酸化還元反応におけるペルオキソおよびオキソ活性種の単離 区 - 九州大学

(様式2)
氏
名
:菊永
孝裕
論文題名
:酸化還元反応におけるペルオキソおよびオキソ活性種の単離
区
:甲
分
論
文
内
容
の
要
旨
酸素分子が関与する酸化還元反応は、環境調和型の社会を構築する上で重要な反応である。自然
界では、様々な金属酵素が、酸素分子関与型の酸化還元反応を触媒する。この反応において、酸素
原子同士の結合を有するペルオキソ種、1 つの酸素原子を有するオキソ種が重要な中間体として提
唱されている。様々な金属酵素が行う酸化還元反応を、人工系において効率的に行うためには、鍵
と成る中間体であるペルオキソ種およびオキソ活性種の性質を解明することが重要であると考えら
れる。
本章では、酸化反応におけるペルオキソ種やオキソ種、および酸素分子還元反応におけるペルオ
キソ種を単離し、これら活性種の構造と反応性を明確にした。以下に、各章の概要を述べる (図 1)。
第 2 章では、一原子酸素添加反応であるエポキシ化反応を触媒する Mn サレン錯体と、その中心
金属の酸化数に着目した。従来研究されてきた MnIII サレン触媒とは異なる、高原子価 MnIV サレン
触媒を合成し、酸化剤である m-CPBA を用いて触媒能を調べた。MnIV アシルペルオキソ種が活性種
であることを、エレクトロスプレーイオン化質量分析法 (ESI-MS) と共鳴ラマン分光法により明ら
かにした。また、単離した MnIV アシルペルオキソ種と基質との反応性も明らかにした。ESI-MS に
よって、MnIV アシルペルオキソ種が、基質であるスチレンに酸素原子を供与していることを確認し、
共鳴ラマン分光法によって、MnIV アシルペルオキソ種の O–O 結合の性質を確認した。観測された
O–O 結合の伸縮振動は、活性種がペルオキソ種であることを支持している。本研究の結果は、一原
子酸素添加反応において、MnIV アシルペルオキソ活性種を単離した初めての例である。
第 3 章では、H2O2 を酸化剤として用いることで、2 種類の高原子価 MnV オキソ錯体を合成し、そ
の生成挙動、構造、酸化能力を調べた。MnV オキソ種の生成挙動は UV-vis 分光法により追跡し、
MnV オキソ種の構造は X 線結晶構造解析で明らかにした。18O でラベル化された H218O2 を用いるこ
とで、H2O2 由来の酸素原子が MnV オキソ錯体に取り込まれていることを ESI-MS によって確認した。
MnV オキソ種の酸化能力は、基質である 3,5-di-tert-butyl-catechol (DTBC) を用いて評価した。酸化
反応の過程において、配位子の置換基効果は観測できなかったが、H2O2 による MnV オキソ種の生
成挙動、およびオキソ種と水分子との交換反応において、明確な置換基効果が確認できた。本研究
の結果は、H2O2 を用いた酸化反応における単核非ヘム MnV オキソ活性種の初めての単離例であり、
環境調和型の酸化剤である H2O2 を用いた酸化反応の研究に新たな知見を与えると期待できる。
第 4 章では、水素分子を電子源とする酸素分子の還元反応、特に、酸素分子の還元による過酸化
水素の生成に着目した。新規 Rh 錯体を用いることで、常温・常圧の温和な条件下において、水素
分子と酸素分子への電子伝達、およびペルオキソ活性種の生成が起きることを明らかにした。酸素
分子還元反応における重要な中間体である、新規 RhIII ペルオキソ錯体を単離することに成功し、X
線結晶構造解析、ラマン分光法、UV-vis 分光法によって構造と反応性を明らかにした。本研究の結
果は、過酸化水素直接合成においてペルオキソ種を単離した初めての例であり、Rh 錯体に含まれる
配位子を設計し直すことで、今回提示したシステムの更なる最適化が期待できる。
以上、本論文では、酸化反応を示す MnIV アシルペルオキソ種 (第 2 章)と MnV オキソ種 (第 3 章)、
および酸素分子還元反応における RhIII ペルオキソ種 (第 4 章)を単離し、これら活性種の構造および
反応性を明らかにすることに成功した。Mn ペルオキソ、およびオキソ種から得られた結果は、人
工系における酸化反応の改良のみではなく、光化学系 II などの、Mn を活性中心に含む金属酵素の
反応メカニズムの解明にも貢献しうると考えられる。また、Rh ペルオキソ種から得られた結果は、
過酸化水素合成に有用な触媒の開発だけではなく、水素分子と酸素分子の反応からエネルギーを取
り出す燃料電池の電極触媒の開発にも貢献すると考えられる。このように、本論文で得られた成果
が、同様な活性種を経由する、様々な酸化還元反応の研究にも貢献していくことを期待する。
図1
酸化反応における MnIV アシルペルオキソ種 (第 2 章) と MnV オキソ種の単離 (第 3 章)、およ
び酸素分子還元反応における RhIII ペルオキソ種の単離 (第 4 章).
〔作成要領〕
1.用紙はA4判上質紙を使用すること。
2.原則として,文字サイズ10.5ポイントとする。
3.左右2センチ,上下2.5センチ程度をあけ,ページ数は記入しないこと。
4.要旨は2,000字程度にまとめること。
(英文の場合は,2ページ以内にまとめること。)
5.図表・図式等は随意に使用のこと。
6.ワープロ浄書すること(手書きする場合は楷書体)。
この様式で提出された書類は,「九州大学博士学位論文内容の要旨及び審査結果の要旨」
の原稿として写真印刷するので,鮮明な原稿をクリップ止めで提出すること。