遺伝子医療技術の光と影 ―出生前診断を考える― 1. はじめに

遺伝子医療技術の光と影
―出生前診断を考える―
所属:医療系ゼミ
1年2組34番
真下 奏一
1. はじめに
1-1
研究課題設定の理由
近年、我が国の医療技術は急速な進歩を遂げている。特に最近世間をわかせたのは、
やま なか しん や
京 都 大 学 の 山 中 伸 弥 教 授 ら の グ ル ー プ が 作 製 し た 、 人 工 多 能 性 幹 細 胞 ( iPS細 胞 *1 ) に
代表される、再生医療分野における数々の研究成果であることは言うまでも無い。し
か し 、 私 が 最も 注 目 し た の は 、 2013年 5月 、 ハリ ウ ッ ド 女 優 ア ン ジ ェ リー ナ ・ ジョ リ ー
氏 が 自 身 の 遺 伝 子 検 査 に お い て 乳 が ん の発 生 リ ス ク が 著 し く 高か っ た *2こ とを 理由に 、
両乳腺切除手術を受けたことを明らかにしたことである。アメリカの大物女優が遺伝子
検査の結果を基にこのような行動をとったことは、全世界を驚かせた。
このニュースが元で、これまで余りクローズアップされてこなかった「遺伝子検査」
へ の 関 心 が 高ま っ た 。 そ の よ う な 中 で、 日 本 に お い て 新 型 出生 前 診 断 *3 の 臨 床 研 究が 始
まり、こちらにも関心が高まっている。ただ、この新型出生前診断は、多くの倫理的問
題も包含していると言う。自らの疾病罹患確率を知る遺伝子検査は、罹患前の予防治療
に 大 い に 役 立つ こ と に 加 え 、 結 果 の いか ん に 関 わ ら ず、「 自 分自 身 の一 生 」と 向 き合 っ
て行くものであるが、新型出生前診断は、結果によっては「子供を産むか否か」の判断
に直結する可能性が大いにある。これはいわば「命の選択」を可能にしてしまう技術で
ある。だからといって、この技術を全面的に否定するつもりは無いが、これから親にな
り得る我々にとって、今後このような技術とどのように向き合い、社会はそれをどのよ
うな形で支えて行くべきなのか考察したいと考えた。
1-2 本研究の目標
本研究は、遺伝子検査のうちの「新型出生前診断(NIPT)」に焦点を当て、そのメリッ
ト・デメリットを明らかにした上で、今後の技術発展を見越し、利用する側とそれを支
える仕組み双方のあるべき姿について具体的な提言をまとめるものである。
1-3 本研究の方法
本来であれば書籍等の信頼ある情報源を用いるべきであるが、テーマ自体が比較的新
しいものであることに加え、様々な見地からの考察が必要なことから、インターネット
を基本とした情報収集方法をとった。書籍等に比して情報の信用性に欠けることから、
信頼の置けるサイト(官公庁や社会的地位のある研究所等)を利用することを心がけた。
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2.
