私は生まれつき〇〇が見えるみたいです。 - タテ書き小説ネット

私は生まれつき〇〇が見えるみたいです。
黒野詩音
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︻小説タイトル︼
私は生まれつき〇〇が見えるみたいです。
︻Nコード︼
N3122BI
︻作者名︼
黒野詩音
︻あらすじ︼
これは生まれつきステータスが見えるいう特殊な能力を生まれつ
き持っている若干チートな少女がお金を稼ぎ都会でてんやわんやし
ているギャグ系の物語です。
1
プロローグ
ある一人の男性と女性の話です。男性はある一人の女性に恋をし
ました。
ですが女性は自分よりも強くて敵いませんでした。でも、男性はこ
の恋を
諦めることができず自分の限界ギリギリまでモンスターと戦い自分
のレベルをどんどん上げていきました。とても強くなった男性は女
性にプロポーズをしました。
ですが女性はこう言いました。
﹁私と戦ってあなたが私に勝つかそれか私と互角の戦いをすることが
できたら結婚してあげるわ﹂
これを聞いた男性はこれまで自分がして来たことは無駄ではなか
ったと
喜びました。
ですが時に恋と言うものは非情です。男性はぼこぼこにされてし
まい、
女性には
﹁あなたは今まで戦った中では結構強かったわそれじゃあ、さよな
ら﹂
と去っていきました。
2
ですがやっぱり男性は諦める事ができず修行しました。男性はかな
り強くなりました。そしてまた男性は女性にプロポーズし続けまし
た。
こうして106回目のプロポーズでやっと女性と互角に戦えるよ
うになり女性は男性のプロポーズを受けました。
こうして男性と女性は結婚し、一人の女の子が生まれました。
ですがこの女の子は生まれつきステータスを見ることができました。
ですが女の子はステータスの事などまったく知らないので皆見え
るもの
だと思っていました。
これは男性と女性の間に生まれた、生まれつきステータスの見える
能力を持った普通より結構強い女の子が冒険者ギルドに入りモンス
ター達をうまく倒してお金を稼いでいく物語です。
3
第一話 始まりの日
こんにちは、私の名前はリーズ・アスピラスィオンです。私は昨日
で12才に
なり、今日はこれからギルドに行って登録しに行きます。もちろん
冒険者
として。
﹁それじゃあ出発です。行きましょうか青ちゃん。﹂こくん
この子は青ちゃんといって私の守護精霊ですこの世界で生まれた
人は
皆生まれてすぐに守護精霊が憑いてくれるんです。
でも何故だか私には生まれつき守護精霊がいなくて、お母さんの
守護精霊が私についてくれたんです。それがこの青ちゃんです。
お母さんは座敷童子みたいで可愛いでしょ?と言ってましたが座
敷童子とはいったい?
まあ可愛いので良いんですが。
あと守護精霊は生まれつき憑いている以外にも、特定の場所で契
約したり守護精霊が憑いている装備を買ったりして、守護精霊を仲
間にすることもできるそうです。
ほかにも守護精霊を召還する能力を持っている方もいますが、ち
なみに守護精霊は一人一人特殊な能力を持っています。青ちゃんは
憑いている人の運のパラメーターをSまで上げてくれます。
4
私の運のパラメーターはAなのであまり変わりませんが青ちゃん
は可愛いのでいてくれるだけで幸せです。
あと昨日の誕生日の日に言われたんですが、ステータスが見える
のは
私だけっぽいです。お母さんに聞いたらさすが私の娘でかしたわ!
と言われましたが何がでかしたなのか私にはさっぱりです。
でもこの能力は便利なので他の誰にも言わず自分で有効に使おう
と思います。
あとお母さんはすごく強いらしいです。昔は漆黒の死神と言われ
恐れられてたそうです。
でも、お母さんは黒い髪に黒い目をした美人さんだと思います。お
父さんもお父さんで銀色の髪にアメジストの色をした美形だと思い
ます。
両親の顔が良いので私もそれなりに似ているとよく言われるので
普通より
は良いほうだと思います。
私の容姿はお母さん譲りの黒い髪にお父さん譲りのアメジスト色
の目をしています。あとお母さんの黒い髪に黒い目はこっちでは珍
しいらしいです。
確かにお母さん以外に黒い髪と黒い目をした人は見たことがあり
ません。そんなことを思っているうちにギルドに着きました。
5
﹁こんにちわー﹂
やはりと言うかなんと言うかギルドの中には人が結構いっぱい居
ました。
こちらを珍しそうに見る人や興味が無いといったふうに依頼の書い
てある
ボードを見る人ギルドのメンバーと会話している人達がいました。
﹁いらっしゃい。リーズちゃんそういえば昨日で12才なんだって
ね。﹂
今話しかけてくれた人はリアさんと言う方で、ここのギルドマス
ター兼
アイドルです。まあアイドルと言っても単にリアさんの見た目が良
いので
勝手にギルドのむさ苦しい野郎どもがそうほざいているだけなので
すが。
ちなみにリアさんは青い髪に赤い目をした美人さんです。種族は
人魚
なんだそうです。昔私のお母さんとチームを組んでいたことが、あ
るそうです。あだ名は深海の悪魔だそうです。種族は人魚なのにど
うしてあだ名が
悪魔なんでしょうか?不思議ですね。
﹁はい、これに自分のことを書いてね。﹂
﹁はい、ありがとうございます。リアさん﹂
まず最初に名前リーズ・アスピラスィオン、性別女、年齢12、
6
種族人間、家族構成 父、母
﹁はい、リアさん書けましたよ。﹂
﹁次はこのギルドカードに血を少し垂らしてくれるかしら。ナイフは
使う?﹂
﹁いえ自分のがあるので大丈夫です。﹂
自分の腰に装備してあるナイフを取り出し自分の指を少し切るや
っぱり
ちょっと痛いです。さてこの血をギルドカードに垂らして⋮⋮
﹁はいギルドカードが作成できたわね。じゃあ念の為ギルドについ
て説明するわね。まず最初にランクについてね。ギルドに所属する
とそれぞれランクをもらえるの、一番高いのがSランク次から順番
にA、B、C、D、E、Fていう風になっているわ。一番最初はF
ランクから始まるわ。を受けて成功させていくとランクが上がって
いく仕組みになっているの。逆に依頼を失敗し続けるとランクが下
がる場合もあるから気をつけてね。ちなみにFランクで依頼を失敗
し続けるとギルドから追い出されて、冒険者の称号も剥奪されちゃ
うこともあるから、とまあ注意事項はこのくらいかしら。とりあえ
ず早速だけど依頼受けてみる?﹂ ﹁どんな依頼があるかいったん見てきます。﹂
﹁分かったわ﹂
とりあえず私はギルドボードも方に行きFランクの依頼書を見てみ
ました。
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一つ目薬草の採取傷薬を作るために薬草が必要なので薬草を10
個ほど
用意してほしい成功報酬金額は250E 次の依頼はスライムの討伐ブラウザの森に出没するスライムを
討伐してほしいただしスライムを討伐した時にスライムを討伐した
証拠品としてスライムの体液を15個ほど持ってきてほしい成功報酬
金額は400E
とりあえず最初なので無難にスライムの討伐依頼を受けて
みようと思います。証拠品を集めるのは面倒ですが仕方がありませ
ん。
﹁それじゃあこれにします。﹂
﹁スライムの討伐ね今日から三日後までに依頼を達成する事ができ
なければ
罰金されちゃうから気をつけてブラウザの森の場所は分かるわよね
?﹂
﹁はい大丈夫です。﹂
ブラウザの森にはお母さんと一緒に入ったことがあるので場所は
覚えています。とりあえず私の初依頼です。がんばりましょう!お
金を
稼ぐために。
それじゃあ行きましょうか青ちゃん。コクン
8
9
第二話 初めての討伐
依頼を受けて数分後⋮⋮私と青ちゃんはスライムを討伐するため
にブラウザの森に入りました。何かの気配を感じる・・・スライム
が現れた!
私は生まれつきの能力でスライムのステータスを見てみました。
スライムのステータスは体力F 魔力F 力D 知力F 運Fさ
すがスライム、能力値が最低ランクです。
それにいつもお母さんのステータスを見ていたからか、スライム
が余計に弱く見えてしまいます。
ちなみにお母さんのステータスは体力S 魔力S 力S 知力S
運Sでした。
何も守護精霊を装備していない状態でです。私のお母さんは、どれ
だけチートなのでしょうか?
おっとそんなことを、考えている場合ではありませんでした。さ
っさとこのスライムを討伐しなくては、それじゃあ
﹁殺りますか。﹂ニコニコ
それに便乗するかのように青ちゃんも可愛らしく微笑みました。
そして
その後私と青ちゃんでスライムを討伐しまくり、私は主にナイフで
切り刻みましたが中々スライムの体液がでずに苛々してしまいまし
た。
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でも数時間かけてスライムの体液を15個集める事ができました。
それじゃあ帰りましょうか。そういえば魔法を使って帰ろうか
どうしようか悩みますね。私は無属性ですから、そういう系統の
魔法を使います。他にも属性は火 水 土 風 雷 闇 光といっ
たものがあります。最初にも言いましたが私は無属性なので無属性
の技が100%使えます。 稀に複数の属性系統をもっている方もいらっしゃいますが。この
場合はあまり関係なかったりします。属性系統が100%じゃなく
ても他の属性の魔法は使うことは可能です。現に私も無属性以外の
適正があります。だいたい70%ぐらいだと思います。
他にもまったく魔法の使えない適正が0パーセントという方もい
らっしゃいますがそういう方の多くは守護精霊と契約したりして自
分に足りない要素を補ってもらったりしていますから。
さて、とりあえず今日のところは徒歩で帰りましょう。歩いて数
分の距離
ですし。
﹁そろそろ帰りましょうか青ちゃん。﹂コクンニコニコ
青ちゃんも今日はスライムを大量に倒しまくっていたのでとても
機嫌がよさそうです。青ちゃんは主にサイコキネシスという能力を
使って倒していましたので微笑み方がとても可愛らしいです。
さて、ギルドに到着今の時間は午後二時三時のおやつの時間には余
裕で間に合いそうです。
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﹁あら、お帰りなさいリーズちゃん怪我はしてない?﹂
﹁はい、大丈夫です。あと依頼の品もって来ました。﹂
そう言って私はさっき討伐して入手したスライムに体液×15を
リアさんに
渡した。
﹁はい確かにスライムの体液×15個依頼人に渡しておくわね。そ
れと
報酬の400Eはギルドカードのほうに入ってるからね。ギルドカ
ードは何処の
お店でも使えるから安心してね。それでどうする次の依頼も受けち
ゃう?﹂
﹁今日はこれだけにしておきます。あと一時間もすれば三時のおや
つの
時間になりますから。﹂
﹁あらあらそうね分かったわ。じゃあまた明日。﹂
﹁はい!また明日。﹂
ちなみにどうしてこんなにおやつにこだわっているかというと、
依頼を
受けて成功して報酬がもらえたらその成功報酬で好きなおやつを買
って
食べてもいいと言われたのですお母さんに。
私はケーキ屋さんに寄って、苺のケーキを二つ買いました。全部
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で400Eでぴったりでした。一つは私のでもう一つは青ちゃんの
分です。
基本的に魔力などでエネルギーを回復させる守護精霊が多いが物
を食べて回復する守護精霊もいるらしい青ちゃんはそのどちらにも
当てはまる自動回復方です。基本的に食べたり眠ったりすると回復
します。
でもちゃんと味覚はあるのでこうして一緒におやつを食べたりもし
ます。
さて家に着いたので紅茶も用意しなくては、ちなみにお母さんは
紅茶が
大好きです。大が四つついても足りないくらいに大好きです。
前に一度お父さんが紅茶を入れてお母さんに飲んでもらおうとし
ていましたけど紅茶の入れ方がなっていないとお母さんが静かにぶ
ち切れていました。お父さんはその後少しだけ行方不明になりまし
た。
でも二ヶ月経ったら家に帰ってきてました。そしたら紅茶を淹れ
てくれました。前に飲んだのよりも数十倍美味しかったです。
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第三話 お友達
おはようございます。今日もいい天気です。冒険者になって今日
で五日目です。初めての討伐を受けた後はひたすら依頼を成功させ
ていました。おかげで所持金も2000E貯まりました。
ついでにランクも、一昨日でFからEに上がりました。そのおか
げ、昨日の依頼の報酬金額が、少しだけ上がっていました。あと、
ケーキは自分で材料を取ってきて、作ることにしました。
さすがに森で全ての材料が集まる。というわけではないので、多
少お金はかかりますが、普通にお店で買うよりはすごく安いです。
青ちゃんも美味しいといってくれたので私の料理の腕は、結構良い
みたいです。
早速ですが、今日はこれからギルドに行って友達と一緒に依頼を
受けよう。ということになったのです。ちなみに友達の名前はクリ
スちゃんです。主に治癒魔法を使う、とてもやさしくて可愛らしい
女の子です。クリスちゃんはこのブラウザ村で唯一の同じ年の女の
子なんです。
誕生日とかで差があったので、ぴったり同じ日に冒険者になった
と言うわけではありませんでしたが、クリスちゃんの方が誕生日が
早いので、クリスちゃんは先に依頼をいっぱい受けていたようです。
現在はランクはDランクだそうです。討伐の依頼は苦手なので採
取の依頼をメインにやっていたそうですが。とりあえずギルドに着
きました。
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﹁おはようリーズちゃん。﹂ニコっ
﹁おはようございますクリスちゃん。﹂ニコリ
クリスちゃんの方が先にギルドに、到着していたみたいですが、
とても可愛らしく微笑んで挨拶をしてくれました。とりあえず今日
は何の依頼を受けましょうか。
﹁あのねリーズちゃん今日の依頼なんだけど・・・﹂
先に依頼を見ていたクリスちゃんが言うにはゴブリンの討伐依頼
が出ていてそのほかに、ゴブリンの持つ釘バットという装備品を1
0個ほど集めてほしい。という依頼があるそうで、二つ同時にやっ
てみないかという相談でした。
私的にもそちらの方が効率が良いと思ったので依頼を二つ受ける
ことにしました。
﹁リアさん私たちでゴブリンの討伐依頼と、釘バットの採取の依頼
を受けたいんですけど。﹂
﹁はい分かったわ今日は二つ依頼を受けるのね。ちなみに一人で受
けられるクエストは、5個までだからね。それ以上はクエストを成
功させるか、依頼をキャンセルしないとできないからね。﹂
﹁はい分かりました。それじゃあ行きましょうか、クリスちゃん。﹂
﹁うん確か此処からだと、一番近くてゴブリンの出る場所はブラウ
ザの森だよね。﹂
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まあFランクやEランクの依頼は、しょぼいのばかりなので、大
体近くのブラウザの森に出るモンスターの討伐や、そのモンスター
が落としたりする物の収集とかしかありません。
危険も少ないし楽だから良いんですけど、私はなるべく一人暮ら
しできる位のお金を集めたいので、速めにお金をためて13才にな
るころにはCランクにはなっておきたいですね。でも焦りは禁物と、
お母さんが言ってたし地道に頑張りましょう。
﹁リーズちゃん?﹂
私としたことが考え事をしていたせいかクリスちゃんに心配され
てしまったようです。
﹁どうかしましたか?﹂
﹁ううん何でもない気のせいだったみたい。﹂
どうやらごまかせたみたいです。あまり友達に心配をかけたくあ
りませんし、何だか罪悪感を少しだけ感じますがこればかりは私の
不注意なので仕方ありません。
﹁とりあえず今日はブラウザの森の中間地点ぐらいにゴブリンを見
たことがあるので今日はそっちに行ってみましょうか。﹂
﹁うん分かった。リーズちゃんは何か準備するようなものはない?﹂
﹁うーんと、毒消しのストックが無いのでギルドのほうでいくつか
買って行きますね。少し待っててください。﹂
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そうクリスちゃんに言うと私はリアさんに話しかけた。
﹁すいませんリアさん。毒消しを5個ほどください。﹂
﹁はい全部で500Eになるわ。﹂
私は500E払い毒消しを購入し、クリスちゃんと合流した。
﹁それじゃあブラウザの森に行きましょうか。﹂
﹁うん、それじゃあしゅっぱーつ﹂
そして歩いて数十分後ブラウザの森の中間地点に到着しました。
途中でモンスターが出てきて討伐しましたが、結構収集品が集ま
りまして思わぬ収穫と言う奴ですね。売ればいくらくらいになるで
しょうか?まあ、とにかく本命はゴブリンのほうですから、がんば
らないといけませんね。
そういえばクリスちゃんは意外とステータスがすごいです。体力B
魔力B 力S 知力A 運Cでした。
なので戦闘ではモンスターを普段から装備している魔法の杖で、
ぶん殴っていました。見ていて気持ちいくらいに、吹っ飛んでいま
した。
あとクリスちゃんの守護精霊は、名前はムーンと言ってダメージ
を受けたら自動的に回復してくれる能力を持っているんだそうです。
私はムーンちゃんと呼んでいます。見た目はちっちゃい天使ですね。
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こちらもとても可愛いです。青ちゃんも可愛いですが守護精霊は
可愛いのが結構多いみたいですしね。
お母さんの守護精霊はすごいのが多かったです。能力的には死神
が一番モンスターを倒すのに、効率が良いと言っていましたがちな
みに能力は
即死魔法が99%の確立で相手に命中するという能力だそうです。
何かの気配を感じる・・・ゴブリンが現れた!早速ゴブリン発見
です。
クリスちゃんは私と視線を交わすと一目散にクリスちゃんはゴブ
リン殴り一撃で倒してしまいました。
あ、釘バット発見、早速一個集まりました。この調子で行けば
すぐに集まりそうですね。と言うか私も討伐しなくては。
﹁それじゃあ行きますよ青ちゃん。﹂コクン
﹁ぎゃはははははは!おらおら!てめーら!さっさと俺にてめーら
の屍と釘バットをよこせよ!﹂
いやな高笑いが聞こえたので、後ろを振り向くとクリスちゃんが
暴走していました。ちなみにクリスちゃんは、モンスターを討伐す
ると性格が変わります。そりゃあもう180度回転したかのように、
ものすごい変わります。
何時もは回復魔法をメインに使うんですがなぜか今日に限って素
手でゴブリンをぶん殴っていたので変わっちゃってます。
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DVクリスちゃんになっています。まあ見ていて面白いからいい
んですけどね。そしてその後ゴブリンを討伐しまくり主にクリスち
ゃんの暴走で途中でゴブリンが泣き叫んで逃げたり釘バットを差し
出したりしてましたがお構いなしにクリスちゃんがぶちのめしてい
ました。
今回はゴブリンが可哀想に見えました。青ちゃんはさっきからニ
コニコしていて機嫌は良いみたいですが。
﹁クリスちゃん釘バットが集まったのでそろそろ帰りましょうか。﹂
そうクリスちゃんに話しかけるとクリスチャンはニヤニヤ笑いな
がらこちらに近づいてきました。私は少し心配になりクリスちゃん
の顔を覗き込んだらいきなり、
﹁よし、リーズ討伐の依頼終わったから俺とデートしようぜ。﹂
今回のDVクリスちゃんタイムは結構長いみたいです。前は戦闘
が終わると
元に戻っていたんですが、本人曰く
感情が高ぶるとちょっと正確が変わっちゃうみたいなの
と言っていましたが、これはもうちょっとと言えるレベルをかな
り通り越してる気もしますがとりあえず、
﹁ジュースとケーキ奢ってくれるなら良いですよ?﹂
そう言うとクリスちゃんは可愛らしくニッコリと微笑んでから
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﹁それじゃあ一緒にケーキ屋に行こうね。﹂
と言いました。DVクリスちゃんの時間は終わったようです。
その後私たちは仲良くケーキを食べてそれぞれの家に帰りました。
あ、でもちゃんとジュースとケーキは奢ってもらいましたよ、ク
リスちゃんに。
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第四話 ストーカー
ぎゃはははははは!
﹁全部血の海にしてやるぜ!﹂
何だか、いつになくクリスちゃんが暴走中というか、DVクリス
ちゃんモードに
変身中です。今回はCランクの任務を受けています。依頼内容は隣
町にある、ヴァイオレンス海にでる巨大オクトパスの討伐です。
ちなみに、最初の依頼を受けたときからですが、私とクリスちゃ
んでチームを組むことが正式に決まりました。クリスちゃんとチー
ムを組んだ理由は、DVクリスちゃんを見ているのが面白いからで
す。
普段のクリスちゃんは見ていて可愛いですし、どちらを見ていて
も私は得をするのです。
まあ最近はDVクリスちゃんの出現条件やあしらい方も分かりま
したし。最初は大変だったんですよ。主に私が被害に遭うんですか
ら。
今回のように討伐依頼なら、モンスターにほぼ全部の被害が行く
のでいいんですが、採取とか収集の依頼だと、私にセクハラしてく
るんです。
あとセクハラと言えば、最近何やらよく誰かの視線を感じるんで
すよね。最初はモンスターが、こっちを見ているのかと思って腹い
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せに容赦なく、攻撃しまくっちゃたんですが。
それでもまだ視線を感じるのでおかしいなあ。とは思いましたけ
どこの街に着てからも、ずっと視線を感じるんですよね。さすがに
此処までくるとストーカーですよね。しかもストーカーの癖して、
気配には敏感らしくてこっちが一定の距離よりも近づこうとすると、
離れて私が走って近づくと気配自体が消えてしまいますし。
私が諦めようとして離れると、また気配がするしもう苛々してき
ます。早くストーカーの犯人を捕まえて二度とこんな気が起きない
ように徹底的に拷問、じゃなくてお話しなくては・・・。
﹁おーい。リーズ殺し終わったぜー﹂
全身を血まみれになったクリスちゃんが、ブンブン手を振って言
ってきました。ストーカー対策を練っている間に終わっちゃってた
みたいです。うっかりしてました。
とりあえずクリスちゃんと相談してストーカーの抹殺計画を立て
なくては・・・
もう討伐は終わったので、ギルドに戻りましょうか。
﹁クリスちゃん。そろそろブラウザ村に、帰るのでこっちに来て下
さい。﹂
﹁おう!今日は魔法使って帰るのか?﹂
﹁はい、後で相談があるので、クリスちゃんの家に行ってもいいで
すか?﹂
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﹁いいぜ、けど今日は家にはだれもいねーぜ。﹂
DVモードのクリスちゃんと、二人っきりというのは不安ですが
今はストーカー抹殺計画を立てるほうが、大事なので今回は気にし
ないでおきましょう。
﹁この後ギルドに戻ってから、そのままクリスちゃんの家にいきま
すね。﹂
﹁ああ、いいぜ。﹂
﹁それじゃあテレポートブラウザ村のギルドへ﹂シュパ
﹁ほっ﹂
﹁よっと﹂
テレポート、その名のとおり一度行ったことのある場所に、一瞬
で移動できる魔法である。
﹁じゃあ依頼の、報告に行きますか。﹂
﹁ああ﹂
﹁リアさん巨大オクトパスの討伐完了しました。﹂
﹁はい今回の報酬は2500Eね。二人のギルドカードにそれぞれ
半分ずつ入れておいたからね。どうする次の依頼を受ける?﹂
23
﹁いえ、今日はこの後、用事があるんで止めておきます。﹂
﹁そう?わかったわ気をつけて帰ってね。﹂
﹁それじゃあクリスちゃんの家に行きましょうか。﹂
﹁うん分かった。﹂
あ、DVクリスちゃんモード終了していました。ストーカーの抹
殺計画を立てるときにDVクリスちゃんの方が都合がよかったんで
すがまあしょうがないですよね。
クリスちゃんの家は、ギルドから歩いて5,6分かからぐらいの
距離で結構近いです。ちょっと考え事をしている間に、クリスちゃ
んの家に到着です。
クリスちゃんの家は結構大きいです。いわゆる中級貴族のお屋敷
みたいな感じです。確かクリスちゃんのお母さんが貴族でお父さん
が騎士だったと思います。
﹁それじゃあリーズちゃん入って大丈夫だよ﹂
﹁はい、ありがとうございます。おじゃまします。﹂
クリスちゃんの家の中は相変わらず、すごく綺麗でした。クリス
ちゃんの部屋は二階の真ん中にあります。
﹁はい。紅茶とクッキーがあったからもって来たよ。﹂
﹁ありがとうございます。﹂
24
クリスちゃん家のお菓子は、お母さんが貴族と言うことだけあっ
てすごく美味しいです。
﹁そういえば相談したいことがある。って言ってたけど何かあった
の?﹂
﹁実は最近ストーカーに、遭ってるかもしれません。﹂
﹁リーズをストーカーしている奴は、いったい何処のゲス野郎だ。﹂
ストーカーに遭っているかも。の一言でDVクリスちゃんモード
に・・・。
﹁とりあえず、今のところは何処にいても視線を感じる。という段
階ですから
なんともいえないんですよね。とりあえずストーカーに遭遇したと
きのために、抹殺計画を立てておきたいんですけど、何かいい案は
ありますか?﹂
﹁ストーカーを見つけ次第、殺せばいいだろ。﹂
あー、そっちにいっちゃいましたか、でも殺してしまうのは面倒
ですし。目安としては脅して二度と私の前にその薄汚い顔を見せる
んじゃあねえ。的な脅しが通ってくれればいいんですけど、どうし
ましょうか。
﹁とにかく、殺人事件を私たちの手で引き起こしてしまうのは、あ
まり好ましく
ないので、恐喝で我慢してください。あと、ストーカーが誰なのか
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がわからないと、対策を練る事もできませんから。明日から普通に
依頼を受けて、相手の出方を見るしかありません。分かりましたか。
﹂
﹁分かった。とにかく明日から様子を見ろってことだな相手が襲っ
て来た
場合はしとめていいんだよなあ。﹂
﹁いえ今回は拘束しといてください。何故私をストーカーしていた
のか、そいつから聞き出しておかなければいけませんし。大体依頼
に行くときとかに同じ気配を感じるので、クリスちゃんも気配を探
知すれば、すぐに分かると思いますから。﹂
﹁依頼をしているときに、同じ気配を一定時間以上感じたらとっ捕
まえれば
いいんだな。﹂
﹁とりあえず明日からその方法でお願いします。念のためにクリス
ちゃんも、
気をつけておいてくださいね。ここのところ私とチームを組んでい
るのでもしかしたらクリスちゃんが、狙われる可能性もありますか
ら。何か反応があったら教えてください。今日はもう帰りますから。
それじゃあ失礼します。﹂
﹁そっちも気をつけろよ。﹂
私はテレポートで家に帰り、明日に備えて寝ました。昨日からス
トーカー抹殺計画をクリスちゃんと立てて、今回はなるべく人気が
無い場所で依頼を受けました。
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依頼内容はブラウザの森の奥に生えている、緑のハーブを30個
ほど採ってきてほしい。という依頼を受けました。報酬金額は20
00Eです。
早速ですが、ブラウザの森の奥に到着しました。ちなみに今回の
ことで分かったことが一つ、つけている人どうやらギルドに登録し
ている、冒険者みたいなんですよね。ギルドの人だと殺せませんし、
致命傷を与えることもできませんし。
何より冒険者なら多少の戦闘能力もあると思うので厄介ですね。
私とクリスちゃんも結構な実力者だと思っています。でも相手の能
力が分からない以上、やたらと戦闘に持ち込むのは面倒なんですよ
ね。
それに私に近づいてくるのかも分かりませんし、相手は気配に関
しては私より上ですし。そして何より今回は討伐依頼ではないので
クリスちゃんは何時ものクリスちゃんなので、少し心配ですまあ戦
闘になったらDVクリスちゃんモードになるんでしょうけど
﹁リーズちゃん。緑のハーブがいっぱいあったよ。﹂
﹁本当ですか。﹂
見るとそこには緑のハーブがたくさん生えていた。とりあえず今
は採取しますか。そして黙々と私たちが採取をしていると、やはり
ヴァイオレンス海のときと同じ気配を感じました。
どうやら前回のときと同一人物のようです。これは相手に気づか
れないようにして、上手く捕まえて色々聞き出さなくては、丁度い
い感じに採取が終わったのでクリスちゃんに話しかけてみる。
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﹁クリスちゃん、そっちはもう終わりましたか?﹂
﹁うん!丁度終わったからそっちに行くね!﹂
私はストーカーのことも話しておきたいのでクリスちゃんに小さ
い声で
﹁ストーカーがいる。﹂
クリスちゃんの耳元でボソリと呟いた。私はクリスちゃんがDV
モードになるのを確認した後、すぐに拘束魔法バインドを使ってス
トーカーらしき人物を捕まえた。そしてDVクリスちゃんが、素手
でストーカーをぶん殴り気絶状態にさせた。そして・・・。
﹁なあリーズ、こいつ殺っちまってもいいだろ。﹂
﹁一般人なら殺してもいいですが、冒険者だとアウトです。﹂
私はこのストーカーのステータスを見てみる。体力B 魔力C 力C 知力B 運Dステータスを見たかんじでいうと冒険者っぽい
ですね。
残念です。やたらと殺せませんね。しかも何か剣とか鎧とか装備
している
ところを見ると、冒険者と言うよりはどこかの騎士みたいですが。
とりあえずギルドに連行しておきましょうか。
冒険者の犯罪者はギルドに連行して、冒険者の資格を剥奪したり
それなりの罰を受けてもらう決まりなので、ストーカーも立派な犯
28
罪ですし。
﹁クリスちゃん、今日はとりあえずこのストーカーをギルドに連行
しますよ。﹂
﹁殺さねえのか?﹂
﹁処罰はギルドのほうに任せます。リアさんがいるのでまじめに、
対応してはくれると思いますので大丈夫だとは思いますから。﹂
距離が距離なので、今日はテレポートしますか。あまり使いたく
はありませんが、今回は仕方がないですから。じゃあテレポート。
シュパッギルドに到着。
﹁リアさん、依頼完了です。﹂
﹁じゃあ今回の報酬2000Eをギルドカードに入れておいたから
ね。あとそれは
何?﹂
﹁どうやら、私たちの後をよくつけているストーカーみたいなんで
すよ。
拘束はしてあるんでお願いします。﹂
﹁はい分かったわ。このど変態野郎を豚箱に、ぶち込んでくればい
いのね。
そうね。リーズちゃんやクリスちゃん可愛いものね。結構強いから
忘れていたわ。とにかく帰りも気をつけてね。﹂
ちゃんと処罰は下るようです。見たところ知らない人なのでほぼ
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90%の確立でストーカーと言う名の、犯罪者であることは間違い
ないでしょう。今日はもう帰りましょうか。疲れましたし。
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第五話 お引越し
冒険者になって1年。ストーカー事件が発生してから3ヶ月。つ
いに全財産が500000E貯まりました。
あれから私は、毎日のように仕事を受けてこなしていたから、ギ
ルドランクが一気にBランクになりました。さすがランクBといい
ますか。依頼の報酬金額が一気に跳ね上がりました。
一つの依頼で、大体30000Eぐらいもらえるんですよ。おか
げで今の私はお金持ちです。
ちなみにストーカーは、リアさんが言うには牢獄に3年ほど入れ
られるそうです。変態は滅んだ方が良いと思います。
あと突然ですが、お引越ししようと思います。引越し先はバルチ
ナス王国です。そこにお父さんの知り合いがいて、私が住む家を手
配してくれたとのことです。
私のお父さんがいい年して、私が一人暮らしをするのを必死に止
めようとしていてうざかったです。ブラウザ村からペガサスに乗っ
て2日ぐらいの距離だそうです。ちなみにペガサスというのは、私
の守護精霊で武器屋で色々装備品を買ったら憑いてきました。
能力は言わずもがな乗り物みたいな感じです。あと背中に羽なん
かをはやして飛ぶこともできるそうです。空を飛ぶのはとても快適
でした。
そして現在⋮⋮。
31
﹁行っちゃやだよ!行かないで!絶対に行かないで!リーズちゃん
と離れるのいーやー!﹂
ものすごく困ってます。クリスちゃんは私と離れるのが、いやだ
と現在進行形で泣き叫んでいます。けど私はバルチナス王国に、ど
うしても行きたいので行かない。と言う選択肢はありません。
此処は田舎。むこうは都会。田舎であるこのブラウザ村よりもバ
ルチナス王国のほうが珍しいものが、いっぱいあるはず。あと、魔
法のレパートリーも増やしたいんですよね。
無属性は大体、感覚で使っているので、とはいえませんし。とに
かく他の属性魔法を覚えたいんです。じゃなきゃ何のために、この
ブラウザ村でお金を貯めていたというのですか。使わなきゃ意味が
無いじゃないですか。
まあとにかく、私はバルチナス王国、都会にどうしても行きたい
のです。お母さんにはギルドに入る時にお金が貯まったら都会に行
ってもいい。という許可をもらってるんですから。お父さんの許可
はあまり意味が無いのでどっちでもいいです。というか説得するの
が面倒です。そしてうざいです。
それに今はお父さんより、こっちの方が問題なんですよね。
﹁行かないでー!﹂
クリスちゃんを説得しなくては・・・
﹁クリスちゃん泣かないでください。近所迷惑になってしまいます
32
よ。﹂
﹁じゃあ引越しなんてしないでここにいてよ。﹂
﹁それは無理です。﹂
﹁リーズ俺から離れるなんてゆるさねえからな!﹂
うわあ、DVクリスちゃんモード発動ですか。厄介ですね。都会
に行って一人暮らしをするのも、目的の一つだったんですが。しか
たありません。
﹁なら、クリスちゃんも私とバルチナス王国に来て、一緒に暮らし
ませんか?私はどうしても、バルチナス王国に行きたいので、此処
に留まるという選択肢は用意していません。なのでクリスちゃんに
はここに残るか、私と一緒に来るのかどちらか選んでもらわないと
いけません。とりあえず、今日中には決めておいてください。﹂
﹁分かった。リーズと一緒に行く!﹂
決めるの、今日中でもいいって言ったんですけど、というか決断
早いですね。吃驚です。
ところで
﹁クリスちゃんご両親に相談しないんですか?﹂
﹁後で承諾させるから平気だ。必要な荷物だけ用意してくる。﹂
それだけいうとクリスちゃんは、物凄い勢いで去っていきました。
33
そして数十分後⋮⋮。
﹁リーズちゃん。お父さんとお母さんが一緒に行ってもいいって﹂
﹁そうですか。それじゃあ一緒に行きますか。﹂
そしてクリスちゃんは、ニッコリと満面の笑みを浮かべました。
﹁うん!﹂
そしてギルドにいるリアさんに、引っ越すと挨拶をしてから守護
精霊のペガサスに、バルチナス王国に運んでもらいました。
移動時間は三日かかりました。途中で盗賊に襲われたりしました
が、容赦なくそして的確に相手を再起不能にしていきました。
そしてバルチナス王国にクリスちゃんと一緒に無事に到着したの
でした。
34
第六話 新しい環境
そして私は、お父さんの知人のアルベールさんに、バルチナス王
国のことを教えてもらい。私とクリスちゃんで暮らすことになって
いる、自宅に案内してもらいました。自宅の大きさは少し大きい一
軒家見たいな感じですね。
どんな理由があって、此処にお父さんは私を一人で住まわせよう
としていたんでしょうか?はっきり言ってお金の無駄遣いですよね。
そんなことよりも、せっかく引っ越して来たんですからイメチェ
ンしてみたんですよね。
クリスちゃんは腰まであった金色の長い髪を肩ぐらいにまでばっ
さり切り
私は腰まである髪を二つに縛るようにしてみました。ほんとは私
も髪の毛を切りたかったんですが、前にお母さんに髪の毛が邪魔で
切ってほしいと頼んだら発狂しまして。
その後すさまじい暴走の末。ぎりぎりの勝利を私がおさめました。
けど切っていいのは、腰より下に伸びた時だけいうことになったん
です。
あと、こちらでもギルドの手続きをしないといけないんですよね。
別の街とかで依頼を定期的に受けるときは、その町のギルドにギル
ドカードの確認をしてもらうんだそうです。
マジックボックス
私は基本的に大事なものは、魔法空間にしまってあるので大丈夫
35
です。ちなみに魔法空間というのは、私が使う無属性の魔法の一つ
で物を複数入れることができます。
とにかく、これからギルドに行かなくてはなりません。ギルドの
場所にはアルベールさんに、息子さんがいるのでその子に、案内し
てもらうことになっています。その子も冒険者をやっているんだそ
うです。
もうすぐ来るみたいですね。気配が近づいてきます。
﹁じゃあリーズちゃんにクリスちゃんこれが家の息子こいつにギル
ドまで案内してもらってくれ。﹂
﹁えっと僕の名前はゴンザレスです。今日はギルドまで案内するね。
﹂
そこに居たのは、とても可愛らしい女の子でした。いえ⋮⋮でも
息子といってましたし。男性ですよね。というか見た感じ、年上っ
ぽいですね。赤い短髪に茶色の目をしています。言葉づかいからす
るに、内気な少年と言ったところですかね。とりあえず挨拶はして
おきましょう。
﹁私はリーズといいます。ブラウザ村で冒険者をしていました。﹂
﹁あ、えっと私はクリスっていうの今日は案内よろしくね。﹂
﹁はい!リーズさんにクリスさんですね。それではこれからギルド
に、向かいますので僕についてきてください。﹂
私達はゴンザレス君についてゆく。というかこんなに可愛いのにゴ
36
ンザス・・・。何だかすごいミスマッチです。こんなに可愛い子に、
なんという名前をつけちゃってるんですか。
歩いて10分ぐらい経って、冒険者ギルドらしき看板が見えてき
ました。やはり都会と田舎ではすごい差ですね。何かもうすごい無
駄にあちこちピカピカしています。
私達はゴンザレス君の後についていき、ギルドの中に入る。すご
いたくさんの人がいました。そして何より田舎より都会のほうが綺
麗な方が圧倒的にみたいです。
ブラウザ村のギルドは、むさ苦しい野郎共ばかりだったにのに、
こっちは綺麗なお姉さまやイケメンの、お兄さんがいっぱいいます。
ただ、装備しているものがすごいです。キラキラしてるとかじゃな
くて、すごく重そうだったりビジュアル的にグロテスクなものが多
いとか、そういうのです。
色々ギルドの中を見ていたら、いつの間にかゴンザレス君がここ
のギルドマスターらしき人物のところに、行っていたようで視線が
重なり、こっちにおいでと手招きされました。
﹁マスター。黒い髪のほうがリーズさんで、金色の髪のほうがクリ
スさんだよ。リーズさん、クリスさんこちらがここのギルドマスタ
ーレンさん、ていうんだよ。﹂
﹁レンだ。ここのギルドマスターをしている。﹂
﹁はじめましてリーズです。よろしくおねがいします。﹂
﹁同じくはじめましてクリスだよ。よろしくね。﹂
37
﹁早速だが、てめーらには決闘をしてもらうぞ。﹂
イケメンなのに、いきなりとんでもないこといいますね。初日か
ら目立ちたくはなかったのですが。というかクリスちゃんが、バト
ルしたらまずいんゃ・・・。まあ、いいかどうにかなりますよね。
というか決闘って誰とするんでしょうか?
﹁一つ聞きたいことがある。お前らのギルドランクはいくつだ?﹂
﹁私はBです。﹂
﹁私もだよ。﹂
﹁お二人ともBランクなんですね。僕はまだCランクなんですよ。
凄いなあ。﹂
﹁Bランクか⋮⋮。なら同じBランクの奴と決闘をしてもらう。適
当に呼んでくるから、そこで待っていろ。﹂
まさか、ギルドに入っていきなり決闘をしなくてはいけないなん
て⋮⋮。めんどくさいですね。まあ仕方ありませんか、それがここ
の、ギルドに入る儀式みたいなものなんでしょうし。頑張りましょ
う。
﹁とりあえず、お前らの相手はこいつらだ。﹂
そういうと鞭を持った、綺麗な猫耳の獣人っぽいお姉さんと、こ
れまたでかい大剣を持った綺麗な悪魔っぽいお兄さんが出て来た。
子供が見ては、いけないような雰囲気の方達です。
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﹁おい、見たところお前らチーム組んでんだろ?決闘はタッグでや
るか、それともシングルでやんのか、どっちだ。﹂
﹁クリスちゃんは、どっちがいいですか?﹂
﹁うーん⋮⋮じゃあタッグでもいいかな?﹂
﹁分かりました。それじゃあタッグでお願いします。﹂
﹁了解した。結界を張るからその中で戦ってくれ。これは単に実力
を見るために決闘するだけだから、硬くならなくていい。それじゃ
あ戦闘準備しろ。﹂
言われたとおりに結界の中に入る。そして相手のステータスを見
た。
女の人のほう、体力B 魔力B 力C 知力B 運B男性のほう、
体力A 魔力C 力A 知力C 運C普通に私たちよりもステータ
ス低かったようです。これなら大丈夫ですね。
それじゃあ⋮⋮
﹁殺りますか。﹂
私はナイフと拘束用の糸を装備する。そしてクリスちゃんも何時
も装備している杖を構える。
そしてテレポートして、お姉さんの後ろに一瞬で移動して拘束用
の糸で体を縛り上に引っ掛けて、ぶら下げてナイフを首に近づける。
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お姉さんは現在蓑虫の様な感じですね。
そしてクリスちゃんは⋮⋮。
﹁くたばれえ!﹂
﹁そっちこそさっさと死ね!﹂
クリスちゃんは杖を投げ捨て、DVモードの状態で相手を素手で
殴り。相手のお兄さんは大剣でクリスちゃんと、激しい戦闘と罵り
あいをしています。
クリスちゃんの性格の変わりようにあんぐりと口をあけたまま、
突っ立ているゴンザレス君が見えました。おもしろいですね。
﹁おい!リーズ自分が終わったからって、俺の獲物に手を出すんじ
ゃねーぞ。﹂
﹁じゃあクリスちゃんが負けたら、手を出します。﹂
﹁この俺が負けるだと!?言ってくれるじゃあねーかリーズ。だが
もう終わりだ!﹂
そういうとお兄さんの大剣が折れて相手の顔面に、拳が何十発も
入り綺麗だったお兄さんの顔は見るに耐えないほど腫れ上がってい
ました。傑作ですね。顔が。
﹁私たちの勝ちでいいですよね。﹂
﹁ああギルド登録はもう済ました。﹂
40
普通こういうのは決闘が終わってからするもんじゃあないんでし
ょうか?
