河道内土砂掘削による 自然再生の取り組みについて

河道内土砂掘削による
自然再生の取り組みについて
早川 潤1・渡辺 洋2
1
信濃川河川事務所 調査課長 (〒940-0098 住所:新潟県長岡市信濃1-5-30)
2
信濃川河川事務所 調査課 調査係長 (〒940-0098 住所:新潟県長岡市信濃1-5-30)
信濃川の長岡地区は,流路の固定化,高水敷の形成を目的とした低水路固定化事業等の実施により治
水安全度が向上した一方で,流路及び河岸を固定化したことにより,ヨシ等の水際植物や,ワンドなど
の湿地環境が減少するとともに,一部では高水敷の樹林化が進行し,河川環境及び治水安全上の課題と
なっている.
本稿は,長岡地区において,①河道内土砂掘削後の砂礫河維持による樹林化の防止や,②河道内土砂
掘削により湿地環境を再生させた取り組みについて報告を行うものである.
キーワード 信濃川,河道内土砂掘削,自然再生
1.はじめに
長岡地区(長岡出張所管内)
可
動
堰
0.0k
10.0k
←
信濃川
5.0k
妙
見
堰
15.0k
20.0k
30.0k
25.0k
←渋海川
図-1 長岡地区平面図
新潟県(信濃川)
90 0
下流部
長野県(千曲川)
中流部
上流部
千
魚
80 0
飯
山
川
70 0
清
津
県境付近の狭窄部
津南付近よ りも飯山 側の大
魚
上上
田
犀 1/50 田
盆市
川
地
合
野
流
地の隆起量が大き く、河川
は深く侵食し 狭窄部を 作っ
川
60 0
標高(m)
50 0
梓
曲
川
久 川
佐
盆
久
地
1/50
市
松本盆地
佐
野
ていま す。
松
本
市
1/80
長点
犀川
1/50
野
合
六
市 1/200
流十
日 飯山盆地
点日 十町
千曲川
町 日
長野盆地
盆
1/1,000~1/1,500
小 盆 町
地
千 地 市
谷
立ヶ花
市 1/300 戸狩
狭窄部 狭窄部
長岡地区
30 0
→
川
40 0
→
信濃川の長岡地区は,新潟平野の扇頂部に位置し,堤
防法線の湾曲が著しく,河床の縦断勾配が急変している
区間である.これより,河状は著しく荒廃し,乱流が激
しく,多くの水衝部が存在し,古くから治水上の懸案地
区となってきた.そのため,昭和40年代以降,長岡地区
河道計画に基づく低水路固定化事業や,低水護岸整備に
より治水安全度は向上している.
その一方で,低水路固定化事業により,導流堤背後に
高水敷が造成されたこと,ブロックや低水護岸により流
路が固定化されたこと等により,高水敷の整備が進み,
低水路と高水敷の分断化が進んでいる.そのため,河岸
域,水際域の連続性が劣化し,河岸勾配が急で,水際の
エコトーンとしてのヨシ等の水際植物の織りなすベルト
状の分布に乏しくなっている.また,かつて水際域や河
道内氾濫地が有していたワンド,旧流路,クリーク(細
流)などの湿地環境がほとんど見られなくなっている.
あわせて,高水敷の樹林化による河積阻害が治水上の課
題となっている.
これより,信濃川の長岡地区において自然再生を行っ
た取り組みとして,①槇下・藤沢地区の流下能力確保の
ための河道内土砂掘削において,砂礫河原を維持するこ
とにより樹林化を防止し,水際植生を再生するための掘
削形状の検討を実施した事例と,②蓮潟地区で築堤材採
取のための河道内土砂掘削にあたり,オジロワシの生態
に配慮した施工を実施したことにより,湿地環境を再生
させた事例について報告を行うものである.
