JPI調査研究報告

ランダム振動試験のための日本国内実測データに基づく PSD の導出
ISO/TC 122 国内対策委員会第一分科委員会
Derivation of PSD Profiles for Random Vibration Test Based on the Field Data Obtained
in Japan
輸送シナリオと振動レベル区分法により、実測輸送振動データから、試験用 PSD プロフ
ァイルを導出する方法を提案した。また、提案した方法により、日本国内の実測データに基
づいて、一般的な輸送振動条件を再現できる PSD プ ロファイルを導出した。さらに、得ら
れた PSD プロファイルに対して2つの時間短縮手法を適用して、試験時間を 1/10 に短縮す
る PSD プ ロファイルを作成した。当該 PSD によるランダム振動試験時間は、輸送距離に基
づいて選定するものとする。
(http://www.jpi.or.jp/english/pdf/report2014_en.pdf)
1.はじめに
近年、輸送包装を適正化するための振動試
験においては、輸送環境記録計、振動試験機
しかし、保有する設備等による制限のため、
それを実行できる試験者は、極めて稀である。
一方、ISO (International Standardization
とその計測制御システム、計測制御用コンピ
Organization) の
ISO
ュータ、ソフトウエア技術の進歩等により、
(American
従来の正弦波による一定周波数あるいは周波
Materials) の ASTM D4169 [4] 、 あるいは、
数掃引による試験に代わり、より実振動の再
JIS (Japan Industrial Standard) の JIS Z
現 に 近 い ラ ン ダ ム 振 動 [1] を 用 い る 試 験 が 優 先
0232 [5] など の振動試験規格には、推奨条件あ
的に実施されるようになってきた。
るいは参考として試験に用いる PSD プロフ
Society
13355 [3] 、 ASTM
for
Testing
and
ランダム振動試験においては、目標とする
ァイルが提示されているが、その PSD プロ
加 速 度 パ ワ ー ス ペ ク ト ル 密 度 ( Acceleration
ファイルが試験実施者にとって適切なものか
Power Spectral Density、以下 PSD と略記)
どうかを判断することも困難な状況にある。
プロファイルを逆フーリエ変換することによ
そこで、本研究では、実測データから試験
り加振機上で実現すべき振動加速度時間波形
用 PSD プ ロファイルを導出する方法を提案
が得られるが、その他の試験法を含む振動試
すると同時に、日本国内の実測データに基づ
験の振動条件(振動波形、加振時間、積載方
き、一般的な輸送振動条件を再現できる PSD
法等)では、実輸送により生じる被試験物の
プロファイルを試験条件として提案する。
疲労損傷を再現できることが求められる。そ
併せて、得られた PSD プロファイルのレ
の実現のためには、想定する物流条件での実
ベルを変更することにより、試験時間を短縮
際の輸送環境を計測し、その計測結果に基づ
す る 方 法 お よ び 、 そ れ に よ り 導 出 し た PSD
いて時刻歴波形(あるいは PSD プロファイ
プロファイルを報告する。
ル)等を設定することが求められる [2] 。
2.理論および実験方法
具体的には、輸送条件のクラスごとに PSD
1)輸送環境の平均化の考え方
最近の輸送環境計測においては、データフ
のレベルの上限と下限を設定し、それぞれの
レーム(データポイント数)が 1,024 ポイン
PSD 範囲 に入る波形を、当該の PSD プロ フ
ト程度の比較的小さなデータフレームを持つ
ァイルとして取り扱う。各クラスに含まれる
多くの加速度時刻歴データ(以下、時刻歴デー
PSD を平均 化することで、クラスごとの PSD
タと略す)が収集され、収集された時刻歴デー
を確定する。
タ か ら 、 フ ー リ エ 変 換 に よ っ て 多 数 の PSD
次に、クラスごとの出現比率を乗じて、各
プロファイルが得られる。輸送環境計測で得
クラスの PSD を加算 することで、統合化さ
られるこれら多数の PSD プロフ ァイルを、
れた PSD プロファイルを得る。
統合化して、単一の試験用 PSD プロファイ
2)設定した輸送シナリオ
[6 -
輸送経路は、製品工場から配送センター、
15] が、ここ では、シナリオに基づく平均化手
配送センターから販売物流センター、販売物
法を採用することとした。すなわち、輸送条
流センターから小売店、の3段階とした。
ルを導き出す方法が種々提案されている
表1に、想定した輸送車両および、走行す
件を振動強度からクラス分けし、各クラスの
出 現 比 率 を 考 慮 し て 、 PSD の 平 均 化 を 行 う 。
る道路の種類、走行速度等の詳細を示す。
表1 設定した輸送シナリオ
輸送ルート
*1:
工場
⇒
配 送 セン ター
⇒
販 売 会社
⇒
小売店
輸送モード
大 型 トラ ック
大 型 トラ ック
大 型 およ び中 形 トラ ック
道 路 の種 別
( 走 行速 度)
高 速 道路
(80 km/h)
高 速 道路
(80 km/h)
一 般 道路 (悪路 を 含む )
(40km/h 又 は そ れ以 下 )
輸 送 シナ リ オの 平均 走 行速 度  80 km/h.