﹁ああ、それと決闘の本当の意味は単に俺とギルドメンバーの暇つ
ぶしだ。何処のギルドも普通に通るからな。﹂
結構いい性格してますね。ここのギルドマスター。
思わず顔が引きつるのが分かりました。
41
第七話 デート
あれから私達は何故かAランクの人と決闘をすることになりAラ
ンクの人と戦って勝っちゃったのでAランクになりました。冒険者
になって一年でAランクってすごい速さで出世しちゃってますよね。
そして現在は・・・
﹁リーズちゃんあったよ。﹂
クリスちゃんとデート中です。バルチナス王国にある、女の子が皆
一度は食べてみたい絶品デザートを食べにきました。
やはり混んでいますね。とりあえずクリスちゃんと一緒に列に並ん
で、そして数時間後・・・
私はガトーショコラをホールで頼みました。私の目的の一つケー
キをホールで丸ごと一人で食べるということ。私はさすがに全部は
食べれないと思いますのでクリスちゃんにも食べてもらう予定です。
ちなみにクリスちゃんはミルクレープを三切れとブルーベリーチ
ーズケーキを二切れそして苺のババロアをホールで持ってきました。
﹁クリスちゃんそんなに一人で食べきれますか?﹂
﹁大丈夫ケーキは別腹って言うでしょ。﹂
本人がそういうのなら問題は無いでしょう。まあとりあえず速く
食べましょう待ちに待ったケーキです。それではまず一口パクリ。
42
はうっなんというなめらかな舌触り、とても甘くてでもふわっとし
た感触がなんともいえません。自分が作るのよりも遥かに美味しく
て田舎と都会思っていたよりも差がすごいですよお母さん。という
か幸せこれならいくらでも食べれます。
こんなに美味しいケーキは初めてたべました。後で持って帰って
青ちゃんにも食べさせてあげたいです。お土産にいくつか買ってか
ら帰りましょう。
もう食べる手がとまりません。顔がだらしなく緩んでるのが分か
ります。でも幸せです。クリスちゃんもとても美味しそうにケーキ
を食べています。 そしてケーキを十分に堪能した私達はお土産にケーキをいくつか
買って持ち帰りました。
青ちゃんもうれしそうにケーキを食べていました。やっぱり美味
しいものを食べると笑顔になりますよね。笑った青ちゃんの顔がす
ごく可愛くて可愛くて、お土産にケーキを買ってきてよかったです。
クリスちゃんもケーキを全て食べきり、ほくほくと満足そうでし
た。
﹁ケーキ美味しかったね。﹂
﹁はいとても美味しかったです。﹂
また来たいですね。明日からギルドに行って頑張りましょうか。
43
第八話 弟子入り?
今日はギルドで、依頼を受けようと思います。そして現在は、
﹁僕を弟子にしてください!﹂
どうして、こうなったんでしょうか。
﹁とりあえず訳だけ聞いてみようよ、面白そうだし。﹂
クリスちゃんがそういうのなら、聞くだけ聞いて見ましょうか。
私たちの暇つぶしに。
﹁ちなみに弟子入りはどちらにですか?﹂
﹁両方です!﹂
こういうの優柔不断っていうんですよね。駄目な男のする発言。
﹁両方に弟子入りって、ゴンザレス君ふざけてるの。﹂
流石にクリスちゃんも怒っています。
﹁そんなこといわれても、昨日の戦いっぷりを見て両方ともすごか
ったですから。﹂
﹁私はパスします。﹂
﹁私も嫌だよ、めんどくさいし。﹂
44
それに、何が悲しくてゴンザレス君は年下の女の子である私たち
に弟子入りをしているんでしょう。
﹁僕はどうしても、リーズさんとクリスさんに弟子入りしたいんで
す。お願いします!﹂
そう言って私たちに向かって、頭を下げた。とりあえず、簡単に
は引いてはくれないようですね。どうしましょうか?
﹁そんなにいうのなら、俺は構わないぜ好きにしな。﹂
戦闘しているわけでもないのに、DVモードになっているクリス
ちゃんです。
﹁リーズは、どうするんだ?﹂
﹁私の答えは、変わりません。﹂
弟子入りなんて、面倒なだけです。それに、私は誰かにものを教
えたことなど無いですし。絶対に嫌です。断固拒否します。
﹁どうしても。駄目ですか?﹂
⋮⋮見た目が可愛いゴンザレス君に、捨てられた子犬みたいな表
情をされると、決意が崩れ落ちそうです。でも、駄目です。嫌です。
どうしても嫌なんです。普通にチームに入れてください。とかだっ
たら様子を見て引き受けたかもしれませんが、弟子入りとなると、
無理です。
45
﹁断固拒否します。﹂
内心悶えながらも、顔は無表情でばっさり切り捨てる。第三者か
らみたら私はひどい人に見えるんでしょうか。でもまあいいです。
﹁リーズは無理だってよ、とりあえず俺だけで我慢しときな。﹂
﹁そうですか。﹂
何だかゴンザレス君って典型的な、主従犬みたいですね。私は、
ともかくとしてクリスちゃんに弟子入りなんて、正気の沙汰じゃあ
ないと思うんです。
確かに普段は可愛らしい、綺麗な金色の髪に青い目をした天使の
ように見えますが。最近ではちょっと感情が高ぶると、DVモード
になるクリスちゃんですよ。戦闘をするときに、相手を容赦なく素
手で殴り倒し、相手の返り血を浴びても普通に歩いたりして、そこ
らにいる男よりも男らしい女の子ですよ。
弟子入りして、まともな事を学ぶことができるのかも、わからな
いと思うんですけど、大丈夫なんでしょうか?それにこう見えて私
もスパルタです。弟子は取ったことありません。
でも甘やかすなんて事は、絶対にしません。弟子なら生かさず殺
さず、ぎりぎりまで追い詰めてあげます。でもそれ以上に面倒なの
で、弟子は勘弁してほしいです。それに私は目的の一つに魔法をた
くさん覚えるというのもあるんです。人に何かを教える時間など、
無いのです。
私がバルチナス王国に来てからは、魔法のレパートリーがたくさ
46
ん増えました。こっちに着てから真っ先に魔法書を買いました。
特に無属性の魔法は本に載っているものなら、95%ぐらいは使
えるようになりました。クリスちゃんも治癒魔法の回復量が増えた
りなど、色々レベルアップしているのです。というか依頼を受けに
来たのに可笑しな展開になっています。
﹁クリスちゃん!﹂
﹁ああ!分かったよ。とりあえず弟子入りに関しては、俺は引き受
けるぜ。特訓は明日からだ。今日はこれから依頼を受けるからまた
明日な。﹂
﹁分かりました明日からですね。それじゃあ頑張ってください。﹂
そういってゴンザレス君は、ギルドから出て行った。とりあえず
依頼を見てみる。
一つ目。ブラックホール塔に居る、ミニデビル×50の討伐。報
酬は200000Eこれ
でいいですかね。今回は討伐依頼じゃないと、私に被害がきそうな
ので、迷わず討伐依頼を受ける。じゃあこの依頼を受けますか。
﹁マスター。この討伐依頼受けますね。﹂
﹁了解した。場所は分かるか。﹂
﹁地図をお願いします。﹂
﹁ほらよ。これが此処からブラックホール塔への地図だ。無くすな
47
よ。﹂
地図を受け取り。場所を確認してから出発した。結構な距離があ
ったので守護精霊のペガサスを呼び出し、クリスちゃんと一緒に乗
りブラックホール塔に向かう。数十分位経ち私達はブラックホール
塔に着いた。
中に入りミニデビルを探し討伐した。ザクッ グサッとナイフで
モンスターを討伐しながら聞いてみる。
﹁そういえば、クリスちゃんはなんで弟子入りの件を引き受けたん
ですか?﹂
バキッ ゴスッとクリスちゃんも杖でモンスターを殴りながら答
える。
﹁何でって暇つぶしなのと、俺の魔法の実験台のためだぜ。﹂
﹁実験台ですか。﹂
﹁ああ実験台だ。﹂
確かクリスちゃんが使うメイン魔法は治癒魔法。クリスちゃんは、
ゴンザレス君を痛めつけては魔法で治す。というある意味拷問のよ
うなことをするつもりみたいですね。楽しそうなので明日から見物
しましょうか。
弟子は生かさず、殺さずと言いますし。あっラストの一匹クリス
ちゃんに討伐されました。
48
﹁よし!終わったぜ帰るか。﹂
﹁そうですね。ギルドに行きましょう。﹂
私はテレポートを唱え、ギルドに戻る。
﹁ギルドに到着。﹂
それじゃあ、報告に行きますか。
﹁マスター。依頼完了しました。﹂
﹁ああ、分かった。報酬はギルドカードに入れた。﹂
それじゃあ家に帰りましょう。
﹁そういえば具体的にはどうするんですか?﹂
﹁半殺しにする。﹂
⋮⋮やっぱりちょっと心配です。うっかり加減を間違えて殺っち
まいました。とか洒落にならないと思うんですけど。
まあ、なんとかなるでしょう。
49
第九話 特訓
そして現在、ゴンザレス君は特訓と言う名の、無限に続く地獄で
死にかけているみたいです。と言うよりクリスちゃんが一方的にゴ
ンザレス君を杖でたこ殴りにしては、治癒魔法で回復させています。
杖で殴るのに飽きたのか、杖を投げ捨てて今は素手で殴り、ゴン
ザレス君はぼろ雑巾を通り越して、見るに耐えない姿になっていま
す。さすがクリスちゃんですね。見ていて気持ちいくらいに、少し
の容赦の欠片もない攻撃です。
﹁おら!どうしたんだ。てめーは俺に、掠り傷一つ、付けらんねえ
のかよ!﹂
ゴンザレス君は泣き叫びながら、クリスちゃんに必死に攻撃して
いますがクリスちゃんはそれを容赦なく、虫でも叩き潰すように、
叩き落しています。
特訓を始めてから数十分という時間の間で、ゴンザレス君は40
回位死にかけたんじゃないでしょうか。ゴンザレス君みたいな容姿
が良い人が、ぼろ雑巾のようになっていく姿を見ていると私も、う
ずうずしてしまいます。
私も弟子入りの件を承諾していたら、今頃ゴンザレス君は。廃人
と化していたんじゃあないでしょうか。
﹁もう少し手加減を・・・﹂
﹁しねえよ!﹂
50
あっ!ゴンザレス君がクリスちゃんに、殴られて吹っ飛びました。
﹁そろそろ止めないと、ほんとに死んじゃいますよ?クリスちゃん。
﹂
﹁治癒魔法かければいいだろ。﹂
﹁精神面の問題です。﹂
﹁ちっ﹂
舌打ちするとか、あれだけ殴っておいて、まだ殴り足りないんで
すかね。クリスちゃんに殴られてから、ぴくりとも動いていません
が、ゴンザレス君はほっときましょう。クリスちゃんが治癒魔法を
使えば、簡単に治りますし。一応近くには置いておきますか。私は
ゴンザレス君を引きずって、近くに放り投げる。
﹁ほっ﹂
ドサッとゴンザレス君の体は、地面に落下する。いうか完全に伸び
てますね。私も暇ですし、悪戯でもしましょうか。まずはゴンザレ
ス君をロープでぐるぐるに巻いて、木にぶら下げる。次にそのロー
プを私の魔法で見えなくしてと・・・完成です。
傍から見たら浮いている人に見えますね。
﹁リーズ、おもしれーことやってんな。﹂
﹁はい今回は自信作です。ゴンザレス君の驚く顔が、目に浮かびま
51
す。﹂
普通の状態ならロープでぐるぐる巻きにして、ロープを魔法で見
えなくしていると気づくでしょう。でも、ゴンザレス君はクリスち
ゃんに、ぼこられた後なので、気づくことは無いでしょう。ああ、
早く目を覚ましてほしいです。そしてリアクションが見たいです。
﹁おらよっと!﹂
バシャッ!クリスちゃんがゴンザレス君に水をぶっ掛けました。
﹁うーん、くしゅんっ﹂
水をかけられて寒かったのかくしゃみをしました。さすが男の娘、
可愛らしいですね。状況がよく分からずに戸惑っています。
﹁僕、どうなってるんですか?﹂
今までの特訓のせいで、軽く錯乱状態ですね。どことなく目の焦
点も、あっていない気がします。
﹁おい、ゴンザレス﹂
﹁はいなんですか?﹂
﹁お前、弱いな。﹂
クリスちゃん、今すごい良い笑顔です。それに引き換え⋮⋮
﹁そんなに弱いですか?﹂
52
クリスちゃんに言葉攻めされて、今にも泣き出しそう。というか
少し泣いている状態のゴンザレス君です。
﹁もう面倒だから、お前の師匠っぽいのやめるぜ。﹂
ずいぶんというか、いきなりな話ですね。まだ特訓して1時間し
か経っていないというのにクリスちゃん飽きるの速いです。
﹁えー。﹂
まあやはりというか不満があるみたいですね。実際あまり才能は
無いみたいですし。
﹁やっぱり、僕が弱いからですか?﹂
﹁それもあるけど俺が厭きたから。﹂
クリスちゃんストレートですね。まあとりあえず
﹁帰りますか。﹂
﹁リーズが帰るんなら俺も帰るぜじゃなゴンザレス。﹂
﹁それと、その状態はあと2,3時間ぐらい経てば、戻ると思いま
すので、さようなら。﹂
そして私達は、後ろから聞こえるゴンザレス君の叫び声を聞きな
がら、家に歩いて帰りました。歩いている間クリスちゃんはDVモ
ードでずっと笑いけていました。
53
今思ったんですけど、これ完璧に私たちが悪人みたいですよね。
54
第十話 先輩
何なのでしょうか?この変態と、女装ナルシストは・・・
﹁はじめまして、可愛らしきレディ達、今日これから俺たちとデー
トでもしませんか?﹂
あれは、依頼を成功させて、報酬をもらったので、さて帰りまし
ょうか。と家に帰ろうとしたら、こいつらが現れて、ナンパみたい
なことをされて、困っています。現在ナンパしているこの二人は、
ギルドマスターが言うには、私たちの先輩にあたる人たちらしいで
す。
最初に私たちをナンパして来たのが、女装ナルシストことクルト
でもう一人のなんかはあはあ言ってる、変態がアダムというらしい
です。
最初は、何で女の子にナンパされているんでしょうか?とも思い
ましたけどギルドマスターが相変わらず女装してんのか。という一
言でこいつが男の娘であることが発覚。そして現在⋮⋮
﹁てめーら!俺のリーズをナンパしようだなんて、いい度胸してん
じゃねーか!﹂
いきなり、DVクリスちゃんモードですか。しかも何か相手に、
今すぐ殴りこみ
にでも行きそうな雰囲気ですね。
﹁はあはあっ綺麗な金髪の女の子。君の名前は何て言うんだ?﹂
55
﹁はあはあ言いやがって気色わりいんだよ!この変態野郎が!﹂
そう言ってクリスちゃんは、変態野郎を殴り続けています。そり
ゃあもう、たこ殴りです。なんというか、顔は悪くないのにすごい
残念な変態ですね。
﹁あっちはあっちで楽しんでるみたいだし、俺たちは俺たちでデー
トしない?﹂
何か女装ナルシストが、話しかけてきました。
﹁私、女装した人とデートする趣味はありません。﹂
﹁残念だな、俺は君とデートしたいんだけどなあ。﹂
いきなり手を握ってきました。人が穏便にデートの誘いを断って、
拒否しているのに、なんでこうもしつこく誘ってくるんでしょうか
?面倒ですね。
﹁この女装野郎が!俺のリーズに気安く触るんじゃねえ!﹂
クリスちゃんが珍しく魔法を使って攻撃してきました。しかも即
死魔法です。というかいつの間にか、お姫様抱っこされてます。初
めてのお姫様抱っこされた相手が、女装野郎とはなんというか少し、
テンションが下がりますね。 それになにやら、クリスちゃんが鬼
のような形相でこちらをというか、女装野朗を睨んでいます。クリ
スちゃんの顔が、かつてないほど凶悪に歪んでいます。
女装野朗が憎い。と言うような感じですね。
56
﹁俺のリーズから手を離せ!そして消えうせろ!﹂
そう言って、本日二度目の即死魔法を、ぶっ放してくれたクリス
ちゃんでした。危ないと思った私は、テレポートで安全なギルドマ
スターの近くに、移動しました。
行き成り姿を消した私に、驚いた女装ナルシストがクリスちゃん
の即死魔法に当たりそうになっていました。
そのまま当たっていればよかったのに。と思いました。
テレポートしたのはいいんですけど、何か足に変な感触が・・・
とりあえず、少し足をずらして下を見てみる。最初にクリスちゃん
が、たこ殴りにしていた変態ですね。動くのが面倒なのでそのまま
の体制で、クリスちゃんと女装ナルシストの戦いを見物する。とり
あえずステータスを見る。
女装ナルシストは体力S 魔力A 力S 知力B 運S
おお、さすが先輩と言っていただけありますね。腕力ではクリス
ちゃんといい勝負です。でも現在は殴り合いとか肉弾戦ではなくて、
魔法での戦闘をしているので凄まじいです。ギルドマスターが何気
に結界を張っていることにも、驚いていますが。
あのクリスちゃんが、魔法を使って攻撃しているのも驚いていま
す。クリスちゃん、は基本的に治癒魔法を使う後方支援タイプの方
ですから、普段は、DVモードになると、あんな感じになりますが。
結構な実力者なんですけどね。さて、どっちが勝つでしょうか。
57
ちなみに私はここ最近の出来事のおかげか、オールSランクにな
りました。クリスちゃんは体力S 魔力S 力S 知力A 運Bと
言うような感じです。
﹁あんまり、可愛い女の子に傷をつけるのは、遠慮しておきたいん
だけどな。﹂
そう言うと、女装ナルシストは魔法を唱えました。クリスちゃん
を見ると足の先から、少しずつ石化していきました。
﹁なんだよこれ!﹂
クリスちゃんは、吃驚と言ったような感じです。あれは、どう見
ても石化魔法
ですよね。あっクリスちゃんが完全に石化しちゃいました。
﹁ふふっ。これでコレクションが一つ増えたな。﹂
そう言ってクリスちゃんの石像?を持ち帰ろう発言をする女装ナ
ルシストを、拘束魔法で拘束する。
﹁君はSなのかな?﹂
﹁少なくとも、他の人からそんな風に言われたことは、ありません
ね。あと、私のチームメイトを、勝手にもって帰ろうとしないでく
れますか。この女装ナルシストが。﹂
﹁女装ナルシストって、そういえば自己紹介していなかったっけ?
俺はクルト。さっきのは俺とチームを組んでいるアダムだよ。君の
名前はなんて言うんだい?﹂
58
この変質者どもに、自分の名を名乗るのは遠慮したいですが、そ
れだと常識も知らない、お子様みたいなので、自己紹介ぐらいはし
ておきますか。
﹁私の名前はリーズです。貴方が持ち帰ろうとしているのが、クリ
スちゃんです。﹂
﹁リーズにクリスだね。これからよろしく。﹂
絶対によろしくしたくないですけどね。ていうか
﹁さっさとクリスちゃんにかけた石化魔法を、今すぐ解いてくださ
い。﹂
﹁え?やだよ。﹂
この場合被害者はクリスちゃんで、加害者はクルトとかいう変質
者ですよね。なのになんで俺は悪くないよね?みたいな感じの発言
を、しているんでしょうか。頭いかれているんじゃないんですか?
ほんともう苛々してきた。もういいや、状態以上を回復させる魔法
なら、覚えていますし、今はこいつを再起不能にしてやります。
ライトニング
﹁雷魔法、落雷!﹂
魔法はクルトに直撃。クリスちゃんは石化状態なので雷魔法をく
らっても
ダメージはないはず、なので手加減なしで行きます。
﹁ひどいな、いきなり魔法で攻撃するなんて、俺の顔に傷がついち
59
ゃった。﹂
﹁クリスちゃんにかけた石化魔法を解けば、ゆるしてあげますよ。﹂
﹁できれば君もほしいんだけどな。﹂
ライトニング
﹁雷魔法、落雷全力バージョン﹂
﹁うわっ!危ないな。﹂
﹁ちっ﹂
避けられました。スピードに関して言えば、私よりも上のようで
すね。厄介ですね。面倒な変質者達に、目をつけられたものです。
﹁とりあえず、俺たちはもう帰るよ。疲れてきたし、ほら、アダム
帰るよ。﹂
﹁うーん顔が痛いぜ。﹂
﹁ちょっと!クリスちゃんを帰してください。なにちゃっかりと、
持って帰ろうとしてるんですか。﹂
即死魔法を発動させる。
﹁んじゃあ、帰るぜテレポート﹂
﹁ええ!﹂
即死魔法が不発に終わり、クリスちゃんが誘拐されてしまいまし
60
た。最悪ですね。
苛ついた私は、ギルドマスターに詰め寄る。
﹁ギルドマスター!何なんですかあの変質者どもは!いきなり現れ
て、人のチームメイトを挑発して、そんでもって石化させて誘拐す
るとか、何を考えているんですか!﹂
﹁知らん。﹂
そんな、あっけらかんと言わないでください。確かに期待なんか
していませんよ。ですけどもう少し対応の仕方があるでしょう。
﹁とりあえ、ずあいつらの自宅教えてください。﹂
﹁ん。﹂
なんか地図渡された。まあとにかくクリスちゃん、今から迎に行
きますからね。
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第十一話 誘拐事件
そして現在は、一人だとなんとなく心細いので、おまけとしてゴ
ンザレス君を
連れて、クリスちゃんを誘拐した変質者どもを、ふるぼっこにして
クリスちゃんを救いに行きたいと思います。
﹁あのー。﹂
﹁何ですか?ゴンザレス君﹂
﹁何処に行くんですか?﹂
そういえば状況説明を、一切していませんでしたね。ちなみにゴ
ンザレス君はついでという形で、強制的につれてきました。
﹁とりあえず、私についてきて下さい。﹂
ゴンザレス君は、見た目は良いので、いざとなったらおとりにで
もして、クリスちゃんを救出します。そういえばクリスちゃんは、
治癒魔法は使えるのに状態以上を回復させる魔法は、一才使えない
んですよね。
クリスちゃんて不思議ですよね。とりあえず、ゴンザレス君と軽
く雑談をしながら歩くこと数十分。何か、すごい神様が住むような、
神殿っぽい所に到着しました。何というお金の無駄遣いなんでしょ
うか。と思った私は悪くないと思います。まあ一発魔法をぶち込み
ますか。
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エターナルスリープ
﹁眠り魔法 永眠﹂
何故かゴンザレス君が、すごい顔でこちらを見ていますが、今は
クリスちゃんを救出するのが、最優先なので一々ツッコミをいれた
りしません。
正面から堂々と入る。これだけ広いのだから、もっと使用人とか
人が大勢いるものだと思って、永眠魔法を使ったんですが、それも
この屋敷全体に、今回は魔力の無駄遣いに、終わってしまいました。
悩んでも仕方ないので、気を取り直してクリスちゃんを探さなけ
れば・・・
サーチ
﹁探知魔法 探索﹂
魔力反応が三つ。どうやら、ここからかなり距離のある場所に、
いるみたいですね。その他にも魔力反応が、ちらほらとありますが、
今は三つ固まっているところをいきますか。とりあえず歩いてみる。
スタスタ カチッ
﹁あ!﹂
なにやら、落とし穴のようなものが出てきて、ゴンザレス君が落
ちました。おまけとしてつれて来たものの、役に立つどころか勝手
に自滅していきました。ここらで帰らせるほうが良さそうですね。
こういうの百害あって一利なしとかいうんですよね。お母さんがよ
く昔話をしているときに、言っていました。
﹁テレポート﹂
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たぶんこれでゴンザレス君は、ギルドあたりにでも着いたんじゃ
ないでしょうか。さて、もう面倒なので正面を突っ切って行きます。
パワーアップ
﹁強化魔法 強化﹂
これで腕力が、三倍ぐらいにはなったでしょうか。じゃあ行きま
す。魔力反応がある場所に向かって歩く。そしてそれを阻んでいる
壁を殴る。そして壊す。
そしてそれを繰り返すこと三時間。ようやくクリスちゃんらしき
石像と、変質者を二名見つけました。
﹁あれ、もう来たんだ。速いなあ。一応罠とか色々準備は、してお
いたんだけどなあ。﹂
よくもまあ、いけしゃあしゃあと言ってくれますね。
﹁クリスちゃんを返してください。﹂
﹁やだ。﹂
バキッと顔面を殴る音がしました。
﹁グハッ﹂
何故かもう一人の変態に命中しましたが。
﹁へえすごい腕力だね。アダムの顔がぐちゃぐちゃだ。﹂
こいつやっぱり厄介です。一旦クリスちゃんの石像を、自宅にテ
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レポートさせる。
﹁ひどいなあ。いきなり俺のコレクションどっかに、やっちゃうな
んて。﹂
﹁クリスちゃんはあなたの物ではないです。あれは私のです。勝手
に人のを取らないでくれますか。迷惑なんですけど。﹂
それに、私今はすごく苛ついているんです。だから、
﹁死んでください。﹂
即死魔法を発動させる。
﹁おっと、死んでくださいとか、ひどいなあ﹂
またしても避けられました。ですが
﹁青ちゃん﹂
青ちゃんのサイコキネシスで、変態一名を拘束してもらう、そし
て即死魔法は命中率が低いので、拘束魔法と幻覚魔法と状態以上麻
痺の魔法をかけて放置する。この変態を完璧に排除するのには、ま
だまだ時間が掛かりそうです。一刻も早くこの変態を駆除してクリ
スちゃんのところに行きたいです。青ちゃんもこの変態に能力を使
うのが、嫌なようでいつもニコニコしている顔が今日は、不機嫌そ
うでした。
さっさと帰りましょう。クリスちゃんの魔法を解かないといけま
せんからね。
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﹁テレポート﹂
家に着きました。クリスちゃんの石像?に状態以上を回復させる魔
法をかける。
パアアアッ
クリスちゃんはもとの状態に戻った。
﹁おい!リーズあの変態野郎は何処に行きやがった!﹂
無理も無いですけど、いきなりぶち切れ状態でいられても、私が
困るんですが
まあ、クリスちゃんが元に戻ったので、良しとしましょう。
にしても状態以上魔法の対策も、考えておかないといけませんね。
毎回あんな感じに誘拐されていたら、そのうち私のほうが犯罪者に
なってしまいそうです。クリスちゃんにはあとで、状態以上にかか
りにくいアイテムでもプレゼントしておきましょう。
﹁クリスちゃん。変態は私が一時的に、行動できないようにしてお
いたので、大丈夫です。﹂
﹁リーズがそう言っても、俺はあいつ等をぶっ殺さなきゃ、気がす
まねえ﹂
そうは言っても、クリスちゃん挑発されたとはいえ、相手の魔法
にかかって敗北したような感じになっていますし。
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﹁クリスちゃん、気分を良くしたいなら、ギルドに行って討伐依頼
でも受けますか?﹂
﹁ううん。今日はもういいや。疲れちゃったからもう寝るね。お休
み。﹂
珍しくDVモードが速く終わりました。よほど疲れていたんでし
ょうね。私も疲れたし今日は寝ましょうか。
それではおやすみなさい。
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第十二話 大会
﹁やあ、おはようリーズ、クリス﹂
﹁﹁即死魔法、永遠の闇﹂﹂
前回の誘拐事件があったので、この変態にはそれなりの対応をす
ることにしました。クリスちゃんには、状態以上に掛かりにくくな
る魔法アイテムを、プレゼントしたので石化魔法だけでなく、ほか
の状態以上に掛からないので、こいつがいるときには即死魔法か状
態以上魔法シリーズを使っています。
でも、今日は最悪の日になりそうです。今日は年に一度開催され
る、ギルドのナンバー1実力者を決める大会の日なんです。Sラン
クの人は強制参加。私とクリスちゃん。あと、誘拐事件の変質者達
もSランク。よってこうして鉢合わせしている。というわけなんで
す。
それと、
﹁何故、変質者如きが私とクリスちゃんの名前を、呼び捨てで呼ん
でいるんですか。汚らわしいです。二度と口に出さないでください。
﹂
﹁ひどいなあ。名前を呼ぶくらいいいと思うんだけど。それと俺の
名前はクルトだよ。﹂
そんなこと、私には関係ないです。今後、こいつの名前を私が呼
ぶことは、一生ないでしょうから。
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﹁昨日はよくも変な魔法をかけてくれたな。今日の試合で、倍返し
にしてやるから覚悟しておけよ変態野朗。﹂
﹁こっちもこっちでひどいなあ。俺はただ自分のコレクションを増
やそうとしただけなのに。﹂
それを世間一般では誘拐、または監禁というんですけどね。まっ
たく、とんでもない悪質な犯罪者ですね。ここまでくると、救いよ
うが無いですよ。特に自分が悪いと思ってないところが最悪です。
ちなみにクリスちゃんは、一回戦から変質者と対戦することにな
っています。なのでさっき宣戦布告をしていたんですが、私は名前
も知らない、その他のSランクの方と戦うことになっています。今
回は自分の戦闘より、クリスちゃんがあの変質者をどんな風に痛め
つけていくのかが楽しみでしょうがないです。
状態以上魔法が効かなくなる魔法アイテムをプレゼントしたので、
前みたいなことは無いでしょうから、クリスちゃんのほうが幾分か
有利なんですよね。 さあクリスちゃん、あの変態を思う存分痛めつけてください。ち
なみにこの
大会は、殺すのはだめですが、致命傷になる、ぎりぎりのダメージ
はOKだそうですから、素手でぼこぼこにするぶんには、レッドカ
ードは出されないはずです。
最初はクリスちゃんからです。
﹁クリスちゃん頑張ってくださいね。﹂
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﹁ああ、あの変態を半殺しにしてやるよ。﹂
﹁殺すのはルール違反ですからね。﹂
﹁大丈夫だそこんところは分かってるつもりだぜ。﹂
クリスちゃんなら、うっかり殺ってくれちゃいそうなんですが、
まあ今回は大丈夫でしょう。
﹁それでは、ギルドのナンバー1選手を決める大会を開催する。1
開戦の選手は結界内に入れ。﹂
﹁それじゃあ行ってくるぜ。﹂
そう言うとクリスちゃんは、男らしく堂々と結界内に入っていき
ました。DVクリスちゃん、何時にもまして男らしくなっています
ね。相手は自分を誘拐した相手だというのに、堂々と歩いて行くと
かある意味尊敬しますよ。
﹁それでは一回戦クリスVSクルト始め!﹂
﹁また、クリスをコレクションにする機会ができてうれしいよ。﹂
﹁くたばれ!この変態野郎が!﹂
クリスちゃんは、相手選手の顔をぼこぼこに殴りました。昨日の
こともあったのでしょうけど、相手がかわす隙も与えずに、容赦な
くぼこぼこにしています。これでしばらくは、あいつの顔を見るこ
とはなさそうですね。私もぼこぼこにされていくあいつの顔を見て
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いたら、すっきりしました。
クリスちゃんにマジックアイテムをプレゼントしただけで、これ
ほどまでにあっさりと決着がつくとは思いませんでしたけど、あい
つのとりえは状態以上魔法のみということですか。ずいぶんとつま
らない奴でした。
思い出せば、動きももう少し速かったような気がしましたが、あ
れも状態以上魔法の一つだったのでしょう。テレポートはもう一匹
のほうが使っていましたし。
﹁一回戦勝者クリス!﹂
もう終わりました。
﹁今回は俺が勝ったぜリーズ。﹂
﹁そうみたいですね。前みたいに、私が王子様になるのは面倒なの
で嫌ですから。﹂
﹁王子様みたいなリーズもいいが、俺はお姫様ってがらじゃないか
ら遠慮しておくぜ。それに誘拐されるなんて、もうごめんだしな。﹂
そう言うと、クリスちゃんは照れくさそうに笑っていました。け
ど私的にはクリスちゃんは可愛いので、王子役でもお姫様役でもど
ちらでも似合うと思うんですよね。
﹁そんなことより、次はリーズの番だろ?行ってこいよ。﹂
﹁そういえば、もうそろそろ呼ばれてもおかしくないですよね?﹂
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﹁一回戦リーズVSカモミール選手は結界内に入れ!﹂
丁度いい感じのタイミングで呼ばれました。それじゃあ行ってき
ますか。
﹁はじめまして、わたくしカモミールと申します。今日はよろしく
お願います。﹂
﹁こちらこそ、今日はよろしくお願いします。﹂
相手は、いかにもな感じの貴族みたいな人です。此処って冒険者
ギルドですよね。私みたいにお金が必要だったりする、強欲な人ば
っかりだと思ってたんですけど、それに冒険者にまともな人がいる
ことにも驚きなんですけど。今まであってきた人は変な人が多かっ
たですし。
クリスちゃん、二重人格っぽい、お母さん論外、クルト誘拐犯、
その他全員何処かしら変。
まともな挨拶をしたのだって、久しぶりのような気がします。ま
ともと言えば、才能は無かったけど、比較的性格はまともだったゴ
ンザレス君は何処へ言ったんでしょうか?ちゃんとあの時はギルド
のほうにテレポートさせたはずですが・・・。というか考え事をし
ている場合では無いです。今はカモミールさんと戦わなくては・・・
。
﹁うふふふふ。﹂
ああ、やっぱりこの人もまともじゃないみたいです。なんかいき
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なり笑い出すって今までに無い反応です。
﹁うふふふふふ、リーズちゃんですよね。前から思っていたのです
が、とても可愛らしい方ですわね。ジュルリッ﹂
何だか寒気がしてきました。
﹁それではいただきますわ。ガブリッ﹂
﹁痛っ﹂
ゴクゴク
痛い痛い!、首噛まれました!というか血を吸われてるみたいな
んですけど、いたたたっ!これ、このまま動かしたら余計に悲惨な
ことになりそうなんですけど、この状態でテレポート使うにしても
痛みで集中力が、ああどうしましょう。
とりあえずナイフで切りつけてみる。ザクリッ
ナイフを腕に刺しても動かないし、血を吸い続けるってどういう
ことですか!確かに猫耳美女や悪魔族なんかを見つけた時点で、こ
んなのもいるとは予想はしてましたけど、こういう場面でこういう
行動をとられるとは思いませんよ、いたた!というか
アイスニードル
﹁いつまで、人の血を吸い続けているんですか!氷魔法、氷棘!﹂
こんな状況で、私の得意な無属性魔法はあまり使えませんし、雷
魔法だと私も
感電してしまいますので氷魔法を使用してみました。
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﹁ああ、何て美味しいんでしょうか。こんなに美味しい血は久しぶ
りですわ。もっと、もっと飲みたいですわ!﹂
﹁氷魔法氷結!﹂
カチン。
とりあえずは凍らせてみましたが、この場合は私の勝ちになると思
います。
﹁カモミール戦闘不能リーズの勝利!﹂
さすがに氷付けにしたら、こちらの勝ちになるみたいですね。
﹁リーズ!傷治すからこっちに来い!﹂
クリスちゃんが呼んでいます。噛まれたときかなり痛かったです
し傷はかなり深いみたいですね。だって血がだらだら流れてきてい
ます。
﹁治癒魔法リカバリー﹂
傷が数分したら、治っていました。相変わらず、すごい治癒魔法
です。でもちょっとくらくらします。貧血気味ですね。悔しいです
けど今回は棄権しておきましょうか。これ以上被害に遭うのはごめ
んです。
﹁クリスちゃん、私棄権しますね。﹂
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﹁はあ!?何で!?傷は今治しただろ!﹂
﹁さっき血を吸われてしまったので、貧血になってるみたいなので
今日はもう家に帰って寝ます。﹂
それに、この大会は優勝したらお金がもらえるとか賞品がもらえ
るとかじゃなくて、純粋にギルドのナンバー1を決める、いわばク
リスちゃんのような戦闘狂や何かしらの目的がある人が出場する大
会ですし。私はクリスちゃんみたいに戦闘狂でもないし、目的があ
るわけでもない。それに貧血気味なのも本当です。カモミールさん
遠慮なく、豪快に人の血を吸いまくってくれたので、完全に貧血状
態です。なので私は帰ります。
﹁私は帰りますから、クリスちゃん後は頑張ってください。﹂
﹁リーズがそう言うなら⋮⋮。﹂
何だか納得してなさそうですが、この際どっちでもいいです。テ
レポートで帰って寝ましょう。ではテレポート、
ボフッ
ベットINおやすみなさい。
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第十三話 結果とおまけ
あの後、私は貧血で一日中寝ていたみたいです。クリスちゃんは
三回戦目で
魔力切れになり、四回戦目で敗退したそうです。優勝したのは聞い
たことの
無い名前の人みたいでした。名前はルーカスさんだそうです。
クリスちゃんはクリスちゃんで、リベンジして来年は優勝するぜ
!と言ってます。そして現在クリスちゃんは、自分の気に入った装
備品をゲットするために一人で依頼を受けに行き。
私はと言えば今・・・
﹁リーズ様、どうか私と結婚してくださいませ。﹂
カモミールさんに、熱烈な愛の告白を受けています。カモミール
さんの話を聞いて、まとめてみると、どうやら大会で闘ったときに
私の血を吸ったら、とても美味しくて今後も美味しい血を吸いたい
ので、どうすればいいか考えた末に何故か結婚。という感じになっ
たそうです。本人曰く結婚すれば、毎日一緒にいられる=毎日美味
しい血を飲むことができる。と言う結論に至り、その考えを実行し
たそうです。本人は割りと本気らしく、わざわざクリスちゃんがい
ないときを見計らって。結婚指輪まで用意してこうしてプロポーズ
をしています。
クリスちゃんが居れば、追い返してくれるんでしょうけど、その
間人の本人が居ないので、どうしようもないというか、面倒な状況
になっています。
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私自身も、カモミールさんのプロポーズを受けるつもりはありま
せんし。結婚する理由が、携帯食料が欲しいからだなんてごめんで
すよ。かと言って、このまま諦めてくれる雰囲気でもないですし。
やっぱり本人は結構本気みたいですし、どうしましょうか?
クリスちゃんが帰ってくるまで時間稼ぎしようにも、クリスちゃ
んは少し前に出て行ったばかりだし、依頼を受けてそのあとに装備
品を買うとまで言っていったから、すぐに戻ってくるという可能性
はまったく無いですし。
貧血は治ったので戦闘をしても問題は無いでしょうけど、カモミ
ールさんは
結構強いほうですから。無傷で勝利というわけにも行かないでしょ
うから、厄介なんですよね。むしろ私のほうが危険です。この状態
で、もし負けたりなんてしたら、今後私はカモミールさんの携帯食
料となってしまうかもしれません。
それだけは断固拒否したいです。ただでさえ血を吸われるときは、
とてつもなく痛かったというのに、毎日あんな激痛を耐える生活を
送るとかごめんですよ。仕方ないですけど、ここは自分の力で乗り
越えるしかありませんね。
﹁拘束魔法バインド!﹂
とりあえず拘束してみることにした。
﹁きゃあ!﹂
何だかあっさりと拘束できました。クリスちゃんが帰ってくるま
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で縛って放置しておきましょう。その方が安全そうです。主に私が。
そして数時間後⋮⋮。
﹁ただいまーリーズちゃん!今日すっごく良い装備品見つけてきた
の・・・。﹂
クリスちゃんが、珍しく吃驚してます。
﹁クリスちゃん、これ吸血鬼だそうですよ。あげましょうか?﹂
とりあえず聞いてみる。
﹁面倒だからいらない。﹂
そう言うとクリスちゃんは、カモミールさんを殴り飛ばしました。
そういえばカモミールさんが殴り飛ばされたときに思いだしたんで
すが。
ゴンザレス君に全然遭わないんですよね。最後に会ったのは誘拐
犯を討伐しにいった時に、自滅したからテレポートでギルドに送り
届けたはずなんですが。失敗したんでしょうか?まあどちらでもい
いですよね。あまり私には関係ありませんし。
﹁すみませーん!﹂
珍しくまともそうな来客者が来たのかもしれません。とりあえず
ドアを開けて中に入れる。
﹁どちら様ですか?﹂
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﹁私エリザベスっていいます。貴方に聞きたいことがあって来まし
た。ゴンザレスという名前の赤い髪の人知りませんか?﹂
﹁一応知ってますけど。﹂
私やっちゃったかもしれないです。非情にまずいです。あの時ク
リスちゃんのことで動揺していたので、ゴンザレス君を変なところ
にテレポートさせてしまったみたいです。一々テレポートさせた場
所なんて確認しませんし。探しようが無いですよ。どうしましょう。
﹁そういえば、最近あいつのことを見なくなったなー。とは思って
たけどまさか行方不明とはな。﹂
ドキッ
﹁そうですね。そういえばエリザベスさんは、ゴンザレス君とどう
いったご関係で?﹂
﹁兄弟です。﹂
兄弟ですか。そういえば髪の色とか、目の色は同じですね。顔は
エリザベスさんの方が女の子ということもあってこちらのほうが可
愛らしい顔立ちをしていますが。問題はゴンザレス君が生きている
か、どうかというかそもそも何でエリザベスさんは、私達に聞きに
来たんでしょうか?
普通こういう場合は、ギルドに捜索依頼を出すのが普通なんです
が。
﹁兄さんは一丁前にプライドが高いから、ギルドに捜索依頼なんか
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出したらマジで一生立ち直れなさそうじゃん。んでこうやって前に、
弟子入りがどうのこうのって話を聞いた覚えがあったクリスさんと、
リーズさんのところに来たってわけですよ。﹂
ゴンザレス君の妹にしては、まともな判断ですね。
﹁面白そうだし引き受けるか、その依頼。﹂
受けちゃうんですか、クリスちゃん。
﹁リーズも一緒に探そうぜ!どうせ暇だろ!﹂
ここで拒否すると後が厄介です。けどもしゴンザレス君が生きて
見つかったらそれこそ厄介なんですけど、どうしましょう。でも今
は引き受けるしかありませんね。
ああ、どうかゴンザレス君が割りと綺麗な死体で居ますように。
それに死体がゴンザレス君と分からないと見つかるまで探し続ける
羽目になりそうですし。
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第十四話 ゴンザレス君を探せ!
私が元凶かもしれない事件の依頼を、引き受けてしまった私、さ
てこの後の私とゴンザレス君の安否はいかに!?
