PP の精密熱分解生成物を用いた PP アイオノマーの合成と物性

PP の精密熱分解生成物を用いた PP アイオノマーの合成と物性
Synthesis and Properties of PP Ionomer using Product obtained by
Precise Thermal Degradation of PP
○正 佐々木
大輔・鈴木
義弘(三栄興業) 日下部 健憲・星 徹・萩原 俊紀・ 正 澤口 孝志(日大理工)
Daisuke Sasaki, Yoshihiro Suzuki (San-ei Kogyo Corp.)
Takenori Kusakabe, Toru Hoshi, Toshiki Hagiwara, Takashi Sawaguchi (Nihon Univ.)
Synthesis and property ionomer which introduced little ionic group into hydrophobic polymer have
been studied from 1950s. It is known for ionomer that ion aggregate consist of ionic group in
hydrophobic matrix shows unique character. For example, ionic aggregate acts as a pseudo
cross-link, improvement of physical property and new functionality may be shown by counter ion
(metal and organic ions) to neutralize. We showed clearly that that oligomer which has a double
bond at one or both ends of a molecule can be efficiently obtained by precise thermal degradation
of commercial vinyl polymer. In this study, synthesis and property of PP ionomer by ATRP using
PP macroinitiator are reported. Three PP ionomers of different melting point were synthesized, and
properties were shown by DSC and DMA. The behavior of ionic aggregate observed at PE ionomer
was observed also at PP ionomer.
Key Words: PP, Ionomer, Precise Thermal Degradation, ATRP, Triblock Copolymer
1.はじめに
疎水性高分子に少量のイオン基を導入したアイオノマー
(1)
は 1950 年代から合成とその物性の研究が行われてきた 。
当時は主にエラストマーにカルボン酸塩などを導入し、一
種の架橋効果や接着性の付与などを目的として検討されて
いた。一方、1964 年に市販されたエチレン系アイオノマー
(2)
は成形性や熱接着性に優れており、食品包装材料に利用
され、現在最も生産量の多いアイオノマーとなった。また、
(3)
フッ素系アイオノマー のイオン基は強酸であり、イオン
分離膜などとして利用されている。スチレン系アイオノマ
(4)
ー は主に研究用として用いられてきたが、最近ではイオ
ン分離膜や非帯電性素材として利用されてきている。
このようなアイオノマーは疎水性マトリックス中でイオ
ン基が形成するイオン凝集体が特異な性質を示すことが知
(5)
られている 。例えば、擬似架橋点として作用し、物理特
性を向上させたり、中和する対イオン(金属イオンや有機
イオン)によって新機能を発現させたりすることがある。
しかしながら、これらの機能性発現については未解明な点
が未だに多く残されている。これは疎水性高分子中に含ま
れるイオン基が少量であることや、分子構造が制御されて
いないために、定量的な分析を困難としている。最近では、
非環状ジエンメタセシス重合を利用した等間隔にカルボン
酸を有するポリエチレンが合成され、アイオノマーとして
(6)
物性評価が試みられている 。
我々は汎用ビニル系ポリマーの精密熱分解により、分子
鎖の片末端もしくは両末端に二重結合を有する末端反応性
オリゴマー(ポリマー)を効率よく得られることを明らか
にした。市販アタクチックポリスチレンから、スチレンダ
(7)
イマー及びトリマーを選択的に合成できること 、市販イ
ソタクチックポリプロピレン(iPP)から非揮発成分として
両末端二重結合イソタクチックポリプロピレン(iPP-TVD)
及び揮発成分として片末端反応性アタクチックオリゴプロ
(8)
ピレンの合成を明らかにした 。さらに、末端二重結合の
官能基変換と逐次重合やリビングラジカル重合などの重合
法によるトリブロックまたはマルチブロック共重合体の合
(9)
成を報告してきた 。
本報告においては、iPP の精密熱分解により得られた
iPP-TVD を原料としたマクロ開始剤を用いて、ATRP を利
用した PP アイオノマーの合成とその物性を報告する。
2.実験(Fig 1)
2.1.精密熱分解
融点の異なる 3 種類の市販 PP(iPP;Tm=160℃、 高融点
ランダム PP;rPPM;Tm=140℃、低融点ランダム PP;rPPT;
Tm=110℃)を原料として精密熱分解を行い、それぞれ対応
する PP-TVD を調製した。
2.2.ATRP のマクロ開始剤の合成
PP-TVD のヒドロキシル化により得られた両末端ヒドロ
キシル化 PP(PP-OH)と 2-ブロモイソ酪酸ブロミドとのエ
ステル化により両末端に臭素基を導入した PP(PP-Br)を合
成し、ATRP のマクロ開始剤として用いた。
2.3.ATRP アイオノマーの合成
PP-Br をマクロ開始剤とし、CuBr/PMDETA 触媒系にて
o-キシレン 中で t-ブチ ルアクリル 酸の ATRP を 行い、
PP-PtBA ト リ ブ ロ ッ ク 共 重 合 体 (Mn; PtBA-iPP-PtBA=
4.6k-23k-4.6k)を得た。PP-PtBA の PtBA ブロックをトリフ
ルオロ酢酸を触媒として酸分解し、PP-PAA トリブロック
共重合体(Mn; PAA-iPP-PAA=2.5k-23k-2.5k)を合成した。
PP-PAA を所定量の NaOH で中和することで PP アイオノ
マーである PP-PAA/Na を得た。AA に対して 60mol%及び
100mol% の NaOH で 中 和 し た iPP-PAA/0.6Na 及 び
PP-PAA/1.0Na を調製した。物性評価はアイオノマーを
200℃で熱プレスして得られたプレスフィルムを用いた。
Controlled
thermal
degradation
m
n
commercial PP
PP-TVD
Hydroxylation
Esterification
O
Br
O
O
n+2
Br
O
PP-Br
ATRP
Hydrolysis
Neutralization
O
Br
m
Na+O-
O
O
O
O
n+2
Br
m
-
O Na
O
PP-PAA/Na
+
Fig 1. Synthesis of PP ionomer by ATRP initiated from
PP macroinitiator.