20 0
10 0
新
三
潟
条
市
市
1/4,000 1/3,000
長
岡
市
信濃川
河床縦断図
指定区間
0
0
50
100
15 0
200
2 50
河口からの距離
図-2 信濃川水系平均河床縦断図
300
350
表-1 長岡地区の河道特性
2.長岡地区の概要
区
間
セグメント
大 河津洗 堰~蔵王橋
2-2
( -1.5k~ 14.0k)
蔵 王橋~ 妙見堰
2-1
( 14.0k ~30.0k)
(1) 河道特性
長岡市妙見町から長岡市街地(蔵王付近)の区間は信
濃川がつくった扇状地が広がっており,セグメントは2
-1である.
扇状地には,旧河道がいくつも見られ、かつての河道
は,網目状に複雑な流れを呈しており,特にセグメント
が2-1から2-2に移行する直前の長岡地区左岸(渋
海川合流点付近)を取り巻くように大きく左岸に湾曲し
ていた.
河 床勾配
代 表粒径
1/4,2 30
0.5 mm
1/1,1 90
50.0mm
(2) 河川環境
近年実施された河川水辺の国勢調査において信濃川
中流域では 2,874 種の生物種が確認された.また,絶
滅危惧種等は信濃川中流域で 59 種が確認されている.
長岡地区付近で確認されている生物種数は表-2 のと
おりである.
また,長岡地区は信濃川で越冬する番いのオジロワ
シの行動圏となっている.
表-2 長岡地区(18k 付近)で確認された生物種数
生物分類
植物
魚類
底生動物
鳥類
両生類・爬虫類・哺乳類
陸上昆虫類
旧川湾曲部
調査年度
H16
H19
H18
H15
H21
H17
種数
290
18
81
63
16
380
(3) 治水対策(長岡地区河道計画)
長岡地区は堤防法線形状が悪く,扇状地河川の特徴
といえる乱流が激しいため,各所に水衝部が形成され
ていた.このため、河床低下のほか水制・護岸の根固め
などの損傷が甚だしく,特に昭和 36 年,46 年洪水では,
長岡市水梨地先の堤防が欠損し,破堤の危機に見舞わ
れている.
長岡地区は背後に市街地を抱え,破堤した場合に甚
大な被害が予想されることから,抜本的な改修として
低水路の固定化を基本とした長岡地区河道計画を策定
し,昭和 49 年度より工事に着手している
長岡地区河道計画は,水衝部の解消,高水敷の高度
利用を目的として,大型水理模型実験から,導流堤な
どの河床変動対策工を用いて低水路蛇行を整正し,河
道の複断面化を促し,さらに段階施工順序,施工方法
等を検討している.
図-3 信濃川扇状地地域の地形分類図
平成17年
15k
16k
18k
19k
’90年代
’80年代
17k
’90年代
22k
’70年代
’80年代
’80年代
’70年代
20k
21k’90年代
’70年代
’80年代
’80年代
’70年代
’90年代
’80年代
’70年代
’70年代
’
80
年
凡
例
計画法線
低水護岸(完)
導流水制(完)
’00年以降
’80年代
施工順序(実施)
図-4 長岡地区河道計画の現況施設配置図
23k
(4) 河川環境の変遷
長岡地区における河道変遷の状況(S51,H4,H18)は表-3,図-5 のとおりである.河川環境は,低水路固定化事業
により水衝部が解消され,蛇行が小さくなり河道中央へみお筋が移動したことにより治水安全度が向上した一方で,
低水路が固定化されたことや河岸整備により流路が固定化され、河岸が単調化するとともに,高水敷の樹林化が進
行している.
