酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価 - 昭和電線

酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価
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酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価
Development of High-output Oxide Type Thermoelectric Modules
中村倫之
岡田彩起子
箕輪昌啓
Tomoyuki NAKAMURA
Sakiko OKADA
Masahiro MINOWA
酸化物熱電変換モジュール出力の向上を目的として n 型素子材料と素子形状を変更し出力密度を 700 W/m2
まで向上させた。また,小型モジュールを用いた耐久性評価により,実使用環境を模擬したモジュールの耐久
性を明らかにした。
We investigated the composition and shape of elements in order to improve the output of the module. As a result, the
output of the module had been increased to 700 W/m2 which is about three times than before. In addition, we evaluated the
durability of the module simulating the actual operation environment.
1.は じ め に
た熱電変換モジュールの発電性能について報告する。また,
現在,エネルギー資源の枯渇が深刻な問題となっており,
原油価格の高騰も相まって,省エネルギー化による消費エ
これらの材料を用いた小型モジュールを作製し,実施した
モジュール耐久性評価結果についても報告する。
ネルギー削減が重要課題となっている。また,温室効果ガ
2.熱電変換モジュール
スである二酸化炭素(CO2)は,化石燃料を燃焼した際に
多量に発生するため,地球温暖化を防止するためにも環境
熱電変換モジュールは,p 型半導体,n 型半導体の 2 種類
への負荷が小さいクリーンエネルギーの活用が急務となっ
の材料から構成される。n 型半導体素子の片端に熱を加え
ている。近年,このようなエネルギー問題を解決する一つ
ると,温度が高い部分で伝導電子のエネルギーが高くなり,
の手段として,未利用エネルギーを有効活用できる熱電変
温度が低い部分に伝導電子が移動することで素子内に電位
換技術が注目されている。日本では年間に原油換算して数
差が生じ,熱起電力が発生する。一方で p 型半導体素子は
億 kl もの一次エネルギーを消費しているが,その約 70 %
正電荷を帯びた正孔が温度の高い部分から低い部分に移動
1)
は未利用のまま廃熱として大気中に放熱されている 。
することで熱起電力が発生する。この現象はゼーベック効
しかし,この莫大な廃熱エネルギーは分散しており,回
果と呼ばれている。n 型と p 型半導体素子を直列に対とし
収は非常に困難である。このような難題を解決できる技術
外部負荷を接続することで電流が流れ,電力を取り出すこ
の一つとして,発電にスケール依存性がなく発電時に CO2
とができる。模式図を図 1 に示す。
ガスを排出しない熱電変換素子が注目を集めている。
2005 年には(独)産業技術総合研究所が空気中 800 ℃で作動
熱電素子
させても性能が劣化しない酸化物熱電材料(p 型 Ca3Co4O9,
COOL
n 型 LaNiO3)を用いた発電モジュールを開発した。そこで,
当社でも今までに培ってきた電線ケーブル製造技術や酸化
金属電極
物超電導技術を応用し,2006 年よりこれらの材料を用いた
酸化物熱電変換モジュールの開発に着手した 2)。
しかし,酸化物熱電材料は高温でも安定であるが,他の
セラミックス基板
P
N
P
温度差→電圧
HOT
金属間化合物熱電材料と比べて発電性能が低く,また p 型
材料の Ca3Co4O9 と比較して n 型材料の LaNiO3 は性能が低い。
