道路橋 RC 床版の補修工法の耐久性に関する実験的 - 寒地土木研究所

論文
道路橋 RC 床版の補修工法の耐久性に関する実験的研究
An experimental Study on the durability of the repair method of construction of road bridge RC slab
○表 真也*
Shin-ya OMOTE
岡田 慎哉**
Shin-ya OKADA
松井 繁之***
Shigeyuki MATSUI
林川 俊郎****
Toshiro HAYASHIKAWA
ABSTRACT In cold snowy regions, there have been many cases of damage to
reinforced concrete (RC) slabs of road bridges, depending on the regional
environment.For repairing the subsided section, it is necessary to ensure adhesion
property between repair material and existing slab with removing deteriorated
parts around the hole completely in order to guarantee load carrying capacity and
fatigue durability after repairing.Focusing on unifying repair material and existing
slab, this study conducted wheel load running test to examine fatigue durability of
RC slabs whose subsidence had been repaired.
Keywords: 鉄筋コンクリート床版,陥没,部分補修,輪荷重走行試験
RC deck slab, subsidence, partial repair, frost damage, wheel running test
1. はじめに
積雪寒冷地における道路橋のコンクリート床
版(以下、RC 床版)は、車両走行による疲労のみ
ならず、凍害・塩害等が複合的に作用するため、
積雪寒冷地の床版は劣化や損傷が進展しやすい
環境下に曝されている。過去の調査でも、RC 床
版の陥没等の損傷事例が多数、報告されている 1)。
写真-1に示すような損傷事例は、橋梁の老朽
化が進むにつれますます増加することが容易に
予測され RC 床版に陥没などの損傷が生じた場合
には、その損傷が交通に直接影響し、場合によっ
ては事故等の要因になる可能性もあるため、早急
に補修を実施しなければならない。しかしながら、
補修箇所が早期に再劣化する事例も少なくなく、
合理的かつ耐久性の高い補修工法が望まれてい
る。
過去の研究により、RC 床版の損傷の補修にお
いては、損傷部周辺の脆弱化したコンクリートを
除去し補修コンクリートと既設床版を確実に一
体化することが、耐荷性や疲労耐久性を得るため
(a) 床版の砂利化
脆弱化した床版上面部分
(b) 床版の陥没
写真-1 床版の損傷状況
*修(工)土木研究所 寒地土木研究所 寒地構造チーム (〒062-8602 札幌市豊平区平岸 1-3-1-34)
**博(工)土木研究所 寒地土木研究所 寒地構造チーム (〒062-8602 札幌市豊平区平岸 1-3-1-34)
***工博 大阪工業大学八幡工学実験場構造実験センター(〒614-8289 京都府八幡市美濃山一ノ谷 4)
****工博 北海道大学大学院 工学研究院 (〒060-8628 札幌市北区北 13 条西) 第 2 種正会員
1/5
に重要であることが明らかとなっている 2)。
前述のような知見を基に、著者らは道路橋 RC
床版の合理的な部分補修工法 3)として、劣化コン
クリートを、ウォータジェット工法を用いて微細
なクラックが健全なコンクリートに内在しない
ように除去しつつくさび状に整形し、超速硬コン
クリートで補修する工法を提案している。しかし
ながら、提案の補修工法に関する補修部位の耐久
性については、未だ具体な検討を行っていない。
このようなことから、本検討では提案の補修工
法の耐久性を検討することを目的として、同工法
により補修を行った試験体に対して輪荷重走行
試験を実施し、その耐久性について検討した。
1500
25@50=1250
65
60
30
31
18
75
39
18
50
2@100=200
4@100=400
A
φ6
2@100=200
50
100
2@100=200
28
22
50
1
50
S
50
1000
4@100=400
50
φ6
50
2@100=200
50
28
22
60 65
30
31
2.輪荷重走行試験
積雪寒冷地における陥没部の部分補修工法の
適用に向けて、床版の劣化が最も進展する融雪期
(滞水)を想定して、補修部の耐荷性や疲労耐久