新型出生前診断の現状
2-1 新型出生前診断とは
まず、本研究で扱う新型出生前診断という名称は報道機関による通称であり、正式に
む しん しゆう てき しゆつ せい ぜん い でん がく てき けん さ
ぼ たいけつさいぼう
*4
たい じ
い でん し けん さ
は無侵 襲 的 出 生前遺伝学的検査《NIPT 》(若しくは母体血細胞フリー胎児遺伝子検査
*5
)と呼ばれる。
また、報道によれば、これらの手法より判定精度は劣るものの費用が安価で済み、な
おかつ年齢制限の無い新たな手法を用いた検査の臨床研究が複数の医療機関で始まると
*6
されている が、いまだ研究の資料となり得るだけの成果が報告されていないことから、
本研究では扱わないこととする。
NIPTについて、NIPTコンソーシアムの資料によると、以下のような説明がなされてい
る。
・対象:妊娠10週以降かつ出産予定日の年齢が35歳以上の妊婦。
・検査方法及び目的:妊婦から20mLの血液を採取し、血液中を浮遊しているDN
A断片を分析することで、胎児が3つの染色体疾患かどうかを検査する。
・留意事項:検査結果はおよそ2~3週間後に出る。また、この検査は胎児の染
色 体 疾 患 を 確 定 診 断 す る も の で は な い (非 確 定 的 検 査 )た め 、 結 果 が 陽 性 だっ
た場合には確定診断のための羊水検査などが必要になる。その羊水検査は妊
娠 15週 以 降 に 行 わ れ 、 そ の 結 果 は 2~ 3週 間 後 に 出る た め 確 定 診 断 を 選 る まで
に時間がかかることがある。
*7
(表1. NIPTの概要 出典:NIPTコンソーシアム作成資料《独立行政法人国立成育医療研究センターWebページ 》)
2-2 現状
2-1で 示 し たよ う に 、 現 在 、 こ の 検査 を 利 用 す る に は幾 つ かの 条 件 があ る 。(以 下 、N
*8
IPTコンソーシアムWebページ より)
・ 染 色 体 疾 患 ( 21ト リ ソ ミ ー 、 18ト リ ソ ミ ー 、13ト リ ソ ミ ー の い ず れか ) に 罹
患した子を妊娠、分娩した既往を有する場合
・高年妊娠の場合(分娩時35歳以上)
・胎児が染色体疾患( 21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのいずれか)
に罹患している可能性の上昇を指摘された場合
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*9
*10
(図1. 母体年齢ごとにみたダウン症児出生確率 出典:ダイヤモンド社書籍オンライン )(図2. 出生順位別にみた父母の平均年齢の年次推移 出典:厚生労働省人口動態統計 )
注 目 す べ き 点 と し て は 、 35歳以 上 と い う 年 齢 制 限 を設 け て い る こ と で あ る 。図 1か ら
わ か る よ う に 、 一 般 に 高 齢 出 産 と さ れ る 35歳 以 上 で は 、 そ れ 以 下 に 比 べ て ダ ウ ン 症 児
の 出 産 確 率 が 大 き く 上 昇 し て い る 。 (20歳 で は 約 1500人 に 1人 の 割 合 だ が 、 30歳 に な る
と 約1000人 に1人、 35歳 だ と約 400人に 1人 、40歳 では 約 100人 に1人、 45歳 に なる と約30
人 に 1人 の 割 合 で ダ ウ ン 症 児 が 生 ま れ る 。 )ま た 、 NIPTは い ま だ 臨 床 研 究 と い う 位 置 づ
けであるから、年齢制限を設けることで受検者をある程度抑制する必要もある。ただ、
こ の 点 に お いて は 、 厚 生 労 働 省 に よ ると 平 成 23年 度 に お け る第 1子 出 生時 の 母 親 の 平 均
年 齢 は 30.1歳 、 第 3子 につ い て は 33.2歳 と なっ て お り 、 現 代の 晩 婚化 社 会に お いて は 、
今後受検対象になる妊婦が増加する可能性が高い。
ま た 、 引 用 文 中 の 遺 伝 子 疾 患 (21ト リ ソ ミ ー 、 18ト リ ソ ミ ー 、 13ト リ ソ ミ ー )と は 以
下のようなものである。
・ 21ト リ ソ ミ ー : 体 細 胞 の 21番 染 色 体 が 3本 存 在 す る こ と に よ っ て 発 症 す る 。
ダウン症。
・ 18ト リ ソ ミ ー : 体 細 胞 の 18番 染 色 体 が 3本 存 在 す る こ と に よ っ て 発 症 す る 。
奇形や先天性の心疾患、重度の知的障害を持つ。
・ 13ト リ ソ ミ ー : 体 細 胞 の 13番 染 色 体 が 3本 存 在 す る こ と に よ っ て 発 症 す る 。