﹁何だかぼっーとしてるけど、大丈夫リーズちゃん?﹂
﹁大丈夫ですよ。クリスちゃん。﹂
現在、赤い髪の青年の目撃情報を手にした私達は、ポイズンシテ
ィに来ています。ここは昔から、猛毒のガスや液体、とにかく毒が
いっぱいあるところなんだとか、ゴンザレス君がここに居るとして、
此処ならゴンザレス君が綺麗ではないけど立派な死体となっている
ことが、期待できるので最初のときよりはテンションが上がってき
た私です。
目撃情報があった場所に来てみたので、聞き込みでもしますか。
調度通りかかった、この街の人っぽい人物に話しかけてみる。
﹁すみません。ゴンザレスという名前の、紅い髪の男の子を知りま
せんか?﹂
﹁ゴンザレス?ああ、その子なら、森の方にモンスターを討伐しに
行ったよ。﹂
﹁そうですか。ありがとうございます。﹂
あっさりと生存情報が、入手できちゃいました。まずいです。死
んでないみたいです。どうしましょうか。まあ、何とかなりますよ
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ね。
﹁とりあえず、ゴンザレス君は無事みたいだし、よかったね。エリ
ザベスちゃん。﹂
﹁はい!早速森の方に行きましょう。﹂
森に向かい歩くこと数分、ゴンザレス君らしき人物に遭遇しまし
た。正直言って私すっごく気まずいです。
﹁兄さん!﹂
﹁エリザベス!﹂
兄弟の再会そして⋮⋮
﹁それにしても、久しぶりですね。クリスさんにリーズさん。最後
に会ったのはお屋敷に行ったときでしたからね。あの時は、落とし
穴に落ちて、何故かこの街に着いたんですよね。帰り道は分からな
いし、お腹は空くし森に行っても毒の塊しかないしで大変でしたよ。
﹂
どうやらゴンザレス君は、この街に着いたのは落とし穴のせいだ
と思っているみたいですね。そちらの方が都合がいいので、今後も
そういうことにしておきましょう。ゴンザレス君が微妙に馬鹿な子
でよかったです。
﹁そのおかげで、僕も少しは強くなったと思うんです。﹂
考え事をしていたら、話が飛びまくっていました。とりあえずゴ
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ンザレス君のステータスを見る。体力B 魔力C 力C 知力D 運D 確かに前よりは、ステータスが上がっていますね。前にクリ
スちゃんに追い詰められたときには、体力がCぐらいには上がって
いましたが、どうやらゴンザレス君はぎりぎりに追い詰められると、
多少は伸びるタイプみたいですね。強くなるのに、すごく苦労する
タイプですね。ご愁傷様です。ゴンザレス君。
﹁ゴンザレス君が、見つかったなら。速く帰ろうよ。リーズちゃん、
テレポートお願い。﹂
﹁はい、分かりました。﹂
内心すごくドキドキします。またゴンザレス君だけ失敗しなきゃ
いいですけど。
﹁テレポート!﹂
シュパッと自宅にテレポートしたようです。ゴンザレス君はちゃ
んといますね。とりあえず安心です。
﹁クリスさん、リーズさんありがとうございました。﹂
﹁リーズさんクリスさんありがとう!﹂
﹁ばいばーい!﹂
とりあえずゴンザレス君が見つかって安心しました。今日はもう
寝ましょう。今日はかつて無いほど疲れたと思います。
﹁クリスちゃん私はもう寝ますね。おやすみなさい。﹂
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﹁うん、おやすみ。﹂
私は眠りについた。
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第十五話 クリスちゃん家
﹁﹁おはようございます。クリスお嬢様!﹂﹂
朝から不法侵入されるとは思いませんでした。というか、今度は
クリスちゃん関係のようですね。
﹁おはようセバスチャン、キャサリン、でも何でここに居るの?﹂
クリスちゃんは寝ぼけているのか、まともな質問をしています。
﹁クリス様のお母様から、クリスさまのお世話をするようにと、言
われたのでクリス様の現在地に来ました。﹂
﹁こちらも同じ理由です。﹂
そういえば、クリスちゃんの家が貴族系だったのをすっかり忘れ
てました。まあ、最近のクリスちゃんはDVモードになることが多
いので、元の性格がどんな感じだったか忘れかけているのもあるん
でしょうけど。
﹁あのくそババアが!余計なまねしやがって、誰も付いてくんなっ
つっただろうが!﹂
思ったそばからこれですし。
﹁お嬢様、仮にも貴族なんですからもう少しお淑やかにしてくださ
い。﹂
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﹁キャサリン!てめーは黙ってろ!あと今すぐに帰れ!﹂
﹁そうはいきません。上の命令ですから。﹂
﹁リーズ、一旦家に帰って説得してくるからテレポートで送ってく
れるか?﹂
何だか微妙な雰囲気ですね。なんというか厄介ごとがおきる前触
れのような今はクリスちゃん家にテレポートするほうが良さそうで
すね。
﹁セバスチャンさんとキャサリンさんも一緒にテレポートしたほう
が良いですよね?﹂
﹁そうしてくれ。元はと言えばこいつらを返品するのが目的だから
な。﹂
では、
﹁テレポート!﹂
シュパッとクリスちゃん家へ到着。思ったことがいくつかあるん
ですが。私はこのままついていったほうが良いんでしょうか?私的
には此処で待機していたいんですが・・・。
﹁リーズも付いてきてくれるか。あとセバスチャンとキャサリンも
な。特にそっちの二人は絶対についてこいよ!絶対だからな!﹂
クリスちゃんは、何でそんなにこの二人が世話をしてくれるのを
嫌がるんでしょうか?お世話係りがいるなら結構楽ができるでしょ
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うに。
﹁おいくそババア!誰もついてこさせるなってあれほど言っただろ
うが!﹂
﹁そうね。﹂
﹁なにがそうねだ!ならこいつらは何なんだよ!﹂
﹁さあ、それよりもお久しぶりですね。リーズさん。この子が色々
迷惑を掛けているみたいだったし心配で・・・。﹂
クリスちゃんが嫌がる理由が何となく理解できました。いわゆる
過保護というやつですね。さすがお金持ちというか執事とメイドま
でつけるとは、普通は思いませんけどね。
﹁いえ、こちらこそクリスちゃんには色々と助けてもらってばかり
で。﹂
所謂社交辞令というやつですね。ぶっちゃけ面倒ごとを持ち込ん
でいるのは私のほうが多いと思いますが、苦労もしているのでここ
はギブアンドテイクとでもいうのでしょうか。まあ、とにかく
﹁だからいい加減にしやがれ!﹂
バキッゴスッと何時までこのやり取りは続くんでしょうか。私が
クリスちゃんのお母さんとちょっと話しているうちに何故か、親子
で殴り合いの喧嘩になっていますし。というかさすが親子というか
凄まじい喧嘩です。
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殴りあったときの衝撃で、屋敷の中にあった装飾品などが壊れま
くっています。それを執事さんとメイドさんが修復する。というよ
うな感じになっています。執事さんとメイドさん大変ですね。
そういえば、唯一この二人を止められそうなクリスちゃんのお父
さんは何処に居るんでしょうか?このくらいの時間なら家に居ても
おかしくないはずなんですが・・・。
さては、逃げたんでしょうか?
探索魔法サーチ。普通に家に中に反応があるんですけどクリスち
ゃんのお父さんは何してるんですか。この状況をどうにかしてほし
いです。というわけで強制的にクリスちゃんのお父さんを召還して
みましょう。クリスちゃんのお父さんをここにテレポート。シュパッ
﹁おわっ﹂
クリスちゃんのお父さんを無事召還できました。前回の失敗もあ
ったので心配でしたが成功したので早速この状況をどうにかしても
らいましょう。
﹁てなわけなので、この状況をどうにかしてください。クリスちゃ
んのお父さん。﹂
﹁しかたがない。﹂
ちゃっかり自分の家の安全なところでくつろいでいたくせに、偉
そうなのがむかつきますね。しかも微妙に足が震えてるんですけど
自分で呼び出しておきながら大丈夫なんでしょうか?
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結構有名な騎士だって聞いたはずなんですけど⋮⋮。
﹁旦那様、装備を﹂
﹁うむ﹂
メイドのキャサリンさんが何やら無駄にごつい立派な装備品を持
って来ました。見た感じすごく重そうなんですけど、平然と持って
きています。鎧と兜と盾と槍を装備して
﹁では、いざ出陣だぁーー﹂
とクリスちゃんのお父さんは雄たけびをあげながら、今も闘い続
けているクリスちゃんとそのお母さんに突っ込んでいきました。
そして数時間、クリスちゃんとそのお母さんにぼこぼこにされた
クリスちゃんのお父さんはキャサリンさんに運ばれていきました。
クリスちゃんとクリスちゃんのお母さんはクリスちゃんのお父さ
んをぼこぼこにして気がすんだのか、ちゃんとしたまじめな会話を
してクリスちゃんは説得することに成功して、年に一度以上実家に
帰ってくると言う条件で妥協したみたいです。
クリスちゃんは渋々といったような感じでしたが、私としては犠
牲者がクリスちゃんのお父さんだけという、比較的犠牲者が少ない
ということに驚きです。
そしてその後私達はテレポートで家に帰り、疲れたので寝ました。
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第十六話 守護精霊大活躍
それは、私とクリスちゃんが午後のティータイムの時間を終えた
後のことでした。急にクリスちゃんが思い出した!と言って何かを
持って来たことから始まります。
数日前に買った装備品に守護精霊が憑いているようなので、早速
契約をしたいので急いで帰ってきたら、事件が発生していたので契
約ができず今日まで忘れていたと言うことらしい。
﹁と言うわけで、早速守護精霊とのご対面&契約∼﹂
そう言ってクリスちゃんは数日前に買ったであろう、とてつもな
く凶悪そうな武器を取り出した。それは前にクリスちゃんが装備し
ていた杖の部類にぎりぎり入るであろうかと言うような感じのバッ
ト。
ただしそのバットには無数の針がついている。しかも何だか凶悪
そうなというか武器のステータスを見てみたら呪われている状態な
んですけど、これ守護精霊憑いてるんですか!?守護精霊とかじゃ
なくて死神とかアンデットとか、そこら辺の何かが出てきそうなん
ですけど。
そう思い、とっさに身構えた瞬間ボフッと煙が出たかと思えば
﹁キュイ∼﹂
出て来たのはとても可愛らしいちっちゃい悪魔でした。
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﹁うわあー。リーズちゃんすッごく可愛い守護精霊だよ。どうした
のリーズちゃん?﹂
あのオーラからして、とてつもないものが出るかと思って武器を
構えていたらあんなのが出てきたので、思わず脱力してしまっただ
けなんです。けどクリスちゃんがうれしそうなので多分大丈夫でし
ょう。
﹁なんでもないですよクリスちゃん。それよりそのこの名前はどう
するんですか?﹂
﹁うーんそうだよね。どんな名前にしようかな。キュウちゃんとか・
・・﹂
さすがにその名前はまずいんじゃないでしょうか。止めるべきか
別の名前を提案するかそれとも・・・どうしましょうか?
﹁女の子みたいだし、クーちゃんにしようかな。クイーンって名前
で呼ぶときはクーちゃんって呼ぶね。﹂
何の問題も無く?無事に名前を付けられたみたいですね。よかっ
たです。さすがにというかあまり変わってませんけど、変な名前じ
ゃないだけましというものでしょう。
﹁それじゃあ早速、クーちゃんの能力が気になるのでなんか依頼を
受けに行こう!てなわけでリーズちゃんも一緒に行こうよ!﹂
確かにクーちゃんの能力は私も気になります。ステータスを見た
ときに物凄く禍々しい何かが見えましたし、ここでクリスちゃん一
人+クーちゃんで行かせるのも心配ですし付いていきますか。
91
﹁分かりました。今回は私も付いていくことにします。﹂
﹁やったあ!クーちゃんリーズちゃんも一緒について来てくれるっ
てよかったね。﹂
そして私達はギルドに行きダークゾンビの討伐依頼を受け、モン
スターを討伐するために魂の墓という場所に来ています。そして何
故か
﹁あははは!﹂
﹁キュー!﹂
キューちゃんが大きくなっています。大きくなってダークゾンビ
を食べたり踏みつけたり、背中の羽を使って吹き飛ばしたり。ダー
クゾンビを食べています。クリスちゃんはDVモードになっていな
いというのに、この大惨事はいったいどうことなんでしょうか。
突然キューちゃんが大きくなって、手当たり次第に破壊活動を行
っているだけなんですけどね。ボランティア活動とかならよく見か
けますが、破壊活動なんて普通は見ることは無いと思うんですよね。
こんな大規模なのは特に。
﹁リーズちゃんもこっちにおいでよ。すッごく良い眺めだよ!﹂
クリスちゃん今時分が居る場所をちゃんと分かっているんでしょ
うか。
﹁クリスちゃん、一旦キューちゃんの首を下ろしてくれないと、私
92
はそっちにいけませんよ!﹂
クリスちゃんは現在キューちゃんの頭の上で寛いでいる状態です。
﹁分かったー。キューちゃん首下ろしてリーズちゃん乗せてくれる
?﹂
﹁キュー﹂
クリスちゃんがそういうとキューちゃんの頭が、私のまん前に下
ろされたのでとりあえず、キューちゃんの頭の上に居るクリスちゃ
んの隣に登ってみる。上がった瞬間、突然キューちゃんの頭が上が
ったから落ちるかと思いました。
﹁ねえねえリーズちゃん。モンスターがゴミのようだね﹂
なんかどこかで聞いたことのある台詞ですね。
﹁というか何でキューちゃんは行き成り大きくなったんでしょうか
?﹂
﹁さあ?そのうち元に戻ると思うんだけど。﹂
まあそれもそうか、とりあえずダークゾンビはキューちゃんが排
除しているのでこのまま見物でもしましょうか。
﹁ぎゃはははは!見ろよリーズモンスターがゴミのようだぜ!﹂
さっきと同じ台詞なのに、DVモードかそうじゃないかで此処ま
で変わるものなんですね。そしてその後私達はキューちゃんの頭に
93
乗ったままギルドに帰り、クリスちゃんはDVモードのまま高らか
にすごい台詞を口走っていました。
その後ダークゾンビの悲鳴や叫び声をBGMにし、ギルドマスタ
ーに怒られたことは言うまでも無いでしょう。 94
第十七話 王子さま誘拐事件
﹁というわけだ。﹂
何がというわけなんでしょうね。まともに会話してくださいよ。
ギルドマスター。それに、これは結構重大な事件だと思うんです。
この国の第一王子が誘拐されたなんて、結構しゃれにならないと思
うんですけど。なのに紙だけ渡して、というわけだ。とかふざけて
るでしょう。
﹁ねえねえ、リーズちゃん王子様ってやっぱりイケメンなのかな?﹂
クリスちゃんキラキラと良い顔ですけど、それは実際に見てみな
いことには分かりませんよ。私達この国の王子のことなんて知りま
せんし。顔どころか、何の情報も無いんですから。
そもそも私達はバルチナス王国に来て、まだ日が浅いうえに私は
魔法とかケーキを中心に勉強していたんですから、この国の王子の
ことなんて知っているわけ無いじゃないですか。それに王子なら金
髪で青い目のイケメンなんじゃないですか?たぶん。
まあ兎に角、私たちの探索場所はフンダバダッシャア盗賊団のア
ジトだそうです。というか、もうこれはこいつらが犯人で間違いな
いんじゃないですか。盗賊団のアジトを探索させようとする時点で
決定してますよね。まあと言うわけで
﹁邪魔なので死んでください。﹂
﹁わあ、リーズちゃんなんかカッコいいー。﹂
95
おっと、本音が出てしまいました。
﹁ふざけんじゃねーぞ!このガキが!﹂
盗賊団にも聞こえていたみたいですし。
﹁ぶっ飛ばすか。行くぜ!リーズ。﹂
早速戦闘開始みたいですね。
数秒後に盗賊団を倒し、無事に王子様を救出したのですが。
﹁ありがとうございます。貴方は私の命の恩人です。どうかお礼を
させてください。﹂
妙に違和感を感じる。というかなんと言うか、確かに王子様はイ
ケメンでしたよ。想像通りの金髪に空みたいな青い瞳、理想どおり
でした。顔はね。
﹁私の名はフェニックス・マルガリータ・ビック・ダディ・100
世です。本名はもっと長いのですが。時間もあまり無いので手短に、
それでは貴方の名前を聞かせてもらえませんか?﹂
顔を赤らめ、まるで恋する乙女のような表情でこちらに話しかけ
てきました。とりあえず自己紹介でもしますか。
﹁えっと、リーズです。フェニックス王子﹂
都会の人は、ネーミングセンスがぶっ飛んでいるんでしょうか?
96
凄まじい名前そして、当の本人はなんというか、性格が乙女チック
なんですよね。可愛いんです。けど外見がイケメンなために物凄い
違和感を感じてしまうんですよね。全体
的にぶっ飛んだ人ですね。とりあえず王子様奪還したので城にもっ
て行きますか。
﹁それじゃあクリスちゃんお城の方に行きましょうか・・・﹂
クリスちゃんのほうを見ると、そこにはギラギラと王子様に嫉妬
にまみれた視線を向けているクリスちゃんが居ました。というかま
ずいですね。私の声も聞こえていない見たいですし。
﹁クリスちゃん、とりあえずフェニックス王子をお城に置きに行き
ましょう
か。﹂
クリスちゃんの前に手をぶんぶんと振って話しかけてみる。目に
少し光は戻
ったけど大丈夫でしょうか・・・
﹁うんそうだね。邪魔な奴はすぐに消さなきゃな・・・。﹂
あ、なんかやばいです。ちょっといそぎましょうか。その後、王
子をすぐに城に送り私たちは国王から色々特典といか褒美を貰いま
した。主に装備品とかお金とかですね。ちなみにクリスちゃんはケ
ーキ店の食べ放題無料券をもらって一気に機嫌がよくなっていまし
た。
﹁リーズちゃんやったね!ケーキ食べ放題だよ!﹂
97
効果音をつけるならパアアッという感じですね。すごい笑顔です。
ちなみに王子は王妃様らしい人から熱い抱擁を受け、どこかの部屋
に引きずられていきました。
98
第十八話 初めての学園、そしてさっそく入学式!?︵前書き︶
お気に入り登録数が39人になっていました。登録していただいた
方々ありがとうございます。これからも頑張って書き続けていける
ように頑張ります。
99
第十八話 初めての学園、そしてさっそく入学式!?
﹁やあやあ、初めまして、そして入学おめでとう。クリスさん。リ
ーズさん。そして残念なことに今年の入学生の中でちゃんと来てく
れたのはなぜか君たち二人だけのようだ。ちなみにほかに二人いた
んだが保健室にいてね。今は治療中です。﹂
いきなり真顔で喋りだした人はこのバルチナス魔法学園の校長先
生のエクセルさん。現在28才お母さんの元チームメイトだそうで
す。お母さんの元チームメイトだけあって割とすごい人なんだそう
です。見た目は良いですし。 なんで私たちが学園に入学したかと言いますと、あれは一週間前
のことです。久しぶりにお母さんから手紙が届いて知り合いがバル
チナス王国で学園の校長になってて調度良いから学園に入学してみ
ない?と書いてあったので、魔法の勉強もそろそろ独学では限界か
な?と思っていた私はクリスちゃんも誘い学園に入学することに決
めたのでした。
ただ、この学園問題がありました。それもかなり沢山、この学園
は問題児が多いみたいです。まずこの学園の先輩がやたら血の気が
多い奴等ばかりらしく新入生が入るたびにいろんないたずらやたち
の悪い賭け事の対象にしたりとか。︵賭けの対象はご想像にお任せ
します。︶
まあそんな感じでよほどの実力またはなんかしらない限りはちゃ
んと生きて入学式には出れないんだそうです。しかも今回は特に先
輩方が張り切っていらしゃったようで、無事に入学式に出れそうな
のは私たち二人だけなんだそうです。
100
しかも今回は生徒が女の子しかいないんだそうですだから保健室
にいる二人も女の子だそうです。一人は貧血もう一人は先輩と対決
して無事勝利したものの少し負傷したとのことです。
そして保健室に向かい先にその人たちとご対面しておこうといわ
れたのでご対面中なのですが。そこには何時ぞやの大会で出会った
吸血鬼ことカモミールさんとゴンザレス君の妹のエリザベスさんで
した。何故知り合いしかいないのでしょうか?学園とは色々な人と
交友関係を結ぶものだと想像していたのですが。
﹁あれ、リーズさんにクリスさんじゃん久しぶり。﹂
﹁久しぶりー元気にしてた?﹂
﹁お久しぶりです。エリザベスさん。でも、新入生がこんなにも少
ないとは思いもしなかったです。﹂
﹁やっぱりそう思いますよね。それに学園に来ていきなり喧嘩売ら
れるとも思わなかったしすっごいビックリした。﹂
﹁リーズさん私を無視してほかの方と楽しくおしゃべりなんてずる
いですわ!﹂
と泣きながら抱き付かれた。
﹁てめーいきなり俺のリーズに抱きついてるんじゃねえ、ぶっ殺す
ぞ!﹂
なんでかここでも新入生が減りそうなフラグが⋮⋮。
101
﹁そっちの人はあたしは知らないけどもしかして知ってる人?﹂
﹁ギルドの大会の対戦相手だった方です。﹂
﹁へーそうなんだ。君の名前はなんて言うの?﹂
﹁カモミールですわ。よろしくお願いします。確かエリザベスさん
ですよね?。﹂
﹁うんそうだよ。ねえこの4人でチーム組まない?﹂
エリザベスさんは問題ないですけ、カモミールさんがやばいんで
すよね。でもクリスちゃんもいるし大丈夫ですよね。
﹁いーんじゃねえか﹂
﹁私もいいですよ。﹂
というわけでチーム結成。
﹁チーム名なんにする?﹂
そういえば私とクリスちゃんはチームというかタッグみたいな感
じだったので特にチーム名とかつけていませんでしたね。何がいい
でしょうか。
﹁これから入学式だし明日みんなが考えたチーム名を発表その中で
一番気に行ったのを採用ってことで良い?﹂
102
﹁いいと思います。﹂
﹁じゃ決定。﹂
コンコン
﹁皆さんこれから入学式です。比較的安全な先輩を連れてきたので
胸のところにブローチをつけてもらってください。それじゃ頑張っ
てください。﹂
そう微妙に笑いながら学園長は去って行った。
﹁私は2年のアイスです。皆さんに簡単な説明をさせてもらいます。
皆さんにつけてもらうブローチには自分たちがこの学園の生徒であ
るという証です。無くすと大変なので意をつけてください。一応新
く作ることもできます。そして私のブローチの色は赤です。そして
皆さんのつけるブローチの色はピンク色になっています。三年生が
水色です。そろそろ時間になりますから皆さんブローチを私と同じ
位置につけてください。﹂
私たちは急いで胸のポケットにブローチをつけた。
﹁皆さんよくお似合いです。これから会場まで案内します。ついて
きてください。﹂
先輩の後についていき無駄にきれいなドアの前に付いた。
﹁私は別の入り口から入るので皆さんはこのドアから入ってくださ
い。では、ご武運を。﹂
103
そう不吉なことを言い残していった。先輩のほうを振り返るとも
う其処には誰もいなかった。
﹁どうします?﹂
﹁いやな予感しかしないんだけど。﹂
﹁どうするもなにも、このドアぶち破って全員皆殺しだろ。﹂
﹁皆殺しなんて素敵な響きなんでしょう。﹂
いやいやいくらなんでも皆殺しは、良いのかな⋮⋮。
﹁リーズさんそこは悩まないでほしいな。﹂
﹁とりあえず殺気は近くにはないですからドアを開けるぶんには大
丈夫ですよ。﹂
﹁じゃあけるねー。﹂
あ、クリスちゃん戻りました。開けた先には普通に整列している
人たちが⋮⋮。
﹁﹁﹁﹁⋮⋮。﹂﹂﹂﹂
あれだけ何か意味ありげな発言をしておいてこれだけ普通の場面
を見てしまうと逆になんであんなに騒いでいたのだろうかと思って
しまいます。いやでもこの後何かやらかしてくる可能性も⋮⋮。
なんとなく視線が痛い気がしますが入学式ですしこんなものなん
104
でしょう。その後入学式は普通に進み校長先生の挨拶や部活動の紹
介などがありました。そして最後に校長先生がステージに上がり挨
拶を⋮⋮。
﹁やあ、入学制の諸君と言っても4人しかいないがこれで君たちは
晴れて
このバルチナス学園の生徒になった。と思っているだろう。だが
この世の中そんなに甘くはありません。君たちにはこれから殺し合
いをしてもらいます!﹂
その言葉を聞いた瞬間そういえばこの人も元とは言えお母さんの
チームメイト。何かをやらかさないわけがなかったんだとそのとき
思いました。
105
第十九話 波乱の入学式
﹁さあ皆さんこんにちは、このバルチナス学園の入学試験その名も
入学したければ先輩を蹴落としていくんだ!バトルをしていただき
ます。私は司会者のアイスです。よろしくお願いします。﹂
蹴落とすって⋮⋮この学園の入学者は4人しかいないのにもしも
私達が誰も入学できなかったらどうするんでしょうか?
﹁おいリーズ先輩を蹴落とすんだってよ楽しみだなあ。﹂
クリスちゃんはやる気満々ですね。私も今のうちに気に入らない
奴を数人始末しておいたほうがいいでしょうか?
﹁校長先生質問があります。﹂
カモミールさんが手を上げて質問しています。
﹁なんですか。﹂
﹁先輩とは一人何人まで戦えますか?﹂
こっちも複数の先輩を消す気満々ですね。先ほどからエリザベス
さんは自分の身が心配なのか顔色が悪くなってきています。
﹁あんまり生徒が居なくなるとちょっと困るので1人5人まで相手
していいですよ。﹂
というか校長先生5人でも十分多いと思います。それに先ほどの
106
カモミールさんの発言で如何にもな感じの先輩たちが殺気だってい
ますね。手前何言ってくれてんだ的な感じで、しかも久しぶりにス
テータスを見てみたらあらビックリ。ステータスの情報がABCの
ランクではなく数字で表示されるようになったんですよ。
ABCと数字表示だとかなり差がありますね。自分と相手の差が
分かりやすいです。ちなみに校長先生のステータスは?表示相手の
レベルにかなり差があると見れなくなってしまうようです。
ちなみに如何にもな感じの先輩方のステータスを見てみたら私や
クリスちゃんと比べるとなにこれチョー余裕といった感じでした。
カモミールさんの数値も私たちと同じくらいですね。エリザベスさ
んは私たちと比べると少し低いぐらいで如何にもな感じの先輩方に
余裕で勝てるレベルです。
でも視線が怖くてかなりおびえてますね。だれから行きましょう
か。
﹁順番はなにで決めますか?﹂
﹁俺一番目がいい﹂
其処だけは譲らないとばかりにクリスちゃんが割り込むように言
ってきました。
﹁では、私は二番で﹂
﹁私最後は嫌だから三番で﹂
﹁じゃあ私が最後ですね。﹂
107
揉める事も無くあっさりと決まりました。
﹁クリスちゃん頑張ってください。﹂
﹁おう、行ってくるぜ!全員一撃で倒してやるぜ!﹂
未だかつてないほどの凶悪な笑顔で先陣を切ったクリスちゃん。
それを見てムカついている先輩方︵もうすぐ消えますけど。︶五人
いてもクリスちゃんのステータスを上回ることすら出来ていないと
いう貧弱な人たちですけどクリスちゃんが倒すまでに何分かかるで
しょうか?
﹁それではクリス・ベルリオーズVS二年五名の勝負開始!﹂
自己紹介それでいいんですか!?
﹁それでは行くぞ!フォーメーションD!﹂
五名の先輩は掛け声とともに縦一列に並びました。
﹁どうだこれがフォーメーションDだ壁の様に並んでいるから一撃
で俺たちを倒すことなどできないだろう。﹂
いやむしろパワーのある人なら結構倒し易いと思います。しかも
周りの先輩方はスゲーとか出たぞ!とか盛り上がってますけどあの
フォーメーション自体に何の意味があるのか分かりません。カモミ
ールさんもエリザベスさんもレベルの低さに唖然としていました。
そういえば先程から気になっていたのですが。観客の方を覗くと
108
どことなく見覚えのある顔がちらほらと、後で会うことになりそう
ですけど。
﹁おりゃあ!﹂
気合の入った右ストレートが先頭に居た人の腹にめり込み後ろに
いた人たちも吹っ飛ばされていました。
﹁ゴフッ﹂
﹁カウントとります!5!4!3!2!1!0!勝者クリス・ベル
リオーズ!﹂
クリスちゃん宣言通り一撃でノックアウトしました。流石ですね。
﹁クリスちゃんおめでとうございます。﹂
﹁おう、宣言通り一撃でやっつけたぜ。﹂
﹁次はカモミールだぜ負けんなよ!﹂
﹁ええ、頑張りますわ。﹂
ステージまで優雅な足取りで向かうカモミールさん。次の対戦相
手はどんな人でしょうか?
﹁それでは第二回戦カモミール・エマニエルVS魔法使いチーム試
合開始!﹂
魔法使いチームはカモミールさんを囲むと一斉に魔法を唱え始め
109
ました。
﹁後輩のくせになめやがってくらえ!合体魔法ゴッドファイヤー﹂
今まで見たなかでも強力な魔法攻撃がカモミールさんに直撃する。
ステータスを見ていても体力には何の変化もみられない。魔法が消
えた後を見るとやはりそこには無傷のカモミールさんが優雅に立っ
ていた。
﹁おっとカモミール選手合体魔法を直撃したのにもかかわらず無傷
で立っています!﹂
﹁何故あれを食らって無傷でいるんだ!?﹂
効果音をつけるならガーンと言った風にショックを受けている人
たちを
嘲笑うかのようにカモミールさんは一瞬でそれぞれの人たちの背後
に回り急所に拳を打ち込んでいました。その時女性だけの方の血を
一瞬で吸っていました。
隣でエリザベスさんがしきりに目をこすっていましたが、それは
幻覚を見たわけではなく現実に起こったことなのだと言いたかった
ですが、本人も人前なだけあって余りばれないようにしていたので
ネタばらしは後にしようと思います。
110
第二十話 エリザベスの実力
そしてカモミールさんがステージから降りて、エリザベスさんに
バトンタッチする。そのまま堂々とステージには歩いて行くものの
表情を見ると緊張しているのがまるわかりでした。だって顔が無表
情なんです。そしてそんなエリザベスさんに追い打ちをかけるように
﹁ではここで余りにも情けない先輩方のために特別ルールをつけた
いと思います!﹂
エリザベスさんにとっては残念な展開になりました。ここで特別
ルールということは私にも影響ありますよね。どんなルールでしょ
うか。
﹁勝負の方法を先輩方が決められるという方法にします。つまりど
んな勝負をするかは先輩方しだいです。そしてこれで負けたら先輩
方は終わりです。世間的な意味で。﹂
こちらにとっても相手にとっても嫌な勝負になりますね。どんな
勝負になるんでしょうか?
﹁それではエリザベス・ブリュネVSアボンディオ勝負方法は腕相
撲です。﹂
腕相撲ですか。相手選手はパワータイプということですね。態々
腕相撲という勝負方法を選んでくるんですから。それに対してエリ
ザベスさんのステータスを見るとパワーはかろうじて相手よりは勝
っています。
111
でも、数か所ほど???と表示されているあの部分はいったい?
今まで全部が見えなかったりしたことはありました。でも一部だけ
見えないなんてしかもエリザベスさんは全体的に私よりもステータ
スの数値は下なのにどうして⋮⋮謎ですね。
﹁さあ!両選手準備してください。﹂
指示通りにエリザベスさんは相手選手と腕相撲の形に入っていまし
た。
﹁レディー!ファイ!﹂
掛け声とともに一気に動いた。
﹁うおおおおおお﹂
相手選手はここぞとばかりに盛大に声をあげ対照的にエリザベス
さんは無言で相手選手の腕を沈めていきました。その様子に後ろの
ギャラリーではああっとかシッカリしろよーなどのヤジが飛んでき
ている。見知らぬ対戦相手の方ドンマイです。
﹁エリザベス選手押しています!このかわいらしい外見からは想像
もできないパワーです!対してアボンディオ選手もう少し頑張って
ください!負けたらアホンディオと改名しますよ!﹂
アイス先輩それは流石にかわいそうですよ。あっそんなことを実
況しているうちに決着がつきました。
﹁勝者エリザベス・ブリュネ!﹂
112
どうやら私のチームメイトは強かな方が多いみたいです。強力な
チームメイトがいるのっていいものですね。お母さんもこんな気持
ちだったのでしょうか。次は私の番です。ここで勝って完全勝利と
行きましょう。
﹁次の対戦はリーズ・アスピラスィオンVSアダム・カステル勝負
方法は最後なのでガチンコバトルです!﹂
でもここで誘拐犯と再開とは泣けてきます。
113
第二十一話 全力全開!
﹁やっほー久しぶり!﹂
バチコンッと開始早々ウインクをかましてくる誘拐犯。クリスち
ゃんを誘拐した罪,今ここで私が直々に断罪してあげます!出し惜
しみはせずに全力でぶちのめす。守護精霊のペガサスを憑依する。
背中に羽が生え空中に飛ぶ。
本来守護精霊には使い方が決まっています。恩恵だけを受けたり,
実体化させたり,自身に憑依させて能力を発動するか。他と違って
憑依には負担が大きいため体を壊してしまう人がいて,あまり使え
る人がいないのが現状です。
﹁おおっとリーズ選手行き成り大技発動です!その姿はまるで天使
の様です!﹂
遠距離魔法の詠唱に入る。
ライトニング
﹁雷よ敵を断罪せよ 落雷!﹂
かなりの魔力を注いだため威力は大きい。それに周りにも魔法は
広がって
いる。真面に食らえば即死は免れないはず。その時相手は不敵に笑
みを浮かべ
﹁じゃあ俺も使うか。﹂
確かにそう呟いて何かを憑依させていた。髪が少し伸び瞳の色も
114
真紅に染まりその顔は明らかに強者のものだった。そして消えたと
錯覚させるほどの速さですべての魔法をかわし切っていた。
﹁嘘でしょ!?﹂
後ろでエリザベスさんの驚きの声が上がる。確かに私も信じられ
ません。あの時の誘拐犯とは全然別人でした。なら此方ももう出し
惜しみはできません。相手は恐らくスピードのある守護精霊を憑依
させている。ならこちらは動きを封じる守護精霊を憑依させる!ペ
ガサスと交代で青ちゃんに交代してもらう。
青ちゃんお願いします。青ちゃんはコクリと頷くと私に憑依した。
片手に扇子を装備し魔法を詠唱する。
ハリケーン
﹁大風よ敵を閉じ込めろ! 暴風!﹂
﹁リーズ選手巨大な風の魔法を発動!アダム選手閉じ込められて動
けない!﹂
思った通り。スピードタイプの人には動けない状況を作り出せば
勝機はある。パワーもありそうなのでバインドではなく此方にしま
した。とどめの一撃行きます!
﹁大雷よ敵に裁きを下せ!大落雷!︵ビッグライトニング︶﹂
閉じ込めているとはいえまだ何かをしてくるはずそんな確信を抱
いていた私は魔力をつぎ込みかすっただけでも即死するであろう巨
大な魔法を繰り出しました。何故なら相手はこの状況でも不敵な笑
みを浮かべたまま危険な雰囲気を放っていました。
115
﹁いってえええ!﹂
と思ったら相手は魔法に直撃していました。
﹁あだだだこれなんかやばい奴だ!﹂
とか必死に叫んでいます。しばらくすると魔法は消え誘拐犯も地
に伏せていました。確かに私は相手をちりも残らぬほどに本気で殺
すつもりで魔法を放ちました。にもかかわらず相手は倒れてるだけ
で終いには
﹁いやー凄かった!﹂
とにこやかに笑っていました。
﹁勝者リーズ・アスピラスィオン!これで入学式を終わりにします。
今年はこの四人が新たに仲間に加わります!﹂
アイスさんが実況を終えると蜘蛛の子を散らすように人は居なく
なった。
﹁やった!入学できたよ!﹂
エリザベスさんは呑気に喜んでいましたが、こちらはそんな気分
にはなれませんでした。私も魔力を残していたとはいえ相手が本気
を出してもいないのに勝ったなどと言うほど間抜けではありません。
胸の内にイラつきを感じながらも今後彼奴に目にものを見せるため
特訓してやります。
一緒に頑張りましょう。クリスちゃん。
116
第二十二話 もう一つのバトル
リーズが誘拐犯と戦っている間こっちはこっちで戦いが始まって
いた。
﹁こんなところに呼び出して何のつもりだ!﹂
よりにもよってリーズが戦っているときに呼び出すなんて後でぶ
ん殴る。怒りに震えていると無駄に優雅にこっちに近づいてきやが
った。
﹁会いたかったからそれじゃダメかな?﹂
前の時よりもファンシーな服装をしているのが視界に入ると余計
に苛々してきた。
﹁俺は会いたくねえよ!﹂
思い切り顔面めがけて拳を向ける。拳は当たる前に相手に防がれた。
﹁ダメだよ。女の子が暴力なんて。﹂
そう言うと
ストーン
﹁敵の動きを封ぜよ石化﹂
ビシビシと拳と足が石化していった。嘘だろ!前にリーズにもら
ったお守りがあるのに何で!?若干パニックになっていると、見透
かしていたように
117
﹁探し物ってこれ?﹂
そう言ってお守りを目の前にぶら下げてきた。いつの間に盗って
たんだこいつ!?動揺していると行き成り首に結んできた。
﹁はい帰すね。あの時は魔法が効かなかったからもしかしてと思っ
てね。探してみたんだ。そしたらビンゴってわけ。僕は帰るよそろ
そろ終わるころだしまたねクリスちゃん。次に会うときはクルトっ
て呼んでくれるとうれしいな。﹂
そう言って彼奴は消えた。未だかつてないほどどす黒い感情が胸
の中にあるのを感じた。今すぐに彼奴をボコボコニしてやりたいそ
んな気持ちでいっぱいだった。早くリーズに会いたくて会場に戻っ
た。リーズと一緒ならこのもやもやは消えてくから。
その頃のクルトとアダム。
﹁君にしては中途半端に食らったよね。﹂
技を喰らうことを前提に話が進んでいた。
﹁いやー思ってたより威力が強くて思わずな⋮⋮ってやっぱり見て
たのかよ。﹂
﹁リーズちゃん強くなってたね。僕も戦ってみたいな。﹂
クルトはまるで自分の事の様に嬉しそうに話していた。
﹁無視かよ!てっきり力でごり押ししてくるかと思ったらまさかの
118
強力魔法これはもう受けるしかねえだろ!﹂
﹁相変わらずだね。この変態。﹂
この男は昔から攻撃を受けてダメージを受けるのが好きだった。
そのおかげか今では直強力な魔法でないと傷を負うことは無かった。
﹁いやいや女装趣味のお前に言われたくねえよ。﹂
不機嫌そうに言うもののこの二人相性は良かった。周りからは変
態コンビと呼ばれていたが。
119
第二十三話 登校
入学式から一日が経過して私たちはそれぞれの自宅にいったん帰
り、現在はそれぞれ学園生活に向けての準備をしています。
﹁リーズちゃんどう?似合ってる?﹂
バルチナス学園の制服に身を包んだクリスちゃん。制服は全体的
に白をメインとしたベストとフリルの付いたスカートに白い長めの
靴下と歩き
やすいローファー。
とても可愛いです。嬉しそうに笑みを浮かべながら鏡で身だしな
みをチェックしている姿はまるで天使のようです。
今は私も同じ制服を着用していますが自分が着ているのを眺めて
いてもつまらないですし。それに最初の一日目は授業の説明とその
教科の教科書販売だそうです。
﹁クリスちゃんはやっぱり治癒魔法の習得をメインに授業選択しま
すか?﹂
やっぱり友達の事は気になりますよね。さり気なく情報収集をする。
﹁そうだな。誘拐犯の事もあるし状態回復魔法を片っ端から習得し
てやる。﹂
ギリギリと拳を握りしめてドスのきいた声で宣言していました。
120
﹁リーズちゃんは魔法メイン?﹂
﹁そうですね。﹂
私自身覚えた魔法の数は少ないわけでは無いですけどやっぱり魔
法というのは覚えておいても損は無いと思うのでこれを機に色々勉
強させてもらいます。
﹁料理魔法というのも興味ありますね。﹂
﹁料理魔法?﹂
﹁何でも料理に自分の魔力を練りこんで能力を少しだけ上昇させる
という魔法があるそうです。選べる授業は一つだけというわけでは
無いので三つか四つくらい習得しておこうかと色々調べてみたんで
す。﹂
せっかく魔法のレパートリーを増やせるのだから、別のジャンル
に手を出して見るのもいいかもしれないと思っていました。ケーキ
だけじゃなくて他のお菓子も食べてみたい。上手に作れたたら皆で
お茶会をするのも良いですね。
﹁料理かーでも私お料理は苦手だからなー。﹂
そう言えばクリスちゃんは生粋のお嬢様ですよね。普段の事を思
い出すと
どうも忘れがちになります。取り敢えず制服を着用し荷物を入れら
れそうな鞄を持ってそれではバルチナス学園へ
﹁しゅっぱーつ。﹂
121
そう言うとクリスちゃんはドアを飛び出しスキップをしていまし
た。
﹁待ってください!﹂
私も急いで追いかける。クリスちゃん何で高速でスキップできる
んですか!?走ってもなかなか距離が縮まらないんですけど!?
