Information Knowledge Database. Title 小児の - 東京女子医科大学

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小児の喘息発作と気圧配置
笠井, 和; 小泉, とし; 伊村, 和子; 浅野, 知行; 根本, 順吉
東京女子医科大学雑誌, 32(10):397-409, 1962
http://hdl.handle.net/10470/13992
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
29
(東女医大誌 第32巻第10号頁397−409
昭和37年10月)
小児の喘息発作と気圧配置
東京女子医科大学小児科学教教室(主任 磯田仙三郎教授)
笠
カサ
井
イ
カズ
和・小泉とし ・ 伊 村
コ
イズミ
イ
国立東京第一病院二宮分院(院長
浅
アサ
和 子
ムラ
カズ
コ
中鉢不二郎博士)
野
知
行
ノ
トモ
ユキ
気 象 庁
根 本
ネ
順
吉
ジユン キチ
モト
(受付 昭和37年8月15日)
緒
言
10月 26∼27人
気象変化によって誘発される疾患として,先ず
11月 27∼28人
.考えられるものは気管支喘息、であろう.この疾患
12月 27∼32入
.の発作発来と気象との関係は昔からいわれている
昭和37年1月
し,また日常しばしば経験するところである.私
2月
共は先に:東京,横浜,大阪,台薩基隆その他の地
.方の喘息について,その発作は高気圧性循環の草
合に起り易く,.或る天気図の型の時に多いことを
報告した,今回は神奈川県二宮町の症例により気
.i象関係をしらべたのでここに報告する.
30∼36入
36∼37入
性別は男児33人.女児17入で男児の方が多かった。年
令は2才から!!才までであった.
2)研究方法:上述の入院数があると,或る日には同
時に何人かの発作が起ることがしばしば見られる.同時
に幾人かの発作を起した日を主としながら,6カ月間の
毎日の気温偏差,気圧,風雨の状態,天:気図より気圧配
対象ならびに研究方法
置等につきしらべて。偶然から期待される出現率も考え
1)対象:神奈川県二宮町の国立東京第一病院二宮分
に入れて検討した.
院に入院している喘息患児を対象とした.昭和36年9月
気象との関係を明らかにするために,日kの発作患者
より昭和37年2月までの6カ月間の各児の発作の起つた
総数の変化曲線だけでなく,前日で発作の終った人数
日時を注意深く観察記載しておき,それについて気象条
(A),当日から発作の始まった人数(B),およびA十B
件よりの検討を行なった.同時に発作の快くなった口時
(但しAの符号はマイナスとする)についてもその各k
も調べたが,発作がひどい時には種々薬剤を用い注射も
の系列について変動をしらべた.このようにA,B,およ
.行なって速かに発作の消退するように努力していること
びA十Bのような系列を改めてっくった理由は,発作の
を附記しておく.入院総数は50名前後であったが,その
種々の時系列があった時に,ある時点で発作患者数が多
中の喘息患児数は各月別次の通りであった.
くなったとしても,それは前からの持続性によるものが
昭和36年9月
24∼29人
含まれているから,それだけで同時生起の回数が増大し
Kazu KASAI, Tgshi KOIZUMI, Kazuko IMURA (Department of Pediatrics, Tokyo Women’s
Medical College), Tomoyuk・i ASANO (Ninomiya Branch of the first National Hospital of Tokyo) &
Junkichi NEMOTO (Japan Meteorological Agency): An analysis of the relationship between the
pattern of atomspheric pressure and appearance of asthmatic attack in childhood.
一397一
30
たとは判定しにくいからである.
/9tiノー叉月菓京
検査結果
1) 昭和36年9月=
k2
9月中の喘息の入院古風数は24人から29人の間
諺
を変動しており,毎日の車夫数は第1表の通りで
。協
ある.
淵多
前務
LV ”e ’g3
第1表 9月入院喘息息児
多ll
・電劉・虫垂・騰息
1日
24人
24
11日
12
27人
2
27
21日
22
3
24
13
27
23
29
4
25
14
27
24
29
5
26
!5
28
25
29
6
26
16
28
26
29
7
26
17
28
27
29
8
26
18
28
28
29
29
29
30
28
9
26
19
10
26
20
28
’ 28
29人
29
鰭
羅
聡i
繍
第1図 昭和36年9月の気象概況と発作状況
このうち発作のあった人数は半数以上の16人で
あった.1日のうち発作を起した患児の最も多か
て,後に述べる多くの例によっても明らかなよう1
ったのは9月10Hの8人で,この日の患児総数26
に,この移動性高気圧の東進が発作急増のきっか・
入の約30%が発作を起したことになる.
けをつくっているように思われる.
② 7∼8日:7日日本海中部にあった移動性.
高気圧はかなり急速に東北東進し,8日にはその
先に述べた時系列と気象変化とを対象とした結
果明らかになったことは次の通りである.
中心が千島南部に達している,これは後に示す多
1.喘息発作カミ急変している時期は,A+B系
列が急変して’いる所と規定すると,そのような日
くの例によっても明らかなように,移動性高気圧.
として9月中に注目される日は,①6∼7日,②
7∼8日,および③10∼11日である.これらは皆
が本邦附近を通過後に急に発作回数カミ減少してい・
る.
発作回数カミ多い6∼11日の間にみとめらる.この
9∼10日は本邦を通過し東方洋上に去った移動
期間を天気図によってしらべて見ると,秋ぐちな
ので前線の通過はしばしばあるが,いずれもあま
性高気圧が,そこで変質をはじめ居据わつた時期
り顕著なものではなく,東日本カミ低気圧性擾乱の
り出した夏型となった.この間発作回数は全体と
にあるが,型としては東:方洋上の高気圧カミ西には
影響下にある日は1日もないのである.これを気
して多くなってはいるが,A, B, A十Bの系列』
圧変化曲線によって調べてみても,6∼11日はき
における変化を見ると,これは前から持続による
わめて単調な変化を示し,更に強い気圧の極小は
ものらしく,特に気象条件の影響というようには:
見られない.
