省労作型マルチの開発 Study of labor-saving Mulch 物質・環境システム工学科 1080024 門田 富喜 要旨 現在の農業用マルチは塩化ビニルやポリエチレンなどの化石資源を主原料としたものが多 くリサイクルが困難で、土中に残ってしまうと分解しないため回収が義務付けられているが、 使用後の廃棄も問題とされている。根焼けなどを防ぐための地温上昇を抑制する紙マルチは 生分解性だが、分厚い・水に弱く破れ易い・強風で飛んでしまう、などの問題点が挙げられ る。また共通点にフィルムの敷設時や回収には労力がいり、高齢化した農業者には負担が大 きい。 そこで化石資源を主原料にせず、敷設・回収時の手間と労力を省ける生分解性の農業マル チを、カチオン化新聞故紙(MNP)懸濁液を主原料として作る方法を考えてきた。土表面へ MNP を散布して後、地温を測定し、雑草発芽率を観察した。またフィルムを作製し、保水機 能と透気度と引張強度を評価した。 土表面への MNP の散布によって紙マルチのように地温上昇を抑制できる事が判った。ま た MNP をすり潰した GMP(Ground Modified Pulp)は引張強度・透気抵抗度が向上して、紙 と言うよりは、フィルムに近い性質を持つことが判った。これより単一の素材から MNP は 紙マルチ的に、GMP はポリマルチ的な性質を選択できる材料と期待できる。 MNP は乾燥する際に土表面でひび割れや反り上がりが生じ、また耐水性に欠け単独での使 用は困難などの問題点があったが GMP によってある程度改善される。しかし強度や耐水性 を確保できるような素材と混合することで解決したい。 1 目次 緒言 1材料 1-2 材料調製 2実験方法 2-1 粘度測定 2-2 地温測定 2-2-1 MNP の塗布後の地温変化 2-2-2 各種サンプル塗布後の地温変化 2-3 水分保持機能 2-4 透気抵抗度 2-5 引張試験 3結果 3-1 粘度測定 3-2 地温測定 3-2-1 MNP の塗布後の地温変化 2-2-2 各種サンプル塗布後の地温変化 3-3 水分保持機能 3-4 透気抵抗度 3-5 雑草防除 3-6 引張試験 4考察 2 緒言 農業用マルチフィルムの主な機能は、地温保持(上昇抑制、下降抑制)、土壌水分の保持、 雑草の防除などがあり、肥料の効果向上、土中微生物の活性化などの効果を選択でき、作物 の発芽や苗の根付きが早く、生育が進み、収穫が早まるなどの利点がある。近年の農業、特 に野菜作りはマルチ栽培と言われるほど、マルチフィルムを多用した栽培方法がとられてい る。 マルチフィルムの主な原料は、塩化ビニルやポリエチレンで化石資源から作られている。 これらは汚染問題など環境に及ぼす影響が大きく回収が義務付けられているが、リサイクル が困難で使用後ほぼ廃棄物として処分されてきたワンウェイの資材である。貴重な化石資源 が使い捨ての状態で消費され、石油資源の高騰に伴い、値上がりも予測される。また、高齢 化が進む中でマルチフィルムは敷設や撤去作業に手間と労力がかかり農業従事者への大きな 負担となっている。現在、タンパク質などを原料にして微生物によって水と二酸化炭素に分 解される生分解性のマルチフィルムや、除去作業が不要な紙マルチも開発されているが、価 格が高い・分解速度が速い、などの問題点がある。その上これらでも敷設時の手間を省くこと は出来ない。 そこでスプレー散布による敷設が可能な液体マルチの開発を試みた。スプレーによる散布 が可能であれば敷く手間が省け、化石資源を用いず生分解可能な材料を主原料とすれば、畝 にスプレーするだけでマルチの効果を持ち使用後は畑にそのまま鋤き込める。そのような液 体マルチの開発を目標としてきた。これまでカチオン化新聞故紙(MNP)の単一の使用では 耐水性が弱く、また不均一な懸濁液でスプレー散布が難しかったため、MNP の改良を本研究 の目標とした。 3 1 材料 カチオン化新聞故紙(以後 MNP)を様々な濃度で、スターラーで攪拌したものをサンプル として用い、比較検討した。 1-2 材料調製 GMP・・・MNP 懸濁液を 24 時間ニットー自動乳鉢ですり潰した。 2実験方法 2-1 粘度測定 MNP を自動乳鉢で 24 時間すり潰した GMP の見た目による明らかな違いを数値で比較す るために超音波粘度計で粘度を測定した。 2-2 地温測定 2-2-1 MNP の塗布後の地温変化 まず MNP 単一での物性評価をするために、南国市前浜の砂地の地下3cmにボタン電池 型温度計(サーモクロン G)を埋め、土表面に MNP をスプレー散布したものを MNP、水を 散布したものを control として地温を測定した。