色恒常性に基づく測色機器を用いないカラーマネジメント - 株式会社トイ

色恒常性に基づく測色機器を用いないカラーマネジメント
Colorimetry-free color management system based on the color constancy
石橋
篠田
山口
キチロー
諒一
博之
秀樹
ラッタナカセムスク
Ryoichi Ishibashi
Hiroyuki Shinoda
Hideki Yamaguchi
Kitirochna Rattanakasamsuk
キーワード : 色恒常性,線形化 RGB
Keywords : Color constancy,Linear RGB
1. はじめに
異なる画像デバイス間において、統一的な色管
理を図ることをカラーマネジメントという。現行
のカラーマネジメントは「物理的に等しい色」を
作ることに主眼を置き、デバイスに依存しない色
の取り扱いを目指す、いわゆるデバイス非依存の
カラーマネジメントが主流である。例えば色呈示
デバイスであれば、異なるディスプレイ上に同じ
色を再現することに相当する。しかしながら、デ
ィスプレイが等しい測色値の光を呈示したとし
ても、観察環境によって観察者の順応状態が異な
り、同じ見えが実現できるとは限らない。さらに
測色値は標準観測者の等色関数で定義される値
であるため、全く同じ色の見えを保証するもので
はない。
そこで本研究では、照明光・観察者・ディスプ
レイのいずれにも依存せず「等しい色の見え」を
実現するカラーマネジメントを目標とする。着目
した点は、異なる色の照明下においても同一反射
物体に対しては同じ色を知覚する「色恒常性」と
いう性質である。また、測色機器を一切用いずに
変換行列を求める点も本研究で提案するカラー
マネジメントの特徴であるといえる。
2. 原理
照明光・観察者・ディスプレイが異なる条件 A・
条件 N があるものと想定し、両観察者が同一の反
射物体であるカラーパッチを用いて、それぞれの
ディスプレイでカラーマッチングを行っている
ものと仮定する。すると、両条件下のそれぞれの
観察者がカラーパッチの色R , G , B を観察した時
の色の見えの状態は、L , M , S 錐体と区別して、
mA , mN の 3×3 行列によって順応状態も考慮した
L , M , S と表わすことにする。(表 1)
立命館大学
立命館大学
立命館大学
立命館大学
Ritsumeikan University
Ritsumeikan University
Ritsumeikan University
Ritsumeikan University
表 1 : 両条件下の観察者のカラーパッチの見え
条件 A
L A
MA
S A
条件 N
L N
MN
S N
RA
mA G A
BA
観察者 A の見え
RN
mN G N
BN
観察者 N の見え
今、この両条件で完全色恒常性が成り立ってい
ると仮定すれば、同一反射物体表面に対する色の
見えは等しくなることから、両式は等式であると
みなすことができる。よって式(1)を得ることがで
き、この式におけるmA mN に相当する変換行列(3
×3 行列)を導出することが本研究の目標である。
RA
GA
BA
RN
mA mN G N
BN
1
R , G , B は観察者の比視感度で定義されるディ
スプレイγ値で補正された線形化 RGB 値(8bit)で
あり、式(2)で表わすことができる。
S
S/S
S
S
R or G or B
2
この時の S チャンネルについてのγS 値の導出は、
ディスプレイ上で図 1 に示す 2 色チェッカー刺激
を併置加法混色 1)した状態で観察した色を目標に、
カラーマッチングした調色結果から行う。
図 1 : 2 色チェッカー刺激と調色する刺激
2 色チェッカー刺激は併置加法混色の効果によ
り、視覚系内で混色されることから、その相対輝
度は式(3)となり、S の相対面積であるαで表わ
すことができる。本研究ではαを 6 種類用意した。
