酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価 19 酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価 Development of High-output Oxide Type Thermoelectric Modules 中村倫之 岡田彩起子 箕輪昌啓 Tomoyuki NAKAMURA Sakiko OKADA Masahiro MINOWA 酸化物熱電変換モジュール出力の向上を目的として n 型素子材料と素子形状を変更し出力密度を 700 W/m2 まで向上させた。また,小型モジュールを用いた耐久性評価により,実使用環境を模擬したモジュールの耐久 性を明らかにした。 We investigated the composition and shape of elements in order to improve the output of the module. As a result, the output of the module had been increased to 700 W/m2 which is about three times than before. In addition, we evaluated the durability of the module simulating the actual operation environment. 1.は じ め に た熱電変換モジュールの発電性能について報告する。また, 現在,エネルギー資源の枯渇が深刻な問題となっており, 原油価格の高騰も相まって,省エネルギー化による消費エ これらの材料を用いた小型モジュールを作製し,実施した モジュール耐久性評価結果についても報告する。 ネルギー削減が重要課題となっている。また,温室効果ガ 2.熱電変換モジュール スである二酸化炭素(CO2)は,化石燃料を燃焼した際に 多量に発生するため,地球温暖化を防止するためにも環境 熱電変換モジュールは,p 型半導体,n 型半導体の 2 種類 への負荷が小さいクリーンエネルギーの活用が急務となっ の材料から構成される。n 型半導体素子の片端に熱を加え ている。近年,このようなエネルギー問題を解決する一つ ると,温度が高い部分で伝導電子のエネルギーが高くなり, の手段として,未利用エネルギーを有効活用できる熱電変 温度が低い部分に伝導電子が移動することで素子内に電位 換技術が注目されている。日本では年間に原油換算して数 差が生じ,熱起電力が発生する。一方で p 型半導体素子は 億 kl もの一次エネルギーを消費しているが,その約 70 % 正電荷を帯びた正孔が温度の高い部分から低い部分に移動 1) は未利用のまま廃熱として大気中に放熱されている 。 することで熱起電力が発生する。この現象はゼーベック効 しかし,この莫大な廃熱エネルギーは分散しており,回 果と呼ばれている。n 型と p 型半導体素子を直列に対とし 収は非常に困難である。このような難題を解決できる技術 外部負荷を接続することで電流が流れ,電力を取り出すこ の一つとして,発電にスケール依存性がなく発電時に CO2 とができる。模式図を図 1 に示す。 ガスを排出しない熱電変換素子が注目を集めている。 2005 年には(独)産業技術総合研究所が空気中 800 ℃で作動 熱電素子 させても性能が劣化しない酸化物熱電材料(p 型 Ca3Co4O9, COOL n 型 LaNiO3)を用いた発電モジュールを開発した。そこで, 当社でも今までに培ってきた電線ケーブル製造技術や酸化 金属電極 物超電導技術を応用し,2006 年よりこれらの材料を用いた 酸化物熱電変換モジュールの開発に着手した 2)。 しかし,酸化物熱電材料は高温でも安定であるが,他の セラミックス基板 P N P 温度差→電圧 HOT 金属間化合物熱電材料と比べて発電性能が低く,また p 型 材料の Ca3Co4O9 と比較して n 型材料の LaNiO3 は性能が低い。 