考えられない.
2.これを更に詳しく日々の天気図と対照して
③ 10∼11日:11日には本邦附近を前線が南下’
調べてみる.
し再び日本海方面に中心をもった移動性高気圧の・
① 6∼7日=6日山東半島方面から移動性高
気圧が東進して来て,7日には日本海中部に達し
勢力下に入った.条件としては11日は発作が減少
た.この時期に発作回数が急増しているのであっ
の変っていること,および南方洋上に台風20号が
一・
しなくてもよさそうであるが,前線通過で風向き
R98一
31
+Bが急変しているところと規定すると,そのよ
うな日として10月中に注目される期日は①13∼14
日,②21∼22日,③25∼26日,④31∼11月1日の
a
4例である.
2。喘息発作が気象条件と何等かの関係がある
とすれば,上述の4例について気象条件に何らか
臆.
の共通性が見出されてしかるべきである.大体の
9日
//日
〃日
5日
狛
/3H
見当をつけるために,先ず東京の気象要素の変化
f2日
グラフ上においてこれらの日を調べてみる.
7日
a)4例とも気圧の極大附近で発作状況の急変
が行なわれており,気圧極小時期には全く起って
o
0
Oe
いない.10月中で極小の前後と老えられる日数は
約10日あり,もし偶然の出現のし方であれば1.3
撫
であるから1回以上現われてよい筈である.4例
とも極大附近であるということは気圧変化との何
らかの関係を暗示するものである.
b)気温との関係は,4例中2例は気温が平年
第2図 昭和36年9月移動性高気圧の中心経路
以下で極小の日であり(例②,③),残りの2例は
あって関東南部は風がやや強いことなどから,後
平年より高く変動の小さい日である(例①,④).
に述べる気温の接地逆転の形成にはあまりよい条
件でないので減少したものと思われる.12日に発
作の全くなくなっているのは,日本海の移動性高
気温との関係は密接でないようである.
c)次に天気との関係であるが,①の13∼14日
気圧が通過してしまった後だからであろう.
/クルーx月栗束
写
3. 9月置16∼17日に第二室戸台風の強い影響
カミあり,天侯の変動からいっても中,下旬の方が
気温偏差
エ
ーピ
上旬よりもはげしい変化を示している.しかし
ニ∫
中,下旬には特に明瞭に気象条件と結びつけられ
耀
そうな事:例が認められないことは第1図のグラフ
ミ前
信三
隅
に明らかである.このように喘息発作の大きな変
雨量
iミリ)
@娠儂卿∬ 解 ∼77綴猛’4〃
@
雌+中..._.__
σ耀冴御彬躍伺7ノゐ∼躍卿
∼〃〃ど2∼/∼♂∼∫26 7∼8〃3〃
/ ∼345 〃7rρ〃〃/∼β〆♂∠5∠’〃ノ8
_気
@圧
クpo
化は,気象の大きな変化とは結びつかず,むしろ
移動性高気圧型の静かな天侯と関係があるらしい
Ca’
i
i
i
のである,
2)昭和36年10月=
10月の入院喘息患手数は9日迄26人,以後月末
/9人中の発作人数
多
@
ノ∼■
/2 34 56 73 9〃〃θ8≠ 〆5形〃β!ク労〃 ∼∼了∼’ 4∼7” 7
/
難ゴ
まで27人で,このうち発作のあった人数は18人,
1日のうち発作を起した患児の最も多かったのは
10月13日で11入で,入院患者の約40%,発作を起
誤長ゴ
競
璽=1
した患回数の61%にあたる.
「
D;撫、ノ植M,,!.
j
1
レ 冨
’
I
l
l
l411 ㌧
購
前述の時系列と気象変化とを対象した結果明ら
二多
かになったことは次の通りである.
第3図 昭胸36年10月の気象概況と発作状況
1.喘息発作の状況カミ急変している時期は,A
一:L・ so9
32
は晴れたり曇ったり,②の21∼22日は両日とも15
配置の変化が10月中でいつ起っていたかについ
∼20ミリの雨が降っていて①と②では天気の条件
て,発作に関係なく調べてみた,10月中では次の
は全く反対である.③,④の天気は25日は曇り勝
日がa)と同様の変化が起っている.
ち,26日晴,31日,1日は晴れたり曇ったりであ
り,大略晴ないし曇の時に発作の急変があらわれ
高気圧の中’ひがあり,5口には千島南部にぬけ
⑤ 4∼5日:4日には北海道西方の日本海に
ていることはわかるが,②のように全く反対の条
た.条件どしては①∼④の場合に似ているカミ,高
件の場合も見出されるので,簡単に天気と関連さ
気圧中心が幾分北に偏る傾向があり,両日共関東
せるわけにはいかない。
地方では北よりの風が強く,気温の逆転の形成に
3. 2のa)に述べたことは,私共が既に幾つ
かの論文で明らかにしたように,高気圧との関連
は条件がよくない.しかし発作回数の絶対値の変
化では一つの極大を形成しているので,やはり移
を考えさせるものがあるので,これら4例につい
動性高気圧の移動と関係のある場合と見られよ
て発作の急変のあった前後の気圧配置の変化につ
う.
いて調べてみた.その結果これら4例の間に次の
⑥ 8∼9H:8日移動性高気圧の中心は日本
ような著しい共通性が見出された.
中部にあり,9日にこの中心が三陸沖にぬけてい
a)規模の比較的小さな移動性の高気圧の中心
が関東の北を通過し,この高気圧中心が本邦を横
断して三陸沖か北海道南方海上に出ると,A十B
る.この場合は台風24号が南方洋上より北上,接
近し,風が強くて接地逆転のできにくい日であ
の符号が急に十から一に変化している(第3図).
