レボノルゲストレル徐放型子宮内避妊システム(LNG―IUS) - エンドメトリ

日エンドメトリオーシス会誌 201
2;33:1
49−1
53
149
〔一般演題/子宮腺筋症3〕
レボノルゲストレル徐放型子宮内避妊システム(LNG―IUS)の
難治性子宮腺筋症に対する有用性の検討
日本医科大学産婦人科学
浜野
緒
愛理,明楽
重夫,大内
市川
雅男,竹下
望,峯
克也
俊行
方
言
法
子宮腺筋症は再燃を繰り返す慢性疾患であ
2
0
1
0年1月から2
0
1
1年7月の期間,当科を受
り,その疼痛により患者の QOL を著しく低下
診した子宮腺筋症患者1
0人を対象とした.1
0例
させる.一方,近年,レボノルゲストレル徐放
はすべて子宮腺筋症と診断され,対象の平均年
型 子 宮 内 避 妊 シ ス テ ム(Levonorgestrel-
齢は4
4.
9±3.
5歳,平均経産回数は0.
7±0.
9回
releasing intrauterine system,LNG―IUS)が
であった.対象の患者は5年以上の月経困難症
その臨床症状の改善に有効である〔1〕との報
治療歴があり,治療抵抗性を示し,子宮温存療
告があり,治療方法としても簡便かつ利便性が
法を希望していた.なお,GnRH アゴニストは
ある.今回われわれは,複数のホルモン治療に
6ヵ月で1クールとし,ジ ェ ノ ゲ ス ト・LEP
抵抗性を示す子宮腺筋症患者を対象とし,患者
製剤の投与期間は患者により異なっていた.
(表
の QOL の観点から LNG―IUS の有用性につい
1)
.上記対象患者に対し,LNG―IUS 使用前後
て後方視的に検討した.
の QOL について満足度調査(子宮内膜症・子
表1
対象症例
GnRHアゴニストは6ヵ月で1クールとし,
GnRHアゴニスト漸減療法も含む.
ジェノゲスト・LEP 製剤の投与期間は患者により異なる.カッコ内はクー
ル数を示す.
症例 年齢
合併症
罹病
期間
月経困難症治療歴
1
43 子宮内膜症
13年 LEP¹,
GnRHアゴニスト¸,
子宮腺筋症切除術¸
2
46 子宮内膜症
21年 GnRH アゴニストÅ
3
47 子宮内膜症
22年
4
46 子宮内膜症
5年 LEP¸,GnRH アゴニスト¸,ジェノゲスト¹
5
4
6 子宮内膜症
22年 LEP¸,GnRH アゴニストº,ジェノゲスト¸
6
41 深部静脈血栓症 7年 LEP¹,GnRH アゴニスト¸
7
41 子宮内膜症
8
51
9
4
0 子宮内膜症
GnRHアゴニスト¼,
子宮腺筋症切除術¸
14年 LEP¹,
10
48 子宮内膜症
6年 LEP¸,GnRH アゴニスト¸
子宮内膜症,
子宮筋腫
LEP¹,GnRH アゴニストÄ,ジェノゲスト¸,
子宮腺筋症切除術¸
5年 LEP¸,GnRH アゴニスト¸,ジェノゲスト¸
8年 LEP¸,GnRH アゴニスト¼
150 浜野ほか
10
9
8
7
6
V
A 5
S 4
3
2
1
0
P=0.003
未治療
図1―1
10
9
8
7
V 6
A 5
S 4
3
2
1
0
LNG IUS
月経痛
未治療
図1―3
10
9
8
7
6
V
A 5
S 4
3
2
1
0
P=0.003
未治療
10
9
8
7
V 6
A 5
S 4
3
2
1
0
LNG IUS
未治療
排便痛
図1
LNG IUS
図1―2 慢性骨盤痛
LNG IUS
図1―4 性交痛
各疼痛に対する VAS の推移
(人)
5
4
40%
人数
3
2
20%
20%
20%
1
0
∼6ヵ月
6∼12ヵ月
12∼18ヵ月
18ヵ月∼
期間
図2
不正性器出血の持続期間の割合
宮腺筋症薬物療法満足度調査(日本医大式);
表2)を用いて検討した.疼痛評価においては
LNG―IUS 使 用 前 後 の Visual Analogue Scale
U 検定を用い,p<0.
0
5を有意差ありとした.
成
績
1.LNG―IUS 使用前後の VAS の比較(図1)
(VAS)を用い比較検討した.主な副作用症状
月経痛においては9.
2±2.
3→1.
4±1.
4(p=
である不正性器出血に関しては,LNG―IUS 使
0.
0
0
3)
,慢性骨盤痛においては9.
1±2.
0→2.
0
用前後における出血の持続期間とその量につい
±2.
6(p=0.
0
0
3)と有意に VAS は減少した.
て検討した.統計学的検討には Mann―Whitney
排便痛・性交痛に関しては有症状母体数が少な
レボノルゲストレル徐放型子宮内避妊システム(LNG―IUS)の難治性子宮腺筋症に対する有用性の検討 151
いため,統計学的検討は控えたが,各患者の
付加した子宮内ドラッグデリバリーシステムで
VAS は減少傾向にあった.
