2009/08/31 テーマ 算数・数学教育の国による違い 理数教科書に関する国際比較調査結果報告について 07PB227 寺前裕子 1. はじめに 国際調査の結果などで、日本の子供たちの学力の低下などが騒がれているが、同じ 算数・数学の内容を学習しているはずなのになぜ違いができるのか疑問を抱いていた。そこか ら、日本と海外の教育の違いを知ることで、よりよい教育はなにかが分かるのではないかと考 えている。そこで、初めて海外の算数の教科書を見たとき日本の教科書との違いに驚いたこと から、まず教科書の違いについて調べたいと考えた。 2.理数教科書に関する国際比較調査について ・理数教科書に関する国際比較調査とは →OECD・PISA や IAEA・TIMSS などの国際調査において、日本の子供たちの学力の低 下、意識・態度面での興味・関心の低さ等が懸念され、理数教育について様々な視点からの 改善が大きな課題となり、その一つとして教科書の改善があげられ、理数教育のこれまでの 施策の検証と振興するための効果的施策を検討するため実施された調査 ・比較対象国・地域 →多様な観点から比較するため州国および PISA 等での理数教科の成績上位国から、アメリ カ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、フィンランド、韓国、中国、台湾の9か国・地 域 ・調査の内容 →①対象国の初等中等教育における教科書制度を整理する ②対象国の理数教科書を収集し、その体裁等を調査する ③特定の分野について、対象国の教科書と我が国の教科書の記述について比較分析する ④対象国での現地調査を行い、理数教育の指導の現状、教科書の位置づけ、使われ方な どの事態を明らかにすることである。 ・調査方法 →①協力者が先行研究などの成果をもとに、調査対象国の義務教育段階及びそれ以外 の教科書制度などをまとめ、本調査の基礎調査とする ②対象国の算数・数学、理科の教科書をそれぞれ2∼3首ずつ収集する。初等中等教育 の全ての学年を揃えて、それぞれの体裁(大きさ、ページ数、重さなど)を調査する ③収集した教科書を使い、一定の観点(レイアウト、構成、分量、体裁等)に従ってその全 体的な特徴を調査するとともに、算数・数学、理科それぞれ4つの特定分野について下 記の要領で日本の現行教科書との比較分析を行う ④対象国における理数教育の現状について、また教科書が授業でどのように使われてい るか、教科書の位置づけはどのようになっているか、学校や家庭で子供が教科書をどの ように使っているか等について、各委員等が担当国で現地調査を行い、その事情を報告 する ⑤教科書制度、算数・数学教科書、理科教科書それぞれの特定分野について比較調査の 結果、海外での教科書の使われ方、位置づけなどをまとめ、報告書を作成するとされて いる。 3.調査の結果 ・算数・数学の教科書使用の実態調査から、ページ数の違いは、書く国の教科書の役割や扱 い方に起因していることが伺われる。日本では教科書の内容は教育内容と一致しているので、 学校で教科書の全ての内容に触れると考えられており、一方アメリカ等のページ数の多い国で は、教科書の内容は教育内容よりも多くの内容を含んでいるので、学校では教科書の一部の内 容に触れればよいと考えられており、また家庭学習の役割や副教材の有無なども教書のページ 数と関係しているといえる。 ・日本の算数・数学の教科書は、算数的活動を強調するなどのすぐれた点が見られる半面、 いくつかの検討や改善が望まれると言える。それは、算数・数学の教科書の役割や教科書観を 検討すること、算数・数学を学ぶ意義を明示すること、児童・生徒の多様性への対応の検討す ること、実世界との関連を積極的に取り入れること、他教科との関連を密にすること、ICT を積極的に活用することである。 ・他国の教科書として印象的とされていることをまとめたい。まずフランスでは、小学校で は教科書が授業で使われることが前提とされているが、中学校では教科書が自習で使われるよ う考えられている。ドイツの教科書では、一般的な例題、説明、練習問題という系列ではなく、 児童・生徒が問題を解く活動を通して、概念理解や能力習得を目指している。そしてフィンラ ンドでは、算数・数学の教科書の作成に多くの教師が関与し、教科書会社も教師のニーズに積 極的に応え、教師が教科書を積極的に活用している。つまり、教科書の作成と使用が密接に結 びついており、教科書作成における教師の関与の重要性を示しているといえる。 4.考察 学習への取り組み方が国によって違うために、各国の教科書の形式が様々であることがわか った。また教科書の内容から授業、学習の仕方に大きな影響があることを知った。各範囲で今 後もう少し詳しく調べることができれば、さらに国ごとの違いが見えてくると考えられる。 <参考文献> 国立教育政策研究所(2009) 『第3期科学技術基本計画のフォローアップ「理数教育部分」に係る調査研究[理数教科書に 関する国際比較調査結果報告]』p71-202 2009/10/21 テーマ 算数・数学教育の国による違い 理数教科書に関する国際比較調査結果報告について2 07PB227 寺前裕子 1. 前回までの内容と今回のねらいについて 国際比較調査の内容とその結果から、主に日本とその他の国による教科書の形式について調 べた。今回は教科書そのものだけに関してだけではなく、各国の「教育制度」と「教科書制度」 について調べ比較することで、教科書のあり方についてさらに知識を深めていくこととした。 2. 日本の教科書制度と教育事情 (1)教育制度 ・小学校、中学校、高等学校の 6-3-3 制で、小学校・中学校が義務教育である。 ・小学校は学級担任制、中・高等学校は教科担任制を行っている。 ・学校は国、地方公共団体及び学校法人のみが設置できる。 ・学校の施設・設備・児童・生徒の学級編制、教員等の教職組織などについては国の基準 や標準が法規により定められている。 ・教育課程は文部科学大臣が公示する学習指導要領に基づいて編成されている。 (2)教科書制度 ・教科書:学校において教育課程の攻勢に応じて組織・排列された教科の主たる教材とし て教授の用に供せられる児童・生徒用の図書であり、学校教育法により、学校において は、文部科学大臣の検定を経た教科書、又は文部科学省が著作の名義を有する教科書を 使用しなければならない。 ・教科書検定制度:民間で著作・編集された図書について、文部科学大臣が教科書として 適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める制度の こと。 ・教科書を採択する権限:公立学校では所管の教育委員会、国立・私立学校では校長。 ・教科書の無償給与:昭和 38 年以来、憲法に掲げる義務教育無償の精神をより広く実現 するため、国・公・私立の義務教育諸学校の全児童生徒の使用する全教科の教科書を無 償給与されている。 ・教科書の体様:児童生徒の学習活動や身体的な発達に配慮して作られている。かつては 教科書協会が判型、ページ数、色刷り、文字の大きさ、紙質などに関し「体様のめやす」 を示したため似通ったものとなっていたが、平成 11 年以降廃止され様々な変化が生まれ た。 ・教科書供給業者:発行者と学校の間に、教科書・一般書籍供給会社、小箇所取扱書店が 入り、過不足なく確実に供給されている。 (3)最近の教科書をめぐる動向 発展的な学習を実現するため次のようなことが提言されるようになった。 ・自学自習にも適した丁寧な記述、練習問題や文章量の充実 ・発展学習・補充学習に関する記述の充実、教科書観の転換 ・実生活や実社会との慣例など興味、意欲を高める記述の充実 また教科書用図書検定基準について ・発展的な学習内容の量的な上限を設けない ・補充学習や繰り返し学習等の記述の充実を図るため徳政的な規定を廃止する ・算数・数学については、算数的活動・数学的活動を取り上げるよう規定を加える などの改正が行われた。 3.各国との比較 (1)教育制度 ・学校制度がいくつかあるなどの違いはみられるが、基本的に義務教育年限に違いはない と言える。 ・就学義務が様々で、フリースクールのようなオールタナティブ教育施設でも義務教育が 受けられるため、日本のように「不登校」という概念を持たない国もある。 (2)教科書制度 ・教科書の採択は、日本のように教育委員会や校長に権限がある国は少なく、学校や教師 に権限がある国が多い。 ・日本と同じく教科書の使用が義務付けられている国がある反面、教科書の使用は自由で、 むしろ教科書に依存しない授業を行う国が多い。 ・義務教育段階の教科書は無償給与、または無償貸与の国がほとんどである。 ・出版社の教科書発行の自由として、教科書検定制度のない国もある。 4.考察 今回教育制度と教科書の違いを調べることで、各国による教育に関する考え方の違いを感じ ることができた。そのなかでも教科書という、私の中で学校の授業の中心となる重要なもの、 という存在が、他国ではそこまで重要視されていないことに特に驚いた。このような考え方の 違いから、授業の構成が異なり、児童生徒の勉強に対する意識が変わってきているのではない かと考える。 <参考文献> 国立教育政策研究所(2009) 『第3期科学技術基本計画のフォローアップ「理数教育部分」に係る調査研究[理数教科書に 関する国際比較調査結果報告]』pp11-69 2009/12/2(月) テーマ 算数・数学教育の国による違い カナダの教育事情と教科書制度について 07PB227 寺前裕子 1. カナダの教育制度 ・カナダは 10 州3準州から構成された連邦制国家であり、教育に関する権限は各州に委ね られ、それぞれの州に州教育省が設置されている。各州にとって初等・中等教育学校制度が 異なるため、それぞれの養育担当大臣が話し合うためカナダ教育担当大臣協議会が組織され ている。 ・義務教育期間は、学年ではなく年齢により定められ、各州によって異なる。またカリキュ ラムに関しても州により異なる。また、就学義務は弾力的で、ホーム・スクーリング・オン ライン学校やオールタナティブスクールでも義務教育が受けることが可能である。そのため 「不登校」という概念は存在しない。 2. カナダの教科書制度 ・教科書は、ビデオ・ソフトウェアなど電子化されたもの、印刷物・電子化されたもの・そ の他の非印刷物のいずれかの組み合わせによって構成されている、つまり「教材」の一部を 構成するものと考えられている。 ・教員は教科書でなく、教科書出版社の教師指導書や州教育省のガイドラインを使用し、そ こに記された内容を授業で扱うため教科書を使用しないことも可能である。また、教科書に は指導するべき事項より多くの内容が掲載されているため、全ての内容が指導されるわけで はない。 ・初等・中等学校で使用される教科書は各州教育省や教育委員会で検定を受けなくてはなら ない。一般的に教科書として認定されるための要件としては、カリキュラムに内容が対応し ていること、社会的文脈に沿ったものであること、年齢や学年に適した内容や言葉遣いにな っていること等である。 ・教科書の採択は、各学校長または教育委員会が行う。 ・教科やその他の教材は、一般的に州教育省や教育委員会が購入し、生徒に貸与される形態 である。 ・カリキュラムの学習の到達度を測るため、州による州統一学力テストが実施されている。 また、それに加え 2007 年より教育担当大臣協議会が、汎カナダ学力評価プログラムという 全国規模の学力テストを実施している。 3. カナダの教科書の工夫 [生徒の多様性への配慮] ・子どもの発達段階を考慮して、低学年ではソフトカバーの使い切り教科書、第3学年以降 ではハードカバーの教科書としている ・論説する学年の教科書において章の配列、並びにそのタイトルを統一している。そのこと で、次の学年の同じ章に前の学年での学習内容の続きが載ることで、学習内容の関連性や系 統性を、学習者である子どもに意識させやすくなる。 ・第3学年以降の教科書では、その冒頭に「教科書の見方、使い方」が明記されている。こ のことから学習者が学習の意図するところを意識し、自分にあった活動を進めていくことが できる。 ・各章の導入において、必ず見開き2ページでその章を概説している。ここで章全体の学習 への見通し(このようなことを学習します)、その内容を学習する必然性・必要性(どうして必 要なのか)、キーワードの3つを必ず同じ形で載せることで、それぞれの学習者がその章の 学習への見通しを持つことができるとともに、これまで学んできた内容をそれぞれ振り返り、 振り返った内容との関連性を意識して学習を進めていけるようになっている。 ・各章の導入の後に「この単元で必要なスキルの確認・練習」が必ずある。 ・ 「コミュニケーション」 「数学における読み書き」といった内容が必ず章の中に位置づいて いる。このような「学習の方法」に関する事柄は、学習内容をとおして徐々に習得していく ものである。子どもの発達段階に合わせてそれぞれの単元で相互作用や表現活用を進めてい くことで、説明する力や表現する力を育成していくことができる。 [実社会とのつながり] ・テクノロジーの活用がおこなわれている。 ・歴史や文化、日常生活とのかかわりなどとトピック的に取り扱うページが意図的に組まれ ている。 ・章の導入において、学習内容の有用性・重要性を「どうして重要なのか」の項目の中でき ちんと位置付けている。 4.考察 今回、カナダという一つの国に焦点をあてて調べてみることで、今までに知ることができ ていなかった日本の教科書との違いが見つけられた。特に興味深かったのは学習内容の関連 性や、章ごとの見通しや必要性を意識させるための工夫が教科書にはっきりと明記されてい ることだ。もともと教科書の中身をみることでいろいろ知ることができるのではないかと考 えていたが、今回日本の教科書とうまく比較することができなかったため、もう少し詳しく 調べていきたいと思う。 <参考文献> 国立教育政策研究所(2009) 『第3期科学技術基本計画のフォローアップ「理数教育部分」に係る調査研究[理数教科書に 関する国際比較調査結果報告]』pp29-32、pp101-112 2010/1/20(水) テーマ 算数・数学教育の国による違い 第1回 100 冊読破への道 07PB227 1.「窓ぎわのトットちゃん」黒柳徹子(1981) 寺前裕子 講談社 この本は、黒柳徹子さんがトモエ学園で過ごした時のことを書かれたものである。この本を 読んでいて、小林校長先生の子供たちに接するときの思いやりの大きさを強く感じた。 