金融資本市場 2014 年 12 月 17 日 全 6 頁 12 月日銀短観から読み解く企業の資金繰り 資金調達環境は依然として良好だが、資金繰り判断 DI は悪化 金融調査部 兼 パブリック・ポリシー・チーム 研究員 太田珠美 [要約] 日本銀行から全国企業短期経済観測調査(短観)の 2014 年 12 月調査結果が発表された。 企業金融関連 DI は、資金繰り判断 DI が前回調査から1%pt 低い9%pt、金融機関の 貸出態度判断 DI が前回調査から横ばいの 17%pt、借入金利水準判断 DI が前回調査か ら1%pt 低い-9%pt(最近)となった。資金繰り判断 DI は悪化しているが、金融機 関の貸出態度判断 DI は高水準を維持、借入金利水準判断 DI は低下していることから、 企業にとって資金調達環境が悪かったわけではないとみられる。 2014 年 10 月 31 日の日本銀行金融政策決定会合で「『量的・質的金融緩和』の拡大」が 打ち出され、金融機関の貸出姿勢は一層積極化しているものとみられる。しかし、国債 金利が低下する一方で、貸出金利や社債のスプレッドはこれまでのように縮小せず、企 業の実質資金調達コストは下げ止まっている。また、現金循環化日数が高止まりしてい ることも、企業の慎重姿勢の一因となっている可能性がある。 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/6 日銀短観(2014 年 12 月調査)公表 日本銀行(以下、日銀)から全国企業短期経済観測調査(以下、短観)の 2014 年 12 月調査 の結果が発表された。資金繰り判断 DI は前回の 2014 年9月調査(以下、前回調査)から1% pt 低い9%pt、 金融機関の貸出態度判断 DI は前回調査から横ばいの 17%pt となった(図表1)。 資金繰り判断 DI が前回調査比でマイナスになったのは、2011 年 6 月調査以来である。一方、金 融機関の貸出態度判断 DI の水準は前回調査と同様、調査対象企業の見直しを行った 2004 年 3 月調査以降、最も高い水準を維持した 1。 借入金利水準判断 DI に関しては前回調査から1%pt 低い-9%pt(最近)となった。先行き 判断は最近判断の低下と同様、前回調査から1%pt 低い0%pt であった。 図表 1 企業の資金繰り判断 DI・金融機関の貸出態度判断 DI(左図)、借入金利水準判断 DI(右図) (%ポイント) (%ポイント) 80 20 借入金利水準判断DI:「上昇」-「低下」 15 60 最近 10 先行き 5 40 先行き-最近 0 20 -5 資金繰り判断DI (年/月) 2014/6 2013/6 2012/6 2011/6 2010/6 2009/6 2008/6 2007/6 -20 2006/6 0 2005/6 2013/12 2012/09 2010/03 2008/12 2007/09 2006/06 2005/03 2003/12 -20 2011/06 金融機関の貸出態度 判断DI -15 2004/6 -10 (年/月) (注1)全規模・全産業の値。年月は調査年月。資金繰り判断 DI は資金繰りが「楽である」と回答した社数の 構成比(%)から、 「苦しい」と回答した社数の構成比(%)を減じたもの。金融機関の貸出態度判断 DI は金融機関の貸出態度に関して「緩い」と回答した社数の構成比(%)から「厳しい」と回答した 社数の構成比(%)を減じたもの。借入金利水準判断 DI は借入金利について「 (3ヶ月前と比べた)最 近(回答時点)の変化」および「先行き(3ヶ月後まで)の変化」について、 「上昇」と回答した社数 の構成比(%)から、 「低下」と回答した社数の構成比(%)を減じたもの。数値が高いほど「借入金 利が上昇した(する) 」と考えている企業が多いことを意味する。 (注2) 「先行き」は3ヶ月後の予想であるため、グラフでは先行表記している( 「先行き-最近」も先行表記) 。 例えば、2014 年 12 月調査の「先行き」および「先行き-最近」は、上図では 2015 年 3 月にプロット されている。 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より大和総研作成 1 2003 年 12 月調査以前と 2004 年 3 月調査以降の計数は連続しないため単純な比較はできないが、調査対象企 業の見直し以前にまで遡ると、1997 年 3 月調査以来の高水準である。 3/6 資金繰り判断 DI は横ばいに近い低下、金融機関の貸出態度判断 DI は高水準が継続 資金繰り判断 DI の全規模・全産業の数値は前回調査から低下しているものの、企業規模や産 業別にみると横ばいに近い低下であったものと推測される。