奇形や重度の知的障害を持つ。パトー症。
*11
(図3, 4. 先天性疾患《左》と染色体疾患《右》の原因内訳 出典:NIPTコンソーシアム )
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いずれも重度の疾患であり、これらに罹患した胎児が生まれてくることは、両親の
そ の 後 の 暮 ら し に 影 響 を 与 え る こ と か ら 、 検 査 結 果 に 基 づ い た カ ウ ン セ リ ン グ (後 述 )
による両親の負担軽減のためにこの検査が存在する。
な お 、 こ の 検 査 は あ く ま で ス ク リ ー ニ ン グ (非 確 定 的 )検 査 と し て 行 わ れ る が 、 検 査
結果が陽性の場合は羊水検査を用いて確定診断を行うことで、結果としてほぼ確実な
検 査 結 果 を 得 ら れ る 。 例 え ば 、 21ト リ ソ ミ ー (ダ ウ ン 症 )の 場 合 、 検 査 結 果 が 陰 性 な ら
ば 、 そ れ は 99.9% の 確 率 (陰 性 的 中 率 )で ダ ウ ン 症 の 胎 児 を 妊 娠 し て い な い と 理 解 で き
る 。 一 方 、 NIPTの 検 査 結 果 が 陽 性 だっ た 場 合 、 本 当 に 染 色体 疾 患 で あ る 確 率(確定 診 断
前 で )は 80% (35歳 の 妊 婦 )程 度 で あ る 。 ま た 、 ご く わ ず か (0.9% )で は あ る が 、 判 定 保
留 と い う 結 果も あ り 得 る 。 こ れ は 母 体血 中 の 胎 児 由 来 の DNAが 少 な い こと が 原 因 と 考 え
*12
られるが、再検査することでほとんどの場合診断を得られる 。
*13
産経新 聞に よる と、NIPTを行っ ている病院 のグループ が日本院類 遺伝学会で 発表し
た こ と と し て、 検 査の 受 付開 始 から 半 年 で3514人 が受 検 し、 う ち陽 性 67人 (確定 診 断56
人)であり、陽性は受検者の1.9%であった。
3.
NIPTの功罪
3-1 受検のメリット
子を授かった男女にとって、子供が果たして健康な状態で生まれてくるのか否かとい
うことは大変な関心事である。また高齢出産の場合など遺伝子疾患児を出産するリスク
が高い妊婦にとっては、そういった子が生まれることによって、健常な子供を持つこと
に比べれば、経済的、精神的な負担は大きくなる。無論、この負担を一概に問題視する
べきとは思わない。だが、例えば経済的に余裕の無い高齢な男女間に染色体疾患を持つ
子が生まれたら、その家庭だけでなく、その子自身の精神的苦痛につながり、幸せな一
生を送れない可能性を否定できない。それに加え、出産を前提に検査をすることで、出
産直後から出生児に適切な治療が行えるようにするという目的もある。
3-2 問題点
公益社団法人日本産科婦人科学会倫理委員会出生前遺伝学的検査に関する検討委員
会が示している「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」では、出
生前検査の問題点を次のように指摘している。
(1) 妊婦が十分な認識を持たずに検査が行われる可能性があること。
母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、妊婦からの採血により行われるものである。
きわめて簡便に実施できることから、検査に関する十分な説明が医療者から示されず、そ
の結果、妊婦がその検査の意義、検査結果の解釈について十分な認識を持たないまま検査
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が行われるおそれがある。そのため、検査結果によって妊婦が動揺・混乱し、検査結果に
ついて冷静に判断できなくなる可能性がある。
(2) 検査結果の意義について妊婦が誤解する可能性のあること。
母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査は、母体血中のDNA断片の量の比から、胎児が
13番 、 18番 、 21番 染 色 体 の 数 的 異 常 を 持 つ 可 能 性 の 高 い こ と を 示 す 非 確 定 検 査 で あ る 。 診
断を確定させるためには、更に羊水検査等による染色体分析を行うことが必要となる。こ
の点は、従来の母体血清マーカー検査と本質的に変わるところは無い。母体血を用いた新
しい出生前遺伝学的検査においては、その感度が母体血清マーカー検査と比して高いため
に、被検者である妊婦が得られた結果を確定的なものと誤解し、その誤解に基づいた判断
を下す可能性がある。
(3) 胎児の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる可能性のあること。