が,前よりの継続が半数で気圧配置との関係は明
る.発作を起した患者は4∼5人で少なくはない
b)気象条件と発病,発作の関係を調べる場合
らかでない.
に,普通は病状の変化のあった時だけについてし
⑦ 15∼16日:15日から16日置かけて移動性高
か気象条件が調べられていない場合が多い.その
気圧が本邦を横断しているが,発作数が少なく関
結果或る条件の時に発病があることがわかって
係は明瞭でない.
も,反対にその条件の時に必ず発病があるかどう
⑧ 17∼18日:気圧配置としてはやはり移動性
かはわかならい.そこでa)に述べたような気圧
高気圧が本邦を通過しているが発作は全くなく,
気圧配置との関係は明瞭でない.
⑦,⑧は気象条件カミ好都合であるにもかかわら
ず,発作は15∼18日は少なくなっている.この点
が10月中で一番気象愚直繹のつけにくい場合であ
る.
c)高気圧性の気圧配置は気温の接地逆転の形
成に好都合の場合である.10月中の東京タワーに
欝“鐸、
おける風の観測資料を利用することができたの
1
20日 ∼ノ日3z
〃日
/2
で,発作に急変の認められた日の風速の変化を調
!「d臼
3日
べてみた(第2表).これによると4例中3例カミ後
oe
0
の日において各紙さで風速カミましており,1例は
Oo
逆に減少している.これから考えて風が強くなり
撫
接地逆転の形成に都合が悪くなる二とが,発作が
急に少なくなることの一つの条件であるように思
われる.
以上の比較検討で明らかになったことは,10月
第4図 昭和36年!0月移動性高気圧の経路
一 ・
S00 一
33
第2表 10月中東京タワーにおける風速
o
H
@
@
@
・・明1日(1ユ月)
高 さ
ユ3日
25日
26日
A ( 253 m)
8. 4m/s 1・ 13. 1 rn/s
10. 5m/s
12. 4m/s
10. lmls
14. 5mfs
B ( 173 m)
8.5
13. 7
10.9
12. 5
11. 2
14. 5
14日
22日
21日
9. 9m/s
6. 5m/s
8.4
10. 2
C ( 107m)
7.1
11.4
q..4
10.1
9. 2
12.1
8. 4
6.0
D ( 67 rn)
6.6
9.9
8.4
8.9
9.Q
10.5
8.2
5.4
E ( 26 m)
4.7
7. 0
6.5
7. 5
6.5
8.6
6.7
3.4
(10分平均風速の1日最大値)
中の小児喘息の発作の急変は,移動性高気圧の本
を対照してみた.
.邦附近の通過と密接な関係をもっていることであ
1.喘息発作の状況が急変している時期として
A+:Bが正から負に大きく変っている所を規定す
る.もちろんこのような気圧配置の変化は,必ず
しも発作の急変をもたらしているわけではない
ると,そのような日は①5∼6日,②13∼14日,
が,上述の4例共この形の変化の時に発作の急変
③19∼20日,④26∼27日で,10月の変化に比しこ
.の起っていることは極めて注目すべきことと思わ
の4例中割合いに変化の明瞭なのは①だけで,②
れる.すでに報告した論文中2)(1958),10月中7
∼④はその変動が不明確で偶然から期待される程
回目発作のうち,5回はvr型と名付けた気圧配置
度の大きさである.しかし一一一・応この4例について
.の時に起っていることを示したが,このW型はこ
調べてみた.
こに示した移動性高気圧の場合と全く同じ型であ
る.したがって全く独立した資料を用いたこの報
2. 前月同様に東京の気i象要素の変化グラフ上
において調べてみる.
告により,前に得た結果を確認したことになるわ
a)4例共気圧極大附近で発作状況の急変が行
けである.
3) 昭和36年11月:
捻
11月の入院喘息患児数は5日迄は27人,6日以
後月末まで28人で,このうち発作のあった人数は
19人,1日のうち発作を起した患老の最も多かっ
(〃30、こ=〃∼5
たのは11月5日で8人である,なおこの月では麻
疹に罹患したものが10人あり,14日から25日に多
/クルー∬月栗東
気温伊州
醗 乾鰯鰯 ”
氷
ソノ〃∼〃
o/〃/5
i〃/グ
ノレ/〃必
/∼345678 〃〃∠∼κ3μ〆5形!7/〃7∼〃/∼屈 ∬躍7 ∼ク
) 〃〃。
く見られた.
〃
各論児の発作がよく一致して特に注目すべき場
∼7∼∼8人中の
俊麟灘人数 琶 /一一…→.
@
合は次の2例である.
①5日夕刻:7人の患児が夕刻から夜にかけ
餐 ゲ
\
3
x一
” 一X
z
9
2/〃
て軽度の発作を起し,翌日は1名を残して他は発
?Q←._回___炉.。/
が始当
作が全く消退している.
ま日 5
つよ 4
鰭1
② 20日夕刻=4人の患児カミタ;刻から夜にかけ
て中程度の発作を起しており,翌日は1名の軽度
終前一/つ日、ワ
の発作を残して,他の者の発作は止っている.
カ
4+β
〆8
煤D ㌦、、 べ、
一ク
以上の2例は同時に発作が群発しているので,
後に気象との関係を詳しく調べることにする.