122
第二十四話 チーム名
その後疲労状態で学園に到着した。クリスちゃんに心配されたが
すぐに回復したので大丈夫です。とだけ言っておいた。
学園の門を通り抜けるとエリザベスさんとカモミールさんが一緒
にいるのを発見しました。クリスちゃんも気が付いたようで二人に
手を振っていた。
﹁二人ともおはよう!﹂
﹁おはよう昨日ぶりだよね。﹂
元気いっぱいに挨拶するクリスちゃんとは対照的に普通に挨拶を
返すエリザベスさん。
﹁そう言えばチーム名はお決めになりましたか?﹂
優雅に喋るカモミールさん。そう言えば授業のことで頭がいっぱ
いでチーム名を考えるのをすっかり忘れてました。クリスちゃんと
エリザベスさんを見ると二人も忘れていたようでそれぞれあちゃー
という表情をしていた。
﹁でしたらそれぞれ共通点を探してみるというのはいかがでしょう
か?﹂
確かにその方が決めやすいですよね。
﹁無難に自己紹介とかしてみる?﹂
123
﹁そう言えば四人全員が集まるというのは今まであまり無かったで
すよね。﹂
今更思い出したけれどクリスちゃんとは今まで一緒に居ましたけ
どエリザベスさんとカモミールさんは最近合ったばかりなんですよ
ね。カモミールさんに至っては味方どころか敵でしたし。ある意味
思い出したくない思い出ですね。
﹁では早速自己紹介いたしましょう。私の名はカモミール苗字はエ
マニエル。守護精霊は堕天使のダフネです。特技は格闘技です。趣
味は紅茶の葉を収集することです。では次は誰がします。﹂
あっさりと簡潔に自己紹介を済ますカモミールさんそう言えば私
はいつも名前だけ名乗って苗字を教える事はあまりしませんでした。
大体名前呼びが普通でしたし。
﹁じゃあ私がするよ。エリザベス・ブリュネ。守護精霊は妖精のフ
ェアリー。特技といえるかは分からないけど色々武器を扱える。趣
味は珍しい武器収集かな。終わりだよ。﹂
フェアリーですか、後で見てみたいですね。きっと可愛らしい姿
をしているはずです。というか残るは私とクリスちゃんどちらが先
にしましょうか。相談しようとクリスちゃんの方を向くと何やら目
線で次私が自己紹介する!ていうかしたい!といった顔をしていま
した。
私は無言でただ微笑みました。私の了解を獲たと認識して笑顔で
自己紹介を始めました。
124
﹁リーズちゃん大好きなクリス・ベルリオーズ。守護精霊は天使の
エンジェルとよく分かんないキューちゃん。特技は治癒魔法を使う
事かな。趣味はケーキをたくさん食べることだよ。﹂
自己紹介を終えるとクリスちゃんは私に向けてパチリとウインク
してきました。とってもかわいいです。
﹁私もクリスちゃん大好きです。リーズ・アスピラスィオン。守護
精霊は聖獣のペガサスと座敷童の青ちゃんです。特技は暗記です。
趣味はクリスちゃんとケーキの食べ歩きをすることです。﹂
これで全員が自己紹介を終えました。共通点は全員守護精霊を所
持している。くらいですね。周りの反応を眺めても考えていること
は同じのようで全員と目があいました。
﹁守護精霊を連想させるチーム名かな。﹂
﹁確かにそれが無難ですわね。﹂
﹁私が思いつくのはガーディアンとかアミュレットとかですね。﹂
﹁取り敢えずみんなの守護精霊出して見る?﹂
﹁個人情報を公開した後に言うのもなんですがそう言えばここ校門
ですよね。移動した方が良いんじゃないでしょうか?﹂
校門の前で自己紹介とか何だか頭の悪い集団の集まりみたいです
よね。人通りが全くと言っていいほどなかったこともあって普通に
してました。取り敢えず急いで裏庭に移動しました。周りに人がい
ないのを確認してそれぞれ守護精霊を召喚する。
125
﹁ペガサス、青ちゃん。﹂
ペガサスと青ちゃんを召喚しました。青ちゃんに会うのは久しぶ
りな気がします。さっきの戦闘で憑依しただけだったということも
あって余計に久しぶりな感じがするんでしょうか。思わずヒシッと
青ちゃんに抱き付きました。青ちゃんも嬉しそうにしてくれました。
﹁ダフネ。﹂
カモミールさんの守護精霊は可愛いと綺麗の中間といった感じで
す。見た目は天使そのものでストレートの長い金髪に紅い瞳、背中
には悪魔の羽が生えていました。
﹁フェアリー。﹂
エリザベスさんの守護精霊は想像通りで、薄い黄緑色の髪に瞳は
エメラルドグリーン。エリザベスさんの手のひらに乗るくらいのと
ても小さなサイズです。
﹁エンジェル、キューちゃん。﹂
キューちゃんは見たことはありますが、エンジェルの方は聞いたこ
とがあるだけで実際に姿を見たことは無いんですよね。改めて観察
してみるとクリスちゃんにそっくりです。髪が長かったクリスちゃ
んの姿と瓜二つです。今は髪が短いので間違えることはありません
が、遠くから見たら間違えそうです。エリザベスさんとカモミール
さんも似ていると思ったのか
﹁似てるね。﹂
126
﹁まるで双子の姉妹のようですわね。﹂
と驚いていた。
﹁それで肝心のチーム名は如何しましょう。思いつく言葉がガーデ
ィアンとかアミュレットくらいしかないのですが他に何かあります
か?﹂
﹁可愛い守護精霊が多いからプリティーとか?﹂
﹁私はラブリーとかホープくらいかな。﹂
﹁クローバーやビューティフルとかはいかがでしょうか?﹂
取り敢えずそれっぽい単語をそれぞれ出して見ましたけどこの中で
組み合わせると⋮⋮。
﹁アミュレットホープ?﹂
﹁プリティーガーディアンは如何かな?﹂
﹁ラブリーガーディアンとか?﹂
﹁ビューティフルアミュレットはいかがですか?﹂
全員が同時に言ったのはいいんですがものの見事にバラバラです
ね。お母さんから聞いたあれ使ってみましょう。早速紙を用意して
文字を書く。私が何をしているのか皆気になったようで不思議そう
に眺めていました。
127
﹁リーズちゃんそれ何?﹂
クリスちゃんが不思議そうに質問してきたので問いに答えました。
﹁これはあみだくじと云われる物らしいです。﹂
﹁﹁﹁あみだくじ?﹂﹂﹂
﹁はい、さっきの四つのチーム名候補を下に書いてその上に線を引
いて更にその間に線を書き足していくんです。﹂
﹁その後は如何するの?﹂
エリザベスさんも興味津々といったところでした。
﹁この後はチーム名のところを見えないようにして⋮⋮。出来まし
た。取り敢えずカモミールさん番号の書いてある所の線のどれか一
つを選んでください。﹂
カモミールさんは自分が呼ばれたことに驚きながらも四番を選択
しました。書き足した線を通っていくと、あ、アミュレットホープ
になりました。
﹁というわけでアミュレットホープに決まりましたー。﹂
あみだくじを空に向けチーム名が決定したことを報告するとおー
と歓声が上がりぱちぱちと拍手されました。
﹁これからチーム名はアミュレットホープでいいんだよね。﹂
128
﹁チーム名が決まるとなんかカッコいい感じがするね。﹂
﹁そうですわね。さて、チーム名が決定したところでそろそろ教室
に向かいませんと遅れてしまいますわ。﹂
その言葉を聞いて時計を確認すると時間は八時二十五分指定され
た時間は八時三十分。現在地点は裏庭。目的の場所は三階の一番手
前の教室。
その後全員が全速力で教室まで走り抜けたのは言うまでもないで
しょう。何というか今日は良く走る日ですね。私は早くも疲れまし
た。
129
第二十五話 授業選択
全速力で教室に到着した私たちは何も始まっていないのにも関わ
らず既に疲労困憊状態でした。
﹁皆さん全員いますねー。って何でそんなに疲れてるんですか!?﹂
大げさなリアクションをとりながら一人の女性が入ってきた。橙
の長い髪を後ろに纏め黒縁のめがねをかけています。
﹁早速ですが自己紹介させてもらいます。このクラスの担当になり
ました。ダリア・コルテーゼです。何か不慮の事故でもない限りは
私が一年間担当を続けます。﹂
﹁質問先生宜しいでしょうか?﹂
﹁はいどうぞ。﹂
﹁もし仮に先生が気にいらないので私と今すぐ戦ってくださいと仰
ったら如何します?﹂
カモミールさん初対面でその質問は流石にひどいです。エリザベ
スさんもちょっとそれは不味いよという表情をしています。クリス
ちゃんはクリスちゃんで顔がDVモードに変わっています。戦闘を
始めたら混ざる気満々って顔をしてます。
﹁そんな怖いことを質問しないで下さいよー!?先生去年此処卒業
して教師をやるの今年が初めてなんだからー!。﹂
130
去年卒業でもう教師として働けるという事はそれなりに優秀な方
なのでしょうか?人は見かけによらない者なんですね。
﹁ちょっとアスピラスィオンさんその見下した表情やめてください
!一番傷つくので!﹂
何と無く学園生活が少しだけ楽しみになりました。先生を弄るの
楽しいですね。
﹁私このクラスで教師続けられる自信ないですよ校長先生ー!書類
だけ見たら可愛い子ばっかりとか思ってたのにー!﹂
1人で叫ぶ教師。それを弄る生徒というまあ、私は魔法が学べる
ことができれば他はどうでもいいので
﹁先生授業選択用の資料ください。持ってますよね?﹂
とさり気なく恐喝する。
﹁あ、はい持ってます。﹂
若干あたふたしながらも資料を配布する先生。攻撃魔法と防御魔
法と治癒魔法と料理魔法と錬金魔法というのもあるんですね。私の
興味のある科目はこの編ですね。普通授業は決まっていて開いてい
る時間に時間の設定された設定科目を組み込む形のようです。午前
中が一般教科で午後が選択授業ですね。
﹁私は治癒魔法と状態回復魔法。あんまり取りたいのも無いし。﹂
クリスちゃんは少し残念そうに呟きました。
131
﹁私は今年は錬金魔法だけでいいかな。取りたい奴はあるけど取得
条件満たしてないし。﹂
そう言えば取得条件もあるんですよね。私が取る科目はそう言う
のは無かったので少し驚きました。
﹁私は料理魔法と調合魔法ですわ。料理魔法の時はご一緒させてく
ださい。﹂
﹁はい、同じクラスだと良いですね。﹂
パンフレットを眺めていたら人数が多い場合はクラスを分けると
書いてありました。
﹁リーズさんは料理魔法以外は何を習得するおつもりですか?﹂
﹁取り敢えず決まっているのが攻撃魔法と料理魔法と錬金魔法と治
癒魔法
ですね。﹂
そう言うとエリザベスさんは吃驚してました。
﹁沢山とるんだ。﹂
﹁取っておいても損は無いですから。﹂
その分お金もかかるでしょう。けどこの国に来る前にたくさん貯
めましたので問題はないでしょう。貰った紙に選択したい授業を書
132
き込んで先生に提出した。
﹁今日はこれでお終いです。授業は三日後に始まりますので授業料
と教科書代を忘れずに持ってきてください。ではさようなら。﹂
そういうと先生は走り出していきました。そんなに怯えなくても
いいと思うんです。だって私は手を上げることは無いでしょうから
ね。
﹁皆さんは授業が始まるまでは如何なさいますか?﹂
﹁私はケーキ食べたい!﹂
クリスちゃんがキラキラと輝いた表情で言った。確かに私もケー
キ食べたいですね。
﹁でも私は授業料稼ぎたいからギルドに行って依頼受けたいんだけ
どいいかな?﹂
﹁なら、今日これからギルドに行って何か簡単そうなのを選びに行
きましょうか。﹂
﹁オッケー。﹂
﹁分かりましたわ。﹂
﹁了解。﹂
それにしても久しぶりにギルドに行きますよね。
133
﹁やっぱりやるなら討伐だろ!﹂
興奮してやる気満々のクリスちゃん。
﹁良いですわね久しぶりに血が騒ぎますわ。﹂
ペロリと舌なめずりするカモミールさん。それを見て若干怯えるエ
リザベスさん。まあ私も久しぶりに暴れたい気分です。なるべく近
場で強そうなモンスターの討伐と行きましょう。
134
第二十六話 苦手なもの
ギルドに到着した私たちはどの討伐依頼を受けるか悩んでいた。
﹁これやろうぜ!﹂
クリスちゃんはラスボス級のとんでもないのを持ってくるしカモ
ミールさんは移動するだけで一週間はかかりそうな場所の依頼書を
持ってくるしエリザベスさんは弱そうなモンスターの依頼書を持っ
てくる。
このチームバランスが悪いです。取り敢えず近場の依頼書を片っ
端から眺めてみた。
私たちの中で一番ランクが高いのはカモミールさんのSランクだ
そうです。そして私の目の前には近場のSランクの討伐と書かれた
依頼書があります。場所は歩いて数十分の距離にある親縁の森に出
現するメデューサの討伐。報酬300000Eと丁度良さそうな依
頼書を発見したので早速依頼書を持っていち早くギルドマスターに
報告しに行きました。
﹁この依頼受けます。﹂
と依頼書を渡すと
﹁ん。﹂
と相変わらず短い返答で手続きが終了した。渡されたのは地図だけ
でした。
135
﹁なんの依頼受けたんだ?﹂
討伐ができると言わんばかりに輝いた表情で此方を見つめるクリス
ちゃん。
﹁メデューサの討伐です。﹂
と答えるとクリスちゃんは輝いていた表情を一変させ、軽くひき
つった表情に変わっていた。何ででしょうか?と考えると
﹁あ!﹂
そう言えばあの誘拐事件以来石化魔法を使うモンスターを毛嫌い
しているんですよね。お守りを渡したから大丈夫だろうと安心しき
っていたから依頼を受けてしまったけど、クリスちゃんの顔色を窺
うとやっぱり状態はあまりよくはない。
﹁やっぱり依頼を変えてきます。﹂
クリスちゃんの身を案じて依頼を取り換えてこようとするとパシ
ッと腕を強く捕まれて
﹁いいぜ、やってやるよ。﹂
どこか恐ろしい雰囲気で自暴自棄気味な返答をされてそのまま地
図を奪い取られて目的地に向かってしまいました。隣には地図を睨
み付けているクリスちゃんが、後ろではエリザベスさんは
﹁メデューサ⋮⋮。﹂
136
顔を青くさせています。エリザベスさんの隣にはカモミールさんが
﹁懐かしいですわね。﹂
自分の思い出に浸っているようでした。そして今の私たちの現状
はメデューサを討伐するためにみんなで仲良く歩いているところで
す。
まだ着かないんでしょうか?すると地図を睨み付けていたクリス
ちゃんがその場で動きを止めると私も足を止めました。それに気が
付かなかったエリザベスさんが私の背中にゴンッと激突しました。
﹁痛いです。﹂
何で気が付かないうえに背骨にいい感じに直撃するんでしょうか
?若干いらいらしながら文句を言うと、
﹁ご、ごめん。﹂
すぐに謝ってくれたのでそれ以上何も言いませんけど。
﹁﹁⋮⋮。﹂﹂
私たちがコント紛いなことをしているとクリスちゃんとカモミー
ルさんは
じっと何かを睨み付けたまま身動き一つとっていませんでした。
私もじっと見てみると視線の先には眠りについているメデューサ
の姿がありました。依頼書にも書いてあったように、緑色の蛇が髪
137
の代わりに巻き付いていて、目は閉じているのでわかりませんが下
半身は長い大きな蛇のようでした。
﹁あれだな。﹂
いつもなら敵を見つけたら喜んで殺戮しに行くクリスちゃんが躊
躇っている。石化状態が余程嫌だったんだろうと思いました。あん
なクリスちゃん初めて見ました。
﹁運よく眠っているのですから取り敢えず目が開かない様にしてし
まいましょう。﹂
カモミールさんはどこか慣れた手つきで自分の手荷物から何やら
玉のようなものをメデューサに向かって投げた。遠距離から投げた
というのにそれは綺麗に弧を描いてメデューサの目の前に落ちた。
グチャッという効果音とともにメデューサの顔に何やら大量のガム
のようなものが張り付いていた。ガムはメデューサの顔すべてを覆
い尽くしていた。思わず皆でカモミールさんを困ったように見ると、
﹁あれは私のお手製なんですの。﹂
何故か嬉しそうに頬に手を当て笑顔での返答が来た。
﹁・・・・・・!?﹂
少しするとメデューサは苦しそうに暴れ始めた。顔全体に張り付
いている以上呼吸ができるはずもなく私たちはしばらくメデューサ
が苦しみ続ける様子を延々と眺めることになっていた。ビッタンビ
ッタン跳ねたり苦しそうにもがき続ける姿を見続けると
138
﹁流石にかわいそうなので普通に戦ってあげませんか?﹂
と言いたくもなる。もはやピクピクと文字通り虫の息になってい
る状態のメデューサを眺めていると流石に同情した。クリスちゃん
はハッとした様な表情になり
﹁そうだ。戦わなきゃ意味がねえんだ!﹂
と叫ぶもののメデューサはすでに力尽きていた。カモミールさん
がそれに気づくと
﹁終わりましたわ。﹂
嬉しそうにメデューサを持ち上げていた。隣では
﹁討伐⋮⋮。﹂
シュンとして普通の状態のクリスちゃんに戻っていました。エリ
ザベスさんはどこかホッとした様な顔で安心している様子でした。
何だか今日はメデューサが苦しむ姿を見ていただけで終わった気が
します。メデューサを片手に引きずりながらカモミールさんが歩き
出すので私は
﹁魔法空間に入れましょうか?﹂
と聞いてみると
﹁おねがいします。﹂
メデューサを渡されたので魔法空間にしまった。そのままギルド
139
へ直行してメデューサを取り出して渡すと
﹁一体どんな方法で拷問したんだ?﹂
滅茶苦茶驚かれました。理由は顔が恐ろしいほどに歪んでいたこ
ととどうやら前に戦闘をしていたみたいで生傷が幾つかあってそれ
で拷問したと勘違いされたみたいです。
140
第二十七話 不機嫌の理由
討伐依頼を受けたものの満足に討伐が出来なかったクリスちゃん。
今でも機嫌は悪いです。
﹁クリスちゃんケーキ食べに行きましょう?新作のケーキが出たそ
うですよ。﹂
﹁行かない。﹂
討伐依頼を受けたにも拘らずモンスターに攻撃できなかったこと
がクリスちゃんの不機嫌の原因なんです。でもさっきからケーキを
食べに行こうと誘ったり色々クリスチャンの喜びそうなことをしよ
うと試みるも先程から失敗していました。
そして今でも見るからに不機嫌な表情をしている。エリザベスさ
んやカモミールさんがいると八つ当たりの対象になりかねないので
帰ってもらいました。
それにしてもクリスちゃんとは四歳の頃からの付き合いになりま
すが、こんなに不機嫌な顔のクリスちゃんは初めて見ました。いつ
もはニコニコと天使のような笑顔でした。その時にもDVクリスち
ゃんの片鱗は見せていましたけど今の様に極端な二重人格と言うわ
けでは無くて、モンスターと戦う時だけああなっていました。
﹁リーズちゃんは私を1人にしないよね。﹂
私にギュッとしがみ付いてきました。その姿はまるで幼い少女の
ようでした。まあ本当に少女なんですけどね。
141
﹁クリスちゃんはちゃんと追いかけてくるでしょう。﹂
私が引っ越して都会に行くときもクリスちゃんは私と離れたくな
いと一緒についてきました。確かに私は都会に行くことを最優先に
しました。けどクリスちゃんが一緒についてきてくれた時すごく嬉
しかったんですよ。そんなことを思いながらギュッとクリスちゃん
を抱きしめました。
﹁うん!﹂
と機嫌が戻ったのか笑顔になってくれました。
﹁討伐に行こうぜ!今度は二人だけで!﹂
と嬉しそうに言う物だからつい
﹁そうですね。﹂
と答えてしまいました。後でエリザベスさんとカモミールさんに
誤りに行かないとですね。私たちはエリザベスさんとカモミールさ
んに直接謝罪をすると今度埋め合わせをしてくれればいいとの事だ
ったのであっさり許してくれました。
簡単なモンスターの討伐依頼を受けてモンスターの討伐に向かい
ました。今度はマグマベアというモンスターの討伐です。そんなに
ファイアーマウンテン
強くはないらしいのですぐに終わると思います。バルチナス王国か
ら徒歩で数十分の火山に到着しました。
暑さ対策のために氷魔法のかかった装備を装着してきたので準備
142
万端です。全体的に薄い素材で体を覆うように出来ているので傍か
ら見れば暑苦しいの一言に尽きますが魔法がかかっているため快適
なのです。
﹁っしゃーいくぜ!﹂
今度こそ思う存分に討伐できる!とクリスちゃんは嬉しさのあま
りガッツポーズです。そしてしばらく進んでいくと真っ赤な毛並み
で炎をまとった熊。どうやらマグマベアの登場です。それに一体だ
けじゃなくて五体もいます。取り敢えず進んでいった先が洞窟だっ
たので丁度ここはマグマベアの巣のようですね。
﹁クリスちゃんどうやらマグマベアの巣のようなので気を付けてく
ださい!﹂
そうクリスちゃんに向かって呼びかけたはずなのにクリスちゃん
は怪しい笑みを浮かべると1人単身でマグマベアに突っ込んでいき
ました。洞窟が暗いせいなのかクリスちゃんの姿は確認できません
でした。
﹁クリスちゃん!?﹂
可笑しいいつもなら何か一言は返答があるのに何だか嫌な予感が
しました。心配になった私はクリスちゃんを追って行きました。突
っ込んでいった拍子にかなり奥の方に行ってしまったのか物音すら
ろくに聞こえませんでした。どんどん奥に向かって走っていくとや
っとやっと音が聞こえてきました。そして走り続けていると洞窟の
最深部に到着しました。
洞窟の最深部はマグマが活動していてとても明るかったです。バ
143
キッドカッと音がした方向を向くと既に死んでいるマグマベアを何
故か殴り続けているクリスちゃんの姿がありました。クリスちゃん
に近づき殴る手を掴むと
﹁いつまでそうしているつもりですか。﹂
と冷静に声をかけました。やっぱり様子がおかしい。いつもは生
きているモンスターだけをターゲットにして死んだモンスターには
興味を示さないのに如何して?
﹁どうして?殴りたいから殴ってるだけだぜ?﹂
まるで私の方がおかしいとでも言わんばかりに喋りだしました。
何なんだろうこの違和感。クリスちゃんが可笑しいのは分かって
いるのに可笑しい部分を明確に出来なくて、しかも討伐が終わると
普通に戻っていました。
だからあの出来事は気のせいだったんですね。なんて思ってしま
いました。その場でちゃんと理由を問い詰めればあんな悲劇は起こ
らなかったはずなのに。
144
第二十八話 内に秘めた思い
あのマグマベアの討伐依頼クリスちゃんとの会話が急激に減った
と思います。前はいつどこに居てもクリスちゃんが話しかけて来た
のに、エリザベスさんとカモミールさんも不思議に思ったのか、何
かあったのと聞いてくる始末でした。本当に何が何なのかどうなっ
ているのか、
﹁こっちが知りたい気分ですよ。﹂
とため息をついた。
﹁やあ困っているようだね。﹂
何故か女子の制服姿で現れたクルト。
﹁少なくてもあなたが知る必要はないです。﹂
きっぱりと拒絶すると苦笑いしながらこちらに近づいてきた。
﹁そうも言ってられないから一応忠告だけしておくよ。﹂
何時になく真剣な表情で
﹁彼女の事もっと気を配った方が良い。このままじゃ後悔するよ。﹂
それだけ言うとクルトは自分の校舎に戻っていった。確かにクリ
スちゃんの様子はおかしいしもっと気を配れと言ったのもわかりま
す。けれどクリスちゃんのあのおかしな行動の意味も必要性も今の
145
私には何もわからないんです。喧嘩とは違うと思いますし。そもそ
もおかしいと思い当たるとすればマグマベアの討伐依頼の時。
でも根本的な問題じゃないと思います。いくら考えても原因はさ
っぱり分からなかった。
教室に戻るとエリザベスさんとカモミールさんが心配そうにこち
らに近づいてきました。カモミールさんは心配そうにはしているも
のの何処か呆れた様に
﹁時間がたてばたつほど解決しにくいでしょうからなるべく早めに
解決されることを願いますわ。﹂
私に忠告するとエリザベスさんを連れて家に帰って行きました。
取り敢えず私も家に帰りましょう。家は同じなのだからそこでゆっ
くり話をすればいいと思っていました。家に帰るとクリスちゃんの
靴が置いてあるのに明かりはついていなくて真っ暗でした。
﹁クリスちゃん﹂
恐る恐る声をかけるとごそごそと物音がしてベットに居たみたい
です。私の気配に気が付いたのかベッドから出てきました。でもク
リスちゃんの姿はボロボロでまるで誰かと戦ってきたような姿にな
っていました。
﹁クリスちゃん怪我してます。直さなくちゃ。﹂
私はその場でクリスちゃんに治癒魔法をかけた。
﹁誰と戦ったんですか?﹂
146
クリスちゃんがここまで負傷するなんて珍しい。
﹁リーズは優しいよな。﹂
今まで私が話しかけてもずっと無言だったのに何故か急に話し出し
ました。
﹁私は優しくはないです。﹂
そういつだって自分のために戦っている。単純に強くなりたいから。
﹁だけど、その優しさは時に人を深く傷つけるんだぜ。﹂
そう言うとクリスちゃんは私の体に剣を刺しました。ズブリと剣
が体に刺さっていくのが分かった時には私の体は床に倒れていまし
た。
﹁どうして?﹂
﹁俺リーズの事大好きだぜ。﹂
なら何で?どうして私に剣を刺したの?私のことが嫌いじゃない
なら何でこんなことするの?一番大切だと思っていたクリスちゃん
に剣を刺されたという事がショックで上手く考えがまとまらなくて、
でもうまく言葉にできなくて、
﹁でも、友達としてじゃ嫌なんだよ。だから今はここでお別れだ。
でもいつか迎えに来る。﹂
147
悲しそうにそう言うとクリスちゃんは家を出ていった。待ってと
手を伸ばそうとしても手に力が入らなくて私はそのまま意識を失っ
た。
148
第二十九話 思いの違い
﹁リーズちゃん危ないよ!﹂
小さな金色の髪の少女が黒い髪の少女に留まるよう腕をつかんで
いた。
﹁大丈夫。お母さんがやってたの見ていました。﹂
剣を片手に滝に飛び込もうとする少女がいた。
﹁落ちたら怪我しちゃうよ!怪我したら痛いよ!﹂
やっぱり離さないとばかりにギュッと腕にしがみ付いている。そ
してギュッとしがみ付き過ぎたのか重さで黒い髪の少女の体が傾く
のが分かった。
﹁きゃ!﹂
短い悲鳴とともに黒い髪の少女の体にナイフが掠り傷ができた。
﹁リーズちゃん怪我しちゃった!ごめんなさい。私がギュってしち
ゃったから。﹂
金色の髪の少女はウルウルと目から涙が零れそうになる。
﹁大丈夫です。痛くないです。お家に帰りましょう。﹂
黒い髪の少女は金色の髪の少女に手を伸ばした。
149
﹁うん。﹂
目は赤くなっていたものの手を握ると二人でお家まで歩いて帰った。
﹁次から気を付けるのよ。﹂
と黒い髪の女性が心配そうに声をかけていた。
﹁はい。ごめんなさいお母さん。﹂
﹁ごめんなさい。﹂
﹁さあ腕を出して直さなくちゃいけないわ。﹂
そう言うと治癒魔法をかける。
﹁リーズちゃんのお母さん。それどうやるの?﹂
とキラキラと目を輝かせている。
﹁これは治癒魔法よ。簡単だから教えてあげるわ。こうやるの。﹂
と金色の髪の少女にコツを教えていた。
﹁これからは私がリーズちゃんのけがを治してあげる。﹂
と嬉しそうに笑顔で笑った。
﹁なら私はもっと強くなります。怪我をしない様にそしてクリスち
150
ゃんを守るために!﹂
﹁うん!﹂
二人の少女は仲良く笑いあっていた。
パチリと懐かしい夢を見て目を覚ましました。クリスちゃんと出
会って間もないころの思い出。そしてそれぞれが極端に偏った魔法
を覚えだした時の思い出でもある。おかげでクリスちゃんは治癒魔
法だけを私は攻撃系魔法をとは言っても最近はレパートリーは増え
ましたけどね。
それと同時にクリスちゃんに刺されたという事実を思い出す。そ
して自分に作られた傷を指でなぞった。丁度あばらの骨が一本折れ
ていた。それと手当をしてあることに気付きました。
﹁これは⋮⋮。﹂
﹁気付いたか?﹂
声の聞こえたほうを振り向くとそこには灰色の髪に薄い紅い瞳名前
は⋮⋮。
﹁アダムだよ。仮にも先輩の名だ。覚えとけよ。﹂
不機嫌そうに言うと付いて来いとばかりにこっちに手招きをする。
取り敢えず動けないほどの重症と言うわけでは無いのでアダムにつ
いていく。
﹁どういう風の吹き回しですか?﹂
151
けがの手当てをしてもらえるほどの友好関係は築いていないはず
だと思います。
﹁理由はクルトに聞け。この部屋だ。﹂
そう言うと一つの扉を指さした。私はノックをしてから部屋に入っ
た。
﹁いらっしゃいリーズ。﹂
﹁一体いつから部屋に招待されるほどの友情を築いたんでしょうね
?﹂
相変わらずの女装でした。今日は黒いゴスロリ。
﹁まあ今日は真面目な話をしようと思ってね。﹂
思わずクルトを睨み付けました。
﹁貴方はまるでストーカーですか。﹂
昨日から私たちの行動を全部知っているんじゃないのかと思うほ
ど丁度いいタイミングで話しかけてきます。
﹁結構まずい状況でね。彼女とんでもないものに手を出してね。そ
のまま行方知れずなんだよ。﹂
﹁とんでもない物?﹂
152
﹁厄介なのをを持ち出したんだ。それもちゃんとした手続きをして
からね。﹂
まずわたしはどちらに対してツッコミを入れればいいんですか。
持ち出しちゃいけないものを手続してから持ち出したとか聞いたこ
とありませんよ。
﹁ちゃんとした手続きとは言っても守護精霊との契約だよ。﹂
﹁守護精霊?それがとんでもないものの正体ですか?﹂
私は今のところ可愛い守護精霊ばかり見ているのでとんでもない
守護精霊と言われてもいまいちピンときません。
﹁昔最強と言われていた魔族なんだよ。その守護精霊はね。﹂
﹁魔族が守護精霊?﹂
守護精霊とは契約した人物を守るから守護精霊なのでは?
﹁守護精霊になるにはいくつか条件があって魔族、魔物、妖精、精
霊といった種族が主に成り易い。そしてそのとんでもない守護精霊
の正体は元魔王イヴ・バダンテール。僕のご先祖様でもあるんだよ。
﹂
﹁貴方魔族だったんですか?﹂
確かに人間にしては不自然な容姿ですけどまさか魔族だったとは
⋮⋮。となるとチラリとアダムを見る。
153
﹁俺は一応人間だよ。﹂
ケッとはき捨てるように言った。
﹁一応?﹂
﹁色々あってねアダムと僕は契約中なんだよ。﹂
﹁契約⋮⋮。﹂
若干微妙な気持ちになりますね。
﹁まあ契約とは言っても子供の時の内容だからね。子供のころ僕を
女の子と勘違いしたアダムが大人になったら結婚してって感じの奴。
﹂
﹁あー。﹂
確かに見た目だけなら美少女そのものですから間違えるのも無理
もないですね。ん?そういえばクルトの髪の色は金色そしてアダム
の好きな髪の色は金髪。これはもしかして若干狼狽えた後アダムと
クルトを交互に見て
﹁もしかしてお二人は恋人同士何ですか?﹂
恐る恐るといった感じに問いかけてみる。
﹁よく分かったね。﹂
と嬉しそうに頬を染めるクルトそして
154
﹁悪いかよ。﹂
若干顔の赤いアダム。でも男同士って結婚できましたっけ?まあ
いいやそれよりクリスちゃんのこと聞かなくちゃ。
﹁クリスちゃんを助けるにはどうすればいいですか?﹂
そうです。本題はこれです。この人たちのことは後で聞けばいい
のでクリスちゃんを第一に優先します。
﹁それがね意外なことにクリスはその守護精霊の手綱をしっかりと
握って完璧にコントロールしちゃってるんだ。いやー愛の力ってす
ごいね。﹂
あっはっはと他人ごとの様に楽しそうな顔をしていた。というか愛?
﹁お前もしかして気付いてねえのかよ!?﹂
信じられないような者を見るような目で私を見ている。
﹁クリスがあんな行動に出たのもわかる気がするよ。あれだけの分
かりやすく行動していたのに本人がこれだもの。﹂
肝心の私を除き他の人たちは理解できているような口ぶりだった。
しかも全面的に私が悪いみたいな。
﹁お前あの金髪の子の子と考えてやれよ。﹂
ガッシリと人の腕をつかみ何故だか私を説得をしてきました。
155
﹁まあしばらくは彼女は戻ってこないだろうからリーズはクリスの
事を考えたり魔法の修業をしているしかないね。﹂
取り合えずもう分かることは無いと思ったので家に帰りました。
ベッドに潜るとベッドはすごく冷たかった。
一方その頃
﹁だあああああああ!﹂
アダムは叫んでいた。
﹁子供か!?子供なのか!?普段あんなに私は立派な大人です。み
たいな喋り方でか!?﹂
クルトはそんな様子に苦笑いしていた。
﹁まあ確かにあの子は鈍いね。あんなにあからさまにクリスはアタ
ックしていたのにリーズも罪作りだね。﹂
さあて一体どうやってあの子の恋と言う感情を自覚させることが
できるのだろうか。楽しみだ。
﹁なあ一生気付かないとかは無いよな?﹂
アダムは頭を抱えて心配そうに此方を見つめている。
﹁まあ大丈夫だよ⋮⋮。たぶんね。﹂
156
確かにリーズは恋愛関係に関していえば鈍い。そう言えばリーズ
の見た目はとても幼く見える。そこらの子供の中でも余計に幼く見
えるせいか喋り方に違和感を持ったものだと思出し笑いをしていた。
﹁明日から大変だね。﹂
まあ色々とちょっかい出した罪滅ぼしもしてあげようと若干苦笑
いしていた。
157
第三十話 恋愛感情
何となくクリスちゃんのことが気になって学校に行かずベッドで
いろいろ考えていました。昨日のアダムやクルトの言葉を思い出す。
クリスちゃんはしばらくは戻ってこない。
しばらくって何時までですか?明日?明後日?それにクリスちゃ
んは友達じゃ嫌だとも言っていました。なら何だったらいいんです
か?私はクリスちゃんと一緒に居たいです。いつも一緒にいたから
なのか心細くてたまらなかった。
﹁リーズさんいらっしゃいますか?﹂
カモミールさんの声が聞こえた。せめて顔は出そうと思ってドア
を開ける。
﹁ケーキを焼いてきましたの、色々とお話ししたいこともあるので
上がってもよろしいですか?﹂
﹁どうぞ。﹂
待たせるのも悪いと思ったのでテーブルのあるきれいな部屋に案内
する。
﹁お茶を入れてきますけど何か希望はありますか?﹂
﹁お任せします。﹂
にっこりと優雅に微笑む姿はいつもと何ら変わりません。取り敢
158
えずケーキの種類が分からなかったのでストレートティーを用意し
た。私が紅茶を運んで来る頃にはケーキの用意が済んでいた。
﹁単刀直入にお聞きします。リーズさんはクリスさんのことどう思
っていらっしゃいますか?﹂
さっきとは打って変わって真剣な表情で此方をじっと見つめていま
す。
﹁大事なお友達です。﹂
この言葉に偽りはありません。私が答えるとカモミールさんはふ
うとため息をついた。
﹁リーズさんこれ読んでください。﹂
そう言って一冊の本を差し出した。
﹁これは?﹂
﹁本ですわ。﹂
いや、そうじゃなくてなんで今私に本を渡す必要性を聞きたいの
であってこれは何ですかって聞いたわけじゃないです。
﹁とにかくこれを読んで答えを自分で見つけてください。これで分
からないのなら私にもお手上げです。あと、紅茶美味しかったです
わ。﹂
何時の間に飲んだのかカップの中は空になっています。取り敢え
159
ず表紙を読んでみましょう。
﹁友情と恋愛の違い⋮⋮。﹂
人は親しければ親しいほど恋愛と言う括りから外れて友情に結び
付けます。特に今まで恋愛経験のない人は全ての友好関係は友情に
繋がると考えるでしょう。ですが友情は時に恋愛に変わることがあ
ります。片方が自分の感情に自覚を持てばそれはもう分りやすくな
ります。恋愛感情の代表的な感想と言えば好きな人を見ていると心
臓がドキドキする。その人のそばに居たくなる。その人の事を目で
追ってしまう。その人に誰か近づけば嫉妬してしまうというのがあ
ります。この中で条件が三つは当てはまるという方今からでも遅く
はありません。好きな人にアピールを始めましょう!︵注︶これは
同性同士の恋愛に対しても当てはまります。
取り敢えず本を読み終わりました。最初の方は読んでいても意味
が分かりませんでした。けど最後の注意書きで分かりました。クリ
スちゃんが友達じゃ嫌だと言っていた理由は私のことが好きだった
から。私たちは女の子でしかも子供だからそう思っていたからなの
か、私が恋愛感情に鈍すぎたからなのか、どちらもあるのかもしれ
ません。
でも今の私には恋愛感情についてはさっぱりです。だからクリス
ちゃんが私を迎えに来てくれるまでには答えを導き出しておかない
といけません。今の私にできることはクリスちゃんの事を考えるこ
とと魔法の修業をすることです。
あんまり迎えに来るのが遅いと迎えに行っちゃいますから。
160
第三十一話 決意
私は学園の制服を着用して学校に来ています。
﹁おはようございます。﹂
﹁もうよろしいのですか。﹂
私の立ち直りの速さに驚いたのか心配そうに聞いてくる。
﹁私の気持ちは本人に会ったら分かると思うのでそれまでは自分を
鍛えることにしました。﹂
私がきっぱりと言うと何故かピシリと固まってしまった。
﹁あの本の意味は分かりましたか?﹂
ゴクリと何故だか深刻そうに聞いてきた。
﹁クリスちゃんが私の事を好きだという事ですか?﹂
というとあからさまにホッとしていた。
﹁良かったですわ。あれで気が付いてくれなかったら私もう打つ手
がありませんでした。﹂
何故か感動していた。失礼なとは言いませんでした。主な原因は
私なので。
161
﹁おはよう。﹂
エリザベスさんは元気がない様子でした。
﹁どうしたんですか?﹂
﹁え、ええっと﹂
何故かカモミールさんと私を交互に見ては困り顔になっています。
﹁クリスさんのことは知ってる?﹂
恐る恐ると言うか怯えながらも気になるのか此方の様子を窺ってい
ます。
﹁時間はかかるでしょうけど問題はないですよ。﹂
﹁そうなんだ。﹂
ホッと息をついていた。その後いつも以上に担任の先生を弄りま
した。途中で泣き叫びながら逃げてしまったのが残念でした。放課
後になると女子制服を着たアダムと男子制服を着たクルトが現れま
した。
﹁精神の入れ替わる魔法でも使ったんですか?﹂
と思わず声に出てしまいました。
﹁いや俺の趣味だ。﹂
162
堂々と言い放ってますけど要するに変態ですよね。思わず冷たい
目線を送った。
﹁っ﹂
何故か興奮気味な様子で目線を反らされた。目を反らしたいのは
こっちの方なんですけど。
﹁勘違いしているようだから説明するけどアダムは女装が趣味なん
じゃなくて単にMなだけだから。﹂
ニッコリと楽しそうに言われても
﹁そもそもMとは何ですか?﹂
﹁他人に痛めつけられて喜ぶ変態の事だよ。﹂
気持ち悪いです。知り合いだと思われたくなくてサッと距離を置
きました。
﹁因みに今は精神的に苛めてるよ。﹂
だから嬉しそうに人に報告しないでください。
﹁Mの逆はSって言うんだよ。リーズはSっぽいよね。﹂
﹁そんな情報は聞きたくないですから一々人に報告しないでくださ
い。﹂
﹁リーズあんたの将来が楽しみだ。﹂
163
隣で女装した人物が嬉しそうに喋っている。
﹁そんなことはどうでもいいですからクリスちゃんの情報をくださ
い。﹂
﹁答えは出たんだ。﹂
とクルトは安心していた。
﹁答えはクリスちゃんに会えばわかると思います。だから今は自分
を鍛えます。﹂
そう宣言すると目の前の二人はさっきのカモミールさんの様に固ま
った。
﹁正気になれよ!﹂
アダムにまたもや説得されました。寧ろその言葉私が貴方達二人
に対して使いたいです。何が悲しくて変態二人に説得されなくちゃ
いけないんですか。
﹁クリスちゃんの思いには気付いてます!﹂
と半ば叫ぶように言うと
﹁良かったな金髪の子!﹂
アダムはどこかの空に向かって叫んでいます。もう片方は
164
﹁良かった気付いてくれて⋮⋮。﹂
わざとらしくハンカチで涙をふくような動作をしていました。こ
の二人は面倒くさい。改めてそう思いました。
165
第三十二話 情報収集
﹁分かってることはどうやらクリスはリーズを迎えに来るために仲
間を集めだしたみたいだ。﹂
﹁仲間?﹂
何のために?私は息詰まると修行する癖があるのでしょうがない
と思います。けどクリスちゃんが仲間を集めるなんて如何しましょ
う。
﹁何だか最近流行りの物語を読んだみたいで四天王を集めるぜ!っ
ていう展開になってるよ。﹂
本当にいったいどこからその情報を仕入れているんでしょうか?
﹁因みにこれも魔法だぜ。﹂
隣にいるアダムが自慢げにしている。
﹁クルトの!﹂
自分の魔法じゃないんですね。と呆れました。
﹁向こうは寂しくて変な方向に突き進んで行ってるね。あっ早速仲
間ができた。﹂
﹁早すぎじゃないですか?﹂
166
まだクリスちゃんが家出してから今日で二日目ですよ。幾らなん
でも展開が早すぎます。
﹁因みにどんな人物ですか。﹂
﹁えっとブルーノ・ディックハウト男15才、農民出身で剣の道に
あこがれ家出。偶々クリスと出会い些細なことから喧嘩に発展。そ
こでクリスに完敗。その強さに憧れ一生ついていくぜ!ってなって
仲間になったみたい。﹂
もしかして私が迎えに行くパターンになってクリスちゃんの集め
た四天王を倒さなくちゃいけないとかそういう展開になるのでは⋮
⋮?
