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ISSN 1348-5350
〒212-8554
神奈川県川崎市幸区大宮町1310
ミューザ川崎セントラルタワー
http://www.nedo.go.jp
2009.3.25
1041
BIWEEKLY
NEDO 海外レポート
Ⅰ.テーマ特集
燃料電池・水素特集
1. 米国エネルギー省における電動車両用二次電池の研究開発
(NEDO 技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部)
1
2. PRiME2008 学会報告 1-はじめに、蓄電池(米国)
(NEDO 技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部)
8
3. PRiME2008 学会報告 2-PEFC(米国)
(NEDO 技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部)
21
4. PRiME2008 学会報告 3-SOFC(米国)
(NEDO 技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部)
30
5. 国立エネルギー技術研究所(NETL)の SECA プログラム(米国)
38
6. 水素関連インフラの整備状況(米国・カナダ)
48
7. 水素を生産する新しい方法を発見(米国)
55
8. 実用化へと進むカナダの燃料電池‐水素産業
57
9. 英国における燃料電池技術実用化の推進
61
10. 欧州での存在感を増す Morphic Group(スウェーデン、イタリア)
65
0 燃料電池実用化に向けた欧州連合の新政策(EU)
11.
69
12. エタノール燃料電池の道を開く新しい触媒(米国)
73
13. 熱管理がハイブリッド車の性能向上の鍵(米国)
75
Ⅱ.個別特集
2009 年全人代後の中国の省エネルギーの見通し (NEDO 技術開発機構 北京事務所)
安定で持続可能なエネルギーの未来のための新しい科学 (米国)(第 3 回)
78
82
Ⅲ.一般記事
エネルギー
大規模太陽発電施設の建設が急増(米国)
クリーンエネルギー向け予算を排出権取引で捻出(米国)
2. 産業技術
粘性強化ナノ材料でコンクリートの耐用年数を 2 倍に(米国)
1.
90
93
95
URL:http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/
《 本 誌 の 一 層 の 充 実 の た め 、 掲 載 ご 希 望 の テ ー マ 、 ご 意 見 、 ご 要 望 な ど 下 記 宛 お 寄 せ 下 さ い 。》
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NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
【燃料電池・水素特集】電動車両用二次電池
米国エネルギー省における電動車両用二次電池の研究開発
NEDO 技術開発機構
燃料電池・水素技術開発部
小林弘典
1.
はじめに
石油代替、省エネルギーの促進及び環境保全の観点から、プラグインハイブリッド自動
車、電気自動車等を中心とする次世代クリーンエネルギー自動車の技術開発及び導入の促
進は喫緊の課題である。この場合、駆動時の電力供給、制動時のエネルギー回収・貯蔵を
走行に合わせて瞬時に行う二次電池の活用は、エネルギーの高効率利用に欠くことができ
ない。車載用二次電池としては、現状ではリチウムイオン二次電池が最も有力な候補であ
り、次世代クリーンエネルギー自動車の高効率性を最大限に生かしたシステムを成立させ
るためのキーとなる技術である。そのため、近年、海外においても産官学が連携した研究
開発が盛んになってきている。本レポートでは、米国エネルギー省における最近の電動車
両用蓄電池の、研究開発動向について報告する。
2.
米国の国家プロジェクト
2.1
プロジェクトの体制
米国エネルギー省自動車技術局(DOE-OVT)は米国政府機関の1つであり、自動車技
術プログラム(VT: Vehicle Technology Program)を通じて、ハイブリッドドライブ技術、
エネルギー貯蔵デバイス(先進自動車用バッテリー並びにウルトラキャパシター)
、パワー
エレクトロニクス並びにモーター、先進構造材料、先進燃料エンジン等の研究及び性能向
上に関する技術開発を実施している。
プログラムを成功させるために、DOE-OVT は米国の自動車会社であるクライスラー
(Chrysler LLC)社、フォード(Ford Motor Company)社、並びに GM(General Motors
Corporation)社が中心となって設立した USCAR(United State Council for Automotive
Research)を通じてパートナーシップを結んでいる。
エネルギー貯蔵デバイスとしては、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイ
ブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)等用の先進自動車用バッテリー並びにウル
トラキャパシターを研究開発対象にしており、米国先進バッテリー協会(USABC: United
State Advanced Battery Consortium)に代表される自動車産業界及びその他の産官学と
協力して活動を行っている。USABC は、米国内の電気化学的エネルギー貯蔵デバイス業
界における長期的な研究開発を促進し、自動車会社、電気化学的エネルギー貯蔵デバイス
会社、国立研究所、大学、その他主要なステークホルダーとの連携を維持している。
1
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DOE-OVT の下で様々な自動車技術プログラムが同時進行中であるが、エネルギー貯蔵デ
バイスを対象としたものとしては、USABC 支援プログラム、応用技術開発(ATD: Applied
Technology Development)プログラム並びに応用電池研究(ABR: Applied Battery
Research)プログラム、先進輸送技術用バッテリー(BATT: Batteries for Advanced
Transportation Technologies)プログラムが主要なプログラムとして挙げられる。開発対
象は、USABC 支援プログラムではリチウムイオン電池システムの技術開発、ATD 並びに
ABR プログラムではセルレベルでの研究開発、BATT プログラムでは材料レベルでの基礎
研究を行っており、各プログラムが密接に関連することで、効率的にプログラムを推進し
ている。図1に USABC 支援プログラム、ATD プログラム、BATT プログラム間の関係を
まとめた図を示す。
USABC支援プログラム
USABC(GM, Ford, Chrysler)
50%Cost Share
DOE
開発資金提供
50%Cost Share
開発資金提供
(電池開発会社)
・A123Systems
・JCS/SAFT
・CPI/LG
・EnerDel
・3M
・Celgard
DOE
応用技術開発プログラム(ATD: Applied Technology Development)
応用電池研究プログラム (ABR: Applied Battery Research)
アルゴンヌ国立研究所 ⇒ ブルックヘブン国立研究所、
アイダホ国立研究所、ローレンスバークレー国立研究所、
国立再生可能エネルギー研究所、サンディア国立研究所等
開発資金提供
開発資金提供
先進輸送技術用バッテリープログラム
(BATT: Batteries for Advanced Transportation Technologies)
ローレンスバークレー国立研究所 ⇒ 国立研究所、大学等が参画
図 1 米国の自動車用蓄電池プログラムの相関図
USABC 支援プログラム
車載用蓄電池の研究開発については、DOE と USABC がコストを分担することにより
電池開発会社への支援を実施している。支援した企業としては、Johnson Controls-SAFT
(JCS)社、A123Systems 社、Compact Power Inc.(CPI)社、EnerDel 社、3M 社等が
挙げられるが、詳細については、「2.3
民間企業によるリチウムイオン電池開発」に述べ
てある。
2
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ATD プログラム(ABR プログラム)
最近の大きな変更点としては、新たに ABR プログラムが 2008 年 10 月 1 日に開始され
たことである。2008 年まで DOE では HEV 用のリチウムイオン二次電池を対象とした
ATD プログラムを推進してきたが、HEV 用リチウムイオン二次電池の技術が成熟してき
たことを反映して、DOE-OVT では研究開発プログラムを PHEV 用のリチウムイオン二次
電池の開発にシフトした。図2に新しいプログラムの組織図を示す。PHEV 並びに HEV
用リチウムイオン二次電池において、解決すべき基本的な研究課題としては共通部分が多
いが、特に、新たに二つの解決すべき課題が設定されている。
Task 1:Battery Cell Materials Development
Subtask 1.1: Develop/Engineer PHEV Electrode Materials,
Electrolytes & Additives
Subtask 1.2: Develop Next-Generation High-Power Electrode Materials
Subtask 1.3: Screen Electrode Materials, Electrolytes & Additives
Task 2: Calendar & Cycle Life Studies
ABRT
Program
Subtask 2.1: Develop & Optimize Cell Fabrication Procedures
Subtask 2.2: Fabricate PHEV Cells for Testing & Diagnostics
Subtask 2.3: Cell Modeling
Subtask 2.4: Life Diagnostics
Subtask 2.5: Accelerated Aging of Cells
Task 3: Abuse Tolerance Studies
Subtask 3.1: Evaluate Materials & Additives that Enhance Thermal
& Overcharge Abuse Tolerance
Subtask 3.2: Conduct Cell-Level Studies to Verify Material Enhancements
Subtask 3.3: Abuse Behavior Modeling & Diagnostics
図2
DOE の ABR プログラムの体制図
(1)中型サイズの PHEV で 40 マイルの電気走行を可能とするための適切なエネルギー
密度を実現すること(但し、CD(charge-depleting)モード注1での要求エネルギーを
満たし、かつ、適切な重量及び体積の範囲内で収まっていること)
。
(2)5000 サイクルに至る十分なサイクル寿命安定性を実現すること(CD モードで広い
DOD(Depth of discharge)範囲で充放電サイクル注2をした場合)
。
PHEV の電気走行モードとしては、All-Electric モードと Charge-depleting モードが想定されている。
All-Electric モードではバッテリーに蓄電量があるうちは電気モードのみで走行するためにエネルギー効率
が良い反面、高コストになる。一方、Charge-depleting モードでは電気モードとエンジンモードの組み合
わせで走行するためにエネルギー効率は若干劣るが、低コストである特徴を有する。
注2
自動車用蓄電池は 10 年以上の長期寿命が要求される。HEV 用リチウムイオン二次電池では、SOC(State of
charge)50%付近で DOD(Depth of discharge)3-10%の狭い範囲で充放電を繰り返すことで長寿命化を実
現させた。一方、PHEV 用リチウムイオン二次電池では、例えば SOC90%-SOC30%間での広い範囲で放電
した後に、さらに、SOC30%付近で DOD3-10%の狭い範囲で充放電を繰り返すという電池にとって厳しい
注1
3
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また、この広い DOD 範囲での充放電モードにおけるリチウムイオン二次電池の寿命
並びに濫用時の耐性注3に与える影響を抑えることによる車載用電池のエネルギー密度
向上、さらに、300$/kW のコスト目標が挑戦すべき課題として挙げられている。
プログラムの内容については、3 つのタスクに分けられている。タスク1では、
「電池セ
ルのための材料開発」を、タスク2では、
「カレンダー寿命並びにサイクル寿命の研究」を、
タスク3では「濫用時の安全性に関する研究」である。新しいプログラムにおいてもアル
ゴンヌ国立研究所(ANL: Argonne National Laboratory)が中心的な役割を果たすが、ブ
ルックヘブン国立研究所(BNL: Brookhaven National Laboratory)、アイダホ国立研究所
( INL: Idaho National Laboratory )、 ロ ー レ ン ス バ ー ク レ ー 国 立 研 究 所 ( LBNL:
Lawrence Berkeley National laboratory)、国立再生可能エネルギー研究所(NREL:
National Renewable Energy Laboratory )、 サ ン デ ィ ア 国 立 研 究 所 ( SNL: Sandia
National Laboratory)が ATD プログラムと同様に参加するのに加えて、新たに陸軍研究
所(ARL: Army Research Laboratory)が高電位で安定な電解質開発の分野においてサポ
ートすることになっている。
BATT プログラム
BATT プログラムは DOE-OVT が支援している。BATT プログラムの主要目的は、
HEV、
PHEV 並びに EV で利用される高性能の次世代蓄電池の新材料の開発及び分析である。
2008 年は PHEV と EV 用の高エネルギー密度材料に関する研究を実施してきている。
LBNL が他の 4 つの研究所、11 の大学等と協力して、複数の BATT 研究開発任務を管理
している。プログラムでは、(1)新しい正極システム、特性並びに限界、(2)新しい負極材料、
(3)新奇な電解質及びその特性、(4)リチウムイオンのモデリング、診断並びにセル解析。特
に正極については、リン酸系、層状系、マンガンスピネル並びにスピネルコンポジット系
を研究開発対象としている。
2.2
プロジェクトの目標値
様々な自動車用のエネルギー貯蔵技術に関する最新の要件は、「2008 年度エネルギー貯
蔵技術研究開発経過報告書注4(FY2008 Progress Report for Energy Storage Research and
Development)
」で公開されている。表1に PHEV 用エネルギー貯蔵デバイスの目標値・条
件を示している。より詳細については、USABC のホームページ上注5で公開されている。
運用条件となる。
濫用時の耐性とは、通常の使用時には想定できない現象が生じたときの電池の安全性について規定してい
る。例えば、過充電試験が想定される。
注4
DOEのVehicle Technologies ProgramのAnnual Progress Reportsのトップページ
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/resources/fcvt_reports.html
2008 年 FY2008 Annual Progress Reports(Energy Research Development)
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/pdfs/program/2008_energy_storage.pdf
注5
USABCのトップページ
http://www.uscar.org/guest/view_team.php?teams_id=12
注3
4
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表 1 USABC における PHEV 用電池の目標値のまとめ
Characteristics at End of Life
PHEV10
Reference Equivalent Electric Range
PHEV40
miles
10
40
Peak Pulse Discharge Power (2
sec/10 sec)
Peak Regen Pulse Power (10 sec)
kW
50/45
46/38
kW
30
25
Available Energy for CD (Charge
Depleting) Mode, 10 kW Rate
Available Energy for CS (Charge
Sustaining) Mode
CD Life
kWh
3.4
11.6
kWh
0.5
0.3
Cycles
5,000
5,000
CS HEV Cycle Life, 50 Wh Profile
Cycles
300,000
300,000
year
15
15
Maximum System Weight
kg
60
120
Maximum System Volume
Liter
40
80
System Recharge Rate at 30°C
kW
1.4 (120V/15A)
1.4 (120V/15A)
Unassisted Operating & Charging
Temperature Range
Maximum System Production Price
@ 100k units/yr
°C
-30 to +52
-30 to +52
$
$1,700
$3,400
Calendar Life, 40°C
2.3
民間企業によるリチウムイオン電池開発
民間企業は、様々な米国政府機関を通じたコスト分担プロジェクトを獲得している。そ
れ ら の 企 業 の 多 く は 中 小 企 業 技 術 革 新 制 度 ( SBIR: Small Business Innovation
Approach)のプログラム資金を元手として事業を始めている。ここでは、DOE-OVT が、
USABC とコストを分担して研究開発活動を行う企業プロジェクトを紹介する。高エネル
ギー密度型電池(PHEV 用電池)及び高出力型電池(HEV 用電池)のいずれにおいても、
コスト、特性、濫用時の安全性並びに寿命が技術開発要素として提示されている。
PHEV 用蓄電池の開発
PHEV 用蓄電池の開発については、
2007 年 4 月に4つのプロジェクトが選ばれている。
10 マイル電気走行可能な PHEV(PHEV10)並びに 40 マイル電気走行可能な PHEV
(PHEV40)として別々の目標値が設定されている。JCS 社と A123Systems 社では
PHEV10 並びに PHEV40 を目指した技術開発を、Compact Power Inc.(CPI)社と
EnerDel 社は 10 マイル電気走行可能な PHEV を目指した技術開発を行っている。
USABC Plug-in HEV Battery Goals
http://www.uscar.org/guest/article_view.php?articles_id=85
5
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JCS 社では、DOE/USABC から 24 ヵ月間で 1,500 万ドルまでの資金提供を受け取るこ
とで、コスト低減とエネルギー密度の改良に取り組む。CPI 社では、DOE/USABC から
27 ヵ月間で 1,290 万ドルまでの資金提供を受け取る。正極材料に層状酸化物とマンガンス
ピネル酸化物のブレンドを用いることでセルの改良に取り組む。A123 Systems 社では、
DOE/USABC から 36 ヵ月で 1,250 万ドルまでの資金提供を受け取ることで、ナノオリビ
ン酸鉄(LiFePO4)の改良に取り組む。PHEV10 については円筒形状のデザインを利用し
て、PHEV40 はパウチセルを用いることに加え、オリビンマンガンを含むリン酸系正極材
料の開発をすることで目標値達成のための研究開発を進めている。EnerDel 社では、
DOE/USABC から 18 ヵ月で 650 万ドルまでの資金提供を受け取る。負極でのナノフェー
ズのチタン酸スピネル(LTO)の分散性の向上、正極に LiMn1.5Ni0.5O4 等の高電位正極を
用いることでエネルギー密度の向上に取り組む。また、Celgard 社が DOE/USABC から
18 ヵ月間で 230 万ドルまでの資金提供を受け取り、HEV と PHEV 用のセパレーターの
開発に取り組むことが 2009 年 1 月にアナウンスされた。
HEV 用蓄電池の開発
2009 年 3 月現在、HEV 用蓄電池の開発については、A123Systems 社と EnerDel 社が
取り組んでいる。いずれも出力 25kWを目指した技術開発である。
A123 Systems 社では、DOE/USABC から 36 ヵ月間で 1,500 万ドルまでの資金提供を
受け取り、ナノオリビン酸鉄(LiFePO4)の改良に取り組む。2008 年は、ナノオリビン酸
鉄のより効率的な製造技術、低温特性を改良する電解液、電極設計並びにセルコストの低
減に注目して研究開発を進めている。EnerDel 社では、DOE/USABC から 18 ヵ月間で 650
万ドルまでの資金提供を受け取り、チタン酸スピネル(LTO)/マンガンスピネルで構成さ
れたセルの改良及びスケールアップに取り組み、単セル(4~6Ah)及びモジュールで特性、
寿命並びにコストについて USABC の目標値を実現できるか検証する。最近、24 万サイク
ルに到達しており、30 万サイクルの目標値を達成しそうである。
3.
おわりに
NEDO 技術開発機構では、平成 19 年度より次世代クリーンエネルギー自動車の早期実
用化を促進するために、
「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発(Li-EAD プロジェ
クト)
」を開始している。特に、
「要素技術開発」の「電池開発」では 2015 年を目途に、
3kWh 級 電 池 パ ッ ク ( 試 作 は 0.3kWh 級 モ ジ ュ ー ル ) に お い て エ ネ ル ギ ー 密 度
(100Wh/kg)、出力密度(2000W/kg)、コスト(4 万円/kWh)の目標値の特性を有
するリチウムイオン電池の開発を実施している。NEDO の開発目標値を USABC の
PHEV10 と比較して見ると、大きな違いは無く、日米ともにほぼ同じ方向を目指して研究
開発が実施されていることが確認された。また、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会
議(IEC)
、国連危険物輸送専門家小委員会等での車載用リチウムイオン二次電池を対象と
した国際標準化・規格化活動も活発に行われるようになってきている。国際標準化の際、
6
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自動車会社及び電池会社の国際的な競争力の確保及び研究開発を効率化するために、日本
の実情に併せて国際規格を作成することは極めて重要である。NEDO としては、今後とも
海外動向について適宜調査を実施することにより、各国の研究開発動向及び国際標準化活
動への取り組み状況を把握し、より効率的なプロジェクトマネージメントを実施していき
たいと考えている。DOE より「2008 年度エネルギー貯蔵技術研究開発経過報告書(FY2008
Progress Report for Energy Storage Research and Development)注6」が本年の 1 月に発
行されているので、詳細については参照されたい。
注6
2008 年 FY2008 Annual Progress Reports(Energy Research Development)
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/pdfs/program/2008_energy_storage.pdf
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NEDO海外レポート
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【燃料電池・水素特集】蓄電池
PRiME2008 学会報告 1-はじめに、蓄電池(米国)
NEDO技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部
吉澤 幸大
はじめに
NEDO 技術開発機構
燃料電池・水素技術開発部では、日米欧を中心に、全世界の燃料
電池・水素技術(蓄電池を含む)の先端的な研究開発動向、政策、研究開発マネジメント
の内容を把握するための技術動向調査を実施し、NEDO の事業内容に適切に反映させてい
る。
筆者らは昨年 10 月に米国ハワイ州で開催された PRiME 2008 学会に参加した。この学
会は米国電気化学会(ECS:the Electrochemical Society)主催の秋季大会(昨年は、The
214th Meeting of Electrochemical Society)と、 我が国の社団法人電気化学会主催の秋季
大会(同、第 5 回日米合同大会)合同の学会であり、4 年に一度開催される。
5 回目にあたる今回は、韓国、中国、台湾、インド、オーストラリアも参加する環太平
洋電気化学会として開催された。この学会は、世界中から燃料電池、蓄電池を始めとした
電気化学分野のアカデミックな研究に携わる者が参加するものであり、研究者の高い関心
を集めている。
この度の NEDO 海外レポート「燃料電池・水素特集号」では、本学会で発表のあった
燃料電池、蓄電池に関する研究成果に関し、下記の 3 つの分野について、著者らの所感を
交えてその概要を報告する。
(1)
蓄電池(バッテリー)分野
(2)
固体高分子型燃料電池(PEFC)分野
(3)
固体酸化物型燃料電池(SOFC)分野
本稿では、まず学会の概要について述べ、次に「蓄電池(バッテリー)分野」について
報告する。PEFC、及び SOFC については、それぞれ別稿記事「PRiME 2008 学会報告-
PEFC 編(米国)
」、
「PRiME 2008 学会報告-SOFC 編(米国)
」を参照されたい。
1.
学会の概要
・正式名称
:PRiME 2008(Pacific Rim Meeting on Electrochemical and
Solid-State Science 2008)
8
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・開催日時
:2008 年 10 月 12 日(日)~17 日(金)
・開催地
:ヒルトン・ハワイアンヴィレッジ (米国ハワイ州ホノルル市)
・主催
:The Electrochemical Society (ECS) 米国
社団法人
・共催
:社団法人
電気化学会
日本
応用物理学会
日本
The Korean Electrochemical Society (KECS) 韓国
Chinese Society of Electrochemistry (CSE)
中国
Royal Australian Chemical Institute (RACI) オーストラリア
・参加者
2.