1 km 当 り の 平 均 走行 時間 = 0.75 min/km = 45 sec/km.
Index( Sayers, 1986) [16,17] を利 用した5段
3)振動レベル区分の設定
表1のシナリオで実際に発生する振動は、
階の路面粗さ指標(極良~極悪の5段階)
路面、サスペンション、運転状況などにより
[18,19] を 参 考 に 、 PSD
異なるため、より直接的に振動パワー値で区
般的な走行環境を想定した、良(A)、普通(B)、
分する方法として、International Roughness
悪(C)の3段階に区分した(表2)。
表2 PSD レベルによるクラス分け
振動強度の区分
A
良
B
普通
C
悪
PSD (g 2 /Hz)
0.005 以下
0.005 ~ 0.03
0.03 以上
レベルに基づいて、一
4)時刻歴データ・PSD の収集
路におけるトラック荷台振動の時刻歴データ
PSD レベル 区分 A、B、C に相当する振動
および、その PSD を 収集した。
計測のために、表3に示す条件で、実輸送経
表3 実走行振動データの収集条件
振 動 強度
区分
A
B
C
車 両 の種 類お よ び
振 動 計測 位置
種 類 : 13 ト ン 積 大型 トラ ッ ク
懸 架 装置 : 板 ば ね形
測 定 位置 : 荷 台 後部
種 類 : 13 ト ン 積 大型 トラ ッ ク
懸 架 装置 : 板 ば ね形
測 定 位置 : 荷 台 後部
種 類 : 11 ト ン 積 大型 トラ ッ ク
懸 架 装置 : 板 ば ね形
測 定 位置 : 荷 台 後部
積載率
満載
道 路 の種 別
地域
高 速 道路
西日本
満載
高 速 道路
西日本
満載
一 般 国道
積 雪 あり
北海道
デ ー タ採 取方 法
記 録 方式 : 連 続 計測 記録
測 定 機器 :独 自 構 成装 置
(三 菱 電機 ロジ ス ティ クス ㈱ )
記 録 方式 : 連 続 計測 記録
測 定 機器 :独 自 構 成装 置
(三 菱 電機 ロジ ス ティ クス ㈱ )
記 録 方式 : 間 欠 計測 記録
加 速 度ト リガ (0.087 g)
測 定 機器 : EDR-3
(Instrumented Sensor
Technology, Inc.)
5)PSD の 平均化と統合化単一 PSD の導出
プロファイルを、表4の出現比率に基づいて
PSD レ ベル区分ごとの PSD プロファイル
重み付け平均を行い、疲労等価 PSD プロフ
を平均化し、PSD 区 分ごとの平均化 PSD プ
ァイルを導出した。
ロファイルを取得した。得られた平均化 PSD
表4 PSD レベル区分ごとの出現比率
振動強度の区分
出現比率(%)
A
良
30
B
普通
69
C
悪
1
合計
100
6)試験時間の短縮手法
ベル)を抽出し、抽出されたデータを時刻歴
(1)微小振動の除去を利用した時間短縮(時
データから削除することで、振動処理時間を
間短縮-1)
短縮する方法を適用した。さらに、ブレーク
実輸送において低レベル加速度の振動(微
ポイントを少なくするために、単純化した疲
小振動)は、疲労破壊に対する寄与が小さい
労等価 PSD プロファイルを導出した。
と考えられる。そこで、加速度時刻歴データ
(2)S-N 曲線を利用した時間短縮(時間短
からゼロクロスピークカウント法により微小
縮-2)
振 動 ( 10 5 ~10 6 個 以 上 が 観 測 さ れ る 加 速 度 レ
疲労破壊の原理に基づいて、S-N 曲線( N ・
G  =  )の  の値を仮定し、加速度 PSD に 1.0
以上の係数を乗ずることで、時間短縮を図る
れる。
T 2 = T 1 ・( G 1 / G 2 ) 
(2)
方法を適用した。
周波数が一定の場合、時間短縮前の試験時
間を T 1 、加速度を G 1 、時間短縮後の時間を
T 2 、加速度を G 2 とす ると、下記の式が成り
3.結果および考察
1)レベル区分ごとの PSD プロフ ァイル
得られた全 PSD プ ロファイルについて、
レベル区分ごとに分類した PSD プロファイ
立つ。
T 2 / T 1 =( G 1 / G 2 ) 
(1)
ルを、図1に示す。
(1)式を T 2 について 解くと、(2)が得ら
1
Bad
Usual
0.1
Good
PSD (g^2/Hz)
0.01
0.001
0.0001
0.00001
0.000001
1
10
Frequency (Hz)
100
図1 レベル区分ごとの PSD プ ロファイル
2)レベル区分ごとの平均 PSD プロファイ
ロファイルをそれぞれ平均化し、PSD 区分ご
ル
との平均化 PSD プ ロファイルを取得し、図
図1に含まれるレベル区分ごとの PSD プ
2に示した。
Average PSD of bad vibration
Average PSD of good vibration
Average PSD of usual vibration
Fatigue equivalent PSD
0.1
PSD (g^2/Hz)
0.01
0.001
0.0001
0.00001
0.000001
0.0000001
1
10
Frequency(Hz)
100
図2 レベル区分ごとの平均および疲労等価 PSD プロフ ァイル
3)疲労等価 PSD プ ロファイルの導出
表3の重み付け平均を行い、疲労等価 PSD
