中規模ホールでのライブ音楽ショー - 音響特機

SIA Case Study No.5
中規模ホールでのライブ音楽ショー
by ウルトラサウンド / プロメディア ドン・ピアソン
つい最近、1050 席のホールでロックのライブショーをてがけた。この会場はショーのシステムエンジニアである私に、多く
の課題を与えてくれた。メインスペースは幅 60 フィート ( 約 18m)、奥行き 100 フィート ( 約 30m)、天井高 30 フィート (10m)
という大きさだ。後部と下手の壁にはバルコニーが突き出している。その下手の壁に沿って、メインフロアとバルコニーのど
ちらにもバーに向かう開口部がある。ステージは一方の端にあってほとんど幅いっぱいに広がっており、奥行きはおよそ 25
フィート ( 約 7.5 m ) あり、その上手側には 8 フィート ( 約 2.4m) の避難通路が付いていた。
メインフロアのうち背面と両側面の壁から 20 フィート ( 約 6m) はカーペット敷きだが、ステージの正面には 50 フィート ( 約
15m) × 20 フィート ( 約 6m) のカーペットを敷いていない ( つまり反射が強い ) ダンスフロアがある。ステージ自体は構造が
貧弱で内部には音を吸収したり弱めたりする素材は何も入っていなかった ( 地元消防署のリクエストだそうで、さらに警報機や
センサーを付けなければならない事情もあった )。上手とステージ後方の壁は床から天井までカーテンで覆われており、カー
テンと壁のすき間は 12 インチ ( 約 30cm) ほどだ。
このホールには固定設備として高品質のコンポーネントが入っていたが、そのシステム構成は私がみたところ理想的とはい
えなかった。ハウスシステムは 4 ウェイスピーカーを 2 本水平に密着させたアレイで、ステージの両脇にリギングされていた。
そのクラスターからセンターダウンフィルとして小さめのパワードスピーカーが 1 本吊られている。ステージ左右の角にはそ
れぞれ電源を取るための切り込みがあり、その下の床に 18 インチデュアルユニットのサブウーファーが置いてある。
私はシステムをイコライゼーションするために Meyer Sound の CP-10 と BSS の Varicurve を 2 台ずつ、合計4台のパラメ
トリックイコライザーを使った。システムの片側あたりに CP-10 と Varicurve を 1 台ずつ ( 直列にして ) 接続した。モノラルにす
ると Varicurve で 12、CP-10 で 10 のパラメトリックフィルターを使えるようになるので、メインチャンネルにはそれぞれ 22 のフィ
ルターを用意できることになる。
私が測定に使ったシステムは、ヒューレット・パッカードのノートパソコン Omnibook 5700ctx と Smaart Pro ver. 2.1、B&K
のマイク 4011 を 2 本、それに Smaart Pro 用のカスタム MIDI コントロールスイッチャー / ミキサーだ。Varicurves と MIDI
スイッチャー / ミキサーは MIDI アダプターケーブルでパソコンのゲームポートに接続した。これでスイッチャー / ミキサーと
Varicurve は両方とも Smaart Pro から直接制御できることになる。スイッチャー / ミキサーからの音声信号はパソコンの内蔵
ラインレベル入力に直接送っている。
最初の測定は ( 部屋が空の状態で ) メインスピーカーの直接音場で行った。私はまず、スピーカーアレイの正面で部屋の
奥行きのおよそ 2/ 3の位置にマイクを置いた - 重要な距離にあるよう注意しながら。重要な距離とは、前方からの直接音よ
りも背面の壁からの反射音が聞こえるようになるポイントだ。
最初の任務はシステム中の各ユニットが正しく動作しているか、正しい極性で接続されているか、そして能率がほぼ等し
いかを確かめることだった。このため ( ソース信号としてピンクノイズを使い )、必要に応じてアンプの音量をチャンネルごと
に上下したりスピーカーケーブルを外したりもした。私は Smaart Pro のディレイロケーターをリニア振幅スケールに設定して
