日本語版(PDF) - 岡山大学 資源植物科学研究所

国立大学法人
岡山大学
NATIONAL UNIVERSITY CORPORATION
OKAYAMA UNIVERSITY
資源生物科学研究所
RESEARCH INSTITUTE FOR BIORESOURCES
雪化粧の研究所
(2008年1月21日)
研究所玄関前 しだれ桜
(2008年4月8日)
研究所圃場 レンゲ
(2006年4月18日)
目次
II
沿革
IIII
建物配置図
III
III
組織図
IV
IV
職員数
V
V
大学院
VI
VI
図書館・出版物
VII
VII
研究部門
機能開発・制御部門
核機能分子解析グループ
植物ストレス学グループ
分子生理機能解析グループ
作物ゲノム育種グループ
環境シグナル伝達機構グループ
細胞分子生化学グループ
植物成長制御グループ
1
2
3
4
5
6
7
9
10
11
12
13
14
15
環境反応解析部門
環境昆虫機能グループ
植物・微生物相互作用グループ
微生物機能開発グループ
生命環境適応グループ
VIII
VIII
大麦・野生植物資源研究センター
大麦グループ
野生植物グループ
遺伝資源機能解析グループ
16
17
18
19
20
21
22
23
II
沿革
大正3年(1914)、大原孫三郎氏によって設立された財団法人大原農
業研究所が本研究所の前身である。大原孫三郎氏は、時の倉敷紡績社長
でありながら、同時にたぐい希なる文化人として種々の社会事業に大き
な足跡を残した人物であり、なかでも、農民の福祉向上に特別の意を用
い、広く農事の改善を目指すとともに農学に関する重要課題を科学的に
研究するためこの研究所を創設した。
第二次世界大戦の後、昭和26−27年(1951−1952)に研究所を国に移管
する方針が定まり、岡山大学農学部附属大原農業研究所として発足する
に至った。さらに、昭和28年(1953)には、大学附置研究所となり、岡
山大学農業生物研究所の名称で農学の基礎研究を行うこととなった。当
初は、植物病理学、生物化学、害虫学、作物生理学及び作物遺伝学の5
部門であったが、その後微細気象学 (昭和35年・1960)、水質学(昭
和41年・1966)、雑草学(昭和45年・1970)の3部門ならびに附属施設
として大麦系統保存施設(昭和54 年・1979)が設置された。
財団法人大原農業研究所から岡山大学農業生物研究所にわたる70有余
年の間、本研究所では、生物資源の確保と開発を図るため、種々の角度
から研究を進めてきた。このような多面的な活動を統合し、新しい学術
上の要求と増大する社会的要請に応えるため、昭和63年(1988)、農業
生物研究所を改組し、「資源生物科学研究所」として新しいスタートを
切ることとなった。新組織は、遺伝情報発現部門、生物機能解析部門、
生物環境反応部門の3大部門(9研究分野)外国人客員部門(生活環解析
部門)及び大麦系統保存施設から成り、資源生物、特に資源植物につい
てバイオサイエンスの視点から総合的な研究の展開を目指してきた。
その後、21世紀の国際的、社会的な要請に応えるために、平成9年
(1997)、大麦系統保存施設と生活環 解析部門を廃止、統合し、「大
麦・野生植物資源研究センター」を設置した。また、平成15年(2003)
4月、さらに改組を行い研究所は2部門(機能開発・制御、環境反応解
析)と大麦・野生植物資源研究センターで構成し、15グループが活発に
研究を行っている。なお、現在、本研究所は岡山大学自然科学研究科お
よび環境学研究科(博士前期課程、博士後期課程)に参画し、岡山大学
における大学院教育の一翼をも担っている。
1
II
II
建物配置図
J
I
C
G
J
B3
D
B1
H
B2
F
A
E
A
J
管理棟
F
遺伝子実験施設
B1 〜 B3 研究棟
G
バイオ実験棟
A
C
大麦・野生植物資源研究センター
H
隔離温室
D
附属図書館分館・史料館
I
気象観測室
E
RI実験室
J
実験圃場
土 地
建物延面積
38,007 m2
9,144 m2
2
III
III
組織図
教授会
核機能分子解析グループ
Faculty Meeting
教員会議
Scientific
Staff Meeting
Group of Nuclear Genomics
各種委員会
植物ストレス学グループ
Committees
Group of Plant Stress Physiology
分子生理機能解析グループ
運営会議
機能開発・制御部門
Advisory Meeting
Group of Molecular and Functional
Plant Biology
Division of Functional
Biology and Genetics
作物ゲノム育種グループ
Group of Crop Genome Modification
グループリーダー会議
Group Leader Meeting
環境シグナル伝達機構グループ
Group of Environmental
Signaling Systems
研究部門
細胞分子生化学グループ
Research
Division
Group of Cytomolecular Biochemistry
植物成長制御グループ
Group of Plant Growth Regulation
所長
Director
副所長
Vice
Director
環境昆虫機能グループ
