事件 - 海難審判・船舶事故調査協会

平成 18 年第二審第 10 号
漁船勇照丸カッター№2 衝突事件
[原審・門司]
言 渡 年 月 日
平成 19 年 2 月 21 日
審
判
庁
高等海難審判庁(上野延之,上中拓治,保田
理
事
官
平田照彦
受
審
人
A
名
勇照丸船長
職
操 縦 免 許
小型船舶操縦士
指定海難関係人
職
補
佐
稔,長谷川峯清,佐野映一)
B
名
カッター№2 乗組員
人
a
第二審請求者
理事官
損
勇照丸・・・・・・左舷船首部外板に擦過傷,推進器翼に曲損
害
中谷啓二
カッター№2 ・・・右舷前部外板に擦過傷,櫂を折損等
乗組員が腰椎捻挫等,艇指揮者が頚部神経根損傷,艇長
が右臀部挫傷,漕手 4 人が腰部挫傷,腰椎捻挫,腰椎挫
傷等
原
因
勇照丸・・・・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
カッター№2 ・・・見張り不十分,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一
因)
主
文
本件衝突は,勇照丸が,見張り不十分で,カッター№2 を避けなかったことによって発生し
たが,カッター№2 が,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因
をなすものである。
受審人Aを戒告する。
理
由
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 17 年 7 月 7 日 16 時 30 分
宮崎港
(北緯 31 度 55.0 分
2
(1)
東経 131 度 28.0 分)
船舶の要目等
要
目
船
種
船
名
漁船勇照丸
カッター№2
総
ト
ン
数
4.8 トン
1.6 トン
長
13.10 メートル
全
登
録
長
機 関 の 種 類
9.00 メートル
ディーゼル機関
電気点火機関
出
(2)
力
253 キロワット
11 キロワット
設備及び性能等
ア
勇照丸
勇照丸は,平成 7 年 12 月に進水した一層甲板型FRP製漁船で,船体後部甲板上に
機関室囲壁,その上部に船員室,同室後端上部に操舵室を配置し,同室の船首側及び船
尾側各甲板下に船倉及びいけす,船首部及び操舵室構造物前面の正船首尾線上に投光器
を吊り下げるワイヤロープ設置用マストをそれぞれ設けていた。
操舵室には,前面及び両舷側にガラス窓,右舷前面に回転窓が装備され,右舷後部に
操舵席,その前方に舵輪及び主機計器盤,右舷側壁にクラッチハンドル及び主機コント
ロールハンドル,主機計器盤の前方に魚群探知機,右方にレーダー,左方にGPSプロ
ッタ及びその上方に無線通信機器が備えられていた。
勇照丸は,全速力前進で左右に舵を一杯にとったとき,旋回径がそれぞれ約 26 メー
トル,最短停止距離が約 20 メートルであった。
イ
カッター№2
カッター№2 は,平成 16 年 3 月に日本小型船舶検査機構に登録された,最大とう載人
員 20 人のFRP製カッターで,C校が,専ら宮崎港内において,船外機を外して手漕ぎ
により,また,ときにはセンターボードを取り付けて帆走により,教習用として使用し
ていたが,汽笛などの有効な音響信号を行う手段を講じていなかった。
また,船首から船尾にかけて順に,船首シート,両舷に渡された 6 枚のスオート及び
船尾シートが設けられていた。
3
カッター競技大会
12 人の手漕ぎカッターによる 1,000 メートルレースのカッター競技大会(以下「競技大会」
という。)は,D協会主催により,C校を主管校としてE校ほか 7 校が出場し,平成 17 年 7
月 8 日,宮崎港の北防波堤,その西方の防砂堤及び陸岸よって囲まれた水域(以下「競技大
会水域」という。)で開催されることになった。
C校は,宮崎港に係わる各漁業協同組合の同意を得て宮崎県中部港湾事務所から競技大会
関係の許可を受け,海上保安部に届けを出し,また,競技大会の前日,出場する各チームに
対し,競技大会に使用するカッター 3 隻を練習のために貸し出すこととしていた。
4
宮崎港の掘下げ済み水路
宮崎港は,大淀川の河口港で,船舶の大型化に対応するため,昭和 62 年に同川河口北方の
陸岸から拡延している砂州を掘下げて新たに水路(以下「水路」という。)が設けられ,大
型船を受け入れる港となったが,港則法上の特定港に指定されず,また,水路も航路に指定
されていなかった。
水路は,水深 9 メートルに掘下げられ,宮崎港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」とい
う。)の南西方 200 メートルのところから幅約 200 メートルで西南西方の湾奥へ延び,北防
波堤灯台から 247 度(真方位,以下同じ。)640 メートルの地点に水路の北側境界を示す第 2
番簡易灯浮標(以下,灯浮標名については「簡易」を省略する。),同灯浮標から水路内の北
側境界に沿って西南西方 430 メートルに第 4 番灯浮標がそれぞれ設けられ,それら各灯浮標
の南方には水路の南側境界を示す第 3 番及び第 5 番両灯浮標がそれぞれ設置され,船舶はこ
の水路を利用して安全に入出港していた。
5
事実の経過
勇照丸は,A受審人が 1 人で乗り組み,操業の目的で,船首 0.6 メートル船尾 1.3 メート
ルの喫水をもって,平成 17 年 7 月 7 日 06 時 30 分北防波堤灯台の南南西方約 1.6 海里の係
留地を発し,宮崎港南部にある大淀川に通じる水門を通過して同港南東方沖合約 5 海里の漁