そこで本報では,n 型酸化物熱電材料を LaNiO3 から性能向 上が見込める CaMnO3 へ変更し,さらに素子形状を円柱か ら角柱にすることでモジュール基板内の素子占有率を上げ 図 1 熱電変換モジュール模式図 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 20 Vol. 59, No. 1 (2012) 価結果として出力因子を図 2 に示す。出力因子とは,ゼー 3.酸化物熱電材料 ベック定数の二乗と導電率を掛けた値で出力因子が高いと 熱電性能を示す指標の一つとして無次元性能指数(ZT) 発電出力が大きくなる。従来の LaNiO 3 よりも CaMnO 3 は があり,次式に示す。 出力因子が高く,中でも CaMnO3 に Bi と Gd を置換した組 2 成(Ca(Bi・Gd)MnO3)で最も高い出力因子となった。この S ZT =─・ T ρ・κ ことから n 型材料を LaNiO3 から Ca(Bi・Gd)MnO3 に変更す ることとした。 S :ゼーベック定数[V/K] (単位温度差あたり発生する熱起電力の大きさ) 4.2 モジュール作製 p型素子材料はCa3Co4O9,n型素子材料はCa(Bi・Gd)MnO3 を ρ:抵抗率 [Ω] κ:熱伝導率 [W/ (m・K)] 使用してモジュールを作製した。素子焼結体は,p,n両方と T :絶対温度 [K] も量産性の高い押出成形を行い,常圧焼結で作製した。 また,従来は押出成形の乾燥工程において成形体に反り この ZT の高い金属間化合物の代表的な材料に Bi2Te3 が あり,ZT は 1 を超える。 が生じることから円断面の押出成形を行っていたが,基板 に対して素子の占有率を上げるために乾燥工程を改善し角 酸化物熱電材料でも,p 型材料では層状 Co 酸化物の 断面の押出成形を行い角柱素子を成形した。作製したモ NaCoO2 や Ca3Co4O9 に高い熱電性能が見出され,単結晶で ジュール仕様を表 1 に示す。基板には予め Ag ペーストで は高温で ZT が 1 を超える。しかし,NaCoO 2 は,層間の 印刷電極を形成し,素子は,p,n 共に素子 2 個を使用し 1 Na が不安定で,湿気などにより Na が析出するため安定性 対とした。アルミナ基板の反対面は Ag 板を電極としハー 3) に問題がある 。Ca 3Co 4O 9 では多結晶試料になると ZT は フスケルトンタイプとした。作製したモジュールは 32 対モ 0.3 程度まで下がってしまうが,高温大気中においても安 ジュールで基板面積に対する素子占有率は 64 %となった。 定で酸化物材料の中では性能は高い。 図 3 に作製モジュール写真を示す。 n 型材料では,Ca3Co4O9 のように比較的性能が高く高温 表 1 32 対モジュール仕様 大気中で安定な材料が少ない。当社で従来使用していた 材料組成・材質 LaNiO3 は,高温大気中で安定であり抵抗率も低いが,ゼー ベック定数が小さいため ZT は 0.1 以下であった。 素 子 サイズ p Ca3Co4O9 3.8 mm × 3.8 mm × 6.2 mmt n Ca(Bi・Gd)MnO3 3.5 mm × 3.5 mm × 6.2 mmt この n 型材料の性能を上げるため,LaNiO3 よりも性能が 電 極 Ag − 高いとされる CaMnO3 系に素子組成を変更しモジュール出 基 板 AI2O3 60 mm × 50 mm × 0.6 mmt 力向上を目指した。 4.モジュール出力向上 4.1 n 型材料検討 CaMnO3 系は,置換元素により性能を上げた報告が数多 くされている 4,5,6)。CaMnO3 に部分置換を行い,焼結体を 作製し熱電特性の評価を行った。熱電特性評価には熱電特 性評価装置 RZ2001i(オザワ科学)を使用し測定した。評 出力因子(×10-4 W/m・K2) 3.5 Ca(Bi)MnO3-a Ca(Bi)Mn(V)O3-a 2.5 2.0 1.0 4.3 Ca(Gd)MnO3 作製した 32 対モジュールは,高温側熱板温度を 700 ℃と Ca(Bi・Gd)MnO3-β し,冷却側は水冷板に 10 ℃の水を流し測定した。モジュー Ca(Bi・Gd)MnO3-γ ルには,熱板との熱接触を上げるため加圧を行った。