現在審
となった。また、新勧告草案K.tern_emc「端末機器のEMC
議中のCISPR35の原案の中で対応することを要請することと
規定」が提出され検討を継続することとなった。
なった。また、放射イミュニティ試験レベルについてもNTT
から寄書を提出し、今後の検討で参考にすることとなり、そ
4.その他のトピックス
の内容をETSI等へのリエゾンに添付することとなった。
通信センタビル内で使用する、空調機器や照明器具など
電気機器についても通信機器と同程度のエミッションレベル
に低減することをNTTから提案し、エミッション規定を勧告
化することを新ワークアイテムとして追加することとなった。
・スマートサステナブルシティに関するフォーカスグループ
(FG-SSC)第3回会合
FG-SSCでは都市環境における各種の課題が検討されてお
り、その中に「スマートサステナブルシティにおける電磁界
の考察」の検討がある。今回、テクニカルレポートの草案が
課題10(電磁環境に関する通信と情報システムのセキュリテ
ィ)
課題10では、電気通信設備の電磁波的なセキュリティ課
提出され、審議でのコメントを反映して最終案を作成するこ
ととなった。最終的には10月13日から16日に開催されるFGSSC会合で完成させる予定である。
題として、高々度電磁パルス(HEMP)や高出力電磁パル
ス(HPEM)に対する通信施設の防護方法、電磁妨害波に
5.今後の会合
よる情報漏洩、セキュリティ評価方法やシールド等の対策方
法を検討している。
これまで、各種の電磁波によるセキュリティ脅威について
SG5アジアパシフィック地域会合 2014年9月22∼26日
中国・北京
の勧告が作成されている。今回は新規勧告案K.secmiti「電
SG5全体会合 2014年12月8∼19日 インド・コーチン
磁セキュリティ脅威に対する対策」の改訂版がラポータより
SG5 WP1/WP2会合 2015年3月9日∼13日 アルゼンチ
提出された。今回HPEMに関する記述を追加し、次会合に
ン・ブエノスアイレス
コンセントを目指して完成度を高める予定である。K.81「通
信システムのHEMP耐性ガイド」については参照規格の最新
化と数値の修正が提案されコンセントされた。また、K.84
「意図しない電磁放射による情報漏洩の試験方法とガイド」
については参照規格の最新化が提案され同意された。
6.おわりに
雷対策についてはEtherポートの雷害対策や、局内の高圧
DC給電システムの接地配線など新たな技術に対する対応が
必要となっており、この分野での日本への期待も大きい。
課題11(電気通信のEMC勧告)
本課題では、各種無線システムにおけるEMC問題につい
て検討を行っている。
K.79「2.4GHz ISMバンドの電波環境の特性」の改訂につ
いて、列車や航空機内の環境を追加する案が中国(MIIT)
また、広帯域伝送信号やTV信号のケーブルからの不要放
射については、ITU-R等から多くのリエゾンが寄せられてお
り、またCISPRでの標準化との関連など他の標準化機関との
連携の重要性が多く議論された。これらに対して日本からの
寄書が評価されており、今後の寄与も期待されている。
より提案された。これについては、スコープを拡大すること
今後も日本からの寄与を継続しながら、国内インフラや環
となり、改訂案がラポータより提出され、検討を継続するこ
境条件等を国際勧告に反映することでグローバルなビジネス
ととなった。
環境での競争力強化にも貢献していきたいと考えている。
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