母体 血 を 用い た 新し い出生 前遺 伝学 的検 査は 、妊婦 から 少量 の血 液を 採取し て行 われ る簡
便さのため、医療者は容易に検査の実施を考慮し得る。また検査の簡便さゆえ妊婦が検査
を受けることを希望しやすい状況となり得る。その結果、不特定多数の妊婦を対象に胎児
の疾患の発見を目的としたマススクリーニング検査として行われる可能性がある。
*14
(表2. 出生前検査の問題点 出典:日本産科婦人科学会「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」 )
表 2の よ う に 、 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 (以 下 、 日 産 婦 と 示
す)はまず「妊婦への十分な説明がなされない可能性があ
る」ことを問題視している。検査結果によっては「産む
か 産 ま な い か 」 と い う 「 命 の 選 択 」 を 迫 ら れ る NIPTに お
いて、十分な説明とカウンセリングは必要不可欠である。
一部報道によると、中国の検査機関が日本で検査の受付
を始め、複数の病院やクリニックと1件約10万円で検査の
契約を結んでいた
* 15
。こういったケースでは十分なカウ
ンセリングがなされないおそれがある。命の選択は単純
な 「 損 得 勘 定 」 で な さ れ て は な ら な い 。 日 産 婦 は NIPTの
実施医療機関を指定しており、この指針は法的なもので
はないが、厚生労働省は日産婦の指針を守るよう呼びか
けている *16。
そ れ に 加 え 日 産 婦 は 、 NIPTが 「 マ ス ス ク リ ー ニ ン グ 検
査」と化してしまうことにも警戒感を示している。2-1、
(図5. NIPTへの中国企業の進出 出典:朝日新聞 DIGITAL*15 )
2-2でも示したように、現状のNIPTはあくまで「遺伝子疾
患児を出産するリスクが高い妊婦」を対象としたものである。すなわち妊娠段階から「染
色体疾患児が生まれてしまうのではないか」という不安を既に抱えている妊婦の不安を
解消する、というのが現状としての目的である。仮に全妊婦を受検可能としてしまうと、
前述のような「命の選択」が身近なものになるおそれがあり、妊娠段階から特にリスク
、、、、、
を抱えていない妊婦であっても、いわばお試し感覚で受検できてしまい、安易な判断に
よる妊娠中絶につながる。これは生命倫理上大きな問題である。
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3-3 考察
*17
(図6, 7. 育児サイト「ベビカム」が行ったアンケート 出典:All About Webページ 【回答者】 計150名 うち妊娠中24人、育児中《子供は主に3歳以下》126人)
図6・7は、ある育児支援サイトが妊婦や育児中の女性に行ったアンケートの結果であ
る。図6によると、約4割の女性が、新しい出生前検査を「受ける」若しくは「受けるか
も し れ な い 」 と 答 え て い る 。 更 に 、「 わ か ら な い 」 と 答 え た 人 の 割 合 を 加 え る と 、 6割
を超える。また、図7は図6の結果を年齢層別にまとめたものであるが、特に若年層にお
い て、「 受 け る か もし れ な い 」 と 答 え て い る人 の 割 合 が 多 い 。今 後 出生 前 検査 は これ ま
で以上の技術開発が進み、新たな検査手法の確立も考えられる。また高齢出産の割合も
増加してきていることから、若年層において出生前検査への関心が高ということは、今
後この検査の需要が増加して行く可能性が高いことを裏付けている。
ま た 。 3-2で 触 れ た 通り 、 重 要 な こ と は 、 そ のニ ー ズ の 増 加 に 対 応 する た め の カ ウ ン
セ リ ン グ 体 制の 整 備 で あ る。「 命 の 選 択 」 とい う 点 に 立 ち 返 って み ると 、 検査 結 果が 陽
、、 、
性 で あ り 、 かつ 確 定 診 断 も な さ れ た 場合 に お い て、「 中 絶 」 とい う 選択 が 安易 に なさ れ
てしまうことはあってはならない。なぜなら、その行為は命を軽んじることであり、
「染
色体異常児」の存在を一概に否定することにつながるからである。これは、現在、染色
体疾患を抱えながら懸命に生きている人たちへの差別にもつながりかねないことであ
る。一つの命をこの世に誕生させるか否か、この検査を利用する側も、検査結果の先に
はそういった大きな決断を迫られるかもしれない、ということを十分理解することが必
要であり、同時に、生まれてくる子供のためにも、医師や専門家の助言に真摯に耳を傾
ける必要がある。
4.