そこで本報では,n 型酸化物熱電材料を LaNiO3 から性能向
上が見込める CaMnO3 へ変更し,さらに素子形状を円柱か
ら角柱にすることでモジュール基板内の素子占有率を上げ
図 1 熱電変換モジュール模式図
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
20
Vol. 59, No. 1 (2012)
価結果として出力因子を図 2 に示す。出力因子とは,ゼー
3.酸化物熱電材料
ベック定数の二乗と導電率を掛けた値で出力因子が高いと
熱電性能を示す指標の一つとして無次元性能指数(ZT)
発電出力が大きくなる。従来の LaNiO 3 よりも CaMnO 3 は
があり,次式に示す。
出力因子が高く,中でも CaMnO3 に Bi と Gd を置換した組
2
成(Ca(Bi・Gd)MnO3)で最も高い出力因子となった。この
S
ZT =─・ T
ρ・κ
ことから n 型材料を LaNiO3 から Ca(Bi・Gd)MnO3 に変更す
ることとした。
S :ゼーベック定数[V/K]
(単位温度差あたり発生する熱起電力の大きさ)
4.2
モジュール作製
p型素子材料はCa3Co4O9,n型素子材料はCa(Bi・Gd)MnO3 を
ρ:抵抗率
[Ω]
κ:熱伝導率
[W/
(m・K)]
使用してモジュールを作製した。素子焼結体は,p,n両方と
T :絶対温度
[K]
も量産性の高い押出成形を行い,常圧焼結で作製した。
また,従来は押出成形の乾燥工程において成形体に反り
この ZT の高い金属間化合物の代表的な材料に Bi2Te3 が
あり,ZT は 1 を超える。
が生じることから円断面の押出成形を行っていたが,基板
に対して素子の占有率を上げるために乾燥工程を改善し角
酸化物熱電材料でも,p 型材料では層状 Co 酸化物の
断面の押出成形を行い角柱素子を成形した。作製したモ
NaCoO2 や Ca3Co4O9 に高い熱電性能が見出され,単結晶で
ジュール仕様を表 1 に示す。基板には予め Ag ペーストで
は高温で ZT が 1 を超える。しかし,NaCoO 2 は,層間の
印刷電極を形成し,素子は,p,n 共に素子 2 個を使用し 1
Na が不安定で,湿気などにより Na が析出するため安定性
対とした。アルミナ基板の反対面は Ag 板を電極としハー
3)
に問題がある 。Ca 3Co 4O 9 では多結晶試料になると ZT は
フスケルトンタイプとした。作製したモジュールは 32 対モ
0.3 程度まで下がってしまうが,高温大気中においても安
ジュールで基板面積に対する素子占有率は 64 %となった。
定で酸化物材料の中では性能は高い。
図 3 に作製モジュール写真を示す。
n 型材料では,Ca3Co4O9 のように比較的性能が高く高温
表 1 32 対モジュール仕様
大気中で安定な材料が少ない。当社で従来使用していた
材料組成・材質
LaNiO3 は,高温大気中で安定であり抵抗率も低いが,ゼー
ベック定数が小さいため ZT は 0.1 以下であった。
素 子
サイズ
p
Ca3Co4O9
3.8 mm × 3.8 mm × 6.2 mmt
n
Ca(Bi・Gd)MnO3
3.5 mm × 3.5 mm × 6.2 mmt
この n 型材料の性能を上げるため,LaNiO3 よりも性能が
電 極
Ag
−
高いとされる CaMnO3 系に素子組成を変更しモジュール出
基 板
AI2O3
60 mm × 50 mm × 0.6 mmt
力向上を目指した。
4.モジュール出力向上
4.1
n 型材料検討
CaMnO3 系は,置換元素により性能を上げた報告が数多
くされている 4,5,6)。CaMnO3 に部分置換を行い,焼結体を
作製し熱電特性の評価を行った。熱電特性評価には熱電特
性評価装置 RZ2001i(オザワ科学)を使用し測定した。評
出力因子(×10-4 W/m・K2)
3.5
Ca(Bi)MnO3-a
Ca(Bi)Mn(V)O3-a
2.5
2.0
1.0
4.3
Ca(Gd)MnO3
作製した 32 対モジュールは,高温側熱板温度を 700 ℃と
Ca(Bi・Gd)MnO3-β
し,冷却側は水冷板に 10 ℃の水を流し測定した。モジュー
Ca(Bi・Gd)MnO3-γ