表-3 長岡地区の河川環境の変遷と特徴(信濃川 10km~20km)
項
目
S51~H4
導流堤の整備により,右岸15k,左岸18k,左岸
19.5k付近の水衝部が解消。蛇行が小さくな り河 大きな変化無し
道中央へみお筋が移動
①みお筋の変遷
②砂州の変遷
全区間で砂州が発達、 固定化
③瀬・淵の変遷
大きな 変化無し
④ワンド、クリークの変遷
左岸11k~13kに樹林化が進行
⑥水際線の変遷
護岸整備により河岸が単調化
その他
左岸19.2kに大宮ワンド,太田川にトンボ池が形
成
左岸14k~16k,右岸15k付近,左岸16.5k~17.5k
の樹林化が進行
右岸長岡大橋付近の旧流路にクリーク形成
⑤植生環境の変遷
H4~H18
低水路固定化事業
大きな変化無し
1976年(S51年)10
高水敷は耕作地や運動公園等に利用
水衝部
砂州の発達
水衝部
1992年(H4年)
高水敷は耕作地や運動公園等に利用
導流堤整備
クリーク
導流堤整備
冠水頻度の低下による樹林化の進行
砂州の消失
砂州の発達
2006年(H18年)8月
樹林化の進行
砂州の発達
高水敷は耕作地や運動公園等に利用
蔵
王
橋
河床洗掘
柿 川
旧流路の閉塞
信
濃
橋
梁
トンボ池
河床洗掘
長
岡
大
橋
大
手
大
橋
大宮ワンド
長
生
橋
太田川
砂州の発達
河床洗掘
砂州の発達
護岸整備による河岸の単調化
河床洗掘
冠水頻度の低下による樹林化の進行
流路の固定化
冠水頻度の低下による樹林化の進行
図-5 長岡地区の河川環境の変遷(信濃川 10km~20km)
渋海川
須 川
3.槇下・藤沢地区の自然再生の取り組み
(1) 槇下・藤沢地区の河川改修
.50 0 Km
信濃 川 : 1 4
槇下・藤沢町地区横断図(14.5k)
27.000
蔵王橋
堤防高不足
深 掘れ
標高 ( T.P.m)
15. 0k
砂州固定化・樹林化
1 5.5 k
HWL:22 .089
22.000
14 .5k
昭和55年
昭和60年
平成02年
平成10年
平成21年
17.000
12.000
砂州固定化
7.000
最深河床で深掘れが進行
長岡大橋
2.000
-60.000
40.000 140.000 240 .00 0 340.000 44 0.00 0 540.000 6 40.0 00 740.000 8 40.000 940.000
距 離 (m)
図-7 槇下・藤沢地区 横断図重合せ
図-6 槇下・藤沢地区 現況(H21 年 10 月撮影)
信濃川左岸の槇下・藤沢地区は,一連区間で堤防高
及び断面が不足する弱小堤区間であるとともに,砂州
の固定化,樹林化による河積阻害のため,流下能力が
不足している.あわせて,流路が固定化されたことで
深掘れが進行し,河岸への影響が懸念されている.
これより,当該区間の治水安全度向上のため,堤防
整備,砂州の樹木伐採及び土砂掘削などの河川改修を
実施することとして,平成 22 年度より近隣築堤箇所の
土砂採取のため,樹木伐採及び土砂掘削を実施してい
る.
なお,砂州の土砂掘削にあたっては,上下流の治水
バランスを考慮し,将来的な断面を見据えた段階的な
掘削を行うものとして,当初は,計画高水流量対応河
道と同様に平水位相当を掘削敷高として,水際から掘
削することとしていた.
(2) 砂礫河原の維持による樹林化防止のための掘削形
状の評価方法
最終的な掘削形状の設定にあたっては,砂礫河原の
維持による樹林化の防止の観点から,平面二次元不定
流解析モデルを構築し,現況で砂礫河原が維持されて
いる長岡大橋上流の砂州を比較対象(ベンチマーク)
として,比較対象における物理指標が近い環境を確保
できる掘削形状の比較検討を行った.比較対象とする
物理指標の設定方法は以下のとおりである.
a) 比較対象物理指標の設定
掘削後の砂礫河原の維持の可能性評価については,
掘削後の土砂移動の可能性を判断指標として,流体に
よる河床表面の土砂移動判定に用いられる無次元掃流
力を基本指標として検討を行った.