企業規模別にみると、大企業は前 回調査から1%pt 低下しているが、中堅企業・中小企業はいずれも横ばいである(図表2) 。産 。 業別にみると、製造業も非製造業も前回調査から横ばいである 2(図表3) 図表2 30 資金繰り判断 DI(企業規模別) 図表3 資金繰り判断 DI(業種別) 15 (%ポイント) (%ポイント) 資金繰り判断DI:「楽である」-「苦しい」 資金繰り判断DI:「楽である」-「苦しい」 10 20 5 10 0 0 -5 -10 全規模 全産業 -10 大企業 -20 製造業 中堅企業 -15 非製造業 中小企業 (年/月) 2013/12 2012/09 2011/06 2010/03 2008/12 2007/09 2006/06 2005/03 2003/12 2013/12 2012/09 2011/06 2010/03 2008/12 2007/09 2006/06 2005/03 -20 2003/12 -30 (年/月) (注)全産業の数値。 (注)全規模の数値。 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より 大和総研作成 大和総研作成 金融機関の貸出態度判断 DI からは金融機関が引き続き貸出姿勢を積極化している様子が窺え る(図表4・5) 。2014 年 10 月 31 日に日銀が「『量的・質的金融緩和』の拡大」を決定してお り、金融機関の貸出意欲が一層強まったものとみられる。企業規模別にみると、大企業・中堅 企業は前回調査からそれぞれ1%pt、2%pt 上昇しており、資産規模の大きい企業がよりその 恩恵を受けている可能性が示唆された。 資金調達しやすい環境であったにもかかわらず、資金繰り判断 DI が改善しない理由の1つと して、前回調査と同様、企業の資金需要の増加(もしくは将来の支出増加が見込まれている) が考えられる。今回の短観でも設備投資計画が前年度比 5.5%増(全規模・全産業)と、前回調 査時点から 1.2%pt 上方修正されている。一方で売上高の計画は前年度比 1.4%増(全規模・全 産業)で、前回調査から 0.3%pt 上方修正されているものの、限定的である。売上げの伸び以 上に設備投資支出が増える可能性があり、今回の資金繰り判断 DI の結果となったものと考えら れる 3。 2 産業別ではいずれも前回調査比から横ばいであるにもかかわらず、全規模で計算するとマイナスとなるのは、 四捨五入等の関係とみられる(資金繰り判断 DI は「楽である」と回答した企業の構成比から、 「苦しい」と回 答した企業の構成比を減じたものである) 。 3 前回調査結果については太田珠美「9月日銀短観から読み解く企業の資金繰り」 (2014 年 10 月) (URL: http://www.dir.co.jp/research/report/capital-mkt/20141002_009006.html)を参照。 4/6 図表4 金融機関の貸出態度判断 DI 規模別) (企業 30 図表5 別) 金融機関の貸出態度判断 DI (業種 30 (%ポイント) (%ポイント) 貸出態度判断DI:「緩い」-「厳しい」 20 20 10 10 0 0 貸出態度判断DI:「緩い」-「厳しい」 全規模 大企業 全産業 -10 中堅企業 製造業 (年/月) 2013/12 2012/9 2011/6 2010/3 2008/12 2007/9 2006/6 -20 2003/12 2013/12 2012/9 2011/6 2010/3 2008/12 非製造業 2007/9 2006/6 2005/3 -20 2003/12 中小企業 2005/3 -10 (年/月) (注)全産業の数値。 (注)全規模の数値。 (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より (出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より 大和総研作成 大和総研作成 実質的な資金調達コストは低下していない 借入金利水準判断 DI は企業規模・産業にかかわらず、前回調査時より低下した。これは市場 金利のベンチマークとしての国債金利が低下したことによるものとみられる。ただし、日本銀 行が公表している「貸出約定平均金利」の推移をみると、都市銀行以外、明確な低下はみられ ない。 