前月同様A.,:B,A+Bの時系列と気圧変化と
第5図 昭和36年1ユ月の気象概況と発作状況
一401一
34
なわれ,気圧の極小時期では起っていない.但し
ずれの揚合も発作の急変の行なわれているのは高
③の前半19日は気圧の谷に関連しているように見
:気圧の中心が関東よりかなり西にある場合であ
えるが,急速に気圧の上昇している時であって,
る.なお②および④はいずれも大陸方面の高気圧
やはり発作との関連は高気圧型と見られるように
からの吹き出しがあってから数日の後に対応して
思われる。11月で極小の前後と考えられる日数は
いるので,これは前に報告した気圧配置の1型に
約16日もあり,もし偶然の発作の現われ方をすれ
対応しているのである.
ば率は2.1となるので,2回以上は極小時に現わ
c)発作に関係なくa)b)のような気圧配置
を示した事例は11月中5心ある.この中の4例は
上述したa)b)の島田で,残りの1例は⑤2∼
れてもよい筈であるが,4例共極大附近であるこ
とは気圧変動と何らかの関係のあることを暗示す
3日である。⑤では発作の僅かの減少があるがそ
ると思われる.
の関係は明瞭ではない. この比較対照から11月
b)気温との関係は特に明瞭でないが,天気は
中はa)b)の気圧配置の現われたときは殆ど発
概ね晴天に恵まれている。
作の変動があったと見てよいことになる.
3. 2のa)は前月同様移動性高気圧との関連
を思わせるもの溺あるので,発作急変の前後の:気
d)前月同様接地逆転の形成との関係を見るた
圧配置の変化につき調べて見た.
a)①および③は前月同様に規模の比較的小さ
めに風速を見ると第3表のようになる.10月と同
じ型の①,③は前月同様に発作数が急に減少した
な移動性高気圧の中心が関東の北を通過しこれカミ
日に風速を増しているが,②,④の場合は逆に風
本邦を横断して三陸沖か北海道南東方洋上に出る
速が減少している.しかも②,④の場合はA+13
と,一A十:Bの符号は急に十から一に変化してい
が十である13日および26日は共に風速がかなり大
きく,:気温の逆転には不適当と思われる日であ
る.
b)②および④はいずれも移動性高気圧と関連
る.したがってこの揚合は逆転による説明とは別
していることは明らかであるが,これらの場合は
な機構が考えられなければならないように思われ
る.
高気圧の中心カミかなり南に偏している.そしてい
以上の検討の結果,11月中に小児喘息発作の急
変した4例の場合はいずれも本邦付近の移動性高
気圧の通過と密接に関連していることがわかっ
ジ
た.ただしこの場合10月中と異なることは,10月
中と同じ型の場合は①,③の2例で他の2例(②,
④)は別な型の移動性高気圧が関連しており,こ
れは先に報告した1型におよそ対応した場合であ
4日
5日
った.すなわち大陸方面から吹き出しがあって数
b
}f7
日後の場合で,前論文2)の1956年11月の例では発
弩・・5鋤》
作極大の4例ともこの型であった.
25’
2げ日
2ti日
oo
0
昭和36年11月は大陸方面の高気圧の発達はあま
2ク日
Od
り顕著でなく,完全な吹き出し型は1例くらいし
臨
続した年であって,発作急変の前後にあらわれ易
かない.10月に現われ易い配置がなお11月置も存
い高気圧配置型の出現傾向としては10月の傾向と
4噸
よく一i致していることがわかる.
11月の検査結果のはじめに注意した5日夕刻と
第6図 昭和36年11月移動性高気圧の経路
一 ・
S02 一
35;
第3表 11月中東京タワーにおける風速
o
日
・叫・・
高さ
@
@
14日
13日
@
20 H
ユ9日
26日
27日
A ( 253 m)
9. 4rn/s
10. 6m/s
19. 7m/s
15. 5mls
11.6m/s
14. 2m/s
19. 5日目s
B ( 173 m)
9. 5
12.3
22. 1
12.8
IL O
14. 0
16.7
9.8
C(ユ07m)
D( 67m)
E( 26m)
8.7
9.6
20. 2
10.8
9.3
10.8
ユ5.3
8. 1
9.1
9.2
15.9
8.3
7. 3
7. 1
13. 5
5.2
6.4
7.2
3.9
2. 0
10.Om/s
(10分間平均風速の1日最大値)
20日夕刻の場合は,①および③の場合に一致する
な
多
多
ので 高気圧型についての吟昧はその項目にゆず
るが,この両日とも東京タワーの毎時観測の風速
=ゴ
を調べてみると,いずれも北東ないし東北東の風
一ti
が0∼5m/s程度で非常に弱く,夕刻の気温逆
/eti/−M月東束
気温偏差
雨量
`ミ〆〃 墨4〃474グ
@
雪
”48幻
お
9〃30
ウ”∼3
転の形成には特に好都合な揚合と考えられるので
バ”∼”
1/”5
ある.
/ ∼ 3 4
ル/ρ”
∫
7 8
ク 砂 〃 /2
3μ〆∫形 /7 8!ク
2∠
23∼5 あ7∼8 3グ」/
∼炉
)IPffS
/〃〃
4) 昭和36年12月
2処猟犬中の発作人数
ぢ
12月の入院喘息早年総数は27人から32人の間を
多
変動ししており,毎日の患児数は第4表の通りで
f
ある.このうち発作のあった人数は15人で約半数
ラ
であった.
多
∼”∫瀞物ジ/….
鱗
翻 C》・ババ 、
嬉 ’縫遡ハ 》
忌門児の発作のよく一致しているのは,①8日
@
から7人の発作がはじまっていること,②26日に
発作患児6人中5入までが発作が止んだことであ
れるが, この各々については後で吟味をしてみ
第7図
2
3
27
14
4
31
15
昭和36年12月の気象概況と発作状況
時期をしらべると,①8∼9日,②25∼26日,③
日雛刷駅頭暦日1雛患
32人
F
1・前月同様A.,:B,A+Bにつき発作急i変の
第4表 /2月中各日入院喘息患児数
12日
13
豆・M 「
]9
る.