表-5 比較対象物理指標
物理指標
摩擦速度u*
u* 
 
無次元掃流力τ*
* 
u* 2
sgd
定義
備考
せん断力τを 流速で表現
した指標(流 れの力のみ
を表す)
土砂の動きや すさを表現 粒径毎に値が異なる
した指標(流 れと土砂の 移動限界:無次元限界掃
両方の要素を考慮)
流 力 τ *c>0.05 ( 岩 垣 公
式より)
信濃川 : 14.500Km
樹木伐採(鳥類に配慮し一部は存置)
H.W .L
M.W.L
計画高水流量
対応河道
近傍の築堤材
へ活用
段階的な掘削
深掘れ箇所の
モニタリング
平水位相当の掘削
掘削土砂を活用した築堤
図-8 槇下・藤沢地区の河川改修イメージ
表-4 平面二次元不定流解析 計算条件一覧
流れの計算
河床変動
平面二次元不定流解析
考慮せず(固定床)
計算範囲
信濃川:12.0k~17.25k
(17.2 5k~18.00kは助走区間)
メッシュ分割条件
計算断面間隔
河道条件
上流端流量
下流端水位
低水路粗度
高水敷粗度
樹木群
橋梁
縦断方向:199メッシュ
横断方向:100メッシュ
縦断方向:Δx=約25m
横断方向:Δy=約8m
低水路部:H21年度測量
高水敷部:H17年LPデータ
【検証計算】Q=7158m3/s
(H18. 7洪水長岡実績流量)
【検証計算】H=T.P.+18.65m
(H18. 7洪水痕跡)
過去に検討された複数の粗度係数
の組み合わせにより,H18.7洪水
を最も再現できる係数を採用
n=0.02 0
n=0.02 9
樹木群透過係数Kは,低水路係数
の組合せにより、H18.7洪水を最
も再現できる係数を採用
K=50
考慮せず
b) 比較対象物理指標の閾値
無次元掃流力は,移動評価対象粒径毎に判定するた
め,対象とする粒径の設定にあたっては,比較対象砂
州において「平均年最大流量時に砂州全体の表層土砂
が全て移動する条件」を無次元掃流力から逆算し設定
した.
逆算計算の結果は表-6 のとおりである.これより,
平均年最大流量時(長岡観測所 Q=3990m3/s)に比較対
象砂州の表層が更新されるためには,d=10mm 規模粒径
が移動する必要があると判断した.また,d=20mm でも
対象砂州において 63%が移動可能な条件となっている.
無次元掃流力τ*
d=20mm
摩擦速度u*
d=10mm
d=5mm
(m/s)
最小値
0.012
0.019
0.037
0.074
0.078
最大値
0.108
0.163
0.325
0.650
0.229
平均値
0.039
0.059
0.117
0.234
τ*>0.05以上の割合
17.9%
63.1%
98.3%
100.0%
無次元層流力τ* 分布 d=30mm
0.136
-
無 次元層流力τ* 分布 d=20mm
d=20mm
63.1%
67.3%
72.4%
69.1%
69.1%
65.7%
d=10mm
98.3%
86.1%
89.4%
87.5%
88.6%
86.2%
d=5mm
100.0%
95.8%
93.9%
92.8%
92.5%
90.7%
(1) 蓮潟地区の環境整備
信濃川左岸の蓮潟地区は,商業地として発展してお
り公園や病院等が堤防に隣接している.これより,信
濃川河川事務所では長岡市の背後地利用(公園整備)
と一体なった水辺の整備として,長岡大橋から長生橋
間の緩傾斜堤防化を進めている.(平成 23 年度 7 月頃
完成予定)
長岡大橋
0.65~
0.60~0.65
0.55~0.60
0.50~0.55
湿地環境(ビオトープ)の再生
0.45~0.50
0.40~0.45
0.35~ 0.40
0.30~0.35
0.25~0.30
0.20~0.25
0.15~0.20
0.10~0.15
0.05~ 0.10
0.00~0.05
0.65~
0.60~0.65
0.55~ 0.60
0.50~0.55
0.45~0.50
0.40~0.45
0.35~0.40
0.3 0~0.35
