真空圧密工法による地盤強度の増加とその検証 (独)北海道開発土木研究所 同 ○林 上 宏親 西本 聡 1. まえがき 真空圧密工法(図−1)は、負圧載荷を特徴とした軟弱地盤対策工 法である。いくつかの試験施工を通じて、本工法の泥炭地盤に対する 改良効果が明らかとなってきているが、泥炭地盤の特異な性質を考慮 した設計法が確立されるには至っていない。本報告では、真空圧密工 法を泥炭地盤に適用した際の地盤強度増加の評価法とその妥当性につ いて述べる。 図−1 真空圧密工法の概念図 2.地盤強度の増加とその評価 既往の研究において、泥炭地盤における真空圧密工法は、安定性に関して高い改良効果を示すことがわか っている例えば1)2)。すなわち、圧密による地盤強度の増加が著しいのが特長である。この長所を設計上見込 む必要がある。 そこで、一般国道 337 号道央圏連絡道路・美原バイパス(北海道開発局)の No.3∼No.5 ボックスカルバ ート箇所において試験施工を実施し、地盤強度の増加を評価した。当該地区は、典型的な泥炭地盤である。 試験施工の詳細は文献 3),4)に記載されている。真空圧密で改良された泥炭地盤の盛土載荷による変形モード は、未改良の泥炭地盤と異なること1)から、盛土中央、法肩ならびに法尻の3箇所において真空ポンプ停止 後にダッチコーンを実施し、盛土完成後の地盤の非排水せん断 1.0 強度を測定した。図−2に各土層の強熱減量と非排水せん断強 美原BP-No3 度の増加率の関係を示す。図中には、増加率の一般値も併記し 熱減量 40%以上では一般値よりも高い値を示すことがわかる。 沈下の圧密度と間隙水圧の圧密度が同じと仮定すると、図− 2の近似式である 1)式にて圧密による非排水せん断強度の増 加が算定できる。設計においては、1)式で強度増加率を求め、 2)式にて圧密後の地盤強度を算出し、盛土完成時のすべり安全 △Cu/ △σv’ た。強熱減量が増加するに従い、強度増加率が大きくなり、強 0.6 0.4 0.2 粘土の一般値5) :0.25∼0.33 泥炭の一般値6) :0.35∼0.50 0.0 0 20 率を全応力法で解析することができる。強熱減量が 20%未満の 土については、粘土の一般的な値を用いて良いと考えられる。 △Cu/△σv’= 0.005Li + 0.30 美原BP-No4 美原BP-No5 0.8 図−2 強度増加率 m(△Cu/△σv’) = 0.005×Li +0.30 (Li≧20%) 40 60 強熱減量 (%) 80 強熱減量と強度増加率△Cu/△σv’ 1) ここで、Li:強熱減量(%) 圧密後の非排水せん断強度 Cu = Cu0 + m×△P×U 2) ここで、Cu0:原地盤の非排水せん断強度(kN/m2) △P:地盤内増加応力(△P = 盛土による増加応力 PE +設計負圧 PN2), kN/m2) U:沈下の圧密度 100 3.提案した評価法の検証 ここでは、提案した強度増加の評価法の妥当性を実際の挙 動と比較することで検証する。試験施工箇所では、非常に高 い盛土(10.3∼14.2m)が急速に施工(13∼26cm/day)され た。しかし、いずれにおいても、安定管理上、地盤の安定が 確認され、かつ盛土天端でのクラックなど破壊を予見させる 変状は一切発生しなかった。真空圧密工法の安定性に関する 改良効果の高さがわかる。 このうち、最大の盛土厚(14.2m)が施工され、安定性に 図−3 円弧すべり解析断面 関して最も厳しい箇所において、円弧すべり解析を実施した (図−3、表−1)。解析で得られたす べり安全率(以下、Fs)は表−2の 表−1 土質名 通りである。まず、一般的な強度増 泥炭 加率を用いたケースでは、Fs=1.15 シルト質粘土 であり、所要 Fs の 1.26)を満足し シルト質砂 ていない。しかし、実際には破壊を 粘土 砂質シルト 負圧 (kN/m2) 円弧すべり解析に用いた定数 原地盤の非排 水せん断強度 せん断抵抗角 (deg.) (kN/m2) 60 60 − 30 30 11 17 0 42 30 0 0 25 0 0 生じていないことから、改良効果を過小評価していることがわかる。一方、 図−2から強度増加率を決めたケースでは、Fs=1.25 と算出されており、 実態を表現できている。なお、所要 Fs=1.2 となる強度増加率 m を逆算し たところ m=0.59 であり、提案した方法から得られる m=0.62 とほぼ等し 強度増加率 5)6) 一般値 提案(図−2) 0.45 0.25 − 0.25 0.25 0.62 0.25 − 0.25 0.25 表−2 圧密度 0.83 0.83 − 0.62 0.67 解析結果 ケース 解析された すべり安全率 一般的な強度増加率 1.15 提案した方法で設定 1.25 い値であった。 4.あとがき−工費縮減と工期短縮について− 本検討において、泥炭地盤の特殊性を考慮した真空圧密による地盤強度増加の設計法を提案することがで きた。これによって、既に設計法が確立している他の対策工法と改良効果の事前比較が可能となった。 改良効果の他に重要な比較事項として、工期と工費があることは言うまでもない。紙面の制約上、詳細は 記載できないが、試験施工箇所にお 表−3 いてシミュレーションした結果を表 真空圧密工法 DJM工法 0.25 1.0 真空圧密工法 プレロード工法 3年 6年 −3に示す。従来、泥炭地盤対策工 工 費 として用いられてきた工法と比較し て、工費縮減と工期短縮が可能であ 工 期 工費と工期のシミュレーション結果 備 考 DJMの工費を1として比較 備 考 供用後3年間の残留沈下≦10cmとして解析 る。ただし、本工法について、長所 ばかりではなく、盛土周辺地盤の変形が発生することなどの短所も明らかになってきている。決して万能な 工法ではないことを理解した上で、採用する必要がある。 また、最近、中間砂層部分の鉛直ドレーン材の遮水あるいは気密シートが不要な施工法など、更なる技術 改善が図られている。今後、その効果などを検証していく予定でいる。 【参考文献】1)林 宏親・西本 聡・澤井健吾・菅藤善之:泥炭性軟弱地盤における真空圧密工法の改良効果とその評価、第 48 回地盤工学シンポジウム論文集、pp.449-456、2003. 2)林 宏親・西本 聡:泥炭地盤における真空圧密工法の設計法 および施工管理法の提案、第 48 回北海道開発局技術研究発表会概要集 CD-R、2005. 3)菅藤善之・難波 務・奏 地大:泥 炭性軟弱地盤における真空圧密工法の試験施工について、第 46 回北海道開発局技術研究発表会概要集 CD-R、2003. 4)秦 地大・菅藤善之・林 宏親:泥炭性軟弱地盤における真空圧密工法の試験施工について(最終)−残留沈下の低減を目的とし た設計・施工法の提案−、第 47 回北海道開発局技術研究発表会概要集 CD-R、2004. 5) 土質工学会:軟弱地盤対策工法− 調査・設計から施工まで−、pp.65-66、1988. 6)北海道開発土木研究所:泥炭性軟弱地盤対策工マニュアル、pp.50-51、2002.
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