28人
28
烈昌Aノ
嫌
る.なおこの他3∼5日も発作群発の期間とみら
1日
1
・』.8
4日前後の多発カミ6日に減少していることが注目
32人
32
23日
24
32
32
25
31
31
26
31
るl
a)11月に比らべると発作症状の急変した時期
はいずれも気圧極大であるか,極小であるかをき
5
31
16
31
27
31
6
31
ユ7
31
28
31
7
3/
18
32
29
31
8
32
19
32
30
31
31
31
される.
2. この日を図表上に見ると第7図のようであ
めかねるような時期である.はっきりした気圧の
9
32
20
32
10
32
21
32
谷の前後で急変を起していないと同様に,はっき
りした気圧の峰においても起っていない.天気や
ユ1
32
22
32
気温との関係もあまり明瞭でなく,一義的の関係
S03一
“・
36
a
高)
o
矩
.終
oP
ノ
伊
噛婁騒
0
p
x/
25日
Oo
幽
第8図 1型気圧配置図
第9図 昭和36年12月26日の気圧配置とそれ以前の
移動性高気圧の経路
は殆ど見出し難い.
b)次に気圧配置との関係を調べてみた.12月
ある.
ともなると冬型の気圧配置が安定して来て,気圧
③の揚合は3∼5日で,これは私共が先にもと
系の中心を追跡することが困難となるが,かなり
めた1型の場合にほぼ相当しており,特に4日午
細かな動きにも注目して見ると次のようなことが
後から5口午前はこの型の代表と見られる.6日
はかなり顕著な寒冷前線ならびに気圧の谷が通過
:わかった.
①の場合は7日弱い寒冷前線カミ本邦附近を通過
して1型の配置はくずれた.
し,8日は本邦附近に南偏型の高気圧がゆるやか
;にはり出し,これは私共が先に指摘した1型に相
以上の調査の結果明らかになったことは,
1. 12月は気圧配置が西高東低として安定化し
当した型である.9日はこの高気圧のはしり出し
の南東よりの部分が本邦南方洋上にぬけた形であ
かしくなってくるが,細い変化にまで注意しなが
り,9日は高気圧の南東よりの部分の後面にある
らその変動を追って見ると,私共が先に見出した
口:本海西部の寒冷前線を伴った低気圧が,北日本
1型の場合に発作が増加しはじめ,この型がくず
てくるために,その変動を追うことがかなりむつ
を横断したため,関東地方は北∼西よりの風がか
れると発作が急に減少している(①および③の場
なり強くなった.すなわち,8日の気温の逆転形
合),
成に都合のよい気圧配置が,9日の強風により吹
2.先の私共の報告では,1型の場合は5例中
き払われた感じである.
5例で他の型はなく,高い出現率を示した場合で
②の揚合は25∼26日で,この場合も冬型の気圧
配置が安定してしまっているので,高気圧の張り
あった.しかし今回は既に私共の指摘した6個の
型の他に,新に南偏型高気圧の影響下にある時に
出しの状態はつかめない.24∼25日にかけては本
発作を増し,本格的な冬の吹き出し型になって風
邦南方洋上を南偏型高気圧が通過し,このあと26
が強くなると発作が一齊に少なくなる場合が見出
日に本格的な冬型の吹き出し型になった場合で,
された.12月中,弓偏高気圧が本邦南方洋上を東
このような型は昭和37年2月にもあらわれた型で
進した揚合は1回あり,あまり明瞭でない場合も
一 404 一
37
第5表 1月中各日入院喘息患児数
開始ならびに同時停止の事例は前月程顕著ではな
・嚴馴副鷲患1・嚴患
いが,4例以上同時に発現した場合は9日だけで’
1日
30人
あり,4例以上同時に発作の停止した日は10日,
31
2Z日
23
34人
30
12日
13
31人
2
34
29日であつた.
3
30
14
31
24
34
4
30
15
31
25
3り
5
30
!6
31
26
36
6
30
17
31
27
36
7
30
18
31
28
36
8
30
19
33
29
36
まり明瞭ではないが6∼7日である.
り
2.前月同様東京の変化グラフ上にこれらの日’
を調べてみる.
9
3e
20
33
30
36
10
30
21
33
31
36
11
30
前月同様に各系列と気象変化を対照して見る.
1.発作カミ急変している1月中の日は,①9∼一
10日,②27∼29日,③①および②に比較するとあ
a)3例とも気圧の極大前後の現象であり,極
大附近と結びつけることは殆んど不可能である.
考慮すると2回ある.冬季において発作の急変を
1月中において続く2日が気圧の極小に関連して
もたらす一つの型と見られることは昭和37年2月
いると思われる場合が13例,極大に関速している
の例でさらに明らかになるであろう.
と思われる場合が18例であるから,3例を偶然に
5)昭和37年1月=
1月中の入院喘息患者総数は30∼36人の間を変
合は3×13/31=1.2だがら,少なくとも1回は
動しており,毎日の入院患者数は第5表の通りで
このようなことがあつてもよいものと考えられる
ある.このうち発作を起した者は11人で,前月よ
のだが,3例共極大に関遠した附近で起っている
り入院患者が多いにもかかわらず発作発来者ぶ前
ことは,やはり高気圧型の天侯と偶然以上に結び.
月の15入から11入に減少しているのは,天候が安
ついていることを示咬するものと思われる.
選び出した場合にこれが極小に結びつけられる場一
定化したためかと考えられる.さらに発作の同時
b)3例にっき気圧配置との関係を求めて見る
と,共に冬型の気圧配置カミ安定している時で,そ
〃62一∫月 東京
写
の動静はなかなかつかみ難いが,前後の天気図を
多
多
充分参照しながら調べてみた.