:約 3,300 名(日本からの参加者は、 約 1,300 名)
蓄電池(バッテリー)分野の報告
2.1
概要
蓄電池(バッテリー)分野に関しては、約 360 件
の発表が行われた。技術分野毎の発表件数の割合を
その他
図 1 に示す。正極が最も多く、約 35%を占め、次い
正極
で、電解質が約 30%、負極が約 20%となっており、
上記 3 分野で全体の約 85%を占めている。蓄電池で
電解質
は、材料特性が電池性能に与える影響が大きく、上
負極
記 3 分野の材料開発が研究開発の中心となっている
様子がわかる。電池の主要課題の 1 つは電池の高エ
ネルギー密度化にある。正極材料のエネルギー密度
は負極材料よりも小さく、高エネルギー密度化が課
図 1 技術分野別発表件数割合
題となっている。このため研究されている材料も多
岐に渡っている。以上の背景から負極に比べて、正極の発表件数が多かったものと考えて
いる。
正極の国別の発表件数の割合を図 2 に示す。本
学会の主催国である米国、日本からの発表が多く、
この二ヵ国で全体の約 65%を占めている。次いで、
韓国、中国とアジアからの発表件数が多い。また
少数ではあるが、欧州各国からの発表も見られ、
本学会が世界的な学会となっている様子が伺える。
カナダ台湾
オーストリア
独
ポーランド
その他
米国
米国
フランス
中国
韓国
日本
発表の中心となった正極、負極、電解質について、
海外からの発表を中心に、主だった研究内容を紹
介する。最後に、全体を通した所感を述べる。
9
図 2 国別発表件数割合
NEDO海外レポート
2.2
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正極
正極に関する発表について、材料別の発
表件数割合を図 3 に示す。
材料系で見ると、
オリビン系(LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4
その他
等)が最も多く、約 35%を占める。次いで、
S
スピネルマンガン系、NMC 系
LiFePO4
LiMO2(Co,Ni)
(LiNixMnyCozO2)の発表件数が多い。
NCA
発表件数の多かった日米の材料系別の発
LiMPO4(Mn,Co)
表件数割合を比較した結果を図 4 に示す。
NMC
日本はオリビン系、スピネルマンガン系、
LiMn2O4
NCA 系(LiNixCoyAlzO2)が主要な 3 材料
系となっている。それぞれ同等レベルであ
図 3 材料系別発表件数割合(正極)
米国
日本
LiFePO4
その他
その他
LiFePO4
LiMPO4(Mn,Co)
NCA
LiMO2(Co,Ni)
LiMn2O4
NMC
LiMn2O4
NCA
NMC
図 4 日米材料系別発表件数割合(正極)
り、3 材料系で全体の約 70%を占めている。米国はオリビン系、とりわけオリビン鉄が多
く、約 1/4 を占める。次いで、スピネルマンガン系、NMC 系となっている。以下に興味
を持った発表内容の概要を紹介する。
1)
【Abs #1133】注1” The Performance of Lithium-ion Battery Cathodes Composed of
Multiple Materials, University of California, Berkeley
[概要]正極で 2 つ以上の活物質の混合系を用いた電気化学シミュレーションを実施した。
まず、LiMn2O4 に対して、高容量化を図るため LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 を混ぜた材料系につい
て検討を行った。LiMn2O4 の混合割合が多くなるほど、高レート化した時の容量低下を防
止できる。しかしながら、LiMn2O4 の混合割合が多くなるほど、低レート時の容量の絶対
値は低下してしまう。
(図 5、図 6) 次に、LiFePO4 と LiNi0.8Co0.15Al0.05O2 を混合した材
料系について検討した。LiFePO4 だけの場合には電圧がフラットになるプラトーが存在す
注1
Abs は Abstract(要約)のこと。以下、同様。
10
NEDO海外レポート
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るが、LiNi0.80Co0.15Al0.05O2 の割合が増えるほど、放電特性が S 字カーブを示すようにな
る。シミュレーションで予測した放電特性は実験結果に良く一致した。
[所感]混合比を変えると放電時の開回路電位、放電特性をコントロールできる。電池特性
が混合割合から予測できることは電池設計には有効であるものの、特異な特性が発現する
わけではなく、本材料系においてはブレークスルーのような性能向上は期待できないこと
を示している。
図5 正極LiyMn2O4(30wt%)+
LiyNi0.8Co0.15Al0.05O2(70wt%)/負極 Li金
属を用いたコインセル性能(電流密度
0.38,1.92および5.76mA/cm2)
(出典①から引用)
図6 正極 LiyMn2O4(70wt%)+
LiyNi0.8Co0.15Al0.05O2(30wt%)/負極 Li
金属を用いたコインセル性能(電流密度
0.38,1.92および5.76mA/cm2)
(出典①から引用)
2)
【Abs #1146】”Structural and Electrochemical Studies of Chemical Solution Derived
xLi2MnO3-(1-x)Li[Mn0.5Ni0.5]O2 and Li[Mn1/2-xNi1/2-xCr2x]O2 Cathodes”, University of
Puerto Rico
[概要]層状の Li[Mn0.5Ni0.5]O2 は
LiCoO2 に比べて低コスト、高電位、
熱安定性等の理由から近年注目さ
れている。今回、容量アップを図
るため Li2MnO3 による置換を図
った。
xLi2MnO3-(1-x)Li[Mn1/2Ni1/2]O2
系において、置換量 x の増加にと
もない、充放電容量が増加するこ
とが分かった。x = 0.4 のときに初
期充電容量 399 mAh /g、初期放
電容量 225mAh/g と比較的大きな
容量が得られた(図 7)。 充放電
図7 室温条件における
0.4Li2MnO3-0.6Li[Mn1/2Ni1/2]O2の2-4.8Vでの充
放電特性(電流密度20mA/g)
(出典②から引用)
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NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
時の価数変化を XPS で調べた結果、Ni2+→Ni3+/Ni4+に起因することが分かった。
[所感]Mn 系は低コスト、高安全の点から期待される材料系である。しかしながら、本実験
結果では初期充放電時の不可逆容量が大きく、クーロン効率の更なる改善が必要である。
3)
【Abs #1153】”Shape Controlled Synthesis and Shape Dependent Electrochemical
Properties of LiFePO4 Crystals”, University of Hong Kong
[概要]オリビン鉄では、Li+の移動する方向が結晶構造により 1 方向に制限されるという課
題がある。そこで粒径構造を変えた時の影
響を調べた。水熱法を用い、その前駆体溶
液への添加剤およびその量を変えることに
よって、形状の異なる LiFePO4 粒子を合成
した。その結果、条件によって 5 種以上の
形状の粒子を合成できることがわかった
(図 8)。充放電容量は形状の影響を受け、
以下に示すような順位となった。
Hollow-structured
約 140 mAh/g
Cubic shape
約 115 mAh /g
Plate-Like
約 115 mAh/g
Nano rods Shape
約 95 mAh/g
Large crystal
約 60 mAh/g
図8 前駆体溶液への添加剤およびその量を
変えて水熱法合成したLiFePO4の粒子形
状
(出典③から引用)
[所感]Hollow-structured の粒子では、その
比表面積が大きいことによって、Li+の拡散
性が向上し、容量がアップしたものと思わ
れる。しかしながら、容量は 140 mAh/g
程度に留まっており、粒子形状だけでは大幅な容量アップは実現できておらず、粒径サイ
ズの最適化等、他のアプローチとの組合せが必要になるものと思われる。
2.3
負極
負極に関する発表について、材料系別の発表件数割合を図 9 に示す。Si 系、Sn 系、C 系
がそれぞれ 20%以上と発表件数が多い。LTO 系(LixTiyOz)を含めると 85%となり、負極
材料系は 4 系統に絞られている様子が伺える。発表件数の多かった日米の材料系別の発表
件数割合を比較した結果を図 10 に示す。日本は C 系が多いものの、Si 系、Sn 系、LTO
系とバランス良く研究が行なわれており、4 つの材料系で全体の約 85%を占めている。一
方、米国は、カーボン(C)系が約半数を占める。以下に興味を持った発表内容の概略を紹
介する。
12
NEDO海外レポート
NO.1041,
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その他
Si
LTO
Sn
C
図 9 材料系別発表件数割合(負極)
米国
日本
その他
その他
Si
LTO
Si
LTO
Sn
C
C
Sn
図 10 日米材料系別発表件数割合(負極)
4)
【Abs #1253】”Advanced Anode for High Energy and High Power Lithium Batteries”,
Applied Sciences, Inc. and General Motors
[概要]従来の炭素電極に比べ 3 倍の電気容量 1000-1500mAh/g を示し、初回の不可逆容
量が小さく、サイクル特性の優れた Si-C 複合体電極を開発した。この電極の特徴は、炭素
材にナノファイバーを用いているが、このナノファイバーがコーン形状をしており、内部
が空洞になっている点にある(図 11)
。カーボンナノワイヤーの表面に Si を薄膜化あるい
は小粒径化して担持するコンセプトである。カーボンナノイワイヤーの直径は約 100nm、
Si の膜厚は約 10nm となっている。電気容量 1000-1500mAh/g に寄与する活物質として
は、Si と C の両方を活用しているが、Si の容量が支配的である。1000 サイクルでも容量
低下は見られていない。
[所感]C-Si 複合負極に関しては、多くの報告があるが、初期容量が高いと、初回の不可逆
13
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
容量が 30%以上と高くなる傾向が
ある。ここで開発した電極では、初
回不可逆容量も小さく、かつ可逆容
量が 1000mAh/g 以上である。また
1000 サイクルでも容量低下は見ら
れておらず、カーボンナノワイヤー
を空洞にすることによって、Si の体
積膨張、収縮に対応しているものと
考えられる。また、ファイバー化が
応力緩和に有利に働いているものと
思われる。大変ユニークなコンセプ
トであり、大容量負極として実現性
が高いように感じた。ただし、量産
等を鑑みた時のコストが懸念される
図 11 カーボンナノファイバーの SEM 写真
(出典④から引用)
ところである。
5)
【Abs #1184】” Si nanoparticles as negative-electrode materials for solid-state
lithium-ion batteries”, University of Colorado
[概要]シリコン粒子を微粒子化(サブミクロン/ナノオーダー化)することで充放電時におけ
る可逆性が向上することが報告されている。本発表は、超音波ネブライザーを用いてシリ
コン前駆体のエアロゾルを作製し、その焼成によりシリコンナノ粒子の作製を検討したも
のである。Diphenylsilane から 825℃で合成し、図 12 に示すような約 12nm の粒子が生
成 で き た 。 バ ル ク Si で は 初 期
1100mAh/g に対して、20 サイクル
後に 10 mAh/g に容量が低下したの
に対して、Si ナノ粒子では 20 サイ
クル後において 500 mAh/g の容量
を示しており、サイクル特性が大幅
に向上した。また、Si と硫化物系固
体電解質(80Li2S-20P2S5 )の電極
合材にボールミリング処理を実施し
た所、9 サイクル後の電気容量
900mAh/g を達成した。
[所感]直径が非常に小さく、また単
分散の球状粒子に近いため高い特性
が得られたものと考えられる。粒子
Siナノ結晶粒子のTEM写真
図12
(出典⑤から引用)
の安定性や凝集状態などが電池特性
に与える影響等について更に検討を行う必要があると思われる。
14
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6)
【Abs #1256】”Lithium-metal alloy electrode configurations for advanced lithium ion
batteries”, Università di Roma and Université Montpellier
[概要]負極容量の向上を目的としたスズあるいはアンチモンとカーボンの複合体に関する
研究であり、これらの複合体のナノサイズ領域での構築について検討したものである。カ
ーボンマトリックス中に Sn または Sb のナノ粒子を高分散化させている。Sn-C は空気中
で 32 日間安定であることを確認している。作製された Sn-C 複合体は 10 C(Cは時間率。
nC の場合、n時間で全電気容量を放電あるいは放電)までの充放電レートで良好な可逆
性を示した(図 13)
。また、0.8 C の充放電において 200 サイクル以上のサイクル安定性
を有することが示された(図 14)
。
[所感]特性向上のための複合化をナノレベルで検討した研究であり、非常に興味深い。本
学会では、ソニーも同様の設計思想の電池に関する発表を行っている(Abs#1160)。この
ような構造は合金、コンポジット材料の課題に大きな改善効果をもたらす可能性が高い。
更なる高容量化を目指し、Si 等の他材料系
図13 正極 ナノ構造制御したSn電極/負極
Li金属 セルの室温における各Cレート
条件での充放電サイクル結果
(出典⑥から引用)
への展開にも期待したい。
図14 正極 C-Snナノコンポジット電極/負極
Li金属を用いたセルの室温における0.8C
での充放電サイクル結果
(出典⑥から引用)
7)
【Abs #1191】” Fabrication of Nanoscale High-Order Hierarchical Sn/C
Composites for Highly Reversible Li+ Ion Storage”, National University of Singapore
[概要]本発表は、様々な形状(中空粒子形、多層ランブタン形、栗形)を持つスズ-カーボン
(Sn/C)合金負極の作製について検討した
ものである。中空粒子状の Sn/C コンポ
ジットは図 15 に示す様式で作製されて
いる。SnO2 のコンバージョン反応と Li
との合金化反応によって、2400mAh/g
の初期放電容量が得られたが、30 サイク
ル後には 600mAh/g に低下した。しかし
ながら 200 サイクル以上の充放電以降も
電気化学的に活性なことが示された。ま
図15 Sn/Cコンポジットの合成方法
(出典⑦から引用)
た、その他の特徴的な形状の粒子もカー
15
NEDO海外レポート
NO.1041,
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ボンに比べ高い容量やレート特性を示すことも報告された。
[所感]中空形、栗形などの非常に特徴的な粒子が合成されていた。これらの形状制御技術
とナノ化等の粒径サイズ制御技術を組み合わせることで更に高い特性が得られる可能性が
あるものと思われる。
2.4
電解質
電解質に関する発表について、材料系別の発表件数割合を図 16 に示す。有機溶媒系、固
体/ポリマー系が多く、それぞれ 1/3 を占めている。次いで、イオン液体、添加剤に関する
発表となっている。発表件数の多かった日米
の材料系別の発表件数割合を比較した結果を
添加剤 その他
図 17 に示す。日本は固体/ポリマーおよびイ
オン液体に関する発表が多い傾向が見られる。
有機溶媒系
イオン
液体
硫黄系固体電解質、ポリマー二次電池および
イオン液体に関しては、日本が海外をリード
していると言われており、それを裏付ける結
固体/ポリマー
果となっている。一方、米国は、有機溶媒系
に関する発表が約 40%と多い。以下に興味を
持った発表内容の概略を紹介する。
日本
図 16 材料別発表件数割合(電解質)
米国
添加剤
イオン
液体
添加剤
その他
有機溶媒系
有機溶媒系
イオン
液体
固体/ポリマー
固体/ポリマー
図 17 日米材料別発表件数割合(電解質)
8)
【Abs #1265】”Rechargeable Li Metal Cells Using N-Methyl-N-butyl pyrrolidinium
Bis(trifluoromethane sulfonyl)imide Electrolyte Incorporating Polymer Additives”,
University of California Berkeley
16
NEDO海外レポート
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[概要]イオン液体 N-Methyl-N-butyl pyrrolidinium Bis(trifluoromethane sulfonyl)imide
低分子量の poly(ethylene glycol)
(PYR14TFSI)-LiTFSI)のイオン導電率向上を目的として、
dimethyl ether (PEGDME, Mw=250)と
tetra(ethylene glycol) dimethyl ether
(TEGDME)を添加し、その特性を検討した。
25℃における導電率は、3x10-2S/cm と高い
値を示した。イオン液体の特徴としては、
Li メタルに対して安定であり、正極に用い
る硫黄系材料から硫黄が溶出しないことが
挙げられる。Li/電解質/Li セルで、Li のデ
ンドライト形成は認められなかった(図
18)
。この電解質を用いた Li/S 電池の初期
容量は 500mAh/g であった。正極の構成は
硫黄(活物質):67%、炭素(導電助剤)
:29%、
バインダ:4%となっている。40℃での硫
図18
黄の利用率は、50%と低い。80℃まで上げ
ると 80%となる。40℃で利用率が悪い理由
はまだわかっていないが、イオン液体の粘
PYR14TFSI + 0.5m LiTFSI + y
TEGDME (y = 1.0)を電解液に用いた
Li/Liセルでの電流密度0.2mA/cm2条件に
おける各温度での過電圧特性
(出典⑧から引用)
性、親水性、撥水性のバランスあるいは界
面の構造にあると考えている。
100 回のサイクル後でも 300mAh/g の容量を維持している。
硫黄の溶出はないので、これは硫黄の膨張、収縮で活物質が崩壊したためと考えている。
[所感]代表的なイオン液体への低分子量ポリマーの添加は電気化学特性の向上に寄与して
いることが伺える。リチウムイオン電池の安全性を確保する方向として、イオン液体電解
質の利用が検討されているが、粘性の問題があり、必ずしも良好な特性が得られていなか
った。低分子ポリマーの添加は一つの方向であると思われる。報告者の Cairns 教授は Li/S
のパイオニアで、彼らのグループにおけるこの種の電池の今後の展開に興味がもたれる。
9)
【Abs #1277】” Comparative Abuse Response of Li-Ion Cells with LiFePO4 and
LiMn2O4 Cathodes”, Sandia National Laboratories
[概要]各種正極を用いたリチウムイオン電池の熱安定性を比較した。ARC(Accelerating
Rate Calorimetry)での熱暴走での発熱推移なども丁寧に説明していた。容器内の圧力変
化を同時に測定すると共に、電池としての発熱と正極と液体だけの熱量を測定し比較して
いる。熱解析の結果、負極の寄与も大きいことが判明した(ただし、詳細評価は今後の課
題としている)
。
発熱は以下のステップで起きていることが確認された。
RT(室温) ~
150℃
負極で反応が起こる(SEI)
150℃
~
180℃
電解質の反応が起こる
180℃
~
正極で酸素放出が起こり、負極と反応する
各社のリン酸鉄正極の熱量評価をしたが、発熱開始温度はほぼ同一の結果となった。過
17
NEDO海外レポート
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充電試験も実施した結果、発熱は量論的に(正極活物質の分子割合から計算して)正極か
らリチウムが抜けきるあたりから開始することがわかった。
各種正極材料系の熱発生開始温度は以下の順番となった。
LiCoO2(180-190℃)<LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(200℃)<Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2(230℃)<LiMn2O4(
240℃)<LiFePO4(250℃)
また、Overcharge した時の熱暴走
開始の順番は以下である。
LiCoO2<Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2<
LiNi0.8Co0.15Al0.05O2<LiMn2O4<
LiFePO4
[所感]熱発生から見ると鉄オリビン
が熱暴走に入る温度が高く、有利で
ある。ただし、NMC 系、スピネル
マンガン系と比較するとその差は数
十度程度しかなく、実験バラツキ等
を考えると有意な差といえるかの判
26650 cells を用いた熱量評価結果比
較(LiFePO4とLiMn2O4)
図19
断は難しい。この温度差がどの程度
(出典⑨から引用)
安全性に効くのかは、やはり最終形
に近い実電池(モジュール電池、パック電池等)で評価する必要があるように思われた。
9)
【Abs #1277】”Chemical Redox Shuttle – Design for High Voltage”, 3M Company
[概要]過充電を防止するためのレドックス(酸化還元)シャトル添加剤に関する報告である。
図 20 で示した酸化電位 3.92Vの低電圧正極(リン酸鉄)向けのレッドックスシャトル添加
剤(L-19843)に対して、メチル基をフッ
化アルキル基とすることにより、酸化電
位を 4.25Vと高電圧化することができ4
V級正極への適用の可能性が見えた。
高電位化の候補として、以下の 3 つを検
討している。
① -O-CH3-CF3
② -O-CH2CF2H
③ -O-CH2CF2HCF3
[所感]レドックスシャトル添加剤を用い
れば、電池の過充電防止につながり、多
図20
数電池のパックの場合の電池間の電圧レ
3M’s 3.9Vレドックスシャトル添加剤
の構造
(出典⑩から引用)
ベルの調整効果にも期待できる。現状は
安全上の対策から、保護回路や各セル間の電圧調整機構が必要と考えられている。本コン
セプトが成立すれば、システムを簡素化できる可能性がある。
18
NEDO海外レポート
2.5
NO.1041,
2009.3.25
全体を通した所感
今回参加した PRiME 2008 は ECS と電気化学会の共催による日米合同大会となってい
たこともあり、蓄電池に関する発表件数も約 360 件と大変盛況であった。毎年開催されて
いる秋の ECS は世界中から一流の研究者が集合する主要な学会であり、最新の研究動向
を理解する上で非常に重要な学会と位置づけられる。とりわけ主催国である米国そして日
本からの研究発表が多く、両国の研究レベルを評価するには大変良い機会と考えられる。
全体を通しての印象として、日本は材料系を変えて性能改善を狙うアプローチが多いの
に対し、米国は国立研究所を中心に、計測、解析、シミュレーション等を用いて、現象解
析に重きを置く進め方をしているように感じた。蓄電池分野に関しては、日本が世界をリ
ードしていると言われているが、中国、韓国の追い上げは厳しい。また米国は、国を挙げ
た支援策による研究開発が強化されつつある。このような環境の中、NEDO としても、各
国の研究動向をしっかりと把握し、適切な政策が実行できるよう、引き続き海外情勢をウ
ォッチしていきたい。
出典
Reproduced by permission of ECS – The Electrochemical Society.
214th ECS Meeting PRiME 2008
Program Information
B9 - Rechargeable Lithium and Lithium Ion Batteries
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/programs.aspx?m_id=214&s_id=174
①[Abs#]1133
[Title]The Performance of Lithium-ion Battery Cathodes Composed of Multiple Materials
[Author, Organization]Paul Albertus and John Newman
Department of Chemical Engineering, University of California, Berkeley, CA 94720-1462
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1133.pdf
②[Abs#]1146
[Title]Structural
and
Electrochemical
Studies
of
Chemical
Solution
Derived
xLi2MnO3-(1-x)Li[Mn0.5Ni0.5]O2 and Li[Mn1/2-xNi1/2-xCr2x]O2 Cathodes
[Author, Organization]N. Karan, D. Pradhan (university of puerto rico, San Juan), J. J.
Saavedra-Arias (University of Puerto Rico, San Juan), R. Thomas (university of puerto rico ,
San Juan) and R. Katiyar (University of Puerto rico)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1146.pdf
③[Abs#]1153
[Title]ShpeControlled Synthesis and Shape DependentElectrochemical Properties of LiFePO4
Crystals
[Author, Organization]Z. Lu, J. Deng and C. Chung (City University of Hong Kong)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1153.pdf
④[Abs#]1253
[Title] Advanced anode for high energy and high power lithium batteries
[Author, Organization] D.J.Burton, G.A.Nazri et al., Applied Sciences Inc. and General Motors
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1253.pdf
⑤[Abs#]1184
[Title]Si Nanoparticles as Negative-Electrode Materials for Solid-State Lithium-ion Batteries
19
NEDO海外レポート
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2009.3.25
[Author, Organization]J. E. Trevey (University of Colorado), Y. Jung, F. Xu, C. Stoldt and S.
Lee (University of Colorado at Boulder)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1184.pdf
⑥[Abs#]1256
[Title]Lithium-Metal Alloy Electrode Configurations for Advanced Lithium Ion Batteries
[Author, Organization]B. Scrosati (University of Rome), J. Hassoun (Sapienza University of
Rome), G. Derrien (Université Montpellier, France) and P. Reale (Sapienza University of Rome)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1256.pdf
⑦[Abs #]1191
[Title]Fabrication of Nanoscale High-Order Hierarchical Sn/C Composites for Highly
Reversible Li+ Ion Storage
[Author, Organization]D. Deng, and J.Y. Lee, National university of singapore, SINGAPORE
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1191.pdf
⑧[Abs#]1265
[Title]Rechargeable
Li
Metal
Cells
Using
N-Methyl-N-butyl
pyrrolidinium
Bis(trifluoromethane sulfonyl)imide Electrolyte Incorporating Polymer Additives
[Author, Organization]Joon Ho Shin, P. Basak(1), J.B. Kerr(1) and Elton J. Cairns(1,2)
1)Lawrence Berkeley National Laboratory and 2)University of California
Berkeley, California, USA
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1265.pdf
⑨[Abs #]1277
[Title]Comparative Abuse Response of Li-Ion Cells with LiFePO4 and LiMn2O4 Cathodes
[Author, Organization]E. P. Roth, Sandia National Laboratories, PO Box 5800, Albuquerque,
NM 87185-0614, USA
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1277.pdf
⑩[Abs #]1278
[Title]Chemical Redox Shuttle – Design for High Voltage
[Author, Organization]W. M. Lamanna*, M. Bulinski*, J. Jiang*, D. Magnuson*, P. Pham*, M.
Triemert*, J. R. Dahn**, R. L. Wang**, L. Moshurchak**, R. Garsuch**
* Electronic Materials & Markets Division 3M Company, St. Paul MN 55144
** Department of Physics and Atmospheric Science Dalhousie University, Halifax, NS, Canada
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1278.pdf
20
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【燃料電池・水素特集】PEFC
PRiME2008 学会報告 2-PEFC(米国)
NEDO 技術開発機構
燃料電池・水素技術開発部
坂本
滋
1.はじめに
固体高分子形燃料電池(PEFC)は家庭用あるいは自動車用として、世界中で活発に開
発が進められている。PEFC 分野の諸外国の最新の研究開発動向と日本の位置づけを把握
する事を目的として、燃料電池に関する日本と欧米の研究発表が集約される学会 PRiME
2008(214th ECS Meeting)に参加したので、その概要を報告する。
特に今回は、PEFC に特化したシンポジウム(2 年おきに開催、今回が 8 回目)も開催さ
れ、世界の PEFC 関連の最新技術情報や動向を知るのによい機会であった。
2.
概要
表1(記事末尾)に PEFC 関連のセッションプログラムを示す。PEFC 関連では
PEFC のみのセッション(B8)の他に、Electrocatalysis(電極触媒)セッション(I3)でも
PEFC 関連の発表があった。メインの B8 セッションは、以下に示す 4 つのセクショ
ン(A~D)に分けられ、オーラル発表で 40 のセッションがあった。発表件数が多数
かつ多岐にわたるため、I3 も含めると最大で 6 つのセッションが同時並行で開催され
た。
・Section A:燃料電池システム、セルスタック、構成部材
・Section B:耐久性
・Section C:新材料
・Section D:直接反応式燃料電池
表 1 に PEFC 関連の発表件数を、図1に国別の発表件数を、図 2 に B8 セッション
でのセクション内訳を示す。B8 と I3 合わせて全体で 450 件(図 1)の発表があり、
その内訳は、オーラル 356 件(80%)、ポスター94 件(20%) であった。国別では日本と
米国の件数が多く 70%を占め、カナダ、中国、韓国も比較的発表が多かった。その他
の国は、欧州各国の他、台湾・インド・プエルトリコ・トルコなどである。また、分
野別では新材料関連(SectionC)が最も多く、材料研究が活発なことが伺える。なお、
日本からの発表の内、NEDO 関連発表は 4 割弱であり、NEDO が当該分野の研究に
大きく貢献していることが伺える。
21
NEDO海外レポート
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Oral 40件
Poster 14件
Oral 9件
Poster 21件
韓国
30件
7%
Oral 17件
Poster 6件
中国
23件
5%
Oral 28件
Poster 1件
カナダ
29件
6%
他
54件
12%
Oral 79件
Poster 38件
日本
117件
26%
米国
197件
44%
Oral 183件
Poster 14件
図 1 国別の発表件数
Plenary Session
10件
3%
Oral 56件
Poster 12件
Section D
68件
18%
Oral 99件
Poster 28件
Section C
127件
34%
Oral 81件
Poster 14件
Section A
95件
25%
Section B
77件
20%
Oral 58件
Poster 19件
図 2 B8 セッションでのセクション内訳
次にテーマ別の発表内訳(オーラルとポスターあわせたもの)を図 3~6 に示す。
SectionA では、水・熱輸送解析やモデリングに関する発表が半数以上を占めており、
PEFC では依然として水分や熱の管理に対する関心の高さが伺える。国別傾向では米
国が 50%を占め、日本の 26%を大きく上回る。また分野別の比率は日米ほぼ同等であ
るが、ガス拡散層関連だけは、米国の方が多めであった。
22
NEDO海外レポート
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18
Section A : 燃料電池システム、セルスタック、構成部材
16
14
日本
25件
26%
発表件数
12
10
米国
47件
50%
マクロスケールモデリング
水・熱輸送解析
診断法
ガス拡散層
バイポーラプレート
8
カナダ
9件
10%
6
4
2
韓国
6件
6%
他
8件
8%
韓国
他
中国
0件
0%
0
日本
米国
カナダ
中国
図 3 テーマ別の発表内訳-SectionA
14
Section B : 耐久性
12
発表件数
10
日本
29件
38%
触媒劣化
触媒被毒
米国
33件
43%
触媒担体劣化
電解質膜劣化
MEA劣化
8
6
カナダ
4件
5%
4
2
中国
2件
3%
韓国
5件
6%
他
4件
5%
韓国
他
0
日本
米国
カナダ
中国
図 4 テーマ別の発表内訳-SectionB
23
NEDO海外レポート
NO.1041,
16
2009.3.25
非白金触媒
非貴金属触媒
白金系触媒
その場解析&理論
電極材料とプロセス
触媒担体
炭化水素系電解質膜
フッ素系電解質膜
その他の電解質膜
Section C: 新材料
14
12
発表件数
10
8
日本
29件
23%
米国
59件
46%
6
カナダ
13件
10%
韓国
8件
6%
中国
5件
4%
4
2
他
13件
10%
0
日本
米国
カナダ
中国
韓国
他
図 5 テーマ別の発表内訳-SectionC
16
14
Section D : 直接反応式燃料電池
日本
15件
22%
12
米国
20件
29%
直接反応式燃料電池
アニオン交換膜燃料電池
発表件数
10
中国
8件
12%
8
韓国
9件
13%
他
14件
21%
韓国
他
6
カナダ
2件
3%
4
2
0
日本
米国
カナダ
中国
図 6 テーマ別の発表内訳-SectionD
24
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
Section B(耐久性)では、日米あわせて 80%以上(ともに約 40%と同等)であり、
この分野の研究は日米が中心で進められていることが伺える。特に、日本の発表 29
件中 20 件が NEDO 関連であり、NEDO が積極的に推進してきた劣化解析関連プロ
ジェクトが当該分野に大きく貢献している事が伺える。なお米国では触媒被毒(コン
タミ)関連の発表が多かった。
Section C(新材料)では、担体も含めると触媒関連で約 50%(127 件中 61 件)を
占め、膜関連が 30%弱(127 件中 35 件)と続く。国別では、米国 46%、日本 23%、
カナダ 10%と続き、米国は日本の 2 倍の発表数である。触媒に関しては、日本 14 件
に対し、米国 27 件と米国が多いが、今年度、大学を中心とした触媒開発の新規プロ
ジェクトを NEDO で複数立ち上げていることから、今後その差は縮まると推測され
る。なお、日米以外でも新規触媒の発表は多く(20 件)
、関心の高さが伺えた。電解
質膜関連では、日本 6 件、米国 22 件、その他 7 件と、米国が圧倒的に多い。これは、
電気化学系の学会というだけでなく DOE において電解質膜関係のプロジェクトが多
数存在し、予算配分も多かったことが関係していると考えられる。
Section D(直接反応式燃料電池)では、中国や韓国の発表が他のセクションと比し
て多く、日米以外ではこの分野の研究が活発であることが伺える。
3.
トピック的な発表
以下、聴講した範囲で、特に興味深かった内容について記載する。
【Session No.】B8 - C0.2 Non-Pt and Non-Precious Catalyst
( #774 )
【Title】Polyaniline-derived Non-Precious Catalyst for the Polymer Electrolyte Fuel
Cell Cathode【Author, Organization】G. Wu and P. Zelenay (Los Alamos National
Laboratory)
・概要:ポリアニリン(PANI)とカーボンブラック、遷移金属を用い、窒素雰囲気で熱処理
した非貴金属触媒。遷移金属の添加で活性が向上しており、Fe3Co 合金を用いた
場合、開放電圧(OCV) 0.95V を確認。H2-Air で 0.21W/cm2、H2-O2 で 0.38W/cm2
の出力を得ている。耐久性は、若干電圧が低下しているものの 700 時間の運転を
確認している。XPS での分析ではメタルと C や N の相関が示唆されているが、
Fe を用いた系の耐久試験では、初期 0.9%含まれていた Fe が 1300 時間の試験後
消失しており、Fe が作動時の活性に寄与しているかどうかが焦点。
・所感:酸化還元開始電位や発電性能は、NEDO で推進している非貴金属触媒の2PJ の
データをわずかに上回っており、注目を集めていた。ただし耐久性については、
若干電圧が低下していることや、それ以外のデータがないことから、今後もウォ
ッチが必要である。本セッションでは University of South Carolina の B. N.