また, CaMnO3-a 加圧によるモジュール破損を防ぐためモジュール−水冷板 CaMnO3-b LaNiO3 0.5 (a, bは焼成温度, α, β, γはBi・Gdの組成が異なる) 0 200 400 600 800 1000 温度(℃) モジュール測定結果 Ca(Bi)Mn(V)O3-b Ca(Bi・Gd)MnO3-α 1.5 0.0 図 3 作製モジュール写真 Ca(Bi)MnO3-b 3.0 間には高熱伝導シリコーンゴム(0.8 mmt)を挟んだ。図 4 に測定写真を示す。測定したモジュール出力カーブを図 5 に示す。今回試作した 32 対モジュールより 2.2 W の最大出 力を得ることができた。 従来の n 型材料である LaNiO3 を使用して作製していたモ 図 2 出力因子測定結果 ジュールとの比較を表 2 に示す。n 型材料を変更し,また 酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価 高温側 冷却側 加圧 21 表 3 評価項目 熱板 700℃ 水冷板 10℃ 200 N 評価項目 評価条件 熱耐久性評価 800 ℃大気中 1000h ヒートサイクル評価 800 ℃− 100 ℃の ヒートサイクル 50 回 モジュール抵抗(室温) 1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 50 回後 評価前後での出力変化 50 回後 雰囲気耐久性評価 窒素フロー 800 ℃ 100h モジュール抵抗(室温) 1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 100h 後 評価前後での出力変化 100h 後 加圧 断熱材 熱板 qア g モジュール 0 0ク0 0 0 測定項目 評価前後でのモジュール 抵抗(室温)と出力変化 水冷板 l4 Qキg シリコーンゴム 図 4 モジュール測定写真 2.5 3.5 3 表 4 モジュール仕様 素子 タイプ 材料組成 直径 (mm) p型 Ca3Co4O9 2.7 n型 CaMnO3 2.5 素子高さ (mm) 対数 基板サイズ (mm) 素子占有率 (%) 5.0 8 42 × 30 0.6t 24.5 2 1.5 2 1.5 1 1 電圧 出力 0.5 出力[W] 電圧(V) 2.5 0.5 0 図 6 耐久性評価用モジュール 0 0 0.5 1 電流(A) 1.5 2 表 5 800 ℃× 1000 h 前後でのモジュール抵抗測定結果 図 5 出力カーブ測定結果 サンプル No 表 2 従来モジュールとの比較 素子形状 今 回 角柱 従 来 円柱 素子材料組成 p Ca3Co4O9 n Ca(Bi・Gd)MnO3 p Ca3Co4O9 n LaNiO3 素子占有率(%) 出力(W/m2) 64 700 38 220 1 (Ω) 2 初期抵抗 0.22 0.23 800 ℃× 1000 h 後 0.29 0.26 初期抵抗からの上昇率 ↑ 27 % ↑ 20% ヒートサイクル評価 5.2 モジュールに 800 ℃から 100 ℃までのヒートサイクル(大 気中)を与えた後にモジュール抵抗測定を室温にて行った。 ヒートサイクルによる抵抗値の上昇率を図 7 に示す。 素子占有率を上げることで約 3 倍の出力向上となった。 ヒートサイクルの回数と共に抵抗値が徐々に上昇する傾 5.モジュール耐久性評価 45 40 熱耐久性が重要となる。このため,小型モジュールでの熱耐 久性試験,ヒートサイクル試験等の評価を行った。評価項目 を表 3 示す。耐久性評価に使用したモジュールの仕様を表 4 に示す。またモジュールの写真を図 6に示す。 5.1 熱耐久性評価 抵抗上昇率(%) 酸化物熱電変換モジュールは高温下での使用となるため, 35 30 25 20 15 10 マッフル炉を使用し 800 ℃の大気中にモジュールを挿入 5 し 1000 h 保持した。800 ℃× 1000 h 前後のモジュール抵抗 0 測定を室温にて行った。800 ℃× 1000 h 前後での抵抗値を 表 5 に示す。抵抗値は 20 ∼ 30 %上昇していた。 