Group of Insect Physiology and
Molecular Biology
環境反応解析部門
Division of Environmental
Response Analysis
植物・微生物相互作用グループ
Group of Plant-Microbe Interactions
微生物機能開発グループ
Group of Applied Microbiology
運営委員会
Advisory
Committee
生命環境適応グループ
Group of Bioenvironmental Adaptation
大麦・野生植物資源
研究センター
大麦グループ
Group of Barley Resources
Barley and Wild Plant
Resources Center
野生植物グループ
Group of Wild Plant Science
庶務
General Affairs
遺伝資源機能解析グループ
事務部
Administration
Division
Accountant
技術部
Group of Genetic Resources
and Functions
会計
Technical
Division
国際植物資源研究(外国人客員)
Global Plant Resource Development
(Foreign visiting professor)
附属図書館
資源生物科学研究所分館
University
Library
Research Institute for
Bioresources Branch Library
3
図書係
Library Unit
IV
IV
職員数
常勤職員
教授
准教授
助教
助手
8(0)
9
13
1
技術系職員 事務系職員
9
4[1]
計
44(0)[1]
( )は外国人研究員を外数で示す。
[ ]は附属図書館資源生物科学研究所分館職員を外数で示す。
非常勤職員
特別契約職員
非常勤研究員
非常勤職員
計
12
8
24[2]
44[2]
[ ]は附属図書館資源生物科学研究所分館職員を外数で示す。
運営委員会
所長の諮問に応じ、研究所運営等に関する事項を協議する。
所外委員
学
外
委
員
学
内
委
員
大原謙一郎
(財)大原美術館理事長
西村いくこ
京都大学大学院理学研究科 教授
篠崎 一雄
理化学研究所植物科学研究センター長
遠藤
京都大学大学院農学研究科
隆
教授
加瀬 克雄
岡山大学理学部長
神崎
浩
岡山大学農学部長
髙田
潤
岡山大学大学院自然科学研究科長
4
V
V
大学院 自然科学研究科
博士前期課程
研究科
専攻
講座
自然科学
生物資源科学
資源生物機能開発学
研究科
専攻
講座
自然科学
バイオサイエンス
資源生物機能開発学
博士後期課程
平成19年度
(2007)
平成20年度
(2008)
平成21年度
(2009)
(岡山大以外出身者数)
11(11)
7(7)
9(9)
在籍者数
21
18
16
学位授与数
8
11
-
入学者数
(+10月入学者数)
2(+1)
3(+1)
3(-)
在籍者数
19
13
11
学位授与数
(+論文博士数)
8(+1)
6
-
在籍者数
40
31
27
在学生数
入学者数
博士
前期
課程
博士
後期
課程
合計
5
VI
VI
図書館・出版物
岡山大学附属図書館資源生物科学研究所分館
本図書分館は、大正10年財団法人大原奨農会農業研究所の図書館と
して設置され、その後昭和28年岡山大学に移管した農業生物研究所の
図書館を引き継いだものである。約90年にわたって蒐集された約18万
冊の蔵書は、最先端の豊富な学術雑誌に加えて、古い貴重書も含み、
農学・生物学に関する図書館としては日本で最も充実したものの一つ
であるといわれている。その資料は創設以来、全国の研究者にも開放
されており、年間約500人の所外からの来館利用者があり、文献複写等
の依頼も多い。
図書館資料
所蔵冊数
183,521 冊(和書 92,558 冊
洋書 90,963 冊)
所蔵雑誌数
10,604 種(和雑誌 5,998 種
洋雑誌 4,606 種)
貴重文庫
ペッファー文庫
W. Pfeffer博士(1845-1920)の植物学関係の蔵書
11,730 冊 Pflanzenphysiologie (Pfeffer, W 著)等
大原漢籍文庫
中国の明、清時代の農書 4,834 冊
農政全書(徐光啓 撰)等
大原農書文庫
日本の近世紀の農業・本草に関する和装本 2,576 冊
昆陽漫録(青木昆陽 著)等
Pflanzenphysiologie (Pfeffer, W 著)
農政全書(徐光啓 撰)
出版物
「岡山大学資源生物科学研究所報告」(年1-2回刊
6
1992年創刊)
VII
VII
研究部門
機能開発・制御部門
生物は、内的、外的情報に対応し、それぞれがもつ遺伝情報をもと
に様々な機能を発現する。本部門では、資源生物が有する様々な潜在
的機能を、分子、細胞、個体レベルから解析し、それらの有効利用を
計る。特に、資源生物のストレスに対する反応と耐性機構の解析、有
用遺伝子の探索と解析、細胞内器官の機能構造解析に重きを置いて研
究を展開する。
環境反応解析部門
資源生物の生存は生活環に介在する様々な物理的、化学的、生物学
的環境因子によって影響される。本部門はこのような環境因子に対す
る生物の応答反応を解析することにより、資源生物の健全な生育を図
