全地連「技術フォーラム2014」秋田 【55】 急傾斜地での湧水対策の調査・検討事例 (株)ソイル・ブレーン 1. はじめに ○石黒 創 三宅 雅生 渡辺 一 この湧水の原因としては,以下の2通りが考えられた。 急傾斜地指定区域内の斜面内で豪雨時に多量の湧水が あり,住宅地内での浸水被害や斜面の安定性等が問題と ①既設暗渠管(HP600)からの漏水によるもの ②後背斜面からの流動地下水によるもの なっていた。湧水の原因として,当初は既設暗渠管から の漏水が考えられたが,ボーリング調査や既設暗渠管内 3. 湧水対策調査 での管内カメラ調査,地中音探査による水みち調査等を 湧水の原因を確認するため,以下の調査を行った。 行った結果,後背斜面からの流動地下水によるものであ ①ボーリング等調査及び地下水位観測 ることが判明した。湧水対策工は,水みちを考慮した恒 ②既設暗渠管調査 久排水補強パイプ(以下,PDR工法)及び暗渠工による地下 ③地中音探査 (1) ボーリング等調査及び地下水位観測 水排除工を採用した。 以下では,上記湧水対策の調査・検討事例について報 ボーリング調査及びサウンディング試験結果から,基 盤岩(泥質片岩)の上位には,平均 N 値5程度のルーズな谷 告する。 底堆積物が層厚約2~7m で覆っていることがわかった。 2. 調査地の概要 また,自記水位観測結果から,斜面内には常時地下水が (1) 地形・地質概要 存在すること,豪雨時(4日連続雨量124mm:日雨量最大 調査地は,図-1に示すように,標高約350m程度の小起 伏山地の谷筋(標高約50~65m)にある。 108.5mm)には Bor.No.1地点で約0.7m の地下水位上昇が あり,湧水地点高よりも水位が高くなることがわかった。 5 80 流紋岩質凝灰岩 崖錐堆積物 70 65 MR-1 L=9.69m 65 70 65 75 0) M R. 1 3 . 8 0 m m G H= 6 = 9 . 6 9 dep 0 既設集水枡 MR-2 60 谷底堆積物 L=6.80m 泥質片岩 80 Bor.No.1 L=5m 自記水位計設置 集 影) P6 0 管(H 暗渠 度不明 設 既 ・深 位置 75 堰堤 既設 (投 水枡 ? 10 NWL 谷底堆積物 MR.2 .97 m m No.1 8 B o r. 2. 5 2 m m G H = 5 = 6 . 80 GH=5 = 5.00 置 dep dep 水位計設 自記 K -1 . 5 9 m m 1 谷底堆積物 G H= 5 = 2 . 7 0 砂質土~礫質土 dep 湧水箇所 平均N値=5 (GH=51.41m) 換算N値 20 14.0 11.0 12.0 3.0 3.5 2.5 3.0 5.5 HWL Bor:ボーリング調査 MR :小型動的コーン貫入試験 K :簡易動的コーン貫入試験 HWL:最高水位 NWL:自然水位 30 40 50 15.0 14.5 13.5 10.0 8.0 22.5 9.0 5.0 4.0 3.0 3.0 2.5 2.5 3.0 3.0 3.0 3.0 3.5 3.0 3.0 3.0 2.5 3.0 2.5 3.0 2.5 3.0 2.5 2.5 2.0 2.0 2.0 2.5 2.5 3.0 2.5 2.5 2.5 2.0 6.5 55 換算N値 50 111.1 40 30 20 10 0 3.5 6.5 7.0 6.5 7.5 9.0 6. 0 3.0 2.0 1.5 1.0 4.5 3.5 3.0 2.0 4.0 5.0 3.0 2.5 2.5 3.5 3.0 4.0 3.0 3.0 3.0 2.5 3.5 2.5 2.5 6. 0 10.5 8.5 50 40 100 80 N値 30 20 RQD 60 40 10 0 20 0 50.0 泥質片岩 湧水箇所 (CM級) 0 10 0.0 1.0 1.0 2.5 1.5 1.5 2/40 20 30 40 50 5.0 5.0 1.0 1.0 1.5 2.08.0 0m 10m 20m 30m 0m 5m 4. 0 1.5 75.0 5 K-1 L=2.7m 1:0. 埋戻 し土 17.5 22.0 12.0 15.0 (砕石) 13.0 CM 60 換算N値 埋戻 し土 1.5 1.5 1.5 (現状土 ) 2.0 2.59.0 1/10 10m 図-2 地層断面図 55 図-1 調査地平面図 調査地周辺の基盤岩は,中生代トリアス紀の泥質片岩 (2) 既設暗渠管調査 あるいは中生代白亜紀の流紋岩質凝灰岩からなり,調査 図-1及び図-2に示す既設集 地はその境界付近にあたる。これら基盤岩上には新生代 水枡地点から既設暗渠管 第四紀の未固結堆積物(谷底堆積物・崖錐堆積物)が不規 (HP600) に 電 磁 波 発 信 器 付 き 則に覆っている。 の管内カメラを挿入し,管内 (2) 湧水状況と湧水の原因 の損傷状況の確認及び管路位 調査地では常時,法尻に 置・深度の確認を行った。 ある重力式擁壁の水抜き その結果,既設暗渠管は図 孔からの湧水があり,豪雨 -4及び図-5に示す位置・深度 時 に は 斜 面 内 か ら で確認され,管内には湧水量 300L/min 以上の湧水が確 に匹敵するような顕著な損傷 認 さ れ て い る ( 写 真 -1 参 照)。 写真-1 豪雨時の湧水状況 (赤白ポール位置が湧水点) は確認されなかった。 