Ⅷ 監査上の重要性 • 学習のポイント – 「監査上の重要性」の意味 – リスク・アプローチと重要性の関係 – 重要性の基準値と監査リスクの関係 1 「監査上の重要性」とは? • 財務諸表利用者の意思決定に影響を与える程度 – 量的重要性:金額的重要性 • 財務諸表利用者の意思決定に影響するほど金額が大きい – 質的重要性:事象・事項の性質 • 意思決定に影響を与えるような性質をもつ – 重要な虚偽表示 • 意思決定に影響を与える(財務諸表利用者が意思決定を変更する)ほ ど金額の大きい虚偽表示 • 意思決定に影響を与える(財務諸表利用者に意思決定を変更させるよう な)事象または事項における虚偽表示 2 監査に関わるリスクの意味 • 監査リスク(AR):監査人が適切に監査手続を実施したにもかかわら ず,重要な虚偽表示を見逃して不適切な監査意見を表明する確率 • 重要な虚偽表示リスク(RMM):会社側の事情に起因して財務諸表 に重要な虚偽表示が含まれている確率 • 固有リスク(IR):もし会社が適切な管理をしなければ,個々の取引 や勘定,あるいは経営を取り巻く環境が財務諸表に重要な虚偽表示 を引き起こす確率 • 統制リスク(CR):内部統制が固有リスクによって引き起こされた重 要な虚偽表示を適時に発見・修正し損なう確率 • 発見リスク(DR):監査人が監査手続を実施しても,財務諸表に含ま れる重要な虚偽表示が見逃されてしまう確率 3 リスク・アプローチの構造 IR CR (内部統制) DR (財務諸表監査) AR (財務諸表) 重要な虚偽表示リスク (RMM) 重要な虚偽表示 重要な虚偽表示 の原因を が見逃される 認識・評価 確率を評価 重要な虚偽表示を見逃 さない監査手続を実施 重要な虚偽表示が含まれ る確率を一定程度に抑制 4 財務諸表監査の機能 • 財務諸表に重要な虚偽表示が含まれていな いことを確認した場合 →適正意見を表明する=信頼性の保証 • 財務諸表に含まれている重要な虚偽表示を 発見した場合 →不適正意見を表明する=信頼性の否定 →いずれかの形で財務諸表利用者を保護 5 重要性の評価 • 意思決定上の注目点への影響を考慮 例: – 売上高 – 経常利益,当期純利益などの損益 – 総資産 – 自己資本 など • 重要性の基準値を設定 →重要とみなすかどうかの“境界線”(閾値) 6 重要性の基準値 • 重要性の基準値の設定例 – 純利益への影響を考慮して設定する – 純利益は5億円である – 財務諸表全体として5,000万円の虚偽表 示が含まれると判断した 7 重要性の判断(例) ①重要性の基準値を純利益の12%(6,000万円)に 設定している場合 重要と判断される領域 6,000万円 5,000万円: 重要な虚偽表示とは判断されない 重要とは判断されない領域 8 重要性の判断(例) ②重要性の基準値を純利益の8%(4,000万円)に 設定している場合 重要と判断される領域 5,000万円: 重要な虚偽表示と判断される 4,000万円 重要とは判断されない領域 9 重要性の基準値と監査リスク • 重要性の水準を高く設定する(高過ぎる) →比較的多額の虚偽表示を見逃しても重要な虚偽表示 を見逃したことにはならない →目標の監査リスクの水準は達成されるかもしれない が,実際には利用者の意思決定に影響する虚偽表示 (=重要な虚偽表示)を見逃しているかもしれない →実質的に監査は失敗していることになる 10 重要性の基準値と監査リスク • 重要性の水準を低く設定する(低過ぎる) →比較的少額の虚偽表示まで重要とみなして発見しな ければならない →目標の監査リスクを達成するために,実際には利用 者の意思決定に影響しない虚偽表示(=重要でない虚 偽表示)まで発見しようとしているかもしれない →過剰な監査手続により監査が非効率になる 11 重要性の基準値と監査の有効性 • 同じ金額でも重要性の基準値によって重要 だったり重要でなかったりする • 基準値が高すぎると監査の失敗が隠 る危険がある(有効性の喪失) され • 基準値が低すぎると監査資源配分の効率性 が失われる(有効性の喪失) 12 次回予告 • 財務諸表監査と企業不正 13
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