測定期間は 2007 10/1∼11/8。 2-2-2 各種サンプル塗布後の地温変化 市販されているマルチフィルムと MNP、GMP との地温変化の差を検討するために以下の サンプルについて土佐山田町の畑の地下5cmにボタン電池型温度計を埋め地温測定した。 測定期間 2007 2/13∼2/17。 ・MNP ・GMP ・紙マルチ ・生分解マルチフィルム 4 2-3 MNP と GMP の保水力の検討 保水機能について検討するため、また市販のマルチと比較するために 100ml ビーカーに 50ml 水を入れ、ビーカーに蓋をするようにサンプルで覆い、乾燥器を 45℃にし、48 時間後 の水の残量をメスシリンダーで計った。control は蓋無しとした。蓋に使ったサンプルは以下 のものを使用した。 ・ MNP ・ GMP ・ 紙マルチ ・ 生分解マルチフィルム 上記の MNP と GMP については単一でのシート造りは乾燥時に収縮し困難だったため、白 いキムタオルを基盤に使ってシートを作った。MNP と GMP の2%懸濁液(乾重/V)をそれ ぞれ造り、 白いキムタオル1枚の上に 10×10cmの枠を重ね、 懸濁液を 50ml 枠内に塗布し、 これを冷風でゆっくりと乾燥させたものを使用した。 2-4 透気抵抗度測定 MNP と GMP を種々3 の度で土表面を被覆した場合を想定して、その特形成されるシート を模倣したシートを作り透気度を測定した。 場所:高知県立紙産業技術センター 試験機:Gurkey 試験機 DENSOMETER 円孔:直径 28.6±0.1mm 室温:23℃ 湿度:50% 円孔に試験片を挟み込み 100ml の空気が通過する時間を透気抵抗度とした。試験片は MNP と GMP の2%懸濁液をそれぞれ 25ml,50ml ずつ 10×10cm のプラスチックトレーで乾燥 させたものと、市販の紙マルチ、生分解マルチを試験した。サンプル1枚につき5カ所測定 し平均値を取った。 2-5 雑草防除 7×7cm 苗ポットにレンゲの種を 20 粒埋め、MNP と GMP それぞれ2%懸濁液を散布し た。Control には水をかけたものを用いた。 2-6 引張試験 2-3 の実験に使用した MNP・GMP のシートを同様に、2%懸濁液をキムタオル上の 10× 10cm の枠に 25ml,50ml 塗布したものを造り、10×50mm に切り取りショッパー型厚さ測 定器(安田精機製作所)を用いてフィルムの厚さを測定し、シリカゲルを入れた容器の中に 約 12 時間置き、引張試験を EZ-test 島津でテストした。 5 3結果 3-1 粘度測定 実験中、MNP を水に懸濁する際に攪拌したまま長時間放置していたものがゾル化したので、 物理的な力で繊維が細かくなったからではないかと思い、自動乳鉢を使って24時間 MNP をすり潰してみた。1%MNP 懸濁液を目視で比較するとすり潰し後のものは均一で細かいペ ースト状になり、24 時間静置後も明らかな沈殿は見られなかった。それで、これを区別して すり潰した MNP を GMP<Ground Modified Pulp >と称する。粘度測定の結果、GMP は MNP よりも粘度が 10 倍程度上昇し、1% に懸濁して土表面に散布して比較すると明らか に浸み込みにくくなった。 1%GMP 500 粘度 400 ・ s) (mPa 300 GMP 200 MNP 1%MNP 100 0 0 0.5 1 1.5 2 濃度(%) 図 3-1.MNP・GMP の粘度測定結果 3-2 地温測定 3-2-1 MNP の塗布後の地温変化 2007 年の夏、南国市の砂地での地温測定したうちの24時間のデータを示した。グラフよ り昼間の地温が著しく上昇する時間帯に MNP を散布することで地温上昇の緩和がはっきり と見られた。 6 40 気温︵℃︶ 30 control 20 MNP 10 6:00 4:00 2:00 0:00 22:00 20:00 18:00 16:00 14:00 12:00 10:00 8:00 6:00 0 日時 図 3-2-1.地温測定 3-2-2 各種サンプル塗布後の地温変化 市販のマルチと MNP・GMP について地温測定した結果、MNP、GMP 共に生分解性マル チの様な保温効果は見られず、紙マルチのような夏場の根やけなどを防ぐ地温維持効果を持 つ様に見られた。しかし、今回は真冬の測定だったので夏場に測定すると地温維持効果がは っきり見られることが期待できる。 