日本ピラー工業 株式会社 - 大阪府工業協会

◇ 会員企業訪問 ◇
時代のニーズに合わせた製品開発と『技術立社』の精神
日本ピラー工業 株式会社
岩波 清久 代表取締役社長
(創立65周年記念事業実行委員会 副委員長)
大阪府工業協会の会員企業訪問。創立65周年を
迎える今月は【日本ピラー工業 株式会社】を紹
発・投入してきたことで、90年という長きにわ
たって事業活動を継続できたのだと思います。
介いたします。
「流体の漏れを止める技術」を基本としながら、
材料技術、設計技術、加工技術など固有の流体制
御技術を活用し、メカニカルシール、グランド
パッキン、ガスケットなど産業用シール製品のほ
か、半導体・液晶製造装置用ふっ素樹脂製品な
ど、独創的な製品を開発し続ける同社。
創業当時から続く「知的財産保護」の取り組み、
他社の先駆けとなる高度な独自技術を基にした製
品開発、そして新たな分野へチャレンジする「技
術立社の精神」について、岩波清久 代表取締役
社長にお話しを伺いました。
(岩波 清久 代表取締役社長)
■ 会社概要と業容拡大の契機となった製品
日本ピラー工業 株式会社
― まず会社の沿革についてお聞かせください
所在地:大阪市淀川区野中南2-11-48
業 種:流体制御関連機器製品の製造販売
資本金:49億6,600万円 従業員:489名
URL:http://www.pillar.co.jp
創業は1924年(大正13年)
、今年で創業90周年
を迎えました。もともとは船舶用レシプロエンジ
ンに使われるシリンダーグランド用漏れ止めパッ
キンの製造からスタートし、その後当社のコアで
ある材料技術を駆使してメカニカルシール、ピラ
成長市場に最適な製品を開発・投入するという
フロンを開発しました。創業当時の1920年代は、
のは、創業以来“流体の漏れを止める”ことで培っ
船舶・造船業の勃興期と言いますか、まさに日本
てきた材料技術や設計技術、加工技術といった既
が造船大国へと成長していく曙の時代でした。そ
存技術をベースに、それを応用して、なおかつあ
ういった成長市場に当社のパッキン、漏れを止め
る程度の規模と成長性を秘めた市場をターゲット
る技術が使用され始めたことで、事業の拡大へと
に製品開発を行うということです。
繋がっていきました。
絶え間ない技術の開発・革新こそが当社の生命
今、あらためて当社の歴史を振り返ってみます
と、それぞれの時代の成長市場に最適な製品を開
線であり、技術を通じて社会に貢献するという
「技術立社の精神」が当社には根づいています。
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―『「技術立社」の精神』というキーワードにつ
― なぜ半導体・液晶製造装置用フッ素樹脂製品
いて、もう少し詳しくお聞かせください
の製造を始められたのでしょうか
当社の製品は石油精製プラントや船舶、発電所
創業以来、
「流体の漏れを止める技術」を用い
などで使われています。過酷な環境下で用いられ
た機能部品を製造してきました。しかし「産業の
る製品だけに、求められる品質や技術は非常に厳
米」と言われるほど、半導体は現代社会にとって
しいものがあります。しかし、顧客から求められ
必要不可欠なもの、日本の産業の中核を担う時代
る厳しい要求に応え続けてきた結果、当社の製品
になってきました。最初にお話ししましたよう
には他社にはない高付加価値を備えていると思い
に、事業継続のためには当社固有の技術を活用
ます。
し、その時代の成長市場に最適な製品を開発・投
極端な話ですが、水道のゴムパッキンも流体の
入する必要があるという考えのもと、何か当社が
漏れを止める技術です。しかし当社が作る製品
貢献できることはないかと模索した結果、配管と
は、顧客の高度な要求に応えるべく、
「高度な材
配管を繋ぐ「継手」に注目しました。
料技術」と「高度な設計技術」
「高度な生産技術」
をもって製造しています。
また、もうひとつの特徴としては、共同開発へ
の積極的な取り組みを続けてきたことです。当社
の技術開発の歴史は、共同開発の歴史と言っても
過言ではありません。自社単独の研究には限界が
あるうえに、技術志向と言いながらも博士号をも
つような優秀な人材を大企業のようにはなかなか
確保できません。当社の規模では最先端の技術に
触れる機会も少ないので、ならばそういう方々と
スーパー300タイプピラーフィッティング ®
一緒に共同開発していこうと。二人三脚で最適な
パッキン、メカニカルシール、ガスケットの開発
半導体の製造にはさまざまな薬液を使用しま
に取り組んでいます。また、理化学研究所におら
す。しかし薬液の搬送ラインに使用されている配
れた先生を非常勤役員に迎えて技術指導していた
管と配管のジョイント部分から微量ながら
「漏れ」