全体の振幅を見ると、さらに時間スケールを振幅が高いところで拡大して初期到達音が正と負どちらへ向かうのかを見た。
コンポーネントがすべて適切に動作していることを確認して満足した私は、次にシステム全体の周波数特性を調整する作業
に移った。Smaart Pro のディレイロケーターでスピーカーとマイクの間のディレイタイムを検出した後、私は伝達関数を見た。
このときはゆるやかな平滑化オプションを使い、FPPO に設定している。
Case Study 5 - Live Music Show in a Midsized Auditorium
図1:FPPO でオクターブ分解能の伝達関数を測定したときのシステム周波数特性そのもののデータ。大き
なこぶが 60Hz に出ている。これは「テイクオフ」( 音響学的には共鳴 ) させようとするステージの穴が原因だ。
この問題に対処すべく、私はサブウーファーに送るレベルを全体的に 6dB 下げた。
図2:システム調節に使った反転イコライザー特性。このトレスは本番の最初の頃にキャプチャーしたものだ。
ノイズソースが音楽だったのでトレスにはややなめらかさがない ( そのとき低域エネルギーがあまりなかった
のだ )。
Case Study 5 - Live Music Show in a Midsized Auditorium
最初のイコライザー設定はマイクを元の場所に置いてピンクノイズで行った。それからリファレンスマイクをハウスフロントの
ミックスポジションに移動した。マイクはブースの両前角に 1 本ずつ設置した。ブームスタンドを使ってできるだけ遠くにのば
せるようにしておいので、マイク同士はおよそ 15 フィート ( 約 4.5m) 離してあったことになる。
このこと自体がここでもう 1 つ、複雑な問題を提起した。ミキシングブースは部屋の後方でバルコニーの真下にあり、避難
通路のためにステージ - したがって PA - の中心からややずれていたのだ。その結果、私は左右のスピーカーシステムか
らの直接音の到達時間差に対処しなければならなかった。
図3:イコライジング後の周波数特性。 観客が入った状態でマイクはハウスフロントミックスポジションに設置。
この時点でバンドはリハーサルとサウンドチェックを行っていた。このため以降の測定は音楽をソース信号として使っている。
私はその夜の間自分の主観的な判断と Smaart Pro 両方を使って状況の変化に応じてシステムイコライザーを微調整し続けて
いた - ミキサーでのミックスをリファレンス信号にし、測定マイクは前述の通りミキシングブースに置いたままだ。
Smaart にはシステムの特性を正確に評価したり反転したイコライザーカーブを重ねて表示する能力があり、システムイコラ
イゼーションの際に発生する問題に対処するとき極めて有効なツールだ。ショーそのものを測定ソースにできるため、本番中
にシステム調整ができるし、本番中のサウンドをより良くできることに気づいたのだ。
SIA より:ドン・ピアソンはちょっとした音響マニアだ。「マニア」という言葉は少し古くさいかもしれない。ドンには今
後も音響的な疑問に答えたり、奥の深い理論と実践について、または特定の問題に対処するときの基本的な考え方を
教えてくれるようお願いしたい。ウルトラサウンドの創設者として、そして今ではプロメディアのコンサルタントとして、
ドンは 25 年以上もの間サンフランシスコで、あるいは世界中のライブシーンで活躍してきた。グレイトフル・デッドの
システムエンジニアを 17 年以上も務める中で、ドンはあらゆる状況に直面してきた。近年ドンは音声制御システムやネッ
ト上で音声を扱ういくつかの会社とつきあい、私たちのような音声 / 音響測定ソフトウェアを開発する小さな会社とも活
動を共にしてくれている。一方で私たちにとってドンは最も活発な「アルファ」テストの現場であり、ほとんど毎日の
ように SIA ソフトウェア製品の変更や拡張を提案してくれている。SIA のサポートフォーラムで、このケーススタディや
Smaart 製品、音声、ライブサウンドやマリン郡での生活などについて質問すれば、ドンが答えてくれるだろう。
Case Study 5 - Live Music Show in a Midsized Auditorium