性の検証を行う。
2.1 試験体概要
図-1、写真-2には本試験に用いた試験体の概
要を、表-1には試験体に用いたコンクリートの
配合を、表-2には鉄筋の引張試験結果を示す。
試験体は、試験機の都合により実床版を約 1/3
程度に縮小したものであり、RC 床版の押し抜きせ
ん断耐力は 1/6 程度となる。試験体寸法は、幅
1,000×長さ 1,500×厚さ 75 mm とした。寸法を縮
小したことにより鉄筋間隔や被り厚が小さくな
φ6
図-1 試験体の概要
写真-2 陥没部の補修状況
表-1 コンクリートの配合設計
粗骨材
の最大
寸法
水セメント
スランプ
比
単位量(kg/m3)
空気量
水
セメント
細骨材
粗骨材
混和材
mm
cm
%
%
W
C
S
G
A
10
12
48.8
4.5
159
326
923
931
3.26
表-2
鉄筋の引張試験結果
鉄筋径
降伏点
引張強さ
伸び
mm
N/mm2
N/mm2
%
表-3 試験ケース一覧
試験体名
ND
φ6
337
467
39
RD
NW
RW
補修材
(超速硬 Co)
補修
状況
無補
修
部分
補修
無補
修
部分
補修
―
試験
条件
圧縮強度
(N/mm2)
弾性係数
(N/mm2)
36.2
30.9
39.9
32.3
42.1
29.6
38.8
32.3
40.3
21.9
乾燥
湿潤
―
2/5
写真-3 試験状況(湿潤条件)
50
載荷荷重(kN)
るため、コンクリートの骨材寸法も併せて縮小し、
最大 10 mm とした。
鉄筋は架設年度の古い床版の補修工法の検討
という観点から、丸鋼を用いることとした。その
配筋は、主筋、配力筋ともにφ6 とし、主筋は 50
mm 間隔、配力筋は 100mm 間隔で配筋している。
試験体の補修は、実橋床版において陥没が生じ
た場合の補修工法 3)を再現するため、陥没部の周
辺が脆弱化していることを想定し、陥没部周辺を
ウォータジェット工法で処理した後に、試験体と
同等の 10 mm の粗骨材を用いた超速硬コンクリー
トで補修した。なお、補修部の界面には接着剤な
どは使用していない。
補修範囲は試験体中央とし、試験上最も厳しい
条件を考慮して、試験体と補修部との打継部界面
にせん断力が作用するように輪荷重の荷重幅
(165 mm) よりも大きい範囲とした。また、補修
部の形状は、補修部の脱落防止を目的に床版上面
を 245×245 mm、下面を 225×225 mm の矩形状と
した。また、補修箇所の鉄筋は取り替えていない。
2.2 試験方法
表-3 には、本検討で実施した試験ケースの一
覧を示す。試験は、補修の有無のほか、乾燥・湿
潤条件をパラメータとして実施した。試験体名は
1 文字目に補修の有無(無:N、有:R)、2 文字目に
乾燥・湿潤条件(乾燥:D、水張:W)として表示し
ている。
試験体の乾燥・湿潤条件の差異は、積雪寒冷地
における融雪期を想定したものであり、補修部の
耐久性について、水の影響を確認するものである。
写真-3 には、湿潤条件における試験体上面の
状況を示す。
本試験の載荷荷重は補修部の疲労耐久性を効
率的に評価することを目的に、図-2 に示すよう
な階段状に荷重を載荷した。載荷荷重は 20kN か
ら開始し、1 万回毎に 5kN ずつ荷重を増加させる
漸増載荷とした。なお、試験時に試験体の損傷状
況を考慮した最大荷重を適宜定めており、本試験
においては試験体 ND で 35kN、その他の試験体で
は 30kN を最大荷重とした。輪荷重のタイヤ幅は
165mm、その走行範囲は 1,000mm である。
試験体の支持条件は、試験体を橋梁床版の一部
分として考慮し、床版の連続性を再現することを
目的に、走行方向の 2 辺(長辺)を単純支持、走行
直角方向の 2 辺を弾性支持としている。
40
30
20
10
0
0
1
2
3
走行回数(万回)
4
図-2 載荷プログラム
湿潤条件は、試験体上面に水を張ることで再現
した。その水張り範囲は、走行範囲全体と補修材
の施工 範囲を水没 させるため 1,300mm×450mm
とした。また、その水深は 2~3mm 程度としてい
る。
2.3 等価走行回数
本試験では漸増荷重載荷としたことから一定
荷重に換算した等価走行回数 4)により疲労耐久性
を評価する。このときの基準荷重 P は B 活荷重
100kN に衝撃係数と安全率を考慮した 150kN とし、
S-N 曲線の傾きの逆数 m には松井らが提案する
12.76(1/0.07835)4)を適用する。
m
Neq 
 Pi 
  P  ・ ni
(1)
ここに、
Neq:等価走行回数(回)
Pi :荷重(kN)
P :基本荷重(kN)( P =150 kN とする)
m :S-N 曲線の傾きの逆数(m = 12.76)
ni :荷重 Pi の走行回数(回)
3/5
表-4 試験体終局時の等価走行回数
等価走行回数(30kN)
試験
試験体条件
(回)
体名
ND
補修無し・乾燥
75,373
RD
補修有り・乾燥
103,033
NW
補修無し・水張
9,189
している。
図より、すべての試験ケースにおいて、載荷初