まず学校自体について、今までの学生生活で見たことのない試みが多くなされていたことに 驚いた。特に授業の進め方についてだ。一日の初めにその日にしなくてはならないことが発表 されて、児童はその中の好きなものから取り組んでいくというもの。このような授業の進め方 をすることで、児童は自習の形式で分らないところを先生に聞くという流れになるため、『先 生の話をボンヤリ聞く』という状況がないために充実した時間になるのだという。 また、この小林先生は全ての児童に対し思いやりを持っていると感じた理由として、児童一 人ひとりの話を熱心に聞かれていることももちろん、肉体的な障害をもつ児童に対し特に配慮 をされていることだ。例えば、運動会の種目がよく定番と呼ばれるものはほとんどなく、肉体 的な障害のある子が活躍できる種目を多く取り入れることで、一等になった自信を味わってほ しいという配慮がなされているのだ。 私もこの小林校長先生のように、今までにある形にとらわれてしまうのではなく、柔軟な発 想をもって児童に接することで、児童がよりよい環境で学んでいくきっかけを作っていきたい と強く感じた。 2.「ブーさん先生と子どもたち」吉岡たすく(1975) PHP 研究所 この本は吉岡先生と子どもたちとの実際の経験や、おかあさん方のお話をふまえながら、先 生と子どもたちとのふれあいの問題と、親の子どもに対する接し方について書かれているもの だ。 この本を読んでいて強く感じたのは、教師の影響力の強さである。特に印象に残っている話 は、マラソン大会の話。親御さんが「勉強の成績にも関係しないし、足が遅いのは格好悪いか ら参加させない」とおっしゃったとき、子どもは自分の意志で参加したのだ。そのきっかけと なったのが吉岡先生の『一等や二等にならなくても、休まずに参加して、途中で歩いたり、怠 けたりしないで、いっしょうけんめいに走るのが、いちばんいいんだ』という言葉だという。 素晴らしい言葉であることはもちろんのこと、運動が苦手な子どもに運動を積極的に取り組ま せるこの言葉の影響力がすごいと感じた。 本当に大切なものは何か、ということを教師になる以上知っておかねばならないと感じた。 そうすることで、子どもたちが成長していくうえで、よりよい道を示してあげられるのだと感 じたからだ。遊ぶことで重要な柔軟性などが養うといっても、勉学の成績が重要視されてしま っていると、なかなか受け入れられない考えになってしまうが、そこを教師が分かっていれば、 成長することのできる機会を生かしてあげることができるからだ。 3.「吉岡先生のテレビ寺子屋 PARTⅢ」吉岡たすく(1983) サンケイ出版 この本は、静岡放送で制作され、全国二十数局の放送局で放送されていた、テレビ寺子屋と いう番組を書籍化したものである。吉岡先生が実際体験されたことが多く書かれていましたが、 その中には、私がこのような場面に直面したら困惑してしまうだろう、と感じるものも多くあ った。「問題が起こらないように」と私は考えてしまうが、吉岡先生は『問題がたまには怒る ということも、物が不足しているということも、私は非常に大事なことなんじゃないかな』と おっしゃっている。私にはこの言葉がとても驚きだった。問題が起こることで子どもの性格な どが分かるからということだ。教育の中だけでなく、これは生きていくなかでも言えるんじゃ ないだろうか。人生で失敗しない人間などいないのだから、壁にぶつかったときに、これは自 分を見直すきっかけなのだ、と考えられる余裕を持てることが大事なのかもしれない。 4.「片岡富士子先生の課外授業『本当の学力って、なに?』」片岡富士子(2001) 文芸社 この本は片岡先生が、熾烈化する受験戦争の中、子育ての現実に戸惑い、子供ばかりでなく、 自分自身を見失いがちな親たちへむけた講演会を書籍化したものだ。親は子どもにどう接して いくべきか、ということを語られながら、教師の子どもに対する接し方や、人間の生き方まで お話しされている本だと思う。特に心にズシときたのが『今日話を聞いてきたから、明日から やるというのはだめ』という言葉。人間は階段式に進歩していくため、急に進歩はできないか ら、ということだ。私は「じゃあ今日から頑張ろう」と始めは頑張るのだが、始めに張り切り すぎて長続きしないことが多い。一つ一つを消化していくことが大事なのだと痛感させられた。 また、『十言って一しか通じないと思っても、言わないよりは一でも通じればいい』という言 葉があったが、これは生きていくうえでも重要なことなのでないかと考える。全てがうまくい くとは限らないのだから、失敗してもそれを次のバネと考えられるように、心を強く生きてい くことが大切なのかも知れない。 5.「奇跡の入江塾方式」入江伸(1980) 祥伝社 この本は、塾を開いていた入江先生が、学力を伸ばすにはどうしたらよいか、ということか ら、生き方についてまでし示してくださっている本である。この本には、このような考え方を するとよい、ということを書かれていると同時に、このような考え方ではいけない、というこ とも多く書かれている。そのなかに私自身が生きていくうえで体験し、しかも「これでいいの か」と疑問に思っていたことがいくつも書かれていたために、驚くというよりも納得すること が多いように感じた。特に心に強く響いたのは『今日の一日は、絶対今日の一日として二度と 繰り返しはきかないのだから、生涯の食いを残さないよう、真剣に、かつ慎重に、一歩一歩そ の歩みを堅実に進めていってほしい。』という言葉である。私は今までこうすればよかった、 と後悔してきたことが多くある。しかしその時間はもう戻らない。だからこそこれからの時間 を、これもこの本に書かれていたことだが、あらゆる対象に対して積極的に、そして誠実に取 り組む生活姿勢を忘れずに過ごしていきたいと思う。 2010/04/28(水) テーマ 算数・数学教育の国による違い 教育に関する本を読んで 07PB227 寺前裕子 1.『思春期とは‐愛することを求める子どもたち』江幡玲子(1986)小学館 この本の作者の江幡先生は、大学卒業後警視庁少年相談室に勤務され、その後教職につかれた 方だ。そのことを通じてこの本には子どもたちの心境やそれにどう大人は接するべきかを詳しく 書かれている。全体的に親の子どもに対する接し方について書かれているが、教師につながるこ ともたくさん書かれていると感じた。そのなかでも私が注目したのは第三章の「友達と学校」で ある。 この章のなかに、大学生に今までに接してきた先生のなかで一番印象に残っている先生の顔を 描き、なぜその先生の顔を描いたのか、その先生と関係のあったとき自分はどういう子であった か、いまその先生に会ったらその先生は自分に向かって何を言うだろうか、というアンケートを とったという話がある。その部分を読んでいて感じたのは、教師とは生徒が人生の方向を決める のに大きく関わるだけでなく、卒業した後曲がり角に立った時にふと思い出してしまうくらい影 響を与える存在であること。先生に言われた言葉はいいことだけでなく、マイナスの言葉をかけ られたこともそのあとの人生に大きく影響する。つまり「評されているように行動し、そういう 人間になっていく」とも書かれている。教師の言葉は親の言葉と同じくらい、時にはそれ以上の 力をもつことがある。このことを頭に入れ、生徒に接していかなくてはならない。