土石流・流木対策への鋼製構造物の適用に関する調査 水山高久*・里深好文**・中谷加奈*** 1. 研究の目的 平成 24 年 9 月に阿蘇山カルデラ内では集中豪雨があり崩壊、土石流が発生して土砂災害となっ た。ここでは 22 年前の豪雨で土砂災害が発生し、流木による災害が顕著であったところから鋼製 透過型の砂防堰堤が建設された。今回の災害ではこれらの構造物が効果を発揮した。災害復旧(災 害関連緊急砂防事業)において、熊本県は透過型砂防堰堤の適用を提案したが、災関事業は不透過 型にするように国土交通省砂防部からの指導があり、透過型が採用できなかった。次の災害を考え ると透過型が適していると思われるのに採用できないのは、鋼製透過型構造物の効果に関する証明、 アピールがまだ不足している事が考えられる。そこで、汎用土石流シミュレーターのKANAKO を使って、種々の条件で系統的な計算を行い、鋼製透過型砂防堰堤の効果の理解の浸透に寄与する ことを目指した。 2. 研 究 の 方 法 実際の土石流危険渓流の中から下図の典型的と思われるものを 1 箇所選び、こ こに透過型の鋼製砂防構造物(砂防堰堤)の高さ、開口幅、格子間隔などを系統 的に変化させ、土石流の制御効果への影響を系統的に評価した。流域面積は 0.32km2 で あ る 。 主 流 路 長 は 、 約 1,000m あ る 。 下 の 表 は 、 共 通 の パ ラ メ タ ー で あ る。 パラメータ 数値 3 砂礫(小粒径粒子)の密度(kg/m ) 3 * 2650 水の密度(kg/m ) 1180 河床の容積濃度 0.6 砂の内部摩擦角 0.7 河床における大粒径粒子の存在率 0.5 河床における砂礫(小粒径粒子)の存在率 0.5 重力加速度 9.8 侵食速度係数 0.0007 堆積速度係数 0.05 流れの閾水深(m) 0.05 水深の最小値(m) 0.01 土砂濃度の最小値 0.0 マニングの粗度係数 0.03 計算点の総数 41 計算点の間隔(m) 10.0 シミュレート時間(秒) 1200 初期堆積厚(m) 0.0 川幅(m) 10.0 京都大学大学院農学研究科・教授,**立命館大学理工学部・教授,***京都大学大学院農学研究科・助教 3. 得 ら れ た 成 果 土 石 流 の 量 ( ピ ー ク 流 量 )、 堰 堤 の 高 さ ( 7 , 1 0 . 5 , 1 4 m ) を 変 化 さ せ て 計 算 し た 。 なお、格子間隔は最大粒径と同じとした。また、比較のために不透過型砂防堰堤 が満砂(水平、元河床の1/2の堆砂勾配)している場合の計算を行った。下の 図は結果の出力例である。 透過型砂防堰堤で土石流が捕捉される様子が再現された。 満砂した不透過型との差を見ようとしたが、供給土石流波形の最後まで土砂濃度が高い 設定をしたので砂防堰堤上に急勾配で堆砂し、それなりの効果を示したため大きな差にな らなかった。さらに、現行基準の土石流量、ピーク流量が大きいことも差が出ない原因で ある。3 段階の土砂量(土石流ピーク流量)の一番小さいケースでも比流量にして 343.8m3/sec/km2 もあり大き過ぎるのではないと考えられる。 砂防事業の分野では、大きな土砂量を想定する事は安全な対応に繋がると言う傾向が見 られるが、過大な計画量は、不合理な対応となる危険性があり、早急に見直しが必要であ ることが示唆された。 4. 謝辞 この研究は、砂防鋼構造物研究会からの委託によって実施された。関係各位に謝意を表します。 参考文献 1)中谷加奈ら(2008) :GUI を実装した土石流一次元シミュレータ開発,砂防学会誌,Vol.61,No.2, p.41-46
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