ルには,熱板との熱接触を上げるため加圧を行った。また,
CaMnO3-a
加圧によるモジュール破損を防ぐためモジュール−水冷板
CaMnO3-b
LaNiO3
0.5
(a,
bは焼成温度,
α,
β,
γはBi・Gdの組成が異なる)
0
200
400
600
800
1000
温度(℃)
モジュール測定結果
Ca(Bi)Mn(V)O3-b
Ca(Bi・Gd)MnO3-α
1.5
0.0
図 3 作製モジュール写真
Ca(Bi)MnO3-b
3.0
間には高熱伝導シリコーンゴム(0.8 mmt)を挟んだ。図 4
に測定写真を示す。測定したモジュール出力カーブを図 5
に示す。今回試作した 32 対モジュールより 2.2 W の最大出
力を得ることができた。
従来の n 型材料である LaNiO3 を使用して作製していたモ
図 2 出力因子測定結果
ジュールとの比較を表 2 に示す。n 型材料を変更し,また
酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価
高温側
冷却側
加圧
21
表 3 評価項目
熱板
700℃
水冷板 10℃
200 N
評価項目
評価条件
熱耐久性評価
800 ℃大気中
1000h
ヒートサイクル評価
800 ℃− 100 ℃の
ヒートサイクル
50 回
モジュール抵抗(室温)
1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 50 回後
評価前後での出力変化
50 回後
雰囲気耐久性評価
窒素フロー
800 ℃
100h
モジュール抵抗(室温)
1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 100h 後
評価前後での出力変化
100h 後
加圧
断熱材
熱板
qア
g
モジュール
0 0ク0 0 0
測定項目
評価前後でのモジュール
抵抗(室温)と出力変化
水冷板
l4
Qキg
シリコーンゴム
図 4 モジュール測定写真
2.5
3.5
3
表 4 モジュール仕様
素子
タイプ
材料組成
直径
(mm)
p型
Ca3Co4O9
2.7
n型
CaMnO3
2.5
素子高さ
(mm)
対数
基板サイズ
(mm)
素子占有率
(%)
5.0
8
42 × 30
0.6t
24.5
2
1.5
2
1.5
1
1
電圧
出力
0.5
出力[W]
電圧(V)
2.5
0.5
0
図 6 耐久性評価用モジュール
0
0
0.5
1
電流(A)
1.5
2
表 5 800 ℃× 1000 h 前後でのモジュール抵抗測定結果
図 5 出力カーブ測定結果
サンプル No
表 2 従来モジュールとの比較
素子形状
今
回
角柱
従
来
円柱
素子材料組成
p
Ca3Co4O9
n
Ca(Bi・Gd)MnO3
p
Ca3Co4O9
n
LaNiO3
素子占有率(%)
出力(W/m2)
64
700
38
220
1
(Ω)
2
初期抵抗
0.22
0.23
800 ℃× 1000 h 後
0.29
0.26
初期抵抗からの上昇率
↑ 27 %
↑ 20%
ヒートサイクル評価
5.2
モジュールに 800 ℃から 100 ℃までのヒートサイクル(大
気中)を与えた後にモジュール抵抗測定を室温にて行った。
ヒートサイクルによる抵抗値の上昇率を図 7 に示す。
素子占有率を上げることで約 3 倍の出力向上となった。
ヒートサイクルの回数と共に抵抗値が徐々に上昇する傾
5.モジュール耐久性評価
45
40
熱耐久性が重要となる。このため,小型モジュールでの熱耐
久性試験,ヒートサイクル試験等の評価を行った。評価項目
を表 3 示す。耐久性評価に使用したモジュールの仕様を表 4
に示す。またモジュールの写真を図 6に示す。
5.1
熱耐久性評価
抵抗上昇率(%)
酸化物熱電変換モジュールは高温下での使用となるため,
35
30
25
20
15
10
マッフル炉を使用し 800 ℃の大気中にモジュールを挿入
5
し 1000 h 保持した。800 ℃× 1000 h 前後のモジュール抵抗
0
測定を室温にて行った。800 ℃× 1000 h 前後での抵抗値を
表 5 に示す。抵抗値は 20 ∼ 30 %上昇していた。
1
10
回数(回)
図 7 ヒートサイクル時のモジュール抵抗上昇率(n=4)
100