0.25~0.30
100%
90%
土砂 移動 可能
80%
70%
60%
50%
40%
29.3%27.3%
30%
18.1%
11.4%
20%
3.9% 2.0% 0.2% 0.2% 0.0% 0.0% 0.0%
10% 0.0% 1.7% 6.0%
0%
0.20~0.25
tau*(5mm) 【上流砂州範 囲】
100%
90%
土砂移動可能
80%
70%
60%
45.2%
50%
35.2%
40%
30%
15.3%
20%
2.2% 0.2% 0.2% 0.0 % 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
10% 1.7%
0%
0.15~0.20
無次元層流力τ* 分 布 d=5mm
tau*(10mm) 【上流 砂州範囲】
0.10~0.15
d=30mm
17.9%
24.4%
25.8%
22.8%
26.7%
27.3%
緩傾斜堤防
(H22.7完成)
無次元層流力τ* 分布 d=10mm
0.05~0.10
掘削ケース
参考)比較対象砂州
①平水位+1m
②平水位+50cm
③平水位
④平水位-50cm
⑤平水位-1m
0.65~
0.60~0.65
0.55~0.60
0.50~0.55
0.45~0.50
0.40~0.45
0.35~0.40
0.30~0.35
0.25~0.30
0.20~0.25
0.15~0.20
0.10~0.15
0.05~0.10
0.00~0.05
0.65~
0.60~0.65
0.5 5~0.60
0.50~0.55
0.45~0.50
0.40~ 0.45
0.35~0.40
0.30~0.35
0.25~0.30
0.2 0~0.25
0.15~0.20
0.10~0.15
100%
90%
土砂 移動 可能
80%
70%
60.5%
60%
50% 36.9%
40%
30%
20%
2.4% 0.2% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
10%
0%
0.05~ 0.10
tau*(20mm) 【上流砂州範囲 】
100%
90% 82.1%
土砂移動可能
80%
70%
60%
50%
40%
30%
17.7%
20%
10%
0.2% 0.0% 0.0% 0.0 % 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%
0%
0.00~0.05
t au*(30mm) 【上流砂州範囲】
0.00~0.05
表-7 槇下・藤沢地区 砂州掘削面上の土砂移動可
能性評価(τ*>0.05 のメッシュ割合)
4.蓮潟地区の自然再生の取り組み
表-6 対象砂州(長岡大橋上流砂州)表面に作用する
外力
d=30mm
これより,平均年最大流量時に d=10mm と d=20mm にお
いて移動可能なメッシュの割合が最高となった「平水
位+50cm」の掘削敷高が表層土砂移動の観点から最も
砂礫河原維持の可能性が高いと判断した.
図-10 対象砂州(長岡大橋上流砂州)の無次元掃流力分布
(3) 砂礫河原の維持による樹林化防止のための掘削形状
の比較検討
掘削形状については,長岡地区の短期目標案である
8,300m3/s に対応した河道(掘削敷高を平水位として設
定)を基本に,掘削断面積を同一として掘削敷高を平
水位より 50cm 毎に変化させた 5 ケースを設定した.
水際
①平水位+1m 水際から約160m
②平水位+50cm 水際から約120m
③平水位 水際から約95m
④平水位-50cm 水際から約75m
⑤平水位-1m 水際から約65m
①平水位+1m
②平水位+50cm
③平水位
④平水位-50cm
⑤平水位-1m
図-12 槇下・藤沢地区 砂州掘削ケース
(4) 砂礫河原の維持による樹林化防止のための掘削形状
の決定
各掘削ケースにおける砂州掘削面上の土砂移動可能
性評価の結果は表-7 のとおり.