生徒が間違っ たことをしたときへの言葉に気をつけることができるというだけではなく、生徒の今後の人生の 励みになる言葉をかけられる心の広い教師になりたい。 2.『授業を創る 学びが変わる 教師たちの挑戦』佐藤学(2003)小学館 この本は著者の佐藤先生が1万を超える授業を参観することを通じて、 「学校改革」を提示している 内容だ。海外も含めて実例がたくさん挙げられているのでとても読みやすかった。 この本で特に強調されていると感じたのは、 「良い授業とはなにか」ということだと考える。教師に とって「良い授業」とは子どもたちが活発に発言し、明瞭な答えにたどりつく授業と考えられがちだ が、佐藤先生は、今必要とされる授業とは、子どもたち一人一人のつぶやきを教室の中でつなぎ、行 きつ戻りつしながら「学び」を深めるような授業である、と言われている。教師が子ども一人一人に 対して真剣に向き合い、あらゆる発言を尊重しながら進められる授業とはそういったものにしかなら ない、このような授業を通じて子どもたちは、 「聞く」能力を身につけ、従来の勉強とは違う「協同」 する力を獲得することができるのだと書かれている。またこのような授業を実現させるためには,学 校の文化,そして教師の同僚性が欠かせられず、教師同士にも,聴き合い,学び合う姿勢が何より求 められると書かれている。 この本を通じて、よい授業を行うことの難しさとともに、重要性を痛感させられた。私は、子ども たちの意見を尊重し、学ぶ過程を大事にしなくてはいけないのだと分かっていても、実際は今でも、 前に書かれたような答えを導くことを意識し、重要視してしまっているように感じる。 また、この本のなかでは、昔授業がうまくいかず、努力をされてよい授業をされるようになった経 験談もたくさん書かれている。この経験談を読んで、例えば皆静かに授業を受けていてまとまってい るクラスであっても、ただ椅子に座りノートをとっているだけで、内容を理解していない場合や、喧 嘩もなく落ち着いているクラスであっても、実は心の中ではお互いをよく思っていず、胸に秘めてい るという場合などがあるという。教師はこのようなとき気付かないことが多いようだ。私もきっとこ のような場合に直面しても、授業のやりやすいよいクラスと考えてしまうのではないかと思う。この ことを通じて、表面だけでなく、子どもたちとのコミュニケーションを通じて、子どもたちの本心を 知ることがまず大事なのだと感じさせられた。 3.『<教育力>をみがく』家元芳郎(2004)寺子屋新書 この本の著者の家元先生は、小学校・中学校で約 30 年間教師生活を送られた方だ。この本は具体例 を混ぜながら、現代の学校の子どもたちの様子をふまえながら、教師はどのように指導していくべき なのか、について研究されている本である。 指導とは注意するという意味で使われがちだが、指導方法はきわめて多様であり、無造作に辞書を 引いてでてくる言葉全てが指導の方法と言える。教師は状況によって、その中から指導の方法を選択 する必要がある。 また指導するなかで最も大事と言えるのが、子どもとの認識を共有することである。たとえ教師が 指導をしたとして、子どもがそのことを悪いこと、と認識していなければ指導しても伝わらない。そ のため注意の構造は、よくないことがあると教師が認識する、教師の認識を子どもたちと共用する、 二度とその行為を繰り返さないように忠告する、子どもは反省し二度としないと決意する、という段 階が必要なのだ。 また、今指導力不足の教員が問題になっていることについてだ。指導力不足の起こる原因として家 元先生は4つあげている。教師の採用に原因がある場合、教師になり次第に人格破壊に追い込まれる 場合、教師の個性が状況にあわないことで発生する場合、学校の指導体制が生み出す場合がある。そ して指導力不足の解決策として7つ挙げられている。教師を辞める、異動する、自分の指導を反省し 力技派に転向する、早く管理職になり指導する場から撤退する、己の信念を貫きわが道をゆく、力技 を用いないで指導できる職場をつくる、力技を用いないで指導できる力を身につけることである。ま た指導力をつける方法としては、自分を知ること、自分の方法をみせあう、ほかの教師の指導を盗む などがあげられていた。 この本を読んで教師の指導というものの奥深さを実感させられた。例えば学校現場では、他の教員 の方から指導してほしいという連絡が多いが、その時の対応として、言われたことをそのまま伝える だけではいけないというのはもちろんのこと、子どもたちの問題であることを認識させることが大事 であること、そして前提として指導する前に実態を自分の目で確かめる必要があることは、今まで意 識したことがなかったことであった。このような指導の方法を多く知ることで子どもたちとの信頼関 係が築けるのだと感じ、指導方法についてもっと詳しく知りたいと感じた。教育力とは、指導の力・ 人格の力・管理の力であり、教育という仕事をしながら、学んで意識し身につけ、みがきあげてく思 想であり、技術であると書かれている。私もこの姿勢を忘れることなく、日々精進していきたい。 2010/05/19(水) テーマ 算数・数学教育の国による違い 教育に関する本を読んで 07PB227 寺前裕子 1.『だれでも理数が好きになる-子ども・親・先生のために-』薦田安美知(1992)星雲社 この本は著者である薦田安美知先生の教員時代のお話を、具体例を多く踏まえながらお話して いくことで、教育とはどういうものなのか、教師とはどういうものであるのか、について書かれ ているものです。 心に残っている言葉としては、 「教育とは、伸び悩んでいるときに、そっと障害物を取り除いた り、日が当たるようにしたり、添え木の代わりをしてあげたりして、たくましくなるまでの手助 けをすること」。また、出来ることならその手助けも、本人には分からないように、そっとしてあ げて自信が育つようにしてあげることが大切である、という言葉です。 また、教師として大切なこととしては、勉強が好きであること、子どもが好きであること、子 どもより学ぶ姿勢であること、感動する心を大切にすること、心の教育をすること、あきらめな いことをあげられています。 薦田先生はとても多くの立場、つまり学級などが変わるだけでなく、小学校・中学校・高等学 校・養護学校・大学で教師として教壇に立たれています。その数々の実践を読んでいく中で、教 育に対しての強い想いがとても伝わってきました。特にそのことを感じたのは、一般的に「問題 のある児童生徒」と言われてしまいそうな児童生徒に対しての接し方がとても素晴らしいのです。 また学級づくりをする一つの手立てとして、一学級ずつに与えられる学級園と呼ばれる花壇があ ったクラスでの話です。そのとき私が想像できるものとしては、学級の係として花壇を花でたく さんにしましょう、というものでした。しかし薦田先生は、一つの目標を持たせいろいろな体験 をさせてあげたいという気持ちから、花を育ててその花を売り旅行資金を創ってクラス旅行をし てはどうか、と生徒に話を持ちかけたのだそうです。そして生徒たちは自分たちの成し遂げたい と思える目標を与えてもらえたため、みな協力して実際に旅行へ行くことを達成したそうです。 私もこのようにどのような生徒に対しても、どんな状況であっても、すべてをよい方向に導け るような教師になりたいと強く感じました。 