場に至り,あじ約 15 キログラムを漁獲したのち,16 時ごろ同漁場を発進して帰途に就いた。
ところで,勇照丸は,操舵席に腰を掛けて操船する際,対水速力が 10.0 ノットを超える
と船首が浮上し,12.0 ノットの対水速力で正船首をはさんで 15 度の範囲に死角(以下「船
首死角」という。)を生じるため,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを行う
必要があった。
A受審人は,操業中に無線で前示水門が閉鎖されたことを知ったので,宮崎港北部の港口
から入港し,水路を経由して係留地に向かうこととし,機関を全速力前進として約 19 ノッ
トの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵席に腰を掛けて操船に当たり,船首を左右に振
るなどして船首死角を補う見張りをしながら北上した。
16 時 27 分少し過ぎA受審人は,北防波堤灯台から 098 度 90 メートルの地点で,針路を
237 度に定め,機関を港内全速力前進に減じて 12.0 ノットの速力で,手動操舵によって進行
した。
定針したとき,A受審人は,一瞥(いちべつ)しただけで他船を見なかったことから,前
路に他船はいないと思い,その後船首死角を補う見張りを行わず,水路の東口から入り,16
時 28 分少し過ぎ,北防波堤灯台から 227 度 310 メートルの地点に達したとき,前路遠方の
第 8 岸壁に着岸中の大型フェリー(以下「フェリー」という。)を認め,それを目標として
針路を水路にほぼ沿う 262 度に転じ,フェリーの動向を見ながら続航した。
16 時 29 分A受審人は,北防波堤灯台から 243.5 度 560 メートルの地点に達したとき,左
舷船首 1 度 340 メートルのところに,水路内の北側境界付近を櫂揚げして前進惰力で進行し
始めたカッター№2 を視認でき,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況とな
ったが,定針したとき,一瞥しただけで他船を見なかったことから,前路に他船はいないも
のと思い,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うことなく,カッタ
ー№2 に気付かず,同船を避けないまま進行した。
16 時 30 分わずか前A受審人は,船首至近に死角から外れて視野に入ったカッター№2 を
初めて認め,衝突の危険を感じて直ちに,右舵一杯,機関を中立としたが及ばず,16 時 30
分北防波堤灯台から 251 度 920 メートルの地点において,勇照丸は,原速力のまま 287 度に
向首したとき,その左舷船首部が,カッター№2 の右舷前部に,後方から約 70 度の角度で衝
突した。
当時,天候は曇で風力 3 の西南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好
であった。
また,カッター№2 は,B指定海難関係人及びカッター部員 15 人が乗り組み,自らが船尾
シート左舷側に座り,艇長を船尾シート右舷側に座らせ,その前方船尾中央に艇指揮を立た
せ,12 人の漕手をスオートに及び予備員 1 人を船首シートにそれぞれ着座させ,漕艇練習の
目的で,船首 0.3 メートル船尾 0.5 メートルの喫水をもって,同 7 日 15 時 30 分北防波堤灯
台から南西方約 1.4 海里にあるC校の艇庫前岸壁を発し,漕艇によって競技大会水域に向か
い,同水域で練習を行った。
16 時 24 分B指定海難関係人は,北防波堤灯台から 284 度 550 メートルの地点で,練習を
終え,帰途に就くこととして発進し,針路を 203 度に定め,漕艇により 3.8 ノットの速力
で,艇長の手動操舵によって進行した。
16 時 28 分わずか前B指定海難関係人は,北防波堤灯台から 247.5 度 770 メートルの地点
で,水路内の北側境界付近に達したとき,針路をほぼ水路に沿う 267 度に転じ,船首方の見
張りを行いながら続航した。
16 時 29 分B指定海難関係人は,北防波堤灯台から 250.5 度 890 メートルの地点に達し,
同じ船首方位のまま,漕手を休ませるために櫂揚げを令したとき,右舷船尾 6 度 340 メート
ルのところに勇照丸を視認でき,その後同船が自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接
近する状況となったが,自船は水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行し
ているので他船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行わなかったので,この
ことに気付かず,乗組員全員が大声で叫んだり,櫂を高く揚げたりして注意を喚起する衝突
を避けるための措置をとらないまま,前進惰力で進行した。
16 時 30 分わずか前B指定海難関係人は,更に水路北側境界に寄るよう右転を指示してい
たとき,漕手の 1 人から勇照丸が自船に向首接近してくる旨を知らされて振り返ったとこ
ろ,右舷船尾方至近に迫った勇照丸を初めて認め,衝突の危険を感じ,乗組員数人とともに
大声で叫び,両手を振ったが間に合わず,カッター№2 は,前進惰力がほとんどなくなり,
船首が風にも落とされて 357 度に向いたとき,前示のとおり衝突した。
衝突時,B指定海難関係人と乗組員数人が海中に転落したが,その後付近を航行していた
