選定保存技術の選定・認定について

平成22年7月16日
選定保存技術の選定・認定について
文化審議会(西原
鈴子
会長)は、7月16日に開催された同審議会文化財分科会
の審議・議決を経て、次のとおり文部科学大臣に答申しましたのでお知らせします。
Ⅰ.答申内容
(1)新選定・認定
年齢は平成 22 年 7 月 16 日現在
保
文化財の保存技術
名称
氏名
持
生年月日
住所
有形文化財等関係及び無形文化財等関係
ま き え ふでせいさく
蒔絵筆製作
むらた
村田
しげゆき
重行
昭和17年 5月30日
(満68歳)
-1-
者
京都府
(2)追加認定
年齢は平成 22 年 7 月 16 日現在
選定保存技術
名称
保
氏名
持
生年月日
住所
有形文化財等関係
ひょうぐよう は
け せいさく
表具用刷毛製作
たなか
田中
しげみ
重己
昭和16年10月 7日
(満68歳)
-2-
者
千葉県
Ⅱ
解説
〔(1)新選定・認定〕
(有形文化財等関係及び無形文化財等関係)
ま き え ふでせいさく
1
蒔絵筆製作
むらた
村田
しげゆき
重行
(1)選定保存技術の選定について
①
名称
ま き え ふでせいさく
「蒔絵筆製作」
ま き え ふでせいさく
まきえ
蒔絵筆製作は、漆芸の装飾技術である蒔絵の制作用具として発達した特殊な筆の製
作技術であり、重要無形文化財「蒔絵」等における作品制作や漆工品の保存修理に欠
くことのできないものである。
②
選定保存技術の概要
ま き え ふでせいさく
蒔絵筆製作は、蒔絵(漆芸の装飾技法の一つで、漆で描いた下絵に金粉などを蒔き
付けて文様を表現する技法)の制作に用いられ、その仕上がりを左右する重要な用具
の製作技術である。
粘り気のある漆を含ませて細い線や複雑な文様を自在に描くため、蒔絵筆の材料や
ね
構造には独特の工夫が施されている。蒔絵筆には、弾力のある鼠の毛を穂先に用いる根
じ ふで
ね じ がわりふで
朱筆、柔らかい猫の毛を用いる根朱 替 筆などがあり、さらに約20種類に分けられ、
それぞれ使用目的が異なる。
蒔絵筆は入念な手作業によって製作され、製作工程の各段階で、材料を厳しく吟味
し癖毛や切れ毛を取り除く作業が繰り返し行われる。蒔絵筆の製作には多様な蒔絵技
法に関する深い知識と長い経験を要し、技術者は全国でもわずか数名しかいないうえ、
ね
じ ふで
近年、根朱筆の材料の入手が極めて困難になっている。
蒔絵筆は、重要無形文化財「蒔絵」等の作品制作及び有形文化財の漆工品の保存修
-3-
理に用いられる重要な用具である。蒔絵筆製作は、我が国の有形・無形の文化財の保
存のために欠くことのできない伝統的な技術であり、保存の措置を講ずる必要がある。
(2)保持者の認定について
①
保持者
氏
②
むらた
名
村田
しげゆき
重行
生年月日
昭和17年 5月30日(満68歳)
住
京都府
所
保持者の特徴
むらた く
ろ
べ
え
ま き え ふで
同人は、父・村田九郎兵衞に師事して伝統的な蒔絵筆製作技術を体得した。特に、
ね じ ふで
細く弾力のある根朱筆の製作に長年の豊富な経験を有し、漆芸作家や漆工品修理技術
者の厚い信頼を得ている。
③
保持者の概要
むらた く
ろ
べ
え
同人は、昭和17年京都府に生まれ、同36年から父・村田九郎兵衞(昭和62年
ま き え ふでせいさく
選定保存技術「蒔絵筆製作」保持者)に師事して伝統的な蒔絵筆製作技術を修得し、
以来、長年にわたり蒔絵筆の製作に専念して、技の錬磨向上に励んできた。
ね
じ ふで
ね じ が わ り ふで
同人は、根朱筆、根朱替筆など各種の蒔絵筆を製作しており、なかでも特に、細い
ね
じ ふで
ね
じ ふで
線を描く際に不可欠な根朱筆の製作に長年の豊富な経験を有する。現在、根朱筆の穂
先の材料となる鼠の毛の入手が極めて困難になっているため、同人は、猫の毛を用い
ね じ が わ り ふで
る根朱替筆を中心に製作しているが、材料の厳しい吟味と技量の高さにより、重要無
形文化財「蒔絵」の保持者をはじめとする漆芸作家及び漆工品修理技術者の厚い信頼
を得ている。
以上のように、同人は、「蒔絵筆製作」の技術を正しく体得し、かつ、これに精通
している。
-4-
④
保持者の略歴
昭和 36年 村田九郎兵衞に師事
以来、蒔絵筆の製作に専念し、現在に至る
平成 22年 村田九郎兵衛商店を継承
(3)
備考
同分野の既認定者
(死亡解除)
むらた
村田
く
ろ
べ
え
九郎兵衞
(昭和62年4月20日選定・認定~平成22年1月4日選定・認定解除)
-5-
〔(2)追加認定〕
(有形文化財等関係)
ひょうぐよう は
け せいさく
たなか
表具用刷毛製作