﹁まあクリスの性格上恥ずかしくて自分から迎えに来れないと思う
よ。﹂
確かにとそう思いました。クリスちゃん昔から素直に自分から謝
るのは苦手でした。まあ私も苦手ですけどそもそもどんな風に謝っ
たらいいのか分からないです。まあ何とかしましょう。
﹁あっまた増えた。﹂
﹁﹁早っ﹂﹂
思わずセリフがアダムと被ってしまいました。でもクリスちゃん
は仲間を作るの早すぎます。
﹁次の人物は、イグナーツ・ドレイシー、男14才魔族とのハーフ
で特殊な能力を持っているみたい。因みに能力は、目が会うとその
167
相手はしばらく魔法を使えなくなるみたいだね。それで親と喧嘩し
て家を飛び出したところでクリスと遭遇。腹いせにクリスに襲い掛
かるも返り討ちにあう負けてしまったのでその強さに惚れて忠誠を
誓う。﹂
﹁何だか家出した少年少女の集団みたいになっていきますね。﹂
色々ツッコミどころは多かったけど何故だか家出した人たちが近
場で遭遇して戦うという何とも嫌な偶然。
﹁何だか王道の物語でも見ている気分になってくるよ。﹂
1人楽しそうな様子です。1人楽しそうにしているのを見ると苛々
します。
﹁ズルいです。私にも映像見せてください。それかその魔法教えて
ください。﹂
思わずいじけて文句を言うと苦笑いで
﹁これ魔族にしか使えないから習得は無理だね。特別に見せてあげ
るから。それで我慢してね。﹂
そう言うとクルトはおもむろに人の体よりも大きいのではないか
と思える程の大きさの水晶を出現させた。水晶をじっと見つめると
そこにはクリスちゃんの姿が見えました。その傍にはボロボロの少
年が二人、さっきできた仲間のようですね。私が今後蹴散らさなく
てはいけない人物。顔を覚えるためにじーっと眺め続けます。
﹁そんな殺意にまみれた目で見なくてもいいと思うぞ。﹂
168
アダムはクルトの後ろで震えていました。
﹁言いがかりはやめてください。その内私が倒す相手を観察してい
ただけです。﹂
プイッと顔を反らすとクルトが苦笑いしていた。
﹁まあ僕も疲れて来たし今日はここまでにしようか。もう暗くなる
し向こうも宿に泊まるだろうし。﹂
宿⋮⋮。
﹁ちょっと待ってください。あんなむさ苦しい野郎二人とクリスち
ゃんがサンドイッチ状態という事ですか!?﹂
思わず嫌ー!と叫ぶ。
﹁おっ落ち着け!ほらケーキだぞ。﹂
アダムはケーキを差し出してきました。取り敢えずケーキを頬張る。
一旦飲み込むと
﹁絶対にユルサナイ⋮⋮。﹂
感情が高ぶって何時の間にか言葉遣いが可笑しくなっているのに
気付けませんでした。そしてアダムは隅の方で震えてクルトは少し
楽しそうに水晶を見つめていた。
169
第三十三話 急展開
急いで自宅に帰りベッドに寝っ転がってもクリスちゃんが心配で
眠ることができませんでした。取り敢えず急いでクルトの自宅に向
かいます。
﹁クリスちゃんはどうなりましたか!?﹂
思わずドアをぶち破り侵入した。
﹁もう全員四天王揃ったみたいだけど、どうする?﹂
だから仲間を作るの早すぎますよクリスちゃん。クリスちゃんの
友好関係の広がりの速さに喜ぶべきなのか悲しむべきなのか複雑で
す。
﹁残りの二人の情報ください。﹂
﹁三人目から行くよ。ニーノ・ウルビーニ男14才一国の王子で冒
険者になりたくて家出。その後歩き回っているところにリーズたち
を発見腕試しをしたところ大敗。その後クリスの仲間になる。﹂
どうして男ばかりなんでしょうか?
﹁何故男しか仲間にならないのですか?﹂
思わずアダムを睨み付ける。
﹁俺のせいじゃねえよ!?﹂
170
目が怖いっと叫びまたしてもクルトの後ろに隠れました。
﹁最後の四天王はマリエル・ミュラトール。シスターを目指す女の
子。でも治癒魔法が使えず不良化して家出。丁度クリスが治癒魔法
を使うところを目撃してそれに嫉妬して戦闘開始。当然のごとくク
リスの勝利。そして仲間になる。と言う感じにクリスは見事三日で
四天王を集めたわけだね。﹂
四天王全員が男という最悪の事態が回避されたことに安心してい
ます。不良化したシスターとはいえ女の子なら大丈夫なはずです。
﹁取り敢えず私は修行します。﹂
﹁そっか頑張れよ。﹂
他人事のように手を振っているアダム。
﹁貴方達にも手伝ってもらいます。﹂
﹁何で俺たちが手伝わなきゃいけないんだよ!?﹂
不満があるのか文句を言ってきました。
﹁原因はそちらにもあるんですからしっかり手伝ってもらいます。﹂
これ以上文句なんて言わせないつもりで睨み付けました。
﹁しょうがないか。﹂
171
﹁うっ。めんどくせえ。﹂
と嫌そうな顔をしています。
﹁取り敢えず魔法は後回しにして体術の強化を中心に修行します!﹂
体術と言ってもパワーはあるけれど体力がそこそこの私が使える
のは武器をメインにした戦い。私は小回りの利くナイフを愛用して
います。
﹁取り敢えず早速ですが一対一の手合わせをお願いします。﹂
ナイフを両手に装備して戦闘態勢に入る。
﹁体術なら俺の出番だな。﹂
とあれだけ人に文句を言ってきた人物が嬉しそうな顔で前に出てき
ました。
﹁頼んだ私が言うのもなんですが、あれだけ嫌がっていたのに笑顔
で戦闘準備をするとはどういう心境の変化ですか。﹂
思わず胡散臭い物を見るような視線を向けました。
﹁だって⋮⋮。なあ。﹂
と嬉しそうな顔を隠そうともせずにクルトとアイコンタクトをとっ
ている。
﹁ほらアダムはMだからね。﹂
172
その言葉を聞いた瞬間私の中の感情が一気に冷めました。
﹁そうでしたね。急所だけを狙いますね。﹂
右手に装備したナイフでアダムの首を切りつける。ザクリとアダ
ムの首の皮が切れて血が流れる。
﹁っいいぜ、やっぱり戦いってのはこうじゃなきゃな。﹂
自分の血を眺めて興奮していた。私は人体の急所を刺し続け上手
く急所にあたるようになりました。ただ刺してもすぐに傷が治るっ
てどいう事ですか!?
﹁リーズはSと言う称号を手に入れた!﹂
﹁ふざけたこと言わないでください。﹂
クルトにナイフを向ける。
﹁いやん。﹂
何故か楽しそうに逃げ回っています。
﹁何で当たらないんですか!?﹂
かなり早めの攻撃に加えて急所を連続で狙っているのに全然当た
らないどころかかすりもしません。しかも挙句の果てにわざと可愛
いでしょうとでも言いたげなポーズをとっています。
173
﹁あ!ずりーぞ俺をもっと傷つけてくれ!﹂
私はクルトを追いかけアダムは私を追いかけるという不思議で不
気味な光景がありました。
﹁これじゃあ修行にならないんですけど!﹂
攻撃が当たらないのと後ろから追いかけられるという嫌な状況に
私の方が先に痺れを切らしました。
174
第三十四話 お迎え
クリスちゃんが家出してから早一週間。クリスちゃんに会いたく
てたまらない私はクリスちゃんのいる場所に襲撃を掛けようとして
ました。守護精霊の青ちゃんを憑依させると
ハリケーン
﹁風嵐﹂
風系魔法を発動させて建物を吹き飛ばしました。建物をすべて吹
き飛ばすとそこにはクリスちゃんが1人立っていました。
﹁リーズ⋮⋮。﹂
﹁クリスちゃん⋮⋮。﹂
やっと会えたという嬉しさで何を喋ったらいいのか分かりません
でした。クリスちゃんを見ると嬉しそうだったり悲しそうだったり
複雑な表情をしています。
﹁いきなりなにしやがる!?﹂
1人の人物が剣で切りかかってきました。
﹁行き成りも何もクリスちゃんを迎えに来ました。﹂
私もナイフで切り返す。
﹁建物吹っ飛ばすとか酷過ぎんだよ!﹂
175
﹁生きてるならいいじゃないですか。貴方も男の端くれなら一々小
さいことで騒ぐのはやめてください。かっこ悪いですよ。﹂
私が会いたかったときに会えなかったというのにこの人物は一緒
にお泊りまでしていたかと思うと正直殺意しか抱けませんでした。
目の前の男は私のセリフに固まり一瞬の隙ができる。
﹁拘束魔法バインド。﹂
ナイフで峰打ちして魔法で拘束する。残るはあと三人のはずまさ
かこれで全員死亡なんてことは無いですよね?しばらく待っても何
もなかったので残りの三人を探しました。全員発見すると改めてク
リスちゃんと向き合う。
ああ、なんだ私はクリスちゃんの事が好きなんですね。クリスち
ゃんを見ていると胸がドキドキして、離れていた時もすごく寂しく
て、クリスちゃんに仲間ができたと分かった時には凄くイライラし
ました。クリスちゃんもこんな気持ちだったんでしょうか?
﹁俺はまだ戻らないぜ。﹂
さっきの複雑そうな表情から悲しそうな顔に変わっていた。
﹁私はクリスちゃんのことが好きです。だから迎えに来たんです。﹂
私の気持ちが伝わるようにじっとクリスちゃんの目を見つめながら
言った。
﹁前にも言ったけど友達じゃ嫌なんだよ!﹂
176
涙を流して叫ぶように訴える。
﹁分かってます。だから友達としてじゃなくて、リーズ・アスピラ
スィオンという1人の人間としてクリスちゃんが好きだから、私は
ここにいるんです。﹂
﹁リーズ!﹂
私の気持ちが伝わったのかクリスちゃんは嬉しそうに私に抱き付い
てきました。当然の様に私もクリスちゃんを抱きしめました。
﹁ところで何時までこうしてればいいんだよ。﹂
此方をじっと睨みつけている四天王の姿がありました。
﹁もう目が覚めたんですか。﹂
クリスちゃんとの時間を邪魔されて思わず冷たい視線を向ける。
﹁もうこんな茶番になんて付き合ってられるかよ。﹂
銀色の髪で青い瞳の美少女は此方に文句を言っている。
﹁今のうちに聞いておきたいんですが如何してクリスちゃんはこの
人たちを仲間にしたんですか?﹂
幾らなんでも偶々であったからなんてことはないと思います。で
も、気になります。
﹁それはそこそこ強くて顔が良かったから。﹂
177
きっぱりと断言するクリスちゃん。何と無く四天王の顔を眺める。
1人目確か名前はブルーノ・ディックハウト。まるで火のような紅
い髪に明るい琥珀色の瞳で私は顔の造形よりは色が綺麗だと思いま
した。私に切りかかったときに使用した細い剣を背中に背負ってい
ます。私よりも年上のはずなのに明らかに私やクリスちゃんよりも
低い身長です。後で身長の伸びる飲み物でもあげましょう。
﹁おい、てめえ俺をそんな目で見るんじゃねえ!﹂
人が親切に思っているのに怒鳴りつけるなんて身長も小さければ心
も小さい男ですね。心の中で蔑む。キーキーうるさかったので二人
目を観察する。
二人目のイグナーツ・ドレイシー確か目を見ると魔法が使えなく
なるんでしたよねなるべく目が会わない様にする。深い藍色の髪に
私と似た紫色の瞳でした。魔族と言うだけあって肌の色が白くてと
てもきれいな顔立ちをしています。此方は年相応の見た目で若干こ
ちらを警戒するような動作はしているけど攻撃してくるような行動
はとっていません。
三人目はニーノ・ウルビーニ確かどこかの国の王子だとか。でも
王子と言うだけあって王族の輝きとでもいうのだろうか少なくとも
一目で普通の人物ではないと分かる。男にしては長い蒼い髪にブラ
ウン色の瞳この男も剣を使うのでしょう。腰には剣が差してあって
そしていつでも剣を抜けるように此方を警戒しています。
そして四人目マリエル・ミュラトール。四天王唯一の女の子。シ
スターを目指していたということはあって銀色の長い髪に青い瞳の
美少女。不良化して家出したとは聞いていたものの見た目は修行中
178
のシスターその物です。シスター服を着ていなければ何処かの聖女
の様にも見えます。
﹁取り敢えずどうすんの?﹂
さっきの苛立っていた時とはまるで別人の様に落ち着いた様子で
クリスちゃんに話しかけるシスターの女の子。
﹁リーズと帰る。﹂
罪悪感があるのかクリスちゃんは悲しそうなそれでいて寂しそう
な表情を見せた。
﹁そう、頑張りなさいよ!﹂
拳を向けてくるとクリスちゃんもそれにこたえるように拳を突き
出して軽くコツンと当てています。
﹁待てよ!俺は認めねえぞ!﹂
空気をぶち壊すように小さい男はクリスちゃんに近づく。
﹁認めるも何も最初から分かっていたことでしょ!いい加減にしな
さい!﹂
シスターの女の子は小さい男の頭を思い切り殴りました。
﹁いってえ!?﹂
殴られた頭からは煙が出ていました。恐ろしいほどの威力ですね。
179
そのやり取りをじっと見ているとシスターの女の子と目があいまし
た。
﹁リーズって言ったわよね。﹂
﹁はい。﹂
私の事を確認するとズンズン近づいてきました。
﹁私もあんたたちの通ってる学園に入学したいんだけど如何すれば
入学できるのかしら?﹂
その言葉に吃驚して思わずクリスちゃんとシスターの女の子をキ
ョロキョロと交互に見てしまったのは仕方がないと思います。
180
第三十五話 手続き
﹁私のことはマリエルでいいわ。堅苦しいのも嫌いだし、あんたの
ことは
私たちも皆知ってるんだし。﹂
﹁そんなに有名でしたか?﹂
以前何処かであったことあったっけと思い出そうとするも全然記
憶にありませんでした。
﹁クリスが好きな子が私の気持ちに気付いてくれないって私に愚痴
ってそれを他の四天王が聞いていたのよ。﹂
女子同士で恋バナをしていたら野郎どもが盗み聞きしていたって
わけですか。最低ですね。と小さい男を眺めた後鼻で笑った。
﹁俺も学園についてくからな!﹂
此方を睨みつつもクリスちゃんに近づこうと必死な様子が分かり
ます。まあ入学自体は大丈夫だと思います。なんてったってあの学
園ですからね。入学式早々に戦闘の勝敗でいろいろ決まりますから。
﹁貴方達なら入学自体は問題ないですよ。﹂
少なくとも私たちの実力で結構楽に入学できたのだから運悪く余
程の強敵に勝負を挑まれない限りは大丈夫でしょう。私のはっきり
とした言葉に入学したい二人はキョトンとしていました。
181
﹁学園では実力主義なので頑張ってください。﹂
そこまで言うとマリエルはニヤリと不敵に笑みを浮かべ、小さい
男は
﹁上等だ!絶対入学してやる!﹂
と叫んでいた。ところで
﹁残りの二人は如何しますか?﹂
さっきから私を警戒して話にすら混ざろうともしなかった二人。
﹁私は一度家に戻ろうと思います。入学するかどうかは後で決めま
す。﹂
家出王子はそう言うと自宅に帰ろうと歩き出した。
﹁僕はついてくよ学園に行ってみたいから。﹂
魔族はそう言うとトコトコ歩いて小さい男のそばに行きました。
やっぱり私すごく警戒されてます。
﹁意見も纏まったところでバルチナス学園へテレポートします。私
のそばに近寄らないと手足が置き去りになりますよ。﹂
そういうと微妙に離れていた人物たちは一瞬で私の近くに移動し
ました。シュンっと一瞬で私とクリスちゃんの住む自宅に移動しま
した。
182
﹁ここどこ?﹂
バルチナス学園に移動すると言っておきながら自宅に移動したこ
とを不思議に思ったようでした。
﹁行き成り学園にテレポートすると色々とまずいことを思い出した
ので取り敢えず私たちの自宅にテレポートしました。﹂
そう説明すると不思議に思っていた人たちは納得したのか不満の
声は無かった。
﹁それにしても久しぶりって感じがするね。﹂
何処か懐かしい物を見る様な表情で呟いた。
﹁今日で一週間ですからね。﹂
クリスちゃんが家出してからしょうがなくあの二人の力を借りま
したが次からは自力でクリスちゃんを探して見せます。
﹁お前ら貴族だったのか!?﹂
と小さい男は吃驚と言った顔だ。
﹁私は貴族じゃないですけどクリスちゃんは貴族ですよ。﹂
というと何故か絶望的な表情になりました。
﹁そりゃあないぜ神様⋮⋮。﹂
183
何かを悟ったような表情で項垂れた。
﹁そう言えば住む場所は如何しますか?﹂
学園に通うなら住む場所が無いと困るはず。
﹁学生寮があるでしょ。﹂
知り合いに学生寮で暮らしている人を知らないので何とも言えま
せんが無駄にでかい学園ですからね何でもありそうな気がします。
﹁こんなに広い家があるからって一緒に住ませてくださいなんて不
可能だしね。﹂
私たちの自宅を眺めながらやれやれと言った感じです。
﹁じゃあ俺はこっちの家に住んでいいか?﹂
小さい男がふざけたことを言うものだから思わず魔法を使って力
を上げて頭を地面にめり込ませました。
﹁アンタやるわね!﹂
と何処か嬉しそうに話すマリエルが印象的でした。
﹁大丈夫?﹂
魔族が小さい男に心配する様子を見て思わず居たんですか!?と
存在自体忘れていたとは言えませんでした。
184
第三十六話 顔合わせ
そんなわけで学園長に二人の入学の意思を伝えたら先輩三人を倒
せたらいいですよ。との事でしたので三人には学園の先輩を倒して
きてもらおうと思います。
﹁と言うわけでこの学園のルールで入学したければこの学園に入籍
している先輩を実力で蹴落としてください。﹂
私が真顔で言うと
﹁本当に実力主義なのね。﹂
納得しているマリエルと
﹁こうなったらやってやる!﹂
剣を振り回す小さい男。そしてその姿を心配そうに見つめる魔族。
﹁で、誰を倒せばいいんだ!?﹂
明らかにお前は人の話を聞いてないだろと思う発言をする小さい
男。隣にいるマリエルも魔族も呆れています。
﹁人の話はちゃんと聞いてください。次は容赦しませんよ。﹂
怒り気味に話すと大人しく首を縦に振っていました。
﹁要するに自分が学園に入学したいなら既に学園に入学している人
185
を倒して自分が代わりに入れるようにしてくださいという事です。
分かりましたか?﹂
小さい男にもう一度説明すると今度は理解できたのか
﹁おう!﹂
と元気に返事をした。
﹁それとあの学園には何人か化け物級の強い人がいるので勝負を挑
むのなら相手の実力を間違えないでくださいね。﹂
暗に返り討ちにされても文句は言えませんよと脅しをかけてみた。
﹁でもどうせなら強い奴を倒して入学したいわね。﹂
マリエルは自信満々といった態度です。
﹁俺だって負けねーぞ!﹂
マリエルの言葉に対抗心を燃やし叫ぶ小さい男魔族は気が小さい
のか無言でプルプル震えていました。何だか小動物みたいで可愛い
と思いました。本人たちの意思も固まったようなので強敵を探しま
しょうか。
﹁私たちは審判としてついていきます。﹂
学園長に入学の話を持ち掛けた時に私かクリスちゃんのどちらか
が立会人になってくれと頼まれたんですよね。不正行為はしないで
しょうけど念のための確認という事で後を付けます。三人は一緒に
186
行動するらしく仲良く歩いています。
﹁一番人の多い場所ってどこだ?﹂
﹁そりゃ授業中なんだから教室に決まってるでしょう。﹂
﹁教室に乗り込むの?﹂
小さい男は頭の悪い質問をし、マリエルはその質問に答え魔族は
怯えているという不思議な会話です。そんな話をしているとついに
教室にたどり着きました。それも三年生の教室です。マリエルはス
ゥーと息を吸い込むと、扉を開けて
﹁私たちと決闘しなさい!﹂
と大声でどなった。授業中に決闘を申し込むなんてあまりないと思
う。
﹁お、決闘かあ。じゃあ三人適当に選んで体育館に移動だ。﹂
授業をしていた教師はこの状況に慣れているるかのようにテキパ
キと指示しています。教師のその言葉で三年のクラスからは三名の
人が体育館に移動し始めた。
﹁あたしたちも移動するわよ。﹂
マリエルは強気な口調ですたすたと歩き出した。
﹁おう!﹂
187
その後ろを小さい男がついていきさらにその後ろを魔族が怯えな
がらついていった。
188
第三十七話 決闘
﹁そんなわけで最初の決闘はマリエル・ミュラトールVSマカル・
サルミン!﹂
アイス先輩の実況の元勝負が開始されました。マリエルの相手は
獣人らしく遠目からでもわかるほどに鋭く長い爪と猫のような耳が
特徴的です。と言うかまんま猫ですね。
﹁はああああああ!﹂
マリエルは自身の拳で相手を殴る。と言うか肉弾戦!?思わず私
は衝撃を受けました。マリエル、あなたシスターを目指していたん
でしょう!?普通杖とかそう言う物の類を装備して戦うのが普通な
のではないんですか!?
内心シスターのあり方について疑問を抱いていました。獣人相手
に肉弾戦を仕掛けているマリエルは一歩も引いていないどころか寧
ろ有利な状況になっていました。
﹁おおーっと!マリエル選手止めのアッパーを放った!マカルにク
リーンヒット!マカルは動けないぞ!この勝負マリエル・ミュラト
ールの勝利!﹂
獣人相手にシスターが肉弾戦で勝利する。この言葉だけ聞いてい
たら何とも恐ろしい話ですよね。若干傷は負ってはいる様子でした
が、本人にしては問題は無いらしく此方に近づいてくるとドヤ顔で
ピースをしてきました。
189
﹁勝ったわよ。これで私もこの学園の生徒ね。よろしく。﹂
﹁おめでとうございます。﹂
﹁おめでとう。﹂
とは言え私もクリスちゃんもマリエルと一緒に学校に通えること
が嬉しかったので祝いの言葉を贈る。そう言うとマリエルは嬉しそ
うに笑った。
﹁次は俺だー!﹂
1人気合を入れるかのように叫ぶ小さい男
﹁次の対戦はブルーノ・ディックハウトVSレギーナ・シカナキナ﹂
小さい男は剣を構え、対戦相手をじっと観察する。相手は黒いフ
ードを被っていて特徴がそれと言って無かった。小さい男は剣を相
手に向かって振り下ろした。小柄な体系もあってそのスピードはと
てつもなく速かった。
﹁うおおおおおお!﹂
振り下ろした剣は見事に相手に直撃する。相手は一撃でその場に倒
れる。
﹁えーとブルーノ・ディックハウトVSレギーナ・シカナキナ勝者
ブルーノ・ディックハウト﹂
アイス先輩もつまらないと感じたのか実況はテンションが低かった。
190
﹁お、おいこれで終わりなのかよ。俺まだ必殺技出してねえぞ!?﹂
あまりにもあっさり終わってしまったので小さい男は不完全燃焼
だとでも言わんばかりに嘆いている。何を思ったのかフードをとっ
た。すると相手選手は可愛らしい女の子だった。小さい男はその姿
を目撃すると顔を真っ青にしてその場に倒れた。
﹁そう言えば彼奴女には手を出さねえ主義なんだ。とか言ってわね。
﹂
思い出したように呟くマリエル。
﹁今は最低だけどな。﹂
DVモードでポツリと呟くクリスちゃん。
小さい男にもそういうプライドはあったんですね。取り敢えず小
さい男をステージから引っ張り出し端っこに寄せる。
﹁これで良し!﹂
因みに女の子の方はテレポートで保健室に連れていきました。私
は魔族の方をチラリと眺める。魔族は如何にも怯えています。と言
った状態でしたあんな状態で真面に戦えるんでしょうか?
﹁マリエル。﹂
﹁何?﹂
191
急に話しかけられて少しびっくりしていました。
﹁魔族の方は大丈夫なんですか?﹂
﹁リーズあんたその呼び方変えてあげなさいよ。﹂
マリエルは可哀想よと言わんばかりの表情で訴えている。
﹁リーズちゃん。﹂
クリスちゃんも若干苦笑いでした。
﹁イグナーツは大丈夫なんですか?﹂
私の言葉にはそもそも戦えるんですか?という意味も含まれてい
た。
﹁彼奴の実力は私たち四天王の中でも最強よ。﹂
﹁私よりは弱かったけど、本当に強いよイグナーツ。﹂
その言葉に私は目を見開く。
﹁でも、明らかに怯えています。とても戦える状態とは思えません。
﹂
イグナーツはビクビクと青ざめた表情で怯えたままの状態でした。
戦闘面で強いのなら怯える理由なんてないはず。
﹁見ていればわかるわ。彼奴は間違いなく最強よ。﹂
192
あんな状態のイグナーツを見ながら負けるはずがないとばかりに
自信満々に言い切っている。クリスちゃんを見てもマリエルと同じ
意見なのか余裕と言った表情で試合の観戦に入っていました。
﹁それでは最終戦イグナーツ・ドレイシーVSセシリオ・デルバジ
ェ試合開始!﹂
私の納得がいかないまま試合は始まった。
﹁俺はほかの奴等とは違うぜ!﹂
相手の選手も今の状態のイグナーツを見て、余裕で勝てる!と確
信しているようだった。相手が魔法を放とうと呪文を唱え始める。
﹁燃えろ!炎玉!︵ファイアーボール︶﹂
カッコつけてポーズまで決めたのに魔法は発動しなかった。そのカ
ッコ悪い姿に思わず吹き出す。
﹁プッ。﹂
﹁ダサいわね。﹂
﹁バカみたい。﹂
ああ、一つ思い出しました。確か相手の目を一定時間以上みると
魔法を使えなくさせられるんでしたっけ。確かにただの怯えている
弱虫では無かったようです。でも、それだけでは勝負には勝てませ
んよ。
193
﹁魔法が使えねえなら力だ勝負だ!﹂
何故魔法が使えないのか分からずにイグナーツに向かって何処か
らか取り出した槍を突き出す。
﹁全てを闇に葬れ⋮⋮暗黒空間。︵ブラックホール︶﹂
ブラックホール
相手の選手が暗黒空間に吸い込まれていくのをじっと眺めていま
した。
その光景に思わず鳥肌が立つ。闇魔法の上級呪文。私も上級魔法
は幾つか習得しています。でも、私が使ったことのある上級魔法と
は魔力が比べ物にならないほど練りこまれていました。私があれと
同じ魔法を使えたとしてもあそこまで大規模なのは使えません。
流石魔族と言うべきなのか圧倒的な魔力量、本人は顔が青ざめた
ままの状態だったけれど、特に疲労している状態でもなく普通にこ
ちらに戻ってきます。
﹁勝てた。﹂
ホッとして嬉しそうに笑っている。
﹁確かに強いですね。﹂
﹁もしかして嫉妬した?﹂
意地の悪い顔でにクリスちゃんが微笑む。
194
﹁そうですね。ただ案外強い人物は何処にでもいるんですね。﹂
私も、もっと強くなりたい。そう感じる出来事でした。
195
第三十八話 登校
その後、私とクリスちゃんは報告のために学園長に会いに行きま
した。三人が無事に勝利したことを伝えると明日私たちと一緒のク
ラスになるから仲良くしてあげてくださいとのことでした。
そんなわけで次の日になると私とクリスちゃんはそれぞれ寮にマ
リエルとイグナーツそして小さい男を迎えに行きました。
﹁何でここにいるの?﹂
低血圧なのか眠そうに此方をぼーっと眺めるマリエルと同じく眠
そうなイグナーツと小さい男がいました。
﹁今日から同じクラスになるそうなので迎えに来ました。﹂
その言葉に吃驚したのか、男子二名は覚醒した。
﹁!?﹂
﹁何だと!?﹂
﹁そうなの制服に会ってるわね。二人とも可愛いわよ。﹂
﹁マリエル起きて。﹂
クリスちゃんはペチペチと頬を軽く叩いている。
﹁大丈夫起きたわ。﹂
196
漸くマリエルも覚醒した。
﹁はい、支給された制服です。着替えてください。﹂
そう言って昨日学園長に渡された制服をそれぞれに配る。そして
着替え終わったのかそれぞれすぐに戻ってきました。
﹁ところでイグナーツは何故女子の制服を着ているんですか?﹂
渡しておいてなんですけど確か男子ですよね?
﹁違和感ないから気付かなかったわ。﹂
思わず吃驚と言った表情だった。クリスちゃんと小さい男もそう
思ったのかそれぞれ衝撃を受けています。女子の制服を着た人物は
顔を赤くして羞恥心に塗れていた。
﹁取り敢えず学校に向かいましょうか。制服もその時に交換しても
らいましょう。﹂
迎えに来ることが決まっていたため早めに家を出たとはいえ早く
しないと遅刻をしてしまう。少し早めに歩きだした。急いで学園に
向かうと丁度エリザベスさんとカモミールさんに遭遇する。
﹁おはようございます。﹂
﹁おはよう。﹂
私たちを発見すると挨拶をしてくれた。
197
﹁おはようございます。﹂
﹁おはよー。﹂
カモミールさんは私とクリスちゃんを眺めると
﹁どうやら両想いになれたようですわね。﹂
嬉しそうに言ったその言葉に思わず私とクリスちゃんの顔が熱く
なる。思わずクリスちゃんの顔を見るとクリスちゃんと目があって
思わず笑いあった。
﹁クリス、リーズ。私たちだけじゃこのバカを抑えるのに苦労する
から早く学園長室に案内してくれる。﹂
マリエルのその言葉に後ろを振り向くと私に向かって剣を振り下
ろそうとする小さい男の姿がありました。小さい男の手はイグナー
ツの魔法によって塞がれていました。
﹁そちらの三人はどちら様ですか?﹂
初めて見る人物にカモミールさんは疑問を抱いた様子です。
﹁転校生です。﹂
﹁そうなんだ。﹂
納得したように頷くエリザベスさん。
198
﹁私たちこれから学園長室に寄ってから教室に向かうから先生によ
ろしく言っといて。﹂
クリスちゃんの言葉で急いで目的地に向かう。学園内の重要施設
の場所にテレポートが出来ないのでこういう時に不便だと感じます。
学園長室に到着すると急いで用件を伝える。
﹁学園長征服間違えてます!﹂
私はイグナーツを前にだし、制服を交換するように要求する。
﹁制服のデザインでも気に入らなかったんですか!?﹂
学園長はショックを受けたかのようにその場にへたり込んでしまっ
た。
﹁イグナーツは男です。﹂
マリエルのその一言で学園長は状況を理解したのか復活し
﹁男子制服はこっちです。﹂
何処から取り出したのか学園長の手には男子制服が握られていた。
﹁どうぞ。﹂
イグナーツは男子制服を受け取る。ペコリとお辞儀をすると死角
になる場所に移動して急いで着替えたのか数秒で姿を現した。やっ
ぱり男の子なのか似合っていました。
199
﹁制服返します。﹂
そう言って女子制服を返却していた。
﹁用件も済んだとこで早速教室に移動しましょう。﹂
そう言うと大急ぎで教室に走り出した。
200
第三十九話 自己紹介
﹁と言うわけで今日は転校生を三人紹介します!ではどうぞ!﹂
ハイテンションで自己紹介を促すダリア先生。いつもの様に私た
ちにいじられ続けても教師を続けているかなり強靭な根性の持ち主
だと思います。
﹁ブルーノ・ディックハウトだ。﹂
特に挨拶が思いつかなかったのか名前だけ言って終わっていました。
﹁え∼と他に何か言う事とかは?﹂
﹁無い!﹂
あまりに堂々とした言い分に先生も引き下がっていた。
﹁マリエル・ミュラトールよ。よろしく。﹂
此方も堂々としているものの挨拶をしてくれるだけましなんだろ
うと思いました。
﹁イグナーツ・ドレイシー。﹂
緊張しているのか名前を言う時も小声でした。
﹁ニーノ・ウルビーニです。よろしくお願いします。﹂
201
あれ、一人増えてます。
﹁﹁﹁﹁我ら四人揃って四天王!﹂﹂﹂﹂
それぞれ思い思いのポーズをとり、最後のセリフを言う時の衝撃
が凄まじかったです。
﹁あれ、一人増えてる!?最後の人誰!?﹂
家出王子の事は情報が届いていなかったのか先生は困惑しています。
﹁ニーノだ。久しぶりー﹂
クリスちゃんはのんきに手を振っていました。
﹁そうですねお久しぶりです。﹂
他の四天王も知っていたのか呑気に会話をしている。カモミール
さんを見ると最後のセリフが面白かったのかやけにいい笑顔です。
エリザベスさんは口を開けて唖然とした表情です。
﹁因みに家出王子はいつからこの学園の生徒になったんですか?﹂
﹁家に帰った後すぐにこの学園に入学しました。﹂
少なくとも最近入学しましたという事らしい。
﹁え、皆知り合いなの!?﹂
202
吃驚と言った表情で私たちの顔を眺めていました。
﹁先生は用無しですのでもう帰ってよろしいですよ。﹂
有無を言わせない様に微笑みながらドアの方に追い詰めていくカ
モミールさん。
﹁じゃ先生は帰りますから。後は皆さんご自由に∼!﹂
そう言うと先生は急いでドアから出ていきました。
﹁うわ∼んまた、今日も負けたあ!﹂
泣きながら走っているのだろう声が遠ざかり何処かグスグスとい
った音が聞こえました。
﹁いいの?あの先生追いかけなくて。﹂
﹁これが日常茶飯事ですから。﹂
私たちが入学してからこのやり取りは毎日の様に続いています。
私たち授業はまじめに受けているし赤点をとったわけでも無いです
から。それにただあの先生がいじられキャラと言うだけで特に問題
は無いのでこのままでいいんじゃないでしょうか。
﹁そう言えば四天王とかセリフまであるくらいなんだし、やっぱり
そっちはチーム組んでるの?﹂
色々と聞きたいのだろう興味津々と言わんばかりにエリザベスさ
んは質問している。
203
﹁チーム組んでるの?﹂
イグナーツはよく分からないのか周りのメンバーを眺めてどうす
るか聞いている。
﹁私としては此奴とは組みたくないんだけど。﹂
マリエルはニーノを睨みながら拒否している。
﹁クリスはもうチーム組んでるのか?﹂
あわよくばクリスちゃんとチームを組もうとしているのがまる分
かりだった。
﹁私たちはもうチームを組んでいるので小さい男の入る隙は無いで
す。﹂
わざとらしくクリスちゃんの手を握り、小さい男の間に割って入る。
﹁俺は小さくねえ!﹂
私の言った小さいという言葉に三名ほど笑っていました。
﹁確かに小さいけど。﹂
マリエルはプルプルとお腹を抱えながら必死に堪えていました。
﹁身長も小さければ中身も小さいじゃないですか。﹂
204
思わず行ってしまった言葉に反応してマリエルがさらに笑い出す。
﹁あはははっはあゲッホゴホッ。﹂
最早笑いすぎて咽ている。
﹁俺は小さくねえっつってんだろ!﹂
小さい男は剣を構えると私に切りかかってきました。私はナイフ
を取り出すと小さい男の剣を弾き背後に回り拘束魔法で拘束する。
﹁グハッ﹂
﹁私の勝ちですね。﹂
その日の小さい男との対決は私の勝利で終わったのだった。
205
第四十話 勝負!
﹁俺と勝負だ!﹂
﹁分かりました。﹂
小さい男が転校してきてから一日一回は決闘をするようになって
いた。理由は言わずもがなどちらがクリスちゃんに相応しい相手か
と言う感じの決闘です。今更こんな決闘をしても誰がどう見ても勝
敗は既に決まっていると思いますけどね。
自慢じゃないですけどそもそも私たちは両思いになったのですか
ら後から割って入ろうなんてその時点ですでに負けているという事
に気が付かないんでしょうか?そしていつもの様に決闘は開始され
ます。
﹁うおおおお!﹂
いつもきまって小さい男は剣で私に切り掛かってくる。今回は足
を引っ掛けて石化魔法で足だけを石化する。
﹁ブッ。﹂
足が石化した以上身動きが取れずに顔から地面に激突する。だけ
ど手は石化していないのだから剣を離して手で起き上がればいいの
にと思います。
﹁⋮⋮剣をいったん離して自分の手で起き上がらないんですか?﹂
206
私の言葉で小さい男はハッとすると急いで剣から手を放して起き
上がる。そしてまた剣を構える。足を動かそうとするも動けずに私
を青ざめた表情で見つめたまま動けずにいる。そんな小さい男を一
頻り眺める。
アイスワールド
﹁凍てつく氷の世界に幽閉せよ。氷世界!﹂
氷の上級魔法をぶちかます。小さい男のオブジェが完成した。
﹁また、負けたの。ブルーノもよくやるわね。﹂
マリエルは呆れた様に小さい男のオブジェにお湯をぶちまける。バ
シャッ
﹁あっつ!?﹂
魔力を弱めに込めただけなのでお湯をかけただけで簡単に溶けまし
た。
﹁テメー何てことしやがる!﹂
そして負けると何かにつけて文句を言い出す。
﹁一々うるさいですよ。だから何時まで経ってもあなたは小さい男
なんですよ。﹂
﹁勝負に大きいか小さいかは関係ねえ!﹂
いや、あると思いますよ。これ以上反論すると余計に煩くなるし、
そろそろ休み時間も終わってしまいます。
207
﹁そろそろ戻りましょう。﹂
マリエルに声をかけると頷いて一緒に教室に戻りました。小さい
男は文句を言いながら教室までついてきました。
ブルーノ視点
畜生ッ今日も負けた!ブルーノは悩んでいた。何故なら最初はク
リスが好きだったはずで、そしてクリスには好きな人物がいた。リ
ーズという女の子だった。
今まで農業と剣の事しか頭になかったブルーノに同性恋愛という
ものが理解できるはずもなく、当然解決できる術も見つからないま
ま現在も悩み続けている。
そして最近は更に厄介な悩みが出来ていた。最近のブルーノは何
故かリーズを見ると心臓がドキドキするという病気に襲われていた。
そして本人もその病気というものが恋だと自覚もしている。けれど、
好きな人物達はその当人同士でカップルが成立してしまっている。
当然ブルーノが入る隙も無い。
ここまで言えば分かるだろうが、どちらに転ぼうと悲惨な結末し
か無いのである。頭では理解できても感情を抑えることができず、
ブルーノは戦うという事で落ち着かせようと必死だった。
ブルーノは恋多き年頃であった。非常に悲しい青春であるが。
208
第四十一話 大事なお話
クリスちゃんと恋人になりました。とお母さんに手紙を出したら
大事なお話があるのでお家に帰ってきてね。と書かれていたので私
はクリスちゃんを連れてテレポートで実家に帰りました。
﹁リーズちゃん家に来るの久しぶりだね∼。﹂
そうですね。都会に引っ越してからそれなりに時間は経過しました
からね。
﹁お母さん、ただいま帰りました。﹂
私は扉を開けました。
﹁久しぶりね。クリスちゃんも久しぶり﹂
﹁はい久しぶりです。﹂
にこやかな笑顔で私たちを迎えると直ぐに真剣な表情に変わり
﹁リーズ貴方に私の秘密を話します。﹂
﹁私は出ていた方が良いですか?﹂
お母さんが真剣な表情で話し出すものだから、クリスちゃんは気
を使っています。
﹁大丈夫よ。二人が恋人になったなら無関係と言うよりも寧ろ聞い
209
ておいてほしい話なの。﹂
お母さんは真剣な表情なのは変わらずクリスちゃんに安心させる
かのように少しだけ微笑みます。
﹁じゃあお邪魔します。﹂
﹁大事な秘密と言うのは、実はお母さんこの世界の人間ではないの
よ。﹂
﹁﹁!?﹂﹂
前置きはあったのにあまりにもスケールの大きい一言に驚いてしま
います。
﹁じゃ、じゃあなんで異世界人のリーズちゃんのお母さんがここに
いるの?﹂
﹁それはね私にもわからないの。﹂
﹁えっ。分からないのなら何でわからない話を今ここでしたんです
か!?﹂
﹁分からないってことわね。何時元の世界に帰るかも分からないと
いう事なの、もしかしたら明日帰るかもしれないし、明後日かもし
れない、それとももっと先になるかもしれないし、もしかしたら永
遠に帰れないのかもしれない。﹂
お母さんは悲しそうな表情で話す。
210
﹁でも、リーズも私の血をひいてる上に私に似ているからリーズも
私と同じ世界に帰る可能性があるのよ。﹂
お母さんのその言葉に私の頭の中は真っ白になる。
﹁それってリーズちゃんと離ればなれになっちゃうの?﹂
クリスちゃんも顔から生気が失われたかのように青白くなっていま
す。
﹁やだ!そんなの絶対にいや!﹂
泣きながらギュッと私を閉じ込めるように抱きしめる。思わず離
れたくなくて私も抱きしめ返す。
﹁帰らない方法はないんですか?﹂
泣きながら必死にクリスちゃんと一緒に居る方法を問いかける。
﹁ごめんね、分からないのそれに前に話したから分かると思うけど、
リーズには守護精霊がいないのという事は覚えてる?﹂
それは覚えてるので頷くだから私にはお母さんの守護精霊が憑い
たのだと聞きましたから。
﹁この世界に生まれた人達は例外無く守護精霊が生まれつき憑くも
のだけどリーズには守護精霊が憑くことは無かった。理由はリーズ
がこの世界に認められていないからだと思うの。﹂
﹁でもお母さんには守護精霊がいますよね?﹂
211
確かに守護精霊は生まれつきついているもの以外にもあるのは知
っています。でもそれを除いてもお母さんには沢山の守護精霊がい
ます。守護精霊すべてを集めたというわけでは無いと思うのです。
﹁お母さんの持っている守護精霊の内の半分は前の世界での仲間な
の、この世界の住人ではないのよ。﹂
その言葉に衝撃を受ける。
﹁青ちゃんも?﹂
﹁青は前の世界の仲間よ。この子は特別な子なのよ。この子は傍に
いる子を幸福にする能力を持っているのは知っているわね?﹂
﹁はい。﹂
﹁リーズが不幸にならない様にこの子をあなたの守護精霊として渡
したの。だから少なくとも急に元の世界に帰ることは無いはずよ。
だから安心して。﹂
微笑みながらあっさりと言うその言葉に思わず怒りを感じてしまう。
﹁お母さん私たちをからかいましたね?﹂
思わず涙目で睨み付ける。
﹁ごめんなさい。でもいつか元の世界に帰るかもしれないという事
はあくまで可能性の話。実際には分からないから、後悔しない様に
生きなさいとだけ伝えたかったの。﹂
212
さっきの微笑んだ顔から一転し困り顔で
﹁からかってごめんね。﹂
素直に謝ってくれました。久しぶりの帰宅という事もあって私た
ちは一日だけ泊まることにしました。クリスちゃんと一緒にお風呂
に入ってその後ご飯を食べているとお父さんが帰ってきました。
﹁クリスちゃんと恋人になりました。﹂
と報告すると真っ白に燃え尽きていました。
お母さんはにこやかにほほ笑んでいました。そんなお父さんを無
視して私たちは部屋で一緒に寝ました。
﹁リーズちゃん起きてる?﹂
コショコショと眠れないのか小声で話かけてきました。
﹁如何しました?﹂
﹁一緒のベッドで寝ても良い?﹂
﹁良いですよ。﹂
私が返事を返すとクリスちゃんは私のベッドに入ってきます。私
の手をギュッと握って落ち着いてきたのかクリスちゃんはすぐに眠
りました。
213
クリスちゃんの手の温もりを感じながら、大丈夫私はまだこの世
界に居れる。だから今はクリスちゃんと一緒に居させてください。
神なんて私は信じていないのに、そう願いました。
214
第四十二話 不安
その日、私は目を覚まして顔を洗おうとすると、一瞬自分の姿が
透明になったような気がして思わずベッドまで戻るとクリスちゃん
に抱き付きました。
﹁ん、リーズちゃんおはよう。﹂
少し寝ぼけているのか私が抱き付いていても特に大きな反応は見
れませんでした。昨日のお母さんの言葉が頭に焼き付いて怖くなり
ました。いつ帰るかわからない。それは逆に言えばいつでも帰れる
可能性があるという事。
自分の一番大好きな人と一緒に居たい、それは願ってはいけない
ことなんですか?自分の思考がドンドン暗く重いものになっていく、
でも怖い。異世界だとかそんなのは自分に関係ない、クリスちゃん
が隣にいてくれれば他に何も要らないんです。
嫌な想像や憶測で頭がいっぱいになる。
﹁リーズちゃんそんなに抱き付いてたら動けないよ?﹂
クリスちゃんの声で正気に戻る。
﹁ごめんなさい。﹂
私は直ぐにクリスちゃんから離れました。
﹁突然ですが、リーズちゃんに質問です。最近私に変化がありまし
215
た。それはとても大きな変化と言う名の成長をしました。答えは何
だと思う?﹂
クリスちゃんは私の言葉使いを真似してクイズを出しました。大
きな変化?成長とは言っても特に見た目に変化はないようですから、
内面的な成長?