期には走行回数の増加とともに活荷重たわみも
急激に増加し、概ね 1~2mm 程度で一度安定する。
その後、走行回数の増加に応じて活荷重たわみも
微増してゆく傾向を示し、急激な変位の増加によ
6.0
ND (補修無,乾燥)
RD (補修有,乾燥)
NW(補修無,水張)
RW(補修有,水張)
5.0
活荷重たわみ(mm)
3.試験結果
3.1 輪荷重走行回数の比較
表-4 には試験体終局時の等価走行回数を、図
-3 には、各試験体の中央部の活荷重たわみと等
価走行回数(P=30kN)の関係を示す。なお、試験
は鉛直変位が急増した時点を終局と判断し、終了
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
RW
補修有り・水張
2
7,833
4
6
8
30kN等価走行回数(万回)
10
12
図-3 試験体中央の活荷重たわみと
等価走行回数の関係
1000
1000
表-5 試験終了後の試験体の損傷状況
試験体上面
試験体下面
ND
1500
RD
1000
1000
1500
1500
NW
1000
1000
1500
1500
1500
1000
1500
輪荷重走行範囲
補修範囲
異音発生範囲
1
2
RW
1
1000
北側
1500
砂利化範囲
剥落範囲
角落ち
写真の範囲 ―ひび割れ ―漏水
4/5
り終局に至っている。
ここで、補修の有無に着目し、試験体 ND と試
験体 RD についてみると、試験体 ND の等価走行回
数が 75,373 回、試験体 RD は 103,033 回であるこ
とから、補修を実施した試験体 RD がより耐久性
が高い評価となっている。試験体 ND と試験体 RD
ではその最大荷重が結果として異なったため、そ
の影響があることも考えられるが、補修後にも同
等の耐久性を有していると判断できる。
次に試験体 NW と試験体 RW についてみると、
試験体 NW の等価走行回数が 9,189 回、試験体 RW
は 7,833 回であることから、2 つの試験体はほぼ
同等の耐久性を有している評価となっている。
これらのことから、本試験においては、補修に
よる耐久性への影響は見られず、本補修工法は耐
久性には問題がないものと判断される。さらに、
乾燥状態、湿潤状態それぞれにおいて補修の有無
による差異がほとんどない事から、本補修工法は
湿潤状態による影響も補修を行っていない床版
と同様であることが明らかとなった。
3.2 試験終了後の試験体の損傷状況
表-5 には、試験終了後の試験体の損傷状況を
一覧にして示す。表より、試験体上面の損傷状況
に着目すると、すべての試験体で荷重載荷位置近
傍に砂利化が確認できる。また、その発生範囲に
ついても、それぞれの条件による明瞭な差異は見
られない。
補修を有する試験体においては、その補修材料
にも砂利化が生じており、既設コンクリートと補
修材料との耐久性の明確な差異はないものと考
えられる。また、既設コンクリートと補修材料と
の分離の傾向は見られず、両者は良好に付着して
いるものと判断される。
次に、試験体下面の損傷状況に着目すると、す
べての試験体において、押し抜きせん断破壊の傾
向が見られる。本試験においては、終局は押し抜
きせん断破壊によるたわみの増大と考えられる。
さらに、補修を有する試験体に着目すると、補
修材と既設コンクリートに連続するひび割れが
確認できるとともに、補修材と既設コンクリート
の分離は確認できない。これより、補修材と既設
コンクリートとは良好に付着しているものと判
断される。
4. まとめ
本検討は、RC 床版の補修工法の耐久性を検討す
ることを目的として、床版の補修を模擬した試験
体に対して輪荷重走行試験を実施し、その耐久性
について検討を行ったものである。結果をまとめ
ると以下のようである。
1) 補修の有無による耐久性への影響はわずか
と考えられ、補修工法の耐久性には問題がな
いと判断される。
2) 乾燥・湿潤状態の差異が耐久性に与える影響
について、補修の有無にかかわらず、通常の
床版と同様であり、その耐久性は 1/10 程度
に低下する。
3) 損傷状態から補修材と既設コンクリートの
分離は確認できなかった。これより、補修材
と既設コンクリートとは良好に付着してい
ると判断される。
今後は、本検討では考慮していない凍害等の影
響を検討し、本補修工法の寒冷地における耐久性
について検討を深める予定である。
【参考文献】
1) 三田村浩、佐藤京、本田幸一、松井繁之:道
路橋鉄筋コンクリート床版上面の凍害劣化と
疲労寿命への影響,構造工学論文集,
Vol.55A,pp.1420-1431,2009.
2) 三田村浩、佐藤京、西弘明、渡辺忠朋:積雪
寒冷地における既設鉄筋コンクリート床版の
延命手法について,構造工学論文集,
Vol.56A,pp.1239-1248,2010.
3) 北海道土木技術会 鋼道路橋研究委員会:北
海道における鋼道路橋の設計および施工指針,
第 2 編,維持管理編 11 章,pp.59-62,2012.
4) 松井繁之:道路橋床版 設計・施工と維持管理,
森北出版株式会社,pp.47-61,2007.
5/5