ること、適切な生育環境を保全、創造することを目的として、生物の
遺伝子レベルから生態系まで、生物圏における課題を総合的に研究を
行う。
7
研究概要イメージ
気象要因
環境要因
シグナル
有用遺伝子の探索
受容認識
情報伝達
遺伝子の単離
代謝
構造機能解析
生体機能物質
生物機能
有用形質の発現
害虫
遺伝資源
育種
植物ウィルス・病原菌
K
P
N
養分吸収
Al
Cd
PCB
毒性イオン
重金属
有害化学物質
微生物
by Taka Sasaki
8
機能開発・制御部門
核機能分子解析グループ
Group of Nuclear Genomics
教 授
准教授
助 手
村田 稔
長岐 清孝
小倉 豊
細胞核は、真核生物の最も重要な細胞内器官であり、複雑な構造と多種多様
な機能を有している。核内のDNAは分割され、染色体に折りたたまれており、
このことによりDNAにコードされている遺伝情報は正確に娘細胞に渡される。
本研究グループでは、植物を主たる材料として、核および染色体の構造と機能
に関する分子細胞学的および分子遺伝学的研究を行う。特に、植物の染色体機
能要素(セントロメア、テロメア、複製起点)の機能構造解析を精力的に進め
ることにより、人工染色体の構築を目指す。また、核クロマチン構造と遺伝子
発現についても研究を行う。
シロイヌナズナのミニ染色体4Sの解析
BACをプローブとしたFISH(蛍光 in situ ハイブ
リダイゼイション)により、landsberg erecta株
の第4染色体短腕から起源した4SとColumbia株
の第4染色体短腕には逆位が存在することがわ
かる。
間接蛍光免疫抗体法によって可視化されたシ
ロイヌナズナの動原体ヒストンH3(赤)
上:培養細胞の中期染色体。
下:培養細胞のクロマチンファイバー。
9
ルズラにおける分散型動原体の解析
高等真核生物の染色体は通常、各染色
体に1つずつ1次狭窄の位置に動原体
をもっている(局在型)。しかし、ル
ズラ(Luzula)の染色体には、1次狭窄が
存在せず、染色体全体が動原体として
機能する(分散型)。この分散型動原
体の存在は、60年以上も前から知られ
ていたが、その構造は不明であった。
我々は、このルズラから動原体特異的
ヒストンH3の遺伝子を単離し、その
情報をもとに、このタンパク質に対す
る抗体を作製した。この抗体を用いた
免疫染色(図中、赤)によって、ルズ
ラの動原体が染色体に沿った線状の構
造をとること、局在型動原体とは異な
り。動原体特異的ヒストンH3の量が
有糸分裂中に増減することを突き止め
た。
機能開発・制御部門
植物ストレス学グループ
Group of Plant Stress Physiology
教
助
授
教
馬 建鋒
山地直樹
世界の耕地面積の約7割を占める問題土壌では、養分不足や有害元素の過剰など
のミネラルストレスが原因で作物の生産性が低下している。本グループではこのような
問題土壌での生産性の向上を目指して、植物のミネラルストレスに対する応答反応、と
りわけ耐性機構について個体レベルから遺伝子レベルまで研究を行っている。
ケイ素は植物のストレスを軽減する
植物はケイ素を蓄積することによって病虫害や
倒伏など様々なストレスを軽減している。特に
イネは代表的なケイ素の集積植物であり、その
安定多収にはケイ素の蓄積が欠かせない。
オオムギの根はアルミニウ
ムイオンによって活性化さ
れる輸送体HvAACT1を備
えており、根圏にクエン酸
を放出し、アルミニウムを
キレートすることによって
無毒化している。
野生型
+Si
低ケイ酸
変異体
(lsi1)
–Si
イモチ病の抑制
鉄欠乏ストレス耐性機構
イネ科植物は土壌中の不溶性の鉄を獲得するた
めに根から鉄キレート物質ムギネ酸を分泌する
巧みな機構を持っている。大麦の根においては
鉄 - ム ギ ネ酸 錯体を 特異 的に吸 収す る輸送 体
HvYS1が根の表皮細胞に局在している。
根圏
根
ムギネ酸
X
R1
不溶性
鉄(III)
COOH
COOH
HN
NH
COOH
OH
R2
YS1
鉄-ムギネ酸錯体
pH
5.0 4.5
稔実への影響
ケイ酸吸収の分子機構
イネの根には2種類のケイ酸(Si(OH)4 )輸送体
Lsi1, Lsi2が同じ細胞層の遠心側と向心側に局在
している。Lsi1によって取り込まれたケイ酸を
Lsi2が細胞の反対側へと排出し、これをカスパ
リー線が形成
される外皮と
内皮の二つの
層で行うこと
によって効率
的なケイ酸の
吸収を実現し
ている。
ムギネ酸
アルミニウムストレス耐性機構
酸性土壌では土壌からアルミニウムイオン
(Al3+)が溶出し植物の根の成長を著しく阻害
する。しかし一部の耐性植物はアルミニウム
イオンの毒性を軽減するため様々な戦略を発
達させている。
鉄-ムギネ酸錯体
HvYS1
10
HvAACT1
金属集積植物とその耐性機構
環境中の金属濃度が高くなると、一般に植
物の生育が阻害される。しかし、ごく一部
の植物は高濃度の金属を集積しても毒性を
示さない。図はアルミニウム集積植物のア
ジサイ(左、数字はアルミニウムの蓄積量)
と亜鉛及びカドミウムの超集積植物グンバ
イナズナ(右上)を示している。これらの植
物は金属を無毒の形態に変えたり、液胞(
右下)に隔離したりすることによって金属
耐性を獲得している。
機能開発・制御部門
分子生理機能解析グループ
Group of Molecular and Functional Plant Biology