受信機 ( ケーブル・ロケーター ) 地上 電磁波 発信器 地中 カメラ 管路 図-3 暗渠管調査の概要 全地連「技術フォーラム2014」秋田 既設集水枡 60 谷底堆積物 65 1-1 段 中 55 段 起点側 片岩 中間枡 55 下 段 湧水箇所 終点側 60 0m 55 既設暗渠管(HP600) 60 谷底堆積物 60.00 中間枡 段 中間枡 55 ⇒ 上 既設暗渠管 (HP600) ⇒ ⇒ HP600 終点枡 45.00 ? 片岩 下 終点側 DL=40.00 30.00 40.00 50.00 1-7 1-8 1-9 100 80 60 40 20 0 起点側 1-10 1-11 終点側 N 3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 中段測線 3-6 3-7 3-8 終点側 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 下段測線 2-7 終点側 N 100 80 60 40 20 0 起点側 N 1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 1-7 上段測線 1-8 1-9 1-10 1-11 終点側 段 湧水箇所 20.00 1-6 起点側 湧水箇所(投影) H=51.41m 10.00 1-5 崖錐堆積物 HP600 0.00 1-4 N 音圧(W/m2) (m) 起点枡 65.00 50.00 1-3 図-7 湧水調査結果(少雨後) 図-4 既設暗渠管の平面位置 55.00 1-2 上段測線 凡例 ○ : 地中音探査実施箇所 : 地下流水音確認範囲 グラフ内記号 ● : 地下流水音確認箇所 : 主要な流水方向 ↓ : やや強い地下流水音 N : ノイズ混入 ◎ : やや強い地下流水音の確認箇所 終点枡 10m 20m 30m 10m 100 80 60 40 20 0 起点側 音圧(W/m2) 65 上 中間枡 0m 100 80 60 40 20 0 起点側 音圧(W/m2) 70 既設暗渠管 (HP600) 6 0 湧水箇所 崖錐堆積物 60.00 70.00 80.00 90.00 (m) 図-5 既設暗渠管の縦断位置 (3) 地中音探査 上記の地下水位観測結果や既設暗渠管調査結果から, 0m 10m 凡例 ○ : 地中音探査実施箇所 ◎ : ● : 地下流水音確認箇所 : : 地下流水音確認範囲 : ⇒ 斜面内での水みちを把握するため,地中音探査を実施し 2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 下段測線 2-6 2-7 終点側 強い地下流水音の確認箇所 グラフ内記号 強い地下流水音の確認範囲 ↓ : 強い地下流水音 (ハッチング部) N : ノイズ混入 主要な流水方向 図-8 湧水調査結果(豪雨後) 調査地での湧水は既設暗渠管からの漏水ではなく,後背 斜面からの流動地下水によるものと判断した。そこで, 100 80 60 40 20 0 起点側 音圧(W/m2) 堰堤 75 既設暗渠管(HP600) 音圧(W/m2) 70 65 4. 湧水対策工 湧水対策工は,横ボーリング工や集水井工,暗渠工等 た。地中音探査は,地下 の地下水排除工について比較検討を行った。その結果, の不飽和地盤に地下水が 施工性や経済性,用地上の制約等から PDR 工法(L=5.4m, 流入すると,間隙水と空 1.5m ピッチで2段配置)と暗渠工(重力式擁壁背面に設 気が交換され,地下流水 置)の併用工とした。 音(ポコポコといった気 5. おわりに 泡の破裂する音)が生じ 今回行った湧水対策の調査・検討では,地中音探査を ることを利用し,地下流 2 水音及びその音圧(W/m ) 追加実施したことで斜面内での面的な水みちを捉えるこ を測定して水みちを特定 とができ,より効果的な対策工の検討が行えたものと考 1) する探査方法 である (図-6参照) 。 図-6 地中音探査の測定原理2) える。今後は,施工時に,想定した水みちの検証を行い たいと考えている。 今回の調査では,少雨後(2日間連続雨量20mm:日雨量 なお,今回の地中音探査の解析にあたっては,(株)拓 最大17mm)と豪雨後(4日間連続雨量123.5mm:日雨量最大 和広島支店の大野氏,岡田氏にご助言をいただいた。こ 65mm)の概略の水みちを把握するため,斜面内に測線を2 こに記して謝意を表する。 1)3) ~3本設け,5m 間隔(詳細調査では1~2m 間隔 )で地中 音探査を実施した。探査結果を図-7及び図-8に示す。こ 《引用・参考文献》 1)多田泰之他:地中水みちと崩壊発生位置の関連性,砂 れらの図から,斜面内には常時谷筋内での西から東方向 防学会誌,Vol.60,No.4,pp.3-11,2007. への水みちがあること,豪雨時には西側斜面内において 2)(株)拓和:地中音測定装置 GAS-03カタログ. 湧水の原因である地中音の強い水みちが幅広く分布す 3)多田泰之:地下流水音による山腹斜面の水みち経路分 ること,また,豪雨時には北側斜面(崖錐堆積物)からの 布の推定精度, 平成18年度砂防学会研究発表会概要 水みちもあることがわかる。 集,pp.148-149,2006.
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