平成26年12月18日 科学技術振興機構(JST) Tel:03-5214-8404(広報課) 山 形 大 学 Tel:0238-26-3419(山形大学工学部広報室) 多層構造を持つ低分子塗布型有機EL素子の開発に成功 ~印刷法でLED並の高効率白色有機ELパネル製造に道~ ポイント 溶解性の制御により低分子有機EL材料の多積層構造を実現した。 飛行時間型二次イオン質量分析により多積層界面を解析した。 塗布型白色有機EL素子において世界最高水準の高効率化を達成した。 JST 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)の一環として、 山形大学 大学院理工学研究科の城戸 淳二 教授、夫 勇進 准教授らの研究グルー プは、多層構造を持つ低分子塗布型白色有機エレクトロルミネッセンス素子(有機 EL)の開発に成功しました。 印刷技術を用いて製造コストを低減できる塗布型有機ELは、次世代のフラット パネルディスプレイや照明への応用が期待され、注目が集まっています。発光効率 の向上が実用化に向けた課題の1つになっており、そのためには塗布によって有機 材料を積層する技術の確立が望まれています。 研究者らは有機溶媒への溶解性を制御することで、これまでは一部の高分子有機 EL材料によってのみ可能であった多層構造を低分子有機EL材料でも可能としま した。これにより、塗布型有機EL素子における材料選択の自由度が大幅に広がり、 印刷法でLED並みの高効率有機ELパネルを製造することができました。開発し た塗布型白色有機EL素子は、世界最高水準のLED照明に匹敵する高い電力効率 76ルーメン毎ワット(lm W-1)(光取り出し基板使用時)を達成しました。 この研究成果により、塗布型有機EL素子の高性能化に向けた材料開発が加速さ れることが期待されます。 本研究成果は、2014年12月18日(英国時間)に英国科学誌「Natur e Communications」にてオンライン公開されます。 本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。 事 業 名 :研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進(S-イノベ) 研究開発テーマ名 : 「有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発」 (プログラムオフィサー:谷口 彬雄 信州大学 名誉教授・特任教授) 研 究 課 題 名 :「印刷で製造するフレキシブル有機 EL 照明の開発」 プロジェクトマネージャー :城戸 淳二(山形大学 大学院理工学研究科 教授) 上記研究課題では、白熱電球や蛍光灯を代替する高効率・長寿命な白色有機EL照明の開発を 目的としています。そのために、印刷・塗工可能な高効率リン光材料群の開発、高効率・長寿命 化を支える印刷・塗工プロセスに適したホールおよび電子輸送材料やホスト材料の開発、多積層 マルチフォトン構造を可能とする材料不溶化技術や溶解性制御技術、大面積薄膜印刷・塗工プロ セスの高精度化や高速化技術の開発を実施し、ロールツーロール印刷・塗工プロセスの可能性検 証も行います。また、超バリアフィルム基板の検討も実施します。 1 <研究の背景と経緯> 次世代のフラットパネルディスプレイや照明を製造する過程において、印刷技術を 用いた低コストな塗布型有機ELが注目されています。実用化に向けた課題の1つで ある発光効率の向上には、異なる有機材料を積層し、電荷輸送や発光といった機能を 各層に分離することが有効です。しかし、塗布により有機材料を積層するには、塗布 溶媒による下層の再溶解を防ぐ必要があります。したがって、これまで下層に使用で きる材料は、耐溶媒性に優れた一部の高分子材料に限られ、高純度化や分子構造の制 御が容易な低分子材料でも積層構造を形成する技術が望まれていました。 <研究の内容> 17種類の低分子有機EL材料(図1)を薄膜(30nm)にしたときの溶解性を詳 細に調べた結果、分子量の増加とともにアルコール類への溶解性が減少し、分子量8 00程度を閾値として不溶化することを明らかにしました(図2)。 アルコール(2-プロパノール)に不溶性を示した低分子13と16をホスト材料 として「発光層」を形成し、その上層に低分子電子輸送材料(BPOPB;ビス ダ イフェニルホスフィンオキサイドフェニル ベンゼン)を2-プロパノールを用いて 塗布成膜して、「電子輸送層」を形成しました。 「電子輸送層」と「発光層」の積層構造薄膜の表面に、イオンビームを照射して、 エッチングと飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)注1)を行って薄膜 の深さ方向の組成を測定しました。その結果、発光層成分の再溶解が抑制された積層 構造が形成されており、2つの層が混ざり合うことなく積層されていることが明らか となりました。 上記の電子輸送層と発光層の積層構造を用いて、塗布型白色有機EL素子(図3) を作製したところ、輝度100(cd m-2)時に世界最高水準の電力効率34(l m W-1)を示しました。さらに、半球レンズを用いてガラス基板と空気界面で全反 射していた光を取り出すと、市販の蛍光灯やLED照明に匹敵する76(lm W−1) まで高効率化に成功しました(図4)。 <今後の展開> 本研究成果より、低分子有機EL材料を塗布により積層する技術を確立することが できました。低分子材料は、高分子材料よりも材料の高純度化や分子構造の制御が容 易であるため、塗布型有機EL素子の高性能化に向けた材料開発が加速されることが 期待されます。 今後、塗布により複数の有機ELユニットを積層した素子構造を形成することによ り、高輝度時の発光効率の低下抑制や長寿命化を実現し、塗布型有機ELの早期実用 化を目指します。 2 8 9 N N <谷口 彬雄 プログラムオフィサー(PO)コメント> 塗布型有機EL素子に低分子有機EL材料の使用を可能とし、材料選択の自由度を 大幅に広げ、印刷法でLED並の高効率白色有機ELパネル製造に道を開きました。 13 BCzTPh これにより、有機EL照明への展開が期待されます。 N N N <参考図> 14 bb a N N N N N N N N N N 1 2 N 3 5 4 アルコールによるリ ンス後の残膜率 S N N N 6 7 N N N N N N O N N N 8 9 N 10 N 11 N 12 N N N N N N N N N N N O N N N N N N N N N 13 a 15 16 17 8 17種類の低分子有機EL材料(カルバゾール系低分子有機EL材料) Figure 1 | Solvent resistance molecules arranged in order remaining thickness of the mo function of molecular weight. distribution function. b 120 電子注入層/陰極 アルミ ニウム 100 電子輸送層( BPOPB) ← アルコールで塗布 ← アルコールに不溶 発光層( 13:16:RGB発光材料) ホール輸送層 −1) Power efficiency (lm/W) 電力効率( lm W 図1 14 80 60 40 ホール注入層 20 ガラス基板/透明陽極 ITO 3 0 100 N N N N N N 13 BCzTPh 14 15 N 17 TCzBP 16 BCzTPA N a bb N N 13 BCzTPh 14 N N 7 N N N N 12 N O bb a S N N N 1 2 N 3 N N 6 7 N N N N N N O N N N N N N 8 9 10 11 12 N N N N N N N N N N N N 2-プロパノ ール 5 4 3 1-プロパノ ール N N N N エタノ ール N N 2 N N N N N N N 1 メ タノ ール アルコールによるリ ンス後の残膜率 アルコールによるリ ンス後の残膜率 N N N N O N N N 8 9 N N N N N N N 13 BCzTPh N N N N 14 N N N 17 16 17 bb 8 Figure 1 | Solvent resistance of molecular thin films. a, Molecular structures the hostresistance of m Figure 1of| Solvent 図2 図1の材料のアルコール類への溶解性 molecules in order i molecules arranged in order of increasing molecular weight. b, Plots of normalized Figure 1 | Solvent resistance ofarranged molecular thin of film Figure 1 | Solvent resistance of molecular thin film remaining thickness of the molecu remaining thickness of the molecular thin filmsFigure after rinsing with variety of alcohols as 1 | Solvent resistance of molecular thin film molecules arranged in function order of molecular increasing molecu of weight. The 1 | the Solvent resistance of thin film molecules arranged into order of molecular increasing molecu function of molecular weight. The solid lines Figure represent best fit the cumulative molecules arranged in order of increasing molecu remaining thickness of the molecular thin films afte distribution function. a b molecules arranged in order of increasing molecu remaining thickness of the molecular thin films afte 2 3 distribution function. 