Popov らのグループや Institut national de la recherche scientifique の J.
Dodelet らのグループなどからもカーボン系の非貴金属触媒の発表が多数あり、
25
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
活性点がどこか、金属が活性に影響するかなど、熱い議論がなされており、米国
でも非貴金属触媒の開発が活発化していることを伺わせた。これらの結果から、
NEDO プロジェクト(カーボンアロイ触媒)の研究成果と同様に、窒素が活性に
何らかの寄与をすることは間違いなさそうである。また、活性に金属が寄与する
かどうかは今後も議論の焦点となると思われる。一方、もうひとつの NEDO プ
ロジェクトである酸化物系非貴金属触媒に類似する発表は見当たらず、他の追随
を許さない独創的触媒であることがここからも伺えた。非貴金属触媒の開発は今
後も引き続き活発になっていくと思われ、引き続き注力が必要な分野と思われる。
【Session No.】B8 - C2-2.1 Perfluoro Membranes
( #975 )
【Title】Development of Highly Durable PFSA Membrane and MEA for PEMFC Under
High Temperature and Low Humidity Conditions
【Author, Organization】E. Endoh
(Asahi Glass Co., Ltd.)
・概要:旭硝子の自動車用高温低加湿膜の開発状況と、低加湿時の劣化メカニズムとその
対策について。低加湿でフッ素系膜が劣化するのは、低加湿時には H+が解離して
いないスルホン酸基(SO3H)が存在し、そこから OH ラジカルによって分解さ
れるためというメカニズムを発表した。あわせてそれらの対策として電気化学的
に再生可能なラジカルクエンチャーをスルホン酸基間に配置した膜を開発。触媒
層の改良も併せて、120℃50%RH の高温低加湿条件下で 6,000 時間劣化なしとい
う結果を得ている。
・所感:これまでフッ素系膜の劣化メカニズムについては、クロスオーバーH2 と O2 によ
り H2O2 が生成し、そこからできた OH ラジカルが、主鎖の不安定末端(COOH)
を攻撃し、Unzipping メカにより劣化することが解明されてきたが、いまだ解明
されていない部分も残されていた。特に低加湿時に劣化が加速される原因につい
ては、早くから指摘されていたにもかかわらず有力な説がなかった。今回の旭硝
子の発表は、低加湿時になぜ劣化が加速されるかという問いに対する解答であり、
かつ、それらに対する材料側からの対策までを合わせて発表したことに大きな意
義がある。今回聴講した中では最も注目すべき発表と感じた。ちなみに同様のメ
カニズムおよび膜の劣化対策に関しては GM も発表を行っており、何らかの情報
のやり取りがあったものと推測される。
4.
全体を通しての所感
今回参加した PRiME 2008(ECS)は、当該分野の主要な大学研究者の大多数が参加
しており、当該分野の最新研究成果を発信・収集する上で非常に重要な学会と位置づ
けられる。その中で PEFC セッション(B8)は非常に盛況であり、引き続き PEFC
の研究が活発であることを伺わせた。今回は B8 セッションの基調講演、Section B(耐
久性)
、Section C(新材料)を中心に聴講した。劣化メカニズムに関しては、これま
26
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
で明確でなかった低加湿時の電解質膜劣化機構が示されるなど、研究が着実に進展し
ていることが伺えた。一方、白金バンドが電解質膜劣化に影響するか否かについては
未だ相反する結果が報告されており、今後も検討や議論の余地が残されている。この
点に関しては引き続き情報収集が必要である。新材料開発に関しては、触媒材料を中
心に聴講したが、日米とも非貴金属触媒の研究が非常に活発になり、進展も著しいこ
とを実感した。しかし実用化に向けては多くの解決すべき課題が残されていると考え
られ、今後反応メカニズム解明などの基礎的検討に加え、実用化に向けた研究の進展
に期待したい。全体を通して、日本からの発表に印象的なものが多く、日本が PEFC
分野での研究をリードしていることが伺えた。一方で米国の方が進んでいる研究分野
もあることから、引き続き海外情勢をウォッチしつつ研究推進する必要があると考え
られる。
27
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
表1
PEFC の発表件数(全体)
国別
小計
機関別
日本
米国
カナダ
中国
企業
大学等
NEDO
377
103
163
28
15
74
310
40
オーラル発表
304
68
157
27
12
62
249
23
ポスター発表
73
35
6
1
3
12
61
17
基調講演
10
5
4
6
11
1
Section A: 燃料電池システム、セルスタック、構成部材
95
25
47
9
24
71
9
Section B: 耐久性
77
29
33
4
2
18
59
20
Section C: 新材料
127
29
59
13
5
16
111
10
Section D: 直接反応式燃料電池
68
15
20
2
8
10
58
I3- 電極触媒)
73
14
34
1
8
2
71
5
オーラル発表
52
11
26
1
5
1
51
4
ポスター発表
21
3
8
3
1
20
1
酸素還元反応
17
3
8
3
17
2
表面解析
16
6
7
2
1
15
1
理論とモデリング
10
1
6
1
1
9
1
ナノ粒子酸化触媒
12
1
4
電極触媒の応用
18
3
9
450
117
197
分野別
B8 - PEM Fuel Cells 8 (PEFC)
分野別
合計
28
1
29
1
12
1
18
1
381
45
23
76
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
出典:
Reproduced by permission of ECS – The Electrochemical Society.
214th ECS Meeting PRiME 2008
Program Information
B8 Session
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/programs.aspx?m_id=214&s_id=173
①
【Session No.】B8 - C0.2 Non-Pt and Non-Precious Catalyst
( #774 )
【Title】Polyaniline-derived Non-Precious Catalyst for the Polymer Electrolyte Fuel
Cell Cathode【Author, Organization】G. Wu and P. Zelenay (Los Alamos National
Laboratory)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/0774.pdf
②
【Session No.】B8 - C2-2.1 Perfluoro Membranes
( #975 )
【Title】Development of Highly Durable PFSA Membrane and MEA for PEMFC Under
High Temperature and Low Humidity Conditions
【Author, Organization】E. Endoh
(Asahi Glass Co., Ltd.)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/0975.pdf
29
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
【燃料電池・水素特集】SOFC
PRiME2008 学会報告 3-SOFC(米国)
NEDO 技術開発機構 燃料電池・水素技術開発部
細井
1.
敬
はじめに
2008 年 10 月 13 日~18 日、米国ハワイ州ホノルルで開催された米国電気化学会
PRiME2008(Pacific Rim Meeting On Electrochemical and Solid-state Science)におけ
る固体酸化物形燃料電池(SOFC)関係のセッションについて報告する。
2.
概要
SOFC 関係の発表が行なわれた次の 4 セッションに関し、筆者の所感を交えてその概要
を報告する。
B1 :バッテリー及びエネルギー技術一般セッション
B10:ソリッドステート・イオニックデバイス-ナノイオニクス
D5 :高温腐食及び材料化学
E1 :ソリッドステート部門一般セッション
(1) 発表件数(81 件)
① オーラル発表:61 件
② ポスター発表:20 件
(2) 国別の発表件数(図 1 参照)
① 米
国
:31 件
② 日
本
:31 件(うちポスター発表 11 件)
③ 韓
国
:9 件(うちポスター発表 8 件)
④ カナダ
:5 件
⑤ 英
:2 件(うちポスター発表 1 件)
国
⑥ ドイツ、イタリア、エストニア:各 1 件
(3) テーマ別の発表件数(図 2 参照)
① ナノイオニクス注 1:2 件
② 第一原理計算注 2:3 件
③ 燃料極:14 件(うちポスター発表 5 件)
注1
ナノレベルでのイオン伝導研究の総称
計算対象となる系の各構成元素の原子番号と、その構造(対称性)のみを入力パラメータとし、それ以外
の一切のパラメータ調整や、実験結果を参照しないで、その系の状態を求める計算手法。
注2
30
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
④ 空気極:21 件(うちポスター発表 2 件)
⑤ 電解質:7 件(うちポスター発表 3 件)
⑥ インターコネクタ :9 件
⑦ 製法・性能:25 件(うちポスター発表 10 件)
英国(2件)
ドイツ、イタリア、エストニア(各1件)
カナダ(5件)
日本(31件)
韓国(9件)
米国(31件)
図 1 SOFC 関係の国別発表件数
ナノイオニクス(2件)
第一原理計算(3件)
空気極(21件)
製法・性能(25件)
電解質(7件)
燃料極(14件)
インターコネクタ
(9件)
図 2 SOFC 関係のテーマ別発表件数
3.トピック的発表
(1)【セッション】B1:Battery and Energy Technology Joint General Session
(High Temperature Fuel Cells)
【Abs#483】“Metal-Supported Solid Oxide Fuel Cells“,Lawrence Berkeley National
Laboratory, University of California, Berkley
31
NEDO海外レポート
(概
NO.1041,
2009.3.25
要)
金属支持型セルでは軽量化、高ロバスト性および迅速起動が期待できる。金属支
持型セルでは、全てのセル構成材料を低温で熱処理する必要がある。YSZ(イット
リア安定化ジルコニア)電解質を緻密に焼結させるには高温で処理する必要がある
ため、還元雰囲気で高温焼成した。その後、低温で空気極、燃料極を焼き付けた。
セルは強固で 2~3 分で 700℃まで昇温できる。700℃での発電性能は空気極側に空
気 を 供 給 し た 場 合 、 出 力 密 度 330mW/cm2 で あ っ た が 、 純 酸 素 の 供 給 で は
1,300mW/cm2 と高出力密度が得られた。
(所
感)
金属配管に直接接続が可能な構造のセルであり(図 3)
、また金属支持で頑丈なた
め、小型の SOFC として有望なコンセプトである。ただし、電流の取出方法や絶縁
方法等、実用化に向けた技術的な課題は多いと思われる。また、材料自体のコスト
は抑えられるが、製造コストについては更なる工夫が必要と考える。
図 3 ローレンスバークレイ国立研究所の金属支持型セルの構造
出典①
(2)【セッション】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics
(SOFC Cathode Microstructural Effects)
【Abs#1314】“Performance and Reliability Improvement of Planar-type SOFCs
via the Optimization of Cathode Composition and Microstructure”,Korea
Institute of Science and Technology
(概
要)
LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)空気極は、YSZ 電解質を用いた高
温 SOFC の空気極として信頼性が高いが、800℃以下で作動する中温 SOFC には電
極反応活性が不十分で採用出来ない。LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)
等のコバルトを含む空気極は電子・イオン混合伝導体であり、800℃以下でも良好な
32
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
電極反応活性を示す。しかし、コバルト含有空気極は電解質との熱膨張係数の差が大
きく反りや、はく離を起こしやすい。さらに、これらはジルコニアと容易に反応する。
そこで、傾斜構造の複合空気極を用いることにより特性の向上と信頼性の両立を目指
した。混合伝導体である LSCF(ランタン・ストロンチウム・コバルト・鉄複合酸化
物)とイオン伝導体である GDC(ガドリニウム添加セリア)を複合化しながら積層
することにより、熱膨張の問題と反応性の問題を解決し、良好な特性が安定して得ら
れた。
(所
感)
電解質材料と空気極材料の複合化及び傾斜構造によるはく離抑制は一般的な手法
であるが、本研究では非常にきれいな層状構造が得られている(図 4)
。ただし、電
解質上に焼き付けた GDC 層は、本来緻密な構造の方が良好な特性が得られるものと
考えるが、本研究の場合は多孔質になっている。
図4
LSCF 空気極を使用したセル断面の
後方散乱電子による走査型電子顕微鏡観察像
出典②
(3)【セッション】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics
(SOFC Fabrication and Performance)
【 Abs#1326 】 “Development
of
Novel
SOFC's
Comprising
Thin-Film
Nanostructured Electrolyte Layers”, (Abs#1326)
Forschungszentrum Jülich,) and
D. Stöver (Institute of Energy Research IEF-1
(概
要)
ユーリッヒ研究センター(ドイツ)は作動温度 750℃、電圧 0.7V で出力密度
1.4W/cm2 と優れた性能を示す平板型燃料極支持 SOFC を開発している。
その SOFC
セルは、①1.5mm 厚、20×20cm2 の多孔質 YSZ/NiO 燃料極支持体、②多孔質
YSZ/NiO 燃料極機能層、③5~10 ミクロン厚の緻密 8YSZ 電解質層、④多孔質 LSM
33
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
又は LSCF 空気極で構成される。現在の課題は YSZ を緻密焼成するのに 1400℃以
上の温度を必要としているので、これをより低温化することである。そのため、ジ
ルコニア・ナノ粒子を用いてコートする方法を検討した。まず、ナノ粒子を水に分
散させ、スピンコートした(約 85nm)
。その後、ゾル前駆体をスピンコートした。
これを焼成すると、1,200℃で緻密体が得られることが確認できた。今後は 1,000℃
での緻密化の検討を進める。
(所
感)
薄膜電解質セルの作製においては、構成材料間の微妙な熱膨張係数の違いにより発
生する内部応力を極力抑制する必要がある。そのためには、焼成温度を可能な限り低
減する必要がある。本研究では、高温での熱処理が必要な電解質の緻密化を、より低
温で行うことを可能とする技術の開発を進めており、非常に興味深い。現状でも
1,200℃の熱処理でセルが作製可能であり、更なる低温化に取り組んでいるとのこと
でこちらの成果も期待したい。
図 5 従来の電解質層を持った
ユーリッヒの標準的な SOFC
出典③
図 6 ナノ構造膜の緻密化により得られた
新しい 8YSZ 電解質膜を用いた
ハーフセルの断面(焼結温度 1300℃)
出典③
図 7 同様の電解質膜の表面(焼結温度 1200℃)
出典③
34
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
(4)【セッション】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics
(SOFC Fabrication and Performance)
【 Abs#1330 】 “Fabrication
and
Characterization
of
Ni-Doped
Ceria
Anode-Supported Cells Using Lanthanum Gallate-Based Electrolyte”
【Authors】H. Yoshida (The Kansai Electric Power Company, Inc.), M. Kawano
(The Kansai Electric Power Co. Inc.), K. Hashino (The Kansai Electric
Power Company, Inc.), T. Inagaki (The Kansai Electric Power Co. Inc.),
H. Nagahara and H. Ijichi (Kanden Power-tech Company, Ltd.)
(概
要)
ランタンガレート系電解質を用いたセルは良好な性能が得られることが知られて
いる。しかし、電解質材料のコストが高いという課題がある。コスト低減の手段の
一つとして電解質を薄膜化した燃料極支持型セルの採用が挙げられる。しかし、ラ
ンタンガレート系電解質は燃料極中の酸化ニッケルと反応して高抵抗相を生成す
るという報告例がある。共焼結時の酸化ニッケルとの反応を抑制するためには LDC
を中間層として用いる方法があるが、中間層である LDC の酸化物イオン伝導性は
高くない。そこで LDC(ランタン添加セリア)に代わる中間層を検討した。その結
果、共焼結時の燃料極と電解質の反応を抑制することはできた。ただし、現状では
作製方法が最適化されていないため、期待する開放電圧(OCV)は得られていない。
(所
感)
作製方法の改良により燃料極と電解質の反応を抑制できたが、緻密な中間層を作
製すること、燃料極の空隙率を向上させること等の工夫が必要である。現状のセル
性能は電解質支持セルを下回っているが、電気抵抗損については電解質支持型セル
より良好であるとの見通しが得られている。そのため、作製方法を工夫し、電解質
支持型セルの性能を上回るものを開発することが期待される。
図 8 LDC中間層を設けた燃料極支持型LSGM系セル断面の電子顕微鏡画像
出典④
35
NEDO海外レポート
4.
NO.1041,
2009.3.25
全体を通した所感
○ 作動温度の低温化(IT-SOFC)に関連する研究の発表が多かったように思われる。
・ 新規な高伝導性電解質である LSGM(ランタンガレート)、ScSZ(スカンジ
ア安定化ジルコニア)他
・ YSZ 電解質の薄膜化による低抵抗化
・ 金属インターコネクタの使用と空気極側へのコーティング(耐 Cr 被毒)
・ 電極活性の向上(材料選択、ナノ化・ナノ粒子分散、ミクロ構造改良、中間層
の設置等)
○ 新規な高伝導性電解質についても、例えば LSGM の電気泳動成膜(EPD)やマグ
ネトロンスパッタリングの適用等、更なる低温化・高性能化を目指した研究が始
まっており、興味深い。
○ 反応現象・機構の解明等に様々な手法・装置が適用されており、In-situ 測定の研
究の重要性が増していると感じられた。
・ 3 次元解析:FIB-SEM(収束イオンビーム加工を用いた走査型電子顕微鏡観
察)、FIB-TEM(収束イオンビーム加工を用いた透過型電子顕微鏡観察)、
FIB-SIMS(収束イオンビーム加工を用いた二次イオン質量分析)
・ XAS(表面吸着種)
、XANES(価数評価)他
5.
謝
辞
本報告をまとめるに際してご協力頂いた関西電力株式会社・研究開発室・エネルギー利
用技術研究所の吉田洋之氏に、記して感謝の意を表します。
出典
Reproduced by permission of ECS – The Electrochemical Society.
①
【Session】B1:Battery and Energy Technology Joint General Session (High Temperature Fuel Cells)
【Title】“Metal-Supported Solid Oxide Fuel Cells“ (Abs#483)
【Authors】T. Sholklapper, M. Tucker, G. Lau, C. Jacobson (Lawrence Berkeley National Laboratory), L.
De Jonghe (Lawrence Berkeley National Laboratory; University of California, Berkley) and S. Visco
(Lawrence Berkeley National Laboratory)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/0483.pdf
②
【Session】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics (SOFC Cathode Microstructural Effects)
【Title】“Performance and Reliability Improvement of Planar-type SOFCs via the Optimization of
Cathode Composition and Microstructure” (Abs#1314)
36
NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
【Authors】J. Lee, H. Jung, H. Jung, H. Kim, J. Son, H. Lee and H. Song (Korea Institute of Science and
Technology)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1314.pdf
③
【Session】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics (SOFC Fabrication and Performance)
【Title】“Development of Novel SOFC's Comprising Thin-Film Nanostructured Electrolyte Layers”
【Authors】H. Buchkremer, T. Van Gestel (Forschungszentrum Jülich) and D. Stöver (Institute of Energy
Research IEF-1)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1326.pdf
④
【Session】B10:Solid State Ionic Devices 6 – Nano Ionics (SOFC Fabrication and Performance)
【Title】“Fabrication and Characterization of Ni-Doped Ceria Anode-Supported Cells Using Lanthanum
Gallate-Based Electrolyte”(Abs#1330)
【Authors】H. Yoshida (The Kansai Electric Power Company, Inc.), M. Kawano (The Kansai Electric
Power Co. Inc.), K. Hashino (The Kansai Electric Power Company, Inc.), T. Inagaki (The Kansai
Electric Power Co. Inc.), H. Nagahara and H. Ijichi (Kanden Power-tech Company, Ltd.)
http://www.electrochem.org/meetings/scheduler/abstracts/214/1330.pdf
37
NEDO海外レポート
NO.1041,
【燃料電池・水素特集】SOFC
2009.3.25
研究開発組織
国立エネルギー技術研究所(NETL)の SECA プログラム(米国)
目次
1.
2.
2.1
2.2
2.3
3.
3.1
3.2
3.3
4.
5.
6.
