[特集]循環動態のアセスメントと輸液指示・管理 利尿剤,強心剤,血管拡張剤などの 指示受け,投与する上での留意点は? ここは押さえておこう その時の患者の状態から,その薬剤の投与が患者の状態に適したも のなのか,アセスメントすることが大切です。また,適切な指示を受けるためには,医師への報 告の仕方もポイントとなります。薬剤の作用機序,効果,副作用について理解を深めましょう。 栗原亜希子 太田記念病院 ICU/CCU 集中ケア認定看護師 クリティカルな状態に置かれている患者にお =Lasting six hoursから来ています。作用発現 いてまず最優先しなければならないのは, 「循 は5〜15分です。最初の1時間で最大の尿量が 環動態の安定化」を図ることです。ICUなどで 得られ,その後漸減していきます。最も強力な は,循環動態の不安定な患者に対し,循環動態 利尿剤ですが,腎血流量,糸球体濾過値を減少 を維持するためにさまざまな薬剤が投与されて させないため腎障害時にも適することから,多 いる場面をよく見ると思います。循環動態を安 くの症例に有効であり,繁用されています。日 定させるための薬剤は,ほかの薬に比べて作用 本循環器学会ガイドライン,ESC2008,ACFF / がはっきりと現れてきますが,使用方法や目的 AHAの急性心不全に対するガイドラインのいず を誤れば患者の状態を悪化させてしまうリスク れにおいても,呼吸困難症状の軽減に有用で, が高いため,薬効と副作用を理解し,慎重に投 急性心不全に対する第一選択薬として推奨され 与することが重要です。薬剤の特徴を理解する ています。 ことは,指示受け,投与する上で大切なことです。 ループ利尿薬は,ヘンレ係蹄の上行脚におい 本稿では,患者の状態をどのようにとらえ, てナトリウムとクロールの再吸収を抑制し,ナ どのように医師に的確な報告を行い指示受けす トリウム,カリウム,クロール,水の排泄を促 れば適切な薬剤投与につながるのか,そのポイ 進します(図1) 。利尿作用は強力ですが,そ ントを解説します。 の作用機序から電解質異常を来たしやすいです。 ICUでよく使用される薬剤 特に注意しなければならないのは,低カリウム 血症です。低カリウム血症が進行すると,QT まず,循環動態を安定させるために,ICUな 延長や不整脈を誘発する恐れがあるため,心電 どでよく使用される薬剤について解説します。 図モニタの監視やカリウム補正を行う必要があ その中でも,使用頻度が高い注射薬とその薬剤 ります。 の特徴(本稿では利尿剤,強心剤,血管拡張剤 ◎カルぺリチド(ハンプⓇ) の一部)についてまとめました。 カルペリチドは心房性ナトリウム利尿ペプチ 利尿剤 ド(ANP)で,ほとんどが心房で合成され,心 ◎フロセミド(ラシックス ) 房筋に負荷がかかると血中に分泌されます。こ 利尿剤で最もよく使用されるのは,ループ利 の薬剤は,利尿剤の項目に入れるべきか迷うほ 尿薬であるフロセミドです。ちなみに,ラシッ ど多彩な作用があり(図2) ,その中に心不全 クスⓇの名前の由来は,薬効持続時間が6時間 治療に必要な作用をいくつも併せ持っていま Ⓡ 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5 47 図1:利尿薬の主な作用機序 心房性Na利尿ペプチド 図2:多種多様なANPの作用 ANP 抗アルドステロン薬 糸球体 交感神経系 抑制 集合管 接合尿細管 RAA系抑制 サイアザイド系利尿薬 Na 炭酸脱水素酵素抑制薬 Na-Cl 共輸送体 炭酸脱水素酵素 HCO3−増加 K 体血管抵抗 の低下 ミネラルコルチ コイド受容体 (Na/K ATPase) 近位尿細管 Na-K-2Cl共輸送体 ヘンレのループ 前負荷および 後負荷の減少 ループ利尿薬 鶴田良介編:急性期ケアに必要な輸液の知識これだけBOOK ―「なんで?」が 「なるほど!」にかわる,EMERGENCY CARE2012年新春増刊,P.119,メ ディカ出版,2012. 表1:利尿薬の種類 種類 一般名 腎線維化 抑制 間質―脳下垂体― 副腎皮質系抑制 ADH系の 抑制 精神的安定 心筋肥大 (細胞 増殖) の抑制 遠位尿細管 利尿作用 Na利尿 平滑筋収縮 の抑制 腎保護作用 抗炎症作用 酸化ストレスの抑制 北風政史編,金智隆編集協力:心不全の急性期対応 循環器臨床サピア8, P.99,中山書店,2010. 鶴田良介編:急性期ケアに必要な輸液の知識これだけBOOK― 「なんで?」が「なるほど!」 にかわる,EMERGENCY CARE2012年新春増刊,P.119,メディカ出版,2012. 代表的な商品名 作用部位 主な副作用 フロセミド ラシックス ヘンレのループ 低Na,低K,アルカローシス,聴器毒性 ヒドロクロロチアジド 点滴なし 遠位尿細管 接合尿細管 低Na,低K,アルカローシス カンレノ酸カリウム ソルダクトン 集合管 高K,アシドーシス 炭酸脱水素酵素抑制薬 アセタゾラミド ダイアモックス 近位尿細管 低K,アシドーシス,尿路結石 浸透圧利尿薬 D-マンニトール 濃グリセリン マンニゲン グリセオール 近位尿細管 集合管 肺水腫,低Na,細胞内脱水 心房性Na利尿ペプチド カルぺリチド ハンプ 輸入細動脈 ヘンレのループ 集合管など 低血圧 ループ利尿薬 サイアザイド系利尿薬 抗アルドステロン薬 (K保持性利尿薬) 48 す。