東京造形大学フード・デザイン学科へようこそ

東京造形大学 デザイン学科
メディアデザイン専門部会
接続教育シリーズ No.2 東京造形大学フード・デザイン学科へようこそ
見る料理、食べるアートの現在
全国の高校には、食物科とか調理科という名称のコースを設けるところがたくさんあります。食材の知識、調理技術、栄
担当教員
養学などを学んでレストランや食品会社で働きたい、そんな夢を抱いた生徒たちが包丁を握りフライパンを振るいなが
森岡 祥倫 教授
ら勉強しています。
では、オリジナル料理をデザインしたり食について考える学科、例えばフード・デザイン学科を美術大
MORIOKA Yoshitomo
学に開いたら、そこで学生はどんなことを学ぶのでしょうか?
「食」は、人の生と自然環境とのあわいで繰り返される大切
デザイン学科 メディアデザイン専門部会
な営み、そして感性の深奥に触れる魅力に満ちた文化です。未だ存在しない仮想の学科を想定して、デザインやアート
の視点から現代食文化のさまざまな問題について考えてみます。
A
B
■先端科学が料理を進化させる
調理技術の最先端部分では、物理・化学の知識がさまざまに応用され
ています。上は、客の目の前でサービスするデザート。ライム・ジュース
と生クリームに液体窒素を混ぜあわせ、瞬時にアイスクリームができあ
がります。他にもアルギン酸ナトリウム、水酸化カルシウム等々を使っ
た、化学実験と見まがうばかりのテクニックが次々と開発されています。
エッジなテクノロジー・アートは、もはやコンピュータ・グラフィックス・
スタジオではなく、レストランの厨房や製菓会社の商品開発室から生ま
れるのです。
■現代美術と三ツ星レストラン
「ドクメンタ」、5年に1度ドイツのカッセルという町で開かれる国際的な美術展です。現代美術のオリンピックとも呼べるこの一大イベントに、2007年、スペインの三ツ星レストラン
「エル・ブリEl Bulli」が参加しました。それもアーティストと同格の扱いで。写真Aを見てください。そのレストランの料理です。ボール状の氷の中に、スペイン/フランス国境のピレネー
山脈から湧き出たミネラル・ウォーターが入っています。黒いストロー状のものは種を抜いたバニラのサヤ。これで冷たく芳しい水をすすります。コンセプトは「水の料理とミニマリズ
ム」。写真Bは、ゼラチンで弱いとろみをつけた水を特殊な調理器具を使って泡状にし、液体窒素で凍らせたもの。フレーバーがまぶしてあります。テーマは「空気を食す」。
これを口にし
たときに生じる味覚と嗅覚と触覚のショック、いわば「口腔内の事件」をあなたは想像できますか?これら奇想の料理が次々と提供されるわずか50席のひとつを求めて、年間10万通を
超える予約の電子メールが全世界から殺到します。
そんな超高級料理だけのことではありません。次々と暴露される食品偽装、文明批判としてのスロー・フード運動、終わりがみえない狂牛病や鳥インフルエンザの不安、遺伝子組み
換え食品の安全性問題等々、今、食の世界で何か決定的な変化が起きています。だからこそ、食について調べ、考え、そしていくばくかの新しい経験を自らの食生活に加えるということ
は、方向性のない不透明な現代社会で、それでもなお、わたしがわたしであることの理由を、わたし自身のからだと感覚を手がかりに問い直すよいきっかけになります。また、学校の教
室で行儀よく聞かなければいけないエコロジーの勉強とはちがい、日々の食事についてほんの少し意識的になるだけで、わたしたちは人の生死と自然のあわいを切り結ぶかけがえ
のないもの、尊いものの存在を感じとることができるはずです。そして、こうした視点は、そのまま美術やデザインの学習にとってもきわめて本質的なテーマとなりうるのです。
対象学年:全学年 関連学科・専攻:全学科全専攻 開講場所:訪問または学内 授業形態:講義 適切な受講人数:10∼50名 授業時間:60∼90分
(任意)
視聴覚資料:使用(PowerPoint) 配布資料:無
備考:3∼6回のシリーズ講義としても実施可能