はじめに
プログラムの概要
SECA コスト削減
SECA 石炭ベースシステム
FutureGen
研究開発組織
産業チーム
中核技術チーム
連邦政府の専門家
取り組みと研究成果
予算
DOE の「水素プログラム」との関係
1. はじめに
ソリッドステートエネルギー変換連合(Solid State Conversion Alliance:SECA)は、固
体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells:SOFC)の開発を促進する目的で発足したプ
ログラムであり、米国全土の政府機関や産業、科学団体が参加している。SECA は、革新
的材料の開発を通して SOFC のコストを削減することを目指しており、石油の輸入に対す
る依存を減らし、環境に配慮したエネルギー効率のよい代替エネルギー源を提供すること
を目標としている。
2. プログラムの概要
SECA プログラムは 3 つのフェーズに分かれており、フェーズが進むにつれて、燃料電
池の効率およびコストの目標水準が高くなっていく。同プログラムの最終的な目標は、世
界一クリーンな石炭燃料発電所を建築するという野心的な計画である「FutureGen 注 1」に
対して、燃料電池システムを提供することである。各フェーズの進行に関する詳細を表 1
に示す。
注1
米国エネルギー省主導の下で行われている硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)および CO2 を一切排出し
ない石炭火力発電所のプロトタイプ(試作品)設備の建設を目指すプロジェクト。NEDO 海外レポートの
下記記事等を参照。FutureGen については、発行済みの下記 NEDO 海外レポートでも取り上げている。
NO.1018 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1018/1018-03.pdf
NO.1026 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1026/1026-15.pdf
NO.1036 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1036/1036-15.pdf
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NEDO海外レポート
NO.1041,
2009.3.25
表 1 研究開発の進行スケジュール
SECA コスト削減
第 1 フェーズ
第 2 フェーズ
第 3 フェーズ
SECA 石炭ベースシステム
第 1 フェーズ
第 2 フェーズ
第 3 フェーズ
FutureGen
建設
稼働
表 1 からは、SECA の研究開発が次の 3 つのステージに分かれていることがわかる。
- コスト削減
- 石炭ベースシステム
- FutureGen
それぞれのステージの内容について、以下に説明する。
2.1
SECA コスト削減
現在、燃料電池技術の利用には、ディーゼル発電や天然ガスタービン発電などと比べて
はるかに高額な費用がかかる。SECA コスト削減プログラム(Cost Reduction Program)の
目的は、発電コストの削減である。このプログラムの各フェーズで期待される技術的な進
歩を表 2 に示す。
表 2 2005~2010 年にかけての SECA コスト削減の目標
目標
2005 年(第 1 フェーズ)
2008 年(第 2 フェーズ)
2010 年(第 3 フェーズ)
出力定格
3~10kW
3~10kW
3~10kW
コスト
-
-
400 ドル/kW
効率(LHV)
35~55%
40~60%
40~60%
(LHV = 低位発熱量)
表 3 からは、第 1 フェーズにおいて可用性注 2、効率、耐久性、生産コストの各目標を上
回る結果が達成されたことがわかる。拡張性のある大量生産技術によって製造された試作
品により、90%の運転可用性が実現された。この結果は、第 1 フェーズの目標値であった
80%を上回るものである。また出力 5.4kW のシステムでは、目標値の 35%を上回る 41%
の効率が達成された。
注2
ユーザーがそのシステムを利用できる時間が長いこと。様々な要素が合わさって可用性が構成される。信
頼性が高く故障の頻度が少ないほど、修理や保守に必要な時間が少ないほど、あるいは故障しても別の装
置に切り替えて運転できるなどバックアップ機能がついているほど、可用性が高いといえる。
39
NEDO海外レポート
NO.1041,
表3
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SECA コスト削減の目標達成状況
2005 年の目標
実績
コスト
-
746 ドル/kW
効率
35~55%
41% LHV-DC
電池性能の低下率
4%/1000 時間
3.6%/1000 時間
可用性
80%
90%
SECA では、
発電コストが 400 ドル/kW で商業的に採算のとれる出力 3~10kW の SOFC
を 2010 年までに開発することを目指しているが、
これらの成果が達成されたことにより、
同プログラムは軌道に乗ったといえる。
2.2
SECA 石炭ベースシステム
各フェーズで期待される技術的進歩を表 4 に示す。
表 4 2008~10 年にかけての SECA 石炭ベースシステムの目標
SECA 石炭ベースシステムの目標
2008 年(第 1 フェーズ)
2010 年(第 2 フェーズ)
2015 年(第 3 フェーズ)
出力定格*
500 kW
2 MW
50 MW
コスト
-
400 ドル/kW
400 ドル/kW
効率 (HHV)**
45%
50%
50%
* 3 つの産業チームの能力を合計したもの
** 石炭プラントの効率
(HHV=高位発熱量)
これらの目標の詳細については、以下の URL を参照:
http://www.netl.doe.gov/technologies/coalpower/fuelcells/seca/minrequire.html
2.3
FutuerGen
FutureGen は、官民による共同パートナーシップである。FutureGen の目的は、2003
年の時点では、CO2 の排出をほぼゼロに抑えて電力と水素を生産する、石炭燃料で稼働す
る 275MW の発電設備を開発することであった。しかし、この計画は 2008 年に見直され、
二酸化炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage:CCS)のための二酸化炭素分離技術
に照準が絞られることになり、水素生産に関する部分は削除された。見直し後の計画では、
石炭ガス化複合発電(Integrated Gasification Combined Cycle)プラント、あるいは CCS
技術を用いたその他の商業用クリーンコール発電プラントを設置することを目指してい
る。SECA のプログラムで開発される SOFC は、複数の燃料を利用できるものとなる。つ
まり、これらの燃料電池をタービンと組み合わせれば、FutureGen のようなシステムの中
で、高効率なハイブリッドシステムとして利用することができる。この目標を達成するた
めに、燃料電池開発の規模を拡大し、大容量の燃料電池スタック注 3 を組み立てることに研
注3
多数の燃料電池セルを重ねて 1 つのパッケージにしたもの。
40
NEDO海外レポート
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2009.3.25
究開発の焦点が定められる。これらの燃料電池スタックは、数メガワット級の中央発電設
備を構成するビルディングブロックとなり、これらを使って、石炭合成ガスで稼働する実
証用システムを作ることができる。これらのスタックはまた、たとえば燃料電池とタービ
ンを組み合わせたハイブリッド発電など、その他の発電モデルでも利用できるようになる
可能性がある(石炭ガス化燃料電池複合発電システム)
。
3. 研究開発組織
コスト削減プログラム、石炭ベースシステム、FutureGen のそれぞれのプログラムで定
められた目標を達成するために、SECA では次の 3 つのグループに分かれて研究開発を実
施している。
1. 産業チーム(Industry Teams)
2. 中核技術チーム(Core Technology Programs)
3. 連邦政府の専門家(Federal Government Experts)
それぞれの流れについて、以下に詳しく説明する。
3.1
産業チーム
SECA プログラムは、6 つの産業チームの参加を得て実施されている。これらのチーム
の目標は、ターゲットとする市場に向けて SOFC システムを開発すること、中核技術チー
ムと共同で研究開発要件を明確にすること、また、メーカーやエンドユーザーと協力して、
高出力密度 SOFC の設計を改良し、大量生産を可能にすることである。
これらの 6 チームは、互いに競争相手である一方で、燃料電池システムのコスト削減に
はマス・カスタマイゼーション注 4 が必要だという点では考えが一致している。各チームは
それぞれ個別に、その産業における SECA システムの商業化を目指している
6 つの産業チームとそのプロジェクトについて、以下に詳しく説明する。
- アキュメントリクス社(Acumentrics)は、マイクロチューブラセルを使った出力 10kW の
チューブラ(円筒型)SOFC 発電システムを開発している。同社がターゲットとする市
場は、通信、軍事、住宅、および貨物自動車用の補助電源装置である。
- クミンズ・パワージェネレーション社(Cummins Power Generation)は、SOFCo-EFS ホ
ールディングス社(SOFCo-EFS Holdings)との協力の下で、半導体業界で開発された低
コストの多層配線技術を使った、キャンピングカー、商用車、電気通信の非常用電源向
けの出力 10kW の SOFC 発電システムを開発している。
注4
顧客が商品構成(パーツ)を選択できるようにすることにより、可能な限り顧客の要望に応える形で大量
生産する方式。
41
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- デルファイ・オートモーティブ・システムズ社(Delphi Automotive Systems)は、バテル
社(Battelle)との協力の下で、自動車用補助電源装置、および分散型発電システム向けの
出力 5kW のプラナー(平板)型 SOFC を開発している。この技術には、パシフィック・
ノースウェスト国立研究所(Pacific Northwest National Laboratory:PNNL)で開発され
た、革新的なシール材、燃料極(アノード)
、空気極(カソード)が使用されている。デ
ルファイは、ピータービルト・モーターズ社(Peterbuilt Motors Company)とともに、自
動車の補助電源装置にこの技術を適用し、技術実証に成功した。
- フュエルセル・エナジー社(FuelCell Energy)は、バーサパワーシステムズ社(Versa
Power Systems)、ガス技術研究所(Gas Technology Institute)、マテリアルズ・アンド・
システムズ・リサーチ社(Materials and Systems Research, Inc.)、ユタ大学(University
of Utah)、デーナ・コーポレーション(Dana Corporation)、EPRI 注 5、および PNNL と
協力して、燃料極支持型セルを使った低温でも動作可能な出力 3~10kW のプラナー型
SOFC 発電システムを開発している。
- ゼネラル・エレクトリック・パワーシステムズ社(General Electric Power Systems)は、
幅広い発電ニーズに応えるために出力 3~10kW の一体型 SOFC システムを開発してお
り、シールレスな放射状設計(radial design)の実証を行った。
- シ ー メ ン ス ・ ウ ェ ス テ ィ ン グ ハ ウ ス ・ パ ワ ー 社 (Siemens Westinghouse Power
Corporation)は、運輸部門を対象として出力 3~10kW の SOFC 補助電源装置を、また
住宅部門を対象として出力 7~10kW の SOFC 熱電供給(combined heat and power:
CHP)システムを開発している。シーメンスは、スタック化注 6 のコストを削減するため
に、すでに成功を収めていたチューブラ型設計を改良した。
SECA の各産業チームについて詳しくは、以下の URL を参照:
http://www.netl.doe.gov/technologies/coalpower/fuelcells/seca/industry.html
2009 年 2 月、米国エネルギー省(Department of Energy:DOE)は、これらの中から第
2 フェーズに進むことのできる 2 つのプロジェクトを選出した。選ばれたのは、フュエル
セル・エナジー社(バーサ・パワーシステム社と協力)と、シーメンスエナジー社のプロ
ジェクトであった。両チームともすでに SOFC の実証を済ませており、今度は、評価のた
めにより大きなスタックを構成する技術を開発し、性能をさらに向上させることが期待さ
れている。
注5
注6
Electric Power Research Institute. アメリカの電力会社が資金を拠出して運営している大規模な研究機
関であり、主に電気事業に関連する分野を研究している。
複数の燃料電池セルを重ね合わせた集合体(スタック)にすること。
42
NEDO海外レポート
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詳しくは以下の URL を参照:
http://www.netl.doe.gov/publications/press/2009/09004-SECA_Projects_Move_Forward.html
3.2
中核技術チーム(Core Technology Program)
中核技術チームでは、産業チームのための研究開発が行われている。大学や国立その他
の研究所が、産業チームによるプロジェクトの進行に影響を与える問題について研究して
いる。各プロジェクトの開発を加速化するため、また開発内容の重複を減らすために、こ
れらの研究の結果はすべての産業チームに対して公開される。
現在、同チームでは、研究対象となる各問題に対して、次のように優先順位が付けられて
いる。
1. ガス・シール
1. インターコネクター
1. 故障解析
2. 空気極の性能
2. 燃料極/燃料処理
3. 材料コスト
4. パワーエレクトロニクス
現在、実施されているプロジェクトには、次のような分野のものがある。
- 材料と生産
この分野では、より高品質で低価格な燃料電池の生産を可能にするための新材料の調
査・研究が進められている。また、燃料電池の大量生産を可能にするためのコスト効果
の高い方法の調査・研究も進められている。
- 燃料処理
この分野では、燃料電池の燃料効率を向上させるとともに、燃料中の不純物による燃
料電池の被毒を抑制するための改質技術の研究が進められている。
- パワーエレクトロニクス
この分野では、燃料電池内部の電力システム(たとえば直流(DC)から交流(AC)への変
換など)の最適化を目指した研究が進められている。
- モデル化とシミュレーション
この分野では、将来の技術動向を予測し、今後改善の見込める分野を見つけるための
研究が進められている。
43
NEDO海外レポート
NO.1041,
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- 周辺機器
この分野では、燃料電池の周辺機器システムやプロセス制御を改善するための研究が
進められている。
これらのプロジェクトの詳細については、以下の URL を参照:
http://www.netl.doe.gov/technologies/coalpower/fuelcells/seca/core-tech.html
3.3
連邦政府の専門家
連邦政府の専門家は、SECA プログラムの管理や、産業チームと中核技術チーム間の交
流の推進、また、個々の企業レベルでの利害を超えた、国家レベルでの SOFC の応用につ
いての検討などを行っている。
SECA プログラムは、米国立エネルギー技術研究所(National Energy Technology
Laboratory:NETL)および PNNL の責任の下、DOE 化石エネルギー局(Office of Fossil
Energy)と NETL 石炭戦略センター(Strategic Center for Coal)の支援を受けて行われて
いる。NETL はプログラムの実施や、産業チームと大学や研究所間の連携を管理している。
4. 取り組みと研究成果
SECA プログラムのプロジェクトについては「3.1 産業チーム」の項で、またプログラ
ムの研究テーマについては「3.2 中核技術チーム」の項で、詳しく説明した。
DOE の Web サイトには、産業チームに関するニュースとして、大規模発電に対応でき
る SOFC を開発するフュエルセル・エナジー社によるプロジェクトの進捗状況と、既存の
チューブラ設計を改良したシーメンスパワー社の取り組みが特記されている。
また同サイトでは、中核技術チームに関するニュースとして、特に、次のような技術進
歩について紹介している。
- アルゴンヌ国立研究所とそのパートナーは、SOFC の空気極表面の化学的な性質や構
造が、実験室の室温条件下であっても燃料電池作動中の高温条件下であっても、基本
的に変わらないことを発見した。この発見により、実験室の室温の条件下においても、
分析的な手法によって空気極材料を研究できる可能性があることがわかった。
- 米国海軍は、無人海底車の中などのような極限状態における SOFC スタックの性能に
ついて、独自に試験および評価を行っている。
- NETL は、石炭由来の燃料中に含まれる被毒性不純物による SOFC への影響を調べる
ための試験装置の導入を完了した。
44
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- アレゲニー・テクノロジーズ社(Allegheny Technologies)とそのパートナーは、SOFC
で利用できる、フェライト・ステンレス鋼を使ったコスト効率の高い商業用インター
コネクター材料を開発し、実証を行った。
- フェニックス・アナリシス&デザイン・テクノロジーズ社(Phoenix Analysis & Design
Technologies Inc.)と R&D ダイナミクス社(R&D Dynamics Corporation)は、温度に
敏感なポンプ構成部材から高温の燃料電池ガスを隔離する新技術の実証に成功した。
- シンシナティ大学は、SOFC 作動中の高温状態から室温へ温度が低下しても、結晶化
せず柔らかい状態が維持される、ひび割れないガラスシールを特定した。
- アルゴンヌ国立研究所とそのパートナーは、クロム被毒の緩和方法を突き止めた。
これらの研究開発の詳細については、以下の URL を参照:
http://www.fossil.energy.gov/programs/powersystems/fuelcells/fuelcells_seca.html
SECA による SOFC プログラムはまた、SECA 以外の国家プログラムに対して技術基盤
を提供する役割も果たす。そのようなプログラムには、たとえば次のようなものがある。
- ビジョン 21(FutureGen はこの中に含まれる)
http://fossil.energy.gov/programs/powersystems/vision21/
- 21 世紀貨物輸送パートナーシップ
http://www1.eere.energy.gov/vehiclesandfuels/about/partnerships/21centurytruck/index.html
5. 予算
FutureGen は 2003 年にブッシュ大統領により開始され、10 年間で 10 億ドルという予
算が割り当てられた。FutureGen は官民が共同で実施している事業であるため、政府は、
民間のエネルギー企業からなる FutureGen 連合(FutureGen Alliance)とプロジェクトの
コストを分担している。FutureGen で必要とされるコストの推定額は、2008 年までに 18
億ドルに増加した。FutureGen 連合によれば、同プロジェクトからは 3 億ドルの収益が見
込まれており、この資金はプロジェクトに戻されるという。また、同連合の参加企業によ
る出資は 4 億ドルになるという。2008 年の初め、世界中で、エネルギーインフラ関連の
開発プロジェクトが、物価の高騰による影響を受けた。そのような状況の中、FutureGen
のコストも上昇し、DOE は同プロジェクトに対する経済的な支援を引き上げた。
オバマ大統領の新しい景気刺激策である「米国復興・再投資法案(American Recovery
45
NEDO海外レポート
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2009.3.25
and Reinvestment Act)注 7」では、エネルギー効率と再生可能エネルギーの研究に対して
20 億ドルの予算が割かれており、このうちの一部が DOE の裁量で FutureGen に割り当
てられる可能性がある。
FutureGen 連合の詳細については以下の URL を参照:
http://www.futuregenalliance.org/alliance/members.stm
米国復興・再投資法案の詳細については以下の URL を参照:
http://appropriations.house.gov/
6. DOE の「水素プログラム(The Hydrogen Program)」との関係
DOE の「水素・クリーンコール燃料プログラム(Hydrogen and Clean Coal Fuels
Program)」は、石炭資源を水素などのクリーンな燃料に変換する新技術を開発することに
取り組むプログラムである。このプログラムには、DOE のエネルギー効率化・再生可能
エネルギー局(Office of Energy Efficiency and Renewable Energy)、化石エネルギー局
(Office of Fossil Energy)、原子力局(Office of Nuclear Energy)、科学局(Office of Science)、
および米国運輸省(Department of Transportation)が参加している。プロジェクトは、次
の 3 つのセクションに分かれている。
- 石炭からの水素の生産
- 石炭からの高水素含有燃料の生産
- システム分析
FutureGen プロジェクトは、化石エネルギー局の下で実施されており、水素イニシアテ
ィブ(Hydrogen Initiative)からは資金を受けていない。また、同プロジェクトは、2008 年
に再編されて以降、水素生産とは関わりがなくなった。しかし、水素プログラムの Web
サイトには、FutureGen は「水素社会の実現のために重要なプログラムである」と記載さ
れている注 8。
以下の DOE の Web サイトから、2008 年 9 月に発行された出版物「石炭から水素を生
産する技術の開発・実証に関する複数年計画(Hydrogen from Coal Multi-Year RD&D
Plan)」をダウンロードすることができる:
http://fossil.energy.gov/programs/fuels/hydrogen/Hydrogen_Systems_Analysis.html
この文書注 9 の 61 ページに掲載されている図 14 の中で、SECA は「石炭からの水素生産
注7
注8
注9
景気対策法案、景気刺激法案、景気回復法案などさまざまな名称で呼ばれている。
http://www.hydrogen.energy.gov/offices.html
http://fossil.energy.gov/programs/fuels/publications/programplans/H2fromCoalRDDPlan08.pdf
46
NEDO海外レポート
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2009.3.25
プログラム(Hydrogen from Coal Program)」の「関連プログラム(Associated Program)」
として位置付けられている(図 1)
。
「石炭からの水素生産プログラム」の主な要素は、SOFC
などの燃料電池で利用するための高純度な水素の生産である。つまり、SECA の取り組んで
いる SOFC は、
これらの水素プログラムによって開発される高品質な水素の利用先となる。
化石エネルギー局
石炭からの水素生産プログラム
クリーンコー
ル発電イニシ
アティブ
NETL
EERE*
SC**
NE***
本部
関連プログラム
ガス化
炭素隔離
燃料電池
(SECA)
(出所:Hydrogen from Coal Multi-Year RD&D Plan)
タービン
*
**
システム
解析
エネルギー効率・再生可能エネルギー局
*** 原子力局
科学局
図 1 「石炭からの水素生産プログラム」と関連プログラムの連携
この報告書のセクション 4.1(17 ページ)には、次のように記されている。
「DOE 化石エネルギー局のクリーンコール部門と、プログラムの実施者である NETL 石
炭戦略センター(Strategic Center for Coal)は、発電効率を向上させながら、石炭利用に伴
う環境への影響を削減するために、石炭ガス化技術および二酸化炭素分離技術に関する研
究開発を進めている。このようなガス化、分離、ガスタービン、燃料電池の開発努力は、
「石炭からの水素製造プログラム」の下で直接行われるのではなく、クリーンコール部門
や NETL によるその他のプログラムの一環として実施されている。そのため、これらの分
野における研究開発の取り組みの中には、「石炭からの水素製造プログラム」に直接的な
関わりを持たない内容も含まれている。
」
編集:久我 健二郎、翻訳:桑原 未知子
(出典: SRI Consulting Business Intelligence Explorer Program)
47
【燃料電池・水素特集】水素関連インフラ
水素関連インフラの整備状況(米国・カナダ)
NEDO 海外レポート「燃料電池・水素特集」では、北米及び欧州の水素関連インフラの
整備状況について取り上げる。第一回目の本稿では、北米の米国・カナダについて述べる。
欧州の状況、またスマートグリッドについては、次号(1042 号)の個別特集欄で掲載す
る予定であるので、本稿と合わせお読みいただきたい。
自動車用の燃料電池・水素インフラ
燃料電池の自動車への適用は、将来の燃料電池用途の一つとして極めて重要な目標であ
るが、現段階では不確実な要素も多い。これまで自動車産業は、石油依存の低減、および
地球温暖化の一因と考えられている排ガス削減に取り組む各政府の後押しと助成を受けて、
燃料電池に大規模な投資を行ってきた。実際に、大手自動車メーカーは皆、路上走行試験
用の自動車を保有している。それらの多くは、製造に約 100 万ドルのコストがかかってい
る。ゼネラル・モーターズ(GM)社は、各メーカーの研究開発開始から大量生産への展開ま
でにかかる投資額を、約 60 億~80 億ドルと見積もっている。しかし、技術的な課題が依
然としてあり、もし大量生産期が到来するとしてもそれがいつになるのか、懐疑的になっ
ているメーカーもある。ただし本田技研工業のように、大衆消費者市場で販売するにはま
だ十分ではないが、燃料電池自動車の製造コストを大幅に削減してきた企業例もある。
燃料電池自動車(FCV: fuel cell vehicle)のロードマップとして多くの国がよく挙げるの
が、日本の目標である「FCV を 2012 年に数千台製造、2015 年には大量生産」である。
しかしこれに対して懐疑的な見方をする自動車メーカーもあり、かなり先ではないにして
も、2020 年より前に大量生産期がくることはないとの予測を立てている。FCV のコスト
課題の解決に確信を持つ自動車技術者達でさえも、2015 年の目標は言うまでもなく、2020
年の目標に間に合わせて水素インフラを整備できるかどうかについては、極めて慎重な意
見が多いようである。
米国州知事やカナダ州首相達は、温室効果ガスを規制し代替エネルギー技術の開発を促
進するために、地域のイニシアティブを策定している。このような共同の組織的取組みが
なければ、たとえ研究者達が燃料電池の技術的な課題を解決しても、水素インフラの不足
と規制の不備のために、消費者は燃料電池自動車を受容しないだろう。2007 年 6 月には、
米国カリフォルニア州、オレゴン州およびワシントン州の州知事、ならびにカナダ・ブリ
ティッシュコロンビア(BC)州の首相が、2010 年までにメキシコのカリフォルニア半島か
ら BC 州までの水素インフラを共同で構築することに仮合意したと伝えられた。また、同
年、米国アイオワ州、ミネソタ州、サウスダコタ州、ノースダコタ州、およびカナダ・マ
48
ニトバ州が、エネルギー移行ロードマップ(Energy Transition Roadmap)に署名した。
このロードマップには水素製造の目標に関する提案が含まれており、これは、風力発電
により製造する水素(これらの州には大変強力な風力発電の回廊(corridor)がある)と、バ
イオマスから製造する水素の双方にとって重要なものとなるかもしれない。例えば、ミネ
ソタ州の電力の半分を供給している Excel Energy 社は積極的な風力発電プログラムを実
施中であり、同州の「2007 年再生可能エネルギー基本計画(2007 Renewable Energy
Objective plan)」の下で、2020 年までに再生可能エネルギー源からエネルギーの 30%を
供給することを義務付けられている。
カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事は、2007 年のフロリダ会議
において、ブッシュ政権(当時)の再生可能エネルギーと水素に対するリーダーシップ不
足を批判した。フロリダ州政府は、600 の市庁とともに、カリフォルニア州型の規制の採
用(排出量の低減、州のエネルギー利用量のうち再生可能エネルギー源の割合を 20%に増
大、州政府の機関に対して燃費の良い車両の使用と、緑の建築(green building)基準の義務
付け)に合意した 34 番目の州となった。さらに同州は、2008 年にも新たな法案を可決し
た。この法案の内容は、
「Fuel Cells2000」のウェブサイトに、
「2008 年の燃料電池・水素
に関する政策の要約(2008 Policy Activity Wrapup – FUEL CELLS & HYDROGEN)とし
て掲載されている注 1。2007 年にシュワルツェネッガー州知事は次のように述べている。
「連邦政府に、もはやリーダーシップを求めていない州は増加している。米国がリーダー
シップを示さなければ、急成長している中国やインドなどの国々が環境保護対策を取るこ
とは期待できない。
」
同知事は、2008 年も新法の制定を推進した。同州の再生可能エネルギー使用基準
(Renewable Energy Standard)では、2020 年までに再生可能エネルギー由来電力の割合を
33%に増加させることを目指している。ブッシュ大統領が京都議定書に署名しなかったこ
とによって米国と先進国の関係がこれまでぎくしゃくしてきたと述べる観測筋もいる。
一方、米国エネルギー省(DOE: Department of Energy)はオバマ新政権の下、2009 年 5
月 18 日~22 日に、
バージニア州アーリントン(ワシントン D.C.近郊)
にて、
例年通り
「DOE
水素プログラム及び自動車技術プログラムに係る年次成果評価会議(Hydrogen Program
and Vehicle Technologies Program Annual Merit Review and Peer Evaluation
Meeting)」を開催する。毎年開催されるこの会議は重要であり、一般に公開される注 2。
注1
注2
http://www.fuelcells.org/2008StatesH2FCWrapUp.pdf この文書には連邦政府と、各州政府の政策の要
約が掲載されている。
2008 年、及び 2007 年の本会議の内容については、下記 NEDO 海外レポートで取り上げている。
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1029/1029-01.pdf
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1004/1004-03.pdf
49
水素補給ステーション
Fuel Cell Today 注 3 によると、2007 年末時点で稼動中もしくは計画中の水素補給ステー
ションは世界で約 160 ヵ所であった。そのうち約半分は米国とカナダに設置されており、
その半数以上がカリフォルニア州(環境保全運動が盛んな地)とカナダの BC 州(燃料電
池開発が盛んな地)に設置されている。残りはほぼ全てが、ミシガン州、ニューヨーク州、
および、エリー~オンタリオ湖近辺の地域に設置されている。ごく少数ではあるが、ケベ
ック州、米国ペンシルベニア州、オハイオ州、インディアナ州及びイリノイ州にも設置さ
れている。これらの地域は、米国とカナダで自動車製造と自動車部品製造が盛んな地域で
ある。
これらの補給ステーションの多くは、車両実証プログラムを実施する自動車産業が保有、
もしくは運用している。いくつかのステーションは、石油会社や産業ガス会社(BP 社、
Shell Hydrogen 社、Air Products 社、Praxair 社)が運用している。Fuel Cells 2000 注 4
のウェブサイトに掲載されているステーションのリストによると、2008 年末時点で新たに
設置されたステーションは殆どなかった。同ウェブサイトには、カリフォルニア州の 34
ヵ所、欧州西部 33 ヵ所(内、ドイツ 26 ヵ所、デンマーク 6 ヵ所)が掲載されている。計
画中の新ステーションは、カリフォルニア州 16 ヵ所と、欧州 23 ヵ所(内、デンマーク 9
ヵ所、ノルウェー6 ヵ所)である。
これらのステーション用の水素のほとんどは、ステーション外から搬入されている。そ
の水素は、電力を使用して水から製造されるか、もしくは、天然ガスを原料として、オン
サイト 注
5,000psi
5
で製造されるなどである。水素は一般的に圧縮水素ガスで販売される(通常
注6
もしくは 3,600psi。10,000psi の場合もある)
。これらの燃料補給ステーショ
ンのうちの何ヵ所かは、試験車両フリート用(特に、カリフォルニア州トランスに主要ス
テーションを数ヵ所保有しているホンダの試験フリート用)の可動式設備である。また、
それ以外のカリフォルニア州南部・北部地域にも可動式設備がある。消費者が将来、FCV
を受け入れるためには、燃料が現状よりも便利で確実な場所で、また安価に広く入手でき
る必要がある。
ところで、GM 社が自社の新しい燃料電池試験車両プログラムを展開していたのと同じ
時期に、燃料を供給する予定だったカリフォルニア州の何ヵ所かの水素補給ステーション
が閉鎖され、新ステーションの建設業者が建設を再考し始めた。電気自動車(BEV:
Battery-powered Electric Vehicle)の支持者達は勢いづき、FCV の構想に異を唱えた。ま
た、BEV と FCV の双方に反対する人々は、これは、政府がこのような技術に対するあら
注3
http://www.fuelcelltoday.com/
http://www.fuelcells.org/
注5
「補給ステーションで製造される」という意味。
注6
psi は圧力の単位で、重量ポンド毎平方インチのこと。1psi=約 6895 パスカル
注4
50
ゆる資金援助を終了させる兆候ではないかと述べた。水素と FCV の支持者達は、BEV の
マイナスの側面についての意見(例えば、FCV 水素タンクへの水素充填時間は 5 分ですむ
のに対し、BEV の充電時間が 6 時間かかるなど)を述べ、ステーションの計画が何ヵ所か
変更されても殆ど影響はないのではないかと指摘した。自動車製造業者達は FCV の商業
化実現にかかる期間について、様々な意見を持っている。
2009 年は引き続きカリフォルニア州の「水素ハイウェイ(hydrogen highway)」の規制
と助成についての議論が行われると予想される。シュワルツェネッガー知事は 2010 年ま
でに 200 ヵ所の水素補給ステーション建設を求めている。一方、カリフォルニア大気資源
委員会(CARB: California Air Resources Board)は、2015 年までに配備されるステーショ
ン数は、50~100 ヵ所程度と予想している。自動車製造業者は自社独自のステーションを
提供もしくは建設しなければならないと予測する人々もいる。
GM 社の「プロジェクト・ドライブウェイ(Project Driveway)」
GM 社は 100 台の Equinox FCV を使用した「プロジェクト・ドライブウェイ FCV 試験
プログラム(Project Driveway FCV test program)」を開始した。Equinox FCV は、スポ
ーツクロスオーバー車の「Chevrolet Equinox」がベースとなっている。試験ドライバー
は、車を 3 ヵ月間(水素を含めて無料で)使用し、性能評価および車が気に入ったかどう
かについて定期的に報告する。GM 社はこの方法によって、ごく短期間で大勢の試験ドラ
イバ-が Equinox FCV を使用することを期待している。報道によると、GM 社は、様々
な気候の下での試験、水素補給ステーションの配備状況を考慮し、ワシントン D.C.、ニュ
ーヨーク市、ロサンゼルス、およびカリフォルニアから最初の試験ドライバーを選ぶ予定
である。試験ドライバーは、GM 社燃料電池ウェブサイトのコミュニティで活動を活発に
行っている会員の中から選ばれる。
試験車両には GM 社の OnStar ナビゲーション・システムが装備されているため、ドラ
イバー達は最寄りの水素補給ステーションの位置を知ることが可能である。ワシントン
D.C.のドライバーは利用可能な補給ステーションが一ヵ所しかないが、ロサンゼルスのド
ライバーは市民が利用できるステーションが何ヵ所かあり選択ができる。既存のステーシ
ョンは大部分が 5,000psi(34.5MPa)で水素補給が行われているが、GM 社とその他の自
動車会社は 10,000psi で補給する設計の車を増やしている。「Hydrogen & Fuel Cell
Letter」誌には、GM 社がプロジェクト・ドライブウェイの試験地域に GM 社独自の水素
補給ステーションの設置を計画していると記載されている。
51
ホンダは 2008 年に「FCX Clarity」のリース販売を開始
本田技研工業(ホンダ)は、2008 年末までに日本とカリフォルニア州で FCV「Clarity
(クラリティ)
」の一般向けリースを開始した。リース価格は 3 年間で月額 600 ドル、水
素 1kg 当たり 5 ドルである。Clarity は水素フル充填で 270 マイル(約 430km)走行でき
るとみられている。東京地域には水素補給ステーションが 12 ヵ所あるのに対し、顧客が
利用できるカリフォルニア州のホンダのステーションは 5 ヵ所である(ロサンゼルスおよ
びサンフランシスコに各 1 ヵ所、トランスに 3 ヵ所)。ホンダは今後 3 年間で最大で 15 ヵ
所以上のステーションが利用できるようになると見込んでいる。
ホンダとその子会社のホンダソルテックは、太陽電池式の家庭用水素補給ステーション
の開発に共同で取り組んでいる。ホンダソルテックは、2007 年 10 月に日本で CIGS(銅、
インジウム、ガリウム、セレンからなる半導体材料)の薄膜 PV モジュールの販売を開始
し、2008 年末までに年間製造能力を 27.5MW に増加させる計画を発表した。3kW システ
ムの販売価格は約 18,200 ドルであり、27.5MW では、売上が最大で 1 億 6,700 万ドルと
なる。ホンダはこれにより、家庭用発電市場に参入し、ゼロエミッションの FCV 用の水
素製造への道を開いた。ホンダが発表している短期目標の一つは、FC 車 Clarity を使用し
て試験を行う予定の米国の水素補給ステーションで、ホンダの太陽電池を用いて水素を製
造することである。
PG&E 社の水素補給ステーション(カリフォルニア)
計画中の補給ステーションが中止された例を紹介する。これはパシフィック・ガス・ア
ンド・エレクトリック(PG&E: Pacific Gas & Electric)社が建設する予定のものであったが、
これまで水素に強い関心を示してきたこの大手電力会社の州政府との契約は合意期限切れ
となった。
PG&E 社のステーションは、サンカルロス(カリフォルニア北部、最も既存ステーショ
ン数が多い地域)に建設される予定であった。予定建設コストは少なくとも 250 万ドル、う
ち 150 万ドルは州政府からの助成予定であった。このステーションは、GM 社の試験プログ
ラムのカリフォルニア北部への拡大、及び 2009 年にカリフォルニア北部で開始される予定
のメルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)の FCV リースプログラムにとっても、重要な拠点
になるはずだった。同社は、当初の合意通りに、2008 年末までに常設ステーションを建設
して水素をオンサイトで製造するよりも、他所で製造され搬入された水素を利用して、より
低コストの一時的なステーションを設置したいとしている。また、プラグインハイブリッド
車(PHV: Plug-in Hybrid Vehicle)の評価に時間と資金を費やすことを決めている。
52
PG&E 社に対し、長期的解決策として BEV を支持するコンサルタントもいる。彼らは、
もし天然ガスを水素製造に用いる場合、燃料として水素が供給される以上に、水素の製造
の方にエネルギーが必要となると主張している。つまり、グリッドからの電力を使用して
直接 BEV に充電する方が良いのではという意見である。実際には、このような議論では、
経済状況と、様々な経済的・環境的・世界的な政策とのトレードオフが単純に捉えられす
ぎている側面もある。
カナダの状況
北米の水素補給ステーションのうちの 10 ヵ所はカナダに設置されており、計画中のス
テーションがさらに 3 ヵ所ある。カナダは燃料電池(FC)技術の拠点であり、Ballard Power
Systems 社が独自に投資を行っている。カナダが FC に関心を持つ理由は様々である。ブ
リティッシュ・コロンビア(BC)州の 50 以上、カナダ全域の 300 以上のコミュニティは、
グリッドやガスパイプラインに接続されていない。最近発表されたプロジェクトでは、
Ballard Power Systems 社の製品「Mark1020」燃料電池が、システムインテグレーター
の Dantherm Power A/S 社(デンマーク、Skive)設計のシステムに提供される予定であ
る。このシステムにより、Bella Coola 地域(BC 州沿岸部の孤立した人口 2,500 人のコミ
ュニティ)に補助的な電力供給が行われる。
同システムは BC Hydro 社の子会社である Powertech Labs 社により運用される予定で
ある。Dantherm A/S 社(産業用空気管理システムの専門企業)は、燃料電池・水素を使
ったコジェネ(CHP)システム市場に焦点をあて、2003 年に Dantherm Power 社を設立し
た。この Bella Coola のプロジェクトは北米市場への参入を試みたものである。50 ヵ所の
オフグリッドコミュニティの全てが、近郊に水力発電資源を保有していないわけではない。
しかし、水力発電資源は季節的変動で流水量が変わる可能性がある。このプロジェクトで
は、世界の僻地において補助的なディーゼルエンジンや電池を導入するよりも、水素を製
造・貯蔵するための複数のシステムを組み合わせた手法(太陽光量や気候で変動する太陽
光発電、風力発電由来の電力を利用して水素を生産)の方が、持続可能で汚染が少なくす
む可能性があることを実証している。
BC 州 Bella Coola 地域の FC システムは、BC Hydro 社の「水素による再生可能エネル
ギー発電イニシアティブ(HARP: Hydrogen-Assisted Renewable Power initiative)」の一
環である。このケースでは、同 FC システムによってディーゼル予備電源システムの使用
増加が抑えられており、水力発電所の近郊に設置されるこうしたシステムにより、クリー
ンで再生可能なエネルギー資源の使用が増加するだろう。水力発電電力を用いて水を電気
分解することによりいつでも水素を製造でき、発電所全体の生産性も向上する。一方、こ
のような大規模システムにおいては、補助電池システムに電力を貯蔵する場合に、徐々に
エネルギーのロスが発生するが、水素貯蔵は同様のエネルギーロスで悩まされることがな
53
く(ただし水素貯蔵には、貯蔵材料の脆化注 7、水素漏出などの独自の問題がある)、電池
システムよりも経済的になると見込まれる。この BC 州の水素製造システムはカナダの
Hydrogenics 社が供給する予定である。
編集・翻訳:NEDO 研究評価広報部
出典:SRI Consulting Business Intelligence Explorer Program
注7
水素を貯蔵するための金属材料が水素を吸収し、割れやすくなる現象。
54
【燃料電池・水素】 水素
水素を生産する新しい方法を発見(米国)
ペンシルベニア州立大学とバージニア・コモンウエルス大学の研究者は、アルミニウム
原子の特別なクラスターを水に接触させることにより、水素を生産する方法を発見した。
クラスターの露出活性点の近接性を決定するのは、単に電子特性ではなく、アルミニウ
ムクラスターの形状であることを実証した点で、この発見は重要である。クラスターの露
出活性点の近接性は、クラスターと水の反応に影響する重要な役割を果たしている。この
チームの研究結果は、
「サイエンス誌」2009 年 1 月 23 日号に発表されている。
「我々のこれまでの研究では、これらのアルミニウムクラスターに関して電子特性がす
べてを決定するということを示唆していた。しかし、この研究は、水を分離することを可
能にするためには、クラスター内の原子配列が重要であることを示した。この知見は、ク
ラスター内の原子配列の変更により、新しいナノスケール触媒を設計することを可能とす
るであろう。この結果は、水の分離に関係するだけではなく、他の分子の結合の分離にも
関係する研究に向けて、新領域を開くであろう」と A.ウェルフォード・カースルマン Jr.