主に,血圧が維持され容量負荷を認める急 ◎ドパミン塩酸塩(イノバンⓇ) 性心不全の急性期や,慢性心不全の急性増悪期 心拍出量低下時,体血管抵抗低下による低血 などの症例を適応としています。 圧,循環血液量回復までの一時的治療や,強心 また,心不全以外の患者にも有用である知見 作用に加えて昇圧作用や利尿作用があるため, が得られてきており,心筋梗塞患者における梗 血圧が低い症例や乏尿状態の時に使用します。 塞巣の縮小効果や造影剤腎症の予防など,臓器 ドパミンの特徴は,投与量によって効果が異な 保護効果もあります。しかし,血管拡張作用が ることです。 あるため,特に使用初期の血圧低下には注意が 低用量:3μg/kg/分投与時 必要です。 血管のドパミン受容体に作用し,血管拡張を ほかにも利尿剤の種類はさまざまあります。 示します。腎臓では,腎動脈拡張作用による糸 作用部位によって副作用が異なることも特徴の 球体濾過量の増加と腎尿細管への直接作用によ 一つです(表1)。 り,利尿効果を示します。しかし,最近では1〜 強心剤 3μg/kg/分での利尿効果は疑問視されている 各受容体の説明については表2を参照してく ため,利尿作用を目的として使用することは減っ ださい。 てきています。 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5 ンを選択すべきと言われています。 表2:強心剤の各受容体の作用場所と生理的刺激応答 受容体 場所 血管 α受容体 β1受容体 また近年,ショック症状に対してドパミ 生理的刺激応答 ンとノルアドレナリンの使用を比較した試 血管収縮(血圧↑,体血管抵抗 ↑,肺血管抵抗↑) 験では,予後に差がなく,ドパミンの方が 心臓 心拍数↑,収縮性↑,自律性↑, (洞房結節,心筋) 心伝導速度↑ β2受容体 ドパミン 受容体 血管,細気管支 血管(腎,内臓神 経,腸間膜) 催不整脈性であったとの報告があります。 その意味でも,ドパミン高用量投与は注意 血管拡張(血圧↓,体血管抵抗 ↓,肺血管抵抗↓) 気管支拡張 が必要です。 ◎ドブタミン塩酸塩(ドブトレックスⓇ) 血管拡張 心臓収縮力を増強させ,後負荷を軽減, つまり,1回拍出量を増加させ,心拍出量 井上智子監訳:Q&Aで学ぶ 重症患者ケア,P.121,エルゼビア・ジャパン,2008. より引用,改編 を増加させたい時に使用します。心収縮力 の低下した心原性ショックに使用される 図3:Nohria-Stevensonの分類 うっ血の所見の有無 なし あり 低灌流所見の有無 低灌流所見 脈 圧 減 少, 四 肢 冷 感, 傾 眠 傾 向, 低Na血 症, 腎機能悪化 なし あり dry-warm wet-warm A B dry-cold wet-cold L C 薬剤です。慢性心不全急性増悪で言えば, うっ血の所見 起座呼吸,頸 静脈圧の上 昇,浮腫,腹 水,末梢の浮 腫,肝頸静脈 逆流,肺の断 続音 など Nohria/Stevenson分類のwet-coldに該当す る患者(図3)に使用されることが多い薬 剤です。 10μg/kg/分以下投与時 α受容体刺激作用が少なく,血圧もそれ ほど上昇させません。また,β受容体刺激 Nohria A, et al. Clinical assessment id identifies ifi h hemodynamic d i profiles that predict outcomes in patients admitted with heart failure. J Am Coll Cardiol. 2003;41: 1797-804.より引用,改編 作用から心拍出量を増加させます。心拍数 上昇も軽度であり,ほかのカテコールアミ 中用量:5〜10μg/kg/分投与時 ン製剤に比べ心筋酸素消費量の増加が少なく, 心臓のβ1受容体を刺激し,心筋収縮性を増 虚血性心疾患にも使用しやすいのが特徴です。 加させて心拍数を増加させるため,心拍出量を しかし,血圧維持,利尿作用が不十分な場合に 増加させて血圧を上昇させる作用があります。 は,ドパミンまたはノルアドレナリンの併用が ドブタミンよりその効果は弱いことから,心拍 必要とも言われています。 出量を上げたい場合はドブタミンを選択するべ 10μg/kg/分以上投与時 きと言われています。 心拍数が増加し,末梢血管を収縮させるため, 高用量:10μg/kg/分以上投与時 心不全症例に対して好ましくない効果が出てく α1刺激が優位となって体循環と肺循環のα1 るので,注意が必要です。 受容体を刺激し,体血管および肺血管の収縮を 催不整脈作用はほかのカテコールアミンより 来たします。ただし,ドパミンの高容量投与は も弱いですが,投与中は心室期外収縮の増加や 催不整脈性が強く,昇圧作用や心拍数増加作用 心室頻拍,心室細動の出現に注意が必要です。 のため心筋酸素消費量が増大し,心不全に対し また,心閉塞性肥大型心筋症に使うと,左心室 て不利に作用します。そのため,血管収縮によ からの血液流出路の閉塞が増強され症状悪化の る血圧上昇を目的とする場合はノルアドレナリ 恐れがあり,ショックとなるので使用は禁忌と 重症集中ケア V o l u m e . 1 3 N u m b e r . 5 49
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