除脂肪体重と強度の異なる運動後の酸素消費量との関係

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)15 : 45∼16 : 35 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 内部障害!代謝 2】
1195
除脂肪体重と強度の異なる運動後の酸素消費量との関係
新田
佳央,砂原
医療法人明和病院
正和,中川ふみよ,市木
育敏,橋本
有加,速見菜々花,有田
親史
リハビリテーション科
key words 除脂肪体重・EPOC・運動強度
【はじめに,目的】
運動後,酸素消費量(以下 VO2)が安静時よりも増加した状態が持続するということはよく知られており,これは運動後余剰酸
素消費量(excess post!
exercise oxygen consumption;以下 EPOC)と呼ばれている。EPOC を生み出す要因については,乳酸
の除去やホルモンレベルの上昇,基質利用の変化など諸説ある。また,除脂肪体重は運動中の酸素消費量と相関が認められると
されるが,EPOC との関連を検討した研究は数少ない。そこで今回,強度の異なる二つの運動を行い,EPOC を除脂肪体重の点
から比較し検討することを研究の目的とした。
【方法】
対象は健常成人男性 7 名(年齢 24.3±1.9 歳,身長 170.9±7.1cm,体重 62.4±7.9kg)で,運動習慣がないものとした。実験は 3
回実施し,それぞれ最大酸素摂取量(以下 VO2max)測定,VO2max の 40% の負荷での運動実験(Low Intensity;以下 LI)
,
VO2max の 70% の負荷での運動実験(High Intensity;以下 HI)であった。最初に VO2max の測定を行い,LI および HI の負
荷量を算出し,2 つの運動実験は順番を無作為に行った。3 つの実験は,それぞれ 1 週間以上の間隔を設け,実験は昼食後 5
時間以上経ってから実施した。高強度の運動,飲酒,喫煙,カフェインの摂取は実験前 24 時間以上避け,実験当日の昼食以降
は水のみ摂取を許可するという条件を設定し行った。 3 つの実験には呼気ガス分析装置
(AE!
310s, ミナト医科学社製)を用い,
breath!
by!
breath 法でデータを 30 秒ごとに採取し,VO2max 測定は漸増負荷法による all!
out test にて行った。運動方式は自転
車エルゴメーター(75XL,COMBI 社製)を用いた。また,VO2max 測定前に体成分分析装置(Inbody230,Biospace 社製)を
用いて体組成の測定を行った。2 つの運動実験は,VO2 が定常状態になるまで安静にした後で 10 分間運動を行い,運動後は背
臥位での安静による 30 分間のデータ測定を行った。統計学的解析は,安静時と運動後の VO2 の平均値の差の検定には Wilcoxon
の符号付順位和検定を用いた。除脂肪体重と VO2 の関連性の検討には Pearson の積率相関係数を用い,除脂肪体重と EPOC
の総量の関連性の検討には Spearman の順位相関係数を用いた。統計学的有意水準はすべて 5% 未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,被験者には本研究の目的,方法,危険性などを十分に説明し,全員から実験に参加することの同意を
得た。
【結果】
EPOC は LI で運動後 2 分 30 秒時点まで,HI で運動後 9 分 30 秒時点まで認められ,EPOC の総量はそれぞれ 8.5±0.8L,10.4±
1.1L であった。除脂肪体重と両運動条件における EPOC の総量の関連を検討したところ,LI とは有意な正の相関(r=0.89)が
認められたが,HI とは有意な相関は認められなかった。また,除脂肪体重と安静時の VO2 との間には有意な相関は認められな
かったが,LI および HI の運動中の VO2 と有意な正の相関が認められた(それぞれ r=0.81,r=0.81)
。
【考察】
本研究では,EPOC と除脂肪体重の関連性は強度によって異なるという結果が得られた。Tahara らは,EPOC の総量と除脂肪
体重との間には有意な正の相関が認められると報告しているが,この研究では運動強度が明確に定義されていない。また,
Lamont らは,VO2max の 50% の強度で 1 時間の運動を行わせたところ,EPOC の大きさは性差を問わず除脂肪体重と関連が
あったと報告している。ただし,運動強度によって除脂肪体重が EPOC に及ぼす影響が異なるという先行研究はなく,本研究の
結果からその可能性が示唆された。今回は,HI では相関は認められず,LI のみで相関が認められた。このことは,運動におけ
る代謝回路や,筋収縮に動員される筋線維のタイプなどの影響を受けたことが考えられるが,今後,さらなる研究が望まれる。
また,除脂肪体重は両運動条件での運動中の VO2 との間には高い相関が認められたが,安静時の VO2 との間には有意な相関が
認められていないことから,運動中の酸素摂取動態への貢献が大きいことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,EPOC は除脂肪体重とともに運動強度の影響も受けることが示唆された。今後,EPOC の要因を検討する上
では,運動中の酸素消費動態と異なることや,運動強度に関しても考慮する必要があることがわかった。