は述べた。
チームは、特別に設計した流動反応装置の制御条件の下で結合した個々のアルミニウム
クラスターと水の反応を研究した。一方の活性点が、電子を受け入れる正の荷電中心であ
るルイス酸のように振る舞い、他方の点が電子を引き渡す負の荷電中心であるルイス塩基
のように振る舞う限り、水分子はクラスターの 2 ヵ所のアルミニウム活性点の間に結合す
るということを、彼らは発見した。ルイス酸アルミニウムは水の酸素と結合し、ルイス塩
基アルミニウムは水素原子を解離する。もし、このプロセスが、別のアルミニウム活性点
のセットと水分子との組み合わせで 2 回目に起きる時、2 個の水素原子が得られ、その後
結合して、水素ガス(H2)になる。
チームは、アルミニウムクラスターが水に接触した時に、クラスター寸法とそのユニー
クな幾何学的構造に依存して、異なる反応をすることを発見した。3 つのアルミニウムク
ラスターが、室温で水から水素を生成した。
「我々はこの反応を引き起こすために熱あるいはエネルギーを一切使用しなかった。室
温で水素を生産する能力は重要である。水を分離して水素を生産する従来の技術は、一般
に水素を生成する時に大量のエネルギーを必要としている。しかしながら、我々の方法は、
熱を供給せず、バッテリーに接続せず、つまり電気を加えずに、水素を生産することを可
能とする。一旦アルミニウムクラスターが合成されれば、水素をオンデマンド生産するこ
とができる」とカーナは述べた。
55
カーナは、チームの発見によって、アルミニウムクラスターを連続使用するためのリサ
イクル方法の研究、水素放出条件の制御方法の研究への道が開かれることを期待している。
彼は次のように述べている。
「我々は、水素の生成後、アルミニウムクラスターに付着して
留まっている水酸基を除去する方法を見つけ出したように思われる。これによって、アル
ミニウムクラスターを何回も再使用することができる。
」
カーナのチームは、この新技術の洗練を目指し、研究を継続する予定である。
( 出典:Credit: Sara LaJeunesse, Penn State University, U.S.A,
http://live.psu.edu/story/37146 )
56
【燃料電池・水素特集】産業界の動向
実用化へと進むカナダの燃料電池‐水素産業
カナダの燃料電池産業のあらまし
カナダ政府は、
「燃料電池商業化ロードマップアップデート」の印刷資料を昨年 12 月発
表した(出典①)。本稿では同資料に基づき、カナダの燃料電池および水素関連産業の現状
を簡潔に記述する。
過去 20 年間にわたり、同国は燃料電池および水素分野において世界をリードする位置
を占めてきた。現在、同国の燃料電池および水素関連産業は、比較的小規模の企業 80 社
によって構成されているが、これらの企業はいずれも独自のノウハウに基づいて事業を行
っている。2008 年までの 5 年間で見ると、これら企業による研究開発への投資総額は、
年平均で 2 億カナダドル(以下、C$)に上っているが、これはカナダ国内の全産業分野に
おける研究開発費総額の実に 3 分の 1 に相当する額である。その結果、燃料電池および水
素関連産業は、技術面でもビジネス面でも大きな進展を見せると同時に、研究開発へ向け、
投資においてもエンドユーザー市場向け投資においても、競争が年々激しくなってきてい
る。そのような中で、財政的な余裕のあるエネルギー、自動車、電機セクターの大手企業
が、燃料電池分野全般において積極的な動きを見せている。
カナダ企業によって製造された燃料電池は、すでに住宅用コージェネレーション設備、
予備電源、携帯用電子機器、荷役用設備といった用途で、世界各地で厳格な試験の実施対
象となっているのみならず、商業的な展開も見せはじめている。その結果、産業規模で年
率 59%というめざましい拡大を遂げている燃料電池設備分野において、同国は極めて大き
な存在感を示すにいたっている。実際、2007 年度には、燃料電池大手の Ballard Power
Systems 社一社のみで、北米での燃料電池生産のほぼ 10%を占めたほか、住宅用コージェ
ネレーション設備および予備電源設備では、全世界で出荷された製品の 22%が同社製であ
った。事業所および研究拠点の所在地は、沿岸部のオンタリオ州、ケベック州、ブリティ
ッシュ・コロンビア州が多く、そのなかでもブリティッシュ・コロンビア州は、世界最大
の燃料電池産業の集積地のひとつとなっている。
上記の Ballard 社のほかに、同国が強みを発揮している分野に関連して、以下の企業が
紹介されている。すなわち、リフトつきトラックを製造している Plug Power 社、
Hydrogenics 社、Raymond 社、住宅用コージェネレーション設備の製造に関し日系企業
と提携関係にある Hyteon 社、携帯用電子機器向け小型メタノール燃料電池開発を手がけ
る Angstrom 社、Tekion 社、再生可能エネルギーや天然ガスからの水素の生産、圧縮水
素向け貯蔵装置、極低温水素の製造および供給等のインフラ領域で事業を展開する Air
Liquide 社, Sacre-Davey 社、Dynetek 社、QuestAir 社である。
2006 年度の統計によると、業界全体の総収益は 1 億 3,300 万 C$で、そのうち製品販売
57
によるものが 8,900 万 C$、民間からの研究開発投資額は 1 億 9,300 万 C$、雇用者総数は
2043 名、2008 年から 2013 年までに必要とされる資本額は 8 億 6,400 万 C$と想定されて
おり、そのうち、37%を事業収入、23%を未公開株式、18%を市場から調達するとされて
いる。また、実証プログラムの実施件数は 125 件であったほか、戦略的提携関係が 124 件、
共同研究が 220 件報告されている。
その一方で、燃料電池開発プログラムに対する公的助成は、他の国々に比べて遅れをと
っているのが現状である。実際、燃料電池および水素関連の研究開発を対象とするカナダ
政府によるファンディングは、年平均 3,000 万 C$であり、この額は、アメリカの年間 5
億 1,200 万 C$、日本の 3 億 1,000 万 C$(2007 年)、欧州委員会の年間 2 億 3,600 万 C$、
韓国の年間 9,800 万 C$、中国の年間 6,000 万 C$といった数字に比べて大きく見劣りす
る感は否めない。なお、カナダ政府によるファンディングの内訳は、3 分の 1 が大学およ
び政府系研究機関への助成、3 分の 2 が製品開発および製品の実証試験の支援を目的とす
る企業およびエンドユーザーへの支援となっている。
上記の条件のもと、カナダ企業の多くは、事業内容の見直しを図るとともに、研究開発
に関する投資対象も、従来までの乗用車から、フォークリフト、予備発電装置、携帯用電
子機器、都市輸送用バスなどといった、近い将来に商業化が達成可能と思われる分野へシ
フトさせてきている。その結果、それらの企業は、早い時期にキャッシュフローを生み出
すような製品の性能改善やマーケティングに経営資源を集中させるとともに、投資家サイ
ドからの信頼の獲得、さらには、消費者側の認知度アップや新技術の受容を図るための足
がかりを築くことが可能となった。このような経営資源の集中戦略はまた、コストの削減、
効率の改善、信頼性の向上、インフラストラクチャーの整備といった面で、カナダ企業が
大きな進歩を達成する契機ともなった。実際、この 5 年間で燃料電池のコストは 7 分の1
に削減、性能は 7 倍にアップしているほか、世界初となる大規模な実証プログラム「British
Columbia Hydrogen Highway」および「 Hydrogen Village」が、現在官民共同で推進さ
れている。
バラード社ほかによる燃料電池バス・プロジェクトの進捗状況
Ballard Power Systems 社は 12 月 18 日付のプレスリリースにおいて、ブリティッシ
ュ・コロンビア州交通公社(BC Transit)による水素燃料電池実証試験で使用するバス 20
台に関し、同社がかねてより New Flyer Industries Canada ULC 社、ISE Corporation
社と共同で製造を進めていた試作車が初回の走行試験を成功裡に終えたことから、NTP
(Notice toProceed; プロジェクトの着手指示)の通知を受けたと発表した(出典②)。本プロ
ジェクトにおいて、同社は HD6 型バス用燃料電池モジュールの供給を 2008 年内にスター
トさせ、2009 年半ばまでに納入を完了するとしている。
本プロジェクトは、州および公共交通資本基金(Public Transit Capital Trust)からの
助成に基づき、20 台のバスを商用で運行することを目的に、同公社の主導で進められてい
るものであり、2010 年のバンクーバー冬期五輪においてその成果を世界に披露することが
58
予定されている。それにあたっては、ケベック州から供給される液体水素を燃料として使
用することにより、ディーゼル車と比較して温室効果ガス排出量を 62%削減することを目
指すという。この数値は、ディーゼル車の場合、走行距離 100km あたり 55 リットルの燃
料が消費されるのに対し、燃料電池バスの場合、走行距離 100km あたり 10kg の水素を消
費するとの想定に基づくものである。また、20 台という台数は、燃料電池車両の運行規模
として世界最大のものとなる。本プロジェクトの実現に向けて、州は水素供給に関し Air
Liquid Canada 社と提携を結ぶ一方、同公社は、連邦政府および州政府からの助成を受け
つつ、ウィスラーでの新たな水素ステーションの建設に向けた投資を行うと発表されてい
る。このステーションはまた、カナダにおける燃料電池関係の最大のプロジェクトである
「British Columbia Hydrogen Highway」の一部を構成することになるという(出典①)。
バラード社は、1992 年以来バスでの使用を想定した大型車両向け燃料電池の開発を行
っており、これまでに 5 世代に及ぶモデルを発表、世界各地での実証プログラムにおいて
実績を重ねてきている。総走行時間は 15 万時間、総走行距離は 300 万 km、輸送乗客数
はのべ 700 万人に上るという。今回の試験で使用された HD6 型モジュールは、同社が手
がけた 6 世代目の燃料電池となる。先行モデルと同じく固体高分子型を採用した同モジュ
ールには、出力 75kW と 150kW の 2 種類が用意されており、作動温度は 63℃と、1 世代
前の HD5 型に比べてさらに低い温度での作動が可能であるという。詳細なスペックにつ
いては、本年 1 月に同社ホームページにおいて関連資料が公開されているのでそれを参照
されたい(出典②③)
ヴィクトリア市とウィスラー市で実施された今回の評価では、
一日当たり最大 16 時間、
のべ 575 時間におよぶ路上での運行試験が実施された。その結果、航続走行距離は、通常
のディーゼル路線バスで 300km 前後であるのに対し、おおよそ 450km を記録するととも
に、発電効率は 57%に達し、内燃機関で得られる効率の 2 倍以上の数値となったと報告さ
れている。試作車の駆動系には、燃料電池とバッテリーとのハイブリッドシステムを採用、
エネルギー効率および燃料電池の耐久特性の向上が図られている。なお、ハイブリッド型
の駆動系に同社の燃料電池が搭載されるのは今回が初のケースという。また、燃料電池ス
タックを二つ連結した出力 150kW タイプのモジュールは、過酷な運転条件にも負けない
頑強さと耐久性を備えた設計であると同社はアピールしている。
アルゼンチンの風力発電ファームでカナダ製水素生産装置が稼動
業界団体である Hydrogen & Fuel Cells Canada の 12 月 18 日付プレスリリースによる
と、オンタリオ州に本拠を置く Hydrogenics 社が同日、アルゼンチンの Hychico 社が運営
する風力水素エネルギー施設が稼動を開始したと発表した(出典⑤)。この施設には同社の
HyStat-60 型水素生産装置が設置されており、風力発電ファームからの出力を用いて、エ
ネルギー用に 120 Nm3/h の水素、および地域の産業用に 60 Nm3/h の酸素を供給するとい
う。酸素に関しては、これまでのトラックによる長距離輸送に代わる供給源としての利用
が期待されている。
59
チュブ州コモドロ・リヴァダヴィアに建設されたこの施設には、風力発電装置 26 基が
設置されており、合計出力は 6000kW。年間発電量は 21.6 GWh で、発電された電力はパ
タゴニア地方の電力網に供給されるという。それにより二酸化炭素排出量が 2 万 7,000 ト
ン削減されると見積もられている(出典⑥⑦)。
風力発電ファームの出力は、元来、間欠的な性質を示し、予想を立てることが難しいと
いう欠点があるが、水素を燃料とする内燃機関を発電システムに組み込むことにより、強
風時には需要を上回る電力量を発電し、そのエネルギーを水素というかたちで貯蔵した上
で、無風時にそれを用いて電力を生産することが可能になる。その結果、電力需要のより
多くの部分を風力発電によってまかなうことが可能となり、ひいては化石燃料への依存度
の軽減につながるとされる。
出典
①カナダ産業省 ”Canadian Fuel Cell Commercialization Roadmap Update”(Ballard 社
ホームページ内に掲載された印刷資料)2008.12
http://marqui-ballard.gssiwebs.com/files/pdf/PWC_Report.pdf
②Ballard Power Systems 社プレスリリース、2008.12.18
http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=76046&p=irol-newsArticle&ID=1237962&
highlight=
③Ballard 社ホームページ資料
http://www.ballard.com/files/pdf/Spec_Sheets/FCvelocity-HD6_docmetrics.pdf
④中国汽车 工程学会ホームページ内 Ballard 社 2006 年作成資料
http://ev-sae-china.org/index.files/paul-cass-hynors-arskonferanse-2006.pdf
⑤Hydrogen & Fuel Cells Canada プレスリリース、2008.12.18
http://www.fuelcellscanada.ca/cfm/index.cfm?It=106&Id=115
⑥Ana Tronfi, “Llegará a todo el país la energía eólica”, La Razon, 2008.10.4
http://www.lanacion.com.ar/nota.asp?nota_id=1056055&high=Llegar%E1%20energ%E
Da%20e%F3lica
⑦”Capex producirá energía eólica e hidrógeno”, RioNegro, 2007.12.5
60
【燃料電池・水素特集】産業界の動向
英国における燃料電池技術実用化の推進
はじめに
英国における燃料電池実用化に関する支援プログラムの最上位に来るものが、英国政府の
企業および規制改革省(Department for Business Enterprise & Regulatory Reform:
BERR)が所掌する「環境改善基金(Environmental Transformation Fund(ETF)
:Funding
for Low Carbon Technologies 注1 」である。この枠組みの下で「水素・燃料電池および炭素
削減技術実証プログラム(Hydrogen, Fuel Cell, and Carbon Abatement Technologies
Demonstration Programme:HFCCAT)注2 」が実際の支援業務を担っている。
また、英国は「欧州水素および燃料電池技術プラットフォーム(European Hydrogen and
Fuel Cell Technology Platform:HFP)」注3 をはじめ、多くの国際協力プログラムにも参
画している。本稿では上記した枠組み計画ではなく、企業を中心とした具体的な推進状況
を記すこととする。
ACAL Energy 社の取り組み注4
ACAL 社は、1kW 以上の定置型、家庭用および自動車用の燃料電池開発のベンチャー
企業で、2004 年 8 月に設立された。固体高分子型燃料電池注5 の技術を有しているが、も
ともとはアンドリュー・クリース博士(現在は同社の技師長:Chief Technology Officer)
の発明した、イオン交換膜方式の燃料電池陰極に内在する技術制約を解決する技術を発展
させ、実用化を図るために設立されたものである。
2008 年 3 月 11 日に、同社は新型燃料電池の開発に成功したと新聞発表した。それによ
ると、同社の特許である循環型液体陰極(FlowCath®)を用い、50W の発電に成功した
とのことである。この FlowCath®技術を利用すると、従来は標準的に用いられていた高
価な白金電極を、非貴金属の触媒型液体金属で置き換えることができる。これによってコ
ストダウンを図れることはもちろんだが、交換膜を自然加湿できるので、余分な水和シス
テムを削減できる。この発表に関連して、アンドリュー・クリース博士は、
「われわれの次
のステップは、この 50W システムを 1kW にスケールアップし、長時間運転の実証試験を
することです。燃料電池の商業化に対する数々の重要な問題点を解決し、世界の顧客に対
してアピールしたい。
」と語っている。
この発表に続き 2009 年 2 月 5 日に、同社は 2008 年 12 月以来の試験でパワー密度
注1
http://www.berr.gov.uk/whatwedo/energy/environment/etf/page41652.html
注2
http://www.berr.gov.uk/energy/environment/etf/hfccat/page45482.html
http://www.hfpeurope.org/
注3
注4
注5
http://www.acalenergy.co.uk/
Polymer Electrolyte Fuel Cell(PEFC)。かつては Proton Exchange Membrane Fuel Cell と呼ばれたこ
ともあるが、わが国では 1992 年に当時の通商産業省が、ニューサンシャイン計画を推進するに当たって、
PEFC に呼称を統一した。
61
570mW/cm2 を達成したと発表した注6。この密度は同社の特許保有技術である FlowCath®
を用いた燃料電池の新記録で、2009 年内には更なる改良を積み上げて 1W/cm2 を達成する
計画である。
なお同社は、ガーディアン紙の「2008 年の欧州のクリーンエネルギー100 社」の一つと
して、エネルギー貯蔵部門から選ばれている注7。
AFC Energy 社の取り組み注8
2006 年 1 月 9 日に設立されたベンチャー企業である同社は、もともとは自動車やモー
ターボートの動力源として新エネルギーシステム(燃料電池を含む)
を開発していた Eneco
社の一部であったが、2004 年から 2005 年にかけて Eneco 社がハイブリッド・エネルギー
システムに注力することとなり、分離独立した。その際に同社は Eneco 社からアルカリ燃
料電池技術注9 とその関連ノウハウを買い取り、低コスト燃料電池を商品化することを主要
な事業と位置づけた。
同社の生い立ちから言って、中核技術はアルカリ燃料電池である。これを選択した理由
としては、発電効率の高さ、動作温度の低さ、貴金属電極を使用しなくてすむこと、アル
カリ技術の蓄積があること、宇宙および潜水艦の電力源としての使用経験があることなど
がある。技術的には電極のパワー密度を下げることで、電極への貴金属の使用を極力抑え
てコストを低減し、信頼性を上げている。
他社が狙っているビジネスモデルが、水素が(現在のガソリンのように)幅広く供給さ
れる場合に、エンドユーザに燃料電池を購入してもらうというのに対し、同社の狙いは若
干ユニークである。すなわち、既に水素が生産されている現場に燃料電池の導入を図り、
発電を事業化するものである。同社技術の適用先の具体的な例としては、現在既に水素を
副産物として生産している塩素生産工場である。その他の例としては、化学製品工場や発
電所などがあるが、多くの場合、副産物の水素を燃焼処理しているのが現状である。この
ような現場にアルカリ燃料電池を設置し、廃棄物のない(ゼロ・エミッション)の水素発
電を事業化するのが AFC Energy 社のビジネスモデルである。
現在、世界の塩素生産工場から発生する余剰水素量は、およそ年間 3,000MW の発電量
に相当し、これは£2B(20 億ポンド)の市場である。最初の顧客は世界的な電気化学会
社で、欧州で 4 位の塩素製造会社、Akzo Nobel 社注10 である。同社は 2 年以内にアルカリ
燃料電池を導入し、廃棄水素発電により電力会社に売電する計画を立てている。Akzo
Nobel 社のクヌート・シュワレンベルグ社長は「塩素製造産業は電力多消費産業であるか
http://www.fuelcelltoday.com/online/news/articles/2009-02/ACAL-Energy-AnnouncesIncreased注7
http://www.guardian.co.uk/environment/2008/sep/18/cleantech100energystorage.