准教授
助 教
助 教
且原
柴坂
森
真木
三根夫
泉
本グループでは、生体膜を含む、植物の細胞および分子生理学的な研究を環境応
答機構との関係から進めている。現在、以下の研究を行っている。
*水チャネル・アクアポリンの構造と機能
アクアポリン分子種ごとの構造と輸送基質特異性など機能との関係
二酸化炭素を透過させるアクアポリン
*塩ストレス・乾燥ストレス耐性機構の植物分子細胞生理的研究
ストレス応答と水輸送活性・アクアポリンの発現制御の関係
塩ストレスとイオン輸送系/ストレス情報の細胞内伝達(カルシウムシグナリング)/
ストレス誘導性細胞死
*輸送系とストレス環境
有機酸輸送体/ヒ素感受性植物とリン酸輸送体
*根の発達に及ぼす環境因子の影響
根の養分吸収領域の分化と誘導
*膜タンパク質と生体膜の相互作用
GS-Xポンプの活性化と生体膜物性
これらの研究を推進するにあたり、本グループでは一般的な生理学および分子生物
学的研究手法に加えて、次のような研究手法を用いている。
根の機能測定(水透過性、イオン輸送能)/アフリカツメガエル卵母細胞でのタンパク
発現系/電気生理学測定/同位体を用いたトレーサー実験/サブトラクションcDNA
ライブラリーからのスクリーニング/欠損変異酵母の補完的形質転換/オオムギの形
質転換体作成/バイオインフォマティクス
マイクロピペット
cRNA
アフリカツメガエル
卵母細胞
アクアポリン
(A)
水耕栽培したオオムギ芽生え。 植物細胞にある物質
(実験に使う根の調製)
輸送タンパク質。
11
H2O
(B)
(C)
ア フ リ カ ツ メ ガ エル卵母細 胞発現 系。
直径約1 mmの卵母細胞に、cDNAを鋳
型に人工合成したcRNAを顕微注入する
(A)。細胞内ではRNAからタンパクが合
成され、膜タンパクは原形質膜に組込ま
れ る ( B ) 。 卵 母 細胞の培養 液(約200
mOsm)を低張液に代えると水が流入し
て細胞が膨潤する(C)。細胞の表面積と
体積変化から計算される水透過性が上
昇していれば、導入した遺伝子が水輸送
活性をもつアクアポリンをコードしていた
と結論される。
機能開発・制御部門
作物ゲノム育種グループ
Group of Crop Genome Modification
教
助
助
授
教
教
前川 雅彦
力石 和英
宇都木 繁子
21世紀における持続的農業と食糧確保は、自然環境との調和的な共生の中で
の人類生存にとってきわめて重要な課題である。本グループでは、野生種から
の遺伝子移入やゲノム再編成による効率的な食料生産のために必要な遺伝要因
の解明および植物ホルモンによる遺伝子発現制御機構の解明を目的とする。
本グループの研究内容は、
1)野生イネOryza longistaminataの染色体部分導入による生育旺盛型イネの開発
とその要因解析
2)イネにおけるDNAトランスポゾンnDartを利用したトランスポゾンタグライ
ンの育成
3)ムギ類およびアラビドプシスにおける植物ホルモンによる種子休眠制御機
構、および乾燥ストレス応答機構の解析
イネ品種しおかり(左)へのイネ野生種O.
longistaminataの染色体断片導入による生育
旺盛イネの育成(右)
イネのDNAトランスポゾンnDartを利用した
トランスポゾンタグラインの育成
図の説明
コムギ農林61号(左)と農林61号のアジ化ナトリ
ウム処理による穂発芽突然変異系統(右)の誘発
12
アラビドプシス葉の孔辺細胞におけるABAシ
グナル伝達関連遺伝子の発現(緑色の蛍光)
機能開発・制御部門
環境シグナル伝達機構グループ
Group of Environmental Signaling Systems
教
助
授
教
坂本 亘
松島 良
1. 葉緑体タンパク質の品質管理に関する研究
葉緑体に存在する光化学系タンパク質複合体は、光酸化による傷害を恒常的に受
けている。葉緑体の機能を維持するためには、傷害を受けたタンパク質の品質管理
が重要な意味を持つ。品質管理とは傷害を受けたタンパク質が分解されて新しいタ
ンパク質と置き換わる修復サイクルを意味している。この修復サイクルにおいて分
解を担うタンパク質分解酵素としてFtsHプロテーゼがある。私たちは、これまでに
シロイヌナズナの斑入り突然変異体var1ならびにvar2変異体の原因遺伝子が、葉緑
体局在型FtsH(FtsH5とFtsH2)であることを明らかにした。葉緑体タンパク質の品質
管理機構ならびに斑入りが生じるメカニズムの理解を進めるために、斑入りが抑制
されたサプレッサー変異体の解析を行った。var2変異体を突然変異処理することに
よって得られたsv2変異体は、斑入りを示さない、強光障害からの光合成能の回復
がvar2変異体より早い等の表現型を示す。sv2変異体では葉緑体のタンパク質合成に
関与する因子(葉緑体型翻訳開始因子IF2)にアミノ酸置換が起きており、葉緑体のタ
ンパク質合成能が野生型ならびにvar2変異体よりも低下していると考えられる。こ
れらの結果は、葉緑体の光化学系タンパク質複合体の品質管理において、傷害を受
けたタンパク質の分解と合成のバランスが重要であることが意味している。
2. 高等植物におけるオルガネラ遺伝に関する研究
色素体とミトコンドリアはそれぞれが独自のDNA(オルガネラゲノム)を持つこと
が知られている。オルガネラゲノムは、大半の被子植物では卵細胞からのみ後代に