①の揚含は小規模の移動性高気圧が関東の北方
:i
雨量
鞭嫁
T諭3
−ti
骸
纏
ノ、噸募
災で
愛
鷺
る
丘5
を東進している.10日にこの高気圧の中心が三陸
〃P
沖にぬけると,発作は急に停止した,移動性高気
C圧〆
/
溺高57四胸/∼β膠/!6〃ゐ〃∼〃∼ノ
2心
∼5顧∼7∼
圧の中心はやや南偏するが,これは昭和36年10月
3〆
の4例とほぼ同型である.ただ基本場が西高東低
と/多lf
饗
になつているのであまり目立たない.
3グー36人中の発作人数
‘
ゴ
ヌ
②27∼29日の揚合も西高東低が卓越し気圧配置
の動きは明瞭でないが,西方から南偏型高気圧の
/ ∼ ,4 5 6 73 ク
汐ノ/ノ
東の部分の中心を追跡して見ると,やはり高気圧
3〃κ∠〃7/8〃〃ノ∼∼∼」∼4∼5∼〃7∼8卿」1
雛望
爾1
中心が南東方洋上に出るにしたがい発作が少なく
1
雑・
4留
ハ
’\ 〆・ ’ 、
1趣べ 八
(B)暢
・ l l
讐=1
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旨 4ノ」
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、 「
ど
八
O7\。、
なつている.30日は完:全な吹き出し型の冬型の気
Y 、’u
圧配置となつた.これは前月新に付加した㎜型と
@
▽
呂
たて ヨ
ほぼ相当するものと思われる.
雛一4
(A)が=匿
③6∼7日の場含も気圧系の動きは明瞭でない
が,大陸方面から南東方に張り出して来た高気圧.
第10図 昭和37年1月の気象概況と発作状況
一一 405 一
:38
〃
/4
^∼
/962一∬月東束
気温偏差
ノ〃
Wづ
。
4∼70
↓四夷(平叡票
一2
/ノ
│4
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〃躍
雨量(ミリ)
ユク護
〃 4ク
66米
(、 〃35
/気圧
s日κ。,
r
琶瀦
6長日
ク日
8日
∠3μ
z∫”〃
2/∼∼ 23∼4
∼ ∼7∼げ
〃〃
ep
0
/∼ 3 4 5 6ク ♂ 9〃〃
〃〃5
7臼 8日
36弓双中の発作人数
6
2tiB∼7日
〃ク 28
グ・
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8〃..
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/ ∼ 3 4 5 〃 7
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5∠6/7ぴ,ワ∼0∼ノ∼∼∼3∼4∼
∼7∼8
始当
漉
まEヨ 5
つよ 4
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浴iθ)が診
@
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、 、
『」
凶+8
・、 ハ冗
7
つ日、一2
スで_3
第11図 昭和37年1月大陸方面から張り出して来た
高気圧の東の部分の追跡.この場合は移動
性高気圧の中心としては追跡出来ない.
覧 ’
@了
終前一/
,
l
冒
Ll
ハハ
1、 A
1 ビし
P
、
冒冒講
A/
第12図 昭和37年2月の気i象概況と発作状況
.発作を増し,通過するにつれて減少していること
∼28日迄36人目,発作を起した者は17人目前月の
11入に比してかなりの増加があり,特に下旬の発
がわかる.
作回数カミ多くなっている.
の中心を追うと,その中心が本邦を通過する時に
発作の同時開始ならびに同時停止の事例は中旬
c)①②③を通覧して見ると,発作に関係カミあ
ると推定される配置は,大陸方面から東に張り出
頃まであまり明瞭でないが,下旬になるにつれか
した高気圧の部分であり,その中心が本邦を通過
なり顕著である.すなわち①19日目16∼18日目無
すると発作を増し,太平洋方面にぬけると一齊に
発作のあと3例共夕刻発作発現,②21日は20日の
二減少する変化を示している.1月中は前述のよう
に西高東低型が卓越しているため高気圧中心の追
無発作のあと5例発現,③27日は26日1例発現の
あと4例発作発現,④20日,24日(6例停止)は
跡は必ずしも容易ではないが,発作に関係なくこ
同時軸上カミ見られた.
1月と同様に各系列と気象変化を対照する.
のような追跡のできる揚合は4例あり,そのうち
3例75%に発作の急変を起している.
1.喘息発作の急変した日として,①18∼19
以上の調査から,1月は気圧配置カミ西高東低と
日,②20∼21日,③23∼24日,④27日を吟味して
・安定化して来るために,その変動を追うことカミ
見る.
.かなりむつかしいが,細かい変動を注意して見る
と,先に報告した1型とV十型の場合に発作を増
2.東京の気象変化グラフとの対照を行なって
見る.2月は前に述べた昭和36年9月から昭和37
し,この型カミくずれると発作が急減ししているこ
年1月遅での5ヵ月と異り,簡単に気圧の極大,
とがわかった.先の1958年の報告では,1型が高
極小と結びつけ難い.すなわち2月下旬は短同期
い出現率を示したが,今回も同様で前の報告を実
気圧変動の非常に複:雑した時期にあたっているの
証する結果となった.
で,はっきりした傾向はっかめない.
2月は記録的な異常乾燥の続いた月で,18日の
6) 昭和37年2月:
東京の出火件数は70件にのぼり平年の30件にくら
2月中の喘息三児入院数は1∼11日迄37人,エ2
一 406 一
39
べ倍以上となり,出火件数のレコードをつくっ
た.この乾燥は22日まで続いたが,23日に微雨が
子的弱い.南偏型高気圧の勢力下にある.
あり,25日になって雪交じりの雨ぶ7ミリ程降っ
26度附近に中心をもつた2っの高気圧にはさまれ
22日:本邦附近は朝鮮北部と本邦南方洋上北緯:
て37日ぶりの乾燥が解消したのであった.この状
た形になったが,天気は全国的に快晴の所が多く
況と対照して見ると,発作は乾燥の終期から次の
季節の初期にかけて頻発していることがわかる
風は弱い.