cleantechnology1002
注8
http://www.afcenergy.com/
注9
Alkaline Fuel Cell。水酸化カリウム水溶液を用い、室温から 150℃で作動する。発電効率は他の方式と比
較してやや高いが、純水素を用いなければならない。
注10
http://www.akzonobel.co.jp/holland/index.html アムステルダムに本社を置く、世界有数の化学企業。
2006 年度の売上高は、137 億 3,700 万ユーロ。
注6
62
ら、企業存続のためにはエネルギー効率を上げることが最優先課題である。電解工程で多
量の水素が副産物として発生するので、これを所内設置した燃料電池によって電力に転換
して電解工程に戻せるならば、理想的な循環ループができる。AFC Energy 社との協力で
実現したい。
」と語っている。
2009 年 2 月 23 日に、AFC Energy 社は Waste2Tricity(W2T)社と契約を結び、燃料
電池による廃棄物発電事業を立ち上げると発表した。W2T 社は今後 6 ヵ月以内に 5 万ト
ン級のパイロットプラントの建設を開始し、3 年間の運転を計画している。第 1 段階では
内燃機関による発電で、第 2 段階ではプラズマ・ガス化法により廃棄物から水素を取り出
して 12MW の発電を行うものである。
プロセスイノベーションセンター社の取り組み
プロセスイノベーションセンター社(以下、CPI 社と記す)注11 が、日立製作所および
日立ハイテクノロジーズ社と連携して英国の燃料電池市場の開拓に乗り出すことが、2009
年 2 月 25 日付けの Fuel Cell Today 注12 誌に報じられた。ここではまず、CPI 社について
触れておく。CPI 社は北東イングランドを所轄する地域開発庁の「One North East」注13 の
後押しを受けて設立された株式会社で、英国におけるプロセス産業が新技術を導入するに
際し、政府側からの支援を行うことを目的としている。燃料電池実用化もその対象の一つ
である。
CPI 社の運営する燃料電池応用施設は、商業的に成り立つ低炭素エネルギー技術の一つ
として、燃料電池技術を商業ベースに乗せることを目指している。このため、CPI 社は燃
料電池供給にかかわるすべての要素技術をサポートするための開発センターを設立した。
開発センターは多くの経験豊富な技術者チームを有し、技術の商業化に伴う諸々のリスク
の低減を図りつつ、製品やプロジェクトの開発者、OEM システムインテグレータおよび
製造企業に対し、技術的なサポートを提供している。これまでの公的機関における数多く
の実証試験プロジェクトで得られた経験を活用し、既に燃料電池産業に携わっている企業
だけでなく、燃料電池産業を潜在的な新たな市場と考える企業に対しても技術的支援を提
供している。
開発センターには先端的な燃料電池試験設備が備えられているので、各種燃料電池につ
いて、1 セル単位から 15 kW のシステムに至るまでの燃料電池の試験研究が可能となる。
PEM
注14
、DMFC
注15
および SOFC
注16
のシステムの動的な負荷テストを完全収集整理で
注11
http://www.fuelcelltoday.com/online/industry-directory/organisations/ce/Centre-for-Process
-Innovation--C
注12
http://www.fuelcelltoday.com/online/news/articles/2009-02/hitachi-cpi
注13
http://www.onenortheast.jp/ 「One North East」は地域ごとに設立された Regional Development
Agency(地域開発公社)の一つ。
注14
固体高分子型燃料電池(PEFC)と同義。
注15
現在、次世代のモバイル電源として最も期待されているのがメタノール直接型燃料電池(DMFC)である。
この DMFC は固体高分子型燃料電池(PEFC)の一種で、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液を
供給し、空気極では酸素還元反応(水素を燃料とする場合と同じ反応)によって発電する。
注16
固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell;SOFC)。
63
きる試験設備である。そのため、燃料電池のテストおよび制御のための LabVIEW 注17 機
能を提供し、完全な燃料電池システムの設計やシミュレーションのための CHEMCAD 注18
機能も提供できる。水素化物と複合水素タンクの充填設備もある。
単に技術的なサポートだけでなく、燃料電池の製造・利用プロセスの全般にわたり、す
なわち、システム設計や製造、燃料中に存在する硫黄分の分析、同定、定量化、製造者や
ユーザの健康と安全に対する助言までが提供されるのも特長である。システムの性能を評
価するメーカーと消費者の両方に、企業秘密の保持が保証され、他社とは独立したテスト
および評価サービスがなされる。開発施設には企業用の事務室も用意され、燃料電池関連
の企業が、高い設備投資をせずに新しいシステムを開発することができる。
上記した CPI 社が、日立製作所および日立ハイテクノロジーズ社と連携し、直接メタノ
ール型燃料電池(DMFCs:Direct-methanol fuel cells)用の応用製品を開発し、英国での
さまざまなビジネスを創成することを目指して、共同評価を開始する。具体的には 3 社は
共同で、CPI 社によって開発されたさまざまな応用製品に、日立の 100W 級の可般型
DMFCs の試作品を装備し、その電源性能を評価し、さらに経済効率を評価するための現
地調査を実施する。応用製品としては、遠隔監視カメラや道路標識などがある。これらの
試験結果は、英国における DMFCs に適した製品の選択や、英国における燃料電池事業の
実現可能性を評価するために反映される。
これまで英国政府は、高効率で低炭素含有の新しいエネルギー源の導入を積極的に進め
ているが、それを受けて CPI 社は、再生可能エネルギーを利用した低消費電力製品分野で、
電力グリッドから独立した電源を導入しようと考えている。
この背景の下で、3 社はこの共同評価を実施する合意に達したわけである。これは、CPI
社にとってみれば、日立の DMFCs が事業計画に適合し、日立および日立ハイテクノロジ
ーズ社にしてみれば、CPI 社の協力で期待するような応用製品が開発されるであろう、と
いうメリットがあるからである。今回の合意の下で、CPI 社は日立の DMFCs 試作品を使
用して、道路標識や携帯型情報端末などの応用製品を開発する。開発製品は研究センター
と現場で試験され、DMFCs の全体としての電源性能と経済効率が評価される。この結果
は適切な応用製品を選定する上で参考にされる。英国において、燃料電池応用製品の市場
性と燃料電池事業が存在可能かどうかも同様に試されることになる。
おわりに
英国では燃料電池の実用化に向けて、いくつかのベンチャー企業が生まれているようだ。
この点で、わが国の取り組みとは違った方向である。わが国の場合は、日産自動車が燃料
電池車の試作に向けて動き出し、ソニーやシャープがモバイル機器用のメタノール燃料電
池の開発を始め、日立が英国のベンチャーと組んでメタノール燃料電池の開発に乗り出す
という動きはあるが、いずれも大企業による開発推進である。英国方式と日本方式のどち
らが正解なのか、興味深いところである。
注17
注18
ナショナル・インスツルメント社が開発した機器制御用プログラム言語。
http://www.emori.co.jp/chemcad/ 米国 Chemstations 社が開発した化学工学プロセスシミュレータ。
64
【燃料電池・水素特集】産業界の動向
欧州で存在感を増す Morphic Group(スウェーデン、イタリア)
Morphic Group 概要
Morphic Group は 1999 年、カールスコガに設立された比較的新しい企業グループであ
る。同グループは、親会社の Morphic Technologies 社と Morphic Wind AB によって主と
して構成されており、前者が燃料電池分野、後者が風力発電分野をそれぞれ担当している。
2004 年以降、子会社である Cell Impact 社を通じて燃料電池市場に向けた様々な技術の実
用化を図るとともに、国際市場で燃料電池を販売している。2007 年度には、ギリシャのエ
ネルギー技術関連企業 Helbio 社の株式の 55%を取得し同社を子会社化したほか、イタリ
アの Arcotronics Fuel Cells 社(現 ExergyFuel Cell 社)
、およびスイスの AccaGen 社の
株式を 100%取得、両社を完全子会社化し、戦略的マーケティング、市場開発、新たな提
携関係の構築などを担当する Morphic Technologies 社のもと、Cell Impact 社を加えた 4
社体制で燃料電池事業に取り組むこととなった(出典 1)。このような大胆な M&A を行った
理由として Morphic Technologies 社は、燃料電池および再生可能エネルギー向けエネルギ
ー変換装置の分野で世界市場のリーダーになるとの戦略のもと、各社が持つ新技術を活用
した費用効率の高いエネルギー装置を製造するには、共同開発の実施や各社製品を組み合
わせる以外に方法はなかった点を理由として挙げている(出典 2)。なお、2008 年度のグル
ープ売上高は 3 億 1,200 万スウェーデンクローナ、雇用者数は 220 名である。
Morphic Technologies 社系の燃料電池関連 4 社のうち、カールスコガに本拠を置く Cell
Impact 社は、高い運動エネルギーを用いて素材を加工する技術に関する特許を有してい
るが、これは、一瞬のうちに 4GPa の圧力を生み出すような、互いに反対に作用する 2 つ
の衝撃を用いて素材にエネルギーを加えるという方法に基づくものである。同社では、フ
ライス加工を用いる代わりに、一回の衝撃によってプレートにパターンを作り出している
が、この方法により、生産速度の大幅な向上に加え、材料消耗がまったく生じないことに
よる素材コストの削減も達成されるという(出典 3)。
ボローニャに本拠を置く ExergyFuel Cell 社は、高性能固体高分子型燃料電池スタック
および燃料電池システムを発電用および通信設備のバックアップ電源用に生産しているほ
か、キャンピングカーやプレジャーボート、フォークリフト向けなどの補助動力装置も生
産しており、すでにそれらを大量生産する体制が整っているという。同社は MEGA
(Membrane Electrode Gasket Assembly)と呼ばれる技術で特許を有しており、この技術
を活用することで、コスト削減、製造時間の短縮、部品損傷時の修理のしやすさが実現さ
れるとともに、スタックへ組み込むのに先立って各部品を検査することが可能になるとさ
れている。さらに、生産コストの大幅な削減を可能にする黒鉛化合物製双極板に関する製
造技術特許も有しており、オートメーション生産ラインが稼動すると、年間 60MW 相当
の燃料電池関連製品の生産が可能になるとされる(出典 4)。Morphic Technologies 社の 2
月 5 日付けプレスリリースには、ExergyFuel Cell 社が、フランスのキャンピングカー用
65
品流通大手でフランス、スペイン両国で大きな販売網を持つ Narbonne Accessoires 社と
燃料電池システムの独占供給契約を結ぶとともに、キャンピングカー市場への燃料電池の
普及に共同で取り組む旨が発表されている(出典 5)。
パトラスに本拠を置く Helbio 社は、バイオガスやバイオエタノール、液化天然ガス、
その他の炭化水素などの燃料から、極めて高純度の水素を発生させる改質器の開発を手が
けている。その中でも、あらゆるタイプの燃料電池およびそれに関連するエネルギー変換
装置の開発において重要な鍵となっている触媒に関し、特許を含めた最先端のノウハウと
生産技術を有しているとされる(出典 6)。
イタリア語圏のメッツォヴィコに本拠を置く Accagen 社は、太陽光や風力、水素などの
再生可能エネルギーシステムでのエネルギー貯蔵を想定した、85%を超える高効率な電解
槽ほかの開発製造を行っている(出典 7)。
Industria2015 計画で助成金受給
Morphic Technologies 社は 2 月 5 日付プレスリリースにおいて、同社の 100%子会社
である ExergyFuel Cell 社が、他社および他の研究機関と共同で実施を検討していた
MICROGEN30 と呼ばれるプロジェクトに関し、イタリア政府による技術開発促進計画で
ある Industria2015 計画から、
196 万ユーロの助成金を獲得したと発表した(出典 8)。
なお、
Industria2015 の概要については、NEDO 海外レポート 1039 号(2009 年 2 月 25 日発行)
の該当記事を参照されたい(出典 9)。
今回の助成対象となった MICROGEN30 とは、天然ガスをエネルギー源として使用す
る、固体高分子型燃料電池を利用した中規模の定置型熱電併給システムである。本プロジ
ェクトでは住宅用設備での利用が予定されており、また、目標としては、30kW の電力お
よび 50kW の熱を生産することが掲げられている。予算総額は 1,500 万ユーロとなる予定
であるという(出典 10)。本プロジェクトの中核となるのは、イタリアの暖房装置およびボ
イラー大手である ICI Caldaie 社であるが、燃料電池部分は Exergy 社が担当し、低コス
トの燃料電池スタック向け技術の開発を目指すとされている。また、Exergy 社に対して
はさらに、Morphic Technologies 社系列の Cell Impact 社が双極板、Helbio 社がカーボン
ナノチューブを利用した触媒の提供を通じて支援を行うことになるという。
そのほかの共同研究パートナーとしては、イタリアエネルギー開発委員会(ENEA)、ミ
ラノ工科大学、イタリア学術会議膜技術研究所(CNR-Istituto per la Tecnologia delle
membrane)のほか、民間企業として D'Appolonia 社、WTK 社、SEAL.社、SIEL 社、
Siram 社、IRS.社、SC.A.M.E. SISTEMI 社が参画しており、合計 12 社および機関で本
プロジェクトを推進することになる(出典 11)。
燃料電池を利用した小規模コージェネレーションシステムは、エネルギー効率という点
でもっとも大きな期待が寄せられているものの、現在のところ市場には小規模なシステム
は流通していない中で、今回 Morphic Technologies 社の系列各社の協力体制が実現したこ
とに関連し、ExergyFuel Cell 社のアンジェロ・ダンツィ氏は以下のようにコメントして
いる。
66
「系列企業である Helbio 社と Cell Impact 社からの双極板、電極、触媒に関する最先端
技術の支援を通して、より高いエネルギー効率とコスト削減を実現する高熱作動型燃料電
池スタックの開発が可能となったことで、住宅向け設備での利用を想定した燃料電池開発
は大きく前進した。わが社は、本プロジェクトにより、今まで以上に大きな期待と情熱を
もって今後の見通しを立てるチャンスを手にした。というのも、消費市場向けの燃料電池
を産業化するのに必要とされる技術上のノウハウをすべて、手に入れることができるから
である。
」
一方、Ici Caldaie 社のアルベルト・ゼルビナート氏は、イタリア経済紙 IL Sole 24 Ore
の 1 月 25 日付け記事に、産学連携が今回の助成金獲得につながった点に関連して以下の
ようなコメントを寄せている(出典 12)。
「ミラノ工科大学エネルギー学科のエンニオ・マッキ教授と出会えたことがわが社にと
ってラッキーだった。教授には、化学、機械、電子工学の専門家が協力して開発に取り組
むように仕向けていただいた。わが社は、ボイラーについての従来のイメージを根底から
覆すようなコージェネレーションシステム開発計画に、教授とともに取り組んできた。
」
ミラノ大での評価実施
Morphic Group に関する話題としてはこのほか、バイオエタノールを利用した燃料電池
電力装置を Helibio 社がミラノ工科大学から受注したことが、Morphic Technologies 社の
1 月 13 日付プレスリリースにおいて発表されている(出典 2)。それによると、今回の契約
は、イタリアの投資家グループが、同社製の GH2-5000 型エネルギー装置の評価を同大学
へ依頼したことに基づくものであり、評価を終えた後、大量納入や技術提携について協議
することで合意済みであるとされている。GH2-5000 型エネルギー装置は、外部からの電
力供給のない遠隔地での運転を想定して設計されており、作動状況の監視や制御も遠隔操
作で実施可能であるという。実際の製造を行っているのは、Exergy Fuel Cells 社である。
Helbio 社がエタノールを利用する電力装置を受注するのはこれで 2 回目である。昨夏、ギ
リシャのエタノール製造会社へ納入したものが同社にとっての初めての実績であり、1 月
時点ですでに稼動中であるという。
今回納入される GH2-5000 型エネルギー装置は、バイオエタノールをエネルギー源とし
て用いて 5kW の電力と最低でも 5kW の熱エネルギーを供給するとされている。同装置に
は、バイオエタノールと水を、水素を大量に含む気流へと変換し固体高分子形燃料電池へ
供給するための燃料処理装置が搭載されている。エタノールの改質は、特別に設計された
反応器/触媒システムにより、水蒸気改質法で行われる。一酸化炭素の除去は、2 基の水性
ガスシフト反応器および 1 基のメタン化反応器で行われ、濃度は 20ppm に抑えられると
いう。燃料電池は Exergy Fuel Cells 社製のものを使用する。燃料処理装置と燃料電池は、
共通のアイデアに基づき高度に一体化され制御されるため、90%以上という非常に高い総
合効率で稼動するという。さらに、同システムのメリットとして、燃料に高純度のエタノ
ールを必要とせず、60%~80%の濃度のエタノール水溶液で稼動する点も挙げられている。
これにより、エネルギー分離過程を大幅に省略することが可能となり、その結果、同シス
67
テムに用いられるエネルギー担体の低価格化が実現するとされている。
(補足)
スウェーデンの燃料電池をめぐる大きな話題としてはもうひとつ、改質器メーカーであ
る ReformTech 社の研究開発プロジェクトが昨秋、同国のファンディング機関である
VINNOVA からの助成金を獲得したということがある(この資料はスウェーデン語に限ら
れている)
。なお、同社のホームページおよびプロジェクト内容を伝える VINNOVA の広
報誌(10 ページに記述あり)のアドレスは以下のとおり。
http://www.reformtech.se/
http://www.vinnova.se/upload/dokument/VINNOVA_nytt/VinnovaNytt1-09.pdf
出典
(1)Morphic Group ホームページ
http://www.morphic.se/en/
(2)Morphic Technologies 社プレスリリース 2009.1.13
http://www.morphic.se/en/Press/Press-releases/Pressrelease/?rptid=402709
(3)Cell Impact 社ホームページ資料
http://www.morphic.se/en/Cellimpact/Method/
(4)ExergyFuel Cell 社ホームページ資料
http://www.morphic.se/en/Exergy/Technology/
(5)Morphic Technologies 社プレスリリース 2009.2.5
http://www.morphic.se/en/Press/Press-releases/Pressrelease/?rptid=407298
(6)Helbio 社ホームページ資料
http://www.morphic.se/en/Helbio/Technology/
(7)AccaGen 社ホームページ資料
http://www.accagen.com/p-electrolyzers.htm
(8)Morphic Technologies 社プレスリリース 2009.2.5
http://www.morphic.se/en/Press/Press-releases/Pressrelease/?rptid=407327
(9)NEDO 海外レポート 1039 号 2009.2.25
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1039/1039-09.pdf
(10)イタリア学術会議プレスリリース 2009.1.23
http://www.cnr.it/cnr/news/CnrNews?IDn=1899
(11)イタリア経済開発省通達 2009.1.26
http://www.industria2015.ipi.it/file/Decreto_Graduatoria_EE(1).pdf
http://www.accagen.com/p-electrolyzers.htm
(12)Carmine Fotina “I pionieri italiani della green economy”, Il Sole 24 Ore, 2009.1.25
http://www.ilsole24ore.com/art/SoleOnLine4/dossier/Economia%20e%20Lavoro/impatto-zero/gr
een-economy/pionieri-italiani-green-economy%20.shtml?uuid=1bc360ba-f851-11dd-83be-26610f
932962&DocRulesView=Libero&fromSearch
68
【燃料電池・水素特集】政策
燃料電池実用化に向けた欧州連合の新政策(EU)
はじめに
2008 年 10 月 14 日、EU は将来のエネルギー源として燃料電池と水素に関する 10 億ユ
ーロ規模のプロジェクトを立ち上げると発表した。
既に 2007 年 10 月に、欧州委員会により「燃料電池と水素に関する官民共同技術開発構
想(JTI)」注1 が正式に認可されるとともに、それに関連して「燃料電池と水素に関する
官民共同技術開発のための欧州産業界団体(NEW-IG)」注2 が産業界側のイニシアティブ
により設立されている。今回のプロジェクト発足は、これらの取り組みの具体化に向けた
重要なステップである。
本稿は、欧州における燃料電池実用化に向けた官民の一連の動きについて取り纏めたも
のである。
産業界団体
燃料電池と水素に関する JTI において産業界側の当事者となるのが上述の NEW-IG で
ある。JTI については既に報告注3 したように、欧州連合における産業技術育成強化の柱で
あるが、その中で、低価格かつ世界最高水準の燃料電池と水素の商品化が目標とされてい
る。そして、この JTI においてターゲットとされているのが輸送用、定置型および可般型
の燃料電池である。
今回設立された NEW-IG は、欧州委員会が推進する「欧州における水素と燃料電池技
術開発プラットフォーム(HFP)
」の 4 年間にわたる活動の成果であると同時に、全欧州
の関連業界同士のパートナーシップが結実したものである。その目的は、
・JTI における産業界の利益を代表する
・産業界の意見を調整する
・応用指向の産業界委員会を設立する
・JTI 理事会注4 へ産業界の代表者を送り込む
・計画事務局注5 の管理運営費を欧州委員会と共同で負担する
などである。
欧州委員会の決定
2007 年 10 月 10 日、欧州委員会は燃料電池と水素に関する官民共同技術開発構想(JTI)
を正式に認可した。第 7 次欧州研究枠組み計画(FP7)の中で、JTI は産業界が先頭に立
注1
注2
注3
注4
注5
Joint Technology Initiative(JTI)。
New Energy World-Industry Grouping(NEW-IG)。
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1039/1039-05.pdf
Governing Board。
Programme Office。
69
って進める「官民共同事業」と位置づけられている。欧州委員会は FP7 の財源の中からこ
の JTI に対して 4 億 7,000 万ユーロを支出する一方、産業界からも応分の出資がある。計
画の基本理念を、プレス・リリース注6 および EU MEMO 注7 に沿って説明する。
欧州を取り巻く当該分野の研究の現状
研究開発活動への投資額は、FP2 では 800 万ユーロだったのに対し FP6 では 3 億 1,500
万ユーロにまで増加した。
各国の投資のあり方には、ばらつきがある。
技術面でも、あるいは技術以外の側面でも、市場への商品投入には依然として越えなけれ
ばならない障壁がある。
世界を見渡すと、米国や日本はもちろん、中国においても強力な研究開発が進められて
いる。
当該分野を推進するに当たって考慮すべき点
・必要な研究は多岐にわたっており、単一の燃料電池関連企業あるいは研究機関のみで
はそれらに対処できない。
・企業が自社のみの投資によって開発を進めようとする場合、長期的な予算や戦略的な
技術の獲得が難しく、また市場での売り上げ予想に関しても裏付けが得られない。
・欧州連合としての研究開発計画(基礎研究から大規模実証試験にいたるもの)の統合
が不十分である。
・潜在的な需要サイドが要求している性能や製品寿命、システム価格などをクリアする
ためには、技術的なブレークスルーが必要である。
JTI として推進する利点
・市場への商品投入を 2 年から 5 年早めることが可能となる。
・エネルギー効率の向上や安定した供給が実現されるとともに、環境汚染の防止に向け
た迅速な対応や温室効果ガスの削減も可能となる。
・6 年間という長期にわたる相当規模の財政的な見通しが立てられているため、官民双
方の投資主体からプロジェクトに対するより大きな信頼感を得ることが可能になる
一方で、産業界サイドにとっても長期にわたる投資計画の立案とキャッシュフローの
管理が可能となる。
・産業界サイドには、開発の優先順位とスケジュールを明確にするという役目がある。
欧州委員会と連携をとりつつ、様々な研究機関とも協議を重ねることにより、産業界
は、大学や研究機関が持っている基礎分野での研究能力を存分に活用することが可能
になるとともに、共通の目標を掲げたうえで研究開発や実証試験を遂行できるという
注6
注7
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/07/1468
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/07/404&format=HTML&aged=
0&language=EN&guiLanguage=en
70
大きなメリットを享受することが可能となる。
・JTI の仕組みの下では、実証試験プロジェクトが基礎研究および応用研究の双方に密
接に関連付けられるため、商品化における経験をより速やかに蓄積することが可能と
なる。
展望と成果
JTI においては、欧州技術プラットフォームの枠組みの中で実施されてきた様々な活動
を基盤として、基礎研究と産業指向の応用開発、実証試験および各種支援活動が実行に移
される。
JTI の意図するところは、確実な水素供給と燃料電池技術を、商業化が離陸する時点ま
でに実現することである。自動車産業にとっての目標は、まず隘路となっている技術に突
破口を開くことであり、それが実現して初めて量産化の実施に向けた経営判断を下すこと
が可能になる。2015 年から 2020 年という時期までに大規模な市場の拡大を実現するため
には、何らかのブレークスルーが必要とされている。一方、定置型燃料電池(家庭用、商
業用)および可般型に関しては、2015 年から 2020 年を想定した場合の市場の拡大の契機
となるような技術を、JTI によって開発する。
新政策の概要注8
この大規模プロジェクトは欧州委員会が産業界との協力の下で進めるものであり、燃料
電池と水素を欧州における新エネルギー技術戦略の中核と位置づける政策の現われである。
燃料電池は変換効率の高いエネルギー技術であり、水素はクリーンなエネルギー源である
が、これらは欧州が直面しているエネルギー問題を解決する高い可能性を秘めている。
欧州委員会は、欧州の産業界および学界と協力して産官共同技術開発構想(JTI)を立
ち上げ、燃料電池と水素に関する研究、技術開発および実証試験のために、6 年間でおよ
そ 10 億ユーロ規模の投資を計画している。2020 年までに燃料電池と水素の幅広い市場を
育成することが到達目標である。
欧州委員会の科学研究担当であるヤネツ・ポトチュニック委員によると、結果をきちん
と視界に入れた科学プロジェクトへ投資することで、欧州は気候変動問題、さらにはエネ
ルギー問題の解決という課題に対して、有言実行の態度を示すことができる。そのために
は一刻の猶予も許されない新エネルギー技術の開発においては、政・官・学・産のすべて
が参画することが不可欠であるが、今回、多国籍企業から中小企業までの 60 社以上の事
業者、そしてそれと同数の大学・研究機関が一堂に会したことは大成功である。この JTI
には、官民一体となって新エネルギー技術開発競争における欧州のポジションをさらに前
進させる目的があり、このプロジェクトによって、他分野の戦略的研究の前進も期待され
ているという。
一方、共同事業機構理事会の議長であるギース・ヴァン・ブレダ・ヴリースマン氏によ
注8
https://www.hfpeurope.org/uploads/958/3814/PressRelease_IndustryGrouping_FCH-JTI_
GSA08_081008.pdf
71
ると、JTI は、燃料電池と水素に関する技術開発を促進し、それらの商品化を進めるため
の最善の政策であり、欧州が一体となって計画を実行に移すための絶好の機会を、JTI が
提供することになるため、これらの戦略技術に関係する市場の整備にはすべての利害関係
者が協力することが必要である。その際、関連産業セクターによる供給網開発に加え、地
域社会レベルや国家レベル、さらには欧州全体の学界、産業界および政府がともに手を携
えることが重要であるとのことである。
第 1 回の関係者総会が開かれ、それをもって燃料電池および水素(略称 FCH)に関す
る JTI が公式に発足する。JTI の主要到達目標は、欧州における燃料電池および水素技術
の開発の促進と、2010 年から 2020 年の間における商品化の実現である。JTI の諸活動に
よって、燃料電池および水素技術が市場に投入されるまでの時間が 2 年ないし 5 年は短縮
するであろう、と推定されている。
2008 年 10 月に、概略予算 2,810 万ユーロのプロジェクトに対する第 1 回の意見招請が
公示された。その範囲は、運送および燃料補給のインフラ、ならびに水素の生産、貯蔵お
よび流通システムなどである。この事業化を担当する法人組織「燃料電池および水素共同
事業機構」注9 には、運営に関する最上位機関として理事会が設置されており、日常的な管
理運営は、専務理事注10 がブリュッセルに置かれた計画事務局のサポートのもとで行う。
さらに理事会の補佐役として科学委員会注11 が設置されている。加盟各国は各国代表グル
ープ注12 を通して、共同事業機構の諸活動の進展を見守ることになる。総会は年に 1 回の
頻度で開催される。第 1 回の総会は 2008 年 10 月 14 日にブリュッセルで開催された。
おわりに
燃料電池実用化官民連携は、低炭素技術の開発と実用化を加速する面で重要な役目を演
ずるとされる、欧州の戦略的エネルギー技術計画(SET-Plan)で構想されているものであ
る。この枠組みの中で、燃料電池実用化に向けた産官連携プロジェクトが発足した。これ
によって効率の高いプログラムが実行に移され、前途有望な実用化対象に焦点を当てた形
で、基礎から応用にいたる研究開発、実証試験および各種支援活動が進展することが想定
されている。この JTI は、今後も計画されていくことになる欧州産官連携プログラムの中
でも、いち早く実際にスタートした例とみなすことができるであろう。EU がこの分野で
世界のリーダーになる、という強い意思表示である。
本稿では、欧州における燃料電池実用化に向けた官民の一連の動きをまとめたが、最新
のニュースに関しては Fuel Cell Today 注13 が便利なウェブサイトである。
The Fuel Cells and Hydrogen Joint Undertaking。
Executive Director。
注11
Scientific Committee。
注12
State Representatives Group。
注13
http://www.fuelcelltoday.com/
注9
注10
72
【燃料電池・水素特集】エタノール燃料電池
エタノール燃料電池注1への道を開く新しい触媒(米国)
米国エネルギー省(DOE)ブルックヘブン国立研究所の研究者チームは、デラウェア大学
およびイェシバー大学の研究者と協力して、エタノール燃料電池を実現可能にする新しい
触媒を開発した。非常に効率的なこの触媒は、エタノールを酸化し、燃料電池反応でクリ
ーンエネルギーを生産するために必要とされる、これまで達成できなかった、2 段階の重
要な反応を行う。この結果は、
「ネーチャー・マテリアル誌」2009 年 1 月 25 日号でオン
ライン発表されている注2。
寿命がないバッテリーのように、水素燃料電池は水素と酸素を水に変換し、電力を生産
する。しかしながら、燃料電池が使用する水素の効率的な生産、貯蔵および輸送は、容易
には達成されていない。代替案として、水素を豊富に含む化合物の利用、例えば直接エタ
ノール燃料電池と呼ばれるシステムでの液体エタノールの利用に研究者が取り組んでいる。
「エタノールは燃料電池のための最も理想的な反応物質の 1 つである。エタノールは生
産するのが容易で再生可能であり、無毒で、輸送も比較的容易であり、また、高いエネル
ギー密度を持っている。燃料電池により、その化学エネルギーを直接電気エネルギーに変
換することが可能である。さらに、ガソリンを貯蔵し流通するために現在配備されている
インフラ(ガソリンスタンド)に多少の変更を加えることによって、それを水素の貯蔵・
流通に再利用することが可能である」とブルックヘブン国立研究所の化学者ラドスラブ・
アジックは語る。
直接エタノール燃料電池の商業用途への大きな障害は、電力を作るために、化合物を水
素イオンおよび電子に分離する反応である分子の酸化速度が遅く、また非効率的なことで
ある。特に、これまで研究者がエタノールの炭素原子間の結合を分離できる触媒を見つけ
ることが出来ていないことである。
しかし、ブルックヘブン国立研究所の研究者たちは、目指していたものを発見した。炭
素担持二酸化錫ナノ粒子上の白金原子とロジウム原子でできた研究チームの電解触媒は、
室温でエタノールの炭素結合を分離し、効率的にエタノールを酸化する。主反応生成物は
エタノール直接型型燃料電池(DEFC:direct ethanol fuel cell)の燃料は、エタノールである。エタノールは
人体に無害であり、また植物から作ることができるバイオ燃料である。発電の結果、CO2 が排出されるが、
これは植物により大気中の CO2 が固定されたものであり、全体として CO2 を増やさないと見なされる。自
動車の燃料にバイオ燃料を使用する場合と同じ考え方である。
注2
“Ternary Pt/Rh/SnO2 electrocatalysts for oxidizing ethanol to CO2”, A. Kowal, M. Li, M. Shao, K.