3.結果及び考察
Fig 2 に共重合体合成からアイオノマー化までの IR スペ
クトルの一例として、iPP-PtBA、iPP-PAA 及び異なる中和
度の iPP-PAA/Na の IR スペクトルを示す。iPP-PtBA のス
-1
ペクトルにおける 1735cm の吸収は PtBA ブロックのエス
テル結合に由来し、PtBA ブロックの t-ブトキシ基及び t-1
ブチル基の吸収が 1260 及び 1130cm に観測された。
-1
iPP-PAA においては、1710cm のブロードな吸収が出現し、
これはカルボン酸に由来する。iPP-PAA/Na では中和度が
-1
高くなるにつれて 1735cm のカルボン酸の吸収が減少し、
-1
カルボキシルイオンに由来する 1575 及び 1410cm の吸収
が高くなった。
iPP-PtBA
Fig 4 に異なる融点の PP を原料とした PP-PAA/1.0Na の
DMA 曲線を示す。測定は熱プレスしてから一定期間経過後
に行った。E’は Tg に依存して全ての試料において 0℃付近
から低下し、Tm 付近で著しく低下した。最も融点が低い
rPPT-PAA/Na においては Tm 付近の 110℃で溶融破断した
が、他の rPPM-PAA/Na 及び iPP-PAA/Na においては溶融
破断せずにそれぞれの Tm である 140℃及び 160℃以降に
プラトー領域が出現し、約 300℃で溶融破断した。これは
高中和度による溶融粘度の増加が一つの原因と考えられる。
また、tanδにおいては、Tg に由来する 0℃付近のピーク
が観測され、低 Tm の試料の方が大きく観測された。さら
に 70℃付近にピークが観測され、これは高 Tm の試料の方
が大きい傾向であった。これらの関係はまだ明らかではな
いが、DSC のイオン凝集体の融解の温度範囲とほぼ一致す
ることから、イオン凝集体の融解に関係するものと考えら
れる。
iPP-PAA
iPP-PAA/1.0Na 1month
rPPM-PAA/1.0Na 1month
rPPT-PAA/1.0Na 1week
1010
109
iPP-PAA-0.6Na
0.4
108
3200
2400
1800
1400
wavenumber [cm-1]
1000
600
Fig 2. IR spectra of iPP-PtBA, iPP-PAA and
iPP-PAA/Na.
Heat Flow (←
←Endothermo)
1st
2nd
iPP-PAA
iPP-PAA-0.6Na
iPP-PAA-1.0Na
0
100
50
Temperature [℃]
150
0.2
106
0.1
105
Fig 3 に iPP-PAA 及び中和度の異なる iPP-PAA/Na の
DSC 曲線を示す。200℃で熱プレスしてから 4 週間後に測
定を行った。160℃付近における吸熱ピークは iPP の結晶
融解に由来する。中和度が高くなるにつれて、1st heating
run における 100℃付近のブロードなピークが大きくなっ
た。吸熱ピーク全体のエンタルピーは iPP-PAA;150J/g、
iPP-PAA/0.6Na;268J/g 及び iPP-PAA/1.0Na;428J/g であり、
2nd heating run では全て 100J/g 程度であった。その後、1
ヶ月程度で同程度の吸熱ピークが観測された。これはエチ
レン系アイオノマーなどにて観測されているイオン凝集体
の融解に相当するピークと考えられる。
-50
E´ [Pa]
4000
0.3
107
200
Fig 3. DSC curves of iPP-PAA and iPP-PAA/Na for 4
week after molding.
tanδ [-]
iPP-PAA-1.0Na
0.0
104
-100
0
100
200
Temperature [℃]
300
Fig 4. DMA curves of iPP-PAA and iPP-PAA/Na for 4
week after molding.
4.結論と今後の課題
融点の異なる市販 PP を原料とした PP アイオノマーを
調製し、その物性を明らかにした。PE 系アイオノマーに
て観測されていたイオン凝集体の融解に相当する挙動が
PP アイオノマーにおいても観測された。このような構造
の制御されたアイオノマーにおけるイオン凝集体に由来す
ると考えられる熱特性に関する報告は少なく、今後、分子
構造の異なるポリオレフィンを用いたアイオノマーを合成
し、その物性を調査することでイオン結晶と物性との関係
を明らかにできるものと期待している。
5.引用文献
(1) H. P. Brown, et al., Rubber Chem. Tech., 30,
1347(1957); (2) R. W. Rees, et al., ACS Polymer
Preprints, 6, 287(1965); (3) A. Eisenberg, et al., ACS
Symposium Series, 180, 2(1982); (4) A. Eisenberg,
et al., J. Polym. Sci. B, 10, 537(1972); (5) R.
Longworth, et al., Nature, 218, 85(1968); (6) Lisa M.
Hall, et al., JACS, 134, 574(2012); (7) Takashi
Sawaguchi, et al., J. Polym. Sci. A Polym. Chem., 36,
209(1998); (8) Takashi Sawaguchi, et al.,
Macromolecules, 28, 7973(1995); (9) Toshiki
Hagiwara, et al., Macromolecules, 38, 10373(2005);
Daisuke Sasaki, et al., Polymer, 49, 4094(2008)