プロファイルを導出した(図2)。
4)時間短縮-1
時間を 0.5 倍に短縮できる。
図 5 に 、 得 ら れ た PSD プ ロ フ ァ イ ル
(PSD_A) を示す。
また、振動試験機の駆動可能な範囲を考慮
ゼロクロスピークカウント法で得られた、
するとともに、PSD プ ロファイルの単純化を
1 km 走行 に相当するピーク加速度の頻度分
図るために、単純化した疲労等価 PSD プロ
布を図3に示す。この中から、実輸送時間に
ファイル(PSD_B)を 導出し、図5に併せて
相 当 す る 時 間 長 で 10 5 ~ 10 6 個 以 上 の 出 現 頻
示した。
度となる低加速度レベルの振動を除去した後
の頻度分布を図4に示す。図3における総振
動回数は 756、図4の総振動回数は 373 であ
った。したがって、微小振動を除去した後の
時間波形長は、元の時間波形長に比べて、373
/756= 0.493 に短縮されると考えられる。す
なわち、微小振動を除去した時刻歴データか
ら PSD プ ロファイルを導出し、その PSD プ
ロファイルを振動試験に用いることで、試験
80
Number (N)
70
60
50
40
30
20
10
0
0.0
0.5
1.0
1.5
Acceleration (g)
図3 ヒストグラム A(加速度範囲は約 3 g)
40
Number (N)
35
30
25
20
15
10
5
0
0.0
0.5
1.0
Acceleration (g)
図4 ヒストグラム B(微小振動除去後)
1.5
0.1
Fatigue Equivaleant(PSD_A)
Simplified PSD(PSD_B)
Test PSD(PSD_C)
PSD (g^2/Hz)
0.01
0.001
0.0001
0.00001
0.000001
1
10
Frequency(Hz)
100
図5 ヒストグラム B に基づく PSD(PSD_A)、PSD_A の疲労等価 PSD(PSD_B)、PSD_B
による振動に比べて振動時間を 1/5 にする試験用 PSD( PSD_C)
5)時間短縮-2
実用的な試験時間とするため、S-N 曲線

( N ・ G =  )の  の値と して 2.0 を 仮定し試
験時間を 1/5 に短縮するための処理を行っ
た。なお、  =2.0 は、 対象材料が多種また
は不明な場合を考慮し、加速度レベル差に
より理論上の疲労が大きく変動することを
避けるためである。
図5の PSD_B に対 して時間短縮-2を
施した PSD プロファイル(PSD_C)を図
5に示す。
表5 輸送距離と振動試験時間の関係
輸送距離
l (km)
試験時間
T test (min)
l  200
15
200 < l  500
30
500 < l  1000
60
1000 < l  1500
90
1500 < l  2000
120
2000 < l  2500
150
2500< l
180
6)輸送距離と試験時間
試験実施時間は、想定する輸送距離に応
じて、表5から選択するものとする。
4. おわりに
今回導出した PSD プ ロファイルをラン
ダム振動に利用することで、日本国内の一
般的な輸送条件(国際的に見て比較的良好
な輸送条件)での物流における包装が適正
化され、疲労による輸送事故の防止、過剰
( 英 語 名 称 : Packaged freights --
包装による資源利用の無駄の排除と環境負
Method of vibration test)
[6] 臼 田 浩 幸 ・ 椎 名 武 夫 ・ 石 川 豊 ・ 佐 竹 隆
荷の低減が図られるものと期待される。
顕 ( 2006)、 青 果 物 の 損 傷 性 を 考 慮 し
大いなる活用が望まれる。
たランダム振動試験法の開発、農業施
設、37(1)、3–9
謝辞
本報告内容は、ISO TC 122 国内 対策委
[7] Jagjit Singh, S. Paul Singh and Eric
員会第一分科委員会において、2006 年度か
Joneson (2006), Measurement and
ら継続的に検討が行われた検討成果をとり
Analysis of US Truck Vibration for
まとめたものである。関係機関および関係
Leaf
各位に深謝する。
Suspensions, and Development of
この調査研究は、株式会社三菱総合研究
所からの委託で、経済産業省の個別産業技
術分野に関する標準化:テーマ名「包装貨
Spring
and
Air
Ride
Tests to Simulate these Conditions,
Packag. Technol. Sci., 19, 309–323
[8] Garcia-Romeu-Martinez MA, Singh
物性能評価に関する国際標準開発に関する
SP,
Cloquell-Ballester
調査研究」の一部として実施したものの成
Measurement
果である。
vibration levels for truck transport
and
VA
(2008),
analysis
of
in Spain as a function of payload,
suspension
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