だくなど、広い意味で産学官連携にも積極的に取
が発生していました。何が問題かと言いますと、
り組んでいます。技術をもって社会に貢献する、
薬液には塩酸などが用いられており、これが漏れ
まさに「技術立社の精神」です。
ると分子レベルで蒸気化し、ウエハーに落ちる。
一見すると何も問題がないように見えますが、分
子レベルで付着していますので不良品になってし
まいます。クリーンルーム全体に行きわたると、
もはやクリーンルームの意味がありません。そう
いったことから半導体メーカーは非常に困ってい
ました。
そこで、
「漏れ」を止める技術が必要ならば当
社に任せてくださいと。さらに、当社が製造して
いる樹脂製継手はもともとケミカル用のメカニカ
ルシールで使われていた素材からヒントを得てお
同社が製造するポンプ用メカニカルシール
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り、さまざまな薬品に強い耐性を持っています。
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当社の強みである「漏れを止める技術」と「材料
D・品質保証・生産・物流と工場機能の全てを備
技術」を活かせる絶好の環境です。この製品は世
えており、まさに当社のマザー工場としての位置
界でも大きなシェアを占めており、特許も取得し
づけです。生産品目としてはメカニカルシール、
ています。今では産業用シール事業と並ぶ当社の
グランドパッキン、ガスケットを製造していま
メイン事業の一つです。
す。福知山事業所は電子機器関連、半導体や液晶
製造装置向けの製品を主として、ふっ素樹脂を
― 昔に比べ流体制御技術も大きく変わってきて
いるのでしょうか
使ったピラフロン製品を製造しています。熊本の
九州工場はテクノパークに位置し、こちらも福知
漏れを止める根本的な技術は変わっていません
が、製品の使用環境が「高速化」
「高圧化」
「高温
山事業所と同様に半導体製造装置向け製品を製造
しています。
化」と、非常に厳しくなってきていると感じます。
例えば火力発電所などでは発電効率の向上を目指
して、「超臨界圧発電システム」を導入していま
(三田工場)
す。これは非常に高温・高圧力のもと、高速で
タービンを回して発電するシステムなのですが、
そのためには周辺技術や周辺製品にも高度な技術
力が要求されます。実際のところ火力発電の変換
効率はまだまだ低く、20%から30%程度です。発
電効率をいかに向上させていくかが、環境対策・
省エネにつながっていきます。そういった期待に
(福知山事業所)
応えていくことが当社の使命であり、存在価値で
もあります。
― 発電所に用いられる製品であれば、非常に高
い品質が求められるのではないですか
(九州工場)
当社では1995年に ISO9001を取得したのです
が、ISO が世の中に普及し始めたとき、これは当
社の品質保証体制にまさに合致する規格だと思い
ました。というのも、当社では「品質第一・和衷
協力・一歩研究」を社是に掲げており、いわば
― 御社ではアジアに限らず中東・ヨーロッパ・
ISO を取得する前から取り組んでいた品質保証体
アメリカへと進出されておられますが、今後
制が、国際的な規格となって認められ、そのまま
の海外展開についてお聞かせください
認証取得を果たしたようなものです。業界に先駆
1993年にシンガポール、そして1999年にアメリ
けて取得したことで信頼性の高い製品作りや顧客
カへ拠点を設けたことをきっかけに、現在では韓
からの信頼獲得にも大きく役立ちました。
国・中国・台湾・シンガポール・ドバイ・イン
ド・アルジェリア・米国の8ヵ国に海外営業拠点
■ 生産体制と海外展開の見通し
があります。海外展開には力を入れています。
― 国内工場は三田・福知山・熊本の3拠点です
当社の製品は国内だけでなく、海外のいろいろ
が、それぞれの位置づけをお聞かせください
なプラントなどでも使っていただいております。
兵庫県の三田工場は当社の主力工場で、R&
そうすると現地に拠点を設けて現地の声を吸いあ
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げることが重要になってきます。日系のプラント
ません。しかし新技術・新製品の開発はマザー工
メーカーからの意見や、実際のプラントユーザー
場である三田工場で行っていきたいと思っていま
からの情報収集が非常に大事で、交換部品の供給
す。国内で新しい技術を確立し、それを海外に水
や技術対応をスピードアップする必要がありま
平展開していく。その気持ちは今までも、今後も
す。また、汎用的な部品だけではなく、カスタマ
変わることはありません。
イズした部品の製造も求められています。
― 8ヵ国にある拠点は全て販売・サービス拠点
でしょうか?