図表6 貸出約定平均金利(左図)、貸出約定平均金利-長期国債 10 年新発債利回り(右図) (%) (%) 1.5 3.0 1.2 2.5 0.9 2.0 0.6 1.5 0.3 1.0 都市銀行 0.0 地方銀行 0.5 第二地方銀行 -0.3 信用金庫 0.0 2007/01 長期国債10年新発債利回り 2008/07 2010/01 2011/07 2013/01 2014/07 (年/月) -0.6 2007/01 都市銀行 地方銀行 第二地方銀行 信用金庫 2008/07 2010/01 2011/07 2013/01 2014/07 (年/月) (注)新規の長期貸出約定平均金利。貸出約定平均金利は企業向けの貸出だけでなく、地方自治体向けや個人 向けの貸出も含まれる。 (出所)日本銀行「貸出約定平均金利の推移」より大和総研作成 5/6 企業が資金調達をする際に支払うコスト(市場金利に上乗せするプレミアム)は、これ以上 の縮小は難しいところまできているようだ。貸出金利については前回調査時のレポートで述べ たとおりだが 4、社債についてもスプレッド(国債金利に対する上乗せ幅)の推移を確認したと ころ、2013 年の間は格付けにかかわらずスプレッドの縮小が続いていたが、2014 年以降、AA 格・ A 格社債のスプレッドはほとんど変化していない。BBB 格のスプレッドは 2014 年の前半まで縮 。 小が継続していたものの、2014 年後半に入るとほぼ横ばいでの推移となっている 5(図表7) 図表7 社債のスプレッドの推移 (%、%ポイント) 2年国債の金利 0.50 (%) 2.4 AA格(国債とのスプレッド) 0.40 A格(国債とのスプレッド) 2.0 BBB格(国債とのスプレッド:右軸) 0.30 1.6 0.20 1.2 0.10 0.8 0.00 0.4 -0.10 2013/01 2013/04 2013/07 2013/10 2014/01 2014/04 2014/07 2014/10 0.0 (年/月) (注)社債の格付けは R&I のもので、スプレッドは各社債の利回りから2 年国債の金利を減じたもの(いずれも流通利回り) 。 (出所)日本証券業協会、Bloomberg より大和総研作成 企業の実質的な資金調達コストが下げ止まったことに加え、今後の経営環境の見通しが不透 明であることから、企業は資金繰りに対して慎重姿勢であるのかもしれない。企業の運転資金 の管理に用いられる指標として「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環化日数)」 というものがある。企業の収支のズレを示すもので、売上債権と棚卸資産の回転期間から買入 債務回転期間を減じたものであるが、数値が高いほど資金繰りにはマイナスということになる 6。 この推移をみていくと、2014 年 4-6 月期に大きく上昇している。2014 年 7-9 月期には若干低下 したものの、それでも 2009 年 4-6 月期以来の高水準である(全規模・全産業の場合) (図表8) 。 主因は棚卸資産回転期間の高止まりであるが、企業が現金を手にするまでの日数が若干長期化 4 前掲注 3 の太田(2014)参照 図表7の金利は流通利回りであり、厳密には企業の資金調達コスト(社債発行時に設定する金利)とは異なる が、基本的に発行金利は流通金利に連動するため、ここでは流通利回りを用いている。なお、実務では AA 格と A 格の社債は国債とのスプレッドをもとに、BBB 格の社債の発行条件はスワップレートとのスプレッドをもとに 決定されることが多い。 6 売上債権回転期間=(受取手形+売掛金(期首・期末平均) )÷1月あたり売上高、棚卸資産回転期間=棚卸 資産(期首・期末平均)÷1月あたり売上高、買入債務回転期間=(支払手形+買掛金(期首・期末平均) )÷ 1月あたり売上高。 5 6/6 していることも、資金繰り判断が改善しない要因の 1 つとなっている可能性がある。 図表8 現金循環化日数(左図)およびそれぞれの回転期間の推移(全規模・全産業、右図) (月) 2.6 全産業(除く金融保険業) 製造業 (月) 2.4 棚卸資産回転期間 売上債権回転期間 買入債務回転期間 非製造業 2.0 2.2 1.6 1.8 1.2 1.4 0.8 1.0 (年/期) (注)左図は全規模の数値、右図は全規模・全産業(除く金融保険業)の数値。 (出所)財務省「法人企業統計」より大和総研作成 2014/1Q 2013/1Q 2012/1Q 2011/1Q 2010/1Q 2009/1Q 2008/1Q 2007/1Q 2006/1Q 2014/1Q 2013/1Q 2012/1Q 2011/1Q 2010/1Q 2009/1Q 2008/1Q 2007/1Q 2006/1Q 0.4 (年/期)
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