2.『学習革命 だれでも理数が好きになる 一般編~中学編』薦田安美知(2001~2005)雄文社 幼児編では、学齢までの子育ての方法と幼稚園時代の理数系の家庭教育の方法を、具体例を多 く取り入れながら書かれています。教師としてはもちろんのこと、親としてどのように子どもに 接していくとよいか、などが詳しく書かれている内容でした。 小1編~中学編では、前編として学習以前の基礎事項・留意事項を、後編として算数・数学の 具体的指導法について書かれています。 後編では、その学年の学習内容について一つ一つ指導例をあげてくださっているだけでなく、 どのような箇所に気をつけて指導していけばよいのかが詳しく書かれているのでとてもためにな る内容でした。教科書にのっているものをそのまま伝えるだけの授業では、塾や自学で先に学習 をしてしまっている児童生徒に対し退屈と感じさせてしまう、単調な授業になりがちで児童生徒 の興味関心を引き出しにくい、などのマイナス点が多くあるため、授業を工夫しなくてはいけな い、とはよく耳にします。しかしどのような授業をしたらよいのか、という具体策にあまり触れ ることがなかったため、薦田先生の本を読むことで、授業をどのように行えばよいのかイメージ がしやすくなりました。そのため、薦田先生は教科書を「独り学習」が出来るようになるまでの 間学習のまとめとして使うのみ、と書かれているのがとても説得力がありました。 また、前編の各学年の学習以前の基礎事項・留意事項もとてもためになるものでした。各学年 の児童生徒たちの一般的状況を中心に、生活面で気をつけなくてはならないこと、学習面で気を つけなくてはならないこと、精神面での気をつけなくてはならないことを項目ごとに分かりやす くまとめてくださっています。また一般的状況にあてはまらない場合についても、どの本のどの 部分を参考にするとよい、などのように助言がされています。生活面では下にあげる「頭の良く なる6ヶ条」を中心に具体策が書かれています。学習面では各学年で必ず押さえなくてはならな いこと、そしてそれが抜けてしまうと今後どの場面に影響が出てきてしまうか、などまで詳しく 書かれているため、どの部分を特に注意しなくてはならないかがよく分かる内容になっています。 精神面についてでは具体的にどのような児童生徒にどのような接し方をすべきかが書かれている ためとてもイメージしやすいものになっています。また高学年では思春期に差し掛かった子ども の心理状況についても触れ、それについての接し方も書かれているので、特に異性の児童生徒へ の悩みについてがよく分かる内容になっています。 またこの本で何回か書かれていてとても興味をもったのは、上でも少し触れましたが、生活指 導の基本的事項として紹介されている「頭の良くなる6ヶ条」です。これは教科学習の成果をあ げるものとしてあげられていて、それぞれ次のように定義されています。第1条眠る、第2条食 べる、第3条動く、第4条精神集中して行う、第5条続ける、第6条人や支援に心を開く(心を開 いて人や自然と対話する)というものです。第1条は、眠って疲れを取らなくては頭が働かないか ら眠りなさいということ。第2条は、先ず食べなくては生きていけないし、バランスある栄養を とることで健康な心身を保たせようということ。第3条は、運動して精神のバランスをとりなさ いということ。第4条は、勉強するときには精神集中してやりなさいということ。第5条は、物 事を成し遂げるためには当然やらなくてはならないことであり、正しい方法で続ければなんでも 成功するということ。第6条は温かい心情が育つようになる学習のベースであることと書かれて います。どれも当たり前のことのようでありながら、この当たり前のことが出来ていない場合が 多いのが現状だそうです。教師はこのような教育を当たり前だからと手を抜くのではなく、最優 先に取り組んでいくことで、考えることの出来る「相応的な人間」を育てるよう努力していかな くてはならないのです。 この本を読み、教師がどのようなことを念頭におき、どのように児童生徒に接し、どのように 授業をしていけばよいのかが分かってきたように感じました。教師がどのようにするかによって 子どもたちに与える影響は大きいと思います。そのことを頭に入れ、教師として必要なことは何 なのかを追究していきたいと感じました。 2010/06/02(水) テーマ 算数・数学教育の国による違い 教育に関する本を読んで 07PB227 寺前裕子 1.『見える学力、見えない学力』岸本裕史(1981)国民文庫 『改訂版 見える学力、見えない学力』岸本裕史(1996) 『改訂新装版 見える学力、見えない学力』岸本裕史(1994) 作者の岸本先生は、神戸市小学校教諭として、基礎学力のなりたち・向上と成長する力、意欲 の結びつきを実践・研究の両面から解明し、 「見える学力・見えない学力」という新たな学力を提 唱されています。今回の本の構成は大きく二つに分かれていて、それぞれ「見える学力」 「見えな い学力」をどのようにゆたかにしていくとよいかが書かれています。 最初に「見えない学力」についてです。 まず岸本先生が「生きる力」としての基礎的な能力として基礎的な体力・運動能力、感応表現 能力、基礎学力の3つをあげられており、基礎学力を読み書き計算を基礎とした能力、認識の発 達の上でなくてはならない能力とされていることをおさえておきたいところです。 この本のなかで「見えない学力」とは「子どもの生活空間の中で得られる先行体験」という言 葉などで表現されていますが、こういうものだ、というようにはっきりと書かれている箇所はあ りませんでした。私はこの本を読む中で、 「見えない学力」とは言語能力のことなのではないかと 考えました。 岸本先生は「見えない学力」を構成するも のとして、まず言語的文化と非言語的文化、 次に自律的文化と他律的文化、そしてことば としつけと遊びと読書、というように、いく つかの枠組みで見ることができると書かれて います。この「見えない学力」が乏しい子は 就学時からすでに著しい遅れをとってしまい、 それを克服するには、教師の話すことばの質、 教師の勧める読書、友達との多彩な遊びのた めの配慮、やらなければならないことはおし まいまでやり切らせていくというしつけ、こ れらの教師主導による涵養が日常的に必要で あるとされています。 また、 「見えない学力」を伸ばすために必要なものとしては、言語環境、読書、遊びがあげられ ています。なぜこの3つが必要さとれているかですが、それぞれ次のように定義されているため と考えられます。まず言語環境については、知的能力の核心であり、学力の土台であると定義さ れています。そして言語能力を高めるための教師に求められる工夫としては、意図的にたくさん の新しい言葉・正しい言葉・書き言葉を使うことや、抽象語・概念語を意識的に会話や説明の中 にはめ込むこと、また子どもの発言に主語・述語・順逆接詞・助詞・助動詞を間違いなく使えて いるかなどを点検してあげることがあげられています。次に読書についてですが、読書は言語能 力の発達に直結するだけでなく、そこから得られる豊富な知識や、それに基づく向学心や自学力、 想像力や思考力、ひいては想像力を子どもに与えるものだとされています。