ワカメの酸性多糖類

マニュアル参考様式 Ver.1
食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル
平 成 22年 3月 作 成
四国地域イノベーション創出協議会
地 域 食 品 ・健 康 分 科 会 編
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ワカメの酸性多糖類(組織化学的検出)
作成者:徳島県立工業技術センター主任研究員 吉本 亮子
1 .ワ カ メ に つ い て
1.1 概要
ワカメは、日本近海に広く分布し、また、古くは延喜
式にもそ の名前が 登場する 、日本人 にとって 最も馴染み
深い海藻のひとつである。
養殖技術 の発達と 、大量生 産を可能 にした湯 通し塩蔵
加工技術 の開発に より、現 在ではそ のほとん どが湯通し
塩蔵加工されて、さらにこれを原料とした乾燥製品の生
産量が増 加してい る。この ような現 代的な製 品とは別 に、
日本の各地には特色ある伝統的な製品が今も一定の生
産量を維持している。
徳島県は、古くからのワカメの生産地であり、年間約
6000 ト ン( 全 国 3 位 )の 生 産 量 で あ る 。江 戸 時 代 末 期 に
今の鳴門地域で考案された「灰干しワカメ」はその名の
通り、ワ カメに草 木灰をま ぶし天日 乾燥させ た製品であ
るが、現 在では灰 を活性炭 に変えて その製法 が受け継が
れている。素干しに近く、磯の香りと食感が楽しめる、
味わい深い伝統食品である。
一方、新たな取り組みも始まっている。生長初期の新
図1-1 ワカメ
芽ワカメの生鮮流通である。この商品は家庭で湯通しし
て食べる。普段は食べることが少ない茎もまだ柔らかいためまるごと食することがで
きる。開発段階で、茎部のうまみ成分は湯通ししても多くが残存することが明らかと
な り 1)、 ワ カ メ 本 来 の 旬 の 味 を 楽 し む こ と が で き る と し て 、 需 要 は 増 加 傾 向 で あ る 。
1.2 食品あるいは含有成分の機能性
ワカメには、アルギン酸やフコイダンと呼ばれる酸性多糖類が多く含まれる。これ
らは、食品の栄養素の食物繊維に含まれ、コレステロールの上昇を抑制する、血糖値
の上昇を抑制するなどと言われている。既に、低分子化したアルギン酸ナトリウムを
関与成分とする特定保健用食品が市販されている。また、フコイダンは、抗ガン作用
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や 抗 血 液 凝 固 作 用 2)、 免 疫 賦 活 作 用 や ア ポ ト ー シ ス 誘 導 作 用
報告されており、健康食品素材として期待されている。
3)
等、様々な生物活性が
1.2.1 酸性多糖類を含む食品
ワカメの芽株、コンブ、モズク、アラメ、カジメなどの褐藻類に多く含まれる。
<引用・参考文献>
1.M. Ellouali,C. Biosson-Vidal,P.Durand ,J.Jozefonvicz :Anticancer
s.,13,2011-2020(1993)
2.T.Nishino,Y.Aizu,T.Nagumo:Agric.Biol.Chem.,55,791-796(1991)
3.朴 今 花 、池 原 ゆ か り 、佐 々 木 努 、宮 城 健 、東 み ゆ き :日 本 栄 養・食 糧 学 会 誌 、58、
273-280(2005)
2.酸性多糖類についての説明
フ コ イ ダ ン は 、 1913 年 に ス ウ ェ ー デ ン の H.Z.Kylin に よ っ て 発 見 さ れ た 。 L-フ
コ ー ス -4 硫 酸 の 1,2-結 合 を 主 体 と す る 多 糖 で あ る が 、 1,3-、 1,4-結 合 な ど も 含 む 。
その他ガラクトースやマンノース、グルクロン酸、キシロースなども含み非常に不
均 一 な 組 成 で あ る 。 最 も 含 有 量 の 多 い ヒ バ マ タ で 、 藻 体 乾 燥 重 量 の 20% 程 度 と 言 わ
れる。
5
O
4
HO
OH
CH3
6
3
HO
1
2
OH
図2-1
L-フ コ ー ス
ア ル ギ ン 酸 は 、 マ ン ヌ ロ ン 酸 ( M) と グ ル ロ ン 酸 ( G) の 2 種 の ウ ロ ン 酸 か ら な る 多
糖である。分子中には M のみからなるブロックと G のみからなるブロック、両方から
なるブロックが存在する。これらブロックの比率は、部位、産地、生長段階などによ
って変わると言われている。
6
COOH
5
5
O
4
4
3
図2-2
1
O
3
2
マンヌロン酸
図2-3
2
O
COOH
6
1
O
O
O
2
グルロン酸
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3. 組織化学的検出方法について
ワカメ生鮮品を用いての凍結切片の作製方法と、酸性粘質多糖類がトルイジンブ
ルーに対し異調染色(メタクロマジー)を示す性質を利用した、酸性多糖類の染色
方法等について述べる。
3.1 準備する器具など
1.デ ュ ワ ー 瓶