1 10 回数(回) 図 7 ヒートサイクル時のモジュール抵抗上昇率(n=4) 100 昭 和 電 線 レ ビ ュ ー 22 Vol. 59, No. 1 (2012) 向が認められた。50 回のヒートサイクル後,抵抗値は初期 めに加圧を行う。そのため,接合部にできたと思われる空 値と比較して 30 ∼ 40 %上昇していた。 隙,剥離が加圧により見かけ上改善されたため,出力に変 5.3 雰囲気耐久性評価 化が見られなかったものと思われる。 素子材料が酸化物材料であるため,酸素のない状況での 熱耐久性評価を行った。800 ℃の管状炉内に窒素フローを 6.まとめと課題 行い 1 ・ 3 ・ 10 ・ 30 ・ 100 h 後にモジュールを取出しモ 酸化物熱電変換モジュールにおいて,n 型材料を LaNiO3 ジュール抵抗測定を室温にて行った。モジュール抵抗値の から CaMnO3 系に変更,また素子形状を円柱から角柱に変 上昇率を図 8 に示す。100 h 後,すべてのモジュールで抵 更し素子占有率を上げることで出力を向上できた。 抗値は増大した。またモジュールにより試験時間による抵 モジュール耐久性評価を行い,熱履歴が掛かるとモジュー 抗値の上昇率が異なった。管状炉内の窒素投入口からの距 ル抵抗が上昇することが明らかになった。これは,素子− 離が近いモジュール程,早く抵抗値が上昇し始めたことか 電極間の接合部劣化と推定され今後の課題である。 ら,この差は試験時のモジュールサンプルの配置によるも のと考えられる。 参考文献 1)省エネルギー論:オーム社(1994) モジュール抵抗上昇率(%) 1000000 2)中村倫之 他 :昭和電線レビュー vol.58,No.1,p.5(2008) 3)日本熱電学会:熱電講習会,p.51(2008) 100000 4)M. Ohtaki, et al : J. Solid State Chem, 120, 105 (1995) 5)X. Y. Huang et al : Solid State Commun, 145, 132 (2008) 10000 6)Lant et al : J. Am. Ceram, DOI:10.1111 (2010) 1000 100 10 1 1 10 時間(h) 100 図 8 800 ℃窒素フローでのモジュール抵抗上昇率(n=3) 5.4 耐久性評価後のモジュール出力評価結果 耐久性評価後のモジュール出力を測定した。結果を表 6 に示す。雰囲気耐久性評価後は出力測定ができず,素子自 体が明らかに変化していた。しかし,熱耐久性評価後と ヒートサイクル評価後のモジュールでは抵抗値が大きく なっているのにもかかわらず,最大出力に変化は見られな かった。 表 6 各試験後の出力測定結果 評価項目 熱耐久性評価 モジュール抵抗(Ω) 最大出力(W) 前 0.23 0.5 後 0.29 0.5 ヒートサイクル 評価(50 回後) 前 0.23 0.6 後 0.30 0.6 雰囲気耐久性 評価(100 h 後) 前 0.22 0.6 後 1421 以上 測定不可 モジュール抵抗が上昇する原因として,素子自体の劣化 と素子−電極の接合部分の劣化が考えられる。熱耐久性評 価とヒートサイクル評価では,出力に変化が見られなかっ たことから素子劣化の可能性は低く,接合部に空隙,剥離 といった劣化が生じたものと推測される。 出力測定の際は,モジュールと熱板の熱接触を上げるた 酸化物熱電変換モジュールの高出力化と耐久性評価 昭和電線ケーブルシステム㈱ 中村 倫之(なかむら ともゆき) 技術開発センター 新エネルギー技術開発グループ 熱電変換素子と熱電変換モジュールの 設計開発業務に従事 昭和電線ケーブルシステム㈱ 岡田 彩起子(おかだ さきこ) 技術開発センター 新エネルギー技術開発グループ 熱電変換素子と熱電変換モジュールの 設計開発業務に従事 昭和電線ケーブルシステム㈱ 箕輪 昌啓(みのわ まさひろ) 技術開発センター 新エネルギー技術開発グループ長 熱電変換素子と熱電変換モジュールの 設計開発業務に従事 23
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