派遣社員として働く労働者は、厚生労働省で取りまとめた労働者派遣事業 報告書の集計結果によると、平成23年6月1日の時点では全国で約137万人。 多少の増減はあるでしょうが、現在も同じ位の数の方が派遣就労をしています。 「好きな時に好きなだけ働くことができる」、「自分のスキルや能力を生かせ る仕事ができる」といったメリットもありますが、法律違反などによるトラ ブルも散見されます。 まずは、派遣労働のしくみを理解して、正しい知識に基づいて、安心でき る環境で働く意識が必要です。 今回の特集では、平成24年10月1日から施行された改正労働者派遣法の 改正された点を含め、派遣労働の基本的なしくみについてご説明します。 1. 派遣先が決まるまで ⑴ 労働者派遣とは 「『派遣元事業主(派遣会社) 』が自己の雇用する労働者(派遣労働者)を『派遣先事業主(派遣先)』 の指揮命令を受けて、派遣先のために労働に従事させること」をいいます。 下図のとおり、派遣労働者と派遣元事業主との間に雇用関係が、派遣労働者と派遣先事業主との 間には指揮命令関係だけがあります。派遣労働者は、派遣会社に雇用されますが、実際には別の会 社である派遣先の指揮命令に従って働くことになります。一方、派遣会社と派遣先は「労働者派遣 契約」を結び、派遣会社は派遣先に派遣労働者を派遣します。派遣会社は派遣先から派遣料を受け 取り、そこから派遣労働者に賃金を支払います。 正社員の場合は、会社と労働者が1対1の関係であるのに対し、派遣では派遣会社・派遣先・派 遣労働者の三者がトライアングルの関係となっています。 一方、“請負”という形態では、発注者(注文主)と請負会社は「請負(業務委託)契約」を結び ますが、労働者は発注者の指揮命令下で働くのではなく、請負会社の指揮命令下で働くことになり ます。 〈法令違反の働き方〉 ・派遣先から、さらに別の会社に派遣されて指揮命令を受けていれば、 二重派遣であり、職業安定法違反となります。 ・請 負であるにもかかわらず派遣先で指揮命令を受けていれば偽装請 負であり、労働者派遣法違反となります。 ―3― ⑵ 労働者派遣の種類 派遣には、雇用形態によって常用型と登録型の二つのタイプの派遣があります。 ◎ 特定労働者派遣事業[常用型派遣]←派遣会社は厚生労働大臣への届出が必要 派遣の仕事の有無に関係なく、派遣会社に常時雇用されているタイプです。派遣先が決まって いない時でも、派遣元である派遣会社に雇用されていることになります。 ◎ 一般労働者派遣事業[登録型派遣]←派遣会社は厚生労働大臣の許可が必要 派遣の仕事を希望する人が派遣会社に登録手続きをしておき、派遣先が決まった時に派遣会社 との雇用関係が発生するというものです。この登録型派遣が多いようです。 届出受理番号・許可番号については、厚生労働省の運営する「人材サービス総合サイト(http:// www.jinzai-sougou.go.jp)」でも確認できますし、派遣会社のホームページで見たり、問合せたり して確認してください。 ここでは、これ以後、主に登録型派遣についてご説明して行きます。 ⑶ 派遣が禁止されている業務 労働者派遣事業を行うことができない主な業務は、次のとおりです。 ①港湾運送業務、②建設業務、③警備業務、④病院等における医療関係の業務(一部を除く)など CHECK ! 改正ポイント!! ① 雇用期間が30日以内の日雇派遣は、原則禁止となりました。 但し、以下の場合は、30日以内の日雇派遣が認められます。 ①禁止の例外として政令で定める業務について派遣する場合 禁止の例外として政令が定める業務 ②以下に該当する人を派遣する場合 ○ソフトウエア開発 ○調査 ○事 業の実施体制 (ア)60歳以上の人 ○機械設計 ○財務処理 の企画立案 ○事務用機器操作 ○取引文書作成 ○書籍等の製作・編集 (イ)雇用保険の適用を受けない学生 ○通訳、翻訳、速記 ○デモンストレーション ○広告デザイン ○ OAインストラクション ○添乗 (ウ)副業として日雇派遣に従事する人(生業収入が500万円以上) ○秘書 ○セールスエンジニアの営業 ○ファイリング ○受付・案内 金融商品の営業 ○研究開発 (エ)主たる生計者でない人(世帯収入が500万円以上) ② 離職後1年以内に、派遣労働者として元の勤務先に派遣されることはありません。 直接雇用の労働者を派遣労働者に置き換えることで労働条件の切り下げが行われないよう、離 職後1年以内に、派遣労働者として元の勤務先に派遣されることは無くなります。 ※60歳以上の定年退職者は例外として除かれます。 ⑷ 登録から雇用契約までの流れ 登録型派遣で働くには、先ず、派遣会社に登録することが必要です。その後、仕事が決まるまで は以下のような流れになります。 ①登録する派遣会社を選び登録手続きをする⇒②面接、スキルチェックを行う⇒③派遣会社から 仕事の紹介(働く意思の確認)⇒④派遣会社との雇用契約が成立 派遣会社から仕事の紹介を受ける際に注意することがあります。派遣先に誰を派遣するかは派遣 会社が決めることなので派遣先の意向は関係ありません。派遣先が派遣労働者を指名することはも ちろん、派遣就業の開始前に派遣先が書類選考や事前面接を行うことは雇用主が行う採用行為にあ たり、労働者派遣法違反となり、原則禁止(紹介予定派遣は除く)されています。ただし、派遣労 働者の希望で、派遣先の職場見学をすること、履歴書を送付することは認められています。 ―4― 2. 派遣先が決まったら ⑴ 労働条件の明示と就業条件の明示 労働契約を締結する時に、労働条件が明示されます。また、派遣就業を開始する時に、就業条件 等が明示されます。[ 登録型の場合は、同時になされるケースが多いようです。] 〈労働条件の明示の主な内容〉 〈就業条件等の明示の主な内容〉 ◆労働契約の期間 ◆就業場所 ◆業務内容 ◆就業時間(残業の有無) ◆休日、休暇 ◆賃金 ◆退職に関する事項(解雇の事由を含む) ◆業務内容…どのような業務を行うのか ◆就業場所…どこで働くのか ◆指揮命令者…派遣先で誰から指揮命令を受けるのか ◆派遣期間…派 遣先で働く期間はいつか(派遣会社 と派遣先は、派遣期間について法律上 の期間制限の範囲内で、できるだけ長 くするよう努めることとされています) ◆就業日・時間…派遣期間のうち就業するのはいつか ◆苦情の処理の申出先…苦情は誰に言えばいいのか (派遣会社と派遣先のそれぞれ) ◆期間制限抵触日…期 間制限のある業務の場合に明 示されます ※ 明示内容と実際が異なる場合には、派遣会社と 派遣先は労働者派遣法違反となります。 書面の交付により明示されます 派遣労働者から苦情の申し立てがあった 場合、派遣会社と派遣先は連絡を取り合い、 その解決を図らなければならないことに なっています。 また、苦情の申出をしたことを理由とし て、派遣労働者に対して不利益な取扱いを することは禁止されています。 書面の交付、FAX,メールのいずれかにより明示さ れます ⑵ 労働条件の内容 ① 派遣労働者は、派遣先の事業場に適用されている地域別(産業別)最低賃金の適用を受けます。 〈具体例〉(最低賃金は、平成24年11月現在の時間額) 派遣会社:福岡県 派遣先:佐賀県 福岡県最低賃金 派遣労働者 佐賀県最低賃金 (701円) (653円) 派遣先の佐賀県の最低賃金 (653円)が適用されます ② 派遣会社の三六(サブロク)協定(時間外・休日労働に関する労使協定)の範囲で、派遣先 から残業を命じられることがあります。事前に示される就業条件等をよく確認しましょう。 CHECK ! 改正ポイント!! (1)派遣会社は、必ずあなたに待遇に関する事項の説明を行います。 労働契約を結ぶ前に ① 雇用された場合の賃金の見込み額や待遇に関すること ② 派遣会社の事業運営に関すること ③ 労働者派遣制度の概要 について、派遣会社から説明を受けてください。 (2)派遣先の社員との均衡(賃金など)が配慮されるようになります。 派遣会社は、派遣労働者の賃金を決定する際、 ① 派遣先での同種の業務に従事する労働者の賃金水準 ② 派遣労働者の職務内容、職務の成果、意欲、能力、経験など に配慮しなければなりません。 教育訓練や福利厚生などについても均衡に向けた配慮が求められます。 ―5― ⑶ 労働・社会保険の加入 各保険の詳しい内容や手続き等に関しては、最寄りのハローワーク(雇用保険関係)または全国 健康保険協会(健康保険関係)・年金事務所(厚生年金保険関係)へお尋ねください。 〈労働・社会保険の加入要件の概要〉 雇用保険について ① 「31日以上一つの派遣会社に引き続き雇用されることが見込まれる者」、または「31日未満の雇用契約 であっても次の雇用契約の間隔が短く、その状態が通算して31日以上続く見込みがある者」であること。 ② 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。 健康保険・厚生年金保険について ① 原則2ヵ月を超える雇用期間であること。(日々契約の方で1ヵ月を超え同一事業所に引き続き雇用される 場合や、2ヵ月以内の方で契約の雇用期間を超え同一事業所に引き続き雇用される場合には、引き続き雇用 されたところから健康保険・厚生年金保険に加入することになります。) ② 1ヵ月の所定労働日数、かつ1日または1週間の所定労働時間のいずれもが派遣会社の通常の労働者の おおむね4分の3以上であること。 ※ この要件に該当しない場合は、国民健康保険および国民年金に加入することになります。 ※ 労災保険は、派遣労働者も全面適用となっています(保険料は全額派遣会社負担)。 〈労働・社会保険の加入状況の通知について〉 労働・社会保険に未加入の場合には、派遣会社から具体的な理由の通知があります。 例:「現在、必要書類の準備中であり、今月の○日には届出予定。」 ⑷ 派遣期間の制限 業務によっては派遣受入期間に制限があります。主なものは以下のとおりです。 業 務 派遣受入期間の制限 あり 原則1年間(最長3年間) 物の製造、軽作業、一般事務など ○ソフトウェア開発 ○機械設計 ○放送機器等操作 ○放送番組等演出 ○事務用機器操作 ○通訳、翻訳、速記 ○秘書 ○ファイリング ○調査 ○財務処理 ○取引文書作成 ○デモンストレーション ○添乗 ○建築物清掃 ○建築設備運転、点検、整備 ○案内・受付、駐車場管理等 ○研究開発 ○事業の実施体制の企画・立案 ○書籍等の制作・編集 ○広告デザイン ○インテリアコーディネータ ○アナウンサー ○OAインストラクション ○テレマーケティングの営業 ○セールスエンジニアの営業、 金融商品の営業 ○放送番組等における大道具・小道具 ○水道施設等の設備運転業務 ○3年以内の有期プロジェクト業務 ○日数限定業務(1ヵ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下) ○産前産後休業、育児休業等を取得する労働者の業務 ○介護休業等を取得する労働者の業務 なし 〈雇用契約の申込義務〉 ・期間制限のある業務…派遣労働者に明示される期間制限抵触日以降、派遣先が派遣労働者を使 い続けたい時は、派遣先から雇用契約が申し込まれます。 ・期間制限のない業務…同じ職場で3年以上勤務している場合に、派遣先が直接雇用の労働者を 雇い入れようとする時、派遣先から優先的に派遣労働者に雇用契約が申 し込まれます。 CHECK ! 改正ポイント!! あなたの希望により、有期雇用から期間の定めのない雇用への転換が進められるようになります。 有期雇用の派遣労働者(雇用期間が通算1年以上)の希望に応じ、 ① 期間の定めのない雇用(無期雇用)に転換する機会の提供 ② 紹介予定派遣(「3.その他」にてご説明します)の対象とする ことで、派遣先での直接雇用を推進 ③ 無期雇用の労働者への転換を推進するための教育訓練などの実施 のいずれかの措置をとることが、派遣会社の努力義務となりました。 ―6― 3. その他 ⑴ 紹介予定派遣 派遣先への職業紹介を予定して派遣をする、紹介予定派遣(最長6ヵ月)という制度もあります。 派遣労働者として派遣先で就業してから、派遣先と派遣労働者の希望が合えば、派遣先で直接雇用 されます。 CHECK ! 改正ポイント!! 紹介予定派遣の場合、就業条件明示書について「職業紹介後 に労働者が従事する業務の内容、労働条件」を明示しなければ ならないようになります。 ⑵ ハローワークで派遣求人を探す ハローワークでは『派遣先は決まっているが派遣できる労働者が いない場合』に、派遣会社からの求人申込みを受け付けています。(ハ ローワークでは、『派遣会社への派遣登録のみ』を目的とした求人は 受け付けていません。) この場合、求人票の事業内容欄に、その派遣会社の一般労働者派 遣事業などの「許可番号(P4参照)」を表示しています。 また、職種欄に「派遣」、雇用形態欄に「登録型派遣」などと必ず 派遣求人であることを明示しています。応募される場合は、一般求 人と同様に、就業場所等の各種条件面も含めてご確認ください。 ⑶ 派遣会社を選ぶ際の情報が増えました! ! 今回の法改正により、皆さんが適切に派遣会社を選択できるよう次の情報が確認できるようにな りました。 CHECK ! 改正ポイント!! 派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などがわかるようになります。 より適切な派遣会社を選択できるよう、 ① インターネットなどにより派遣会社のマージン率や教育訓練に関する取り組み状況などが 確認できるようになります。 ② 派遣労働者の派遣料金の額が明示されるようになります。 ※マ ージンには、福利厚生費や教育訓 明示される時: 1 派遣会社と労働契約を締結するとき 2 派遣先に実際に派遣されるとき 3 派遣料金が変更になったとき 練費なども含まれていますので、マー ジン率は低いほどよいというわけで はなく、その他の情報と組み合わせ て総合的に評価することが重要です。 改正労働者派遣法に関するお問い合わせ先 福岡労働局 職業安定部 需給調整事業課 092-434-9711 ―7―
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