提言とまとめ
4-1 提言
3-2、3-3から、まずは現状の臨床研究段階において十分な臨床データを集めることが
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必要である。そして将来的には、現状では限られている受検可能な医療機関を増やして
行くことになろう。ただその際に、受検対象者を現状の通り「高いリスクを抱えている
妊婦だけに限定する」のか、それとも「広く一般に開放する」のかが焦点となりそうで
ある。しかしその議論の前提として、妊娠中絶を伴うこの検査手法が国民一般に広く認
知され、かつ功罪について理解されることが必要である。現在は、この議論がまだまだ
不十分である。例えば、現在人工妊娠中絶ができる条件は、母体保護法により次のよう
に定められている。
母体保護法
第十四条
都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人
た る 医 師 会 の 指 定 す る 医 師 ( 以 下 「 指 定 医 師 」 と 言 う 。) は 、 次 の 各 号 の 一 に
該 当 す る 者 に 対 し て 、 本 人 及 び 配 偶 者 の 同 意 を 得 て 、 人 工 妊 娠 中 絶 を 行 う こと
ができる。
一
妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害
するおそれのあるもの
波線部(レポート作成者による)のように、現状の条文では「経済的理由」があれば
中 絶 は 可 能 であ る が 、 今 後 こ の 検 査 が一 般 に 広 ま っ た 際 に は、「 出 産す る か否 か 」の 選
択は十分なカウンセリングを行った上で、その家庭を取り巻く社会的環境などの様々な
事柄を考慮に入れて慎重になされるべきであるから、法律も何らかの形で安易な中絶を
防止する働きをするようなものにして行くべきであると考える。
つまり、国民的議論が十分になされ、かつ法整備を含む社会的な支援体制も整えば、
検査を広く一般に開放することも可能になる。更に、この議論を通してこれまでより一
層「命」と遺伝子疾患に対する人々の意識が高まることで、社会全体で障害者を支えて
行くという機運も上昇するであろう。
4-2 まとめ
近年の急速な遺伝子解析技術の発達によって、ついに我々は生まれてくる命を選択で
きるようになった。様々な手法の中でも容易で高確率の結果が得られるNIPTはいまだ臨
床研究の段階だが、将来的には更に発展して行くであろう。我々高校生もいつかは結婚
し、子を授かる可能性がある。そのような頃には今より更に出生前検査の需要が増加し、
NIPTのような検査は当たり前と化しているかもしれない。言い換えれば、生まれてくる
命を選択できるような仕組みが今より発展しているかもしれないのである。そのときに、
我々は何を考え、どのように判断すれば良いのか、今から考えておくべきだ。幸いなこ
とに我々は、これらの検査が確立されて行った過程と、それに伴う様々な問題を、今、
、、、
直に報道等で目にできる。高校生である今はいまだ他人事だと思うかもしれないが、我
々の大多数がいつかは関わるであろう重要な問題であり、決して他人事ではないのであ
る。本研究が、命の現場を見つめ直すきっかけになれば幸いである。
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4-3 反省
当初はNIPTの功罪の比較において、それぞれの立場を論ずる論文等があれば採用し、
それらを比較しながら論を展開しようと考えていたが、そのようなものが見つからなか
ったため、比較が不十分だという印象が否めず、客観性にやや欠ける点が見受けられた。
、、、
次回の研究においては、事前に資料を集め、構成を十分に練った上で論文を書き始めら
れるようにしたい。
5.参考文献等
・YOMIURI ONLINE(2013年 6月 12日 付)「乳 房 の予 防 切除 で 世界 に反 響
アン ジェリ ー
ナ・ジョリー」
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/beauty/celeb/20130611-OYT8T01018.htm
・nature 電子版(2014年1月29日付)“Acid bath offers easy path to stem cells”
http://www.nature.com/news/acid-bath-offers-easy-path-to-stem-cells-1.14600
・産 経 新 聞 電 子 版 (2013年 10月 3日 付 )「 費 用8分の 1、年 齢 制限 無 い出 生 前診 断
昭和
大など月内にも導入」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131003/bdy13100320090002-n1.htm
・(同11月22日付)「新出生前診断、半年で3500人が受診
陽性67人、異常確定56人」
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131122/bdy13112214180002-n1.htm
・国立成育医療研究センター「NIPT説明資料」(NIPTコンソーシアム作成資料)
http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/perinatal/images/NIPTsetsumei.pdf
・NIPTコンソーシアム「臨床研究について」
