第 1 部 ビジネスモデル・ マッピング入門 第 1 部 ビジネスモデル・マッピング入門 第 1 章 ビジネスモデルの 代表的パターン 第 1 部では、 「第 2 部 ビジネスモデル・マッピングのケース」で 用いられている BMM と、そのツールを読むために必要な基礎知識を 解説します。それでは、代表的なビジネスモデルのパターンの学習か ら始めましょう。 1 ◆ 代表的なビジネスモデル・パターン 「事業を営んでいれば、そこにはビジネスモデルがある」といわれるよ うに、事業価値の優劣に拘らず、どの企業にも必ず「建付け」としてのビ ジネスモデルがあります。中には参照に値する優れたビジネスモデルも多 く存在し、今も新たに創造され続けています。 これら優れたビジネスモデルを単にケースとして取り上げるだけではな く、そのビジネスモデルを抽象化し、参照しやすくするために各種の「ビ ジネスモデル・パターン」がまとめられています。これらをマスターする ことは、企業のビジネスモデルを分析したり、自らのビジネスモデルの改 良、改革を実施する上で、ビジネスモデル・マッパーとして参照する「引 き出し」を増やすことにつながります。 それでは、次の順に代表的なビジネスモデル・パターンの概要を紹介す ることにしましょう。 ◆◆ ICT(情報通信技術)が加速したビジネスモデル・パターン ◆◆ スライウォツキーの 23 種のビジネスモデル・パターン ◆◆ バリューチェーン革新他のビジネスモデル・パターン 図表 1.1 をご覧ください。これは上記の代表的なビジネスモデル・パ ターンごとに、第 2 部で取り上げている 28 件のケースで採用されている 主なビジネスモデル・パターンの採用状況(件数)を一覧表にまとめたも 10 第 1 章 ビジネスモデルの代表的パターン のです。 1)「ICT が加速したビジネスモデル・パターン」の採用は 決して多くはない 第二次ビジネスモデル・ブームのきっかけとなった、〈フリー〉や〈ロ ングテール〉など ICT 環境を積極的に取り込んだ新たなビジネスモデル のパターンについては単行本も出版されるなど注目されていますが、驚い たことに、本書で取り上げたケースを見る限りは、「ICT が加速したビジ ネスモデル・パターン」を採用しているケースは決して多くはなく、「ス ライウォツキーの 23 種のビジネスモデル・パターン」の採用が多く見ら れる点は注目に値することでしょう。 ビジネスモデルは、何も ICT ビジネスの専売特許ではありません。激 変する今日のグローバル環境下では、むしろ製造業、流通業、サービスな どの ICT ビジネス以外の業態においてこそ、ビジネスモデルの革新が求 められているということでしょう。 2)2 万 3 千ドルに値するというスライウォツキーの著作 前著『ビジネスモデル・マッピング教本』のコラム(前著の 122 頁)で、 スライウォツキーの『ザ・プロフィット』を紹介し、『多国籍企業に勤め るスティーブ・ガードナーという若者が、「ビジネスで利益が生まれる仕 組みを知り尽くした男」デビッド・チャオから、毎週土曜日の朝一時間、 プロフィット・モデルを一つずつ、合計 23 パターンを教授してもらうと いうストーリー調のビジネス書です。 (中略)チャオの一回の授業料は 1 千ドルということですから(但し出世払い)、この本は 2 万 3 千ドルの価 値があることになります。ビジネスモデルに興味のある皆さんが、読まな い手はないでしょう。』とお勧めしておきましたが、まさに今回のケース のビジネスモデル・パターンの採用状況から見る限り、ビジネスモデル・ マッパーなら読む価値が高いことを再認識させられます。 3)複数のビジネスモデルのパターンの組み合わせで構成 本書で取り上げた 28 件のケースで採用している主なビジネスモデル・ 11 第 1 部 ビジネスモデル・マッピング入門 パターンの合計は 48 件にのぼります。これは、成功している事業のビジ ネスモデルは、ビジネスモデル・ブームのきっかけの一つともなった〈フ リー〉や〈ロングテール〉といった個々のビジネスモデル・パターンを紹 介する書籍が力説するように、単一のビジネスモデル・パターンのみを活 用しているものはむしろ少なく、複数の汎用レベルや業種レベルのビジネ スモデルのパターンの組み合わせで構成されていることも多いということ に留意する必要があります。このことは、第 2 部に掲載のケースでビジネ スモデル分析に用いられている BM-Tree(例えば、図表 4.3 を参照)を見 てもおわかりいただけると思います。 それでは、分類に従って見ていくことにしましょう。 以下に紹介する図表 1.2、図表 1.3、図表 1.4 の三つの一覧表は、ビ ジネスモデル・パターンから、ケースを参照する場合の索引として利用す ることができます。 図表 1.1 第 2 部掲載ケースが採用する主なビジネスモデル・パターン ビジネスモデル・パターン 1.ICT が加速 フリー ロングテール マルチサイド・プラットフォーム シェア 2.