﹁成長かどうかは分かりませんが最近DVクリスちゃんを見てませ
ん。﹂
そう、クリスちゃんが家出から戻ってきたその日から、DVクリ
スちゃんに変化したところを一度も見てませんでした。クリスちゃ
んは
﹁大正解!﹂
笑顔で話し始める。
﹁今だから分かるけどもう一人の私もリーズちゃんの事が大好きで、
ずっと一緒に居たいって思ってる。でも、もう一人の私はリーズち
ゃんに近づく敵を攻撃するしかリーズちゃんと一緒に居れないって
思ってた。だからリーズちゃんにあんな酷いことしちゃった。周り
に敵がいるなら、その敵を倒せば気が済むけど、リーズちゃんしか
いない時に嫌なことしか考えられなくて、それでちょっとだけ考え
ちゃったの。リーズちゃんが私だけしか見れないような状況になっ
たら、私とずっと一緒に居られるのかなって。﹂
あの時の事を思い出したのかさっきの笑顔は曇り悲しそうに泣き
ながら話している。クリスちゃんの思いに私はただ黙って聞いてい
ることしかできませんでした。
216
﹁バカだよね。そんなことしても悲しい事しか起こらないって分か
ってるのに。でもね、もう1人の私は出ないよ。だってあの子はリ
ーズちゃんとずっと一緒に居たいって暴走してた私だから。今の私
は大事なことに気付けたからだからもう大丈夫なの。﹂
クリスちゃんは私を強く抱きしめる。
﹁それはそれで寂しくなりますね。﹂
クリスちゃんの成長に喜ぶべきなのだろうけど今までの事を思い
出すと少し寂しくも感じます。
﹁私達ちゃんと成長してるんだよ。だからリーズちゃんが別の世界
に行っても絶対に探すよ。それに一緒に居るための方法は沢山ある
はずなんだからもし探しても無いなら自分で作ればいいんだもん。﹂
クリスちゃんは自信満々に微笑む。さっきまであんなに嫌なこと
で頭がいっぱいだったのに今はもう幸せになっています。
﹁私が好きになった人がクリスちゃんでよかったです。﹂
私はクリスちゃんを思い切り抱きしめます。
﹁私もリーズちゃんを好きになってて良かった。﹂
お互い笑いあいながらも大好きな人と一緒なら私は大丈夫。心か
らそう思いました。
217
第四十三話 日常
その日はクリスちゃんと一緒に学校に行きました。いつもの様に
授業を受けて、いつもの様に小さい男と勝負して、勿論私が勝利し
ました。
﹁ねえ、一つ聞いていい?﹂
﹁何ですか?﹂
﹁何々?﹂
ため息をついて不思議なものを見ているかのように此方を眺める。
﹁二人ともくっつき過ぎ。﹂
昨日のこともあったので私とクリスちゃんは四六時中一緒に居ま
した。と言うよりも現在進行形で一緒に居ます。
﹁何かあったの?﹂
マリエルは何処か不安そうに私たちを見つめる。
﹁ただ、私がクリスちゃんと一緒に居たいって思っただけです。﹂
私の言葉に反応してか、リーズちゃんが少し悲しそうに私の手を握
る。
﹁おい!勝負だ!﹂
218
空気を読まずに小さい男が乱暴に私の机を叩く。
﹁少しは空気を読みなさい。﹂
マリエルは静かな口調で小さい男を拳ひとつで沈めた。
﹁グハッ﹂
マリエルは小さい男を持ち上げると
﹁私は保健室に行ってくるわ。先生には私から言っといてあげる。﹂
マリエルのその言葉に私たちはキョトンとする。マリエルが教室
から出ていくと思わず私はクリスちゃんと顔を合わせます。直ぐに
笑顔になり
﹁ケーキ食べに行きませんか?﹂
私はデートに誘いました。
﹁喜んで!﹂
クリスちゃんも嬉しそうに微笑んで私の腕に抱き付きます。教室か
ら出ていくと先生がいました。
﹁私からは問いただしません。頑張ってください!﹂
涙ながらに応援されました。いったいどんな事を言ったらこんな
状態になるんでしょうか?疑問を抱かずにはいられませんでした。
219
その後外に出てケーキ屋に向かうと
﹁やあ。﹂
﹁金髪の子。﹂
変態二人に遭遇しました。
﹁私、今邪魔されたら本気で怒りますね。﹂
あえてニコリとほほ笑みながらナイフを持って近づく。
﹁ちょ、待て待て早まるな!落ち着け!今日は渡すもんあるから!
手ぶらじゃないから!だから落ち着け!﹂
震えながらクルトの後ろで叫んでいます。
﹁はいこれ。﹂
そう言ってクルトが渡してきた物は蒼色の水晶のついたネックレ
スと同じく紫色の水晶のついたネックレスを手渡されました。
﹁蒼い方がリーズで紫色の方がクリスのだからね。間違えないでね。
﹂
取り敢えずつけてみます。
﹁これは特別な製法で僕が作ったものなんだ。どんなに離れていて
も魔力を込めれば会話ができるようになっているんだ。﹂
220
その説明を聞いて私は思わずクルトを睨み付けました。
﹁私たちの事見てましたね。﹂
私の様子を見るとクルトはすぐに弁解をしました。
﹁まあ悪かったと思ってるよ。内容がかなりヤバいものだったしね。
だからお詫びにこれを作ったんだよ。﹂
これに免じて許してほしいと言わんばかりに困り顔になっていまし
た。
﹁ならもう一つ条件追加。リーズちゃんを連れ戻すの手伝ってね。﹂
クリスちゃんはどうだ!とばかりにドヤ顔をしている。クルトは
おどけた様に
﹁分かったよ。﹂
可笑しそうに笑っています。
﹁まあ、いつ戻っちまうか分かんねえ以上俺たちができるのは連絡
手段を与えることと戻ってくるのを手助けしたやるくらいしかでき
ねえからな。﹂
アダムは私たちを悲しそうに眺めると最後にクリスちゃんの髪を
撫でました。
﹁ハアハア﹂
221
ナイフをアダムの手首辺りに構えて切ろうと手を動かす。
﹁すいませんちょーしにのりました!﹂
危険を察知するとアダムは逃げ帰った。
﹁あれが無ければアダムも普通なんだけどね。﹂
全くしょうがないな。とばかりにクルトは苦笑いする。
﹁まあ僕たちと同じ同性愛と言う名の障害を持つ者同士なんだ。お
互い幸せになるための努力は惜しまないよ。﹂
そう言い残してクルトも帰って行った。
﹁ケーキ食べに行きましょうか。﹂
﹁そうだね。﹂
私たちは大好きなケーキを沢山買ってお家で紅茶と一緒に食べまし
た。
222
第四十四話 突然の出来事
私たちはクルトからもらったネックレスを使って話したり、小さ
い男と勝負したり、いつもの様に日常生活を送っていました。クリ
スちゃんと笑いあったり悲しんだり。
ずっとこの毎日が続けばいいのにそう願いました。クリスちゃん
と遊び疲れて家に帰って来た時の事でした。
﹁リーズ、ちゃん?﹂
私の方を見て驚いて目を見開いていました。
﹁クリスちゃん如何したんですか?﹂
安心させようと抱きしめる。でもクリスちゃんに伸ばした手はクリ
スちゃんをスカッと通り抜けてしまいました。まるで自分が透明に
なったように。
﹁どうして⋮⋮?﹂
疑問の言葉を口に出しても頭では理解できました。もうここには
いられないんですね。分かれの時間が来てまったことを理解すると
私の目からは涙があふれてきました。
﹁触る事も出来ないなんてやだよ!﹂
クリスちゃんは必死に私に触れようとするけれどその手は私を通
り抜けてしまいます。
223
﹁私必ず帰ってきます。だから、だから待っていてください。﹂
もう涙で肝心のクリスちゃんの顔が見えなくなっていました。
﹁待つよ。でも私も探す。クリスちゃんが私のいるところに帰って
くる方法を探して見せるから!﹂
やっぱり神なんて信じるものじゃありませんね。やっぱり私が信
じられるのはクリスちゃんですね。
﹁私クリスちゃんの事信じてます。﹂
﹁私も信じてるよリーズちゃんの事。﹂
抱きしめても形だけで温もりどころか感触すらも無かったけどそ
れでも不思議と寂しくは無かったです。
﹁リーズ。﹂
﹁はい。﹂
思わずDVモードですか?クリスちゃんを見ても何の変化もなくて、
﹁名前で呼びたかったの。リーズも私の名前呼んで?﹂
﹁クリス。﹂
そう呼ぶとクリスは嬉しそうに微笑んだ。
224
﹁こういう時はキスとかした方がロマンティックなんだろうけど透
けちゃってるからできないね。だからこっちは帰ってきてからだよ
?﹂
クリスは唇に指をあてて、意地悪そうに笑っています。
﹁分かりました。帰ってきたら必ずですよ?﹂
お互い涙がボロボロと溢れて、でも表情は笑っているというとて
も不思議な状況になっています。でもそんな時間も終わって私はク
リスちゃんの姿が見えなくなってしまいました。
リーズの姿が完全に消えるのが分かると、辛うじて笑っていたク
リスの顔が悲しくゆがんでいく。
﹁う、うわああああん!ヒック、う、うわああああああああん!﹂
クリスとリーズの家では1人クリスの泣き声だけが空しく響いてい
た。
225
第四十五話 別の世界
﹁鈴?﹂
誰かの声で私は目を覚ましました。目の前には黒い髪に黒い目の
私よりも背の高い女の子がいました。
﹁目の色が違う。鈴じゃない?﹂
リン?そう言えばお母さんの名前がそんな感じだった気がします。
﹁私の名前はリーズです。﹂
﹁日本人じゃない?﹂
﹁え∼と多分そうです。﹂
そう言えば今気づきましたけど、この人髪と目がお母さんと同じ
!?思わず吃驚して目の前にいる人の顔を凝視する。
ももしき ひめき
﹁そう言えばまだ自己紹介してないね。私は百織姫季っていうのよ
ろしくね。ところで何で私の家で寝てたの?﹂
不思議そうに言われたので思わず周りを見渡す。周りを見渡せば
湖のような場所とか不思議な造りの建物や大きな扉がありました。
﹁ここ、どこですか?﹂
驚き過ぎた私が言葉にできたのはたった一つの質問だけでした。
226
﹁取り敢えずお父様に会いに行こうか。﹂
百織さんは私の手を握るとテクテクと歩き出しました。
﹁お父様、リーズちゃんと言う子を連れてきました。﹂
大きな家?の中をずっと歩き続けていくと見知らぬ老人のところ
に案内されました。見知らぬ老人は立ち上がると私に近づきじっと
顔を眺めてきました。その真剣な表情に思わず固まってしまいます。
﹁確かにお前の娘だな。鈴よ。﹂
﹁やっぱり似てるってお父さんもそう思うでしょう。﹂
見知らぬ老人の背後からひょっこりとお母さんが顔を出す。
﹁お母さん!﹂
思わずお母さんに抱き付つきました。1人じゃなかったことに安
心してまた涙がポロポロと溢れてきます。
﹁よしよし。やっぱり1人じゃ不安だものね。お母さんもそうだっ
たわ。﹂ お母さんは私が落ち着くまで私の頭を優しくなでてくれました。
少しすると落ち着いたので詳しい状況を説明してもらいました。
﹁この家は私の家でこっちが私のお父さんでこっちが私の妹の姫季
よ。あまり似てないけどね。﹂
227
それぞれ見知らぬ老人と百織さんを指さしています。
﹁お母さんの家族?﹂
﹁そうよ。﹂
私にとっても全く関係のない話ではないんですね。
﹁取り敢えず疲れちゃったでしょ?お風呂に入ってご飯食べて今日
はもう休みましょう。明日になったらまた詳しく説明するから。﹂
そう言うとお母さんは強引に私をお風呂にまで連れていきました。
﹁お風呂?﹂
お風呂にしては広すぎる空間とそしてそれに見合う膨大なお湯の
量。そして極め付けに奥には滝がありました。取り敢えずお湯の中
に入るという行為は変わらないようなので軽くお湯を体にかけてか
らお風呂に入ります。
こんなお風呂に入るのは初めてでしたがとても気持ちよくて快適
でした。
その後お風呂から出ると今まで見たこともない食事が出てきたり
しました。美味しかったです。でも不思議な味だと思うものもいく
つかありました。
お母さんと同じ部屋で寝ることになったのです。でも床に直接布
を掛けただけの不思議な就寝具で、でも肌触りがとても気持ち良か
ったです。
228
第四十六話 別世界の生活
意外なことにぐっすりと眠れました。おかげで疲れも大分取れて
元気いっぱいです。
﹁体調も良くなったとこでお父さんの部屋に移動するわよ。詳しく
説明するからね。﹂
そう言うとお母さんは歩き出しました。不思議な所だと思いまし
た。室内を靴ではなく裸足で歩き、しかも床も変わった造りででも
不思議と嫌悪感はありませんでした。そんな不思議な空間を歩き続
けるとまたしても不思議な扉の前に到着しました。
﹁お父さん入るわよ∼。﹂
お母さんは気の抜けた声で不思議な扉を横にスライドして開けまし
た。別世界では不思議な開け方をするんですね。
﹁いつも言っているが返事も聞かずに開けるのは止めなさい。﹂
﹁それよりお父さん説明するわよ。﹂
﹁全く。﹂
お母さんのお父さんは渋々と言った表情で私に向き合いました。
﹁リーズと言ったのう。﹂
﹁はい。﹂
229
﹁本当にお前の娘か?見た目はそっくりじゃが中身が大人びすぎて
いる気がするが。﹂
﹁失礼な!私に子育ての才能があったって事でしょう。﹂
お母さんは自慢げにしています。少しだけ嬉しく思いました。
﹁取り敢えずリーズよ。おぬしがわしの孫だという事前提で話を進
める。﹂
﹁はい。﹂
真剣な表情でこちらを見るものだから急に緊張感を感じます。
﹁まず鈴が別世界に行った原因の話から始めよう。丁度あの日は鈴
の16才の誕生日での、わしら百織一族の成人の日を迎えたのじゃ。
そして成人を迎えた者は禊を行うことになっておる。そしてその禊
の日に鈴は姿を消した。未だにその詳しい原因は分からない状態な
んじゃ。﹂
その言葉に思わずしょんぼりと落ち込んでしまいます。原因が分
からないという事は私はクリスの世界に帰れる可能性も分からない
という事じゃないですか。
﹁取り敢えずこっちから帰れる方法と言えばリーズが16才の誕生
日を迎えた時に禊を行うしか現段階では帰れる手段はないという事
なのよ。﹂
私は今13才だから、あと三年はこの世界で暮らさなくてはいけな
230
いんですか!?
﹁今すぐ帰れる方法は!?﹂
﹁残念ながら無いのよ。﹂
お母さんは申し訳なさそうに謝りました。なら今の私がやるべき
ことはクリスの世界に帰れる日を迎えるまで修行することです。向
こうの世界に帰った時に弱い状態の私なんて見せたくないですから。
﹁お母さんお願いがあります。﹂
真剣な表情でお母さんにお願いをします。
﹁私を最強にしてください!﹂
幼いころからお母さんに修行をさせてもらっていました。その時
に修業を始める時に言割れた言葉があります。どうせやるなら一番
を目指しなさいと。
私の言葉にお母さんが
﹁分かりました。なら修行は明日から始めます。﹂
真剣な表情に変わりました。普段は優しいポワンとしたお母さん
ですが、修行の時だけ敬語で真面目になります。私の言葉づかいも
この時のお母さんの影響が大きいんですよね。気付いたら使ってい
るという感じですから。絶対に帰リますから待っていてください。
と思ったところであることを思い出しました。
231
クルトにもらったネックレス!ネックレスに魔力を込めてクリス
との会話を試みます。別世界という事もあってやけに繋がり難いな
と思いました。お願いします。気付いてくださいクリス!
232
第四十七話 会いたい
クリスside
﹁ヒック、グスッ。﹂
リーズが消えてしまった後私は1人泣き続けていた。こんなこと
をしていても何にもならないって分かってるはずなのに涙は全然止
まってくれなかった。
しばらくすると涙も止まって大分落ち着いた。ペンダントに魔力
を込めてもリーズからの反応は帰ってこなかった。
私は一旦クルトに会いに行った。今の状況と事情を知っているの
はおそらく彼奴だけだと思ったから。私はリーズみたいにテレポー
トは使えないから走って行く。
扉をドカッと乱暴にあけてクルトの所に向かう。扉を開けるとク
ルトとアダムがいた。二人とも悲しそうにこちらを見つめている。
﹁ねえ、前に言ったよね。連れ戻すの手伝ってって。﹂
﹁そうだね。﹂
﹁だったら何か知ってるんでしょう?リーズをこっちに呼び戻す方
法とか、何か他に可能性のありそうなこととかあるんでしょ?﹂
この二人がそんなことを知っている筈が無いと分かっていても問い
かけずにはいられなかった。何か動き出して少しでも気を紛らわせ
233
ないと心が壊れてしまいそうだったから。
スリープ
﹁君は少し休んだ方が良い。僕らでできるだけ手がかりを探してお
くよ。睡眠魔法。﹂
その言葉で私の意識は途切れた。
﹁まさかこんなに早く事がおきるとは思ってもみなかったよ。﹂
クルトはクリスを抱えるとベッドに運んだ。
﹁金髪の子大丈夫か?﹂
アダムは心配そうにクリスを見つめている。
﹁彼女の動揺ぶりを見ると如何やら僕の作ったアイテムは役に立た
なかったらしい。﹂
少なくとも声が聞けているならこんなに動揺はしないだろうとク
ルトは思った。
﹁あんまり気にすんなよ。俺たちにできることなんてたかが知れて
る。少なくともこの世界で行方が分からなくなった人物を探すのな
らお前はできるけど別世界の人物まで探すことなんて誰にもできね
えよ。﹂
アダムはクルトを慰めるように軽く抱きしめた。
﹁少なくとも後輩のこんな悲劇を目撃してると気にするなって方が
無理な話だよ。﹂
234
クルトは泣きべそをかきながらアダムの胸に顔を押し付ける。
﹁問題はリーズのクラスメイト達にどう説明するかなんだよね。﹂
クルトは悲しそうに呟く。
﹁確かに正直に話そうが何しようがリーズがこの世界に居ないとい
う事は変わらねえんだからな。﹂
﹁このことは明日学校で話そう。クリスの事も心配だし。何より人
では多い方が良いよ。﹂
﹁それもそうだな。なら俺は手紙だけ渡しておくお前も一旦寝ろ。
禄に眠れてねえんだろ。﹂
アダムはクルトの顔を自分から引きはがすとベッドに放り投げる。
﹁アダム君彼女をベッドに放り投げるってどういう神経してるんだ
い?﹂
クルトは怒りを感じた。
﹁いいから寝てろよ。﹂
そう言うとアダムはさっさと部屋を出ていった。クルトは物々文
句を言いながらも眠りについた。
﹁さて机の中にでも入れておくか。﹂
235
そう呟くアダムの手には手紙が一クラス分握られていた。
236
第四十八話 事実
クリスが目覚めると学校に行け。と書かれた紙があった。学校な
ら何か手がかりがあるかもしれない。クリスは急いで家に帰り荷物
をとると急いで学校に向かった。
﹁クリスさん丁度いいところに!﹂
焦った表情でカモミールに急いで教室に来るように手を引かれた。
教室ににはクルトとアダムがいた。
﹁何で?﹂
状況が読み込めず困惑する。
﹁リーズがこの世界から別世界に行った。って説明受けてクリスに
話を聞こうと思ってカモミールが飛び出たところに丁度クリスがい
たのよ。﹂
マリエルは怒り気味に低い声で呟く。
﹁嘘だろ!お前らあんなに仲良かったじゃねえかよ!何でそんなこ
とになんだよ!﹂
ブルーノはクリスに詰め寄ると大声で問いかける。
﹁そんなの私が知りたいよ!﹂
クリスは思わず怒鳴り泣き始めてしまう。
237
﹁お、おい泣くなよ!﹂
泣き出してしまったクリスを見てブルーノは慌てる。
﹁なに泣かしてんのよ!﹂
マリエルはブルーノを一発ぶん殴る。
﹁いってぇ!?﹂
殴られた痛みの影響もあってかブルーノは少しだけ冷静になる。
﹁でも別世界の話とかあんまり聞いたことない。﹂
イグナーツはポツリと呟く。
﹁私もそう言うファンタジーな話って精々神話とかくらいしかない
よ。﹂
同じようにエリザベスも言う。
﹁そう言えばクリス僕の上げたネックレスは役に立たなかったよう
だったみたいでごめんね。﹂
思い出したようにクルトが謝る。
﹁ううん。こっちに世界では使えたから。別世界では使えなかった
んだと思う。﹂
238
クリスは悲しそうにペンダントに手を当てる。
﹁ん?﹂
するとネックレスから微弱だけど魔力反応があることに気付く。
﹁如何したの?﹂
近くに居たマリエルがクリスの様子に気づいて問いかける。
﹁クルト少しだけど魔力反応があるよ。﹂
クリスのその言葉にクルトが驚く
﹁話は出来そうかい?﹂
﹁ううん。でも本当に少しだけだけどほら!﹂
クリスはネックレスを取り出して見る。そうすると確かに微弱では
あるものの光っている。
﹁もしかしたら魔力の繋がりが悪いのでは?﹂
ニーノは冷静に言った。
﹁この学園で魔力が沢山あるとこっつたら校長室とかか?﹂
﹁そうだ校長室!﹂
アダムのその言葉にクリスが大きく反応する。
239
﹁校長室がどうしたんですか?﹂
その反応の大きさにカモミールが驚く。
﹁そう言えば校長先生って昔リーズのお母さんとチームメイトだっ
て言ってた。何か知ってることあるかも!﹂
クリスのその言葉で教室に居た全員が校長室に移動した。
﹁校長先生リーズの事で何か知ってることを教えてください!﹂
いきなりの生徒の訪問でエクセルは驚いていた。
﹁生憎リーズさんのことは余り知らないんだ。﹂
エクセルのその言葉に思わず落胆する。
﹁だがリーズさんのお母さんであるリンさんの事は知っているよ。
知りたいこととは異世界の事だろう?﹂
続いて言われた言葉に落胆の表情から一転嬉しそうな顔に変わる。
﹁お菓子と紅茶を入れてこよう。皆さん適当に座ってください。﹂
全員がお互いの顔を見合わせて若干困惑していたけど色々聞きた
いこともあったので素直にそれぞれ椅子に座った。
240
第四十九話 昔話
﹁あれはリンさんとチームを組んで一年くらいの時かな。自分でい
うのもなんだけど、最強という事で名を馳せていたからね。まあ最
強と言っても僕は中間くらいの強さで一番強かったのはリンさんだ
ったからね。﹂
懐かしそうに話すエクセルは語りだす。
﹁リーズのお母さん?﹂
﹁クリスさんは会ったことがあると聞いているけど。﹂
﹁うん。最初に会ったとき死神が持ってるような鎌で盗賊の砦を一
撃で消し去ってた。﹂
その言葉に場の空気が一瞬だけ固まる。
﹁リンさんは今も昔も変わらないようですね。﹂
エクセルは苦笑いしている。
﹁初対面で何で盗賊の砦を破壊しているところに遭遇するのよ!?﹂
マリエルは可笑しいでしょ!?と言わんばかりに驚く。
﹁まあ私がチームを組んでいた時はそんなのは序の口でしたから。﹂
何処か遠いところを見るような目で何かを思い出している様子のエ
241
クセル。
﹁先生戻ってきてください!﹂
エリザベスがエクセルの目の前で必死に手を振る。
﹁アンタせめてお菓子を手から離しなさいよ。﹂
マリエルのその言葉でエリザベスはお菓子を持ったまま手を振っ
ている
ことに気付く。
﹁ヤバッ﹂
と急いで食べていたが。
﹁まあその話は置いてください。﹂
もしゃもしゃ
﹁ブルーノ君大事なお話をするので静かに食べてください。﹂
﹁ふぁい。﹂
マリエルは無言でブルーノの頭を殴った。
﹁昔の話ですがリンさんがこちらの世界に来る直前に成人の儀式を
行っていたとか。﹂
﹁成人の儀式?﹂
242
﹁何でも16才の誕生日を迎えた時に行う儀式とかで。﹂
﹁じゃあリーズが16才になったらこっちに帰ってくるって事?そ
れが本当なら私は3年はリーズに会えないの?﹂
クリスは茫然と呟く。3年今の状況のクリスにとって3年はとても
長く感じるだろう。
﹁なら永遠に会えないわけじゃないって事ね。﹂
マリエルは嬉しそうに呟く。
﹁そうですわね。﹂
カモミールもほっとしている。
﹁そうだね。一生会えないとかなら大慌てだけどまた会えるなら大
丈夫だね。﹂
エリザベスはお菓子をもしゃもしゃと頬張っている。
﹁ところで何で校長室に来たんだっけ?﹂
ブルーノもお菓子を頬張りながら当初の目的を思い出そうとしてい
る。
﹁ネックレス⋮。﹂
クルトが思い出したように呟くと他のメンバーも思い出したようで
243
エクセルに詰め寄った。クリスは急いでネックレスを取り出す。
﹁これでお話ししたいんですけど繋がらなくて。﹂
エクセルは興味深そうにネックレスを眺めると
﹁ならこっちの部屋に来てください。﹂
そう言って奥の部屋に移動した。取り敢えず全員がついていく。部
屋の中には大量の魔力の結晶石が集められていた。
﹁何だこれ?﹂
ブルーノはまるで石ころを拾う様にヒョイと持ち上げる。
﹁バカ!これ結晶石よ!﹂
マリエルは重要な物を軽々と扱うブルーノを一発殴った。
﹁あだっ﹂
﹁欠片一つでも10000Eはいく。﹂
﹁結晶石だからね。﹂
エリザベスも苦笑いをしている。
﹁壊したら大変ですわよ。﹂
ブルーノの背後から脅かす様にカモミールが現れる。
244
﹁うお!?﹂
そしてしっかり驚くその姿にカモミールは満足げに微笑んだ。
﹁この部屋でなら繋がると思います。﹂
エクセルのその言葉にクリスはもう一度魔力を込めてみる。する
とさっき使った時よりも明るく光り出す。
﹁クリス?聞こえますか?﹂
ネックレスから聞こえるその声に思わず
﹁聞こえるよリーズ。﹂
泣きながらも答える。
﹁良かった!因みに重要な話なんですが、どうやら私は16才にな
るまでそちらには帰れないようなのです。それまでは1人でそちら
に暮らしてもらう事になってしまうようです。もっと早く帰れれば
よかったんですけど、如何やらこれ以外には方法が無いようなの3
年だけ我慢してもらえますか?﹂
エクセルから聞いた情報に間違いが無かった事に少しだけ残念な
気持ちになる。でも、
﹁分かった。3年だけだよ。それ以上は待ってあげないからね。﹂
リーズの声が聞けたからなのかもう不安な気持ちは無かった。
245
﹁ありがとうございます。必ず3年後に会いに行きます。﹂
﹁うん。それじゃまたね。﹂
その言葉を最後に連絡は切れてしまった。
﹁良かったのですか?﹂
カモミールはもっと話しておきたいこととかたくさんあったので
はないのか?そう思っていた。
﹁思い出話は次に会った時にする。だから今はこれでいいの。﹂
少し前までは不安でいっぱいという表情だったのに今では自身に
満ち溢れていた。元気になったクリスの姿に思わず全員が喜びを感
じた。
﹁それに今まであんまりお願い事なんてしなかったリーズが待って
って言ったんだもん。﹂
少しだけ嬉しそうに微笑んだ。
﹁その言葉だけでもうれしいんだよ。﹂
この言葉に元気になり過ぎではないかと若干心配になる者とうっ
とおしく感じる者そして再び失恋の痛みを思い出すものがいた。
246
第五十話 三年後
あれから私はお母さんから陰陽術と言うものを習いました。此方
の世界には魔法と言うものが存在していなくて、しかもその陰陽術
の存在を知る者も少ないと聞きました。
そして何より此方の世界の服は私の世界の服と生地が違いすぎて
落ち着かなかったです。それに前の世界に比べるとこちらの世界は
色々と発展していてクリスに申し訳ないと感じるほどには快適な生
活を送っていました。
でもそんな生活も今日で終わります。何故なら今日は私の16才
の誕生日!
そう、元の世界に帰る日なんです!思わず拳に力が入ってしまいま
す。
それに今の私は服装が着物と言うものに身を包んでいるので少々
落ち着かないという事もあります。肌触りが気になるので着物の下
に首まである黒い服を着用しています。本来の着方とは違って動き
やすいように所々捲ったり帯で縛ったりしているのでいつどこで奇
襲を掛けられても対応できるようになっています。さて荷物もすべ
て持ちました。いざ、成人の儀式を行います。
﹁来たか。今日で最後になるのか。﹂
お爺ちゃんは少し寂しそうにしています。
﹁お爺ちゃんも大事な家族ですよ。でもそれよりも私は愛情をとっ
ただけですから。﹂
247
﹁せめて後半のセリフは言わないでほしかったのう。﹂
お爺ちゃんは涙を滝の様に流しだす。
﹁そう言えばお母さんはどちらに?﹂
大体このくらいのタイミングで何かしらの襲撃を掛けてくるのにと
辺りを見回したり気配を探ってみても何もありません。
﹁鈴も向こうの世界に行きたいとかで別の方法を探すそうじゃ。﹂
﹁そうですか。﹂
向こうの世界に行ってもお母さんとまた一緒に暮らせるのかもし
れないと思うと嬉しく感じました。
﹁さて禊を行う。﹂
三年と言う月日は短いようで長かったです。それにこの世界は平
和という事もあって実践を行った相手がお母さんとお爺ちゃんしか
いなかったんですよね。
魔法の代わりに陰陽術を覚えたので多少の違いはあるでしょうが
少なくとも一撃で殺されてしまうようなことは無いでしょう。
クリス今会いに行きますからね。私は覚悟を決めると禊を行うた
めに滝の中に入リます。滝の中に入った瞬間淡い光が私の周りに集
まりました。すると景色は一瞬で変わり、私は三年前にいた場所。
クリスと暮らしていた家に移動していました。
248
私はペンダントに魔力を込めて会話をしようと試みます。
﹁聞こえますか?﹂
249
第五十一話 クリスside
リーズが消えてもう三年が経過していた。クリスは髪も伸びて大
人びた顔つきに成長している。
﹁おい確か今日だったよな。﹂
そんなリーズの隣にはブルーノがいた。ブルーノは身長がかなり
伸びてクリスよりも頭一つ分は差がある。燃える様な紅い髪は背中
くらいにまで伸びていた。
﹁そうだね。まず確実にブルーノは誰だっけ?って言われるよ。﹂
クリスは嬉しそうにネックレスを握り締めてブルーノをからかう。
﹁そうか?﹂
ブルーノは自分の大きな変化に自覚がないのか、キョトンと驚いて
いる。
﹁クリスリーズを迎えに行きたいから皆が教室に集まれですって。﹂
マリエルはクリス達を迎えに来ていた。マリエルは特に変わった様
子が無くそのまま大きくなったという感じになっていた。
﹁分かった。教室に移動しよう。﹂
そう言うとクリスはテレポートで教室に移動した。そこには成長
したメンバーが揃っていた。
250
﹁ヤッホー皆揃ってる?﹂
﹁それがニーノさんは今日が王位継承の儀式の日でどうしても抜け
出せないと仰っていました。﹂
カモミールは残念そうに呟く。カモミールは全体的に大きく成長し
ていて顔つきは大人びている。
﹁ニーノも運ないよね。﹂
イグナーツは成長はしていたが男らしいというよりもどちらかと言
えば女性に近い容姿に成長していた。
﹁他は欠席は無い?﹂
﹁1人だけ欠席?﹂
エリザベスは見た目こそあまり変化はない物の大きな変化と言え
ば身長と背中に背負っている沢山の武器の数と言ったところだろう。
﹁今日がイベントの日だと聞いて来ちゃった。﹂
﹁よう。﹂
ドアからクルトとアダムが入ってきた。大きな変化と言うとアダ
ムは普通に男らしく成長していた。
そしてクルトは中性的な顔立ちは変わらないが体格は大分男らし
くなっていて流石にその体格だと女装は出来なかったのか普通に男
251
性用の制服を着用している。
﹁こっちも女装が無くなったなんてある意味一番の吃驚だよね。﹂
普通の状態に変化したならそっちの方がうれしいはずなのに何処
となく複雑な気持ちになっているクリスだった。そんな時クリスの
持つネックレスが大きく光り輝く。
﹁帰ってきたみたいだね。﹂
クルトはいち早く気付いたのかネックレスをじっと眺めている。
﹁聞こえますか?﹂
三年ぶりにリーズの声が聴けた。その嬉しい事実にクリスは思わず
涙ぐむ。
﹁聞こえるよリーズ。皆も教室に集まってるよ。﹂
﹁分かりました。今そっちに向かいますね。﹂
そう聞こえるとクリスの目の前には大きく成長して服装から髪型
まで大きな変化を遂げているリーズが現れる。
﹁ただいま戻りましたクリス。﹂
そう言うとリーズは嬉しそうにギュッと抱きしめる。
﹁お帰りリーズ。﹂
252
クリスも嬉しそうに抱きしめ返した。
﹁感動の再会のところ悪いですけど、会いたかったのはクリスさん
だけではないですよ。﹂
抱きしめあっているとリーズの後ろからカモミールが抱き付く。
﹁カモミールさん!?﹂
いきなり飛びついてきたことにリーズは驚く。
﹁なら私も!﹂
﹁だったら私も!﹂
エリザベスとマリエルも嬉しそうに抱き付く。
﹁あっズルい!﹂
そう言ってクルトも抱き着こうとするが
﹁止めとけ今のお前が抱き付いたら立派な犯罪だ。﹂
アダムに止められていた。
﹁おいリーズ今度こそ俺が勝たせてもらうぜ!﹂
ブルーノは嬉しそうに剣を構える。
﹁誰ですか?﹂
253
そんなリーズの困惑したかのような一言にショックを受けていた。
﹁これブルーノよ。﹂
可笑しそうにマリエルが答える。
﹁あーあの小さい男ですか。随分見た目は立派になりましたね。﹂
少なからずその成長っぷりにリーズは驚いていた。
﹁どうだもう小さい男じゃねえぞ。﹂
ブルーノはクリスの真正面に立って見下ろすと満足げに笑った。そ
んなブルーノをリーズは軽く無視すると
﹁そうだ一度みんなと戦ってみたかったんですよね。宜しければみ
んなで勝負でもやりませんか?﹂
リーズのその言葉に全員が驚いたものの、大半が好戦的なメンバ
ーが多いためその案は決定する。でも体力的な問題が発生して個人
戦ではなくトーナメント式にやることになった。
254
第五十二話 対戦!