が,これは気象条件として一応注意しておかなけ
ればならないことであろう.
3.次に2月19日頃からの気圧配置を追跡して
23日=2つの高気圧にはさまれた部分は本邦の
南岸沿いまで南下し,本邦太平洋側は曇または雨
となっている.能登半島および佐渡附近に小高気
圧がある.
24日;佐渡附近にあった小高気圧は三陸沖にぬ
みる.
19日1北緯40度線に沿って低圧帯となり,その
けた.23∼24日の経過は10月の例と概ね似てお
南側をかなり南偏した(その中心は北緯:27度附
り,小移動性高気圧が東方洋上にぬけると同時に
近)移動性高気圧が東支那海方面より張り出して
発作が急減している.
来た.本邦日本海側をのぞき快晴で風の弱い所が
多い.
27日:26日に本邦南岸を低気高が通過してより
後,27日は典型的な西高東低型となった.本邦太
20日:前日の移動性高気圧はあまり張り出して
平洋側はよく晴れており,西よりの風がかなり強
来ないが,日本海中部には別系統の高気圧が張り
い。しかし27日午後は気圧傾度がかなりゆるくな
出して来て,本邦附近は西ないし北西の季節風が
り,これが27日夕刻の4例の同時発作に対応して
前日より強まった.日本海側は降雪の所が多い
第6表 2月下旬気圧状況と発作状況
が,太平洋側は殆んど快晴である.
月回 気圧状況 1発作状況
21日:東日本は北海道南部に中心をもつた低気
圧の領域に入った.天気は快暗,風向は区々で比
2月19日
?
南偏型高気圧(Hs)圏内
発作3例
20日
(季節風強まる)
発作なし
21日
南偏型高気圧圏内
発作5例
発作6例
発作7例
発作止る5例
発作2例
発作1例
発作4例
22日
同 上
VI 型
23日
(寒冷前線南下)
24日
25日
(南岸前腺接近)
26日
(南岸低気圧)
27日
工
型
いるらしい.以上を発作と比較して見ると第6表
の通りとなる.
撫
第13図 昭和37年2月19日の気圧配置と22日∼23日
の移動性高気圧の経路
これを通覧して見ると,高気圧圏内に入って風
の弱い場合に発作の同時生起が多くなり,季節風
が強まったり,前線が通過して風が強くなると同
時生起の数例が少なくなっていることがわかる.
私共の前の報告では,2月には発作極大が見ら
れなかったので,どんな型が発作に関係があるか
確め得なかつつた溺,今回は見当がついた.すな
わち③はV[型,④は1型と考えられるカミ,①およ
び②は今までの6個日型とは違って,むしろ南偏
型高気圧(HS型)とも講ずべきもので,私共は
一. 407 一.
40
これをW型として先の6個り型に附加することに
れば,宇宙の状態カミ私共に関係しないことはな
する。
く,その状態と生体の関係は研究さなければなら
4.なおここで注意すべきことは,何故2月の
ない問題であると思う.挾く地球をとりまく:気i象
下旬に気象との関係がありそうな揚合が集中した
の変化だけを考えてもどういう変化がどういう機
かということである.もちろん上旬中旬に発作が
転で人体に作用し,人体はこの影響をどう受け,
ないわけではなく,例えば4日などは1型の場合
またはどう処理して生理的の状態を保ち,より快
として採用したいところであるが,統計的には,
適な営みを行なっているかということは,なお今
上,中旬はその関係があまりはっきりしないので
後に残された問題が多い.気象の変化に伴い生体
ある.この点は更に詳しく吟味すべきであろう.
内に起る化攣的変化を調べた報告も散見される
考 按
気管支喘息の発作は特有な音を伴った呼吸困難
が,私共は先の報告に述べたように,生体に或る
症状,疾病の起つた時の気象状態をしらべて行く
で,その病因,本態に関しては種々の説が述べら
という方法をとっている.今回は神奈川県二宮に
れている.迷走神経緊張により小気管支笛の攣
縮気管支粘膜の腫脹と分泌過多のために,小気
おける気管支喘患児の発作について秋,冬の傾向
を調べたのである.
管支腔の動転がおこり,特有な呼吸困難カミ起ると
検査結果に述べたように,発作の発来は殆んど
いうもの,肺循環の障害による,あるいは気管支
の循環障害によるという循環障害に起因するとい
高気圧性循環の気圧配置の場合で,殊に移動性の
あまり⑪きくない高気圧に関係しているらしいこ
うもの等9)ユ。)がある.なお遺伝的因子,体質的因
とがわかった.二宮における発作に関しては,次
子も濃厚に作用し,自律神経不安定読,内分泌異
常説,精神因子や家族環境説,アレルギー説等9)
の3つの気圧配置型があるようである.
1)移動性高気圧が日本海を通過する型.
2)大陸よりの吹き出しがあってから2∼3日
11)あり,未だ決定的なことはわかっていない.し
かしこの発作はアレルギー反応の一種で,体外性
抗原(家塵,花粉,胞子,食物,調剤等)および
後の気圧配置のゆるんだ型.
3)本邦附近を南偏型高気圧が東進する型.