(1, 0.75, 0.5, 0.25, 0.125, 0) (※図 1 ではα 0.5)
S
S
α S ⁄S
1 α S ⁄S
α
3
Sで
一方、調整する刺激の相対輝度は S/S
表わすことができる。よって、この両刺激のマッ
チング作業によって両者が等式で結ばれ、その両
辺の対数をとると、式(4)のように非線形な特性を
示すγ値を線形問題で扱うことが可能となる。
γS · log S/S
log α
4
これを 6 種類のα分データを取り、原点を通る
最小二乗法で線形近似すれば、その直線の傾きか
ら、観察者の比視感度で定義される輝度のディス
プレイγS 値を導出することができる。
また、先ほどの式(1)はとある 1 色のカラーパッ
チを用いた場合の結果であるが、これを拡張して
多くのカラーパッチから一気に変換行列を導出
する方法が式(5)であり、より良い精度の変換行列
導出が期待できる。(※ 表 2 と図 2 を参照)
有彩色(40 色)
R,YR,Y,GY,G,
BG,B,PB,P,RP
(H 5&10)
(V/C
6/6 or 4/4
無彩色(3 色)
N3,N6,N8
5
pinv CN · CA
M
イ前面はマンセル値 N5 の画用紙で覆った。中央
には視距離に対し 2°の開口が 2 つある。左側は
マッチングの際に調整の目標となる刺激を提示
し、右側は手元のテンキーを用いて RGB 値か
HSV 値で調色を行う刺激を提示する。γ値を求め
る場合は左側に 2 色チェッカー刺激、同一反射物
体とのカラーマッチングの際には、マンセル表色
系 1)に基づく管理色票をセットする。なお、今回
選択した色は表 3 に表わす全 43 色である。被験
者は、全員正常 3 色型色覚者(今回のモデルはこれ
以外の色覚タイプは保障しない)であり、実験デー
タは 3 回マッチングの平均の値を採用した。
表 2 : 式(5)のパラメータについて
CA
CN
M
条件 A で観察者が i 色分のカラーパ
ッチとカラーマッチングした線形化
RGB 値(3i 1行列)
条件 N で観察者が i 色分のカラーパ
ッチと カラーマッチングした線形化
RGB 値(3i 9行列)
mA mN に相当する変換行列のパラ
メータを縦に並べたもの(1 9行列)
a a a
a a a
m A mN
a a a
CN の擬似逆行列
pinv CN
RA
GA
BA
RA
GA
BA
RN
0
0
RN
0
0
RA
GA
BA
R N GN BN 0 0 0 0 0 0
0 0 0 R N GN BN 0 0 0
0 0 0 0 0 0 R N GN BN
CA
CN
GN
0
0
GN
0
0
BN
0
0
BN
0
0
0
RN
0
0
RN
0
0
GN
0
0
GN
0
0
BN
0
0
BN
0
0
0
RN
0
0
RN
0
0
GN
0
0
GN
0
0
BN
0
0
BN
a
a
a
a
a
a
a
a
a
図3:
実験に用いた
ディスプレイ
表3:
カラーパッチ
(マンセル値)
4. 結果・考察
変換行列が導出できれば、実験データから予測
値を導出することが可能である。この予測値と実
測値との差異を 3 次元R , G , B 色空間上の距離で
表わし、カラーパッチの数で平均化したものをΔE
とする。その結果、5R 6/6 を基準に均等間隔な
1,2,3,5,10,20 色配色(3 色は、色相 5 に着目した
分裂補色配色)において図 4 に示すように、3~5
色付近で結果がほぼ飽和する傾向がみられた。ま
た、偏った配色の場合はΔEが安定しなかった。
M
図 2 : 式(5)の構造
3. 実験装置・実験条件
照明光は、条件 A に CIE 規定の A 光源、条件
N に CIE 規定の D65 光源を用いた。今回ディス
プレイは統一し、図 3 に示すように、ディスプレ
図 4: カラーパッチの個数変化に伴うΔEの変動
(明度:6 , 彩度:6 の平均データ)
5. 参考文献
1) 篠田博之・藤枝一郎,『色彩工学入門-定量的な
色の理解と活用』,森北出版株式会社,(2007)