﹁と言うわけでトーナメント式ガチンコバトル!開戦!司会はアイ
スが務めさせていただきますね。﹂
リーズは何だか入学式を思い出します。と思い出に浸っていた。
﹁組み合わせは如何しましょうか?﹂
﹁でもきっと最後の対戦は決まってるよね。﹂
エリザベスは苦笑いしながらリーズを見つめる。
﹁そうですわね。﹂
カモミールも楽しみだと言わんばかりに笑みを浮かべている。
﹁クリスとリーズは最終戦で戦うのよ。でも私たちも簡単にやられ
るほど弱くないわよ。﹂
マリエルは嬉しそうな顔でクリスとリーズの肩に手を置く。
﹁でもニーノがいないから奇数になっちゃうんだよね。﹂
戦う予定の人物を上げてみるとリーズ、クリス、カモミール、エ
リザベス、クルト、アダム、ブルーノ、マリエル、イグナーツの総
勢九名である。
そしてこんな時に役に立つものがある。あみだくじです。まあ最
255
終戦で私とクリスちゃんの対決を楽しみにしてくれている人たちに
は悪いですが、そんなに都合よくは出来ません。
﹁そんなわけであみだくじをやりますので、この紙の空いていると
ころに自分の名前を記入してください。﹂
何人か戸惑ってはいたもののそれぞれ全員が記入し終わる。リーズ
はその紙をアイスに手渡す。
﹁それでは結果発表します。一回戦はイグナーツ・ドレイシーVS
ブルーノ・ディックハウトです。﹂
そう発表すると
﹁俺!?﹂
とかなり驚いている。イグナーツは不安そうに俯いているみたいで
した。と言うよりどうやって戦えばいいんだろうという不安と困惑
の入り混じった表情で私に何かを無言で訴えています。
確かに意外な結果でしたけど組み合わせを変える気は全くありま
せん。それに実際にあみだくじに記入したのはこれから対戦する九
人全員なのでちゃんと公平にしました。だから行ってらっしゃいと
ばかりに私は笑顔で手を振りました。
﹁リーズ何だかそれ死地に行く人を見送るみたいだよね。﹂
クリスはあっけらかんと笑いながら言ってます。けどそれ結構シ
ャレになりませんよ。特にクリスが言うと何故だか本当に死人が出
そうなきがしました。
256
イグナーツとブルーノは戦う準備ができたのか中央の対戦フィー
ルドに移動しています。因みにどんなに中で大暴れしてもフィール
ド外には被害が来ない様に結界が張られています。なのでフィール
ドの外に居る私たちには傷一つつくことはありません。
そしてイグナーツとブルーノがそれぞれ構えました。
﹁それでは一回戦イグナーツ・ドレイシーVSブルーノ・ディック
ハウト戦闘開始!﹂
アイス先輩の声を合図に二人は動き出した。
257
第五十二話 対戦!︵後書き︶
因みにこの組み合わせは作者が実際にあみだくじを使用してなった
結果です。
258
第五十三話 イグナーツ・ドレイシーVSブルーノ・ディックハウト
﹁行くぜ!イフリート!﹂
ブルーノの掛け声とともに彼の体と武器が真っ赤な炎に包まれる。
如何やらブルーノの守護精霊は火属性の守護精霊みたいですね。私
もペガサスがいますけどあの子は翼をはやして飛ぶという移動手段
専用であまり戦闘には使わないんですよね。
それにああいう属性付の守護精霊の憑依はコントロールが下手だ
と自分自身にダメージがあるので余程の実力が無いと無傷で使用す
ることはできません。その点を考えると小さい男もちゃんと成長し
たんですね。今度からちゃんと名前で呼んであげましょう。
﹁僕も行くよ。サキュバス!﹂
イグナーツもブルーノに対抗するように自身に守護精霊を憑依さ
せる。その体から悪魔のような羽が生え、誰が見ても分かるほど魔
力が上昇しています。
﹁おりゃああ!﹂
ブルーノが剣を振ると纏った炎がイグナーツに向かって襲い掛か
る。
ウォーターボックス
﹁水よ敵を閉じ込めろ水檻﹂
イグナーツが魔法を唱えるとブルーノが水に閉じ込められました。
259
﹁やはり魔法に関してはイグナーツは目を見張るものがありますわ
ね。﹂
感心したようにカモミールさんが感嘆の声を漏らす。その言葉がや
はり気になってしまう。
﹁彼はどんな感じでしたか?﹂
自分のいない間の事がやっぱり気になってしまって思わず問いかけ
ました。
﹁そうですね。容姿は可愛らしい方だとは思います。戦闘では体術
は苦手としています。でも逆に魔法は得意といった典型的な魔法使
いタイプの方ですわね。﹂
カモミールさんの説明に思わず見た目通りじゃないですか。あん
まり聞いた意味がないような気がしました。
﹁その点ブルーノ君は魔法剣士タイプの方ですわね。本人は農民出
身と不機嫌でしたが体術も優れていて魔法の才能も彼はあるんです
よ。不思議なほど彼は才能があると思いますわ。﹂
まるで獲物を見つけた猛獣のような目つきでブルーノをうっとり
と眺めるカモミールさん。思わずブルーノに同情しました。
私は再び観戦モードに入ると、ブルーノを閉じ込めたはずの水の
檻はブルーノの炎によって蒸発していました。カモミールさんが言
っていたように確かにブルーノにはとてつもない才能があるのでし
ょう。
260
まあ自慢ではありませんが私もクリスも魔法の才能についてはか
なりあります。そうでなければわずか12才くらいでSランクにな
んかなれるわけがありません。
﹁終わりだ!﹂
水の檻から出て切ったブルーノはイグナーツとの距離を一気に縮
めると炎を纏った剣でイグナーツを吹っ飛ばす。
﹁グハッ。﹂
イグナーツは頭を地面に強打するとそのまま意識を失った。
﹁勝者ブルーノ選手!﹂
アイス先輩がブルーノの勝利宣言を報告しました。負けたイグナ
ーツはダリア先生によって保健室に連れて行ってもらいました。
﹁次の対戦はエリザベスVSクリス両者フィールド内へ!﹂
クリスは私の方を振り向くと
﹁私がどれだけ強くなったかその目に焼き付けといてね。﹂
自信満々に宣言してフィールドに入っていきました。そして隣には
﹁一回戦目からクリスサンとか私を殺す気!?﹂
恐怖で怯えているエリザベスさんがいました。
261
第五十四話 エリザベスVSクリス
﹁ほら覚悟を決めて逝ってきてください。﹂
中々戦おうとしないエリザベスさんをフィールド内に押し込む。
﹁リーズさんなんか言い方可笑しい!?後押さないで!?クリスさ
んがどれだけ強いか一番よく知ってるでしょう!?﹂
そうですね。よーく知ってますよ。でも私も早く戦いたいんです。
エリザベスは後ろでクリスが自分を引っ張ろうとしていることに気
が付いていなかった。
﹁えい。﹂
楽しそうなクリスの声とともに
﹁エリザベスVSクリス戦闘開始!﹂
アイス先輩の言葉によって戦いの幕は上がったのでした。
﹁酷い!?﹂
叫びながらもエリザベスさんは自分の背中から武器を取り出し、
その言葉とは裏腹にしっかりと力強く構える。そんなエリザベスさ
んに対してクリスも武器を取り出す。禍々しい雰囲気に見る者によ
っては、恐怖を感じるであろうそんな一品。確かこっちに来た時に
購入したと言っていた武器ですね。少しだけ懐かしく感じました。
262
﹁何で今そんな禍々しい武器出すの!?﹂
ハルバード
エリザベスさんは禍々しいオーラに包まれた武器を見るとクリス
の武器を弾こうと鎌槍を出してクリスの武器を攻撃し始める。
今までエリザベスさんの戦闘う場面を見る機会が少なかったから
ハルバード
なのか強いのか弱いのかはっきりしない人物だと思います。でも今
の動きを見ていると鎌槍の使い方はとても優れています。
少なくともクリスが攻める隙を与えさせ無い様に必死に攻撃して
いるようにも見える行動ですが、実際クリスが攻めていない以上エ
リザベスさんも強いのだと思いました。
﹁行くよイブ憑依!﹂
そう言うとクリス自身も禍々しいオーラに包まれていきます。し
かもイブって確か家出した時に手に入れた守護精霊?三年も前の出
来事だったせいか記憶がうろ覚えですね。
﹁そんなリーズに解説してあげよう。﹂
いきなりクルトが現れました。
﹁それにしても何時から真人間になったんですか?﹂
女装のしていない普通の男性の制服を着用したクルトを見て思わ
ず問いかけました。
﹁単に体つきが男らしくなってきちゃって女物の服がに合わなくな
ちゃっただけだよ。﹂
263
残念そうに呟く姿に思わずため息をついた。
﹁解説するならご自由にしてください。﹂
﹁なら解説始めるね。クリスの守護精霊であるイブは僕のご先祖様
で大の美少女好きの魔族でね。基本的に美少女にしか協力してくれ
ないんだ。﹂
それで美少女であるクリスにあっさりと協力したというわけです
か。守護精霊にもあんなのがいるのかもう嫌になります。
﹁そしてイブの能力は攻撃が当たると相手を呪い状態にすることが
できるんだ!ほら見てごらん。﹂
その言葉を聞いて渋々観戦すると大量のアンデットのようなものに
憑りつかれているエリザベスさんの怯えた姿がありました。
﹁私まだ死にたくないー!?﹂
それを振り落とそうと必死に攻撃してますけどかすりもしません。
それどころかアンデットには実体が無いので武器はすり抜けるだけ
でした。
﹁だったら。フェアリー憑依!﹂
エリザベスさんが自身の守護精霊を憑依させると背中には妖精と
同じ羽が生え、体の至る所が光の粒子に包まれました。
ファイアーアロー
﹁敵を焼き尽くせ!火矢﹂
264
エリザベスさんの魔法はアンデットを消滅させてクリスにまで攻
撃が届いた。
﹁フェアリーは憑依した人物の魔法に光属性の魔法効果が付くんだ。
だからアンデットとか闇属性の武器やモンスターに大ダメージを与
えられるんだよ。﹂
属性の追加ですか。お母さんが使っている死神の即死効果と同じ
ようなものですかね。
﹁その程度じゃ私には勝てないよ。﹂
攻撃が当たったと油断していたエリザベスさんの背後からクリス
が襲い掛かる。クリスは思い切り武器を振り下ろす。エリザベスさ
んは自分の武器でそれを防ぐも威力が強すぎて武器ごと地面に叩き
つけられました。
エリザベスさんは地面に激突してそのまま意識を失いました。
﹁勝者クリス!﹂
﹁イエーイ!﹂
勝ったと同時にクリスが嬉しそうにピースしました。
﹁おめでとうございます。﹂
﹁ありがと。でも私リーズにも負ける気はないからね。﹂
265
﹁望むところです。﹂
私とクリスは恋人同士です。でも勝負とは別物ですから手加減なん
てしません。それにこう見えて私は負けず嫌いなんです。
﹁それでは次の対戦に移ります。アダムVSカモミール両者フィー
ルド内に入ってください。﹂
これはまた珍しい組み合わせですね。どんな勝負になるのか凄く楽
しみになりました。
266
第五十五話 アダムVSカモミール
﹁うふふふ。﹂
﹁あははは﹂
二人の人物は今の状況が楽しいのか笑いながら戦っていました。
実際は戦っているというよりはカモミールさんが一方的にアダムに
攻撃を加えてそれを嬉しそうに受けるアダムの姿がありました。
﹁ああ、なんて幸せそうな顔羨ましいな。﹂
隣で欲望の眼差しで観戦しているクルトの姿がありました。勿論
これを見ている真面な人たちはドン引きしています。
思い返せば人の生血が好きなカモミールさんと攻撃を喰らうのが
好きなアダム組み合わせ的にこうなりますよね。
﹁でもアダムは普段は真面な人なんだよ。﹂
クルトのその言葉に
﹁どんな冗談ですか。﹂
と即座に返しました。だってあの変態が真人間だなんて誰も信じま
せんよ。
﹁本当だよ。アダムはね沢山の人に見られると興奮するんだ。だか
ら人の少ない場所に居る時は真人間なんだよ。﹂
267
その言葉を聞いて思い返すとそう言えば三年前の私が日本に行く
直前の時はいくらか真面な時がありました。でもそれは逆に言えば
人が複数いる今の状況は⋮。
﹁アダムのテンションは高いよ。﹂
嬉しそうに笑顔で観戦しているクルトの姿に苛立ちが募る。
﹁行きますわよ!﹂
カモミールさんも興奮しているのか初っ端から自身の守護精霊を
憑依させてアダムに容赦のない攻撃を仕掛けています。
それに対してアダムも守護精霊を憑依させて入るものの受け身の
状態のままで一向に攻撃は仕掛けずカモミールさんの攻撃を受け続
けています。
しかもアダムの体にはダメージが全然ありません。自然治癒能力
がけた外れだとは聞いてはいましたがここまでとは思いませんでし
た。
カモミールさんが本気を出したのかアダムの傷は治るより早く増
えていきます。それを見てもアダムは動こうとはせずにただカモミ
ールさんの攻撃を受け続ける。
﹁もっとだ!もっと俺を傷つけろ!﹂
その言葉にクルトがため息をつく。
268
﹁また、悪い癖が出ちゃった。﹂
﹁悪い癖?﹂
クルトの呟いた言葉が少し気になりました。
﹁アダムは興奮すると受け身にしか回らないから攻撃しなくなっち
ゃうんだよ。元は結構強いのにこういう時に残念で仕方がないって
思うよ。﹂
確かに興奮するたびに攻撃もしないで寧ろ攻撃に当りに行くんで
すから傍迷惑な話ですね。変態とは言え仮にもチームメイトがこん
な状態になったら嫌ですね。普通は無いですけど。
﹁ああ、私今とても幸福な気分ですわ。﹂
うっとりと言った表情で呟くカモミールさんでも攻撃を加えるそ
の手は激しさを増していくばかりです。
﹁俺も今最高に気持ちが良いぜ。﹂
此方もうっとりと言った表情で呟く、でも限界が来たようでアダ
ムは倒れました。
﹁勝者カモミール選手。﹂
アダムが倒れるとカモミールさんは攻撃を止めました。
﹁私反応のない者に攻撃をする趣味は無いんですの。﹂
269
勝者はカモミールだというのに残念そうに呟くとフィールドから
出て椅子に座りました。アダムの方は傷が意外と多いのか保健室に
運び込まれました。
﹁アダムはよく今まで生き延びられましたね。﹂
私の時といいカモミールさんの試合の時といいあの癖は何とかし
ないと死にますよ。
﹁僕との契約があるからね。﹂
嬉しそうにクルトは微笑んでいる。
﹁契約?﹂
﹁前にも言っただろう。勘違いから始まった甘いロマンスな物語だ
よ。﹂
若干話が可笑しくなっていますが、確か子供の頃の勘違いがどう
のこうのという感じだったと思います。まあどうでもいいですけど。
﹁次の試合は、マリエル選手VSリーズ選手。﹂
ついに私の番が着ました。やっと戦える。嬉しくて思わず拳に力
が入ります。マリエルも嬉しいのか此方を見て嬉しそうに拳をぎゅ
っと握りしめている姿が見えました。
﹁でも残念だなこれで皆戦ったから、一回戦で戦わないの俺だけな
んだね。﹂
270
クルト残念そうにため息をついていました。
﹁それは残念でしたね。﹂
私は早く試合に出たかったので適当にあしらうとフィールドに入り
ました。
﹁マリエルVSリーズ戦闘開始。﹂
271
第五十六話 マリエルVSリーズ
私は手甲を付けました。これは手に付ける防具で誕生日にお爺ち
ゃんからもらいました。攻撃には使えませんがマリエルの様に肉弾
戦を得意とする相手になら有効に使えます。
﹁それ向こうの世界で手に入れたもの?﹂
﹁はい肉弾戦を得意としていると聞いた覚えがあったのでどうせ戦
うのなら同じ戦闘方法で勝ちたかったので。﹂
相手にしてみれば挑発に思えるかもしれません。でもこれは私の
意地です同じ条件で勝たなければ意味がありません。
﹁上等よこっちは全力で行くわよ!﹂
特に気にした様子もなくマリエルは私に向かって拳をぶつけて来
ました。私も応戦するように手甲で防ぐ手甲の上からなのにとてつ
もない衝撃に思わず笑みがこぼれました。
﹁私も本気で行きますね。﹂
嬉しくなって私は向こうの世界で出会った仲間の鬼を憑依させる。
鬼を憑依させると身体能力が大きく上昇するので今のこの状況には
とても相性がいいです。
そしてそのままの状態で私は思い切り拳をマリエルに向かって振
るいました。
272
元々力の強い私が身体能力を上げて思い切り拳を放てば、当然相
手には大きなダメージになります。このように
﹁きゃあああ!?﹂
マリエルは上手く私の攻撃をかわしましたが、拳の風圧でフィー
ルド外まで吹き飛ばされました。ですがその程度では気絶まではし
なかったようで再び私に向かって拳を振り上げてきます。力では私
に勝てないと踏んだのか、スピードを上げての素早い攻撃の連続で
した。
﹁クリスも言ってたけど本当に強いわね!﹂
状況は私の方が有利だというのにまるで恰好の獲物を見つけたと
ばかりにギラギラとした目で拳を振り続けるマリエル。
正直こっちの世界に戻ってきてからはどれくらい私の力が通じる
か不明でした。でもこれだけ戦えるなら向こうの世界での特訓は無
駄ではなかったようなのでとてもうれしく思います。
﹁ありがとうございます。でしたらこんな技はどうですか?﹂
私はわざとマリエルのガードの上に拳ではなく掌底を入れる。マ
リエルはこの技の事を知らないようで警戒はしていたけれど、でも
すぐに分かります。 その掌底に少し力を入れて外傷ではなく内側に響く様に力を込め
ました。
﹁うあっ!?﹂
273
その内側からの衝撃に驚きそしてダメージが強かったのかマリエ
ルはその場に倒れました。
﹁勝者リーズ選手!﹂
﹁リーズ凄いよ!今の何!?﹂
クリスは技の事を知りたいのかまるでおもちゃを見つけたような
子供のような顔で私に近づいてきました。
﹁あれは掌底です。﹂
﹁掌底?﹂
﹁はい、普通拳を相手にぶつけた場合傷ができますよね。﹂
﹁うん。﹂
﹁でも私が使った掌底は内側に傷をつくる攻撃なんです。﹂
﹁そう言う事か。﹂
今の説明で分かったのか嬉しそうな顔で納得していました。
﹁全ての一回戦が終わったので一旦休憩をとります。﹂
アイス先輩のその言葉にそれぞれ休憩に入る。
﹁リーズさんご一緒に紅茶を飲みませんか?﹂
274
何時の間に近づいてきていたのか背後からカモミールさんに話しか
けられました。
﹁何時の間に私の後ろに居たんですか!?﹂
吃驚して構えてしまいました。
﹁今ですわ。ゆっくりお話しできる機会なんて久しぶりですし。い
ろいろ聞きたいことがあるんですよ。﹂
真剣そうに私を見つめるカモミールさんその横ではクリスが私の
腕をぎゅっと握りしめながらカモミールさんをじっと睨みつけてい
ます。
これが噂の修羅場というやつなんでしょうか?
﹁そちらの世界の紅茶はどんな感じでしたの!﹂
カモミールさんの異世界の一番の興味は紅茶なんですね。思わず
気が抜けました。クリスもその言葉に睨み付けるのをやめて笑顔に
なりました。
﹁私もリーズが暮らしてた三年間のお話聞きたいな!﹂
右にクリス、左にカモミールさんというこれぞ両手に花という展開
になっている私です。
﹁そうですね。紅茶は沢山種類がありましたよ。どれも美味しかっ
たですよ。﹂
275
私のその言葉にカモミールさんが目を光らせる。
﹁羨ましいですわ。﹂
そして残念そうに目を伏せています。向こうの世界だけにしかな
いでしょうから残念に思うのも無理もないですね。
﹁ねえやっぱりおいしい物とかもたくさんあった?﹂
﹁いっぱいありました。料理もとてもおいしい物が沢山あって驚い
たくらいですよ。﹂
向こうの世界での暮らしはとても平和でとても裕福でした。おか
げでクリスに対して何度罪悪感を抱いたことか。
﹁そろそろ次の対戦に移りますので皆さん集まってください!﹂
アイス先輩の声が聞こえたので話を終わりにしてフィールド近く
に集まります。
アイス先輩が全員が揃ったのを確認すると
﹁では次の対戦はブルーノVSクリス両者前へ!﹂
その言葉に嬉しそうな顔をしたクリスが颯爽とフィールド内に移
動します。
逆に酷く青ざめたり真っ赤な顔したり忙しそうな様子を見せるブ
ルーノの姿がありました。
276
第五十七話 ブルーノVSクリス
ブルーノside
如何する俺!?ブルーノはかつてない危機に陥っていた。今回の
対戦相手はクリス。そして彼の今の思い人はクリスとリーズという
優柔不断状態なのだが、当然男のプライドと言うものがあるし前る
ことはできない。
かと言って対戦相手であるクリスは過去に一度ボロボロに負かさ
れた相手でもある。
正直戦いたくないという色々と私情が挟まっている。
﹁ブルーノVSクリス戦闘開始!﹂
でもどんな時でも勝負の世界は厳しい物。好きな相手だから戦え
ません。なんてことが許されるような相手ではなかった。
﹁行くよ!ブルーノ!﹂
戦いたくないブルーノとは対照的にクリスは嬉々としてブルーノ
に攻撃を仕掛ける。クリス自身は戦いを好む性格なので恋人が相手
であろうと容赦なく拳をふるう性格である。
そんなブルーノに対しての感情は当然友達感覚である。当然のご
とく最初から微塵も容赦などされることもなくフルボッコにされて
いた。
277
﹁ぐああああ!﹂
ブルーノが力を出すどころか一発も拳を繰り出す暇もなくボロボ
ロにされたわけだが。
﹁え∼と勝者クリス!﹂
最早虫の息の状態のブルーノを放置してクリスは嬉しそうな顔を
するとリーズに飛びついた。
﹁勝ったよ!これでリーズが勝てば次は私と一騎打ちだね!﹂
その言葉に思わず気合が入る。
﹁そうですね。絶対に勝って見せます。﹂
そして約束を守ってもらいます。
私はとてもうれしそうに笑っていると思います。だって本当に楽
しみなんですから。
﹁次の対戦はカモミールVSリーズ両者前へ!﹂
﹁カモミールさんと戦うのはこれで二度目になりますね。﹂
﹁そうですわね。﹂
あの時は辛くも私が勝利を収めたわけですけど、相手も成長して
いるうえにもうあんな痛い思いは御免です。だってシャレにならな
いくらい痛いんですよ!?
278
私はフィールド内に入りました。
カモミールさんは猛獣のようなギラギラとした目で私をじっと見
つめています。フィールド内には緊迫した空気が漂っていました。
279
第五十八話 カモミールVSリーズ
キンッ パキッ
私の愛用していたナイフの折れる音が響いていました。確かに色
々成長はしてると予想はしていました。けどまさか牙でナイフをか
み砕かれるとは思いもしませんでした。
﹁私もあれから鍛えましたから。絶対に獲物を逃がさないために。﹂
未だに私の血の事を諦めたわけでは無かったという事ですか。寧
ろ強化されてるあたり念入りに計画を立てていた気がします。
カモミールさんはペロリと舌なめずりをすると再び私に襲い掛か
ってきました。
武器を失った私は手甲で防ぎました。さすがに手甲はかみ砕く事
は出来なかったようでカモミールさんは残念そうな顔しています。
﹁いい防具ですわね。私の牙よりも固いなんていったいどんな職人
がお造りになったんですか?﹂
その言葉に思わず笑みがこぼれる。
﹁これは誕生日プレゼントにお爺ちゃんに貰ったものなんです。﹂
﹁あら、そう言う事でしたの。﹂
カモミールさんは納得とばかりに頷いています。
280
﹁火の生霊よわが名に従い敵を燃やせ!﹂
私が呪文を唱えると生霊がカモミールさんに周りに集まりだす。
カモミールさんは自身の爪で生霊を攻撃しましたが触れることもな
く通り抜けてしまいました。
﹁これはいったい?﹂
余裕だった表情は消え、焦りから魔法を唱えようと構えました。
でも、もう遅いです。カモミールさんの呪文が発動する前にカモ
ミールさんの体が炎に包まれます。
﹁きゃああ!?﹂
カモミールさんがその場に倒れるのを確認すると私は炎をすぐに消
しました。
﹁勝者リーズ!﹂
アイス先輩の判定が決まると私はカモミールさんに近づきました。
﹁大丈夫ですか?﹂
自分がやったこととはいえ安否の確認をする。
﹁大丈夫と言えば大丈夫です。最後に使っていたあれは魔法なんで
すか?﹂
281
カモミールさんは不思議そうに私に問いかけます。
﹁確かに魔法と似ていますがあれは陰陽術と言うものです。﹂
﹁陰陽術?﹂
﹁向こうの世界に行ったときに学んだ術です。﹂
そこまで言えばカモミールさんは納得とばかりに頷きます。
﹁私の攻撃が聞かなかった理由は?﹂
﹁それはこの世界で言うアンデッドと同じ効果を持つからですね。
一番似てるのはゴーストだと思います。あのモンスターも触れずに
すり抜けますから。﹂
﹁そうですか。ありがとうございます。リーズさんは次もあります
から連戦ですわね。﹂
﹁そうですね。﹂
私は次の対戦相手であるクルトの顔を観察する。何故か目が会う
とウインクをされました。正直な話彼と戦うのは遠慮したいですね。
﹁次の対戦はリーズVSクルト両者前へ。﹂
と言われても私は既にいるんですけどね。
﹁カモミールさん歩けますか?﹂
282
そう聞くとカモミールさんはいつもの様に優雅な笑みをこぼし
﹁ええ、大丈夫ですわ。﹂
普通に歩き出していました。
﹁やあまたリーズと戦えるなんてすごく嬉しいよ。﹂
クルトは笑顔で私の手をがっちりと握っていました。目に入った
ものだからついステータスを見てしまいました。ステータスを見る
と能力値がかなり高い事が分かります。変態なのに強いとかある意
味最悪ですね。でも女装はしなくなったらしいので変態ではないん
でしょうか?
﹁リーズVSクルト試合開始!﹂
283
第五十九話リーズVSクルト
考え事をしている間に試合が始まり私は構えました。
﹁リーズは、魔法を使った方が戦いやすいんだよね。こんなのは如
何?﹂
突然周りの景色が変わりフィールドの外に居るはずのクリス達の
姿が見えなくなりました。
﹁これは幻覚魔法ですか?﹂
私の言葉が正解だったのかクルトは嬉しそうな顔をします。
﹁正解。でもただの幻覚魔法じゃあないんだよ。﹂
クルトがそう言うと急に私の足に斬られたような傷ができました。
﹁っ!?﹂
突然走った痛みに思わず顔が歪みます。
﹁僕もまだ後輩に負けたくは無いからね。それなりに本気を出させ
てもらうよ。﹂
今度は腕に火傷のような跡が出来ました。クルトはその場から一
歩も動いていないのにどうして私の体に次々と魔法攻撃を受けたよ
うな形跡だけが残るのでしょうか?
284
元々クルトは魔族で魔法に特化しているはず、ならこの不思議な
現象も魔法が原因のはず!ならこっちもそれなりに本気で対応する
までです。
私は守護精霊である光の巫女を憑依しました。この守護精霊の能
力は魔法能力を一定時間だけ消すことができます。
﹁嘘!?﹂
私の考えは当たっていたようで、クルトの使った幻覚魔法も解け
て技の正体が分かりました。
今度は雷の魔法を発動させようとしているクルトを見ればおのず
と答えも見えてきます。おそらくクルトは魔法攻撃を仕掛ける時に
最初から発動し続けている幻覚魔法で自身の放った魔法を上手く隠
していたんですね。だから私は魔法を見る事も出来ずいきなり傷が
できたと勘違いしてしまった。
﹁それに魔法が見えるならかわす事も出来ます。﹂
私はクルトの放った魔法をかわし、クルトに拳を放ちます。
﹁うわあ!﹂
魔法は強いみたいですが肉弾戦は寧ろ弱いくらいなのであっさり
と一発で沈みました。とはいえ流石魔族イグナーツの時と言い侮れ
ません。
﹁勝者リーズ!﹂
285
その言葉に笑みがこぼれます。だってこれでクリスと戦えます。
フィールドの外に居るクリスと視線が合いました。クリスも同じよ
うに嬉しそうに笑っているのが見えました。
﹁次は決勝戦になります!クリスVSリーズ両者前へ!﹂
286
第六十話 決勝戦クリスVSリーズ
クリスは私に近づくと治癒魔法で傷を治してくれました。
﹁ありがとうございます。﹂
﹁これで丁度総合的に同じくらいの状態だと思うから。﹂
﹁それにしても自分が望んだこととはいえ、こうしてクリスと戦
うなんて今まで一度もありませんでしたから、何だかとても新鮮で
すね。﹂
﹁そうだね。﹂
傍から見れば普通の会話。でもお互い心の中では今すぐにでも戦
いたい!そんな気持ちで溢れています。私もクリスも歓喜から拳が
カタカタと震えているのが分かります。
﹁それでは決勝戦!クリスVSリーズ戦闘開始!﹂
アイス先輩の声を合図に私たちはお互いに動き出します。クリス
ちゃんはあの凶悪な杖で私は手甲を付けてそれぞれ拳をぶつけます。
殴り合いにしては物騒な音が響きます。バキッドカッに加え杖や
手甲にピキッとヒビの入る音まで聞こえました。でも、クリスと戦
うんです。この程度の肉弾戦だけでは満足できません。もっと、も
っと!激しくて、心が高ぶるような戦いをしたいです。
クリスも同じ気持ちなのかまるで天使の様に微笑むと次の瞬間ク
287
リスがイブを憑依させて魔法を放つ態勢に入りました。
ダークバスター
﹁闇よ敵を消し飛ばせ!闇の砲撃﹂
此方も負けないように鬼を憑依させます。相手の攻撃をよけるん
じゃなくて受け止めたうえで反撃します。けれどこのまま受け止め
るのにも限界があるので上手く体をずらして、自身の魔力をコント
ロールして受け流します!
クリスの魔法が私に当たりました。
流石に憑依させた上に闇系の上級魔法とんでもない威力です。幾
ら私でも生身で構えもしないで受け止めたら魔力の影響で体がボロ
ボロに崩れてしまいます。でも何とか受けきりました。
はあはあと肩で息をしながらも私は一心にクリスを見つめます。
﹁次はこちらの番ですよ。﹂
﹁私も負けないよ!﹂
私は鬼ではなく光の巫女を憑依させます。
シャイニング
﹁光よ敵を聖なる光に包み込め!聖光﹂
﹁嘘!光魔法!?﹂
クリスは驚いています。そうでしょうね。私も今まで光属性の魔
法なんて使ったことなかったですし。その上今のクリスの属性は闇。
光属性の魔法を喰らえば唯ではすみません。どう対処します?
288
クリスは覚悟を決めると一旦憑依を解除してエンジェルを憑依さ
せる。
﹁クリスも考えましたね。﹂
その対処法に思わず感嘆の声を漏らす。
光属性の技を光属性のモンスターが喰らっても回復するか無傷又
は少量のダメージにしかなりません。うっかりしてました。でも、
今度はこちらも手段を変えていけばいい話です。
﹁それじゃあ今度は私の番だよ!﹂
クリスはまたイブを憑依させる。
デスダーク
﹁闇よ敵を闇へ葬れ!死闇﹂
クリスの本気に思わず頬が引きつります。しかもこれ即死魔法じ
ゃないですか!?
いやそんなまだ本気だせるよね。みたいな顔しないでください。
攻撃をかわさないで受け止めるか防ぐしかしちゃいけない雰囲気な
のにここで交わしたら私の負けじゃないですか!?
それに即死魔法を使うという事は私にかわす以外の方法が無いと
いう事になるんですよ!そんなのズルいです。私も最初に考えまし
たけど流石に卑怯だと思って使わない様にしていたのに!
今はそんな文句を言ってる場合じゃないです。ああ、もう!あれ
289
だけは絶対に使いたくなかったのにしょうがないので向こうの世界
に戻った時に生まれた私の守護精霊を憑依させます!
290
第六十一話 最凶の守護精霊
おうばんしん
あれは日本に暮らし始めて一年が過ぎた時でした。
黄幡神日本の神様で別名万物の墓の方といい、また兵乱の神とも
いう。
﹁お爺ちゃんに一応聞きます。何故このタイミングで私の守護精霊
としてこの国の神様が生まれたんですか?﹂
﹁知らん!﹂
私の守護精霊が誕生したのです。あれですか守護精霊だけ先に里
帰りでもしてたんですか。しかも墓とか兵乱とか明らかに物騒な神
様ですね。生まれたての守護精霊をじっと眺めます。
生まれたてだというのにその見た目は成人男性と同じくらいの大
きさでした。その名の通り髪も目の色も黄色でというか私女の子な
のにどうして男の守護精霊が生まれるんですか!?なんだか納得で
きません。
﹁まあ生まれたもんはしょうがない責任もって面倒見るんじゃぞ。﹂
﹁分かりました。﹂
そうして黄幡神との生活が始まったのです。
最初は特に面倒事もなく寧ろ平和的だったんです。何も問題も起
こさなかったし、普通に後ろにいるだけで騒ぎ立てる様子もなかっ
291
たんです。
事件がおきたのは次の日の朝。私が目を覚ますよりも早くお母さ
んの修業という名目で襲撃にあったんです。そしたら黄幡神が大暴
れしたんですよ。
正確に言うと黄幡神が勝手に私の体に憑依してお母さんと戦闘を
始めたんですよ。
流石に物騒な意味を持つ神様。とてつもなく強かったんですね。
これがお母さんと互角に戦えるほどにでも肉体は私のなので当然痛
いのは私です。
大分暴れた後に私が主導権を奪取してなんとかその場を収めたん
です。でもそれ以来黄幡神を憑依させない様にしました。
こんな出来事があったので使いたくなかったんです。でも今使わ
ないと私の命が危ないので使っちゃいます。
おうばんしん
﹁黄幡神憑依﹂
そう言うと私の髪と目が黄色く変化する。そしてその状態のまま
私は即死魔法を素手で握りつぶしました。
﹁嘘⋮⋮。﹂
クリスが茫然と呟く姿が見えました。
私も吃驚です。まさか素手で即死魔法を消し去れるとは思いませ
んでしたよ。
292
﹁私の負けだよ。即死魔法を素手で握り潰されちゃったら私がどん
な魔法を使っても勝てないもん。﹂
クリスはいじけていました。
﹁決勝戦!勝者リーズ!﹂
でもこれで私が優勝です!クリスの手を取って立ち上がらせます。
﹁あんな守護精霊いつ手に入れたの?﹂ クリスは恨めしそうに私の背後にいる黄幡神を睨み付けます。
﹁実はこの守護精霊向こうの世界に行ったときに生まれたんですよ。
﹂
﹁普通は守護精霊も一緒に生まれるんじゃないの?﹂
不思議そうに首を傾げているクリスに説明をしました。
﹁私も詳しいことは知りません。でもこちらの世界に居た時に私の
守護精霊は生まれてなかったんですよ。それが原因だと思っていま
す。﹂
﹁確かに理由としてはそれが一番無難だね。﹂
そんなこんなでトーナメント戦は見事に私の勝利で終わり。負傷
した人たちの見舞いに行って様子を見てから自宅に帰りました。
293
そして私は今とてもうれしそうな顔をしているんでしょう。だっ
てまだやり残したことがあるのでそれを済ませちゃいましょう。と、
とびっきりの笑顔でクリスに向かい合います。私の顔を見ると何故
かクリスが後ずさりします。
﹁リーズなんか怖いよ⋮⋮?﹂
そんなクリスに構わず私はあの時のクリスの様に意地悪そうに唇
の上に人差し指を軽く乗せます。
﹁約束。﹂
そう言うとクリスも笑顔になりました。
﹁そうだね!﹂
そう言うとお互いに近寄り、軽くチュッとキスをしました。
ファーストキスはレモンの味というのを聞いたことがありますが
私たちの場合はとても幸せな味がしたとだけ言っておきます。
294
第六十二話 久しぶりの学園
次の日になると私は久しぶりに学園に向かいました。でもクリスが
言うには今年で学園生活は最後だというので色々と学園長と交渉に
行こうと思います。だって向こうの世界に行ってしまったのは自分
んの意志ではないんですから不可抗力です。
そんなわけで何とかクリスと同じ時期に学園を卒業するための交
渉に向かいたいと思います。
﹁頑張ってね!﹂
クリスは他人事のように手を振っていますが大方無理だとでも思
ってるんでしょう。ですが私もバカではありません。普通に交渉し
たところで良い返事が貰えないことは分かっています。
なら私がやることは卒業する為の条件を今年中に満たせばいいの
です。幸い最初の年に取った科目は習得済みになっているはずです。
ある程度余裕をもって課題に取り組んでいましたから。
﹁失礼します。﹂
学園長室に入室すると早速交渉を試みました。
﹁私もクリスと同じ年に卒業させてください!﹂
﹁構わないよ。﹂
あっさりと返事がきました。
295
﹁自分で言うのもあれですけど本当にいいんですか?﹂
﹁リーズさんは優秀だったからね。飛び級扱いにしておけばなんと
でもなると思うよ。﹂
卒業できるのならもう用件は済んだので教室に向かいましょう。
﹁失礼しました。﹂
私は急いで教室に向かいました。
﹁おはようございます。リーズさん。﹂
﹁おはようございます。カモミールさん。﹂
何だかこうやって挨拶をするのも久しぶりな気がしますね。
﹁皆さんリーズさんを教室で待ってるんですわ。急ぎましょう。﹂
そう言うとカモミールさんは私の手を取り走り出します。ガラリ
とドアを開けると其処にはあの時のメンバーが揃っていました。
﹁リーズお帰り。﹂
そう言うとマリエルは私に抱き付いてきました。
﹁ただいま戻りました。﹂
﹁ずるい私も!﹂
296
エリザベスさんまで私に抱き付いてきます。
﹁俺も抱き付いたら怒られるかな。﹂
﹁抱き付いたら殺されるんじゃないの?﹂
ブルーノとイグナーツの会話が聞こえました。
﹁抱き付いたら潰します。﹂
無表情で脅しをかけます。
﹁何処を!?﹂
ブルーノは顔色を真っ青に変えると剣を構えます。
﹁勿論心臓です。﹂
﹁殺す気かよ!?﹂
男性が女性の許可なしに抱き付くのはある意味犯罪なので私の中で
は死刑です。
﹁犯罪を犯さなければ殺しませんよ。⋮⋮多分。﹂
そう言えば犯罪を犯す以外にも殺しそうな場面がありました。とい
ろいろ思い出していました。
﹁今小声で多分って言った!?﹂
297
﹁はいはーい。出席とるよリーズさん﹂
﹁はいお久しぶりですね。ダリア先生またよろしくお願いしますね。
﹂
あえてニッコリとほほ笑みます。
﹁うん⋮。お手柔らかにね。﹂
先生は顔を引きつらせると全員の出席を確認していきます。
﹁それじゃあ出席確認終わったから先生は失礼します。﹂
勿論逃がしませんよ。
逃げようとする先生に狙いを定めると私は先生の足元にテレポー
トでボールを移動させました。当然のことですが先生は派手に転び
ました。しかも顔面を地面に叩きつけるという凄いリアクション。
これでようやく私も学園に戻ってきたんですね。と思う事が出来
ました。そんな満足そうな私を見てクリス達も嬉しそうな顔をして
くれています。
﹁良かったね。リーズ。﹂
﹁はい。﹂
﹁先生はちっとも良くないです。﹂
298
泣きながら地面にへばり付いたままの先生を眺めながらやっと私
はこの世界に帰ってきたんだと実感が持てました。
299
第六十三話 学園行事
そんなこんなで月日が流れ、今年の学園の入学式は、私たちのク
ラスVS新入生という、ある意味一番残酷な入学式が、始まろうと
していました。
私たちのクラスは、実力がチート気味なので戦った人物を気に入
ったり、入学させてもいいかな。と思う人物を入学させてください
とのことでした。 誰が戦うかは、後輩たちに選択権を与える。という事なので、今
回はあみだくじの出番はなさそうです。
今年は豊作だそうなので、新入生の数は百を超えると聞いていま
す。私等の年は、最初四人でしたからね。それに比べれば、どれだ
け多いのでしょうと思います。余程生温い試練だったのか、どうか
は知りませんが私たちで、一ケタくらいには絞ってやろうと思いま
す。
﹁ところで今日は、全員参加ですか?﹂
新入生は百人いるのだから幾ら私たちが強いからと言っても限度
と言うものもあるし、なるべく人数が欲しい所です。
﹁今回もニーノは欠席だって。というより正式に王位継承したから、
学校にも来れないらしいよ。﹂
クリスは残念そうに呟く。ニーノとはあまり会話をしたことが無
いので、正直どうでもよかったりするんですが、まあおいときまし
ょう。
300
﹁でも一対一で戦うのは何かと面倒ですし、まずは新入生同士で、
戦っていただきましょう。必ず私たちが戦って判定しろ。とは言わ
れていないのですから、特に問題もないですわ。﹂
カモミールさんはニッコリと、ほほ笑みながら新入生は新入生同
士で、潰しあってもらおうと提案する。でもいい案ですね。
﹁そうしましょうか。ルールは如何しますか?﹂
﹁普通にバトルロイヤルって感じで、戦ってもらって人数が減った
らこっちで合図して、戦闘止めてもらえばいいんじゃないかな?﹂
﹁でその後、更に残った人たちと、私たちのバトルを始めるんです。
﹂
私の言葉に全員が私の方を振り向く。
﹁リーズ、そんなことしたら流石に、新入生誰も居なくなっちゃう
よ。﹂
怯えるようにクリスは話す。
﹁今回マリエルに、負傷した生徒を治療してもらってから戦闘を始
めます。流石に傷だらけの新入生を、更に痛めつける気はありませ
ん。﹂
そう言えば全員がほっとしたように息を吐く。私はそこまで非常
識じゃありません。そもそもそんなことを、したら入学どころか死
人で溢れかえってしまいます。
301
﹁では新入生の皆さん同士で、戦いあってもらいます。一定時間が
経過したら、此方から合図を出しますから、そこで戦いは終わりで
す。入学したければ頑張って生き残ってください。では戦闘開始!﹂
私の声を合図に、新入生たちが戦いを始める。
﹁何人くらい残るかな?﹂
﹁さあ?今回私は回復係だから、戦わないし関係ないわ。﹂
﹁でも今年は豊作というだけあって、それなりに実力のある子が見
えますわ。﹂
﹁僕今回遠慮したい。﹂
﹁何でだよ?堂々と暴れられるんだぜ。﹂
楽しそうなブルーノの様子に、イグナーツはため息をつく。
﹁雑談をするのはかまいませんが、今年の新入生は侮らない方が良
いみたいですよ。﹂
私の言葉に、全員が雑談を辞めて、一旦新入生たちを見る。
するとそこには、百人いた生徒の大半が倒れていた。今立ってい
るのは、三名の新入生だけだった。
﹁何が起きたわけ?﹂
302
マリエルが私をじっと見つめる。
﹁私が合図をした直後に、あの三人の内の1人が魔法を使って周り
に居た新入生たちに、攻撃したんです。﹂
﹁でもそんな魔力、僕感知してない。﹂
確かにイグナーツの魔法に関しての、実力も知識もずば抜けている。
でも、
﹁恐らくですが、守護精霊の能力です。闇系魔法の中の相手の魔力
を、吸い取るタイプの魔法でしょう。﹂
守護精霊の能力は魔法とは違うものが幾つかある。恩恵を与える
タイプか、守護精霊の魔法を使ったか今、回は後者の方ですね。守
護精霊の魔法は精霊魔法に、分類されますからね。
これでこの三人と、私たちの中のだれかで対戦ですね。
またもやあみだくじの出番ですね。と思いきや。
﹁俺、あんたと戦いたい。﹂
1人の新入生が嬉しそうに、私を指名する。その挑戦的な言葉に、
私も闘争心を燃やす。
﹁良いでしょう。﹂
そう言うと私はフィールドを展開してもらい、中に入る。
303
﹁知っているだろうけど、私はリーズ。新入生あなたの名は?﹂
﹁俺はエリアス。よろしくリーズ先輩。﹂
その言葉を合図にお互いに動き出した。
304
第六十四話 リーズVSエリアス
ハリケーン
﹁いくぜ!先輩!敵を吹き飛ばせ!台風!﹂
掛け声とともに、巨大な風の魔法を発動する。
ハリケーン
﹁なら、こっちも敵を吹き飛ばせ!台風!﹂ あえて同じ魔法を発動させる。魔力の大きさは私の方が上、エリ
アスの発動した魔法は、私の魔法によって消され、エリアスにダメ
ージを与える。
﹁うわあああ!?﹂
エリアスは魔法の効果で上空に吹き飛ばされる。でも、ここで攻撃
の手を緩める気はない。
ライトニング
﹁雷よ、敵を断罪せよ!落雷﹂
上空にいるエリアスに、魔法が直撃する。
﹁いたた!﹂
エリアスはそのまま激しい音を立て、地面に叩きつけられる。
﹁やっぱ先輩に勝負を、挑んでよかった。﹂
傷だらけになりながらも立ち上がると、エリアスは嬉しそうにニヤ
リと笑った。
305
﹁だってこれだけ強いなら、俺が本気で殺そうとしても、死なない
よね!﹂
さっきまでの笑顔は消え、無表情で大剣を出してきた。しかも大
剣をよく見れば何やら呪いが憑いているのが見える。それも禍々し
い強大なものが。
﹁リーズッ!﹂
流石にクリスも危ないと思ったのか、戦いを中断するように、結
界を張った先生に抗議しているけど、相手はそれを見逃す気は、毛
頭もないみたいですし。それに今この状態で結界を解けば、周りに
被害が及びます。
自力で何とかすると言いたいところですが、生身の状態でこんな
呪いの掛かった大剣の攻撃を受ければ何が起きるか分かりません。
おうばんしん
﹁黄幡神﹂
守護精霊を憑依させて大剣を掴む。
その行動にエリアスは目を見開く。
﹁呪いの掛かった武器を、素手でつかむなんて、すごいね!﹂
無表情ながらに楽しそうに感嘆の声を漏らさないでほしい、正直恐
怖しか抱けません。
﹁それだけじゃないですよ!﹂
306
私はそのままつかんだ大剣を真っ二つに砕く。大剣はひび割れる
と粉々に砕け散る。そのままエリアスに連続で拳を打ち込む。
﹁はああああ!﹂
そして最後に場外に蹴り飛ばす。憑依状態という事もあって、結
界を破壊してエリアスは、外まで吹っ飛んだ。流石にあれだけの攻
撃を受ければダメージがあるのか、エリアスは立ち上がることは無
かった。
﹁私の勝ちです。でも、あなたに対して興味が出ました。入学の許
可を上げましょう。﹂
気絶しているエリアスに対して私はそう言い残した。
﹁リーズ!大丈夫?素手で呪いの掛かった武器を掴んじゃダメだよ
!﹂
クリスは心配そうに私に駆け寄ってきて安否を確認する。でも呪
いの掛かった状態の武器をクリスも使ってますよね。とは流石に言
えませんでした。
﹁でも、よかったの?あんな危険そうな子入学させちゃって。﹂
エリザベスさんは倒れているエリアスを眺めながら不満そうに語
る。
﹁少なくとも、私が倒せるうちは、まだ大丈夫ですよ。﹂
307
それに、あれだけの強大な呪いの掛かった武器を、何の能力も使
わずに素手でつかみ、尚且つその武器を使いこなす。そんな彼に興
味を持ちました。クリスも呪いの掛かった武器を使っていますが。
エリアスの武器と比べると呪いの規模が違いますからね。
武器を破壊してしまいましたが、おそらく明日には武器は元通り
になっているでしょう。武器を手放すことができない。それも一つ
の呪いのようでしたからね。
﹁マリエル、彼の治療をお願いします。﹂
﹁分かったわ。﹂
そう言うとマリエルは、エリアスの治療をする。
﹁貴方達はどの人と戦いたいか、希望はありますか。﹂
残った二人の新入生に、私は問いかける。
﹁なら私たちは二対二のタッグ線を希望します!対戦相手は、リー
ズ先輩とクリス先輩で!﹂
蒼い髪と青い瞳の少女は、隣の緑色の髪とオレンジ色の瞳の少女
と、手をつなぎながら答える。
﹁また、私?﹂
思いもよらぬ出来事に、クリスと目を見合わせ驚いていた。
308
第六十五話 愛の力
﹁噂で、リーズ先輩とクリス先輩は、恋人同士だと聞きました。﹂
やけに真剣な表情で、私とクリスを睨み付けながら話している。
﹁私とエセルも恋人同士です。﹂
突然のカミングアウトに私たちは固まる。そんな私たちを無視する
ように語り続ける。
﹁どちらの愛が強いのか勝負です!﹂
そう言い目の前の少女だけ構える。
﹁先輩方も構えてください!﹂
驚きに固まる私たちを、真面目に受け取ってくれていないと、感
じたのか怒りを感じる声で叫ぶ。すると少女の隣にいるエセルが、
何やら少女に耳打ちをしている。
﹁私の名前はレアです。こっちはエセルです。よろしくお願いしま
す。﹂
根は素直な子なのだろう。ちゃんと自己紹介と、挨拶をしてきた。
取り敢えずクリスと目を合わせると、
構える。
﹁行きます!﹂
309
此方に突撃してくるレアを軽くかわす。
﹁クリス!﹂
丁度間に入られ、分断される。私の前にはエセルがいた。
ドレイン
﹁敵の力を奪え!吸収﹂
魔法を発動される寸前に、咄嗟に動いてかわしたから、直撃はし
ていないのに、ゴッソリと魔力を奪い取られて、思わず相手を睨み
つける。
﹁貴方は強いから最初に倒す。﹂
エセルは小声でつぶやくと更に魔法を発動させる。
ダークウルフ
﹁闇よ敵を喰らいつくせ!闇狼﹂
私に向かってくる、守護精霊をかわしきれずに、傷を負う。
﹁痛っ!﹂
思ったより傷が深いのか右腕が下がったまま上がらなくなっている。
﹁きゃあ!﹂
クリスも敵の攻撃を受けたのか、此方に飛ばされてきた。
﹁大丈夫ですか?﹂
310
﹁大丈夫って言いたいとこだけど、ちょっとピンチかも。﹂
私も人の心配をしている場合ではないですね。利き腕は負傷して
るし、魔力は奪われてあまり残っていない。使えても巨大なのが一
発が限界です。守護精霊はやたらと使えないし。如何しましょう。
﹁ねえ、あれやってみない?﹂
クリスは何か思いついたのか、小声で耳打ちしてくる。そのとん
でもない無い様に
﹁本気ですか!?﹂
小声の作戦会議だというのに大きな声で驚いてしまいました。驚
いている私に、クリスは嬉しそうに笑いかける。
これ以上、打つ手がないというわけでも無いですが、折角クリス
が嬉しそうに、相談してくれているのだから、試してみるのもいい
かもしれません。
バランスをとるためにお互い抱きつく形になる。
﹁ちょっと戦いの最中にいちゃつかないでください!ズルいです!﹂
レアは不満そうに怒っている。逆にエセルは、私たちが何をしよ
ジャッジメント
うとしているのか、分かったようで此方に向かって魔法を放とうと
していた。
ダークネス
﹁闇よ敵に闇のさばきを暗闇﹂﹁光よ敵に光のさばきを聖光﹂
311
﹁嘘!?何あれ!?﹂
闇と光のユニゾン魔法。私も生まれて、初めて使いました。本来
対極にある属性の、魔法を同時に発動することはできない。当然の
ことながら反発して、互いの力を相殺してしまうためだ。
まあ、たった今できてしまったけど、実を言うと、同時に魔法を
発動したのは、これが初めてでは無かったりする。
あれは晴れて恋人になって数週間が経過したころ。
﹁ねえ、リーズ恋人になった記念にユニゾン魔法の練習しない?﹂
嬉しそうに、腕をからめながら言うクリスに私も笑顔で答える。
﹁それはいいですけど、どの魔法の練習するんですか?幾つかの魔
法なら使ったことありますよ?﹂
﹁闇属性と光属性の魔法のユニゾン魔法を使いたいの!﹂
ニッコリと満面の笑みでとんでもないことを要求してきた。
﹁クリスちゃん。対極にある属性のユニゾン魔法を、成功させた人
が一人もいないと知っていますか。﹂
そう対極にある属性しかも闇と光のユニゾン魔法は成功例が一つも
ない。
﹁リーズとならできる気がするの。﹂
312
でも、嬉しそうに笑いながら、強請ってくるクリスの要求を断る
ことはできず、結局魔法の練習を続け、あと一歩と居処まで進み、
成功することは無く今に至るのである。
ユニゾン魔法は、成功しその現象に思わず目を見張った。魔力の
勢いと範囲がとてつもなく強大なのだ。先生が張り直した結界は簡
単に崩れている。
﹁負けない!﹂
エセルは魔法を発動して必死に食い止めているけど時間の問題だ
ろう。この魔法を受けたのが魔法に長けたものでないなら、一瞬で
この世から消え去っているだろう。その点を考えると彼女達がとて
も強いことが分かる。
﹁きゃああ!﹂
﹁うあああ!﹂
魔法に力負けしてエセルとレアが吹き飛ばされる。流石にまずい
状況なので、使い方としてはよくないけど、
マジックフィールド
﹁魔法空間﹂
魔法空間に魔法を吸い込ませる。スポリっとすべての魔法を吸収
しきると私は、その場に寝っ転がった。疲労感から立っていられな
くなったからです。 ﹁リーズ!?﹂
313
それを倒れたと勘違いしたのか、クリスが近寄って私を抱き上げ
る。
﹁少し疲れただけです。大丈夫ですよ。あと、お二人ともとても強
かったですから。また明日に会いましょう。﹂
私がそう言うと二人は嬉しそうに抱き合っていた。
﹁今日はもう帰りましょう。疲れちゃいました。﹂
﹁ほら全員こっち来なさい。回復するから。﹂
回復してもらうとレアとエセルがこちらに近寄ってくる。
﹁負けました。先輩たちの愛には敵いませんでした。﹂
残念そうに笑うレアに私は嬉しく思いこう答えた。
﹁私たちの愛の強さは世界も越えますから。﹂
ポカーンと呆けた表情をしているレアとエセルを見て私とクリス
は笑った。
314
第六十六話 学校生活
入学式から数週間が経過し、新しい環境にもだいぶ慣れてきた。そ
んなときのことだった。
﹁おはようございます。先輩。﹂
﹁おはようございます。﹂
今日は攻撃魔法の授業の日。それも種族別でやる為、知り合いが
このレアとエセルともう一人。
﹁おはよう先輩。﹂
エリアスである。
﹁先輩!場所とっといたんで、此処どうぞ!﹂
エリアスは私に負けてから、舎弟の様になっています。クリスと
居る時とか、そこら辺は空気を読んで姿を消すんですが、学園に居
る時はずっとへばり付いている状態で、正直邪魔だと思う事があり
ます。
本人には気付いていないようだけど、あれは、どう見ても観察し
ていると分かりました。エリアスは、ただ私を慕っているんじゃな
くて、私の強さを探りたいんだと思います。
でも、ただ慕われるよりも、こうやって敵になってくれるような
存在がいるというのも、面白くていいと思います。今思い出しまし
315
たけど、ゴンザレス君の時はあまり楽しめませんでしたから、エリ
アスは私を楽しませてくれるでしょうか?