http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/perinatal/images/NIPTsetsumei.pdf
・ダイヤモンド社書籍オンライン(2013年5月16日付)「妊娠・出産・不妊のリアル『高
齢出産で上がる流産と染色体異常の確率』」http://diamond.jp/articles/-/35029
・ 厚 生 労 働 省 「 平 成 23年 人 口 動 態 統 計 『 出 生 順 位 別 に み た 父 母 の 平 均 年 齢 の 年 次 推
移-昭和50~平成23年-』」
http://www.mhlw.go.jp/english/database/db-hw/dl/81-1a2en.pdf
公益財団法人日本産科婦人科学会倫理委員会、母体血を用いた出生前遺伝学検査に関
する検討委員会「母体血を用いた新しい出生前遺伝学検査に関する指針」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/guidelineForNIPT_20130309.pdf
・朝日新聞 DIGITAL(2013年12月22日付)「新型出生前診断、中国企業が既に実施
学
会は注意喚起へ」
http://www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312210445.html
・NHK時事公論(2013年11月23日付)「新型出生前検査“命の選択”をどう考える」
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/173722.html
・All About(2013年3月1日付)「皆はどうする?
染色体異常がわかる新しい出生前診
断」http://allabout.co.jp/gm/gc/409928/
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*1:induced pluripotent stem cells
なおiのみ小文字なのは、米アップル社の製品iPo
dのように多くの人に親しんでもらうため、というエピソードは有名。また、2014年1月29
日付 の 英 科 学 誌 「 ネ イ チ ャー 」 電 子 版 に よ る と 、理 化 学 研 究 所 な どが iPS細 胞よ り 容易 に
作製できるSTAP(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)細胞の作製に成功し
た。http://www.nature.com/news/acid-bath-offers-easy-path-to-stem-cells-1.14600
*2: 2013年 6月12日付 の 読売 新 聞に よ ると 、 5月14日 付の ニュー ヨー クタ イムズ 紙は、「 母
を56歳の若さで卵巣がんにより亡くしている彼女は、遺伝子検査でがん抑制遺伝子の一つ
に変異が見つかり、将来、乳がんになるリスクが87%、卵巣がんのリスクは50%という
診断を受けた」と報じた。
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/beauty/celeb/20130611-OYT8T01018.htm
*3:2013年より臨床研究として実施。
*4:non-invasive prenatal testing
*5:maternal blood cell-free fetal nucleic acid (cffNA) test
*6:産経新聞電子版2013年10月3日付
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131003/bdy13100320090002-n1.htm
*7:http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/perinatal/images/NIPTsetsumei.pdf
*8:http://www.nipt.jp/rinsyo_02_1.html
*9:http://diamond.jp/articles/-/35029
*10:http://www.mhlw.go.jp/english/database/db-hw/dl/81-1a2en.pdf
*11:http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/perinatal/images/NIPTsetsumei.pdf
*12:http://www.ncchd.go.jp/hospital/section/perinatal/images/NIPTsetsumei.pdf
*13:電子版2013年11月22日付
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131122/bdy13112214180002-n1.htm
*14:http://www.jsog.or.jp/news/pdf/guidelineForNIPT_20130309.pdf
*15:電子版2013年12月22日付
http://www.asahi.com/articles/ASF0TKY201312210445.html
*16:NHK「時事公論」2013年11月23日付
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/173722.html
*17:http://allabout.co.jp/gm/gc/409928/
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