遺伝する (母性遺伝する)。母性遺伝の分子機構は未解明であるが、雄性配偶子(花
粉)の発生過程でオルガネラDNAが消失することが観察されている。オルガネラゲ
ノムの母性遺伝機構の分子機構を理解するために、花粉発生過程においてオルガネ
ラDNAの消失に異常を示す変異体の探索を行っている。現在までに成熟花粉の栄養
細胞においてオルガネラDNAが残存する変異体を複数系統得ており、解析を進めて
いる。
葉緑体タンパク質の品質管理に重要なタンパク質
分解酵素(FtsH)を欠損した植物 (左2つ)では
葉に斑入りが生じる。右は野生型植物。
野生型植物(左)と本研究室で得られた花粉に関する
変異体 (右)のDAPI (DNA染色試薬)による染色像。
変異体ではオルガネラDNAの量が増加している。
Bar = 20 μm
13
機能開発・制御部門
細胞分子生化学グループ
Group of Cytomolecular Biochemistry
准教授
准教授
今野晴義
杉本 学
植物は様々な自然環境下で各種ストレスと闘いながら適応し、無数の細胞が
分裂・分化・増殖を繰り返し、生長している。これらの生活環において、細胞
内では多数の化学物質を特異的に変化させ、生長に欠かせない利用可能なエネ
ルギーを生成し、生体分子を作り出し、統制の取れた植物体を構築している。
『細胞分子生化学グループ』では、植物の生長過程における細胞の生理機能
や植物の有する多様性などを解明するために、生体細胞を構成する物質を、生
化学的手法を用いて、分子レベルで解析している。
現在の主な研究テーマは、
1)細胞壁構造とその分解酵素の分子機能
2)特殊環境下で生育する植物細胞の耐性機能特性
3)宇宙環境や塩ストレスで発現誘導される植物の遺伝子とタンパク質の構造
と機能解析
4)有用タンパク質を利用した新しい機能を持つ植物の開発
ⒸIBMP
国際宇宙ステーションのロシア
実験棟に設置している植物栽培
装置で生育するオオムギ
銅存在下で生育するシダ・コケ植物
a
Exo-polyaglacturonase(exo-PGase)の
ニンジン幼根における局在性 (a) 抗
exo-PGase (b) rabbit serum
b
二次元電気泳動法による耐塩性オオムギ特異的タンパク質
の解析 (a) 耐塩性オオムギ根 (b) 塩感受性オオムギ根
(矢印) 耐塩性オオムギ特異的タンパク質スポット
14
機能開発・制御部門
植物成長制御グループ
Group of Plant Growth Regulation
教
助
授
教
山本洋子
佐々木孝行
当グループは、平成20年4月に新設された。環境ストレス下にある植物の成
長制御機構について、細胞、組織、器官、個体レベルで理解することを目的に
している。現在、環境ストレスとして酸性土壌を取り上げ、根の生育を阻害す
るアルミニウム(Al)イオンに着目し、細胞伸長阻害や細胞死の誘発機構につい
て解析している。一方、根からの有機酸の放出は、Alを無毒化する耐性機構と
考えられており、実際、我々が初めてコムギから単離した「Alによって活性化
されるリンゴ酸輸送体」遺伝子は、Al耐性かつ酸性土壌耐性遺伝子であった。
現在、本輸送体の機能部位や発現調節機構について詳細な解析を進めている。
ところで、植物体全体でのストレス応答については、ほとんど明らかになって
いない。現在、根でのAlストレスが地上部の光合成に与える影響について解析
を進めており、ストレス環境での成長制御機構を植物体全体で理解したいと考
えている。
図1 酸性土壌に見られるAlイオンによる根の生育阻害
Alイオンを多く含む酸性土壌(例、黒ボク土)では、Alが根に吸着し根の生育
が阻害される。その結果、根からの水や無機養分の吸収が阻害され、地上部の
生育も阻害される。写真のエンドウは、酸性土壌と中性土壌で各々10日間栽
培した後、根部をヘマトキシリン染色したもの(Alと反応して紫色を呈する)。
中性土壌と比較して、酸性土壌では、根ならびに地上部の生育が悪く、根部が
ヘマトキシリンで強く染色されることから、Alが吸着していることが分かる。
図2 Alイオンによる活性酸素の誘発
Alイオンが根に吸着すると、直ちに活性
酸素が誘発される。写真のエンドウは、
水耕条件でAl処理を行い、時間を追って
活性酸素の誘発を蛍光染色で調べたもの。
Al無添加のコントロールと比較して、Al
処理をした根では(各時間 に お い て 左 側
の根)、活性酸素の誘発が、根端の伸長
域特異的に2時間目から見られる。
酸性土壌
(黒ボク土)
中性土壌
ALMT1
形質転換体 非形質転換体
細胞質
酸性土壌
Al
Al活性化型
リンゴ酸
COOH
H2N
3+
O
C
HOC
細胞外
O-
リンゴ酸 Al
リンゴ酸輸送体
H2 C
C
O-
O
細胞内
リンゴ酸
の放出
中性 酸性
中性 酸性
図3 ALMT1の機能とALMT1形質転換植物の土壌での生育
コムギのALMT1タンパク質はAlにより活性化されてリンゴ
酸を放出し、Alを無毒化する。Alに弱いオオムギにALMT1
遺伝子を形質導入した結果、酸性土壌での根の生育が改善
された。
15
図4 ALMT1タンパク質の膜配向性の決定
コムギのALMT1タンパク質はN-およびC-末端
を細胞の外側に向け6回の膜貫通領域をもつこ
とが分かった。これにより、Alで活性化され
る領域は細胞の外側に向いた領域にあると考
えられ、今後の研究に期待がかかる。