20 18 control 16 MNP GMP 12 10 紙マルチ 8 生分解マルチ 6 4 2 2/16∼2/17 日時 図 3-2-2. 各種サンプル塗布後の地温変化 7 5:45 4:30 3:15 2:00 0:45 23:30 22:15 21:00 19:45 18:30 17:15 16:00 14:45 13:30 12:15 11:00 9:45 8:30 7:15 0 6:00 温度(℃) 14 3-3 MNP・GMP の保水力の検討 元の水量 50ml を 100%としてグラフの水分残量を%で表示した。MNP と GMP の双方の 間では大きな差は見られず、今回の実験規模では誤差程度しか差がなかった。しかし、市販 の紙マルチよりはビーカー内の水分蒸発を大きく抑制した。 水水 分分 残残 量量 %%( ) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 control MNP GMP 紙マルチ 生分解マルチ 各種サンプル 図3-3 MNP・GMPの保水力の検討 3-4 透気抵抗度 MNP は厚さによって透気抵抗度が変化するため、透気性については紙の性質に近いものと 考えられた。今回使用した市販の紙マルチはエンボス加工されていたため、厚さ測定は行な わなかったが、MNP1.0g と紙マルチは面積辺り同じ重量となる。紙マルチよりも MNP1.0g の方の透気抵抗度が高いことより、面積辺り紙マルチよりも少ない量でマルチとしての効果 が期待できる。 GMP は 10×10cm 当り乾燥重量で 0.5g・1.0g共にガーレー試験機では測定不能だったこ とから、紙と言うよりは性分解マルチの様な、フィルムに近い透気性に近づいていると考え られる。 8 4.9 sec/100ml 測定不能 MNP 0.5g GMP 0.5g 15.3 sec/100ml 測定不能 MNP 1.0g GMP 1.0g 3-5 7.5 sec/100ml 紙マルチ 測定不能 生分解マルチ 雑草防除 Control から芽が出たころ、MNP と GMP からは芽はあまり出ず、サンプルが乾き表面で 土と固っていた。塊をめくってみると、サンプルが土とくっついたことで、レンゲは土を貫 けずに地下で発芽していた。発芽後は MNP と GMP を散布したものは control よりも表面の 土に水分が見られ、水分蒸発を抑制できていると考えられる。 control (水) MNP GMP 9 3-6 引張試験 GMP は MNP よりもフィルム状での強度が高くなった。50g/㎡のサンプルの場合を見て、 GMP は MNP の2倍ほどの強度になることから、乾燥後は土表面で強く固まり雑草を貫かせ ない効果が期待できると考えられる。しかし、サンプルを作る際に乾燥方法の異なる場合に 標準偏差が大きくなり、乾燥方法によって強度は大きく変動すると考えられる。 80 70 強度︵ ︶ N 60 50 GMP MNP 40 30 20 10 0 0 25 50 75 100 1m 2 当りの乾燥重量(g) 図 3-6 引張試験 4考察 MNP を物理的にすり潰して GMP にすることで不均一だった液体が均一に近いゾル状にな りスプレー散布の可能性が生まれた。地温測定より MNP、GMP 共に夏場の地温上昇抑制す る効果が見られ、市販の紙マルチのような根やけなどを防ぐ効果が期待できる。 また保水力については紙マルチよりも高い効果を期待できそうなので、今後は実践的に畑 でスプレー散布した場合の保水力を検討できるように試みたい。 今回の研究を通じて、MNP、GMP をスプレーできるのは 90%以上が水であることから、 面積辺りに散布する量が多い。今後は MNP と GMP の濃度を上げても容易に散布できる方 法と、耐水性に欠ける点を、他の材料との配合までによって改善していきたい。 10 謝辞 本研究を行なうにあたり、実験から論文作成に至るまで豊富な経験と才覚で御指導と御助 力を賜った高知工科大学 総合研究所 向畑恭男教授に深く感謝いたします。 本研究遂行にあたり御協力と御助言をいただいた高知工科大学堀澤栄助教授に深く感謝 いたします。 また、常に御迷惑をおかけし、常に御協力を頂いた関裕美氏、劉迎春氏、辻井綾香氏、 大石裕史氏、太根聖一郎氏、恒石寛実氏、中西善信氏、古川琴絵氏及び環境生物工学研究室 の卒業生及び在籍する諸君に深く感謝申し上げます。 11
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