プレジャーボートに救助されたり,カッター№2 に引き上げられたりした。
また,勇照丸は,機関を中立としたまま衝突現場にとどまったが,海中転落者全員が救助
されたことから,流れていた櫂 3 本を回収して帰港した。
衝突の結果,勇照丸は左舷船首部外板に擦過傷及び推進器翼に曲損を生じ,カッター№2
は右舷前部外板に擦過傷及び櫂 2 本の折損などを生じたが,のちいずれも修理された。ま
た,B指定海難関係人が全治約 5 日間の腰椎捻挫等,艇指揮Fが約 10 日間の安静加療を要す
る頚部神経根損傷,艇長Gが約 3 日間の安静加療を要する右臀部挫傷,漕手Hが約 3 日間の
安静加療を要する腰部挫傷等,同Iが約 5 日間の加療を要する腰椎捻挫等,同Jが約 3 日間
の安静加療を要する腰椎挫傷,同Kが全治約 3 日間の腰部挫傷等を負った。
(航法の適用)
本件は,港則法が適用される宮崎港において,漁船勇照丸が,水路内の北側境界付近を帰航
中,前路の前進惰力がほとんどなくなっていたカッター№2 と衝突したものであり,その適用
航法について検討する。
両船の港則法における船種の定義については,同法第 3 条第 1 項の規定により,カッター№2
が,ろかいのみをもって運転するものであるから雑種船であり,一方,勇照丸は小型の船舶で
はあるが港外の漁場と港内の係留地を往復するものであるから,過去の事例などから雑種船以
外の船舶と認められる。そこで,同法第 18 条第 1 項の規定を適用すれば,雑種船であるカッタ
ー№2 が,雑種船以外の船舶である勇照丸の進路を避けなければならないと考えられる。しか
し,港則法第 18 条第 1 項の規定は,港則法の目的とする港内における船舶交通の安全及び港内
の整とんを図ることを達成するための一手段としての規定であり,手漕ぎボートやろかいのみ
をもって運転する船舶が,港内の船舶交通輻輳(ふくそう)水域において,無秩序に航行して
自らの安全を危険にさらしたり,他船の運航を阻害したりすることのないように規定されたも
のであると解されるから,同条項の適用にあたっては,雑種船がこの規定の趣旨に反したかど
うかを検討し,判断しなければならない。
本件当時,漁場からの帰途,勇照丸は,水路を係留地に向けて航行中,水路内の北側境界付
近に前進惰力がほとんどなくなっていたカッター№2 を認めることが可能で,同船にほぼ向首
接近する態勢で進行したが,勇照丸にとっては,水路の可航幅が十分にあり,いつでも水路の
広い水域を利用することができる状況下にあったものと認められる。
一方,カッター№2 は,水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行していた
うえ櫂揚げをして前進惰力がほとんどなくなっていたと認められ,かつ,その北側には陸岸か
ら浅瀬が拡延する状況下,これより北方には安全に航行することができる十分な広さの水域が
なかったこともあり,同船が港内を無秩序に航行したり,自らの安全を危険にさらしたり,他
船の運航を阻害した事実は認められない。
したがって,これらの事実から両船に衝突の危険が生じてしまったとき,港則法第 18 条第 1
項を適用する合理的理由がないというべきである。
以上のことから,このような状況における具体的航法規定は,港則法にも,海上衝突予防法
にもないから,同法第 38 条に基づく切迫した危険のある特殊な状況にあったとされ,航行中の
勇照丸が,前進惰力がほとんどなくなっていたカッター№2 を避けなければならなかったと判
断するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1
勇照丸
(1)
船首方に死角を生じていたこと
(2)
一瞥しただけで他船を見なかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首死角
を補う見張りを行っていなかったこと
(3)
2
競技大会の開催及び漕艇練習の実施を知らなかったこと
カッター№2
(1)
水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行したこと
(2)
櫂揚げを行って前進惰力で進行したこと
(3)
自船は水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行しているので他船が避
けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(4)
乗組員全員が大声で叫んで注意を喚起するなど衝突を避けるための措置をとらなかった
こと
(原因の考察)
本件は,勇照丸が,前路の見張りを十分に行っていれば,惰力で前進しているカッター№2
を認めて同船を避けることができ,発生しなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,一瞥しただけで他船を見なかったことから,前路に他船はいないも
のと思い,船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
勇照丸の船首方に死角が生じていたことは,船舶の構造上避けることができない事実であり,
操船者は船首を左右に振るなどの措置を講じ,死角を補うことができる。そうであるなら,見
張りが阻害される状況にあったとは認められず,本件と相当な因果関係があるとは認められな
い。
A受審人が,競技大会の開催及び漕艇練習の実施を知らなかったことは,本件発生に至る過
程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