河畔林(止まり木)の保全
緩傾斜堤防
(整備済)
採取土を利用した築堤(緩傾斜堤)
大手大橋
図-13 蓮潟地区 現況(H21 年 10 月撮影)
(2) 築堤材採取のための掘削形状の設定
平成 20 年度に実施した緩傾斜堤防工事において,大
手大橋左岸下流の低水路に堆積した砂州について,繁
茂している樹木を伐採後,築堤材として利用する計画
であった.
しかし,樹木伐採前に,市民の方からオジロワシが
河畔林を止まり木として利用しているという情報を頂
き,オジロワシの採餌環境を保全するため,止まり木
を中心に約 30m の範囲内は樹木伐採,築堤材採取のた
めの土砂掘削は行わないこととした。
なお,砂州を掘り下げて掘削を実施していたところ,
途中から築堤材として利用できない土質となり,その
結果,地盤から 2m 程度掘り下げた掘削形状となった.
また,掘削後は整地を行わず,下流端の掘削形状を
平常時でも導水されるように掘削したところ,たまり
や湿地が形成された。
(3) 環境調査結果
土砂掘削後の平成 22 年 9 月に実施した現地調査では,
植物 36 科 119 種,魚類 9 種,エビ・カニ・貝類 1 種が
確認されている.
確認された植物の内,6 種の重要種(表-8)が確認さ
れており,特にミズアオイの群落規模としては県内で
もまれである.
表-8 植物相調査で確認された重要種
科名
種名
環境省
RDB
VU
ユキノシ タ科
タコノアシ
キク科
タカアザミ
ミズアオイ科
ミズアオイ
VU
ミクリ科
ミクリ
NT
カヤツリグサ科 カンエンヤガツリ
VU
カヤツリグサ科 ツルアブラガヤ
環境省RDB:レッドデータブック(2000年)
環境省RL:レッドリスト(2007年)
新潟県RDB:レッドデータブック(2001年)
環境省
RL
NT
NT
NT
VU
新潟県
RDB
VU
NT
VU
NT
5.まとめ
本報告で得られた結論は以下のとおりである.
①年平均最大流量流下時の砂州掘削面上の土砂移動の
観点から,槇下・藤沢地区の砂州掘削において,平
水位+50cm を掘削敷高とすることで,砂礫河原を維
持し砂州の樹林化を防止する可能性がある.
②河道内土砂掘削において,掘削形状をワンド状にす
ることで,流水による外来種の散布を防ぐとともに,
高水敷や砂州の地中に眠っている在来種の種子によ
り,水際の自然環境を再生する可能性がある.
NT
VU:絶滅危惧Ⅱ種
NT:準絶滅危惧種
また,確認された外来種は 19 種であり,外来種の全
体種数に占める割合(帰化率)は 16%となっている.
これは河川敷の一般的な外来種の割合(長岡付近の河
川敷の帰化率は 25~30%程度)よりも小さい値となっ
ている.
一般的な河川工事では攪乱が生じると,外来種の生
息数が増加するのが普通であるが,ここでは,掘削形
状が上流からの流水の影響を受けないため,外来種の
種子が水流によって散布されていないものと思われる.
また,ミズアオイの生育が群落で確認されたように,
近年確認事例が少ない在来の種子が,高水敷や砂州の
地中に眠っている可能性が高いものと推定される.
図-14 蓮潟地区 再生された湿地環境
6 今後の課題
槇下・藤沢地区で実施した,無次元掃流力τ*を物理
指標とした掘削形状の選定方法について,モニタリン
グ計画を策定したうえで,モニタリング調査を継続的
に行い,効果の検証を行う必要がある。また,一定の
効果が得られた場合,河道内土砂掘削形状の検討のひ
とつの手法として確立する必要がある。
蓮潟地区においては、引き続きモニタリング調査を継
続するとともに,湿地環境を持続するための維持管理
手法について検討する必要がある.