Sasaki, M. B. Vukmirovic, J. Zhang, N. S. Marinkovic, P. Liu, A. I. Frenkel & R. R. Adzic,
Nature Materials Published online: 25 January 2009 | doi:10.1038/nmat2359,
http://www.nature.com/nmat/journal/vaop/ncurrent/abs/nmat2359.html
注1
73
二酸化炭素である。比較対象として、他の触媒では、主反応生成物はアセトアルデヒドと
酢酸であり、これはエタノールを発電に適さないものにしてしまう。
「炭素-炭素結合を分離し、室温で二酸化炭素を生成する能力は、触媒の全く新しい特
性であり、実用的なレベルでこれを達成できる触媒は他にはない」とアジックは語る。
電解触媒の構造・電子特性が、ブルックヘブン国立研究所シンクロトロン光源の強力な
X線吸収技術の利用、及びブルックヘブン機能ナノ材料センターの透過型電子顕微鏡解析
からのデータと組み合わせることにより、決定された。これらの実験研究と理論計算に基
づいて、白金、ロジウムおよび二酸化錫の全ての三成分間の相乗作用により、三成分触媒
の高活性化が起きている、と研究者は説明している。
「この発見は、電解触媒と燃料電池だけでなく、他の多くの触媒反応の研究に新しい可
能性を開くかもしれない」とアジックは述べる。今後、研究者は、このユニークな特性を
直接観察するために、実際の燃料電池で触媒をテストする予定である。
(出典:http://www.bnl.gov/bnlweb/pubaf/pr/PR_display.asp?prID=898 )
74
【燃料電池・水素特集】ハイブリッド車
熱管理がハイブリッド車の性能向上の鍵(米国)
東京からデトロイトまで各地で行われるモーターショーにおいて、今年の話題をさらっ
ているのは皆、プラグインハイブリッド、ガス-電気ハイブリッド、電気自動車などの、真
の新型車に関するものばかりである。
クライスラーは 2 種類の新コンセプトカーを、ホンダは 4 種類のコンセプトカーを持っ
ている。メルセデスベンツの場合は、燃料電池で駆動するものを含む 4 種類である。シェ
ビー(GM 製シボレーの愛称)のプラグイン電気自動車版であるボルト(Volt)の生産が 2010
年から開始されることになっており、GM は現在、市と共同で充電ステーションの準備を
進めている。
彼らは、次の 10 年の輸送のラインナップとして、実に様々な提案を行っている。
国立再生可能エネルギー研究所(NREL: National Renewable Energy Laboratory)では、
エンジニアたちが、何百万人もの消費者がハイブリッド車に乗り換えたいと思う水準にま
でハイブリッド車の性能を向上させるための様々な方法を研究している。
研究所にとって、それは車両の燃費を 100 マイル/ガロン注1以上に伸ばし、信頼性を高め、
費用を削減すること、しかも走行中の排気ガスを劇的に減らすことを意味している。
「本当の答えは、デトロイトが正しい車を作ることではなく、消費者が正しい車を買お
う と決心 する ことな ので す。」 NREL の 先進車 両プロ グラ ムのマ ネー ジャー 、Rob
Farrington 氏はこう述べる。
先進エレクトロニクス・ラボ注2では、研究を担当するエンジニアたちが電気駆動システ
ムの主要部品を試験している。
一階の窓のない彼らの研究ユニットは、郊外にある大型ガレージほどの大きさである。
しかし、ここでは原型を留めた車は見あたらない。
その代わり、研究者たちは作業台で主要な駆動用部品を試験している。その中には、エ
ンジンコントローラー、AC/DC コンバーター、インバータがあり、これらは発電ユニット
(燃料電池、あるいはバッテリー)とモーター間の電気信号を調整して、電気を様々な部
品に供給している。
注1
注2
約 43km/リットル
http://www.nrel.gov/vehiclesandfuels/powerelectronics/
75
合計以上
単独の改善では大きな変化をもたらすことはできない。しかし、組み合わせれば、自動
車メーカーが技術的障害を克服するのに役立つ結果がもたらされるかもしれない。こうし
た技術的障害のために、先進的な車両の商業化がなかなかうまくいかないのである注3。
「ハイブリッド車で、余分に必要になる費用の約 1/3 が、パワーエレクトロニクスに費
やされているのです。私たちは、信頼性があり、自動車の走行距離を伸ばせるように電気
を扱うことが必要です。これが、このラボの存在理由です。」と、先進エレクトロニクス・
ラボの作業リーダーである Ken Kelly 上級エンジニアは言う。
ある作業台では、エンジニアたちがトヨタのハイブリッドシステムの駆動部の性能を試
験している。同システムはすでに 90%の効率で動
く。しかし熱が問題なのである。というのも、ク
ーラント(冷却液)の温度が上昇すると、車両の
効率が徐々に落ちるからである。
もし車が低い温度のままで走れれば、走行距離
をさらに伸ばすことができると考えられる。また、
より値段の安い材料で車を生産できるかもしれな
い。
Kelly 氏のグループは、様々なレイヤー(グラ
ファイトやインジウムを含む)でできた熱交換器
の実験を続けている。
「ラジエーターの能力の 1/3 が、車両の電子回
路部を冷やすために使われています。消費者はよ
り小さくてよりパワフルな装備を求めます。つま
り、小さなスペースにより多くの熱が蓄積される
ということです。ですから、装置の熱をクーラン
トに移すのはますます大変になってきています。
」
Kelly 氏はこう語る。
注3
NREL の Ken Kelly 上級エンジニア
は、トヨタのハイブリッドシステムの駆
動部の試験をしている。同氏のグループ
は、効率を高め部品の寿命を延ばすため
にシステムの電子回路部から熱を逃がす
方法を研究している。
Credit: Pat Corkery
http://www.nrel.gov/vehiclesandfuels/powerelectronics/pdfs/42357.pdf
76
すべてはグリース(油脂)が鍵
別の熱関連の実験では、Sreekant Narumanchi 上
級エンジニアが、パワーエレクトロニクス部品同士の
接触面用の先進的な素材を研究している。
パワーエレクトロニクスに使われるシリコンチップ
は、一般的に、チップの熱を取り除くためのメタルベ
ースプレート(放熱板)の上に置く。クーラントはプ
レートの下を流れ、熱を取り去る。熱の移動は、部品
の間に薄く塗った「グリース」のごく薄い層により促
進される。
「接触面同士を組み合わせたとしても、その間には
わずかな隙間があり、それが熱の移動を妨げるのです。
グリースはこの隙間を埋めるために使います。グリー
ス は 空 気 よ り 熱 伝 導 性 が ず っ と 良 い の で す 。」
Narumanchi 氏はこのように説明する。
自動車メーカーは動物性脂肪が含まれた通常のグリ
ースは使わない。一般的には、アルミニウム粒子や他
NREL の Sreekant Narumanchi
上級エンジニアは、ハイブリッド車
のマイクロエレクトロニクスに使用
される熱移動ゲルに関する温度と圧
力試験の経過を見ている。
Credit: Pat Corkery
の無機物が入ったシリコンゲルを使用する。夏のラッ
シュアワー時のような厳しい条件下にあるエンジンの中で発生する熱と圧力にさらされる
と、ゲルの性能は次第に劣化してしまう。
より広範な試験では、Narumanchi 氏は様々な金属、グラファイト、およびカーボンナ
ノチューブといった先進的な素材をも含む新しいゲルを精密に検査している注4。
実験室規模の機器を使用して、何年間にも相当する高温状態と、何週間もの温度サイク
リング試験を模擬して実験している。
翻訳:吉野
出典:Controlling Heat Key to Hybrid Performance
http://www.nrel.gov/features/20090220_hybrid.html
(Pictures used with permission from NREL)
注4
http://www.nrel.gov/vehiclesandfuels/powerelectronics/pdfs/42342.pdf
77
晴美
【個別特集】中国
省エネルギー
2009 年全人代後の中国の省エネルギーの見通し
NEDO 北京事務所
曲暁光
はじめに
近年、対外輸出と固定資産投資は車の両輪のように中国の経済発展を促してきた。しか
し、米国発のサブプライム・ローン問題は今や世界規模の金融危機にまで発展しており、世
界経済に大きな打撃を与え、多くの国々がマイナス成長に陥っている。その中で中国の経
済成長はマイナスにはなっていないものの、主要な輸出先となる欧米各国において市場の
信用収縮等で消費が冷え込んでいるため、中国の対外輸出は急速に失速しつつある。中国
では、昨年夏までは経済の過熱防止、適度な金融引き締め策を中心とする経済政策をとっ
ていたが、今では赤字国債の増発等による 4 兆元(約 56 兆円)にも上る巨大な景気対策
へと 180 度の政策転換を余儀なくされた。
対外輸出の悪化により、中国の沿岸部にある輸出向けの工場で働いていた 2 千万人の農
村部からの出稼ぎ労働者は職を失っている。出稼ぎ労働者の多くは故郷と決別して長年沿
岸部の工場での仕事と都市生活に慣れており、農村での畑仕事に馴染みが無いため、路頭
に迷っている。
一方、大学卒業者は毎年 600 万人以上に上っているが、その内、30%以上は就職先が見
つからないという「卒業」=「失業」のような悲惨な状況に遭遇している。また、社会の
セーフティーネットが不十分であるため、失業者は必要な社会保障を十分に受けることが
出来ず、生活苦に苦しめられており、社会不安の大きな要素となっている。
このように 1978 年の「改革・解放」政策が提唱されて以来、20 年以上高度成長を遂げ
てきた中国は最も厳しい局面を迎えている。こうした状況の中で、2009 年 3 月 5~13 日
にかけて北京で年に一度の全国人民代表大会(以下全人代)は開催された。
1. 景気対策における省エネルギー等への投資の優先順位が相対的に低下
ここ数年来、中国政府が提唱する「和諧社会」構築における経済政策の具体例として経
済成長と環境保全の両立を図る持続的な発展は最も求められている。とりわけ、2006 年に
開催された全人代で、温家宝首相が 2011 年までに中国の GDP 当たりのエネルギー消費原
単位、主要汚染排出物の排出量をそれぞれ 20%、10% 改善・削減するという中国版「マニ
フェスト」を打ち出したことを契機に、1980 年に鄧小平氏が提唱した「発展こそ筋である」
という経済発展最優先の路線は修正され、環境保全、省エネルギーを犠牲にしない経済発
展のための新たな試みが始まった。
78
昨年 11 月に中国政府が 4 兆元( 約 56 兆円)の景気拡大策を発表した際、環境対策は低所
得者向け住宅の建設、農村対策、インフラ整備等と並んで主要なテーマの一つとして 3,500
億元(約 4.9 兆円)の財政資金を投入する予定であったが、今回の全人代期間中に行われて
た中国政府の記者会見では環境分野への公的資金投入の規模は大幅に縮小され、当初の
3,500 億元(約 4.9 兆円)から 2,100 億元( 約 2.94 兆円) へと 4 割削減された。
省エネルギー、環境保全の政策的な位置づけは決して後退していないものの、これ以上
の景気の急速な悪化を防ぎ、経済成長を維持するという当面の「急場をしのぐ」ため、中
国政府にとって多少副作用があっても効果てきめんの「劇薬」が必要とされている。
このような観点から今回の中国政府の景気対策は米国オバマ政権の「Green New Deal」
と大きく異なっており、再生可能エネルギー、省エネルギー、環境保全等は短期間に雇用
創出、消費拡大につながるような波及効果が出にくい分野と見られて同分野への公的資金
投入の規模を下方修正したと思われる。
一方、中国政府は対外輸出の低迷による外需の減少分を内需の拡大で補うための対策と
してセーフティーネットの拡充を通じて消費者の自信を回復して消費拡大を図ろうとする
とともに、政府レベルでは日本等の取り組みを参考に一般市民への中国版「定額給付金」
となる「消費券」の発行も俎上に載せられている。
2. エネルギー多消費産業の低迷は省エネルギーの目標達成に一助
先述したとおり、2006 年に開催された全人代では温家宝首相は 2011 年までに中国の
GDP 当たりのエネルギー消費原単位、主要汚染排出物の排出量をそれぞれ 20%、10% 改
善・削減するという政策目標を、拘束性のある目標として位置づけしていた。つまり、2006
年から 2011 年にかけて、中国は毎年平均して GDP 当りのエネルギー消費原単位を 4%ず
つ削減しなければ、その「マニフェスト」を守ることが出来なくなる。
上記の目標達成に向けて、2006 年以来中国政府は相次いで「省エネルギー目標達成にか
かる人事考察制度」注1、
「省エネルギーの十大工程」注2、
「千社企業の省エネルギー・アクシ
ョン」注3という三つの重要な施策を打ち出して様々なアプローチを試みてきている。しか
し、資源価格の高騰と国内、海外の好景気に支えられている国内の「重厚長大型」産業の
肥大化は省エネルギーにマイナスに作用していた。その結果、2006 年、2007 年に中国 GDP
当りのエネルギー消費原単位はそれぞれ 1.79%、3.99%しか下がっておらず、目標達成の
注1
注2
注3
省エネルギー目標の達成具合は政府機関等幹部職員の人事評価にリンクする制度。
石炭炊きボイラーの改造、コージェネレーション、排熱回収・利用発電等 10 の重要な省エネル
ギー技術の導入促進策。
エネルギー消費が最も多い 1,008 ヵ所の事業所を絞込み、省エネルギーを徹底させるという、日
本の省エネ法に定められている指定工場の中国版。
79
ための年間平均値を下回っている。
しかし、昨年秋以来の世界的な景気後退は中国のエネルギー多消費産業を直撃している。
特に、鉄鋼、建材、電力等エネルギー消費が最も多い産業部門は需要が低迷し、工場の稼
動率が大幅に下がっていると言われている。例えば、電力不足に悩んでいる中国では特に
沿岸部では深刻な電力不足で大停電の可能性さえあると言われていた。ところが現在、電
力需要の大幅な減少により、電力はかなり余っており、発電の設備能力の半分しか発揮で
きていないのが現状である。
中国政府関係者によると、2008 年の GDP 当りのエネルギー消費原単位は初めて年間平
均目標値を上回って 4.5%改善されたとのことである。GDP 当りの原単位改善の成果に関
して、様々な努力を積み重ねた結果であると思うが、景気後退に伴うエネルギー多消費産
業の低迷が、結果的に中国の省エネルギーへの一助になったと考えられる。
3. 産業構造調整の加速
通常、省エネルギーは技術の高度化と産業構造、ライフスタイル等構造変化によって実
現されている。日本では省エネルギー実現の要因として、技術の高度化と構造変化のウェ
ートがそれぞれ半分ぐらいを占めていると言われている。中国では 1950 年代から 1980
年代まで、物流網の未整備、全国的な流通体制の未確立等により、計画経済の手法を用い
て国、省、市レベルでそれぞれ基本的に「地産地消」を目標とする産業育成計画が立てら
れた結果、各地域ではさまざまな小規模な工場が分散していた。
これらの小規模なプラントは生産性もエネルギー利用効率も非常に低い。このような小
規模なプラントを廃止して大規模なプラントに切り替える場合、エネルギー利用効率は一
段と向上すると期待できる。すなわち、構造変化による省エネルギーのポテンシャルが高
いと言える。中国では小規模なプラントの廃止、産業の集約化を中心とする構造変化が果
たす役割は技術の高度化より大きく、省エネルギーへの貢献度の 70 パーセント以上を占
めていると言われている。
このような観点から、中国政府は数年前から老朽化した中小プラントの強制的な淘汰を
行うとともに産業の大規模化、集約化を進めるという中国独特の産業構造調整の政策を実
行し、これが功を奏して産業部門全体のエネルギー利用効率は大きく改善されつつある。
例えば、2008 年に中国で「上大圧小」(大規模な発電所の新設と老朽化した中小規模の発
電所の廃止)により強制的に廃止・解体された中小規模の発電所の総容量は東京電力が所有
する発電設備の約半分に相当する 3,400 万キロワットに達する。その代わりに、2008 年に
単基 100 万キロワット以上の大型の新規発電プラントは 11 基新設された。
このように他の国に見られないような大胆な「外科手術」を施すことにより、短期間に
80
生産性の向上とエネルギー利用効率の改善が期待できるため、昨年 11 月に中国政府が発
表した景気対策では技術・構造調整分野への公的資金投入の金額は 1,600 億元(約 2.24 兆
円)を見積もっていたが、今回の全人代ではその金額を大きく上乗せして、一気に 3,700 億
元( 約 5.18 兆円)以上と倍以上に引き上げられた。
一方、産業の大規模化、集約化は必ずしも省エネルギー化、効率化に繋がるとは限らな
いと主張する意見も出て、
「上大圧小」政策の見直しを求める動きも見られている。
81
【個別特集】
エネルギー
研究開発政策
安定で持続可能なエネルギー未来のための新しい科学(米国)
DOE 基礎エネルギー科学諮問委員会(BESAC)からの報告書
(その 3 省エネルギー未来技術)
NEDO 海外レポート 1039 号および 1040 号に引き続き、米国エネルギー省基礎エネル
ギー科学諮問委員会(BESAC:Basic Energy Sciences Advisory Committee)の報告書注1の
内容を紹介する。
内
容
はじめに
米国は 3 重のエネルギー問題に直面している
エネルギー問題の大きさ
(以上 1039 号掲載)
安定で持続可能なエネルギー未来を描く
1.エネルギー未来技術
先例がない性能を持った材料
化学変化をより選択的にする
地球に炭素を返す
安全でより効率的な原子力発電
(以上 1040 号掲載)
2.省エネルギー未来技術
そこにデジタル照明を
建物のためのソーラー経済
ハイブリッド電力グリッド
先進的な輸送
ソーラー燃料
電力による輸送
まとめ
これらの夢物語の実現
成功への道
提言
(今号掲載)
(次号へ)
2. 省エネルギー未来技術
そこにデジタル照明を
我々はどのようにより効率的に電力を使用することができるであろうか。現在、全電力
の 22%が家庭、事務所および街路の照明で消費されているのを、2%未満にまで削減する
注1
“New Science for a Secure and Sustainable Energy Future”, A Report from the Basic
Energy Sciences Advisory Committee,
http://www.sc.doe.gov/bes/reports/files/NSSSEF_rpt.pdf
82
のはどうであろうか。そして、その中で、あの裸の電球やコンパクトな蛍光灯以外の光に
ついて考えてみよう。その光は、はるかに洗練されており、我々が望むところへ向き、我々
が望む時に、色を付けたり、組み込みの特殊な効果を示すことができる光である。答えは、
我々のデジタル装置を飾っているあの小さな LED の後継である固体素子照明である。
あの裸の白熱電球は、ほとんどが熱を生成し、光源としてはわずか 5%の効率でしかな
い。もしナノスケール科学が欠陥の無い化合物半導体を生産することができれば、固体素
子照明は、原理的に 70%の効率に達することができる。そして、固体素子照明はデジタル
制御が使えるので、流れる文字の広告を綴る光の壁のように、望みうるなんでも表示する
ことができるであろう。そして、ほとんどの固体素子照明は、これまでのところ、白熱灯
や我々が使用しなければならないあの優雅さのない蛍光灯の両方よりも勝っている。固体
素子照明の推進にはこの新しい素子の科学を加速することを必要とする。
固体素子照明
デジタル時代に、通常の白熱光は非常に原始的で非能率的である。しかしながら、
21 世紀の照明の将来は、多くのデジタル装置の小さな固体素子の明かりや表示器の中
などから、既に明らかである。
その潜在性は、照明の寿命が非常に長く、家屋よりも長持ちして、70%もの効率的
である。そして、出力する光の色、品質、強度および指向性に対するより多くの制御
性を提供し、白熱灯および蛍光灯の両方に対して、あらゆる点で改善をもたらす。
固体素子照明への切り替えは、米国の電力使用と温室効果ガス排出を、100 ヵ所の
大型発電所相当分だけ、削減することができる。
固体素子照明をより良くするために、我々は、なぜ緑色を出力する材料が、それほ
ど非能率的かを理解する必要がある。緑色エミッターは、既存の青色と赤色を放射す
る材料と組み合わせた時に、白色光の好ましい形式を含んだ完全なスペクトルを我々
にもたらすからである。
固体素子照明で高効率を達成するために、我々は固体素子材料内の光の発生と素子
から光を取り出す方法の両方を理解する必要がある。それは、原子レベルでの材料コ
ントロール、電子および他の電荷担体が材料中をどのように移動するかについてのよ
りよい知識、さらに電荷担体が光を出力するためにどのように再結合するかについて
の新しい理解を意味する。
同様に、我々は、材料中へ、例えば「フォトニック結晶」として知られている、周
期的なナノ構造の繰り返し原子格子パターンを導入するような手段によって効率を
さらに向上させる必要がある。
基本的に、我々は、光がどのように固体素子装置と相互作用するかをよりよく理解
し、向上した材料を見つけまたは作成し、そして、それらを生産し処理する新しい方
法を開発する必要がある。
83
建物ためのソーラー経済
照明はよいスタートであるが、なぜそこで止まるのか? 国内のほぼすべての新しい商業
用および住宅用建物、また多くの懐古趣味が作りつけの既設建築物の屋根や窓に太陽電池
を組入れて、電力を直接使用したり、電力グリッドに戻すことについて考えてみよう。今
日の太陽電池ではなく、明日の太陽電池は、はるかに多くの太陽光エネルギーを捕えるこ
とができ、また現在よりはるかに効率的で、それほど高価でない先進材料で作られるであ
ろう。
そのような太陽電池は、研究所で既に 41%の効率を達成しており、革新的で複雑な機能
材料により先例がない性能を達成することができることを示している。しかしながら、こ
れらの研究所の電池は、まだ本格的登場の準備はできていない。市場に参加するためには、
これらの電池の材料と製作コストを劇的に削減するための研究が必要である。
安価な有機物基盤である他の種類の太陽電池も、また、低価格の太陽電力の見込みを提
供する。しかし、太陽電池が生成した電子のすべてを役に立つ電力に実質的に変換するた
めには、材料をほとんど欠陥のないものにできなければならない。
太陽エネルギーは、既に幸運が続いており、さらに進展しそうである。しかし、石炭火
力発電所と競合でき、置換することが可能なポイントへ達するには、基本的な新しい知識
を必要とする。太陽エネルギー、風力エネルギー、そして恐らく他の再生可能資源のクリ
ーン電力が、少なくとも我々の電力の 3 分の 1 を生成し、最終的により多くを発電するこ
とを期待しよう。
ハイブリッド電力グリッド
夜間になったら、あるいは風が止まったら、どうなるであろう。そうです、電力グリッ
ドがその変化に対処することでしょう。我々の 21 世紀の電力グリッドは、容量を増加し、
送電損失を低下させ、そして性能を安定化させるために、超伝導線を連結し、より高度に
相互接続されたハイブリッド構成になるであろう。電力の僅かな供給停止さえ、デジタル
装置に依存する社会においては、その損失は膨大である。
そしてさらに重要なことには、21 世紀の電力グリッドは、またグリッド接続された膨大
な量の高速応答の電気エネルギー貯蔵装置を組込むであろう。これは、一つのタンクから
別のタンクへ充放電スタックを介して、充電された電解質を流すことにより作動する新し
い形式のバッテリーであろう。それは数 10 年間動作することができて、初期の試作バッ
テリーは既に商業運転している。しかし、それらはさらに改良して低価格で使用するため
に、新しい材料を必要とする。
バッテリーよりもさらに高速に動作できる電気エネルギー貯蔵装置は、斬新な人工ナノ
84
材料に直接電荷を蓄積する超キャパシタによって達成できるであろう。廉価な電気エネル
ギー貯蔵装置は、再生可能エネルギー資源を、我々のエネルギー経済において小さな役回
りから主流の役割にまで変換し、その過程で、発電所からの温室効果ガス排出を、今日の
レベルよりはるかに少なく押し下げるであろう。
電気エネルギー貯蔵
近いうちに、ハイブリッド自動車はより効率的になり、そのバッテリー生産は急上
昇し、またプラグイン・ハイブリッド電気自動車の展開へ向けて、充電中の待ち時間
を回避するためのサービスステーションでのバッテリー交換とか、また斬新な急速充
電アプローチのような、多くのアプローチが研究されていることは明らかである。
これらの進歩は、リチウムイオン電池に関する科学技術の最近の発見によって可能
になった。しかしながら、バッテリー科学の転換的進歩は重要な障壁に直面したまま
である。今日の最高の技術でさえ、全電気自動車に、再充電までに 200 マイル以上の
運転距離の電力を供給することができるバッテリーは、単に大きすぎ、重すぎ、高価
すぎるのが現状である。重要な研究の取り組みは、充電率を含む劇的な性能の向上と
コストを低下させる、新しい電気化学エネルギー貯蔵材料を発見することである。
向上した電気エネルギー貯蔵が、全米電力グリッドに、現在のストレスを緩和し、
また間欠性という属性を持つ再生可能エネルギー資源の成長に対処するために、必要
とされる。揚水ダムや圧搾空気貯蔵のような、力学的エネルギー貯蔵技術は、現在の
技術で実現可能である。しかし、これらはどこでも使用できるとは限らない。バッテ
リーを使用する電気化学エネルギー貯蔵は、体積あたりの高い蓄積エネルギーと展開
の容易さを提示するが、現在は非常に高価である。それでも、バッテリーは短時間に
多くの電力を提供することができるので、電力グリッドの周波数揺動の制御を支援す
るために既に大型バッテリーが展開されている。
それとは正反対で、太陽が沈んだ時の夜間や、あるいは風が吹かない時の数日間の
ような、長い時間にわたり大量のエネルギーを提供するために、他の貯蔵アプローチ
が必要である。科学者は、レドックスフロー電池を劇的に向上させる方法を研究して
いる。それは、燃料電池とバッテリーのハイブリッドと見なすことができる。別のア
プローチには、グリッドからの電力を使用して、水を分解して生じた水素を貯蔵する
方法がある。
しかし、我々が、より大量の電力とデジタル経済のためのより信頼性ある電力の両
方を全米電力グリッドに依存する時に、グリッドの特性が変化しなければならないこ
とは明らかで、それ自体が様々な世代と貯蔵技術のハイブリッドになるであろう。そ
して、それは高度なエネルギー貯蔵や新しい素材と新しいアプローチ両方のブレーク
スルーを研究することが、不可欠であることを意味する。
問題をかかえる電力グリッド
電力グリッドは、都市や郊外における供給過剰の容量問題に、そして電力品質およ
び信頼性のための基準向上の問題に直面している。さらに、太陽エネルギーや風力エ
ネルギーの最も高い潜在的な資源は、最も需要の大きい場所の近くには存在していな
い。我々は、電力のより効率的な長距離送電を必要としている。
85
超伝導と 21 世紀の電力グリッド
電気が数分間でさえ停止したら、その結果、あなたはコンピューター上の仕事を失
うことになる。さて、その時間に何 100 万もの人々と商業や産業活動の数 10 億ドル
も仕事を掛け合わせてみよう。デジタル時代では、そのような瞬間停電でさえも、数
年前に米国北東部の大部分で起きた不名誉なブラックアウトよりさらに損害が大き
くなるであろう。
小規模な停電は、2006 年だけでも米国経済に 800 億ドルの打撃を与えている。ス
イッチを入れた時に電気を提供するだけでなく、我々の数多くのデジタル装置を壊し
たりまたは損害を与えないように、変動しない電力を十分に提供するために、我々は
電力グリッドにますます依存している。
しかし、現在、米国の電力グリッドの信頼性は、例えばフランスや日本のグリッド
よりも 5~10 倍も信頼性が低い。これは、超伝導が主要な役割を果たすことができる