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
22
Vol. 59, No. 1 (2012)
向が認められた。50 回のヒートサイクル後,抵抗値は初期
めに加圧を行う。そのため,接合部にできたと思われる空
値と比較して 30 ∼ 40 %上昇していた。
隙,剥離が加圧により見かけ上改善されたため,出力に変
5.3
雰囲気耐久性評価
化が見られなかったものと思われる。
素子材料が酸化物材料であるため,酸素のない状況での
熱耐久性評価を行った。800 ℃の管状炉内に窒素フローを
6.まとめと課題
行い 1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 100 h 後にモジュールを取出しモ
酸化物熱電変換モジュールにおいて,n 型材料を LaNiO3
ジュール抵抗測定を室温にて行った。モジュール抵抗値の
から CaMnO3 系に変更,また素子形状を円柱から角柱に変
上昇率を図 8 に示す。100 h 後,すべてのモジュールで抵
更し素子占有率を上げることで出力を向上できた。
抗値は増大した。またモジュールにより試験時間による抵
モジュール耐久性評価を行い,熱履歴が掛かるとモジュー
抗値の上昇率が異なった。管状炉内の窒素投入口からの距
ル抵抗が上昇することが明らかになった。これは,素子−
離が近いモジュール程,早く抵抗値が上昇し始めたことか
電極間の接合部劣化と推定され今後の課題である。
ら,この差は試験時のモジュールサンプルの配置によるも
のと考えられる。
参考文献
1)省エネルギー論:オーム社(1994)
モジュール抵抗上昇率(%)
1000000
2)中村倫之 他 :昭和電線レビュー vol.58,No.1,p.5(2008)
3)日本熱電学会:熱電講習会,p.51(2008)
100000
4)M. Ohtaki, et al : J. Solid State Chem, 120, 105 (1995)
5)X. Y. Huang et al : Solid State Commun, 145, 132 (2008)
10000
6)Lant et al : J. Am. Ceram, DOI:10.1111 (2010)
1000
100
10
1
1
10
時間(h)
100
図 8 800 ℃窒素フローでのモジュール抵抗上昇率(n=3)
5.4
耐久性評価後のモジュール出力評価結果
耐久性評価後のモジュール出力を測定した。結果を表 6
に示す。雰囲気耐久性評価後は出力測定ができず,素子自
体が明らかに変化していた。しかし,熱耐久性評価後と
ヒートサイクル評価後のモジュールでは抵抗値が大きく
なっているのにもかかわらず,最大出力に変化は見られな
かった。
表 6 各試験後の出力測定結果
評価項目
熱耐久性評価
モジュール抵抗(Ω)
最大出力(W)
前
0.23
0.5
後
0.29
0.5
ヒートサイクル
評価(50 回後)
前
0.23
0.6
後
0.30
0.6
雰囲気耐久性
評価(100 h 後)
前
0.22
0.6
後
1421 以上
測定不可
モジュール抵抗が上昇する原因として,素子自体の劣化
と素子−電極の接合部分の劣化が考えられる。熱耐久性評
価とヒートサイクル評価では,出力に変化が見られなかっ
たことから素子劣化の可能性は低く,接合部に空隙,剥離
といった劣化が生じたものと推測される。
出力測定の際は,モジュールと熱板の熱接触を上げるた
酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価
昭和電線ケーブルシステム㈱
中村 倫之(なかむら ともゆき)
技術開発センター
新エネルギー技術開発グループ
熱電変換素子と熱電変換モジュールの
設計開発業務に従事
昭和電線ケーブルシステム㈱
岡田 彩起子(おかだ さきこ)
技術開発センター
新エネルギー技術開発グループ
熱電変換素子と熱電変換モジュールの
設計開発業務に従事
昭和電線ケーブルシステム㈱
箕輪 昌啓(みのわ まさひろ)
技術開発センター
新エネルギー技術開発グループ長
熱電変換素子と熱電変換モジュールの
設計開発業務に従事
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