環境反応解析部門
環境昆虫機能グループ
Group of Insect Physiology and
Molecular Biology
准教授
助 教
園田昌司
吉田英哉
当グループでは、昆虫の行動学的、生理学的、生化学的機能を解析す
るとともに、それらに関する遺伝子を特定し、その発現様式を明らかに
することで、資源生物の保護への有効利用を目指している。現在の主要
なテーマは次の通り、
1)昆虫の耐寒性、特に凍結障害と冷温傷害の発生機構の解析
2)昆虫の休眠誘起機構と休眠に関わる要因の解析
3)殺虫剤抵抗性機構の解析
4)果実吸蛾類の忌避剤の開発
1)昆虫の凍結障害と冷温傷害の発生機構の解析
2)昆虫の休眠誘起機構と休眠に関わる要因の解析
ニカメイガ越冬幼虫は-20℃の凍結に耐えること
ができるが、非休眠幼虫は凍結すると生存できな
い。越冬幼虫は凍結時に細胞内にグリセロールが
流入し、細胞内の水が溶出することにより細胞内
凍結を回避し、凍結耐性を獲得ていることが明ら
かになった。一方、非休眠幼虫ではこの様な現象
がみられず、低温で凍結死を誘導する細胞内凍結
が起こると考えられる。
通常オオタバコガの休眠は幼虫時に短日条件により誘起
されるが、野外個体群の中には20℃、短日条件で飼育し
ても休眠しない個体が見られる。これらの個体は15℃で
飼育すると日長に関係なく休眠に入ることが明らかに
なった。また、休眠を誘起する温度感受期と日長感受期
は異なっていることが明らかになった。
3)殺虫剤抵抗性機構の解析
4)果実吸蛾類の忌避剤の開発
EAG
EAG
cis
合成ピレスロイド剤はナトリウムチャネルを標的と
する即効性に優れた殺虫剤であるが、感受性の低下
による抵抗性が問題になっている。感受性の低下に
よってもたらされる抵抗性は、そのレベルが10000
倍以上にも達することがある。コナガにおいてナト
リウムチャネルをコードする遺伝子の解析を行った
ところ、2ヶ所のアミノ酸置換が抵抗性に関与して
いることが明らかになった。
trans
果実吸蛾類はモモやナシといった果実の収穫直前に吸
汁することから、その被害は収量に直接影響する。そ
の被害を軽減するための忌避剤の基礎的ならびに応用
的な研究を行っている。本忌避剤設置により被害は半
分以下に軽減されることが明らかとなった。また、
trans体(有効成分)とその異性体であるcis体とで、
ヤガ類の果実の匂い成分のEAG反応に対する影響が異
なっていることが明らかとなった。
16
環境反応解析部門
植物・微生物相互作用グループ
Group of Plant-Microbe Interactions
教
助
授
教
鈴木 信弘
近藤 秀樹
ウイルスは2つの顔、自己より高等な生物に病気をおこす表の顔と人間社会に
有効利用される裏の顔、をあわせ持つ。ヒトにSARSやエイズなどを起こすウイ
ルス、生ワクチンとして利用されるウイルスがそうです。宿主が作物(植物)
であっても、同様です。私達のグループは、「アグリウイルス」(植物病理学と
関係の深いウイルス)の2つの面の研究を、宿主/ウイルス間の分子レベルでの
相互作用に焦点を当てながら解析を行なっています。
植物ウイルスの研究:ビートえそ性葉脈黄化ウイルス(Beet necrotic yellow vein
virus,BNYVV)とランえそ斑紋ウイルス(Orchid fleck virus,OFV)を研究材料と
して、ウイルスのゲノム構造と機能、病原性と抵抗性の機構、伝搬性の機構お
よび分子進化について解析しています。根部でのRNAシレンシングと植物ウイ
ルスの動態を解析しています。
菌類ウイルスの研究:ある種のマイコウイルスは、植物病原糸状菌の病原性を
低下させることから、生物防除因子の一つとして利用することができます。ク
リ胴枯病菌の病原性を衰退させるハイポウイルスとレオウイルスの病原性機構
について研究しています。
BNYVV-GFP
A
PVX-GFP
B
BNYVV-GFP
A. BNYVV粒子と緑色蛍光タンパク質(GFP)
を標識したウイルスの細胞内分布。
B. OFVの病徴、媒介生物オンシツヒメハダ
ニ、 OFV粒子。
C. ハイポウイルスに感染したクリ胴枯病菌
とクリ樹への病原性(右図)。左はウイルス
フリーのクリ胴枯病菌とその病原性。
C
17
環境反応解析部門
微生物機能開発グループ
Group of Applied Microbiology
准教授
助 教
金原和秀
谷 明生
我々のグループでは、環境汚染物質を分解する微生物を中心として、その生き様
の解明、環境メタゲノムの解析、微生物と植物の相互作用を研究しています。
「微生物の生き様の解明」は、微生物生理を解析して、汚染物質を分解する微生
物の環境中での役割を明らかにする研究です。また、その成果を利用して環境改善
を目指します。「環境メタゲノムの解析」は、特異的な機能を持つ微生物遺伝子を
環境中から探索する研究です。微生物資源の活用がコンセプトの中心となります。
「微生物と植物の相互作用」は、植物と共生する微生物が、植物の生長を強力に促
進することを、作物増産に利用する研究です。これらの研究は、これまで我々のグ
ループが追求してきた、独自の微生物生理活性解析技術を応用しています。また、
いずれの研究も、当研究所の特徴である、資源植物の持続的な生産を目指したもの
です。植物が繁茂している実際の土壌には、無数の微生物が生存しています。植物
