印刷インキの流動挙動解析手法の適用 - 大日本印刷

動物血液のレオロジーと凝固挙動
-印刷インキの流動挙動解析手法の適用-
(株)DNPファインケミカル ○篠﨑俊介、山口はるな、有富充利
芝浦工業大学 渡邉宣夫
東京医科歯科大学 大内克洋
Rheology and Coagulation Behavior of the Animal Blood.
○S. Shinozaki, H. Yamaguchi, M. Aritomi, N. Watanabe* and K. Ohuchi**
DNP Fine Chemicals Co., Ltd., *Shibaura Institute of Technology
and **Tokyo Medical and Dental University
ABSTRACT: On the basis of the flow behavioral
analysis of inks, we have analyzed the coagulation
behavior of the porcine blood. As the coagulation
ability as represented by Activated Clotting Time,
the storage elastic modulus has played a main role
in Na citrate/Ca control system, on the other hand,
both the loss elastic modulus and the storage elastic
modulus have played a great role in Heparin Na
control system. Our ink evaluation technique may
be applicable into the blood coagulation test.
1.緒言
印刷や塗工に用いられるインキは,固体成分
である顔料や合成ポリマー及び液体成分であ
る溶剤から成り,これらの材料設計および分散
技術に基づいて凝集や沈降を防止し,流動性を
制御したインキの設計がなされている.その流
動性評価としてレオロジー解析を行い,多種多
様なインキの特性や印刷時の挙動に対し,以下
の式(1)の流動特性式を用いた流動挙動解析
手法を提案した1).
2.実験
① クエン酸ナトリウム/塩化カルシウム凝
固制御系の検討
抗凝固剤(クエン酸ナトリウム水溶液)入り
の豚血液(東京芝浦臓器社)を用いた.凝固剤
として0.25M塩化カルシウム水溶液を用い
た.凝固剤添加量の異なる豚血液を作製し,A
CT(HEMOCHRON401:ITC社)
を測定した.レオロジー測定にはレオメータ
(AR-G2:TA Instruments
社)を用い,定常流測定,動的歪み依存測定,
動的時間依存測定を行った.ACTと凝固剤添
加量の関係を図1に示す.
(1)
1200
ACT/sec
F∝Sm×Vn×Ep
本検討は、血液の凝固能検査手法として一般
的である活性化全血凝固時間(ACT)との相
関解析を行うことで、凝固機構をレオロジーか
ら解明し、さらに新規な凝固能評価手法として
の本手法の可能性を見出すことを目的として
行った。
F:インキ特性値
S:降伏項,V:粘性項,E:弾性項
m+n+p=1
※m,n,pは各項の寄与率を示す.
一方血液は血球成分と血小板,血漿成分に大
別される不均一な流体である.過去に血液の流
動特性と体の機能・疾患の相関関係を明らかに
する試みがなされて来てはいるが2),関係す
る多くのレオロジーパラメータを系統的にま
とめ、相関関係を明らかにした例はない。そこ
で本手法を適用することにより,従来とは異な
った視点から血液の流動特性と機能との相関
解析を試みた.
800
2
R = 0.9376
400
0
0.007
0.011
0.25M CaCl2aq
in 1ml blood /ml
0.015
Fig. 1 Relationship between the ACT and the quantities of
addition of 0.25M CaCl 2aq to the 1ml blood.
②
ヘパリンナトリウム凝固制御系の検討
実験動物である豚より鮮血を採取した.抗凝
固剤としてヘパリンナトリウム注射液(5,0
00単位/5ml)を用いた.抗凝固剤添加量
の異なる豚血液を作製し,ACTを測定した.
ACTと抗凝固剤添加量の関係を図2に示す.
a)
R2 = 0.8592
300
1
2
3
4
c)
Heparin Na 5,000units/5ml
in 1ml blood /ml
3.結果と考察
① クエン酸ナトリウム/塩化カルシウム凝
固制御系の検討
ACTとレオロジーパラメータの相関を調
査した中で,降伏項・粘性項・弾性項の代表的
な結果を図3に示す.粘性項と弾性項との相関
が高かった.
R = 0.3205
800
400
0
0.00
1200
ACT/sec
b)
1200
ACT/sec
ACT/sec
2
0.06
0.12
S=σ0 /Pa
2
R = 0.7760
800
400
0
0.06
0.12
0.18
V=G”/Pa
R 2 = 0.8594
800
400
0
Fig.3 Relationship between
the ACT and the rheological
parameters. a) Yield term. b)
0.06
0.12
0.18
Viscous term. c) Elastic term
E=G'/Pa
in Experiment ①.
さらに各項それぞれの寄与率(m,n,p)
の最適値を求めた結果,以下に示す式(2)が
導き出された.降伏項と粘性項の寄与はほとん
ど無く,弾性項が支配的であることが判明した.
F∝S0.0×V0.0×E1.0
②
(2)
ヘパリンナトリウム凝固制御系の検討
ACTとレオロジーパラメータの相関を調
査した中で,降伏項・粘性項・弾性項の代表的
な結果を図4に示す.粘性項と弾性項との相関
が高かった.
各項それぞれの寄与率(m,n,p)の最適
値を求めた結果,以下に示す式(3)が導き出
された.降伏項の寄与はほとんど無く,粘性項
と弾性項が支配的であることが判明した.
以上の結果,実験①と②は,ACTとレオロ
ジーパラメータの関係だけでは一見すると類
似の相関を示しているが,全く異なる結果が導
き出された.この結果は両者の凝固機構の違い
b)
700
0.08 0.16
S=σ0/Pa
R 2 = 0.6020
500
300
100
0.02
0.08
0.14
V=G''/Pa
R2 = 0.9773
700
Fig. 2 Relationship between the ACT and the quantities of
addition of Heparin Na (5,000units/5ml) to the 1ml blood.
c)
300
0
ACT/sec
0
1200
500
100
100
a)
R2 = 0.02402
ACT/sec
500
700
ACT/sec
ACT/sec
700
500
300
100
0
0.02
0.04
E=G'/Pa
F∝S0.1×V0.5×E0.4
Fig.4 Relationship between
the ACT and the rheological
parameters. a) Yield term. b)
Viscous term. c) Elastic term
in Experiment ②.
(3)
をよく再現していると考えられる.
実験①はカルシウムイオンの架橋反応によ
る血液成分の凝固と推察され,固体成分の増加
に伴う弾性率支配の現象が主として生じてい
ると思われる.
一方,実験②はヘパリンナトリウムが系内タ
ンパク質と複合体を形成する複雑な機構であ
ると推察され,系全体のチクソ性の変化を生じ
ると思われる.降伏項の寄与が少なからず現れ
ていることからも,成分間の相互作用変化を伴
う複雑な流動挙動を示していると思われる.
4.結言
血液の凝固能とレオロジーパラメータに相
関が見られ,さらに凝固機構の違いを再現でき
る可能性が見られたことから,流動挙動解析手
法が血液の新たな評価手法として適用できる
可能性が示唆された.
引用文献
1) 山口はるな,篠﨑俊介,鈴木猛,有富充利:
第 58 回レオロジー討論会講演要旨集,
p102-103,2010.
2) 前田信治:血液のレオロジーと生理機能,
日生誌,66,p234-244,287-297,327-336,
2004.