1
ひょうぐよう は
田中
しげみ
重己
け せいさく
「表具用刷毛製作」は、平成16年9月2日に選定保存技術に選定され、現在、保
にしむら か ず き
持者として西村和記が認定されている。したがって、同選定保存技術に関し、保持者
の認定を行うことは「追加認定」となる。
ひょうぐよう は
け せいさく
(1)選定保存技術「表具用刷毛製作」について
①
選定保存技術の特徴
かけふく
表具用刷毛製作とは、書画を掛幅などに表具する際に用いられる刷毛を製作する技
術である。その製作技術は、我が国の有形の文化財の保存修理のために欠くことので
きないものである。
②
選定保存技術の概要
表具用刷毛は、紙や絹を材料とする文化財修理において、それらを整形し、裏打ち
する作業の際に水あるいは糊を塗布するために用いられる。
表具用刷毛には、形状や材質の違いから京刷毛と江戸刷毛があり、その種類は用途
みず ば け
のり ば け
なで ば け
うち ば け
によって水刷毛、糊刷毛、撫刷毛、打刷毛などに分類され、用途に適した異なる獣毛
(馬、山羊、鹿など)が用いられる。表具用刷毛には、糊の濃度や紙の強度などに応
じて塗布できることが要求され、製作には入念かつ繊細な手作業と熟練の技が求めら
れるが、近年、伝統的な刷毛製作者が極めて少なくなっている。
表具用刷毛製作は、我が国の有形の文化財の保存修理のために欠くことのできない
技術であり、保存の措置を講ずる必要がある。
-6-
(2)保持者の認定について
①
保持者
氏
②
たなか
名
しげみ
田中
重己
生年月日
昭和16年10月 7日(満68歳)
住
千葉県
所
保持者の特徴
同人は、小林刷毛製造所・二代目の父のもとで修業し、その後、家業を継ぎ、53
年の経験をもつ。伝統を守り、昔ながらの手法で製作する表具用刷毛製作の技術を体
得している。
③
保持者の概要
しげじろう
同人は、父の田中重次郎について昭和32年から修業し、表具用刷毛製作の習得に
え ど ば け
努 め、現在、表具用刷毛製作のうち 、江戸 刷毛 製作の第一人者となっている 。
製作に際しては、原料である天然毛をよく吟味し、入念かつ繊細な手作業による
さきぞろ
はい
「先揃え」「灰もみ」「すれ取り」などの伝統的技法を厳格に守り、表具用刷毛製作
の保存に尽くしている。
同人の製作した水刷毛、糊刷毛などの表具用刷毛全般は、適度な水や糊の含み具合、
むらなどを生じずに均一な伸びが得られる点などで優れている。刷毛の優秀さ、使い
やすさに定評があり、同人製作になる刷毛を用いて、修理・表具された国宝・重要文
化財などの書画は多くを数え、文化財修理関係業界から高い評価を得ており、文化財
修理に不可欠な存在となっている。他方、自己研鑽に努めるとともに、伝承者育成に
も尽力している。
以上のように、同人は、「表具用刷毛製作」の技術を正しく体得し、かつ、これに
精通している。
④
保持者の略歴
昭和 32年
同 59年
平成
3年
同 13年
田中重次郎に師事
千葉県指定伝統的工芸品「刷毛」製作者指定
千葉県卓越技能賞「刷毛製造工」受賞
東京都伝統工芸士「江戸刷毛」認定
-7-
(3)備考
同分野の既認定者
(現保持者)
にしむら
西村
かずき
和記
(平成16年9月2日選定・認定)
-8-
Ⅲ.参
考
1.選定保存技術の選定及び保持者等の認定制度
文化財保存のために欠くことのできない伝統的な技術又は技能で保存の措置を講ずる
必要があるものを選定保存技術として選定し、その技を保持している個人又は技の保存
事業を行う団体を保持者又は保存団体として認定。
2.選定・認定までの手続き
毎年1回、有識者により構成される文化審議会の専門調査会における専門的な調査
検討を受けて、文化審議会の答申に基づき、文部科学大臣が選定保存技術の選定と保
持者や保存団体の認定を行っている。
3.「選定保存技術」の選定件数と「保持者」及び「保存団体」の認定数について
区
分
選定保存技術
保
持
者
(件)
選定・認定前
数
保 存 団 体 数
(人)
(団体)
67
50
今回の認定解除
0
0
0
今回の選定・認定
1
2
0
68
52
選定・認定後
※
保存団体には重複認定があるため、(
※
※
31(29)
31(29)
)内は実団体数を示す。
4.「文化財保存技術保存事業費国庫補助」の交付について
選定保存技術保持者及び保存団体には、文化財保存技術保存事業費国庫補助として以
下の経費を交付している。
保持者
~ 伝承者の養成、技能・技術の錬磨等のための経費として1人当たり
年間110.6万円
保存団体 ~ 伝承者の養成、技能・技術の錬磨等のため必要な経費
-9-