よって教師が子ども の言語能力の発達に及ぼす影響力には限りがあるため、それを補うものとして読書が大切なのだ と考えられます。最後に遊びについてです。遊びはしつけと同様、行動的・実践的文化であり、 直感的・具体的な思考力を促進し、その中で得る先行体験や学習習慣が豊かな基礎学力の源にな ると書かれています。 次に「見える学力」についてです。ここでの「見える学力」とは、テストなどで成績としてで る学力のことです。 岸本先生は「見える学力」を急速に伸ばすには、読む力、書く言葉、計算力が大切であるとさ れています。まず読む力についてです。新しく学力を身につけるには、新しい教材として提示さ れた文章なり、問題を読みとらなくてはならないため、読む力は学力獲得の前提条件とされてい ます。これは、文章を読みとる力があれば、指導や援助が不足していようとも、一人で新たな学 力・高い水準の学力を身につけていくことができる、とも書かれており、自学自習にもつながる 大切なものであると言えます。また読む力をつけるための具体策としては、教科書の音読があげ られています。次に書く言葉についてです。書く勉強は、習ったことを確実に学力として定着さ せるもっとも効果的な手段とされています。それは、書く作業が気楽なものではなく、集中力も、 耐忍性も要する分、必要な場合いつでも再生できるようになる効果があるためです。書く力をつ ける具体策としては、家庭で最も容易に取り組めるものとして教科書の全文聴写があげられてい ます。この作業を通じて書く力だけでなく、集中力と持久力を育てることができるためです。ま た書く力を養ううえで忘れてはならないのが漢字を書く力です。漢字を正しく書きこなすには、 一つの感じがどんな要素から成り立っているかを見分ける力、筆順に従って組み立てていく力、 位置についての明確な認知能力、つまり分析と総合という認識能力と、認識したことを正しく想 起・再現し得る能力の一定の成熟を必要とするため難しいのです。しかし、漢字の成り立ちや、 字そのものの持っている意味を分かりやすく教えることで、いろんな漢字の由来を知りたがるよ うになり、そのことから勉強に精を出すようになることもできるのです。最後に計算練習です。 計算能力はある水準までは努力にほぼ比例して確度と速度がよくなってくるので、どの子も達成 感や成就感をもつことができるのです。また計算が正しく早くできるようになるための錬磨は、 新たな学力を獲得するための資質や習性をより強めていくきっかけとなり、意欲的に勉強に取り 組むようになる契機になるものとされています。 今回この本を読むことで、 「見える学力」のための基礎学力である読む力、書く言葉、計算能力 は、見える学力として軽視しがちであるが、実際は、基礎学力の育成だけでなく、言語能力や読 書、遊びといった「見えない学力」をはぐくむために必要不可欠であることを知りました。見え ない学力を育成するためにはどのようにするとよいのか、さらに調べてみたいと感じました。 2010/09/02(木) テーマ 算数・数学教育の国による違い 国際比較調査からみた日本 07PB227 寺前裕子 1. 国際比較調査について ●PISA(OECD 生徒の学習到達度調査) ・PISA とは OECD 加盟国の多くで義務教育の終了段階にある 15 歳の生徒を対象に、読解力・数学的リテラシ ー・科学的リテラシー・問題解決を調査し、教育方法を改善し標準化する観点から、生徒の成績を研 究することを目的としている。今までに 2000 年、2003 年、2006 年、2009 年の4回行われている。 毎回メインテーマが存在し、読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーの順で移っていく。 ・調査の結果 数学的リテラシーは全体、もしくは4領域「量」 「空間と形」 「変化と関係」 「不確定性」で考えられ る。得点では、全体、領域ともに日本は1位グループに入っていたが、PISA2006 では 10 位に。経年 変化は、OECD 平均は向上しているが、日本では差はあまりみられない。そして、数学への興味・関 心や数学の楽しさに関する 4 つの質問項目「数学についての本を読むのが好きである」 「数学の授業が 楽しみである」「数学を勉強しているのは楽しいからである」「数学で学ぶ内容に興味がある」に対し て、肯定的に回答したわが国の生徒の割合は OECD 平均より低い結果だった。また、問題解決能力に ついても 2003 年から調べられたが、日本は1位グループであるという結果がでた。また、問題解決能 力は特に数学的リテラシーと関係があることが注目されている。 ●TIMSS(国際数学・理科教育調査、2003 年以降国際数学・理科教育動向調査) ・TMISS とは 国際教育到達度評価学会(IEA)が行う、小・中学生を対象とした国際比較教育調査。学校教育で得た 知識や技能がどの程度習得されているかを評価するものであり、 「初等中等教育段階における算数・数 学及び理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し、児童・生徒の環境条件などの諸要因との関 係を参加国観におけるそれらの違いを利用して組織的に研究すること」を目的としている。調査は 1964 年(FIMS)、1981 年(SIMS)、1995 年、1999 年、2003 年、2007 年に実施されていて、その内容は大 きく「問題」 「児童・生徒質問紙」「教師質問紙」 「学校質問紙」である。 ・調査の結果 TIMSS では、まず問題の結果からは、小学4年生と中学2年生に4年ごとに調査を行うことで、1995 年以降の同学年の比較と、4年間での変化を調べることを、質問紙の結果からは、算数・数学に対す る考え方を調べることなどを目的としている。TIMSS の結果では、質問紙で得られた、数学・理科と もに「勉強の楽しさ」「勉強への積極性」「得意な教科かどうか」「勉強に対する自信」「自宅で宿題を する時間」などが国際的にかなり低い状況であることが注目されている。 ●PISA と TIMSS の違い ・PISA は学校で習った知識や技能の活用能力(新しい学力観)を見るテスト、TIMSS は学校で習う内 容をどの程度習得しているか(従来的な教科学力)をみるアチーブメント・テストである。 2. 第3回国際調査ビデオ研究 ●第3回国際調査ビデオ調査とは ・第3回 TIMSS に伴って、米国の教育改善の実現に向けて、ドイツ・日本・米国の中学校数学の計 231 授業のビデオを分析したもの。主な観点としては「多数の教師が今日用いている学習指導法とはど のようなものか」「他の文化ではもっと別の指導法があるのか」。そして、結論として日本の数学授業 の基本型が最も進んだ型であるとされた。 ●第3回国際調査ビデオ調査での結果 ・ビデオ研究で得られた大きなものとして、 「決定的要因は教師にではなく、学習指導にあること」 「文 化的営みとしての学習指導」「学習指導改善の方法における相違」があげられる。 【システムとしての学習指導の違い】 ドイツ「高等手順の展開」 日本 「仕組まれた問題解決」 米国 「用語学習と手順練習」 【文化的営みとしての学習指導の違い】 ・学習指導は、他の文化的営みと同様に、長時間にわたる非正式的な参加を通して学習されるもの である。