体内性抗原(寄生虫,代謝産物等)によって生体
このような気圧配置型になると発作の同時生起
が感作されて抗原に対する抗体が産生され,再び
カミ多くなり,この型がすぐれると発作の同時停止
抗原の侵入のあった時に抗原抗体反応を起し,こ
が見られるのである.この3)の場合を除けば先に
れが気管支の変化を生じて発作を起すというアレ
ルギー説が広く行なわれていた.従来日本におけ
報告した喘息の発作の起り易い気圧配置型のW
型,1型と全く同じであり,3は新しく見出され
る喘息発作中,花粉その他のアレルゲンを見出す
た型なので珊型とすることにした.各回の月別出
ことのでぎるのは5∼6%に過ぎないといわれて
いたが,近来アレルギーに関して広汎な研究が進
められ,アレルゲンとして家塵に注目し,そのエ
キスによる減感作療法が効を奏した報告ユ7)も多
現回数は第7表の通りであり.VI型は秋に多く,
い.その他の抗原:についても研究され,やはり病
因,本態としてはアレルギ・一一反応で,体質,遺
伝,気候,環境,精神的諸因子はこの反応の誘発
にあずかる因子という見解が多くなって来た.
喘息発作と気象との関係は古くから認められて
いるところで,寒暖の差の大きい時,台風や前線
1型,W型は冬に多い.これは日本の秋,冬の気
圧配置型とも大いに関係することであるが,偶然
性を考えに入れてもやはり多いといえる.このこ
とは従来の前線通過,季節の変り爵,寒暖の差の
甚しい時,台風,低気圧等に関連して起るといわ
れているのに対し,天気の良い穏やかな日に起っ
ていて,しかも高気圧性循環に対応していること
を示している.私共の先の報告も殆ど高気圧性の
場合に起っており,台濁基隆の1年間,横浜,大
との関係,転地の問題,四季の変り目等のことが
阪の例も高窓圧性循環で小高気圧の移動が関係し
いわれている.私共は宇宙の中の1微生体と考え
ていたのである.
一408一
41
第7表 各気圧型月別出現回数
\欄
2) この高気圧型には3っの型のあることがわ
冬
秋
福野塗\
る.
計
昭37
昭36
かった.
9月10月11月 12月1月2月
(1)移駐性高気圧が日本海を通過する型.
1 (W)
2
4
2
。
o
1
9.
2 (1)
o
o
2
2
2
1
7
3 (VI[)
o
o
o
1
1
2
4
(2)吹き出しがあってから2∼3日後の気圧
配置のゆるんだ型.
(3) 本邦附近を巾偏型高気圧が東進する型.
すなわち,上述のような気圧配置になると発作
の同時生起が急増し,この配置がくずれると,同
これらの気圧配置型は,大体気温の接地逆転に
好都合な型で,今回東京タワー一VCおける風速も知
時に発作が停止するのである.
3) ここにあげた(1)(2)の型は私共の先に報
ることができたので,この条件による発作発来も
考えられる,気温の逆転(lnversion)も気象病
誘発に関係があるとされている不安定状態で,逆
転層以下の下層空気は上昇せず,この部は異常に
安定となる状態で,日本では初冬の夜間によく見
告したVI型,1型の場含と全く同じであり,(3)
は今回新しく見出された型なのでW型とすること
にした.
4) これらの気圧配置型はいずれも気温の接地
られる現象である.この状態の時の地上の大気は
逆転に好都合な型であり,このよな気象条件が塵
安定であるが,汚染は特に著しくなる.するとこ
埃,眞菌,その他の喘息発作の原因となるアレル
の気象条件が塵:埃,眞菌,花粉,胞子等の喘息発作
ゲンの急増をもたらし発作を起すという一つの機
の原因となるアレルゲンの急増をもたらし,この
作を示している.
ために発作の同時生起も多くなるのではないかと
いうことを老えることができる.横浜喘息の揚合
のスモッグはこの気象条件である.東京から大阪
へ転勤になった人の子供の例で,移転後発作の多
くなった盗料があるが,これもこの逆転が関係し
ているらしく,別の機会に報告したいと思ってい
る.さらに例数を増して行けば気象が発作の誘因
となる機序を解明して行くことができるのではな
いかと思われる.
二宮の喘息直売の秋冬の二合をかなり綿密に気
象条件と対応させて調べたが,今まで主張されて
いたような前線通過による寒冷刺激によると考え
られる揚合は,殆ど見出されていない二とも注目
されるべき結果であろう.
結
語
5)秋冬の丁合についてかなり綿密に調べた結
果では,今まで主張されたような前線の通過によ
るもの,寒冷刺激によるものと考えられる事例は
ほとんど見出されていない.
稿を終るにあたり,磯田教授の御校閲を深謝いたしま
す.
文
献
1)根本順吉:測候時報27449(1960)
2)根本順吉・他:天気5383(1958)』
3り川上武:日本臨床17406(1959)
4)根本1項吉:研究時報12143(1960)
5)根本順吉・他:生気候に関する研究会(1959)
6)根本順吉・他:生気候に関する研究会(1960)
7)根本順吉・他:生気候に関する研究会(1961)
8)笠井和。他:東女医大誌31498(!961)
9り呉建・坂本恒雄:内科書下巻南山堂(1962)
713頁
昭和36年9月から昭和37年2月までの秋および
冬期において,国立東京第一病院二宮分院に入院
した30名前後の気管支喘息患児について,発作の
同時生起および同時停止の日時ど気象変化との関
係を調べた.
1)発作症状の急変の認められた20事例につい
10り黒川利雄 監修:現代内科学大系.呼吸器疾患
1中山書店(1959) 167頁
11)黒川利雄 監修:現代内科学大系,物理的原因
による疾患 中山書店(1959)147頁
12)遠城寺宗徳;日本臨床17422(1959)
13)川上保雄: 〃 17395(1959)
14)中川圭一・他: 〃 17430(1959)
15)北原静夫・他: 〃
て気圧配置との関係をしらべた結果,これらはほ
とんどが高気圧性循環の気圧配置型と対応してい
16)勝田保男:
17436(/959)
〃 17461(1959)
17)松村竜雄:小児科学会東京地方会(1962)
一 409 一