場所である。何人かのエンジニアは、主要都市の回りに超伝導「環状道路」を思い描
いている。それは、電力を大量に必要とする都市へ 5 倍以上もの電力をもたらす既存
の地下埋設管内への新しい大容量超伝導ケーブルであり、また、性能を安定させ送電
損失を低下させるために、グリッド中の多くの場所に置かれる新しい超伝導リンクで
ある。
しかしながら、我々は、まだ、なぜ多くの複合材料が高温で超伝導を示すのかを理
解してしない。したがって、我々は、さらに良い性能の次世代超電導体を設計するこ
とができない。そこには、超電導線が運ぶことができる電流量を 10 倍も増加できる
可能性がある。
そのためには、先端的な研究には多額の研究資金を払い、我々を小規模試験から 21
世紀の電力グリッドを支えるほど十分に強健で廉価な超電導体へと移動させること
が必要であろう。新しい理論的な概念の開発、および、最近発見された鉄基盤超電導
体ファミリーのような新しいクラスの材料の研究の両方が必要である。そして、この
分野における進歩は加速している。
ナノスケールでの超伝導材料特性の制御が、現在、米国内の研究所で出現中の種々
様々の研究や製作技術の開発により、操作温度と電流容量の両方を増加する鍵になる
だろうという、幅広い期待がある。
先進的な輸送
我々の建物や電力部門を環境に優しくすることは、よいスタートである。しかし、我々
は輸送のために、すべての輸入石油に相当する、さらに多くのエネルギーを使用している。
そして、石油産出国への富の莫大な移動、石油への依存度の国家安全保障リスク、あるい
は我々の低効率な内燃機関からの温室効果ガス排出など、その状況のどの面がより悪いか
を知るのは困難である。
石油燃料をすべて撤退させるための有望なシナリオは何であろうか。まず第一はハイブ
リッド車だが、これはまだその幼年期にあり、さらに効率的にすることができるであろう。
86
一旦我々が本当に燃焼プロセスを理解できれば、ハイブリッド車または大型トラックのた
めの内燃機関さえも、恐らく 50%以上のエネルギー効率になりえるであろう。
その結果、先進的なバイオ燃料は、重要であるが、恐らく過渡的な役割を果たすであろ
う。これらは、今日のバイオディーゼル燃料ではなく、穀物基盤のエタノール、あるいは、
ブラジルのより効率的なサトウキビに基いたエタノールでさえもない。第 2 世代のバイオ
燃料は、植物のすべての部分や藻類を使用するであろうし、食糧供給に競合しない特別な
高効率穀物から作られるであろう。しかし、バイオ燃料は恐らく全ての石油に置き換わる
ことができるとは限らず、その役割が非常に重要であるのは、究極の解決策への架け橋と
しての立場であろう。
ソーラー燃料
究極的な輸送の解決策は、太陽光を使用して水を分解して水素を生産すること、あるい
は、他のクリーンな太陽による燃料を生産するために、大気中の二酸化炭素を取り出し、
水と組合せて作られたソーラー燃料であろう。その後、その燃料は、燃焼した時または燃
料電池で電力に変換された時に、簡単に水と二酸化炭素に戻る。
植物や藻類は、既に光合成の中でこれを行っており、太陽による燃料の概念に原理証明
を提供している。したがって、我々は、光合成を化学的に模倣することを学び、エタノー
ルあるいは他の液体燃料を産出するためのプロセスを変更できるかもしれない。
あるいは、我々は、水中で光を捕えて、生成した電子およびホールを使用して化学反応
を行い、水を分解して水素を生産する、新しい太陽電池のような材料を開発出来るかもし
れない。恐らく、より徹底すれば、メタンを生産する合成物に、水分解化合物によって生
産された水素イオンを送ることにより、自然の成功を模倣できるかもしれない。
それらを生産する生物模倣燃料、および革新的な道への機会は、実質的には無限である。
そのようなバイオ化学システムは、我々の燃料を生産するために、太陽光、水および大気
中の二酸化炭素を組合せる。これは、真の水素経済やソーラー経済であり、化石燃料から
人類を永久に解放するであろう。
ソーラー燃料
太陽光、水、バイオマスおよび二酸化炭素から、燃料を作ることは、化石燃料の環
境への因果関係から世界を解放する重要な方法である。
植物派生のエタノール、バイオディーゼル油および他の生物燃料の使用を拡大する
取り組みが、既に進行中である。このアプローチは、適度な量において実現可能であ
る。しかし、トウモロコシに基いた大量の生物燃料の生産は、食糧生産と競合するの
で、恐らく持続可能ではない。
87
したがって、ちょうど植物が光合成の過程で行うように、我々は、太陽光を使って
水を分解し、あるいは二酸化炭素を水と光で還元して、水素あるいは他のソーラー燃
料を作ることを学ばなければならない。
1 つのアプローチは、非生物材料の光合成を模倣することである。それは、植物の
化学反応についてのより深い理解を必要とする。植物の生化学を工業規模で再現する
ことができれば、恐らく強力な新しい触媒の助けにより、我々は、石油ではなく、そ
の原料が水と二酸化炭素の太陽エネルギー精油所を建造することができるかもしれ
ない。
別のアプローチは、太陽電池モデルに基いており、水中に置かれた半導体材料の光
子捕獲と、水を分解するために生じた電子の電荷を使用して、その結果、太陽電池は
電気の代りに水素を生産する。ここでの問題は、太陽光で水を分解させる、よりコス
ト効率が良く、効率的で、安定である、斬新な人工ナノ材料を設計し見つけ出すこと
である。
第三のそしてより野心的なアプローチは、人工の化学反応器中で水素あるいは恐ら
く別のクリーン燃料を生産するために、水、太陽光および二酸化炭素などを結合でき
る生化学システムを人工的に結びつけることである。ここでの鍵は、合成反応セル用
の「ソフトウェア」を識別することで、これによって希望の製品を生産するプロセス
を導くことができる。
これらの 3 つのアプローチのすべては、現在の科学的知識の視界を僅かに越えて存
在している。しかし、これらを克服するための技術的問題および有望な研究方向は、
明確ではっきりしている。
電力による輸送
ソーラー燃料は、輸送のための唯一の妥当性あるシナリオではない。他には、恐らく市
街地使用のための純粋な電気自動車である「プラグイン」電気自動車、そして、より長期
移動用の「プラグイン・ハイブリッド」電気自動車がある。その方向で、非常に効率的な
化石燃料発電あるいは先進的原子力発電、風力や太陽光のような再生可能エネルギー資源、
そして、将来のハイブリッド電力グリッドも、また輸送のための主要な解決策になる。
ここでの解決の鍵は、ラップトップ PC に電力を供給する今日のリチウム電池と比較し
て、与えられた重量に対して少なくとも 5 倍のエネルギー容量を持った、より強力でより
軽量小型なバッテリーである。
理論的な可能性は、さらに高く、新しい材料により 10 倍の改善にもなりえて、長期の
移動のためでさえも、ガソリンをバッテリーに置き替えるであろう。問題は、新しいバッ
テリー電極材にあり、その容量と寿命を向上させるための、組合せ構造、組成および表面
形態がまだ研究されていない。あるいは、先端的な軽量燃料電池と結合した、液体水素よ
り大きな密度で水素を格納することができる新しい材料が、実際において斬新な高エネル
ギー・バッテリーである。
88
このシナリオの下での展開は、同様にいくつかの興味ある工夫があるであろう。それは、
ちょうど、現在人々が料理のためのプロパンボンベを交換しているように、地域のサービ
スステーションでバッテリーを交換することを意味するかもしれない。そして同じ理由か
らバッテリーを満タンにするための待ち時間を回避する意味もある。もう一つの方法とし
ては、
「高速充電」を可能にする新しい電気化学材料が現在研究されている。
夜間に我々がバッテリーを充電するか、サービスステーションで交換するか、あるいは
必要に応じて高速充電するかは、輸送と電力グリッドを相互に連結させる電力のシナリオ
である。
( 出典:http://www.sc.doe.gov/bes/reports/abstracts.html#NSSSEF )
89
【エネルギー】集光型太陽熱発電(CSP)
太陽光(PV)システム
大規模太陽発電施設の建設が急増(米国)
米国の南西部、あるいはその近郊の電力事業者は、大規模な集光型太陽熱発電
(concentrating solar power: CSP)プラントを建設するか、そうした施設から電力を購入す
る計画を立てている。その一方で、国中の電力事業者が太陽光(photovoltaic: PV)発電プラ
ントに投資しているため、電力事業者が全国的に太陽発電を導入する機運が高まっている。
CSP プラントに関しては、Southern California Edison(SCE)社が最近 BrightSource
Energy 社と、1,300MW(メガワット)の太陽電力供給契約を締結した。これは、史上最
大の太陽発電契約になる。この合意は、2013 年初頭にカリフォルニア州アイバンパ近郊で
操業を始めるとみられる 100 MW の CSP プラント・プロジェクトを始め、全部で 7 つの
プロジェクトから成っている。BrightSource Energy 社は、
「発電塔」技術を保有してい
る。これは、
ヘリオスタットと呼ばれる一面に敷き詰められた何千もの平板の鏡を使って、
太陽光をタワーの頂上にあるボイラーに集め、ボイラーの中で発生した蒸気でタービンを
回すことにより発電する技術である。商業規模の発電塔は、近年スペインで建設されたが
、米国で建設されたのは実証規模プラントのみであった。さらに、NRG Energy 社は 2
注1
月下旬に eSolar 社と協定に署名し、太陽発電塔を使用して 3 つの太陽熱プロジェクト(合
計 500MW)を開発することに
なったのである。詳細について
は 、 SCE 社 の 親 会 社 で あ る
Edison International 社のプレ
スリリース 注 2 、および NRG
Energy 社のプレスリリース注 3
を参照のこと。
PV 発電プラントに関しては、
カリフォルニアの Pacific Gas
and Electric Company
カリフォルニア州で建設された発電塔
(出典:注 1 の文献の図 1-3)
(PG&E)社が主導的地位を確保
注1
注2
注3
Abengoa グループは 2006 年、セビリア郊外に出力 20MW の「PS20」を建設し、さらに 50MW
級の開発を行っている。(参照:平成19年度 研究開発技術シーズ育成調査委託事業「光電セ
ンサー制御式太陽熱集光装置に関する国内外の市場の調査」NEDO 成果報告書、pp.9-10
(http://www.tech.nedo.go.jp/PDF/100011881.pdf))
Agreement for 1,300 Megawatts of Clean and Reliable Solar Thermal Power、11 February
2009 (http://edison.com/pressroom/pr.asp?bu=&year=0&id=7174)
NRG Energy, Inc. to Develop Up To 500 Megawatts of Solar Thermal Power Plants Using
eSolar Technology, 23 February 2009
(http://media.corporate-ir.net/media_files/irol/12/121544/0223eSolarFinal.pdf)
90
しつつあるようである。なぜなら、同社は 2 月下旬に、最大 250MW の太陽光発電設備を
開発・所有すること、その一方で、独立の開発業者が所有する 250MW の太陽光発電設備
から電力を購入することを発表したからである。カリフォルニア州公益事業委員会
(California Public Utilities Commission: CPUC)は、以前から計画されていた 2 つの大
型契約を承認した。この契約は PG&E 社が太陽電力開発業者と署名したもので、サンルイ
スオビスポ郡のカリゾ平原にある Topaz Solar Farms 社との 550MW の薄膜 PV の契約、
および High Plains Solar Farms 社との 210MW のシリコン太陽パネルの契約が含まれて
いた。前者のプロジェクトは OptiSolar 社が、後者のプロジェクトは SunPower 社が所有
している。しかし、First Solar 社が、PG&E 社とのプロジェクトを含むすべての OptiSolar
社のプロジェクトを買収した。2008 年第 4 四半期に、First Solar 社は、薄膜太陽モジュ
ールの製造コストを 1 ワットあたり 98 セントにまで削減することに成功し、1 ワットあた
り 1 ドルという価格の壁を破ったのである。同社の年間生産能力は、今年の年末までに年
間 1,000MW 以上になるとみられている。
詳細については PG&E 社のプレスリリース注 4、
CPUC の Topaz Solar Farms 注 5 社と High Plains Solar Farms 社注 6 に関するプレスリリ
ース、および First Solar 社の OptiSolar 社注 7 とコスト削減注 8 に関するプレスリリースを
参照のこと。
カリフォルニア州は太陽発電の開発で確実にリードしているが、他の州の電力事業者も
メガワット規模の PV プロジェクトを推進している。ニュージャージー州では、Public
Service Electric and Gas (PSE&G)社注 9 が 7 億 7,300 万ドル支出する計画である。
これは、
同社のサービスエリア内に点在する多数のプロジェクトを実施することにより、120MW
の太陽 PV 電力の開発を支援するためである。ニューヨーク州では David Paterson 州知
事が、Long Island Power Authority が 50MW の新規太陽電力の[開発]支援を計画してい
ると発表した。これには、enXco 社の開発による(合計)13.1MW の小型プロジェクトと
BP Solar 社が設置するエネルギー省(Department of Energy: DOE)ブルックへブン国立
注4
注5
注6
注7
注8
注9
PG&E Launches 500 Megawatt Solar Power Initiative, 24 Febtuary 2009
(http://www.pge.com/about/news/mediarelations/newsreleases/q1_2009/090224.shtml)
CPUC TAKES ANOTHER STEP TOWARD STATE'S RENEWABLE ENERGY GOAL
WITH APPROVAL OF PG&E RENEWABLE CONTRACT, 29 January 2009
(http://docs.cpuc.ca.gov/PUBLISHED/NEWS_RELEASE/96710.htm)
CPUC TAKES ANOTHER STEP TOWARD STATE'S RENEWABLE ENERGY GOAL
WITH APPROVAL OF RENEWABLE CONTRACTS, 20 February 2009
(http://docs.cpuc.ca.gov/PUBLISHED/NEWS_RELEASE/97586.htm)
FIRST SOLAR AGREES TO ACQUIRE MULTI GIGAWATT UTILITY SCALE
PHOTOVOLTAIC PIPELINE, 2 MARCH 2009
(HTTP://INVESTOR.FIRSTSOLAR.COM/PHOENIX.ZHTML?C=201491&P=IROL-NEWS
ARTICLE&ID=1261676)
FIRST SOLAR PASSES $1 PER WATT INDUSTRY MILESTONE, 24 FEBRUARY 2009
(HTTP://INVESTOR.FIRSTSOLAR.COM/PHOENIX.ZHTML?C=201491&P=IROL-NEWS
ARTICLE&ID=1259614)
米国北東部を基盤とする電力ガス会社で、ニュージャージー州では州の 75%に電力を供給して
いる。
91
研究所の 2 つの大規模プロジェクト(合計 39.6MW)が含まれている。フロリダ州に目を
向けると、Florida Power & Light (FP&L)社が、今年の年末までに完成する予定の、25
MW の PV 設備であるデソト次世代太陽エネルギーセンター注 10 [の建設]に着手したばか
りである。詳細については、PSE&G 社注 11、Paterson 州知事注 12、および FP&L 社注 13 の
プレスリリースを参照されたい。
翻訳:吉野晴美
出典:U.S. Utilities Pursue Large-Scale Solar Power Facilities
(http://www1.eere.energy.gov/solar/news_detail.html?news_id=12276)
注 10
注 11
注 12
注 13
DeSoto Next Generation Solar Energy Center
PSE&G Proposes $773 Million Solar Energy Program、10February 2009
(http://www.pseg.com/media_center/pressreleases/articles/2009/2009-02-10.jsp)
GOVERNOR PATERSON ANNOUNCES PLANS FOR THE LARGEST SOLAR
ENERGY PROJECT IN STATE HISTORY, 27 February 2009
(http://www.ny.gov/governor/press/press_0227092.html)
FPL to power Sunshine State with clean energy from nation's largest solar photovoltaic
site in DeSoto County, 26 February 2009 (http://www.fpl.com/news/2009/22609.shtml)
92
【エネルギー】クリーンエネルギー
温室効果ガス排出権取引
クリーンエネルギー向け予算を排出権取引で捻出(米国)
バラク・オバマ大統領は、2 月 26 日に 2010 会計年度注1の予算案の大まかな骨子を発表
した。予算案では、クリーンエネルギーの開発を、10 年に渡り毎年 150 億ドル投入して
支援することになっており、その財源を温室効果ガス(greenhouse gas: GHG)排出権の販
売に求めている。資金は経済全般にわたる GHG 排出プログラムの通過にかかっている。
オバマ政権はこのプログラムの下で、米国の GHG 排出を、2020 年までに 2005 年対比で
14%、2050 年までに 2005 年対比で 83%削減することを目指している。提案されている
キャップ・アンド・トレードプログラム注2では、すべての GHG 排出権はオークション注3に
かけられることになっており、2012 会計年度に 787 億ドル、その後着実に増えて、2019
会計年度には 830 億ドルの追加収入をもたらすと推定されている(予算案にはこれ以上の
記載はないが、おそらくはこれを超える可能性がある)
。大統領の予算案では、これらの資
金[GHG 排出権のオークションから得られた資金]のうち、年間 150 億ドルをクリーンエネ
ルギー技術に回し、残りを減税[の財源]に回すとしている。オバマ大統領によれば、クリ
ーンエネルギー用の資金は、
「風力発電や太陽発電のような技術の開発や、より効率のよい
車両やトラックのアメリカでの開発」に使われる予定である。詳細については、大統領の
予算に関する発表注4、および大統領の予算案注5の 21 ページ、100~101 ページ、115~116
ページ、123 ページを参照のこと。
予算案によれば、エネルギー省(Department of Energy: DOE)の 2010 会計年度の予算は
263 億ドルで、2008 会計年度用に議会承認された額より 10%増加している(議会は現在、
2009 会計年度予算の承認作業を行っている注6)
。この資金は、2009 年アメリカ再生・再投
資法注7で供与される資金(エネルギープログラム向けに 390 億ドル)とは別に提供される。
大統領の予算案は DOE 向け資金の内訳を示していないが、予算案は、革新的エネルギー技
注1
注2
注3
注4
注5
注6
注7
2009 年 10 月~2010 年 9 月
国としての排出量の上限(キャップ)が予め決められている方式。欧州連合(EU)の制度が代表
的。現行の EU の制度では企業や工場単位でも排出量の上限が割り当てられているが、EU では
これを近い将来オークション方式にしようとしている。
個別の企業や工場は年度の初めに政府から排出権を入札で購入する。国がオークションに出す総
枠には上限があるので、例えば安値で入札したために必要な量の排出権を入手出来なかった企業
はその不足分を市場で調達することになる。オークションの収入は政府の歳入となるので環境税
の変形とも言えるが、環境税が予め税率が定められているのに対し、オークションでは市場メカ
ニズムで政府の収入が決まることになる。
Remarks by the President on the Fiscal Year 2010 Budget、26 February 2009
(http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Remarks-by-the-President-on-the-Fiscal-Year2010-Budget/)
A New Era of Responsibility: Renewing America’s Promise
(http://www.whitehouse.gov/omb/assets/fy2010_new_era/A_New_Era_of_Responsibility2.pdf)
上下両院を通過し、3 月 11 日にオバマ大統領が署名して正式に成立した。
American Recovery and Reinvestment Act of 2009
93
術に対する借入保証だけでなく、クリーンエネルギー技術(バイオ燃料、再生可能エネルギ
ー、エネルギー効率を含む)の研究、開発、実証、導入、商業化促進という点で際だってい
る。予算案はまた、5,000 万ドルを米国内務省に割り当て、公有地での再生可能エネルギー
開発を支援するのに必要な資源評価、環境評価、および技術研究を実施する予定である。詳
細は、大統領の予算案の 63~64 ページ、および 79 ページを参照されたい。
「オバマ大統領の予算は、アメリカが直面している課題を率直に、正直に受け止めつつ
も、赤字縮小をもたらすために困難な選択をした結果なのです。同時に、クリーンで再生
可能なエネルギー源を支援して、私たちの経済の未来に投資するものです。これにより、
アメリカ国民を仕事に復帰させ、その一方で、外国の石油に対する危険な依存に終止符を
打つのです。この予算で画期的な研究に投資し、家庭や企業をよりエネルギー効率的にし、
太陽、風力、バイオマスなどのクリーンエネルギーを導入することにより、世界規模の経
済、エネルギー、および気候変化という問題への取り組みで、アメリカを再び確実に主導
的立場に戻すことができるのです。
」と DOE の Steven Chu 長官は語った。詳細は、DOE
のプレスリリース注8を参照のこと。
翻訳:吉野
晴美
出典:President's Budget Draws Clean Energy Funds from Climate Measure
(http://apps1.eere.energy.gov/news/news_detail.cfm/news_id=12273)
注8
Statement of Energy Secretary Steven Chu on President Obama's Budget Blueprint、26
February 2009 (http://www.energy.gov/news2009/6952.htm)
94
【産業技術】 ナノテク
コンクリート
粘性強化ナノ材料でコンクリートの耐用年数を 2 倍に(米国)
米国立標準技術研究所(NIST)のエンジニアは、コンクリートの耐用年数を 2 倍にすると
予想される方法の特許を申請している。新しい論文注1によれば、その秘密は、コンクリー
ト中への道路用塩、海水および土壌からの塩化物イオンや硫酸イオンの浸透を遅くするナ
ノ寸法の添加剤にある。イオン輸送の低下は、保守費用およびコンクリート構造の突発事
故の両方の削減をもたらす。
この新技術は数十億ドルの費用と多くの命を救うことができるであろう。コンクリート
はローマ時代以来そこら中にある。そして、いまや大改革の時期である。米国の基盤施設
は、コンクリートを何百万マイルの道路や 60 万の橋に使用しており、その多くは疲弊し
ている。
連邦道路管理局(FHA)によれば、2007 年には、米国の橋の 25 パーセントが、構造上欠
陥があるもの、あるいは機能的に老化したものとして評価されている。損傷を受けた基盤
施設は、さらに多くの米国の予算に直接影響を与える。米国土木学会(ASCE)は、劣悪な道
路事情によって引き起された損害を修復するために、米国は毎年 540 億ドルを費やしてい
ると推測している。
塩化物イオンと硫酸イオンの浸透は、長期にわたると、割れ目を導きコンクリートを弱
めで内部構造損傷を引き起す。コンクリートの寿命を向上させる過去の試みは、密度が高
くポーラスの少ないコンクリートの生産に注目していた。しかし、不運にも、これらの処
方は、より割れやすい傾向を持っていた。
NIST のエンジニアは、異なるアプローチを取り、コンクリート技術での拡散低下粘性
強化剤(VERDICT:viscosity enhancers reducing diffusion in concrete technology)と呼
ばれるプロジェクトで寿命を 2 倍にすることに着手した。コンクリート中のポーラスの寸
法および密度を変更するのではなく、塩化物や硫酸塩がコンクリートに入る速度を減少さ
せるために、コンクリート中の溶剤の粘性をマイクロスケールで変更するほうがよいと、
彼らは推論した。
「ハチミツのプールを泳ぐのは、水のプールよりも長くかかる」とエンジニアのデー
ル・ベンツは述べる。彼らは、食物を濃厚にするために食品加工業が使用する添加剤にヒ
注1
D.P. Bentz, M.A. Peltz, K.A. Snyder and J.M. Davis. VERDICT: Viscosity Enhancers
Reducing Diffusion in Concrete Technology. Concrete International. 31 (1), 31-36, January
2009.
95
ントを得て、サラダドレッシングやソースを濃くしたり、アイスクリームにその質感を与
えるキサンタム・ガムと呼ばれるよく知られている添加剤も試みた。
様々な添加剤を研究して、エンジニアは、添加剤の分子の寸法が拡散障壁として役立つ
ことが重要であると結論づけた。セルロースエーテルやキサンタム・ガムのような大きな
分子は粘性を増加させるが、拡散速度を引き下げなかった。
「添加剤が、分子は大きいが低密度である場合、塩化物イオンがそれらの周りを回るの
が容易である。しかし、もし小さな分子でより高い密度の場合、溶液粘度を増加させ、イ
オンの拡散を妨害するのにより有効である」とベンツは説明する。
NIST の研究者は、現在の混和剤でコンクリートへその添加剤を直接混ぜ合せることが
できることを、また、添加剤が飽和吸収剤(軽量の砂)によりコンクリートへ混合される場
合には、さらに良い性能が達成されることを実証した。コンクリートの耐用年数を 2 倍に
高めるのに必要な添加剤の密度やコストの削減により、エンジニアがこの発見を向上させ
ようと追求して、研究は他の材料でも継続している。
( 出典:http://www.nist.gov/public_affairs/techbeat/tb2009_0127.htm#concrete )
NIST のナノ添加剤を付加したコンクリートの、X
線画像:上部にかろうじて見える青緑色の領域は、
塩化物イオン(緑色)がコンクリートへほとんど浸透
いないことを示している。
(Credit: NIST)
96