シンガポールとアメリカに関しては今のところ
販売・サービス拠点と位置づけています。実は初
の海外拠点となったシンガポール進出は、ある取
引先からお話しをいただいたことがきっかけでし
た。現地にプラントを建設するので、一緒に海外
進出しませんかと。当然のことですが、メカニカ
全世界にまたがる同社のネットワーク
ルシールは劣化していきます。当社にとってもメ
ンテナンス需要や補修品などの交換需要があり、
― 現地ローカル企業、特に中国では模倣品対策
ある程度の売上が見込めることもあり、販売・
に苦慮されておられるのではないですか
サービス拠点として進出しました。
確かに中国での模倣品は非常に多いです。メカ
8ヵ国にある海外拠点のうち中国・台湾・韓国
ニカルシールやパッキンに関して言いますと、
の3ヵ国は生産拠点です。韓国は現地企業と合弁
ローカル企業の数は200社をくだらないかもしれ
会社を設立し、台湾と中国は独資で活動していま
ません。しかし、製品の形だけを真似されている
す。中国・台湾・韓国の進出についてもシンガ
うちは、当社の技術的優位は揺るがないと思って
ポールの進出と同様に取引先からの要望がありま
います。例えばメカニカルシールを使用する環境
した。海外生産を始めるので当社も一緒に現地生
を挙げますと、水や排水を止めるだけの単純な環
産を始めて、なおかつコストの安い製品を供給し
境なら模倣品でも良いかもしれませんが、可燃性
て欲しいということでした。当社としては、海外
ガスが漏れて爆発する、公害を引き起こすような
へ進出するにもリスクあり、国内だけに留まるに
排水を扱う、放射能が漏れると大惨事になる原子
もリスクありという状況でしたが、縮小していく
力発電所など、高度な技術が求められる環境で使
国内市場だけで生き残っていくのは難しいと判断
われる製品に関しては、やはり当社に引き合いが
し、思い切って海外生産を始めました。
くることが多いです。模倣しても形はできるが、
材料成分やちょっとした設計の仕様が違い、メカ
― 今後は東南アジア含め生産拠点の拡大も視野
に入れておられるということですか?
ニカルシール本来の性能が発揮されません。日系
企業さんでもコスト面を重視してローカル企業の
東南アジアは今後、シンガポールを主要拠点と
製品を採用されることもありますが、クレームや
して展開していきたいと考えています。当然なが
メンテナンスに追われ、結果として当社の製品を
らローカル企業とも取引が始まるかもしれません
あらためてご利用いただく場合が多々あります。
し、顧客やマーケットが広がる可能性がありま
いくらコストが安くても、トラブルがおこっては
す。海外で注文をとって、現地で作って現地で売
意味がありません。
る体制を作らなければ今後の発展はないかもしれ
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そうは言いながらも、ローカル企業の品質レベ
ルも徐々にあがってきています。当社はいかにし
■ 人材育成への取り組み
て「品質優位」のポジションを維持しながら、
「価
― 技術立社、海外展開、知財の保護も含めて、
格競争」に陥らない取り組みをおこなっていくか
やはり根幹には人材育成が強く求められると
が課題です。そのためにはやはり品質ありき、
思うのですが、御社ではどういった取り組み
技術ありきの経営を続けていく必要があると思い
をされていますか
ます。
当社の製品は職人が持つカンやコツといった部
分に頼りながら作られています。このノウハウを
■ 知的財産保護への取り組み
次世代に伝えるため、技能伝承の一環として「ビ
― 御社では創業当時から知的財産保護の意識を
ジュアルマニュアル」というツールを作成するよ
高くもっておられますが、現在の取り組みに
うにしています。これはベテラン作業者をビデオ
ついてお聞かせください
に撮影し、この作業ではどういった所にノウハウ
1924年に自社製品として最初に開発した「特許
があるかと解説しながら、伝承させています。ま
ピラーパッキン No.1」に代表されるように、技術
た、高齢者の再雇用制度を導入し、60歳を過ぎて
あってこその日本ピラー工業です。従って知的財
も働ける環境を整えています。これにはベテラン
産保護について
作業者が引退する前に、若手を一人前にしていた
はかなり力を入
だこうという狙いがあります。暗黙知から形式知
れています。相
へ。さまざまな工夫を凝らしながら人材の育成、
当数の特許を取
技能伝承に取り組んでいます。
得しており、社
内でも特許専門
― これから求められる人物象については
チームを編成し
「経営品質」という言葉がありますが、社員そ
ています。既存
れぞれが仕事の質を高め、活発に働けるように努
の特許を守るだ
めることが重要だと思います。そして自分の仕事
けではなく、戦
に対して結果を大事にしてほしいとも思います。
略的にどう活用
結果は良いときもあれば悪いときもあります。し
していくか、「攻めの特許・攻めの知財」の確立
かし結果をだすことで、なぜ良かったのか、なぜ
を目指しています。弁理士を招いて、特許の取得
悪かったのかをフィードバックできます。結果を
方法や、こんな技術も特許になり得るというよう
踏まえつつ新たな目標を設定して実行する。まさ
な勉強会を頻繁に開催しています。
にスパイラルアップです。
私の考えとして、世の中で差別化できることと
言えば、品質か価格だと思います。価格競争のス
テージでは争いたくないのです。そのためには高
― 最後に社長の夢をお聞かせください
「量の拡大」と「質の充実」を目指しています。
品質な製品、技術的優位性がないとお客様は評価
量の部分では200億前後の売上をより大きくして
してくれません。それを保つためには、技術や製
いかなければなりませんが、これは世の中の事情
品を知財で保護する必要があると思います。社是
に大きく左右されます。では質とは何か。当社は
に掲げている「品質第一」というのは、言い換え
環境企業であり、いかに省資源で安全でクリーン
れば技術的優位の確保と言えるかもしれません。
なものを社会に提供していくか。これが質のコン
その違いを守り続ける必要があります。
セプトです。社会にとって必要とされる企業であ
り続けたいと思っています。
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