2.凍 結 ミ ク ロ ト ー ム
3.切 片 採 取 用 テ ー プ (Cryfilm TypeⅡ 等 )
4.ス ラ イ ド グ ラ ス
5.染 色 バ ッ ト
6.染 色 ラ ッ ク
7.光 学 顕 微 鏡 ( 100~ 1000 倍 )
[試 薬 ]
1.へ キ サ ン
2.ド ラ イ ア イ ス
3.包 埋 剤 : 4 % カ ル ボ キ シ メ チ ル セ ル ロ ー ス ナ ト リ ウ ム 溶 液
4.固 定 液 : 10% ホ ル ム ア ル デ ヒ ド /海 水( 海 水 は 0.22μ m フ ィ ル タ ー ろ 過 後 滅 菌 し
たもの)
5.染 色 液:0.02% ト ル イ ジ ン ブ ル ー pH7.0。0.1mol/l ク エ ン 酸 溶 液 3.5ml、0.2 mol
/ L リ ン 酸 水 素 二 ナ ト リ ウ ム 溶 液 16.5ml の 混 合 液 に ト ル イ ジ ン ブ ル ー を 溶 解 し
た。
6.30% グ リ セ リ ン
3.2 凍結切片の作製
1.凍 結 ミ ク ロ ト ー ム 内 の 温 度 を - 25℃ に 設 定 す る 。
2.試 料 の 付 着 物 を 水 洗 し 、 水 を 拭 き 取 る 。
3.ス テ ン レ ス 製 の 包 埋 容 器 に 包 埋 剤 を 入 れ 試 料 を 入 れ る 。 こ の と き 試 料 の 薄 切 面 は
底にする。
4.デ ュ ワ ー 瓶 に ド ラ イ ア イ ス と ヘ キ サ ン を 入 れ ( - 75℃ ) 、 3 を 凍 結 す る 。
5.完 全 に 凍 っ た ら 、 試 料 を 凍 結 ミ ク ロ ト ー ム 内 に 1 時 間 程 度 放 置 し 、 試 料 温 度 を 上
昇させる。
6.ス テ ー ジ に 固 定 し 、 面 出 し 後 、 切 片 採 取 用 テ ー プ を 貼 り 付 け 、 5~ 10μ m に 薄 切 す
る。
7.6 を ス ラ イ ド グ ラ ス に 両 面 テ ー プ で 貼 り 付 け る 。
3.3 固定、染色、封入
1.凍 結 切 片 を 貼 付 け た ス ラ イ ド グ ラ ス を ラ ッ ク に 並 べ 、固 定 液 に 60 分 間 入 れ て 固 定
する。
2.水 道 水 を オ ー バ ー フ ロ ー さ せ な が ら 、 5 L ポ リ 容 器 底 に 沈 め 10 分 間 水 洗 す る 。
3.染 色 液 で 30 秒 間 処 理 す る 。
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4.染 色 の 程 度 を 確 認 し な が ら 、 10~ 20 分 間 水 洗 す る 。
5.両 面 テ ー プ か ら 切 片 の 付 着 し た テ ー プ を 切 り 離 し 、 封 入 液 を 載 せ た ス ラ イ ド グ ラ
ス上にかぶせ封入する。
4.分析例
ワカメの葉状部は図4-1に示すように、藻体が海水と接する部位である1、2層
の 表 層 、そ れ よ り 内 側 の 皮 層 、更 に 内 側 の 髄 層 か ら 成 る サ ン ド イ ッ チ 構 造 を し て お り 、
ラミナリア構造と呼ばれている。図4-2では、表層の最外部位がトルイジンブルー
により紫色に染まっている。一方、表層近くに濃い青色に染色された粘液腺が観察さ
れる。この中に含まれる粘質物質はアルギン酸にフェノール化合物が結合したもので
あ る と 言 わ れ て お り 1 )、 髄 層 か ら 皮 層 の 広 い 範 囲 に 存 在 し 表 層 か ら 分 泌 さ れ る 。
図4-1生鮮ワカメ葉状部断面
図4-2生鮮ワカメ葉状部断面
5.食品の分析結果例
ト ル イ ジ ン ブ ル ー 染 色 液 は 、図 4 - 3 に 示 し た よ う に 、硫 酸 多 糖 の 濃 度 に よ っ て 紫
から青色に発色する。この異調性から硫酸多糖の多少を相対的に判別することが出来
る。
図5-1
酸性多糖濃度とトルイジンブルー染色液の発色
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図5-2、5-3にワカメの芽株断面の顕微鏡像を示す。ワカメの胞子葉である芽
株には、硫酸多糖が多く含まれると言われている。図5-2の表層付近が青色に染ま
っており、酸性多糖が多く存在することがわかる。これに比較して、葉状部(図4-
1)ではこのような発色は観察されない。図5-3は、遊走子を形成する子嚢班の像
である。先端の部分と皮層細胞に多くの酸性多糖が存在している。
図5-2
ワカメ芽株断面
図5-3
ワカメ芽株の子嚢班
6.分析上の留意、注意点
加工品あるいは鮮度低下により藻体が軟化しているものについては、良好な切片が
得られないことがある。その場合、固定液に塩化カルシウムを加えることにより改善
される可能性がある。
7.その他
特になし。
8.定量法に関する引用・参考文献
1.田 村 咲 江 監 修 、 食 品 ・ 調 理 ・ 加 工 の 組 織 学 ( 学 窓 社 ) 83-97
――以上――
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