あり,1日平均1
4µg のレボノルゲストレルを
2.不正性器出血の持続期間とその量(図2)
5年間にわたり放出する製剤である.本剤から
LNG―IUS 挿入後,不正性器出血が全例に認
放出されたレボノルゲストレルは子宮内で局所
められた.しかし使用1
8ヵ月の時点において
的なプロゲスチン作用を示す.子宮内膜におけ
8
0%の患者で不正性器出血は認められなくなっ
る高濃度のレボノルゲストレルは子宮腺の萎縮
た.また,使用1
2ヵ月後の出血量を後方視的に
や間質の脱落膜化などの形態変化をもたらすた
検討すると,6
0%が出血を全く認めないとの結
め,子宮内膜は萎縮・菲薄化し,過多月経や月
果となり,
2
0%が月経周期に沿った少量の出血,
経痛,慢性骨盤痛に奏効する〔2〕
.また,子宮
1
0%が少量持続出血,1
0%は以前と比較しての
内膜への局所作用であるため排卵は抑制されな
減量持続出血という結果を示した.なお,全例
いとされる〔3〕
.
に不正性器出血が認められたにもかかわらず,
LNG―IUS は局所的な作用を主とするプロゲ
治療中断例は認めなかった.
スチン製剤であるため,低エストロゲン症状に
3.満足度に関する検討
悩まされることもなく,投薬方法においても
本満足度調査(子宮内膜症・子宮腺筋症薬物
IUS からの徐放剤であるため,全症例ともにコ
療法満足度調査(日本医大式);表2)は当院
ンプライアンスは非常に良好となり,同時に高
オリジナルのものであり,A効果B副作用C利
い満足度も得ることができた.
便性・QOLD全体満足度の4項目に分け,全
月経困難症の疼痛発生機序には諸説あるが,
1
2問の質問から成る.各項目は1∼5点の点数
A子宮内膜から放出されるプロスタグランディ
評価とし,計6
0点満点.点数が高値であるほど
ンが子宮平滑筋を過収縮することにより,知覚
満足度が高いと判断する.本症例に対する満足
神経の興奮が生じて痛みを生じるという経路
度調査の結果は,A効果8.
5±1.
7点(1
0点が最
〔4〕
,B内膜血管内皮から放出されるブラジキ
高得点)
,B副作用2
2.
3±2.
7点(2
5点が最高得
ニンにより子宮収縮が生じて痛みを生じるとい
点)
,C利便性・QOL8.
7±1.
0点(1
0点が最高
う経路〔5〕
,Cマスト細胞がセロトニンやヒス
得点)
,D全体満足度1
3.
6±1.
6点(1
5点が最高
タミンを分泌することにより,知覚神経の興奮
得点)
,合計5
3.
2±4.
7点(6
0点が最高得点)と
を起こし痛みを生じるという経路〔6〕などが
高い満足度を得た.
考
考えられている.神経線維の密度や NGF とそ
察
の受容体(NGFRp7
5,TrkA)の発現の増加も,
現在,子宮腺筋症の治療法は手術療法と薬物
また月経困難症の疼痛に深く関わりがあるとの
療法がある.薬物療法には対症療法とホルモン
報告もある.
〔7―9〕LNG―IUS を使用した子宮
療法があり,対症療法は疼痛に対する鎮痛剤の
腺筋症患者においては,LNG―IUS により子宮
使用や貧血症状に対する鉄剤の内服が主であ
内膜が萎縮・菲薄化し,子宮内膜から放出され
り,ホルモン療法には偽閉経療法と偽妊娠療法
るプロスタグランディンの量の減少や,内膜血
とがある.偽閉経療法は低エストロゲン状態と
管内皮から放出されるブラジキニンの減少が起
なるため,長期の継続が困難であるというデメ
こることにより,疼痛緩和につながると考えら
リットがあり,偽妊娠療法はエストロゲン連続
れ る.ま た LNG―IUS は,神 経 線 維 の 密 度 や
投与による血栓リスクの存在や,経口剤である
NGF とその受容体(NGFRp7
5,TrkA)の数を
がゆえにコンプライアンスの安定が得られず脱
落例もある等のデメリットがある.
今回われわれが使用した LNG―IUS は第2世
代のプロゲスチンであるレボノルゲストレルを
直接的に減少させる効果もあるといわれており
〔1
0〕
,疼痛緩和のメカニズムの1つとして重要
な役割を果たしていると考えられる.
各種ホルモン療法においても治療抵抗性を示
152 浜野ほか
表2
子宮内膜症・子宮腺筋症薬物療法満足度調査(日本医大式)
レボノルゲストレル徐放型子宮内避妊システム(LNG―IUS)の難治性子宮腺筋症に対する有用性の検討 153
す子宮腺筋症症例に対し,LNG―IUS は月経痛
・慢性骨盤痛に対して VAS を有意に改善した.
不正性器出血を全例に認めるものの患者満足度
は非常に高く,治療中断例は認められなかった.
以上より,LNG―IUS は治療抵抗性子宮腺筋症
患者の QOL を改善するため有用であると考え
られた.
文
献
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