樹脂流動によるせん断応力と分子配向度

射出成形過程における成形品板厚方向の可視化実験
−樹脂流動によるせん断応力と分子配向度の関係−
Visualization Experiment through the Thickness direction of during Injection Molding
(金沢工大 院) ○(学)佐藤和人,(金沢工大)熊谷吉郎,
(金沢工大 院)和田卓也
(金沢工大)
(正)瀬戸雅宏,(金沢工大) (正)山部 昌
Key Words: Visualization / Resin flow / Molecular orientation ratio / Shear strain energy
出率を 3 水準(6.2,18.6,31.0cm3/s)にて行っ
1.緒言
筆者らははこれまで射出成形 CAE のそり解析
た.なお,供試材料は PS(日本ポリスチレン製
精度を目的とした,線膨張係数予測手法を検討
G690N)を用いる.
するため,分子配向度と線膨張係数比の関係,
2-2 樹脂流速測定方法 3)
せん断ひずみエネルギーを算出し,分子配向度
これまでの検討では種々の制約から実成形時
0.5
との関係を明らかにしてきた
1).
Area of observation
の射出率と比較し,約 1/10 程度での射出率での
100
検討であった.そこで,前報にて金型構造の改
良や高速度カメラの仕様変更により,高射出率
液境界面は表層にシフトすることを確認した
3
50
本研究では前報に引き続き,種々の射出率で
の可視化実験より,せん断ひずみエネルギーを
Center of thickness
10
での可視化を可能とし,高射出率に伴い,固−
2).
Layer1
Layer2
Layer3
Layer4
Layer5
1.5
さらにはキャビティー内部の樹脂流動観察から
35
35
For Molecular Orientation
Unit:mm
Fig. 1 Size of Injection Molded plate and Specimen
算出し,分子配向度との関係を検討した.
2.実験方法
樹脂流速測定は光切断法および PIV 法を用い
2-1 可視化装置並びに成形条件
て行う.キャビティー部にアクリルブロックを
樹脂流動観察は高速度カメラ MEMRECAM
用いたインサート金型を使用し,成形品板厚方
ci-Expo(ナックイメージテクノロジー製)を用い
向からシート状の光を流動している樹脂に照射
た.なお,本カメラは1秒間に 500 コマの撮影
する.その際,平均粒径 150μm の銅粉を混入
が可能である.
し,2 コマ以上の瞬間映像を撮影する.得られた
成形は型締力 50t のプリプラ式射出成形機
映像は画像処理により 2 次元的な粒子の異動量
(Sodic 製 TR50S2)を用い,成形温度 250℃,
を測定することで流速分布を求める.
金型温度 30℃,保圧 19.6MPa を一定とし,射
2-3 分子配向度測定方法
Kazuhito SATOH*, Yoshiro KUMAGAI, Takuya
Wada, Masahiro
SETO,
Masashi YAMABE:
分子配向度はマイクロ波を照射し,透過マイ
クロ波強度からその配向度を求める高精度型分
Department of Material Design Engineering,
子配向計(王子計測機器製 MOA-3012)を用いた.
Kanazawa Institute of Technology,
試験片は成形板中央部より 35×35mm に採取後,
*3-1 Yatsukaho, Mattou, 924-0838, Japan,
5 層にスライスする.さらに各層を研磨機(マルト
Tel. 076-274-9258,
ー製 ML-150P)を用い,0.3mm に仕上げる.
Fax. 076-274-9251
E-mail: [email protected]
なお,スライス時や研磨時,摩擦熱による物性
τ = γ& ⋅ η(T , γ& )
・・・(1)
値への影響を避けるため,流水により十分冷却
P = τ ⋅ γ&
・・・(2)
しながら研磨を行う.
E=
3.結果および考察
2.0
図 2 に各射出率における配向度測定結果を示
す.縦軸の MOR-c は分子配向度を表し,1 であ
射出率が高くなるにつれ,配向度のピークは
t1
P(t )dt
・・・(3)
1.5
MOR_C
配向が大きいことを表す.
t2
5.88cm3/s
17.64cm3/s
29.40cm3/s
3-1 分子配向度測定結果
れば無配向(等方性),数値が大きくなるに従い
z
1.0
表層にシフトすることが分かった.射出率が高
くなることで固−液境界面が表層に移動するた
めと考えられる.
1.6
5.88cm3/s
17.64cm3/s
29.40cm3/s
MOR-c
1.4
0.0
0
1
2
3
4
5
6
Shear strain energy[106J/m3]
Fig.3 Relationship between Shear strain energy and
Molecular Orientation ratio
での時間を積分範囲とする 4).
図 3 に各射出率におけるせん断ひずみエネル
ギーと配向度の関係を示す.若干,ばらつきは
1.2
あるものの,せん断ひずみエネルギーが大きく
なることで分子配向度は大きくなることがわか
った.このことから,高射出率においてもせん
1.0
断ひずみエネルギーから分子配向度の予測が可
0.0
1
2
3
4
5
Layer
Fig.2 The measurement result of MOR-c
3-2 せん断ひずみエネルギー算出
分子鎖の配向には外部からのエネルギーが必
要になり,このエネルギーは樹脂流速差により
生じるせん断応力とせん断応力が作用している
時間によって求めることが出来る.そこで,せ
ん断ひずみエネルギーを算出し,分子配向度と
比較・検討する.
樹脂の粘度 η,流速分布から得られるせん断
能であることが分かった.
4.結言
本研究では種々の射出率による,可視化実験
より,せん断ひずみエネルギーを算出し,分子
配向度との関係を検討した結果,以下のことを
明らかにした.
1)射出率の増加に伴い,分子配向度のピークも
表層に移行する
2)高射出率条件においても分子配向度とせん
断ひずみエネルギーに相関関係が得られる
謝辞
・
ひずみ速度γから(1)式を用いてせん断応力を算
出する.さらに(2)式より単位時間・単位体積当
たりの仕事率を求める.この仕事率は時間によ
って変化することから,さらに(3)式を用い,せ
ん断ひずみエネルギーを算出した.
可視化実験が定点観測であることから,エネ
ルギーが作用している全時間範囲で積分した場
合,分子配向度測定箇所とのずれを生じる.そ
こで,時間と仕事率との関係より上層が固化し
てから(仕事率0)
,評価したい層が固化するま
本研究を遂行するに当たり,東京大学
秀俊教授,並びに東京工業大学
・
佐藤
横井
勲教授
にご助言を頂きました.ここに感謝致します.
参考文献
1) 瀬戸雅宏他:成形加工,15,5,363(2003)
2) 熊谷吉郎他:成形加工シンポジア’03,299(2003)
3) 横井秀俊他:成形加工,143(1990)
4) 瀬戸雅宏他:成形加工’03,43(2003)