また文化的営みとしての学習指導は、発明によって百花繚乱するものではなく、文化の一 部としての信念や思い込みの安定的な関係網と整合性を保ちながら長い期間にわたって徐々に生成 発展するもの。 ・指導と学習に関する文化的信念の日本と米国の大きな違いとして「数学の性格」 「学習の性格」 「教 師の役割」「個人差」「授業の神聖さ」があげられる 【学習指導改善の方法における相違】 ・一つ一つの授業の漸進的改善を通じ、さらに過程における知識の開発とその共有化とを通じて、 日本流学習指導改善の仕組みは、教師と学習指導との確かな改善を可能としている。 ・学習指導改善の方法の具体的な活動としてあげられるのが「授業研究」である。授業研究にとっ て大切なこととは「長期的・持続的改善モデルに基づくこと」 「児童・生徒の学習に不断に焦点化さ れること」「学習指導をその場面の中で直接改善することに焦点化されること」「協同的な取り組み であること」 「参加する教師は、それが自己の専門職的能力に対してだけでなく、学習指導に関する 知識の開発にも貢献するとみていること」である。 3.考察 日本の国際的地位を知ることが出来た。今後アメリカ、ドイツの教育制度について調べたい。ま たそのあと、日本よりも国際比較調査で上位の国(例えばフィンランド)についても調べたい。 <参考文献> 文部科学省 HP http://www.mext.go.jp/ ジェームズ・W・スティグラー(1999)『日本の算数・数学教育に学べ米国が注目する jyugyou kenkyuu』 2010/10/12(火) テーマ 算数・数学教育の国による違い アメリカ・フィンランドの教育界 07PB227 寺前裕子 1. アメリカにおける授業研究 ○アメリカ教育界で授業研究が注目されたきっかけ 1991 年に Stevenson と Stigler により出版された「The Learning Gap」という本が、アメリカでの国際比較 研究への関心を高まらせたきっかけである。この本はアメリカ、日本、台湾、中国の学校教育と学力についての 研究の報告である。この中でも注目されたのが、算数・数学の授業についての研究であり、特に日本とアメリカ の授業の指導方法や授業の中での子どもたちの学習についての研究である。これらの研究が最終的に、第三回数 学理科国際研究(TIMSS)のビデオ・スタディーに引き継がれ、違いが浮き彫りになった。そして 1990 年代後半 になり、Lewis(1997)や Yoshida(1999)の研究により、日本の指導法が従来の教師伝達型から児童中心型・発見 型へ、戦後 50 年をかけて変わってきた事実と、その大きな理由が授業研究や校内研究であることが分かる。そ して、日本の授業研究に対する関心を一度に引き上げたのが、1999 年秋に Stigler と Hiebert により出版された 「The Teaching Gap」と Ma により出版された「Knowing and Teaching Elementary Mathematics」である。 ○アメリカでの授業研究の実施・定着の困難 ・授業研究を行っても子供達の学力の向上にはすぐにはつながらない ・授業研究の方法の理解が乏しいため、実際に授業研究を行っても効果が上がらない可能性がある ・個々のアメリカ人の教師がどのような算数・数学の授業観や教授方法を頭の中にイメージとして持っている のか、また一つの集団を形成したときに、それがどのような考えになっていくのか予想がつきにくい ・教師の授業研究をするための時間を確保することが困難である ・それぞれの学校が孤立した状態にあり、授業研究の輪や授業のアイデアがなかなか広がっていかない ・授業研究が直接解決できない点がある(授業研究に教師の算数・数学の知識・理解の向上を直接望むことがで きないこと、授業研究は直接教師の授業を見る眼目を向上させることができないこと、等) ・アメリカの教師が信頼できる、学習内容が系統立てて掲載されていて、ある程度統一された教科書がアメリ カにはないことから、授業研究の質や効率が上がらない ○アメリカでの授業研究への関心の高まり 「The Teaching Gap」の影響や Fernandez と Yoshida のアメリカの学校での授業研究の試みが紹介されるこ とで、少しずつ各地で授業研究のワークショップが行われるようになってきた。 その一つとして、2000 年の夏に幕張で行われたアメリカのナショナル・アカデミース・オブ・サイエンスの 主催による、日米の教師教育についての勉強会が行われ、授業研究が話題の中心となった。同じようなワークシ ョップの試みは 2000 年の 11 月にもニューヨーク日本人学校グリニッチ校で公開授業研究会のかたちで行われた。 これらの大きなワークショップとは別に、アメリカの各地で、日本の授業研究についてのプレゼンテーション がいろいろな学会や州・地区レベルで行われるようになった。そして、その中で小さな規模ではあるが、いくつ かの教師グループによって、授業研究がおこなわれるようにもなり、ある教育研究関係の財団が授業研究をする 学校や教師のグループに補助金を出すことも始められている。 その他に、Stigler などによる新しいテクノロジーを使った授業研究をインターネット上で支援していくため のソフトウエアーの開発や、Lewis による授業研究の手引きの出版、Fernandez と Yoshida による授業研究のカ リキュラムの開発もすすめられている。 ○日本の教師として必要なこと ・日本の授業研究に自信と誇りをもつこと ・アメリカや世界に注目されている授業研究にさらに磨きをかけること ・授業研究という素晴しい財産をアメリカや他の国々の教育者に必要とされるならば積極的に分かち合うこと 2. フィンランドの数学教育 ○PISA 調査に見るフィンランドの生徒の実態 習熟度レベル別の生徒の割合の比較から、習熟度レベルの低い生徒の割合が極端に低い。また、各問題の正答 率の分析から、どの領域の問題も平均あるいはそれ以上の成績を示している。また、計算を必要とするような問 題については平均程度だが、一方で理由や説明を記述することが要求される問題については、多くの問題で平均 を大きく超えている。そして、質問紙調査の分析から、数学に対して興味・関心は必ずしも高くはないが、将来 のために必要と考えて勉強し、勉強に対する不安をあまり感じずに学習している。 ○フィンランドの数学教育の特徴 ・教育目標は、PISA の主張する「将来に生きる力の育成」を目指している。特に数学の場合は、数学的な思 考を育成し、問題解決能力を高めることが重視されている。 ・生徒の多くは、学校での学習と自分の将来とを結びつけ、数学を学ぶ意義を将来の仕事の可能性を広げるた めと捉えている。 ・現在(2007 年)の国家カリキュラムでは、細かな規定は作らずに大まかな枠組みのみを示すにとどまり、細部 の内容については、地方教育委員会、学校、各教師の裁量に委ねている。 ・教師は、国民から信頼されていて、指導内容、指導方法について任されている部分が多い。また教職に就く ことは狭き門であり、全員が修士号をもっていることもあり、教師の能力は高いといえる。そして、教師は時間 的にゆとりを持ちながら、教育活動を実践している。 ・生徒同士の競争意識に基づくような教育は行われていない。中学受験、高校受験もないので、そのためだけ の勉強をする必要がない。一方で、学力の低い生徒に対する支援は充実していて、学力格差は非常に小さい。 ○フィンランドが PISA 調査で好成績をあげた背景(フィンランド国家教育委員会より) ・地域、性別、経済的状況、母語に関係なく平等な教育の機会があること ・どの地方も教育が受けやすいこと ・男女による差別がないこと ・教育にお金がかからないこと ・基礎学校では、総合的で選別がないこと ・支援的で柔軟な行政であること、全体は中央で舵取りし実行は地方で行う ・あらゆるレベルで、相互的で共同的に活動すること、仲間意識の考え ・生徒の学習と福祉のための個人的な支援があること ・発展の視点に基づく数値的評価と生徒の評価を行うこと、テストすることなく序列化することなく ・高度な資格を持つ自律的な教師であること ・社会的構成主義による学習概念であること ○日本の数学教育への示唆 ・扱う指導内容のなかに、読解力を問うような問題を適切に導入する ・生徒が、学校で学ぶ数学が将来の生きる力とどのように関連するかについて、授業を通し実感させる ・日常事象と結びついた解決の必要性の感じられる問題を多く扱う ・試験のため以外での数学を学ぶモチベーションを高める <参考文献> 吉田誠 (2001)『アメリカ教育界における授業研究への関心・期待と日本の教師へのその意味』 熊倉啓之(2007)『フィンランドの数学教育』 熊倉啓之、元新一郎、西村圭一、梅田英之、國宗進(2007)『続・フィンランドの数学教育』 2010/07/13 数学科教育学研究 B 卒業論文中間報告 算数・数学教育の国による違い 07PB227 寺前 裕子 §1.研究題目:「算数・数学教育の国による違い(予定)」 §2.研究動機 国際調査の結果などで、日本の子どもたちの学力の低下などが騒がれているが、同じ算数・数学の内 容を学習しているはずなのに、なぜ違いがうまれるのか疑問を抱いていた。そこから、日本と海外の教 育の違いを知ることで、よりよい教育はなにかが分かるのではないかと考え、研究テーマを設定した。 §3.研究概要 (1)理数教科書に関する国際比較調査について ①理数教科書に関する国際比較調査とは →・OECD・PISA や IAEA・TIMSS などの国際調査において、日本の子供たちの学力の低下、意 識・態度面での興味・関心の低さ等が懸念され、理数教育について様々な視点からの改善が大きな 課題となり、その一つとして教科書の改善があげられ、理数教育のこれまでの施策の検証と振興す るための効果的施策を検討するため実施された調査。 ・比較対象国・地域として、多様な観点から比較するため州国および PISA 等での理数教科の成 績上位国から、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、フィンランド、韓国、中国、台 湾の9ヶ国・地域。 ・調査の内容として①対象国の初等中等教育における教科書制度を整理する②対象国の理数教科 書を収集し、その体裁等を調査する③特定の分野について、対象国の教科書と我が国の教科書につ いて比較分析する④対象国での現地調査を行い、理数教育の指導の現状、教科書の位置づけ、使わ れ方などの実態を明らかにすること ②理数教科書に関する国際比較調査の結果 →【教科書に関して】 ・算数・数学の教科書使用の実態調査から、ページ数の違いは、各国の教科書の役割や扱い方に 起因していることが伺われる。日本では教科書の内容は教育内容と一致しているので、学校で教科 書の全ての内容に触れると考えられている。一方アメリカ等のページ数の多い国では、教科書の内 容は教育内容よりも多くの内容を含んでいるので、学校では教科書の一部の内容に触れればよいと 考えられており、また家庭学習の役割や副教材の有無なども教書のページ数と関係しているといえ る。 ・日本の算数・数学の教科書は、算数的活動を強調するなどのすぐれた点が見られる半面、いく つかの検討や改善が望まれると言える。それは、算数・数学の教科書の役割や教科書観を検討する こと、算数・数学を学ぶ意義を明示すること、児童・生徒の多様性への対応の検討をすること、実 世界との関連を積極的に取り入れること、他教科との関連を密にすること、ICT を積極的に活用す 2010/07/13 数学科教育学研究 B 卒業論文中間報告 ることである。これは学習指導要領の改善点としてあげられている。 ・他国の教科書として私の中で印象的とされていることをまとめたい。まずフランスでは、小学校 では教科書が授業で使われることが前提とされているが、中学校では教科書が自習で使われるよう考 えられている。ドイツの教科書では、一般的な例題、説明、練習問題という系列ではなく、児童・生 徒が問題を解く活動を通して、概念理解や能力習得を目指している。そしてフィンランドでは、算数・ 数学の教科書の作成に多くの教師が関与し、教科書会社も教師のニーズに積極的に応え、教師が教科 書を積極的に活用している。つまり、教科書の作成と使用が密接に結びついており、教科書作成にお ける教師の関与の重要性を示しているといえる(これは日本でも行われている)。 【制度に関して】 ・学校制度がいくつかあるなどの違いはみられるが、基本的に義務教育年限に違いはないと言える。 ・就学義務が様々で、フリースクールのようなオールタナティブ教育施設でも義務教育が受けられ るため、日本のように「不登校」という概念を持たない国もある。 ・教科書の採択は、日本のように教育委員会や校長に権限がある国は少なく、学校や教師に権限が ある国が多い。 ・日本と同じく教科書の使用が義務付けられている国がある反面、教科書の使用は自由で、むしろ教 科書に依存しない授業を行う国が多い。 ・義務教育段階の教科書は無償給与、または無償貸与の国がほとんどである。 ・出版社の教科書発行の自由として、教科書検定制度のない国もある。 (2)日本の教育について 教育とはなにか、教師とはどういう存在か ・『窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子(1981) 講談社 ・『改訂版 見える学力、見えない学力』岸本裕史(1996) ・『だれでも理数が好きになる-子ども・親・先生のために-』薦田安美知(1992)星雲社 ・『学習革命 だれでも理数が好きになる 一般編~中学編』薦田安美知(2001~2005)雄文社 §4.今後の課題 教育に関する本を読むことを通じて、算数・数学の授業には、教え方はもちろん教師の声掛けなどの 児童生徒への接し方が大きく関係することを感じさせられた。今後は「教育とはなにか」ということを いつも念頭に置きながら、児童生徒への接し方を始めとして、教師として必要なものはなにか、日本だ けでなく世界の算数・数学教育についても深く調べ、よりよい教育、教師とはどういうものかを考えて いきたい。 【参考文献】 国立教育政策研究所(2009)『第3期科学技術基本計画のフォローアップ「理数教育部分」に係る調査研究 [理数教科書に関する国際比較調査結果報告]』
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