大規模気象・海象モデル計算による インド洋ウェザー - 日本航海学会

第128回講演会(2013年5月30日,31日) 日本航海学会講演予稿集 1巻1号 2013年4月27日
大規模気象・海象モデル計算による
インド洋ウェザールーティングシステムの構築
正会員
正会員
○嶋田
塩谷
陽一(神戸大学)
茂明(神戸大学)
非会員
高橋
桂子(海洋開発研究機構)
要旨
ウェザールーティングの実用化の一環として、簡単な手法であるが気象・海象モデル予測計算によりイン
ド洋においてウェザールーティングシステムを構築した。予測計算期間で等時間曲線法を用いて航路探索を
行った。最短距離航路では直進するアラビア海上において船舶が変針する結果は、ウェザールーティングの
効果によるものと考えられる。
キーワード:航海・地球環境、気象・海象モデル、インド洋、ウェザールーティング
1.緒言
シミュレータセンターマルチスケールモデリング研
インド洋は東アジアと欧米諸国の間の海上輸送
究 グ ル ー プ で 開 発 さ れ た 気 象 モ デ ル
において重要なスエズ運河に接し、世界各地へ石油
MSSG-A(Multi-Scale
を輸送する重要な航路を含む海域である。航海中の
environment:
気象・海象状態を活用した最適な航路を選択するウ
(Takahashi et al. )。詳細について嶋田他(7)を参照さ
ェザールーティング(以下、WR)が有効な自然条件は
れたい。
航路の東西距離が長く、航路選択の可能な海域が広
2.2
Simulator
Atmosphere
for
the
Geo-
component) を 用 い た
(6)
航海シミュレーション
本研究では最短時間航路を最適航路とする。航路
いことなので(ウェザー・ルーティング研究グルー
(1)
、インド洋は北太平洋と比較して WR の有効性
探索方法は等時間曲線法を採用する (例えば:ウェザ
が低いかもしれない。しかし、過去の波浪モデルの
ー・ルーティング研究グループ(1)) 。航路は、ソコトラ
結果から、夏季において季節風は極めて強くそれに
島(アデン湾口)~バンダアチェ沖(スマトラ島北端)
伴い月平均の有義波高も高く、その一方、冬季にお
間である。ただし、本研究では気象・海象状態を有
いて有義波高が低いという報告があるので(磯崎・鈴
効活用した航路を重要視し、ソマリア半島周辺海域
プ)
(2)
木 )、ある程度の WR の効果が期待される。インド
の治安状況を考慮していないので注意されたい。航
洋における WR についての過去の研究では、Padhy et
海シミュレーション対象期間は 2010 年 6 月 25 日か
(3)
(4)
al. 、Panigrahi et al. が衛星データを用いた
ら 7 月 7 日である。変針時間間隔は 12 時間である。
WR の手法を開発したが、
WR の実用化を目指した研究
3 日毎予測計算は行い、その期間において航路探索
開発とは言い難い。そこで本研究では、WR の実用化
により最も目的地側にある航路を採用するという過
の一環として、簡単な手法であるが気象・海象モデ
程を到着するまで繰り返す。
ル予測計算によりインド洋において WR のシステム
3.結果
を構築する。
図 1 は 3 日間毎の航路探索状況を示す。図 1(上)
2.実験概要
において、出発点から航路探索状況はおおよそ放射
2.1
上に航路を探索していることがわかる。これらの航
波浪及び風データ
波 浪 デ ー タ に つ い て は NOAA/NCEP ( National
路の中で最も東に位置している航路を最適航路とし
Oceanic and Atmospheric Administration/National
て採用する。図 1(中)において探索において陸地、島
Centers for Environmental Prediction)で開発さ
を判断し、セイロン島南沖合の航路を採用する。図
(5)
れた第 3 世代波浪モデル WAVEWATCHIII(Tolman )
1(下)においてはベンガル湾も含めて放射状に探索
で計算されたデータを用いた。波浪モデルに入力す
し目的地に到着することができた。
この最適航路は、
るための風データについては海洋研究開発機構地球
おおよそ最短距離航路と類似するが、アラビア海上
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第128回講演会(2013年5月30日,31日) 日本航海学会講演予稿集 1巻1号 2013年4月27日
において船舶が変針することは、ウェザールーティ
O.Larsen: Optimal ship tracking on a nav-
ングの効果によるものであると思われる。詳細につ
igation route between two ports: a hydro-
いては講演時に報告する。
dynamics approach, J. Mar. Sci. Technol.,
Vol.17, pp.59-67, 2011.
(5) Tolman, H. L.: User manual and system
documenta¬tion of WAVEWATCH-III version
2.22., NOAA/NWS/NCEP/OMB, Tech. Note 222,
133pp, 2002.
(6) Takahashi, K., X. Peng, K. Komine, M. Ohdaira,
K. Goto, M. Yamada, H. Fuchigami, T.
Sugimura: Non-hydrostatic atmospheric GCM
development and its computational performance, Use of High Performance computing in
meteorology, Walter Zwieflhofer and George
Mozdzynski Eds., World Scientific, pp.50-62,
2005.
(7) 嶋田陽一・高橋桂子・塩谷茂明: 国際海上輸送
のための気象・波浪大規模予測システムの構築,
日 本 航 海 学 会 論 文 集 ,
pp.197-203,2012.
図1航路探索状況 (上から計算期間
2010/06/25-0628, 06/28-07/01, 07/01-07/04)
参考文献
(1) ウェザー・ルーティング研究グループ:ウェザ
ー・ルーティング-気象情報に基づく最適航法
-,pp.281,成山堂書店,1992.
(2) 磯崎一郎・鈴木靖:波浪の解析と予報,pp.274,
東海大学出版会,1999.
(3) Chinmaya Prasad Padhy, Debabrata Sen, Prasad
Kumar Bhaskaran: Application of wave model
for weather routing of ships in the North
Indian Ocean, Natural Hazards, Vol.44,
pp.373-385, 2008.
(4) J.K.Panigrahi, C.P.Padhly, D.Sen, J.Swain,
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No.127,