との相互作用を抜きにして、環境中での微生物の生き様を解明し、環境を改善する
ことは出来ないと考えています。
研究戦略
環境汚染物質の分解菌を単離
PCB
細胞・タンパク質・遺伝子
レベルの性質を理解
環境中での真の挙動を解析
微生物生理
60℃で環境汚染物質であ
るポリ塩化ビフェニルを
分解する微生物
生存状態
分解活性
環境改善へ応用
ビフェニルを分解するときに生成する副産物が分解細菌の
分裂を阻害してひも状になり生育が停止する
目標
スナゴケプロトネマに対する
Methylobacterium属細菌の生育促進効果
微生物の環境中での役割を明らかにする
植物生長を促進する微生物作用を解明・利用する
地球環境を改善する
18
環境反応解析部門
生命環境適応グループ
Group of Bioenvironmental Adaptation
准教授
准教授
江崎 文一
田中丸重美
有用資源植物、大腸菌,糸状体ラン藻、酵母などを研究対象とし、生命環境
での各種金属イオン、酸化、塩濃度、光のような様々なストレスに対する応答
反応や適応機構を解明している。また遺伝子工学の手法により、生命環境の変
化への適応に関わる生体物質の機能と構造を分子レベルで解析し、機能の向上
をはかっている。さらに有用遺伝子を植物に導入してストレス耐性植物の作出
も目指している。
一方、有用資源植物を取り巻く気象環境要因の解析と環境要因に対する植物
の反応についても、細胞、器官、個体、群落、生態系の各種レベルで研究して
いる。特に瀬戸内地域の大気環境に関する研究を現在、展開している。
promoter - operator
bxmR
P
(Repressor)
O
bmtA
promoter - operator
P
(MT)
O
bxa1
(CPx - ATPase)
BxmR
bxmR
P
bmtA
P
bxa1
ラン藻 Oscillatoria brevis の 重金属応答性タ
ンパク質[BmtA(重金属結合タンパク質; MT),
Bxa1(重金属輸送体), BxmR (リプレッサー)]
をコードする遺伝子群 の発現制御モデル
エンドサイトーシスによるAlイオンの植
物の根への取り込み
a, b, c ; Al局在部位。 a’, b’, c’; エンドサイ
トーシス小胞の局在部位。c, c’は拡大写真。
Al耐性株(#355-2株)ではエンドサイトー
シス活性とAl吸収量が低い(b, b’)。
酸性雨による花弁の脱色(アサガオ)
19
VIII
VIII
大麦・野生植物
資源研究センター
当センターは遺伝資源の機能開発と有効利用によって21世紀の地球環境問題,食
料・資源問題に対処するために、既存の大麦系統保存施設(昭和54年設置)と雑草部
門(昭和45年設置,昭和63年に改組して環境適応解析分野に編入)を統合して系統保
存(大麦および野生植物)研究室とし、これに環境ストレス研究室ならびに外国人客員部
門である国際植物資源研究室を加えて平成9年に発足した。
平成15年には系統保存研究室を大麦・野生植物資源グループに名称変更すると共
に、環境ストレス研究室を廃止して細胞分子生化学グループと遺伝資源機能解析グ
ループを設けた。なお、平成19年に細胞分子生化学グループは機能開発・制御部門に
配置換えされた。
当センターの大麦・野生植物資源グループでは約10,000品種の世界のオオムギと約
29,000点の野生植物の種子および約58,000点のさく葉標本を収集保存すると共に、これ
らの分類、特性評価、データベースの構築、さらに種子の増殖と配布およびオオムギゲ
ノムリソースの開発・配布などを行っている。遺伝資源機能解析グループではこれらの遺
伝資源の機能を解析し、各種ストレスに対する耐性植物の創成を目指して分子遺伝学
的ならびに分子生化学的研究を展開している。また、国際植物資源研究室は本研究所
の国際交流の拠点として毎年1-3名の著名な外国人客員教授を招聘し、国際的な共
同研究を推進している。
図
中国雲南省の標高3,800m地点に広がる大麦畑
20
大麦・野生植物資源研究センター
大麦グループ
Group of Barley Resources
教
助
授
教
佐藤
最相
和広
大輔
東アジアの在来種を中心に世界中から収集された岡山大学のオオムギ遺伝資源
は、在来種および育成品種・系統、実験系統、野生系統など約1万点からなる。これら
オオムギ多様性の二次中心である東アジアの遺伝資源、さらにゲノム関連リソースを
配布するオオムギのジーンバンク事業は国際的に高く評価されている。
大麦グループでは、(1)オオムギ遺伝資源の収集と保存、(2)その遺伝的な多様
性・特性の評価、(3)データベース作成と世界中の研究者への材料・情報の提供。(4)
オオムギの有用形質の遺伝学的解析、(5)EST、分子マーカー、DNAライブラリーなど
ゲノム研究のリソースの開発と、これらを利用したオオムギ多様性の解明に取り組んで
いる。
1H
栽培品種:
9,724
(在来種および育成品種)
実験系統 :
919
突然変異系統
四倍体
連鎖群検定系統
同質遺伝子系統
野生オオムギ :
605
ssp. spontaneum
Hordeum属野生種
2H
3H
4H
5H
6H
7H
図1.オオムギ遺伝資源保存数(左)と遺伝資源の例
(右).右上は葉緑素異常を示す突然変異系統,右
下は雑草化したHordeum属の野生植物.
図2.系統情報およびESTデータの提供.