一方,西行中のカッター№2 が,周囲の見張りを十分に行っていれば,接近する勇照丸を認
め,乗組員全員が大声で叫んで注意を喚起するなど衝突を避けるための措置をとることができ,
本件を回避できたものと認められる。
したがって,自船は水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行しているので
他船が避けてくれるものと思い,周囲の見張りを十分に行っていなかったこと及び乗組員全員
が大声で叫んで注意を喚起するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生
の原因となる。
B指定海難関係人が,水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行したこと及
び櫂揚げを行って前進惰力で進行したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,
本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(主張に対する判断)
カッター№2 側補佐人は,海上衝突予防法をはじめ港則法を含む海上交通法規が「操船容易
な船舶が操船困難な船舶を避ける。」という原則をその基本理念に構成されているから,まった
く操縦性能を制限されていない漁船勇照丸が,明らかに操船に困難がある前進惰力がほとんど
なくなっていたろかい船であるカッター№2 を避けるべきである旨,また,カッター№2 をはじ
めとする手漕ぎボートやろかい船の操船に当たっては免許等特別の資格が求められていないか
ら,これら操船者に自船・他船がそれぞれ雑種船であるかどうかの判断を求め,かつ,避航義
務を課すことは実行上無理であり,免許受有者であっても「雑種船」についてその定義や航法
についての認識がほとんどなく,ましてや免許を有しない者にその知識を期待することは困難
である旨を主張するので,これについて検討する。
海上交通法規は「操船容易な船舶が操船困難な船舶を避ける。」という原則をその基本理念に
構成されていることについては,異論はないが,そのことのみをもって操縦性能を制限されて
いない勇照丸が,明らかに操船に困難があるろかいのみをもって運転するカッター№2 を避け
るべきであるという点については,港則法に規定されている航法を否定するものであり,その
論旨については妥当性がない。
また,航法の適用で述べたとおり,港則法は,雑種船として定義された船舶の操船者に対し
て,免許等特別の資格を持っているかどうかにかかわらず,港内という特殊な水域において雑
種船以外の船舶の進路を避けるように規定しているのであるから,これら操船者が雑種船の認
識がないから同規定の遵守ができないとする補佐人の主張を認めることはできない。
付言すれば,港則法第 18 条第 1 項の「雑種船が雑種船以外の船舶の進路を避けるべき」とい
う規定の解釈は,同条項に衝突のおそれ,いわゆる見合い関係における避航,保持関係の定め
がないから,雑種船は,港内では,他船と危険な見合い関係を生じさせないよう航行すべきこ
とを原則と解することが相当である。
(海難の原因)
本件衝突は,宮崎港の水路において,勇照丸が,見張り不十分で,水路内の北側境界付近を
水路にほぼ沿ってその右側を航行する前進惰力がほとんどなくなっていたカッター№2 を避け
なかったことによって発生したが,カッター№2 が,見張り不十分で,衝突を避けるための措
置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,宮崎港の水路において,船首が浮上した状態で係留地に向けて西行する場合,
船首死角が生じていたから,他船を見落とさないよう,船首を左右に振るなどして船首死角を
補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,定針したとき,一瞥した
だけで他船を見なかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを
十分に行わなかった職務上の過失により,水路内の北側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側
を航行している前進惰力がほとんどなくなったカッター№2 に向首接近していることに気付か
ず,同船を避けずに進行して衝突を招き,勇照丸の左舷船首部外板に擦過傷及び推進器翼に曲
損を,カッター№2 の右舷前部外板に擦過傷及び櫂 2 本の折損などをそれぞれ生じさせ,B指
定海難関係人ほかカッター№2 乗組員 6 人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,宮崎港において,艇庫に向けて港内を西行する際,自船は水路内の北
側境界付近を水路にほぼ沿ってその右側を航行しているので他船が避けてくれるものと思い,
周囲の見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文
平成 18 年 2 月 28 日門審言渡
本件衝突は,カッターNo.2 が,見張り不十分で,勇照丸の進路を避けなかったことによって
発生したが,勇照丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作を
とらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
参
考
図