スライウォツキーの 23 種 (1) 顧客ソリューション利益 (2) 製品ピラミッド利益 (3) マルチコンポーネント利益 件数 0 0 2 0 0 2 2 (4) スイッチボード利益 ― (6) ブロックバスター利益 2 (5) 時間利益 (7) 利益増殖 (8) 起業家利益 (9) スペシャリスト利益 12 1 0 0 5 (10) インストール・ベース利益 ― (12) ブランド利益 4 (14) ローカル・リーダーシップ 利益 2 (11) デファクト・スタンダード 利益 (13) 専用品利益 0 4 (15) 取引規模利益 0 (17) 景気循環利益 1 (16) 価値連鎖ポジション利益 (18) 販売後利益 (19) 新製品利益 (20) 相対的市場シェア利益 1 0 0 6 (21) 経験曲線利益 2 (23) デジタル利益 ― (22) 低コスト・ビジネスデザイ ン利益 0 第 1 章 ビジネスモデルの代表的パターン 2)CSV 3.バリューチェーン革新他 1)バリューチェーン革新 オープン・イノベーション ハイブリッド・ソリューション マス・カスタマイゼーション JIT フランチャイズ・チェーン 4 1 0 2 2 CSV(共通価値の創造) 2 EMS(電子機器受託製造業) 1 採用 BM パターン件数合計 48 3)業種レベル SPA(製造小売業) 2 2 ◆ ICT が加速させたビジネスモデル・パターン この「ICT が加速させたビジネスモデル・パターン」は、2000 年代の 中ごろに入って、米アマゾンやアップルといった ICT の機能を活用した ビジネスモデルの研究からまとめられたビジネスモデル・パターンを編著 者がピックアップしてまとめたものです。第二次ビジネスモデル・ブーム のきっかけとなった代表的なビジネスモデル・パターンが含まれています。 先に指摘したように、本書で取り上げるケースでは、〈マルチサイド・ プラットフォーム〉を除き、主たるビジネスモデルとして採用しているケー スは未だ少ないようです。 なお、 ICT が加速させた BM パターンについては、 『ビジネスモデル・マッ ピング教本』の第 8 章で詳しく検討していますのでご参照下さい。 図表 1.2 ICT が加速させたビジネスモデル・パターン BM パターン フリー ロングテール 解説 第 2 部掲載 〈Case〉 始めはフリー(タダ)または、それに近い価格で提供す 該当なし るが、本人を含めて誰かが、いつかその代償を払わせ られているというビジネスモデル。その本質は、「商品 から商品への移動」や「人から人への転嫁」にある。 『ビジネスモデル・マッピング教本』第 8 章 1 で詳しく 解説している。代表的な書籍にはアンダーソン著『フ リー』がある。 デジタルの世界では、「パレートの法則」がその有効性 該当なし を失うため、 「ロングテール(長い尻尾) 」の部分で儲け るビジネスモデル。 13 第 1 部 ビジネスモデル・マッピング入門 『ビジネスモデル・マッピング教本』第 8 章 2 で詳しく 解説している。代表的な書籍にはアンダーソン著『ロン グテール』がある。 マルチサイド・ 異なる二つ以上のタイプのユーザ・グループを結び付け 〈Case 14〉リ プラットフォー て、取引を促すインフラとツールを提供するビジネスモ ブセンス デル。例えば、客と店をつなぐクレジットカードやショッ 〈 C a s e 1 6 〉 ム ヤマトホール ピング・モールなどが該当する。 (MSP) 『ビジネスモデル・マッピング教本』第 8 章 3 で詳しく ディングス 解説している。代表的な書籍にはハジウ他著「マルチサ イド・プラットフォームをいかに活用するか」がある。 シェア 大量生産、大量消費の時代に決別し、コラボ(共同) 該当なし 消費を前提としたビジネスモデル。例えば、カーシェア、 シェアサイクルやシェアハウスなどが該当する。 『ビジネスモデル・マッピング教本』第 8 章 4 で詳しく 解説している。代表的な書籍にはボッツマン他著『シェ ア』がある。 参照:松原恭司郎『ビジネスモデル・マッピング教本』他 3 ◆ スライウォツキーの 23種のビジネスモデル・パターン ここで取り上げている「プロフィット・モデル(Profit Model)」は、 いまやビジネスモデル関連書籍の古典ともいうべきエイドリアン・スライ ウォツキーの『ザ・プロフィット(原題は“The Art of Profitability”)』 (原 書の出版は 2002 年)と『プロフィット・ゾーン経営』(同 1999 年)他で 紹介している概念です。利益を獲得する方法として 23 種のプロフィット・ モデルが紹介されています。 スライウォツキーの「プロフィット・モデル」は、原則として「ビジネ スモデル」と同義であるとするのが編著者の考えであり、本書では、「(7) 利益増殖」を除き末尾に「***利益」と表現されているものが、スライ ウォツキーの「プロフィット・モデル」に該当します。 なお、 ICT が加速させた BM パターンについては、 『ビジネスモデル・マッ ピング教本』の第 10 章で詳しく検討していますのでご参照下さい。 14
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