﹁ありがとうございます。﹂
エリアスが用意してくれた席に座る。そして私の左にはエリアス。
右にはレア。そしてレアの隣にエセルが座るというのがこの授業の
何時もの席順です。そして今日は、何時もの授業とは少し違ってい
た。
魔法教科担当のキース先生という先生が、説明を始めた。キース
先生は、緑色の髪と目をした、二十歳の若い先生です。成績優秀、
容姿端麗という功績を遺した、この学園の卒業生だそうです。当然
のごとく、強いです。強くなければ、この学園では、生きていけま
せん。冗談抜きで。
﹁今日話すのは、一か月後に行われる、感謝祭についてだ。皆も知
っていると思うが、毎年この時期になると、自然に感謝する。とい
う意味を持つ、感謝祭が始まる。皆にはその準備をしてもらう。準
備と言っても、今日これから、皆に植物の種が、一つ渡される。そ
の種を、自分の知識や魔法を駆使して育ててもらう。勿論、祭りと
言っても種を育てるという事は、君たちにとっては、課題だと思っ
てくれ。枯らしたものには、罰を与える。以上だ。質問がある生徒
は手を上げなさい。﹂
分かりやすく説明されたからなのか、それとも先生の凛々しすぎ
る態度だからなのか、手を上げて質問をする勇者はいなかった。
﹁質問が無いなら、今日の授業は終わりです。種は人数分置いてい
きます。1人ひとつとって帰るように。﹂
316
キース先生は、颯爽と出ていった。
﹁超怖いっすね。﹂
エリアスはおどけた様に言った。
﹁そうですか?﹂
私的には、実力があり、それを堂々と表現する人は、嫌いではあ
りません。あからさまな態度の人は嫌いですが、キース先生は実力
があり、態度もそれなりに良いので、私もそれなりに気に入ってい
る教師の1人です。
因みにダリア先生は、丈夫な玩具といった認識ですが、中々根性
のある先生だとは思います。それにしても、植物を育てるですか⋮
⋮。
私は、教団の上に置かれている、種を一つだけ取ると、何と無く
見つめる。
﹁植物って、どうやって育てるんでしょうか?﹂
興味のあることや、必要性を感じる事しか、やってこなかった私
にとって、植物を育てるというのは、初めての行為でした。
317
第六十七話 植物
取り敢えず、私は図書室で本を借りると、知識を詰め込んでいっ
た。
本によると、植物は水や肥料などから栄養を取り込む。植物によ
っては環境を整えなければ、直ぐに枯れてしまうものもあります。
とのことでした。以上のことを踏まえると、植物のごはんは水と
肥料。そして育ちやすい環境。これらの事を総合すると、そうか、
人間みたいに育てればいいんですね。と何故かこの時の私は本当に
そう思ったんです。
その日の夜に、クリスがいる前で、植物の種を水に浸したり、お
散歩させたり。というよりは縄を付けて引きずり回したり、一緒の
ベッドで寝ようとしたら、流石にクリスに止められました。
﹁リーズはいったい何してるの!?﹂
それはもう全力で止められました。止められた理由は、植物の種
が自分よりも、私に愛されてると思ったからだそうです。嫉妬って
やつですね。こんな時に言うのもあれですけど、私って愛されてま
すね。
その後、クリスに説明を受けて、ようやく私は、植物という生物
の育成方法を理解したのでした。クリスの話では、他にも植物専用
の栄養剤や、それを育てるための鉢と言うものがあるそうです。こ
のことを知られたのがクリスで良かったです。
318
だってほかの人から見れば、頭のおかしい人にしか、見えません
から。学園で植物を育てようとしなくて、本当に良かったです。そ
んなわけで私は、植物の正しい育成方法を、実行しました。
でも世の中、そんなにうまくいくわけないですよね。何というか
育成には成功したんですよ。でもですね。一日経ったら、綺麗な紫
色の花が咲いたんです。 私は綺麗に咲いている、紫色の花を眺めて水を上げた。
﹁ありがとうございます。とってもおいしいです。﹂
植物って喋る生物なんですか?
花の中に、何か別の生き物でも、寄生してるんじゃないですか?
そもそもこれは花なんですか?
この植物の現状が良いものなのか、悪いものなのか、植物を始め
て育てる私には、まったく解りませんでした。
でも枯らしたわけでは無いので、問題は無いでしょう。と、その
まま感謝祭の当日になるまで、クリス意外に相談することもなく、
ただ、愛情をたっぷり注ぎ育てました。
因みにクリスは、私お喋りするお花なんて初めて見た。と喜んでい
ました。
感謝祭当日
319
私は例の喋る紫色の花を抱え、会場へと進んでいました。周りに
はクリスや、イグナーツにマリエルといった、同じクラスのメンバ
ーがいます。
﹁リーズさんのお花とっても、きれいですわね。﹂
興味津々とカモミールさんは私の育てた花を見つめる。その目の
動きに、私は硬直する。
﹁カモミールさんのもきれいですね。﹂
自分の花から話題を変えるように、カモミールさんの花を話題に持
ってくる。
﹁ええ、頑張りましたわ!﹂
えらく気合の入ったカモミールさんをチラ見すると、私はまた、
自分の花に意識を集中させる、ああどうか、家に帰るまでは喋りま
せんように⋮⋮。それが一番の気がかりでした。どこを見ても皆が
持っているのは、綺麗なお花ばかり。人によっては、見た目が珍し
いものを、持ってくる人もいました。
でも、喋る花を持ってくるのは、私だけでしょう。だって、誰も
お花に話しかける人なんていませんから。冗談交じりに、花と会話
を試みる人もいますけど、今はやめてほしいです。私の心臓に悪い
です。
今までの人生の中で、一番緊張しているんじゃないかと思いました。
320
感謝祭は学園内では、コンテストとして行事の一環に入っていま
す。当然のごとく、私のお花も参加しています。そして、困ったこ
とに私のお花が、上位に残っています。
いや嬉しいですよ?自分の育てたお花が沢山の人に、綺麗だね。
って言われたのと同じなんですから。でも、それ以上にこっちは、
花がどのタイミングで喋るのか分からないので、ドキドキしている
んです。
私の花は、会場のど真ん中に、置いてあるんです。
上位に残っている花は私のを含めて三つ。華やかでホンワカとし
た、祭りのはずなのに、何故こんなにも、私は気配を研ぎ澄まし、
花に対して集中しているのでしょう。
﹁それでは今年の感謝祭、最優秀賞は⋮⋮﹂
魔法で華やかにライトアップされる会場。そんなに目立つような
ことしないでくださいと心の中で叫ぶ。
﹁リーズさんの育てたお花になります!﹂
その言葉に嬉しいのと同時に、まだ喋らないでください。と必死に
心の中で呪文の様に唱える。
﹁リーズさん登壇してください。﹂
﹁はい。﹂
呼ばれた以上台に上がり、賞状と優勝賞金を受け取る。
321
﹁おめでとうございます。﹂
﹁﹁はい、ありがとうございます。﹂﹂
﹁ん?﹂
﹁どうかしましたか?﹂
私と同じ言葉を喋る花を、今日ほど憎いと思ったことは無いだろ
う。と必死にごまかしながらそう思いました。
花と一緒に階段を下りて、クリスのところに行くと、クラスメイ
トである皆が、私の持つ花を驚きの表情で凝視したことは、言うま
での事でもないですね。
322
第六十八話 喋る花
﹁何で花が喋ってるのよ!?﹂
﹁ガハッ﹂
ブルーノに対して、拳でツッコミを入れるマリエル。
﹁喋る花なんて、存在するんですね。﹂
何故か嬉しそうに、花をチョンチョンと突っつくカモミールさん。
﹁っ。﹂
何故か怯えた様子で、花から遠ざかるエリザベスさん。
﹁何で花が喋ってるの?﹂
イグナーツがどうして?と私をじっと見つめる。どうしてと言わ
れても、理由が分からないので、私は目を反らします。
﹁本当に、喋る花を育てるなんて、光と闇のユニゾン魔法の件と言
い。とんでもないことを、やらかしてくれましたね。﹂
呆れた様にキース先生が呟く。
﹁キース先生!﹂
私は何故ここに居るのかと驚いたように先生の名を呼んだ。
323
﹁説明します。恐らくですが。リーズさん、貴方の魔力の影響が、
このような不思議な現象を起こしたのだと考えています。貴方に関
しては、未知数なことが多すぎるので、貴方ならいつか、この世界
を破滅に導いたり、逆に救ったり何でもできると思ってますから。﹂
﹁いや、流石にそれはスケールが、大きすぎます。﹂ 幾ら異世界の血が流ているとはいえ、世界を如何にかするなんて出
来ないと思います。
﹁まあ冗談は置いといて、本題に入ります。﹂
﹁冗談だったのか!?﹂
本気で驚いた。という表情のブルーノをマリエルが拳で沈める。
﹁実は、喋る植物に育つ可能性のある種を、私が混ぜといたんです。
気分で。﹂
悪びれる様子もなく、あっけらかんと言うキース先生に対して、
私が本気の殺意を抱き、クリスにまた、ユニゾン魔法を使いましょ
う。と持ち掛けるくらいには怒りを感じました。
こうして感謝祭は無事?に終わりました。
324
第六十九話 夏休み
感謝祭からかなりの月日が流れ、現在は夏休みを迎えていました。
﹁リーズさん、此方が私の住所です。宜しければ遊びに来てくださ
いね。﹂
カモミールさんは、ガッシリと私に手を握り、その握っている手
の中に、さり気なく紙を入れてくる。見なくても、その紙にはカモ
ミールさんの、家の事が事細かく書かれているのでしょう。
﹁⋮⋮。﹂
そして、私の背後には、恐ろしい闘気と殺気を纏ったクリスの気配
を感じました。
﹁ねえ、何をしてるの?﹂
背後からは激しい感情が渦巻いているのに、声はとても無機質と
いう、アンバランスな状態が、今の私にはとても怖いです。
﹁そう言えば、クリスは夏休みは如何しますか?﹂
﹁如何って?﹂
私が話しかけると、クリスは普通に戻りました。
﹁家に帰るのか、帰らないのかです。﹂
325
﹁帰るよ。﹂
﹁私も一旦、家に帰る予定なので一緒に帰りますか?﹂
﹁うん、そうするね。﹂
クリスは嬉しそうに笑いました。
そして後ろを振り返ると、家出をしているという状態のままの三名
は、とても顔色が悪いです。
﹁マリエルとイグナーツとブルーノはお家に帰らないのですか?﹂
そう言うと、三人の肩が震えました。
﹁忘れかけてたけど、僕たち家出したままだったんだよね。﹂
﹁私の家なんて孤児院よ。ああ、シスターが怖い。﹂
﹁俺んち農家だから、しかも俺、長男だしな。絶対無事じゃすまな
い。﹂
帰る家はそれぞれ違いますけど、帰宅するのが嫌なのは、三人とも
共通してますね。
﹁でも、心配してると思いますよ。﹂
﹁大丈夫だよ。私も家を出る時に、力づくで出ていったから、いざ
となったら、拳で決着を付ければいいと思うよ。﹂
326
そんなことをするのは、クリスの家だけですよ。いや、もしかし
たら何処かの家はやるかもしれませんが、普通はやらないです。
﹁そうか⋮⋮その手があったのか。﹂
ブルーノはそう呟くと、じゃあな!と言い残し、足早に教室を出て
いきました。
﹁良いんですか?あれじゃ本当に戦いますよ。彼の家は農民だとい
うのに、大丈夫なんですかね。﹂
﹁きっと、大丈夫だよ。﹂
クリスはあっけらかんと言っているけど、正直ブルーノに関して
は、危険要素が多いので、少しだけ心配になった。保護者の方の中
に、死人が出なければいいですけどね。
﹁私は今日には出発しますから、クリスも準備をしておいてくださ
いね。﹂
﹁準備も何も、持ち物は基本魔法空間に入れてあるから、何時でも
出発できるよ。﹂
﹁ならもう行きましょうか。﹂
項垂れているマリエルと、不安そうな顔のイグナーツに手を振る
と、その場でテレポートを使い、私の自宅へと戻ったのでした。
327
第七十話 帰宅
﹁私は少しの間は、こっちで過ごすので何かあったら、家に来てく
ださいね。﹂
﹁うん、分かった。﹂
お互いに手を振り、クリスを見送った後私は自分の内へはいった。
﹁ただいま、お父さん。﹂
﹁リーズ!﹂
お父さんは私を見ると、とてつもない速さで抱き付いてきました。
﹁苦しいです。﹂
﹁母さんが居なくなっちゃったんだよおおお!﹂
いまさら何を言ってるんだろう。と激しく号泣している実の父親に、
私は冷たい視線を向けた。
﹁お母さんは元の世界に帰りました。﹂
﹁分かってるよ!分かってるけれど⋮⋮ううう。﹂
お父さんは私にしがみ付きながら、また泣き出してしまった。
﹁お母さんは向こうの世界で、帰る方法を探しているみたいですか
328
ら、きっといつか会えますよ。﹂
それに、私もお母さんに会いたいんです。会いたくてしょうがない
のに我慢してるんです。なのにお父さんが、会いたいと私に対して
駄々を捏ねてどうするんですか。
思わず呆れて、ため息が出ます。
﹁夏休みに入ったから、しばらくは家で過ごしますから。それで少
しは元気出してください。﹂
﹁うん。﹂
そう言うとお父さんは泣きながら笑った。
それにしても、私は自宅の中を軽く見渡してから思いました。
﹁お母さんが居なくなってから、生活面に支障が出て、もう少し荒
れたり、部屋が汚くなっているかと思って来てみましたけど、私が
居た頃と変わっていなくて少し安心しました。﹂
﹁あはは。幾ら鈴が居なくなったからと言って、鈴のお気に入りの
ものを、壊したり汚したりするようなことがあれば、俺は鈴が帰っ
てきたら殺されてしまうよ。﹂
お父さんは笑いながら、あっけらかんと言ってますけど、お母さ
んなら本当にやるでしょうから、気を付けてくださいね。とお父さ
んに対して、微笑みかけることしかできませんでした。
その日は久しぶりに、お父さんと色々話をしました。私が家を出
329
ていった後の事とか、私がお母さんと一緒に別の世界に行ったこと
とか、学校の事とか、お母さんが居ないのは残念ですけど、たまに
はこういう時間も良いのかもしれません。
330
第七十一話 久しぶり
﹁おはようございます。﹂
﹁おはよう!﹂
私はクリスと待ち合わせをしていて、久しぶりに地元のギルドに
顔を出そうと思って、やってきました。早い話、リアさんに会いた
いので、会いに行きましょう。という事になったんです。
ギルドに到着すると、前に来た時と変わってなくて、思わず笑っ
てしまいました。
﹁お久しぶりです。リアさん。﹂
﹁お久しぶり!﹂
﹁あら!リーズちゃんにクリスちゃん!久しぶりね。二人とも大き
くなって、それにとてもきれいになったわね。﹂
リアさんは私たちを見ると笑顔で話し始めた。
﹁そう言えば鈴さんは?﹂
お母さんが別の世界の人だと知っていたのか、リアさんは悲しそう
に、言った。
﹁元の世界に帰りました。でも、またこちらに帰ってくるために方
法を探すそうです。﹂
331
﹁そう。鈴さんらしい。﹂
リアさんは、何処か懐かしむように微笑んだ。
﹁二人とも依頼受ける?﹂
﹁いえ、夏休みなので実家に帰ってきただけなので、しばらくは、
お休みします。﹂
そう、今は夏休みなんです。宿題は来る前にすべて終わらせたの
で、後は遊ぶだけです。私は、何をして遊ぼうかいろいろ考えるの
でした。
332
第七十二話 遊びましょう
現在私たちは、カモミールさんの自宅に遊びに来ていました。目の
前には、吸血鬼が住んでいるような、真っ黒い瘴気に包まれた城。
そして周りには真っ黒な薔薇が咲き誇り、空に太陽は無く、代わり
に幻想的な月があります。
﹁そんなに、引っ付かないでもらえますか?﹂
何が怖いのか、イグナーツとブルーノは私に、しがみ付いていま
す。そして、私の背後には目の前の城に劣るどころか、禍々しいオ
ーラを背負うクリスの気配がありました。
﹁あんたたちは、死人を出すつもり!﹂
そう言ってマリエルは、私にしがみ付いている、二人の頭を拳で殴
る。
﹁いって!﹂
﹁うう⋮⋮。﹂
ゴンと痛そうな音がしました。
﹁でも、本当に此処なの?﹂
エリザベスさんはおびえた状態で、微妙に震えていた。その質問
に答えるように、私はカモミールさんに貰った、紙を見せた。
333
﹁どう見ても住所は此処なんですよね。﹂
内心、出来ればもう少し普通の家だったらよかったのにと思いまし
た。
﹁取り敢えず入ってみようか。間違えてたら、ごめんなさい。って
言って出てくればいいんだし。﹂
クリスが家についていた、ベルを鳴らすと、
﹁イーヒヒヒヒヒッ﹂
という、まるでしわがれた老婆のような声が響きました。
﹁﹁きゃあああああああ!?﹂﹂
﹁うわああああああああ!?﹂
﹁っ!?﹂
うわあ、と辛うじて私は叫び声は上げませんでしたけど、心臓が
バクバクと言っていて、凄いビックリしました。何なんでしょうか
?この悪質な仕掛け。
すると、ギイイイイッとドアが開き、そこから青白い手が、私た
ちに向かって手招きをするように動いている。
﹁何あれ⋮⋮?﹂
エリザベスさんが怯えた様子で、それを指さす。
334
﹁手、ですね。﹂
﹁それは分かってるよ!?私が言いたいのは、何で手だけが出てき
てこっちに向かって、手招きしてるの?って話!﹂
エリアべスさんが1人叫んでいる間、妙に静かな他の人たちが気
になり、そっちの方向を向くと、ドアからは、青白い手が消えて、
代わりに黒いベールをかぶった、きれいな女性が立っていた。ただ
女性は、青白い手で手招きをしている。
そして女性の背後から、青白い手が此方に向かって伸びて来たの
でした。
青白い手は私たちに逃げる隙も与えず、私たち全員を捕まえると、
奥の部屋に高速で移動していきました。
﹁﹁きゃああ!?﹂﹂
﹁っ!?﹂
と、またしても悲鳴が響く。そしてブルーノに至っては、恐怖で
気を失っていました。全く、これだから根性なしは⋮⋮。
悲鳴を上げる事無く1人冷静にクラスメイトを侮辱してますけど、
一つ気が付いたことがあります。私たちを掴んでいる手、如何やら
﹁魔法じゃない?﹂
確信はないんですけど、私の目には、???と表示されているんで
335
すよね。
﹁うわああああん!お家帰りたい!﹂
少し考え事をしている間に、エリザベスさんが泣き叫んで、マリ
エルとクリスが必死に青白い手をから逃れようと、必死になってい
て、イグナーツに至っては、怯えて動けなくなっていました。
そして、青白い手の動きが急に止まり、私たちは何処かの部屋へ
と放り投げられたのでした。
﹁皆さん、いらっしゃい。ようこそ、私の自宅へ。﹂
そこには、悪戯が成功した。と嬉しそうに微笑むカモミールさんの
姿がありました。
336
第七十三話 ドッキリ
﹁そんなに怒らないでくださいな。ちょっとした悪戯ですわ。﹂
﹁結構ハイレベルな悪戯ですね。﹂
呆れた様に私は呟きました。思い返せば、あれはカモミールさん
の守護精霊だったはず、黒いベールを被せてあったから、なのとし
ばらく見ていなかったせいで分かりませんでした。
﹁でも、リーズさんだけ、全然悲鳴を上げてくださらないのですも
の。私、一番リーズさんの悲鳴が聞きたかったのに。﹂
カモミールさんは心底残念そうに呟く。
﹁私が生きているうちは、リーズは私のなんだからね!﹂
クリスはかなり本気で、カモミールさんを威嚇する。威嚇しなく
ても、私がカモミールさんと交際することは一生ないですよ。
﹁さて、冗談は、程々にしておいて。何をして遊びましょうか?﹂
何も考えず私たちをお家に招待してたんですか!?あれだけ盛大
にトラップを仕掛けておいて置きながら、今更、何して遊びましょ
うか?と言われても思いつきませんよ。
﹁そうですわ!かくれんぼしましょう。最初は私が鬼をやりますか
ら。皆さん隠れてください。﹂
337
そう言うとカモミールさんはいーち、にー、さーん、と数え始める。
何故か、私の家の伝統の遊びが広まっていました。確かに面白い
ですけど、恐怖のカモミールさん家で、かくれんぼは恐怖でしかな
いです。
何だか捕まったら何かがやばい。と感じた私たちは、一斉に隠れる
ために走り出した。
﹁寝てる場合じゃないわよ!起きなさい!﹂
﹁いでえっ﹂
いつもの様にマリエルが拳で起こしていたが、状況が状況なので、
マリエルは拳で一発殴るとそのまま、ブルーノを引きずって行った。
私たちも急いで逃げるものの、カモミールさんが何時まで数える
のか、不明なので急いで隠れたい心境です。
﹁きゃああああああ!?﹂
その時、エリザベスさんの悲鳴が、辺りに響き渡った。それと同
時にカモミールさんが動き出したという、事が分かり私とクリスと
何故かイグナーツが、同じ場所に隠れることになったのでした。
﹁今更ですが、何故イグナーツが一緒に居るんですか?﹂
﹁今回ブルーノは役に立たないから。﹂
﹁﹁⋮⋮。﹂﹂
338
ブルーノが言いたいことも、分かります。でも、流石にかわいそ
うだと思いますよ?今頃はマリエルと一緒に隠れてるんでしょう。
だってこんな怖い空間に1人で隠れるなんて無理です。だってすご
く怖いです。
取り敢えず、三人で大量のぬいぐるみの山の中に隠れる。こんな
状況なので魔法でも使って逃亡したいですが、そんなことをしてみ
れば、カモミールさんが直ぐに此方の動きに気付いてしまいます。
ぬいぐるみの山の中の一番下に潜り込むと、私たちはじっと気配を
消してカモミールさんが来ないか気を配るのでした。
339
第七十四話 かくれんぼ
恐怖のカモミールさんside
﹁うふふふふふ﹂
私は、はしたなくも自然とあふれた涎をハンカチでぬぐうと、獲
物を求めて狩りを始めました。まあ、狩りと言っても、かくれんぼ
という遊びなのですが。けれど、このかくれんぼという遊び、私に
とっては本能が揺さぶられるというか、
唯の子供の遊びなのに、どうしてこんなにも、心が揺さぶられる
のでしょう?
さて、ちゃんと聞いたとおりに十秒数えました。楽しい、楽しい
狩りの始まりですわ!
一番近くに感じる気配を辿ると、思い切り首筋に齧り付く。
﹁きゃああああああ!?﹂
あら、エリザベスさんでしたの、悲鳴を聞いてやっと気づきまし
た。でも、今の私にはもう止められませんわ。だって、今はとても
楽しい、狩りの時間ですもの。一応、手当をして私はその場を後に
する。
次は、あちらにしましょう。私は何時になく高速で、獲物へと向
かい走り出しました。
340
気配を感じ取った方を探し始めると、そこには獲物が二人、私は舌
なめずりをすると、獲物に襲い掛かる。
﹁きゃああああ!?﹂
﹁うわああああ!?﹂
今度の獲物は、マリエルさんとブルーノさんでしたの、近場に居
たマリエルさんの首筋に噛り付く、ジュルジュルと血を吸うと、マ
リエルさんは気を失ってしまいました。さて、とブルーノさんの方
を向けば、あまりの恐怖で、体が動かないのか、床にへたり込んで
いましたわ。動かない獲物に、少しだけがっかりしながらも、美味
しく血を啜りました。
これで残るは三人、早く美味しい血を、心行くまで飲み干したい。
そんな欲求に私は駆られていました。
一方その頃
辺りに響き渡った、マリエルの悲鳴を耳にし、ゾクリと寒気がし
ました。
﹁大丈夫?﹂
クリスも若干顔色が悪いですけど、私を気遣ってくれていました。
﹁でも、ただ隠れているだけでは、こちらの方が分が悪すぎます。﹂
カモミールさんは、かくれんぼという遊びを、鬼が一方的に捕ま
える遊びだと思っています。それでも間違いではないですが、この
341
ままでは、私たちの命が危ういので新ルールを追加します。
﹁そんなわけで、殺られる前に殺れ!作戦を開始します!﹂
﹁﹁シッー!﹂﹂
私がちょっとだけ気合を入れて言うと、二人に取り押さえられま
した。
342
第七十五話 殺られる前に殺れ
作戦?
そんなものは無いです。何故なら⋮⋮
﹁やっと見つけましたわ。私のごちそう。﹂
作戦を立てる前に鬼に見つかってしまいましたから。
カモミールさんは、明らかに私に対して、熱い視線を送ってきて
います。そんなに私の血を飲みたいんですか!?あの時の痛みを思
い出すと、私は顔を顰めます。
﹁リーズ!如何するの!?﹂
﹁ピンチ!﹂
﹁戦います!﹂
﹁ええ!?﹂
﹁⋮⋮!?﹂
驚いている二人には悪いですけど、短時間で今のカモミールさん
を運よく捕えるのは難しいです。なので、正攻法で戦って捕まえま
す。本来なら私一人でも倒せるんでしょうが、今の状態のカモミー
ルさんに近づきたくないです。
343
私たちは、カモミールさんから距離をとって後方に散らばる様に
跳びました。私は後方から、魔法を放つ
ウイングチェイン
﹁風よ敵を捕えろ!風鎖﹂
アイスバインド
﹁氷よ敵を封じろ!氷結﹂
ライトアロー
﹁光の矢よ敵に降り注げ光矢﹂
私とクリスでカモミールさんを封じこみ、魔法に長けたイグナー
ツが、攻撃系魔法を放つという私が即席で考えたにしては、中々い
い感じに当たったんじゃないかなと思いました。
﹁ごちそう⋮⋮。﹂
カモミールさんはそれだけ言うと、その場に倒れました。最後の
言葉がごちそうって、どれだけ私の血が欲しかったんですか。正直、
私の血に対する執念にかなり引きました。
その後、血を吸われたであろう人たちの手当てをして、カモミール
さんが目を覚ますと、血を吸われた人たちは、散々文句を言った後
に、本人たちが欲しい物を色々要求して、落ち着いたみたいです。
休みのはずなのに休めてませんね。
﹁それにしても、何で血なんて吸ったのよ。﹂
呆れた様にマリエルが言う。
﹁吸いたかったからですわ。﹂
344
﹁だってあんた、吸血鬼なのに何時もは血なんて吸わないじゃない。
それに、私はあんたが血を吸うとこなんて見たことないわよ。﹂
﹁あら、でもリーズさんとクリスさんは、私が血を吸うところを見
たことありますわよ。﹂
カモミールさんのその言葉に私は途端に自分の顔が無表情になる
のが分かりました。話を聞こうとして私の顔を見たマリエルが固ま
っていましたから。
﹁ねえ、カモミール。﹂
﹁何ですか?﹂
クリスは何時になく不機嫌な様子で、カモミールさんをじっと見
つめています。
﹁次にあんなことしたら、殺す。﹂
とクリスが怒っている様子を見て、私はまたDVモードに戻ったん
じゃないかと、思わずクリスを凝視してしまいました。
それに対してカモミールさんはいつもの様に優雅な笑みを浮かべる。
﹁肝に銘じておきますわ。﹂
カモミールさんは何故か嬉しそうに言った。
345
第七十六話 夏休みが終わっちゃいました。
﹁学校行きたくないなあ。﹂
クリスはポツリと不満げにそう言った。
﹁クリス宿題はちゃんと終わってるんですから、特に心配すること
もないでしょう。﹂
猫にでも接するように、私はクリスの頭を撫でます。
﹁まあ、私はね。﹂
そう言うとクリスは起き上がり、準備を始めました。
﹁学校に行こっか。﹂
クリスは諦めた様に、そう呟きました。
﹁はい。﹂
正直な話、私も休み明けに学校に行くのはかなりしんどいです。
でも学校には行かなくてはいけないので、私たちは学校に向かいま
した。
学校に到着して、教室に入ると其処には死体のようなブルーノの姿
がありました。
﹁何かあったんですか?﹂
346
何か事件でもあったのだろうかと、心配しました。
﹁このバカが宿題をやるのを忘れたのよ。﹂
そう言ってマリエルはブルーノを拳で殴ります。
﹁いてええ!?しょうがねえだろ。気付いたら休みが終わってたん
だからよ。﹂
最早言い訳にすらなっていませんね。
﹁でも、去年もそう言ってたよね。﹂
苦笑気味にエリザベスさんが言います。
﹁去年もですか⋮⋮。﹂
その言葉を聞いて、呆れてしまいます。
﹁なら、あれをやろうか。﹂
クリスの一言で私とブルーノ以外の全員がニヤニヤと悪魔のような
笑みを浮かべました。
﹁罰ゲーム。﹂
何時も無表情のイグナーツが微笑んだのが、私には酷く不気味な
光景に見えました。そして、私にしがみ付くブルーノが尋常じゃな
いくらいに、ガタガタと震えているのも気になりました。
347
そして、ダリア先生が乱入してくると、一旦その話は終わりになり
ました。
﹁さあ、皆夏休みの宿題を提出してください。﹂
ブルーノ以外の全員が宿題を提出する中、ダリア先生はブルーノ
が宿題を忘れたという事に気が付いたようでニヤニヤとムカツク笑
みを浮かべ、
﹁また忘れちゃったの?しょうがないなあ。そんなブルーノ君には、
﹂
﹁先生、ウザいので殺っても良いですか。﹂
ダリア先生の態度が気に食わなかったのか、カモミールさんは絶
対零度の視線をダリア先生に浴びせました。
﹁先生用事を思い出したから帰るね。﹂
それだけ言い残し、高速で廊下を走り抜けていきました。
﹁さて、それでは楽しい罰ゲームの始まりですわ。﹂
嬉しそうにするカモミールさんを筆頭に、ブルーノの罰ゲームは始
まったのです。
348
第七十七話 罰ゲーム
﹁なあ、もう死んでるんだけど。﹂
﹁あと一回だけお願いします。﹂
ブルーノは真っ青な顔で何やら草を食べさせられています。カモ
ミールさんが毒草の解毒、まあ一種の回復魔法です。状態以上を回
復させる魔法の向上だとかで、ブルーノは沢山の種類の毒草を摂取
しなければいけないという事になっています。
そしてブルーノが死にかけるたびにカモミールさんが魔法を使う
のですが、カモミールさんうっかり魔法を一回間違えてブルーノを
死にかけに追い込んだんです。顔色が青とか紫じゃなくて真っ黒く
なったのはビックリしました。
﹁これで最後ですわ。よろしくお願いします。﹂
カモミールさんは残念そうに呟きました。
﹁漸く終わるのか⋮⋮。﹂
今にも力尽きそうなブルーノのその言葉を聞いて、何だかブルー
ノの命の方が終わりそうですね。と思いました。
﹁俺は耐えたぞー!﹂
最後の毒草を一気に口に放り込み、ブルーノは勝利の雄たけびのよ
うなものを上げました。
349
そして、器用にも嬉しそうな顔のままその場に倒れました。あっ
!ステータスを見るとHPの部分が0になってます。
﹁じゃあ次は私が使うから、ちょっと借りていくわよ。﹂
マリエルはそういうと笑顔でブルーノを引きずっていきました。
せめて内容だけでも教えてほしかったです。
﹁ねえリーズ久しぶりにリーズの手作りスイーツが食べたいな。﹂
﹁分かりました。﹂
笑顔でお菓子を作ってほしい。というクリスの頼みを断る気は全く
ない私でした。前にもこんなことありましたね。と私は材料を購入
しながら、思い出を振り返るのでした。
﹁何のスイーツ作るの?﹂
﹁出来てからのお楽しみです。﹂
嬉しそうに問いかけるクリスに対して、私はちょっとしたサプラ
イズをしようと思いました。サプライズと言っても向こうの世界に
しかないであろうスイーツを作るだけですが。
キッチンに移動すると、私は手を素早く動かし、スイーツを作る。
今日作る予定のメニューは、エクレアです。調べてみたところ、こ
ちらの世界にはシュー生地と言うものが無かったんです。材料はこ
ちらの世界に有ったのでレシピを思い出し、綺麗に作れました。
350
﹁クリス完成しました。﹂
﹁すごーい!なにこれ!?﹂
クリスは嬉しそうに目を輝かせ、私の作ったエクレアに視線が釘づ
けといった状態です。
﹁エクレアですよ。﹂
﹁エクレア?﹂
質問に答えれば返答は帰ってくるけど、視線はエクレアに向いたま
まで、エクレアを動かすとクリスの目もエクレアと同じように動く
のが、面白かったです。
﹁どうぞ﹂
クリスの動きに笑いを堪え切れなくなってきたので、そろそろク
リスに食べさせてあげましょうとクリスの目の前にエクレアを置い
た。
﹁いただきまーす!﹂
クリスがエクレアを一口頬張ると、嬉しそうに物の数分で完食し
ました。大食いなのはやっぱり替わってませんね。
クリスと楽しく休日を満喫していると、どこか遠くでブルーノの悲
鳴が聞こえた気がしました。
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PDF小説ネット発足にあたって
http://ncode.syosetu.com/n3122bi/
私は生まれつき〇〇が見えるみたいです。
2014年11月14日23時09分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
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