1 4 remaining 5 6 7 the molecular thin films afte b of function ofthickness molecular weight. The solid 120 remaining the molecular thinlines filmsrepre afte function ofthickness molecularofweight. The solid lines repre 120 function of function. molecular weight. The 60 solid lines repre distribution function of function. molecular weight. The solid lines repre 電子注入層/陰極 アルミ ニウム distribution distribution function. distribution function. 100 N N N N S N N N N N N N N N N N N N N O N 100 電子輸送層( BPOPB) 8 9 N 11 N 12 ← アルコールに不溶 アルコ ールに不溶 N N N N N N ホール輸送層 N N 60 N N N N ← アルコールで塗布 アルコ ールで 塗布 10 発光層( 13:16:RGB発光材料) 80 N O N N N N N N N −1) Power efficiency (lm/W) 電力効率( lm W N N N アルコールによるリ ンス後の残膜率 N Power efficiency 電力効率( lm (lm/W) W−1) 50 80 40 60 30 40 N 13 ホール注入層 14 15 16 17 8 20 20 Figure 1 | Solvent resistance ガラス基板/透明陽極 ITO molecules arranged in order remaining 0 thickness of the mo 20 function 100of10 molecular weight. 1 distribution function. a b 図3 発光層と電子輸送層の積層構造を用いて作製した、塗布型白色有機EL素子 40 120 0 100 0 電子注入層/陰極 アルミ ニウム 101 10 2 10 −2) Luminance ) 輝度( cd m(cd/m 電子輸送層( BPOPB) ← アルコールで塗布 発光層( 13:16:RGB発光材料) 4 ホール輸送層 ホール注入層 ← アルコールに不溶 3 100 2 −1) Power efficiency (lm/W) 電力効率( lm W ールに不溶 15分子量 14 a External quantum efficiency 外部量子効率( %) (%) ールで塗布 13 8 80 60 40 図4 素子の電力効率(lm W-1)と外部量子効率(%)、輝度(cd m-2) <用語解説> 注1)飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS) 固体表面に一次イオンを照射することにより、スパッタアウトされた二次イオンを 飛行時間型の質量分析器を用いて分析して、得られるスペクトルより試料表面の構造 解析を行う手法。 <論文タイトル> “ Solution-processed multilayer small-molecule light-emitting devices with high-efficiency white-light emission” (低分子材料の多積層塗布による白色有機EL素子の高効率化) doi:10.1038/ncomm6756 5 <お問い合わせ先> <研究に関すること> 城戸 淳二(キド ジュンジ) 山形大学 大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻 〒992-8510 山形県米沢市城南4-3-16 Tel:0238-26-3052 E-mail:[email protected] 教授 夫 勇進(プ ヨンジン) 山形大学 大学院理工学研究科 有機デバイス工学専攻 〒992-8510 山形県米沢市城南4-3-16 Tel:0238-26-3595 E-mail:[email protected] 准教授 <JSTの事業に関すること> 科学技術振興機構 産学連携展開部 S-イノベ・共創グループ 〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町 Tel:03-3238-7682 E-mail:[email protected] <広報担当> 科学技術振興機構 広報課 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 Tel:03-5214-8404 E-mail:[email protected] 山形大学 工学部 広報室 〒992-8510 山形県米沢市城南4-3-16 Tel:0238-26-3419 E-mail:[email protected] 6
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