オオムギ系統情報データベース(左)とオオムギ
ESTデータベース(右)を中心として構成し,WEB上
で公開している.
http://www.shigen.nig.ac.jp/barley/
21
図3.オオムギESTを利用したオオムギゲノム
研究リソースの開発.EST配列を基に構築した
高密度転写産物地図(上) ,および国際コンソ
シアムで作製したAffimetrix Barley
GeneChip1を用いた発現解析の例(下) .
大麦・野生植物資源研究センター
野生植物グループ
Group of Wild Plant Science
准教授
助 教
榎本 敬
山下 純
当研究室では研究所の創立以来、野生植物種子の収集事業をおこない、現在
222科5,125種29,792点の種子標本を保有している。このうち冷凍保存によって生
存していると考えられるのは205科3,630種15,598点である。種子コレクションの
特色として、日本国内の雑草のほぼ全種を保有し、また、国内で多くが希少種と
なった塩生植物と水生植物の収集も充実している。最近は、絶滅危惧種が多く含
まれる人里や里山の植物種子の収集に力を注いでいる。海外調査も行い、東南ア
ジアなど各地の種子コレクションがある。これらすべての種子に関するデータは
種子画像とともにデータベースに保存され活用されている。研究者・機関などか
らの希望には、応じられる範囲で種子を配布している。
2005-2007年度の外来植物研究プロジェクトに参画し、その成果の一部として、
日本の帰化植物種子画像データベースを構築し、ホームページに公開した(http://
www.rib.okayama-u.ac.jp/wild/okayama_kika_v2/Seed-image- database-J.html)。この
データベースは、種子の形態から検索ができる植物図鑑としては世界有数の規模
を持つ。また要注意外来種メリケンカルカヤの国内での分布拡大過程を解明し、
ガラパゴス、ハワイ、小笠原などの外来植物調査もおこなった。
この他、単子葉植物を中心とした高等植物の系統進化の研究、Flora of Japanの
執筆分担、岡山県内各地域の植物目録編纂も行っている。研究室の標本庫には、
種子採取、DNA解析、植生調査の分布資料などの証拠として集められた腊葉標本
256科6,217種59,340点が保存されている。
日本の帰化植物種子
画像データベース
(公開中)
当研究室の保存種子
から蘇った岡山県の
絶滅危惧種ミズアオイ
葉緑体DNAによる
単子葉植物の分子系統樹
22
大麦・野生植物資源研究センター
遺伝資源機能解析グループ
Group of Genetic Resources and Functions
教
助
授
教
武田 真
漆川直希
本研究グループは麦類遺伝資源から有用遺伝子を特定し、その機能を解明する
ことを目指している。世界で4番目に重要な穀物であるオオムギについて、当
研究所の豊富なオオムギコレクションを利用して、形作りや品質に関わる重要
形質について研究している。代表的な研究を紹介する。
1)種子の皮性・裸性を決定する分子機構の解析
典型的なオオムギは実(頴果)が殻(頴)と接着しており、皮麦とよばれる。し
かし、一部のオオムギは実と殻が容易に分かれ、裸麦(はだかむぎ)と呼ばれる。
皮麦は主にビール原料や家畜の飼料になるが、食用には裸麦が適している。オ
オムギの種子の皮性・裸性の違いは単一の遺伝子によって支配され、裸性は劣
性遺伝子(nud)による。われわれのグループは分子遺伝学的手法によりオオム
ギの皮性・裸性を決める遺伝子がERF転写因子であることを突き止めた。現在、
実と殻の接着と分離を決める詳細な分子機構の解明を目指している。
オオムギの頴果。左は皮麦、右は
裸麦。皮麦ではERF転写因子が働
き、果皮(頴果の最外層)の表面に
脂質が分泌され、内・外頴と接着
が起こる。しかし、裸麦ではERF
転写因子が働いておらず、頴果と
頴の間に脂質がなく、両者の接着
が起こらない。
2)ポリフェノール酸化酵素遺伝子の分子遺伝学的解析
オオムギを食品として利用する際に大麦粉に含まれるポリフェノール類物質
が褐変し見栄えが悪くなることが問題になっている。我々は褐変化の一因とさ
れるポリフェノール酸化酵素の遺伝子を特定することを目指している。これま
でにコムギのポリフェノール酸化酵素遺伝子の配列情報をもとに大麦のホモロ
グを2種類単離することに成功した。今後は、どちらの遺伝子が種子の褐変化
に関与するかを明らかにしたい。
オオムギの穂の様々な器官を1%
フェノール水溶液で24時間染色し
た結果。左の品種では種子を含め
すべての器官が褐変しているが、
右の品種では褐変化は見られない。
右の品種ではフェノール酸化酵素
遺伝子に突然変異が起こって終始
コドンが早期に発生し、活性のな
い酵素が作られているとみられる。
23
倉敷美観地区
新幹線をご利用の場合
JR西日本岡山駅にて下車
JR山陽本線倉敷方面行に乗り換え15分
JR山陽本線倉敷駅下車
徒歩15分
バス5分
【倉商前経由・笹沖経由・市役所前経由・
吉岡経由・古城池経由・青葉町経由で
中央2丁目(倉敷芸文館前)下車すぐ】
山陽自動車道倉敷インターを下りて
美観地区方面へ約15分。
瀬戸中央自動車道早島インターを下りて
美観地区方面へ約15分
岡山大学資源生物科学研究所
〒710-0046 倉敷市中央二丁目20番1号
TEL:(086)424-1661
FAX:(086)434-1249
HP: http://www.rib.okayama-u.ac.jp/index-j.html
平成21年6月
広報委員会 作成